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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
始まりの町の大事件!
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第十八話 ぶっち切れたわよ厨二病! ~シート荒野の大死闘!④~

 上手い。

 相手の意識の逸らし方に思わず舌を巻く。彼女の得意とする分野であったが、それを上手くかわせなかったのは実力差に押され心に余裕が無かったからだろう。

 何よりも自らの身体能力だけでなく、技量、そして相手の精神面を制圧しにかかるシュヴァリという戦闘巧者への素直な賞賛がそこにはあった。

 しかし意識の外の行動であったが、フューの体は反応した。それでも先程とは違いその反応は十分とは言えなかった。

 男の跳ぶ様な一歩による接敵に対し、槍を突き出す。剣を持つ肩でそれを弾き、刃を突き出すシュヴァリ。

 フューはこの一撃を――。

(――女は度胸だっちゅーの!)

 前に踏み出すことでかわした。刃は彼女の鎧と脇腹の肉をこそぎながらも、その臓腑を食い破れずに通過する。槍での攻撃など牽制ですらない、いわばこの回避の為の、ともすれば再び串刺しとなる恐怖に怯える自分に活を入れる為のものだ。

 後が無くなり、スムーズに動いた体は多少の犠牲を出しながらも致命をかわすことに成功し、左手に集中するは赤の軌跡。

 生み出された魔法陣に灯る強力な力波を目にする男の目には、驚きの表情すらなかった。

 予定調和。

 その事実が、フューの心臓を高鳴らせる。瞬時に確認した男の傷ついた右手が彼の外套に隠れていことに気づき、確信を持って彼女は別の術式を組み上げた。

 直後、炸裂音。火と熱を持って放たれ、無数の礫が男の外套を裂く。それは、フューが自分と相手との間に発生させた魔法陣へと消えて、同時に彼女の思考を乱した。

 衝撃に揺れる外套の下から現れた物は、現実世界でもテレビやゲームで良く見る代物。

 銃やん。

 相手の攻撃を防ぎながらもその正体に驚きつつ、率直な言葉と共に放たれた力波はシュヴァリの顔面右側に張り付いた仮面に直撃した。それは仮面に傷ひとつ与えることなく砕けて散る。それもなにかのマジックアイテムなのだろうが、フューは飛びのき様に笑みを浮かべていた。

 散弾を模して作られたであろうその銃は、火薬のないこの世界において炸裂魔法により弾丸を発射するのだろう。

 彼女の持つ転移の術式の中でも入り口と同時発生せず、出口を自由に作り出せる術式。これは、この男には反応できない。そして必殺になるであろう一撃が今、この手元にある。

「シュート!」

 ブラフの魔法陣をふたつ形成する。正面にひとつ、背面にひとつ。そして、本命をその頭上に。

 魔法陣から解き放たれた礫は男の手元から射出された時と変わらぬ勢いでその頭上に降り注ぐ。が、それを男は即座に翻したその巨剣の身で全て受け切ってしまった。

 鉄の爆ぜる音と焼けた臭いがフューの鼻腔を刺激する。

「……は……?」

 思わず呆けた声を漏らすフュー。

 彼女の顎を、間髪入れずに熱を持った銃身が打ち砕いた。

(あっれ~? おかしくない? なに今のピンポイント反応? ……つーか痛……)

 崩れ落ちる視界の中で、フューは巨剣を肩に乗せる男の姿を見る。そのままそれを振り下ろすのであろう彼の影に対し、彼女は意を決した。

 槍を放つのに使った青い魔法陣。それは触れた物体を一方向へ加速させる効果をもつ。繰り出された刃をそれによってかわし、空へと逃れた彼女へ銃口を向けるシュヴァリ。

 その目の前でフューは消失する。否、高速で彼の周囲に出現と消失を繰り返したのだ。これらは実のない虚像に過ぎないが、小さな魔法陣故に虚像に隠れ、一瞬の識別は遅れるはずだ。

 しかし、それでも。

 男はこちらの所在をすぐに察知してしまう。その並外れた察知能力。予知能力にも通ずるそのスキルをフューは知っていた。

 女神の加護、と呼ばれる意識の外からの攻撃や災害を、一定確率で想起させるマジックアイテム。彼女もまた、それの所有者であるからだ。

 そんな物を持っている者への正攻法は、奇をてらった策ではない。

 ひとつは確率による予知が外れるまで攻撃を続けること。そしてもうひとつは、ただの力押しだ。

 フューが選んだのは後者であった。

「ぶっち切れたわよ厨二病! もうこの際、加減だとか建前だとか工作だとかどーでもいいわ!」

 天高く舞い上がった空で、すでに傷を癒したフューは叫ぶ。

「出でよ真槍、ディスラヂカ!」

 彼女の命を受けて、雷鳴と共に背後へ一本の槍が出現した。それは質素とも呼べるほどシンプルな作りで、装飾などはないただ木製の柄と菱形の穂先がついただけの槍。

 しかし、出現と同時にフューから放たれる圧力が増し、シュヴァリですらもその視線を厳しくする程であった。

 頭上で重ね合わせた両の掌に複数の赤い魔法陣が形成され、周囲の空間が歪むかのように景色が揺らめき、魔法陣へと光が収束する。

 ばちばちと音を立てて、稲妻のような光を時折発するそれは、彼女の持つ攻撃の中でも最強を自負する力技。

 それを見上げて、シュヴァリは大地に巨剣を突き刺した。

 受けて立つ。

 その意図に裏も無ければ曇りすら無く、ただひとつ、相手の全力を叩き潰すことにのみ執着していた。

 フューはそれを見て口角を引き上げる。

「潰れて消えろ虐殺者!」

 突き出す手より放たれたエネルギー塊は、ただ単に先程の力波の出力を上げたもの。が、その出力は半端ではない。彼女の背後に出現した真槍は、使用者の魔力値を限界を超えて高める能力を持つマジックアイテムのひとつである。

 それを受けて跳ね上がった威力は凄まじいを通り越して恐ろしささえ覚える程。一瞬の撃にて町を障害などないかのように横断してから封じていたその力を、フューは照射すべく狙いを定めていた。

「マァキシマム・ブレッシャアアァーッ!!」

 迫るエネルギーの塊。シュヴァリは地に刺した剣を反らせて自らの肩を当て、受け止める。

 高密度の力波は彼の手や仮面に受けた時と違い吹き散らされることなく、両の足を支える大地を砕いた。

 留める事も出来ずに押し流されるシュヴァリに対して驚愕するのはまたもフューであった。

 これ程のエネルギーだ。それを受けて折れることもなく耐えるあの剣。不器用な造形をしたただの威力押しだと思ったが、そんなものではなかった。更に言えば、それを支える男の存在。

(……けど、やっぱし最後は貰うんだけどね!)

 雷光を残し、エネルギーの発射地点から防御に回るシュヴァリの側面へ転移する。

「ずええい!」

 赤と紫と、様々な色の交差する魔法陣から産まれた光球がシュヴァリの体を捕らえた。力波は途切れ、巨躯が宙に舞う。

 これで終わり。

 フューは勝利を宣言し、自らの右手に収まる光球を覗く。その中には、宙に浮かぶシュヴァリの姿を映したものがあった。

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