悪役令嬢に仕立て上げられても平気です。
アルメリアは、幼い頃から既視感を感じることが多かった。
一番既視感を感じるのは、この自分の容姿。
さらりと伸びた青みの強い黒髪に、薄い紫色の瞳、キリッとした切れ長の目は、幼いながらに気の強さを感じさせる。
その疑問が解決したのは、5歳の時だった。
「はじめまして、スウェルブ・ローウェンです」
艶やかなまでの黒髪に幼くてもよく分かる整った顔立ち、グレーの瞳は、感情薄く、それでもこちらを値踏みしているようだった。
まだ7歳だというのにいやにしっかりした少年は、アルメリアの婚約者だと祖父に紹介された。
その瞬間、アルメリアの頭に多くの記憶が流れ込んだ。
そして、記憶の多さに声も出せずに倒れる瞬間、彼女が見たものは、焦って手を伸ばす祖父と驚いた表情の向こう方の父親、そしてスウェルブの虫けらでも見るような瞳だった。
「…はぁはぁはぁ」
アルメリアが目を覚ましたのは、夜も更けた頃だった。
いつの間にか、きっとメイド達が着替えさせてくれたのだろう、寝やすい柔らかなネグリジェは、彼女の汗でびっしょりと濡れていた。
「思い出した…」
ピンクと白を基調とした少女趣味な部屋で、クイーンサイズの天井ベッドで大きなぬいぐるみに囲まれていることにソワソワしながらアルメリアは、記憶を辿る。
いわゆる前世の記憶は、酷く偏っており、その中でやけにピックアップされていたのは、名前も分からない乙女ゲームと呼ばれるものの記憶で、その乙女ゲームのライバルキャラ、それがアルメリア。
アルメリア・ルシエル。
彼女だった。
彼女の末路は、ヒロインが誰ともくっつかないノーマルエンドとヒロインとアルメリアの友情エンド以外、ろくでもないものばかりである。
死んだという記述は無かったが、侯爵令嬢として何不自由なく育ったアルメリアが、勘当され、お金を渡されたとはいえ、市井に落とされ、生きていけるとは思えない。
逆に良いカモネギでしかない。
彼女は一度溜め息を吐くと悪い方へ悪い方へと向かう思考をリセットする。
「現状はそんなに悪くないわ」
そう、そんな未来が来るのは、13年も先の話で、今日明日来るわけでもないし、変える余地は充分にある。
「まずは、外に出ないと…」
勘当された時の働き口を探さなければいけない。
お金はあくまで一時金。
永久的に貰えるものでもなければ、大金などあるだけ不幸を呼び寄せるだけである。
勘当された時点でアルメリアの評判は地に落ちる。
そこから働き口を探すのは至難の技だろう。
ましてや、アルメリアは貴族令嬢の手習い以外何も出来ない娘。
元貴族で、家族から勘当され、上位貴族から睨まれ、子供ですら出来ることすら出来ない、気位の高い、見た目だけ良い女を雇うお人好しはそうそう居ないだろう。
そして、そう思った時、彼女の立ち位置は非常に便利だった。
アルメリアとの友情ルートで明らかになるが、彼女の人生は順風満帆とはいかなかった。
アルメリアは、すでに故人の父方の祖母と瓜二つで、祖母を愛していた祖父に溺愛されているが、祖母と折り合いの悪かった母から嫌われ、祖母を恐れていた父からは腫れ物を触るように距離を置かれ、お金を渡され、服従されている。
それゆえに彼女の住むこの屋敷は、アルメリアを側に置きたい祖父とアルメリアから距離を置きたい父によって、アルメリアのためだけに作られたドールハウスだった。
王都にある祖父の屋敷は、多くのパーティーを開き、時には国賓すら泊めるため、まだ幼いアルメリアを置くことは出来ず、領地にある両親の過ごす屋敷は、両親が共に居たくないと追い出され、結果、アルメリアは、王都に一人ぼっちで使用人と暮らす事になったのである。
だが、雇い主の居ない、まだ幼い子供だけのこの屋敷の使用人達は、どんなに祖父が厳選したとはいえ、ろくでもない者達ばかりだった。
外面を取り繕うことばかり上手く、キレイなお屋敷を保ち、アルメリアも美しく保ち、アルメリアの我儘を何でも叶えてくれるが、使用人達は必要最低限の人間を残して、契約より多くの休みを勝手に取り、多くの装飾品がアルメリアが壊したというていで猫ババされており、料理もアルメリアと同じ良いものを食べ、お風呂もアルメリアの使う石鹸で身を清めと好き勝手しているのである。
呼ばなければ来ない使用人など侯爵令嬢付きとしては、言語道断だが、外に出るにはありがたい。
「さあ、冒険にでましょう」
思い立ったら吉日と彼女は、日の出に備えてもう一眠りを決めた。
「お嬢様。朝でございます」
「ぅ…ん…」
日が高く登った頃にアルメリアは、その眠りから目を覚ました。
目の前に居るのは、メイドが三人。
きっと彼女達とシェフが一人以外は全員休みなのだろう。
アルメリアは、まだ眠気の覚めない頭で、メイド達に着替えさせられ、朝食を食べる。
「ああ、そうだわ。今日はもう下がって良いわ。ゆっくりお絵本を読みたいの。アフタヌーンティーも要らないからディナーまでゆっくりしていていいわ」
「…かしこまりました」
驚いたようだったが、メイド達は嬉しそうに緩む顔を努めて無表情に保ちながら厳かに頷いた。
きっとこの後の空いた予定で何をしようかと考えているのだろう。
呼ばないと宣言された以上、一人残していれば充分、下手すれば、一人も残さずに全員出掛ける可能性も高い。
そうしてメイド達が部屋から出ていったのを確認して、アルメリアは、パンを一つ残して朝食を食べ終わると、一人で脱ぎ着するのが難しいドレスを脱ぎ捨て、ワンピースに見えるネグリジェを着るとこっそりと屋敷を出る。
「まあ!」
アルメリアは、はじめて見るガラス越しじゃない景色にキョロキョロと周りを見渡す。
貴族の屋敷の並ぶ通りをこそこそと抜け、中流街に降りれば、災難は早速やって来た。
「お嬢ちゃ~ん、こんなところでどうしたのぉ~」
二人中年の男が、猫なで声で声をかけてきたのである。
「迷子かなぁ~。おじちゃん達が案内してあげるよぉ~」
ずいずいと近づく男達に後退りながらアルメリアは、頭を悩ませた。
男達の提案は優しいが、目が明らかに獲物を狙ったそれである。
アルメリアなりに市井に馴染みやすそうな服を選んで着替えていたが、上質な生地で出来たワンピースは、どう見たって貴族か豪商の娘であると言っているようなものである。
仮に違っても身ぐるみを剥がし、売り飛ばせば、暫く苦労もなく生活出来るだろう。
「さぁ、おいでぇ~」
「い、いゃ…!」
引き攣った声で拒絶に、捕まれた腕から逃れようと身をよじるが、そんな抵抗、あってないようなものである。
アルメリアは、前世の安全感覚で外に出掛けたことを心から後悔した。
「おっさん、何してんの?その子、嫌がってんじゃん」
もうダメか…と諦めかけた瞬間、まだ声変わりをしてない子供特有の高さの残る声がかかる。
「あ"?んだよ、ガキ」
「その子、嫌がってるっつってんだよ」
「ガキにゃ関係ねーだろ。ケガしたくなきゃ、とっとと失せろ!」
さっきまでの猫なで声が嘘のように低い、地を這うような今世で聞いたこともないドスの効いた声にアルメリアの身体はすっかり萎縮してしまったが、十を幾ばくか越えているだろう少年は、気にした様子もなく、そこに堂々と立っていた。
「てめぇらが失せろ」
それどころか少年は、手前にいた男の男の急所を勢いよく蹴りあげると、突然の事態に唖然とし竦んだもう一人の男の顎にアッパーを食らわせると、よろめいた男を蹴り倒し、男の急所を踏みつけた。
「え…?え…??」
「逃げるよ!」
そして、混乱するアルメリアを抱き上げるとそのまま走り去って行ったのである。
まだまだ未熟な身体ではあるが、アルメリアを抱き上げる腕はきちんと筋肉が付き、同年代の中でも大きいアルメリアを軽々と持ち上げ、走る姿にもよたつく様子はなく、それどころか、スピードはかなり速い。
あえて不満を言うのならば、この少年から臭う汗や皮脂の混じる糞尿の激臭と路地裏を迷う様子もなく駆け抜けていく事だろう。
助けてもらったが、明らかにさっきの男達よりも身なりの悪い、多分中流街でスリや盗みを働いてそうな下流街、もっと言ってしまうならば、スラムの少年にアルメリアは、少しずつ冷静になってきた頭が現実逃避したくなる。
「さて、この辺りでいいか」
そういって少年がアルメリアをやっと下ろしたのは、中流街と下流街の中間辺りだった。
目まぐるしい事態に腰を抜かしていたアルメリアは、下ろされるまま、地面に座り込んだ。
キョロキョロと周りを見渡すが、大通りから脇にそれたそこは人が少ないが、売人もそれらしい建物も見当たらない。
どうやら人売りに売られる事はなさそうだと胸を撫で下ろす。
「はい」
そして、アルメリアを下ろして、座り込んだアルメリアに手を差し伸べた少年にお礼を言って、アルメリアはその手を掴んだ。
「ありがとう…」
「違うよ」
だが、その手は無造作にはね除けられた。
「え…」
「お礼だよ。お、れ、い!助けたんだから当然だろ。早く金になるもの寄越せよ」
困惑するアルメリアに少年は、そう言いきった。
だが、アルメリアは市井に馴染むために装飾品の類いは持っていないし、お金など生まれてこの方見たこともない。
アルメリアの今の所持品は、宝石の一つもついていない服と靴にパンを一つ。
ただそれだけだった。
「え…え…?」
「はーやーくー!」
「あ、あの、今持ってるの、これだけで…」
そっと隠していたパンを出せば、少年の目が一気に輝いた。
「これ!真っ白なパン!」
「う、うん…?」
アルメリアは、真っ白以外の何色のパンがあるのだろう?と首を傾げた。
ふっくらと焼き上げた日持ちのしない真っ白なパンなど、市井ではそうそうお目にかかれるものではない。
ましてや、スラムの少年にとっては、貴族の気紛れな慈善活動でごく稀に配られる日持ちしない厄介な、それでいて極上のパンである。
ゴクリッ…と知らず知らずに少年の喉が鳴る。
「な、なあ、それ、もっとねーの?」
「ご、ごめんなさい…、今日はこれしか持ってきてないの…」
その言葉にがっくりと項垂れた少年だったが、ある言葉が気になった。
「今日は…?今日はって何?
…もしかして、また一人でふらふらする気…?」
そっと目を逸らしたアルメリアを少年は、上から下までじっくり眺める。
手入れの行き届いた艶々の髪に荒れ所かカサツキ一つない肌、抱き上げた時に感じた服の感触は、今まで触れたことが無いほどに滑らかで、仕草一つ一つに丁寧さを感じる。
明らかに良い育ちのお嬢様だと育ちの悪い少年だって分かる。
「はぁ…、何考えてるの…」
「う"…」
「はぁ…」
少年は、目の前の面倒事をどうしようかと頭を悩ます。
こんな世間知らずな良いところのお嬢様など、放っておけば、またさっきみたいな人攫いの連中に捕まるのが目に見えている。
同じスラムの少女なら少年のチームに入れて保護してしまえば良いが、あいにくと相手は、良いところのお嬢様で、またふらつく宣言をするような面倒事の匂いがぷんぷんする少女である。
いくら少年がスラム街である程度の勢力を持った浮浪児チームのリーダーと言えど、貴族だが豪商だかに目をつけられれば、一貫の終わり…。
少年だけではなく、少年のチームにまで災いが飛び火するのは、明らかである。
「ああー…」
見捨てるべきであると少年の冷静な部分が注意する反面、少年をスラムで幾度となく救ってきた勘が拾うべきだと言ってくる。
「シャル」
「うぉっ…!?レイ!」
少年、もといシャルが悩んでいるうちに、後ろからぬっと細身の少年が現れた。
レイと呼ばれた少年は、シャルと同じくらい年頃で、スラムの子供らしく汚れていながら、それすらも妖しい色気に変える美しい容姿をしていた。
「その子…ひっぺがすの…?」
「…!?」
首を傾げながらシャルに問い掛けたレイのそのふわりと増した色気と言葉の内容にアルメリアの身体がはねた。
「おい…」
「ふふふ…冗談だよ。
怖がらせてごめんね?」
責めるようにシャルが声を掛ければ、レイはクスクス笑いながらシャルに応え、アルメリアの頭を撫でながら謝った。
柔らかに宥めるように撫でてくる手にアルメリアの涙腺は一気に壊れそうになった。
アルメリアにとって、頭を撫でる手は、豪快な祖父の手しか無かった。
父も頼めば撫でてくれるが、カタカタと震える手が怯えたようにそろそろと頭を移動する様はいっそ空しさすら感じさせ、母に至っては、顔を合わせるだけで、その目に嫌悪の色を灯すので、頭を撫でてもらうなど、夢のまた夢である。
「おい?どうした?…っ、泣いてんのか」
「そんな睨まないでよ…。ごめん、ごめんね。怖かったよね?嘘だから、そんなことしないから大丈夫」
それでも耐えきれずにぽろぽろと涙がアルメリアの頬をつたえば、シャルがじとりとレイを睨み付け、レイはそれに困ったように笑い返しながら、アルメリアを抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩いてあやす。
「はぁ…どうしたもんかなぁ…」
それを横目に見ながら、シャルは解決してない問題に頭を悩ます。
≪シャル…答えは出てるんでしょ?≫
シャルのその呟きに返してきたのは、今、アルメリアをあやしているレイだった。
声のない言葉だったが、読心術さえも生きる術として身に付けた少年達には充分通じた。
≪リスク、でかくないか…≫
一歩間違えれば、死。シャルの勘はそちらを指していた。
≪そんなの今さら≫
そういってレイが艶やかに微笑めば、シャルもため息を吐く。
そう、確かに今更ではある。
幾度となく少年達の身には死と隣り合わせの問題が降ってきていた。
≪それでも今回のはシャレになんねー≫
そういう言い募るシャルに、ふっとレイはもう一度笑う。
≪一緒に死ぬ覚悟は出来てるよ?≫
そこまで言われては、シャルももう文句のつけようが無かった。
「おい、ガキ」
シャルの声に反応してアルメリアが顔を上げれば…。
「報酬次第では、案内役してやる」
「え…」
「これからも出てくるんだろ?」
「う、うん…」
「せっかく助けたのに、また人攫いに拐われたら寝覚めが悪い。
だから、案内してやるよ」
「ほ、ほんと…?」
「嘘言ってどうすんだよ」
「っっ…!!お、お願いします!」
こうして、少女と少年の契約は結ばれた。
ーーーーー
「まあ、アルメリア様よ!」
「今日もお美しいわ…」
「品が違いますわね…!」
あれから十三年の月日が流れ、アルメリアは、十八になった。
ゲームのアルメリアとは随分と違う性格に出来上がったが、おかげで周りからの評価は上々。
祖父の溺愛にも母の嫌悪にも父の服従にも負けずにまっすぐ育った。
それなのに未来は変えれなかったか…とアルメリアは一人こっそりため息を吐く。
今日は、ゲームのエンディング。卒業パーティー。
市井を駆け回っていたアルメリアは、8歳の時にヒロインとお助けキャラの幼なじみの少年に出会い、友情を育んだが、友情エンディングに持っていこうと奮闘するも虚しく、王子と恋に落ちた。
男の趣味が悪いと幼なじみの少年と必死に止めたが、婚約者が居ながら堂々とアプローチする王子に、そんな王子に心引かれつつも婚約者の事を考えて拒絶するヒロイン、ヒロインにぶちギレる婚約者。
そんな三つ巴に巻き込まれた結果、何故か婚約者がヒロインにしでかしたいじめの数々がアルメリアのせいになっていた。
「今日をもって、アルメリア・ルシエルを貴族籍から剥奪する」
相変わらずの両親は、これ幸いと勘当を喜んだ事だろう。
突然の王子の宣言にざわめく周りをアルメリアはため息一つで見つめる。
「待ってください!何かの間違いでは!?」
真っ先に声をあげたのは、スウェルブだった。
普段の冷静な姿を捨てて、声を荒らげる。
「そうですよ!姉様がいじめなんかするわけがありません!」
それに続いたのは、数ヶ月離れた異母弟。
知ってはいたが、実際に目の前に現れたときには、父に侮蔑の目を向けて、父が今まで以上に服従し始めた…。
「考え直してください!!ホントに違うんです!!」
ヒロインも必死に言い募るがすでに王子の耳には入らない。
本当に男の趣味が悪いとアルメリアは、呆れる。
「リリは本当に優しいな…」
とろけるような笑顔でヒロインを見つめた後、キッと王子はアルメリアを睨み付ける。
「リリの優しさに漬け込むなんて質が悪い!」
そう侮蔑の目を向けられるが、アルメリアもいい加減にこの茶番劇に飽きていた。
さっさと切り上げようとアルメリアは、声を出す。
「分かりましたわ」
「それでは、一ヶ月の内に屋敷を出るように。せめてもの温情だ。一千フェルを持たせよう」
そういう王子に言い募ろうとスウェルブ達が声を出す前に、即座にアルメリアは返答する。
「要りません」
「ん…?」
「ですので、一ヶ月の猶予も一千フェルも要りませんわ。では、失礼いたします」
そういって軽やかにドレスをなびかせると、扉に向かい歩き出す。
「お、おい!要らないってこれからどうする、気ーー」
さすがにそれに焦った王子が止めるが、がちゃりとタイミングよく開いた扉の先で見知ったメイドが二人立っていた。
アルメリア付きとして、アルメリアが祖父の屋敷に引き取られる前、ドールハウスの屋敷にいた頃に慈善活動として引き取り、メイドとしたアルメリアと年変わらぬ少女達。
片や、線が細く儚げな雰囲気の美人でありながら、肉感的なその姿態は男の保護欲と支配欲と性欲を刺激する。
片や、長身に落ち着いた低めの声を持つ美人で、動きやすさを重視し、さっぱり切られた髪にズボン姿は、凸凹の足りない筋肉質な身体と相まって男装の麗人として女性人気が高い。
常にアルメリアの側にいる彼女達は、アルメリアと近しい人なら誰しも知っている。
「アルメリア、話は終わったわけ?」
そう言ったのは、儚げな容姿のミーナだったが、その姿にいつもの儚げでふわふわした雰囲気は感じられなかった。
「お、おい!主人に向かってなんって口の聞き方をしてるんだ!」
それに真っ先に声をあげたのは、スウェルブだった。
「ん?アルメリアは、平民になることを受け入れたはずですが、何か問題ありますか?」
それに応えたのは、男装の麗人、キルト。
「アルメリアは、私の妻になる女性だ!」
「平民をでしょうか?」
「ッ…!王子!考え直しを!」
スウェルブの必死の訴えに、それでも王子は首を横に振った。
「と、言うことのようですし、アルメリア行くわよ」
「結婚式の準備は出来てるよ」
「え…?」
キルトの爆弾発言に会場中が静まり返る。
「ま、待って!結婚!?結婚!?誰と誰が!?」
真っ先に正気に戻ったのは、アルメリアだった。
「アルメリアとシャルさん以外に誰がいんのさー」
「待って!待って!シャル!?シャル!?何で!?」
「何でって四年前にシャルさんプロポーズしたんでしょ?」
「う"…」
「で、平民になったらねって答えたんでしょ?」
「まぁ…」
周りを取り残し、身内話で盛り上がる三人。
最後には、頬を染め照れるアルメリアに目を見張る。
彼女は常に穏やかに微笑み、スウェルブとの付き合いの中で、照れて困ったように笑う姿は見られたが、こんなに幸せだと全身から溢れるように伝わってなど来なかった。
「でも、だからって平民になるかなんて分かんないでしょ!?」
「「………」」
そう言い募るアルメリアにミーナとキルトは美しい微笑みを浮かべた。
「え…?え…?…まさか…」
アルメリアの頭に一つの可能性が過った。
「さあ、行きましょう。我らの女神」
「二度と逃がしませんわ。シャルの花嫁」
「「シャルさんが望んだその日から、全ては決定事項なのだから」」
幼い頃に保護し、守ってくれた少年は青年となり、彼女を欲した。
人望と頭と力はあってもその日暮らしの自分達に、知識と権力の持ち方を教え、影として振り回してきた少女。
対等に見ていた少女の中に女性を感じる度に、まだ幼いまだ幼いと言い聞かせ、手を出したくなるのを抑えてきた。
「それも今日で終わりかー」
会場からミーナとキルトに拐うように連れてこさせたアルメリアを腕に抱き、シャルはその幸せを噛み締める。
「何やってんのよ」
呆れたようにアルメリアが言えば、シャルは拗ねたような顔をする。
「お前なぁ…、どんだけ俺らがお前に振り回されたと思ってんだよ!こんくらいないと割りに合わねぇつーの!」
その日暮らしのスラムの子供達も今では、裏社会のドンとして各国を股にかけ、豪商や政治家達と繋がっている。
「まあ、悪い暮らしはさせないぜ」
「知ってる」
平民に墜ちた少女は愛した男と裏の世界で末長く幸せに暮らしましたとさ。
未完成のネタが20も30溜まっていくので、放置したネタがもったいないからとりあえず無理矢理完結させて投稿してみました。
気が付いたらキャラが増えてるのは作者の悪い癖です。お目汚し失礼しました。