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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
始まりの町の大事件!
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第三話 考える前に、行動する ~VSドラゴンヘッド!~

フューに小突かれて、トバリは頭を撫でさする。

「全く。とにかく、これで私はいつでも呼び出せるから、辛いと思ったら遠慮せずに呼び出してね?」

 頭をさすりながら生返事を返す。あまりフューの言葉に興味はないようで、辺りを見回しながら次の獲物を探しているようだった。

 そんなトバリに、ふと疑問を抱いたフューが質問する。一体、この世界に来てどれくらいなのかと。

「……ええっと……五日ぐらいですね」

「え、五? 町は? 行ったこと、ない?」

 少女はさも、当たり前のように無い胸を張って頷いた。フューは自分のこめかみを押さえ、息を吐く。

 このことにより、二人はこの荒野から最も近い町へ向かうことに決めた。

「これから向かう町は、初心者の活動拠点。名前はドリームホップって呼ばれてるわね」

 フューの説明に対して気のない返事を返しながら歩いていると、急に彼女の足が止まる。

 機嫌を損ねたのだろうか、と少し不安になりながら彼女を見上げると、フューは困ったような、どちらかと言えば煩わしそうな表情で左右を見回していた。なにをしているのかと疑問に思ったが、その理由はすぐにわかった。

 荒れた地面を吹き散らし、巨大な怪物が這い出てきたのだ。

 平べったい蠍のような体に、尾の先についた獣の髑髏。思わずトバリは悲鳴をあげた。

「ドラゴンヘッド! ノンアクティブモンスターね。……でも、ま……」

 慌てて盾裏に備えられた鞘から剣を抜くトバリの頭をなで、フューは彼女にあの怪物を倒すように命じた。

 驚いたのはもちろん、トバリである。さきほどの蜥蜴もどきよりも二回りは大きいのではないか、というほどのサイズだ。及び腰になるのも無理はない。

「いやぁ、むりむりむりっ。ずぇーったい、無理ッ。さっきのよか、大きい!」

 必死に首を振るトバリに、無責任にも大丈夫を繰り返すフュー。その間にもドラゴンヘッドと呼ばれた怪物は長い触角を伸ばし、縄張りへの侵入者である2人を観察しているようだった。

 トバリが必死の形相でフューの胸倉を掴みあげるが、あっさりとそれを外して、無情にもドラゴンヘッドのほうへ蹴り飛ばす。

 転がり様に勢いをつけて跳ね起きるトバリ。すぐ目の前に、あのおぞましい怪物の触角があった。

「うあああぁっ!?」

 思わず悲鳴をあげて剣で払うと、触角が切断され、その尖った先端がトバリに向かって飛んできた。更に悲鳴をあげて逃げ惑う少女だったが、そうもしてはいられない。ドラゴンヘッドが動き出したのだ。

 体の側面から生えた複数の足を動かし、トバリの予想を遥かに超えた速度で間合いを詰める。思わず振り回した剣と、ドラゴンヘッドの振り上げた鋏とがぶつかりあって激しい火花を散らす。

「うぅッ」

「トバリちゃーん、そいつはさっきのワイルドビーストよりも格段にレベルが低いから、がんばればいけるはずだぞ~!」

 気のない応援。

 フューの言葉に幾分か楽になったのは事実だったが、正直に言えば今の一撃ですでに、腕が疲弊している。あの猛進と比べるほどではないだろう、しかし、この怪物の力も相当なものだ。

 一度、距離を取ると、その淡い光を宿す刀身に指を這わせる。幾何学的な模様、魔方陣がそれに呼応して強い光を放つ。

「……魔法剣……?」

 フューが目を見張ると同時に、その刃を炎が包み込んだ。ドラゴンヘッドはそれを遠巻きに見ながら鋏を振り上げ、威嚇するように打ち鳴らす。

 直後、トバリが一歩、踏み込んでその剣で空を斬る。同時に刃から生成され放たれた炎の塊が、ドラゴンヘッドに向かって飛んで行く。

 この剣は元々、案内人と名乗った男から譲り受けた剣だ。魔力を宿しており、魔法使いでなくとも火炎魔法の基本のひとつを使用できるということだったのだ。その威力はトバリから見ても十分に通用するもの、だと思っていた。

「――えっ……?」

 しかしその火炎弾は、頭の前で交差された鋏に阻まれ、無惨にも散る。

 慌てて剣をしまい込み、背負っていた大剣を構えると同時に、ドラゴンヘッドの尻尾先についた髑髏、おそらく名前の所以であろうそれが大きく顎を開き、炎を噴射した。

 悲鳴をあげて盾を構えるが、その熱に飛び跳ねてしまう。

「火、火ぃついた、火ーっ」

 そんな姿を遠くで見ながら、フューはにやついていた。その様に助け舟が来ないことを悟ったトバリは、彼女に対して強い怒りを覚えつつも、眼前の強敵へ集中する。

 大剣を構え直し、その巨体の横に回るようにして距離を詰めた。とにかく恐ろしいのはその腕の力と、遠くの敵を焼き殺せと言わんばかりの炎である。横に回り、接近さえすれば鋏など振るいようがないし、尾先から放射状に撃ち出される炎も楽に避けられると考えたのだ。

 その考えは、あながち間違ってはいない。むしろ正解だ。あの強力な武器であり、盾でもある鋏をかわさねば、ドラゴンヘッドに対して有効打を入れるのは難しい。――しかし。

「ン……ひあっ!」

 目と鼻の先に振り落とされた鋏に、思わず飛び退いて尻餅をつく。トバリが回り込むよりも、ドラゴンヘッドの旋回速度のほうが速いのだ。

 後転し、勢いをつけて立ち上がる。大剣はドラゴンヘッドの前に落ちているが、構っている余裕などはない。すぐさま魔法剣を抜くと、刃に指を滑らせて火を灯す。


 ――考える前に、行動する。直感に従え。


 案内人の言葉を思い出す。人の生存本能こそが、奇跡を引き起こすトリガーに成り得るのだと、その男は語っていた。

 トバリは、ドラゴンヘッドが尾先を向けると同時に、正面に向かって走った。顎が開き、火炎を吹き出すと同時に前転してそれをやり過ごし、留まる事なく走り続ける。

「――へぇ……」

 感嘆したようなフューの言葉に密かな満足感を覚えて、怪物に向かう。

 怪物は、それを迎え撃つべく大きな鋏を振り上げた。右から来た一撃を跳躍してかわし、鋏とドラゴンヘッドの頭との間に着地する。

 ドラゴンヘッドがもう片方の鋏を振り上げるのと、トバリが炎の切っ先を開いたままの顎へ向けたのは同時だった。

 火炎弾を放ち、鋏が振り下ろされる直前に右へ転がると、まだ下ろしたままであった鋏と腕の節目に刃を入れて切断する。ドラゴンヘッドの左腕から黄色の飛沫があがり、その間に直撃した火炎弾が尻尾を粉砕。

 フューが唸るほどの早業だった。

 続いて、トバリは剣を投げてドラゴンヘッドの足の動きを止め、地面に転がっていた大剣を握り締める。

 体勢を崩しながらも、こちらへ軸を合わせたドラゴンヘッドの頭部へ、トバリは容赦のない一撃を加えた。


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