第四話 普通じゃダメなんだよ ~始まりの町、ドリームホップ!~
燃え盛る火の中へと消えた怪物、その場所に落ちていた代物を拾う。
「中々やるねぇ、トバリちゃん。あのでっかいトカゲの時もそうだったけど、攻撃に関しての思い切りと判断はいいよ」
まあ、傍から見ると危ないけどね。
フューはそう付け足して笑う。悪戯っぽいが、明るく、邪気はないだろう。そんな様子に先程までの怒りも消え失せてしまう少女だが、やはり愚痴は有る。橙頭に目を向けながら、トバリは口を尖らせた。
フューはトバリの頭へ手をやりながら、自分の兜を指で撫でる。特に性能も高くなさそうな、一般的なイメージの強い被り物といった感じであるが、その正面には赤い筋が四本、走っている。
「それじゃ、がんばった君にご褒美でもくれてやろうかね」
言うなり、見もせずに麻袋に手を入れて、唇を舌で舐める。ごそごそと中を漁り、やがて目的の物を引きずり出した。
小振りな短剣である。
ほれ、と投げられたそれを思わず受け取る。それから、まるで不要と言わんばかりの半眼でフューをねめつけ、投げ返した。フューはその反応に、慌てて手を振る。
「違う、違う。これ、かなり上等なヤツなんだよ? 君の持ってる剣と一緒で、魔法が込められてるの」
ちなみに上位魔法。
指を立てるフューだったが、トバリは聞き慣れない単語に首をかしげた。その様子を見ると、今度は立てた指をそのままに、得意満面の顔で説明を始める。
「いい? 魔法剣ってのは魔法が込められた剣のことで、他にも防具や装飾品につきひとつずつ付加できるの。自分で構成する魔法じゃないから、威力は誰が使っても同じ」
このワンダーランドにおいて魔法とは、術式という、まるで数式のような組み立てによって魔法陣を形成し発現するものだ。これが武器に直接掘り込まれることで、魔法剣などのマジックアイテムとなる。
ここまで一息に喋ると、いったん言葉を切って、短剣を抜く。
高々と掲げられたその刀身には、トバリの剣と同じく魔方陣が描かれ、深い緑色を発している。
「下位、中位、上位ってのは、その名の通り、この魔法の力を表しているわ。この剣に入っているのは毒の魔法。敵の防御力ダウンと持続ダメージだから、まあ、君とは相性もいいでしょ?」
人懐っこい笑みを浮かべながら投げるフューに、今度は異論なく受け取った。
再び町へ向かって歩を進めた二人だったが、途中で少女は止まる。中指にはめられていた指輪の異変に気づいたのだ。
不審そうなトバリを肩越しに見ながら、フューは笑った。
「それはねぇ、ゲージが溜まってるんだよ」
「ゲージ?」
「そ。げ、え、じ。
今は微妙に光ってるだけだけど、ぎんぎらに光り出したら凄いよー」
そう言って笑うが、ではなにが凄いのかと聞くと、意地悪く笑ってはぐらかした。
そう言えば、ですけど。
トバリが口を開く。初めて強敵だと感じたアクティブモンスターを片っ端から衝撃波で吹き飛ばすフューに、疑問を感じたのだ。
「フューさんって、魔法使いなんですか?」
「え? まあ、違うかな。君と同じ戦士だよ」
五本の指に小さな魔方陣が吸い付き、走った光が五匹の怪物を消し去る。中にはトバリが最初に戦ったことのある可愛らしい姿をした者もおり、単純についでに攻撃したのだろうかと考えた。
どちらにせよ、初めて会った敵がいるということは、町に近づいたということだろう。トバリはこの短い旅路の障害を全てフューに任せるつもりだった。
「戦士も、魔法使いになれるんですね」
「あはっ、普通はなれないねぇ。私の場合は、これのお陰」
楽しそうに言って耳に下がったイヤリングを指す。小さな紫色の装飾があるが、まるで地味でそんな能力があるようには見えない。
フューの言葉によるとこの宝石に、魔法使いと同じく魔法を構成する能力を授けてくれるらしい。他にも、幾つかの装飾品により魔力の底上げをし、ある程度の魔法は使えるのだと説明した。
「でも、それなら魔法使いになったほうがよかったんじゃないですか?」
トバリの最もな言葉に、フューは低く唸ってから苦笑した。
この世界、夢へ最初に来た者が見るのは、真っ白な世界と剣、そして杖だ。そのどちらかを選べば旅立ちとなり、自らの適性が決まる。
「まあ、続けていけばわかるかもしれないけれど、普通じゃダメなんだよ。常に、上を、常に力を求めなきゃあイケナイからね、この世界だと」
言葉を濁すフューを見上げて首をかしげる。更に詳しく問おうとしたところで、フューが声をあげた。
彼女の視線の先に壁が見える。怪物たちが町へ侵入しないようにと築かれた防御壁である。しかし、その町の中央からあがる旗にトバリは見覚えがなかった。
「あっれー? あたしのいた町と違う……」
「まあ、始まりの町はひとつじゃあないからね。そんなことより、早く行くわよーっ」
言うなり駆け出す。突拍子のない行動に非難の声をあげながらも、トバリもあわせて走り出した。
陽はまだ高い――。