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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
始まりの町の大事件!
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第八話 た、大変だ……! ~始まりの町の大事件!~

 屋根の上で、くしゃみをひとつ。

 遠くに灯された松明の灯火を見つめながら、夜の世界に溶け込む少年、カラスは欠伸を噛み殺した。

「……寝ちゃ……ダメだ……っ、でも、眠い~……」

 夜になり、急激に気温の下がるシート荒野付近。寒さに身を震わせながらも、襲いくる睡魔はかわせない。

 不覚にも目を閉じて、うつらうつらと首をうな垂れていると、唐突にカラスは目を開いた。屋根に張り付くような低い体勢へ変え、腰に差した短剣へ手を伸ばす。

 なんだ。この気配は。

 周囲へ気を配るカラス。そして、その視界にひとつの影を認めた。カラスよりも、更に黒い装備に身を包み、極力足を忍ばせながらも強い敵意、殺意を消しきれていない者。

 一人見つけた後は、二人、三人と闇に蠢く数を確認していく。それは数人などとは言い表せない、多くの影があった。

「……こいつらか……、最近の町を襲ってるっていうやつらは」

 見つけたぜ。

 思わず呟いたカラスの後方から、嬉しそうな声があがる。

 カラスが振り返ると同時に、側方から飛んで来た飛来物を刃で弾く。甲高い、澄んだ金属音が夜の闇に響いた。

 慌てて後方へ飛び退くカラス。それを追うようにして疾走する白い外套を見て、少年は自分の行動が失敗だと悟った。

「――うぐッ」

 大きな足に腹部を蹴られ、路上に落下する。ただでさえ音をたててしまったカラスは、町へ侵入してきた輩の格好の的である。

 声もたてずに、四方から影が走り寄る。速やかに息の根を止めるべく行動する彼ら、しかしカラスはすぐに起き上がると路地裏に向かって走る。その敏捷さは目を見張るものである。

 だが、もちろん、影たちも彼を追う。

「くそ、こいつら……、――!」

 前方に、白い外套が見えた。月光に青く光り輝く片刃を晒している。

 挟まれた。

 すぐにカラスは壁を蹴ると、反射するようにして反対側の壁も蹴り、屋上へと上がる。そこへ待ってましたとばかりに白い外套が、さきほどカラスに蹴りを当てた男が巨大な斧を振り上げていた。

 慌てて短剣を構えるカラスに対して、男は嘲笑する。

「そんな細っこい腕で止められるならッ」

 声を聞くその前に。慌てて短剣を引き、虚空を蹴って飛び退く少年。その直後に雷のような衝撃と轟音。

 その一撃は屋根を破砕した。

「まあ、そうするよなあ」

 普通で言えば有り得ぬ挙動。しかし男はそれを受け入れて不機嫌に呟くと、その背後に男と同じく外套を纏う女が立った。カラスは下唇を強く噛む。

「またお前らか。なんのつもりか知らないけど、相手になるってのなら、相手をしてやる!」

「言うねぇ。俺の心臓を、満足させてくれよォオ!」

「刈り取らせてもらうぞ、その首ィッ!」

 惜しげもなく殺意を孕ませて、2人が同時に叫び、疾走する。あの影たちとはまるで違う動きだ。

 しかしそれらに向けてカラスは言う。

 また、今度ね。

 悪戯っぽい笑みを見せた少年。同時にズボンから取り出した長方形の木箱のような物体。それは火炎弾の群れが生み出して、二人へ向けてばら撒いた。

 難なくよけるも、その視界を一瞬とは言え妨げるには十分な効果だった。

「…………ッ。どこに行ったあの野郎!」

「私が知るかッ!」

 言い争っていると、黒い影が屋根へと上がって来る。

 男は敵対する影へ殺気を向けたが、女はそれを制して町の外を指した。舌打ちして、男はそれに従った。



 トバリが目を覚ましたのは、宿屋を襲った凄まじい衝撃からだった。

 頭を振りながら、ベッドの空いている部分を見ると、そこはもぬけの殻だった。まだ覚醒していない頭を横に揺らしながら、二度目の惰眠を貪ろうとしたところで、悲鳴に気づく。

 男の、女の、悲鳴や罵声、雄叫びなどが聞こえる。

 慌てて窓を開けたトバリの目には、町を逃げ惑う人々の姿があった。町が焼かれ、火に照らされた中を黒装束の人間たちが獣のように、逃げ惑う人へ襲い掛かる。勇敢に戦っている者もいたが、すぐに背後から来た別の者に斬り殺されてしまった。

「た、……大変だ……! フューは、フューさんはどこにっ?」

 思わずあたりを見回してから、気づく。枕元に置かれた紙切れ(メッセンジャー)

 夜気を楽しんできます、フュー、とある。

「あ、あの人、絶対にあたしを置いて逃げたぁ!」

 思わず叫ぶのと同時に、下に居た影と視線が合う。悲鳴をあげて跳ね上がる少女。。影はその姿を確認すると、すぐに宿屋の中へ侵入した。それを見たトバリは堪ったものではない。

 ベッドの下に置いてあった鎧、と言っても、桐当て程度であるが、それを装備するとハチマキを巻いて、盾を持ち、大剣と麻袋を下げて窓から飛び降りた。

 二階という高さからであったが、着地と同時に前転して衝撃を吸収すると、不思議と痛みを感じない。

 やはり、夢の世界だからか。

 そんなことを心の片隅で思いながら、肌に感じる命の危機に、建物の裏、目立たない道を選びながら全力で走った。



 一方、フューは衝撃波で敵をなぎ倒しながら、隣に立つテニアンに言葉を投げかけていた。

「ねえ、いつも夜襲されるとこんな感じなの?」

「知りません! 私が勤めてから、初めてですよこんな状況は!」

 ドリルのように切っ先を回転させながら、不用意に近づいた影を串刺しにし、槍を射出した勢いで敵へ投げつける。そこで動けなくなった影をフューの力波が容赦なく打ち据えた。

「の、割には、人と戦うのに抵抗ないのねぇ」

「そ、そっちだって! それにこっちは、皆を守るという仕事が、正義がありますからッ」

 熱く吼えるテニアンに対して、意外にも冷たい目を向けながら唸るフュー。

 と、ここでなにかに気づいたように目を見開く。

「まっず。テニアン、ここは一人でも持ち応えられる!?」

「え? ま、まあ、今のこの人数なら」

「強気じゃん! じゃあ、私は用があるんで急がせてもらうわよ!」

 言うなり、手を開くと、光の粒子が集い、凝結して固形化する。

 一瞬にして出現した槍を振るい、圧倒的なリーチから影の頭を貫いて、フューは走った。彼女が守ると契約した少女の元へ。

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