1羽
--謎の光から半年
時刻は明け方、弟達が起きてしまう前に出発してしまおうと思っての事だ。
「ウィス、準備できたか?」
「うん!‥‥って言っても、着替えと少しのお金ぐらいなんだけどね」
「すまない、俺がもう少し買い物上手なら‥‥」
「いやいや、もしあったとしても子供たちに使ってあげてよ!」
お互いに苦笑いで、すこしぎこちない気がする。
神父アレク‥‥もう引退したが、全盛期はバリバリの勇者だったらしい。
小麦色に日焼けした肌と筋骨隆々な身体、顔に傷はないが、それでも十分厳つい。
‥‥そういえばこの顔が怖いせいで新しい弟が大泣きしてたな
初めて剣の稽古をつけてもらった時に身体の傷を見てしまった弟達は1週間ぐらい避けてたっけなぁ
なんて懐かしいことを思い出しながら、大きめの鞄を肩にかけた。
「まさか、そのウサギちゃんが聖獣だったとはな」
「俺もびっくりだよ‥‥しかも誓約した時は半分事故だし‥‥」
カバンの中からウサギがぴょこん、と顔を出した。
『すまんな、こんなウサギちゃんで』
「いや、いいさ。どうせいつかは王都に行ってみたかったし、できるなら仕事もしてみたいと思ってたんだ」
『馬鹿なやつだな、仕事しないで食う飯が美味いんだろう?』
「働かざるもの食うべからず、だよ」
そんなもんか、と呟いて鞄の中へと戻っていった。
‥‥あれ?なんかデジャヴュ感じる。
「なんて言ってたんだ?」
「ああ、なんでもないよ。仕事せずに飯が食いたいってさ」
「ははは、可愛いのか可愛くないのかわからんな」
今度は苦笑いではなく、心から笑い会えた気がした。
「じゃあ、行くよ」
「おう‥‥体に気を付けろよ」
「わかってるよ。じゃあね‥‥父さん」
「っ‥‥ああ」
一瞬だけ驚いたが、返事をする余裕はあったみたいだ。
‥‥初めて呼んだのにな、もうちょっと反応して欲しかった。
そう思いながら、教会に背を向けて歩き出した。
「父さん、か‥‥」
噛み締めるように独りごちたアレクの表情は、今まで誰も見たことないような笑顔だったそうな。