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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
始まりの町の大事件!
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第十六話 フュー、大丈夫だよね ~シート荒野の大死闘!②~

 飛来する火の輪っか。

 先頭のジーンはあっさりと火輪をかわすが、後続はそれを弾こうとして手甲を触れさせる。

 同時に、爆発。白炎を巻き上げたそれは黒ずくめの上半身を吹き飛ばし、夜の荒野に朝日が差し込んだ如く煌いた。

 その爆轟は黒ずくめの注意を奪い、その明るさは火輪の存在を薄れさせる。

「貴様ッ!」

 続く爆発で黒ずくめの一人が足を吹き飛ばされるものの、残りの火輪はジーンの放つ短剣により彼らに届く間もなく破壊された。それどころか、それらを囮に放った隠し玉の発火せぬ鉄輪をも、夜目に慣れ視認しづらい状況にも関わらず、ジーンの放った炎の壁により吹き散らされた。

 残るは四人。半分までは落としたかった所だがと胸中で毒吐き、カラスは腰の短剣に手をかける。

 最早、敵はすぐそこだ。その上このジーンという女、魔術にも長けているようだ。カラスは、体を後ろへ傾けると地を滑走し、更に手を地につけ、それを軸に回転する。

 向き直ったカラスに対し瞬時に剣を構えたジーン。まるでこちらの扱う短剣のように、その大剣を閃かせる。

「しっ!」

 鋭い息吹と同時に、カラスは軸に使ったその手から土塊をジーン目掛けて飛ばし、斬撃をかわすべく左へ飛んだ。

 その見事な早業は百戦錬磨を自負するジーンすらもかわすことが出来ずに直撃し、思わず声を上げた。

 目潰しを狙われたことなど数あれど、このような高速移動の中でこうも正確な動作と戦術を受けたのは初めてであったのだ。彼女らの行う戦場戦術とはまた別の、言うなれば路上の喧嘩で行われるような。

「ぐぅっ、カラスぅー!」

 吼え猛るジーンに対して、カラスは攻撃を行わない。後続の三人はすでにカラス目掛けて飛び掛っているのだ。

 しかし、感情が先立ってか、彼らより一歩も二歩も先を行っていた彼女は、後続が辿り着くまでの僅かな時間をカラスに与える事になってしまっていた。

 羽のように開いた外套から零れ落ちるは、まるで時代劇にでも出てくるような複数の白球。一部から顔を覗かせる導火線には火が点いていた。

「ぬうう!」

 一人は空中で魔方陣を形成し軌道を変え、残り二人は空で軌道を変える術なしか、覚悟を決めて攻撃を迫る。

 その様にカラスは悪戯っぽく舌を出して、己の両腕を交差、印を結んだ。

 直後に彼の前方に現れた紫色の魔法陣は、飛び掛る一人の黒ずくめを捕らえ――カラスとその位置を入れ替える。

 その者は地面に激突し、もう一人もまた人のいない、否、白球に向かう中、カラスはあらかじめ握っていた短剣を、白丸から逃れた黒ずくめへ投擲する。

 脇腹に直撃し、着地に失敗する男を尻目にカラスは向き直り、白球近くに着地した男と、気配を頼りにこちらへ攻撃をしかけようとするジーンを睨みつけ再び印を結んだ。

「発!」

 カラスの掛け声と共に白球は弾け、辺り一面を眩い光が包み込んだ。

 先程とは違い、殺傷能力のない完全な目暗まし用のマジックアイテムである。その造形から爆弾と思われがちだが、未だワンダーランドにて火薬が製作されたことはないのだ。

 自身は遮光ゴーグルで被害を防ぎながら、怒りの声を上げる黒ずくめらを放って、まんまと逃げおおすことに成功した。

 カラスの激しい挙動と、その攻撃のとばっちりを受けて、彼の頭上でトバリは悲鳴をあげていた。しかしそれも、カラスにはいい気味だとしか思っていなかった。



「はあ、はあ、はあ……あーっ。疲れた。ここまで来れば、もう、ふう。大丈夫かな?」

 地面にどっかりと腰を下ろして、カラスは息を吐く。足を投げ出し、続いて大地に横になった。

 それに合わせるように彼の胴から伸びた縄は縮み始め、少女を地に下ろして拘束を解く。手足が自由になると同時に少女は口から溢れたものを懸命に拭い、カラスから受け取った水筒で汚れを漱いでいた。

「あいつら、はあ、あいつらも深追いしないよう言われてたし、気配もないから安全だと思う」

「ぶふうっ、ぺっぺっ。カラスぅ」

 術式の刻まれた石ころを周囲に撒いていた所、じっとりとした目で少女に睨まれる。その様子にカラスは勘弁してくれと目を閉じた。ここまでしているのだから、不平不満を聞く気などない。

 もういい時間だ。シート荒野の夜も数時間と持たずに明けるだろう。トバリは不服そうにその様子を見ていたが、すぐに寝息を立て始めた少年に頬を緩める。

 自分と同い年か、若しくは年下かといったこの少年が、あの大立ち周りをして恐るべき相手を退けたのだから、敬意を表すべきなのだろうが。

 この世界には、強い人ばかりいるなあ。

 そんなことを口にしてカラスの隣で大地に寝そべったトバリ。埃っぽい地の上で中指にはめた指輪を見つめる。その赤銅色に光はなく、何度呼びかけてもフューが召還されることはなかった。おそらく彼女の言っていたゲージがあの召還の際に消費され、再召喚できない状態となっているのだろう。

「……フュー、大丈夫だよね……あの案内人さんも……」

 逃走劇の最中、戻って加勢する、否、二人を止めると抵抗していた少女を叱咤したのは他ならぬカラスだった。少年は彼女の機転の良さに、強大であろう相手とまともにぶつかり合うことはない、頃合を見て逃げ出すだろうと語った。

 この状況でフューが最も不利になるのはのこのこ戻ってきた人質が再び捕らえられてしまうことなのだ。少女は理屈こそわかるものの、納得しまいとしていたが、迫る黒ずくめに戻るのを断念していた。

(今日は……疲れたな……)

 大人しく眠ろうと目を閉じた少女だったが、その腹を空腹が襲い、粘土のような触り心地の不味い携帯食料を一欠けら、飲み下した。

 それは空腹を抑えるためであったが、早めの夕飯としてかぶりついたドラゴンヘッドの中身焼きが思い起こされて、寝付くのには少々時間がかかったのだった。

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