パンツとキスはつきものだ!3
「ただいまー」
「にぃぃぃー!」
ぎゅっ。と、その小柄な体とは割に合わないほどの力でがっつりホールドされた。
妹は顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながらおれの胸にうずくまっていた。
とても心配をかけてしまったな。
「心配かけてごめんな。ちょっと色々あって」
おれはその少し赤みがかかったショートヘアの頭を撫でた。
「ばか。今日の夕食はお寿司じゃないと許さないから」
「わかった。お寿司食べよう」
そのくらいはしてやらないとな。
「ほんとに?ほんとのホント?」
「ああ、ほんとさ。よし、食べに行くぞ」
「やったぁ!」
ぐすぐすと涙を拭いて、笑顔を見せてくる妹。
良かった、元気になってくれて。
とりあえず、安心したおれだった。
ーふぅさすが。本場の味は違うな。
おれたちは家から少し離れたところにある、お寿司屋さんに来ていた。
ショーケースが並ぶ前席に座り、店主が慣れた手つきで寿司を握っている。
流石というばかりか、見惚れてしまう。
ちょっと奮発して板前のお店に来たのだが、想像以上のおいしさだな。
妹なんてこの通りだ。
「ほにゃにゃ~とろけちゃうよ~」
なんて幸せそうな顔してんだ。
ほっぺにご飯がついとるがな。
「にしても、結構食ったなおまえ」
寿司が乗せえられていた木の板が、山のように積み上げられている。
しかもこいつはガリとサーモンしか食べてない。
他のも食べろよ。せっかく来たんだから。
妹いわく、サーモンとガリが最高の組み合わせなんだと。
まぁいいけどさ。
「さ、帰るか」
「うん! う、うえ、まって。。食べ過ぎて体が。。」
「めっちゃ食ったもんな。大丈夫か?」
「ちょっと無理かも。。にぃ抱っこして」
「おいおい、自分で歩けよ」
「抱っこしてくれないと、ここでエロ本の隠し場所叫んじゃおっかなー」
「妹よ、早くおれの背中に乗ってくれ」
「わーい!さっすがにぃ!大好き!」
なんて奴だ。
こんな雰囲気あるところでそんなこと叫ばれたらたまったもんじゃない。
店主のおっさんが包丁持って、刺身にされちゃうよ。
ーガラガラと、妹をおぶってお店を後にした。
おれたちの家は、ここから20分とかからない場所にある。
路地を右左と通り、川沿いを歩いてすぐそこだ。
「むにゃむにゃ」
と、後ろでよだれを垂らして熟睡している妹。
やれやれ、仕方ない奴だな。
「もうたべれないようぅ~」
夢の中でもなにか食べてるのかこいつは。
「にぃ、足はさすがに。。」
「どんな夢見てんだよ!」
思わず声に出てしまった。なんていう夢を見てんだほんと。
ったく、のんきな奴だな。
こうしていると、さっきあった出来事がまるで夢のようだ。
まさか、このおれがあの白季玲と“キス”しただなんてー
っんー、と彼女の柔らかな唇がおれから離れていくと、彼女のパンツが見えるようになった。
正確に言うと、先ほどまで身にまとっていた鎧的なものが腰の部分だけ消え去り、純白なパンツが
見えてしまっていたのだ。
おれは健全な男子高校生なわけでー
その姿が、しっかりと目に焼き付いてしまった。
「え、なんでー」
とさすがに彼女も驚いているようだった。
恥ずかしさからなのか、顔を少し赤くしている。
その表情に不意にも、かわいいと思ってしまった。
「って、今はそれどころじゃないわ」
そうだった、おれたちは今ピンチな状況にいるわけでー
バッシャーと、一瞬だった。
おれがまばたきを一度して目を開けた瞬間、目の前にいた魔獣は真っ二つになっていた。
おいおい、強すぎだろ。
華奢な体してんるのに、どこにそんな力が。
「ありがとう、仁。あなたのおかげで倒せたわ」
「や、大したことしてねぇよ。こっちこそありがとな玲」
そうだ。礼を言うのはこっちの方だ。
おれは大したことしてない。したのはキスくらいでー
あ、あれ?キス、したのか?
落ち着いて考えてみると、やばい、かなり恥ずかしい。
人生ではじめてのー
「初めてだったの」
「え?」
彼女は唇を触りながら
「あなたでよかった。。」
なんて聞こえたような気がした。
ドクンーと、心臓がアバラをぶち抜いて、コンクリートの上で一般公開しそうだ。
そのくらい、胸の奥の熱いのが暴れていた。
きっと、今おれの顔を誰かが見たならば、茹でたタコみたいに赤けど大丈夫?
と声を掛けられるだろう。
恥ずかしすぎて、彼女と目も合わせれねぇ。。
〈玲、仁君。よくやったお疲れ様。今こっちにテレポートさせるよ〉
と、頭の中にアシュリーさんの声が響いてきた。
助かった。こんな気まずい雰囲気から一刻も早く抜けたい。
じゃないと、おれの心臓と理性がもちません。
「はい、お願いします」
スーと、一瞬にしてさっきいた場所がガラッと変わり、おれが寝ていた部屋へ来た。
「ありがとう仁君。やっぱり君は持っている男だったな」
「いいえ、おれは大したことはー」
「「どうだった?玲とのキスは?」」
急におれの耳元に近づいてそんなことを言ってきた。
「「い、いや、どうだったもなにも。。」」
おれは収まりつつあった胸の暴れん坊が再び活動を始めた。
「こんな、身しらずのやつとキスして、そ、その嫌、じゃなかったんではないと。。」
「ん?そうか?そんなこと思ってないと思うよ?ほれ」
アシュリーさんが指をさした先には、未だに唇を抑えてガッツポーズをしている白季玲がいた。
え、ガッツポーズ?どうしてだ。
いやいや、そんなわけない。だってあんな美少女がおれなんかをー
「そういえば、身しらずって言ってたけど、玲は会うのは久々って言ってたんだが。君は玲と初めて会ったのかい?」
え?久々?
そんなわけない。だって高校生になって初めて知ったはずじゃー
ブーブーと右ポケットに入っているスマホが泣いていた。
とってみると、妹からの着信だった。
「もしもし?」
「にぃ!なんでメールしたのに返信してくれないの!」
やっべ、色んなことがありすぎて落ち着くまで気づかなかった。
「すっっっごく心配したんだよ!ばか!お願いだから早く帰ってきて!」
「ほんとに心配かけてごめんな彩椰。今すぐ帰るから!」
「うん。早くしてねにぃ」
「おう!」
プツッと電話を切った。
「おっと妹さんかな?相当心配していたようだけど大丈夫かい?」
「はい大丈夫です。ですけど、家に帰りたいんですけど」
「わかった。テレポートで家の前まで送ってあげるよ。せめてものお礼だ」
「ありがとうございますアシュリーさん!」
「いやいや、こちらこそありがとう仁君。これからもよろしく頼むよ」
これからも?え、今回で終わりじゃないの?
またおれ彼女とー
「またね」
と少し顔を赤らめた銀髪の彼女が言ったー
ーというわけで、今こうして妹をおぶって家に帰っているわけだが。
「にぃ、そんな難しい顔してどうしたの?」
「おお!?起きてたのか?!」
いつの間に。びっくりして危うく落とすところだったぞ。
「ん~。家まだぁ?」
ゴシゴシと目を擦る寝起きの妹。
あわわぁと大きなあくびまでしている。
「あともうちょっとだ。すぐ着くよ」
と完全に日が落ちて、街灯が薄暗く夜道を照らしている。
その中、おれたち兄妹は我が家に向かっていった。
「よーし、着いたぞ」
ベースは灰色のごくフツーの一軒家だ。
特に変わったところもなく、おれ二人しかいないから部屋もいくつか余ってしまっている。
ガチャーと玄関を扉を開け、家の中に入ろうとした時だった。
おれは異変に気がついた。
なんで靴が置いてあるんだ?
こんな靴初めて見るし、だいたいおれたちしかいないのに。
その疑問はすぐに消去された。
だって、リビングから誰か出てきたんだもん。
銀髪の美少女が。
「あら、遅かったわね。こんばんは」
そこに立っていたのは、つい数時間前にキスをした白季玲、本人だったー