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第13話 3日目~

評価もコメントもお願いします。出来ればお願いします。


 実質、この世界で3日目。


 伊織は今日、リハビリとでも言うのか、休む間もなく動き続けていた。


 ……それは、昨日のせいで半減してしまったレベルを戻す作業が必要になった為だった。


 所謂、現実の世界―地球での生活―では、1つも大病を患ったり、骨折等、重症の経験等したことはなく、そのことに関しては全くと言っていいほど無縁だったのである。

 改めて、この世界の為に体を宛がわれて存在することを認められた。しかし、前日は全くと言えるほど体に馴染めていなかった。意思と反応の細かい違和感に、多少とも体調が優れていた訳ではなかった。


 だが、前日の『記憶の水晶』事件によって急激に状況が変化していた。

 ……事実はレベルを犠牲に成長が後退すること、まるで―()()()()()()()―のような現象のお陰で、肉体が変化していたからだろうか。


「私が知る限りで、全くわからない現象です。多分、なのですけど、まるでルーナのイタズラに思えます。」

 …とは、かの女神を一番よく知る女神の話だった。暗にそれはルーナと言う女神の力のせいで、と言う感想を聞かされた。


 話を戻そう。


 説明出来そうで出来ないことを頭の隅に追いやり、伊織はとにかく先程から、歩いていたと思えば走り出したり、走っていたと思えば跳んだり、と忙しく動き続けていた。

 それを見ていたクオンが声をかける。


「大丈夫です!それくらいが俺の身体能力の限界辺りだったハズです!」

 離れたところに立つクオンは頭の上に手を上げて大きく〇を作っている。

 その声とその動作を見て、伊織は息を上げながら歩いて、相も変わらぬ3人の許へとやって来た。


「結構凄いんだなぁ…、この世界の人間ってのは?」


 ……改めて、この世界と自分の現実世界とのギャップに驚きを隠せないで言葉を漏らす。だが、人間だったクオンと、女神二人はそうでもないらしい。


「確か、『英雄』とかって言いましたっけ?その人間を見てますし、なんだか残念な感じがしますね?」

「それはそうですよ!?俺は単に普通の人間の中で戦えるくらいな方で、半人前だったんですからね!」


 ……伊織から言わせれば普通ではない。ラァナの発言もそうだが、クオンにも色々と言いたい。


「俺から言わせれば、『普通』って何?って感じだな…。2つも違う『普通』の基準があるせいで混乱しっぱなしだ。」


 でもゲームの世界であらゆる感覚まで有したリアルを考えれば、今のこれが普通なのか、と妙に納得する。その場合は『普通』が3つになるが、ゲーム=この世界だから良いかと、思う。

 しかし、そうだとしても、自分の30年の人生での普通がない訳じゃない。一般人は一般人、ゲームもリアルも変わらない。

 ()()()人間が総じて、オリンピアやトップアスリート並で、メダリスト級がやっと中の上くらいの世界。

 

 一般生活でレベルが上がらない分、一般人はそのまま、トップアスリートは戦いや訓練の分のレベルでそのランク、メダリストがやっと、中級騎士、それを越えて上級騎士、更に越えて英雄。


 考えてしまうと途方もない話で、今がとてももどかしいな、と伊織は嘆いた。



 ◇◆◇◆◇



「慰めにはならないけど、俺から言わせて貰えれば、クオンも十分凄いと思うぞ。俺の世界ならば、国とかの英雄レベルだ。」

 ……基準が違うから仕方ない。そう付け加える。


「ところで、クオン。『英雄』ってそんなに凄いのか?」

 …伊織は念のためと言ったように答えを待つ。


 ―ゲームの世界の基準ならば、リアルの方では、真ボスや神まで倒した、あの一部のゲーマー達がそうだろう― と予めは想像してみる。


「そうですね…天才やなんかの意味が伊織さんの世界と同じなら、そんな人達はほぼ例外なく『英雄』だと言えます。俺の記憶を探れば、見えると思います。」

 そうと聞いて、伊織はその記憶を探してみる。

 続けて、クオンが言葉を繋げる。


「例えばうちの、『レイザス王国』でも二人が現役ですよね。女王様と王子様がそうです。」


 伊織もその記憶を見て、理解する。

 片や《竜殺し》、片や《勇者》の二つ名を持つ英雄が二人。ただし、姿はわからない。

 これは、クオンがその噂か伝聞で聞いたりしたことだからなのだろう。


「《勇者》は想像通りとして、女王の《竜殺し》って情報が怖すぎるぞ…。何やってんの?」

 伊織が突っ込みをいれる。クオンの方は伝聞程度の為に苦笑いを浮かべていた。


「恐らく、慈愛と水の方の加護を得た人間でしょうか。…ちなみに、英雄にとなる者について、補足事項がありますのでお伝えします。」

 ミリアは見知った人物と言うことを挟み、補足事項とやらを教えてくれる。


「クオンの言うことも1つの条件になります。ですが、時と場合によって、私達、神との相性が良い人間が生まれます。」

「その者達が、私達が世界に行使する力を強く受けて、その結果の先に英雄と呼ばれる者になることがあり得るのです。」

 …ただし、と注釈を加えて言葉を続ける。


「ただし、私達が直接に選んだり、介入したりをする訳ではないので、言ってしまうと偶発的な事象の結果…と言えますでしょうか?」


「そうなんですか…?人間が凄いのか、神々の凄いのかわからなくなりますね…。」

 …クオンが呟き、感心を露にする。


 そこで伊織も自己解釈して、英雄と呼ばれる者の数を勘定してみる。

 ―じゃあ、単純に最低、()()の英雄はいる、またはいたということか―

 そう伊織が問えば、その予想を越えて答えが返る。


「ラァナ以外の神の加護の英雄は、今までにも、その時々に20~30人はいると思います。最低でも20人を下ることも無いでしょう。」


 …相変わらずの予想外に、ほぼ慣れ始めていた。



 ◇◆◇◆◇



「何故、ラァナの力の分の英雄っていなかったんだ?生命の力って、イメージ通りならば回復やなんかになるはずじゃないのか?」


「残念ですけど、そう使えないので困ってまして…。」

 ラァナが言えば、微妙にわかり辛くて伊織はミリアを見る。


「ラァナの力は、今はその『存在』の力と一緒でしか働かないという、制限があります。噛み砕いて言えば、常に人の生命の循環の役割をしています。この世界の人間の数は常に変わらないようになっています。多少の時間差はありますが…。」

 ……つまりは転生ということらしい。しかも、人は人に、花は花に…という感じで、常に生と死の分を繰り返すようにしか行使されていない。

 何かが間から引き寄せる余地がない。…らしい。


 ……………


 以外なところから発展した話で、先程上がっていた息は、すっかりと落ち着いていた。


 何気ない会話から、専門的な話、疑問や質問。いわば座学の時間。そう言い換えられる。

 たったの1日での詰め込み作業。知ることもそうだったが、話すことも大事になっている。


 ……言葉は通じるので問題ないのだが、まだ、記憶がどうしてもおかしい状況にあった。伊織の分と、イオリの分が別々にあったのが原因で、盛大にボロが出る。

 わかっているのに過剰反応気味に反応する。この状況もどうにかして欲しかった。


 昨日まではそんなに気にしないでいたことが、いきなり変わる。それも大変だが、差し迫ったタイムリミットがより大変なことになっていた。

 ……それはイオリの正騎士への試験の日。


 よりによって、イオリが騎士の昇格試験を受ける期日からの逆算で、ほんの数日でこの体と頭をこの世界に合うように仕上げないとならない。


 どうやら、今回の試験には知り合いが参加することもないので、日常生活スキルと日常会話は無視していた。

 チートでレベルを無視してパラメータだけ上げて誤魔化せば良いと、伊織はそんな風に甘く考えていた。

 ……だが、そう甘くない上に最悪な事態。


 ―受験資格と試験内容、実技:()()


 その大事なことを、イオリの記憶から見つけていなかった。クオンから言われて、今、正に追い込んでいた。



 ◇◆◇◆◇



 4日目、後悔と懺悔の日。


 レベル上げという作業が苦痛に思うタイプじゃなくて、本当に良かった。……伊織はそう思っていた。

 だからと言って、楽ではないのが戦闘だった。辛うじて生きている『記憶の水晶』の効果で、一定の時間があれば、傷だけは回復するので助かっていたが、体力だけはやはりパラメータによるのでゲームのようにはいかない。


 ―試練の神殿―


 もう3日前に死闘があった場所。今回は単純に白い魔物を追い回してのレベル上げが目当て。


 ……しかし、半分になったレベルの分()()だったなら、どれだけ楽だったろうか。


 ……………


 伊織はもう1つだけ例の物を使っていた。誰にバレる事がないように。楽をしてボーナスを得るのを悪いとは思いながらも、その欲には抗えなかった。


 しかし、レベルもパラメータもある世界の厄介さを痛感して後悔するとは思ってなかった。



 基本となるパラメータをドーピングしたのが見られるとそれだけで試験を落とされる。最低レベルのラインもあるから、現在は4分の1になったレベルを元まで上げないと困る。事実と違うけど、替え玉なんてやってるような後ろめたささえ感じる。


 この世界も法世界。ズルはいけないってことは良いのだが…。思わず先走って、要らぬ苦労を買う羽目になった。


 ……頭に浮かぶ言葉は全てが言い訳にしかならない。


 ……………


 戦闘に慣れてないのに戦える。

 イオリ側の知識の記憶、体の記憶がそれを可能にしてくれる。ただし、イオリの記憶が途切れてしまうまで。


 自身の記憶……伊織側の記憶のみになると、剣を振るうまでは良いのだが、いざ攻撃が当たった瞬間、その手に伝わる感触に、一瞬で恐怖が込み上げてくる。


「正直、試験受けたくない!……とかそう言いたい。ダメかな?」


 騎士に成れないと家族や仲間に示しがつかない。……クオンに期待していた人間のことを聞かされると、反論の余地がない。

 ―もう自身が伊織であって、イオリなのだ―


「自分の価値を高めるのは、そのうちにって思ったのに…」

「そろそろ休憩は終わりですよ、伊織さん!」


 今日のパートナーはクオン1人だけ。年下の鬼教官殿は容赦無し。

 擦り合わない記憶に悩むならば、その記憶を作れば良いと言い、スパルタ教育であった。


 ―確かにそうだ。そうだが、これは優しくない!―

 伊織はヒィヒィ言いながら従うしかない。

 ……だが、一匹一匹に対してのアドバイスは確かに心に効いてくる。経験が恐怖の特効薬になってくれる。


 流石に、モンスタートラップでこのレベル上げの卒業試験だけは、勘弁願いたかった。


「荒療治も時には必要かな……と思いましたが、やり過ぎでしたね?」

「受験資格までのレベル上げだけじゃダメだったのか?!死にかけても強くはならないだろ!」


 …こいつは良い性格してる。伊織は皮肉混じりの言葉を投げるが、効きもしない。

 負い目もあるので怒りは飲み込む。その分、吐き出す相手は魔物だった。


「お疲れ様でした。態々、こうすることなんてないでしょうけど、多分これで周りの目から見ても十分に『イオリ』だって見えますよ!」

 本人が嬉々として言うのだから、今日はこれで良かった。


 ―楽しようなんてして、スミマセンでした―


 それは心からの反省。新しい人生も謙虚に生きなくては……そう誓った。


 …さておき、この日の実地訓練も、なかなかに面白い経験になった。途中のレベルアップの感覚が体に残る。


 パラメータは一般人の1.5倍の能力。要はアスリート並に到達。 だが、そうなってもまだ半人前とは、とてもじゃないが、道遠し。




 また来る1日は試験の対策が待っている。イオリの生活を始められるまでは、一旦世界に溶け込まなければいけない。


 ……ゲームがリアルになると、大変なことを痛感して1日を終える。


 ―図らずもキープすることになったボーナスをいつ使うかも考えなくてはならない―

 バレずに済む方法がないか、を後で女神に聞くことを忘れないようにしようと考える。


 クオンが呼びかける声に応じて、疲れた体をその側に置く。転移の魔法が開いた空間に向けて歩きだす。


 ―受験資格を手に入れた―1日も空間と同じように幕を閉じる。


 ……自身の変なトラブル体質が、恨めしい。

 そっと呟く言葉も空気に溶ける。

 夢も悪夢も紙一重だ。楽もあるなら苦もある。


 ……神域生活4日目、残る時間を大切にしようと考える。


「願わくは明日は楽をしたい」


 ……世界が許してくれるかは、また別の話……

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