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小鬼奮闘記  作者: 源助
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-ゴブリン集落編3-

腹部から伝わるジクジクとした痛みに目を覚まして、真夜中の静寂に耳を...

-ギャアギャア、ギャアギャア

耳を澄ませば聞こえてくる、能天気そうな聞き慣れてきたゴブリンの声にため息ひとつ。

あぁ、どうにか助かったのかと安堵しつつ周囲を見渡せば、どうやらまた老ゴブリンにお世話になっているらしい。


怪我の痛みは少しずつ癒されているのか、寝台から転げ落ちることもなく、すんなりと立ち上がることが出来た。


ゴブリンの身体は不思議でいっぱいだ。

昨日今日と大怪我を負ったにも関わらず、眠りから覚めたら大体治っている。


昨日の戦いの結末を教えてもらいたいところだが、こうして生きている事からきっとゴブリン達が勝ったのだろう。

意識を失う寸前で聞こえたゴブリンの咆哮は、妙な安心感をもたらすものだった。

きっとボスっぽいゴブリンが剣鹿と戦い、そして勝利を納めたのだろう、ボスすげぇ。


などと考えながら外を覗きみれば、能天気なゴブリン達の宴が行われていた。


あの戦いの際に、囮役を押し付けられ、撤退しようとすれば逃しまいと前に追いやられた事は決して忘れない。


(能天気ゴブリン共め、許すまじ!!)


鼻息荒く宴に近ずいて行くと、中央の篝火にはいまだ記憶に焼き付いている強敵の姿が。

立派な双角は奪われ、強靭な四肢は美味しそうな肉塊に変貌し、輝きを失った瞳は今なにを思っているのか。


自分を一突きで瀕死まで追いやった、あの剣鹿が香ばしい匂いを漂わせ、こんがり肉へと変貌しているではないか!!


先程までのゴブリン達への怒りなど何処へやら。

騒ぎ踊るゴブリン達に混ざり、一緒に踊る元人間のゴブリン。


(はっ!?ゴブリン達に影響されアホになる所だった、危ない危ない。)


もはや手遅れではあるのが、それを指摘する存在はこの場所に居らず、この黒歴史は能天気なゴブリン達の騒がしさに流され忘れられたのであった。


-グォオオォォォオオオォオォォオオ!!


聞き覚えのある咆哮に目を向ければ、そこには記憶よりも少し立派になったボスゴブリンが。


(あれ?なんかデカくなってないか?)


戸惑いを覚えつつも、命を救われたであろう事から畏敬の念を感じその場に片膝をつき敬拝。


周囲をちらりと覗きみれば、あの能天気なゴブリン達も皆同じように頭を垂れていた。


ズシッ、ズシッと近寄ってくる気配にかつて殴られた記憶がフラッシュバック。

背中に流れる嫌な汗と震えだす体を気合いで押さえ込み、ボスゴブリンの到着を待てば。


ぬっ、と差し出されたのは、かつて自身の腹を貫き一撃で瀕死に追いやった剣の様な鋭さの角。


恐る恐る顔をあげてみれば、ど迫力のボスゴブリンの顔に強張る表情筋、泳ぐ視線。

もうどうにでもなれ、とやけくそ気味にその角を受け取ってみれば、目の前で響く咆哮。


噴き出る汗と降り掛かるボスゴブリンの唾。

震えの止まらぬ手とビシバシ肩を叩いてくるボスゴブリンの太い腕。

何が正解かは分からないが、何となく褒められているのか?と考察していると周囲のゴブリン達が一斉に動きだした。


ビクッと過剰な反応をすれば、笑いだすボスゴブリンと肉に群がるゴブリン達。

そう宴だ、彼らは能天気なゴブリン達なのだ。


(なんか学生時代の部活思い出すな。)


などと的外れなことを思い出しながらも、食いっぱぐれてなるものかと駆け出す。

そう肉なのだ。ゴブリンになって初めて食うまともな食材、まともな料理なのだ。


口から溢れ出る涎を気にすることもなく、周囲のゴブリン達を押し退け肉を手に入れようと大奮闘。

病み上がりの身体は、ジンジンと痛みを訴えてくるが、それでも止まらぬ歩みは肉の為。


ゴブリン達を押し退け、剣鹿の腿肉を手にすれば奪われぬうちにと齧り付く。


溢れ出る肉汁と口いっぱいに広がる肉の旨味。

調味料は使われていないにも関わらず、噛みしめるほどに生まれる旨さが、コロコロとその表情を変え味覚を刺激してくるのだ。


(すっげぇぇぇええ、うめぇぇぇぇええ!!)


肉汁一滴すら逃しまいと大口を開け肉に齧りつこうとすれば、視界の端に映る老ゴブリンと雌ゴブリン。

何故か篝火に寄って来ないゴブリン達が一定数おり、羨ましそうな目で見つめているのだ。


途端に居た堪れなくなり、ボスゴブリンから貰った剣鹿の角とゴブリン達との競争に打ち勝ち手に入れた腿肉を握りしめ、老ゴブリン達の下へ駆け寄って行く。

目を見開き驚く老ゴブリンと頬をを染める雌ゴブリン。


(返せる時に助けられた恩を返していかねば!)


と、意気込み老ゴブリン達に近づき肉を押し付け頬張らせる。

美味そうな表情に頬を緩めつつ、雌ゴブリンにも肉を頬張らせれば、こちらも若干の戸惑いつつも肉の美味さに表情を二転三転させながら喜びをあらわにする。


篝火に視線をやれば、余す事なく肉を削ぎ落とされ、齧り取られた剣鹿の変わり果てた姿が。


(御馳走様でした。)


徐々にゴブリンの身体と生活にも慣れてきて、集落のゴブリン達からも認められ始めたゴブリン生活2日目の夜。


明日は無事に1日を終えることが出来るのか。


篠宮るいのゴブリン生活は続いていく。

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