85.手加減はやめだ
ランキング50位ぐらいになりました!ありがとうございます!
「ファイアボール!」
幼い声で魔法名を叫ぶ少女。その幼い白髪の少女の放ったファイアボールはゴブリンを葬り去る。
「お見事。ちょっと見ない間に強くなったなセーラ」
「うん‼︎毎日練習してるからね!」
「えらいなぁセーラは」
俺たちは今ガルサムの郊外にある草原にいた。セーラのレベル上げが目的だ。未だ50を越した辺りで、まだまだ進化には程遠いが、ゴブリン程度なら瞬殺出来る腕前まで成長していた。
ただの小さな村の宿屋の子だった彼女がここまで成長した事に感慨を覚えながらも、俺は次なる目標を捕捉する。
ここは街が近い事もあり、魔物の数も少ない。山から迷い込んだ魔物が点々といるだけだ。
だが、幼く体の弱い彼女の相手としては丁度いい。
「あっちだな、行こうか」
手頃な相手を見つけ、セーラとシーテラを連れて移動する。シーテラは特に戦ったりする事はないのだが、ついて来たいというので連れてきた。
ギルクに預けていた間、シーテラは色々とやってみたそうだ。ギルクの根回しにより、1日店長、1日宿屋の主人と様々な事に挑戦してみたそうだが、どれも彼女の心を射止める事はなかった。
そうして、今日は1日冒険者という事で付いて来たのだが、戦う力などない彼女は見学に徹していた。
草原をキャキャ言いながら走り回るセーラの後をゆっくりと歩きながら、俺はシーテラに話しかけた。
「シーテラ、何かしたいと思う事はないのか?」
『はい。何かをしたいと感じる機能が私には備わってませんから』
「…………」
俺は無機質で感情の篭っていない彼女の言葉を悲しく思った。あの時シーテラに感情があると感じたのは感違いだったのか?
「俺は備わってると思ったから、連れ出したんたがな」
『あり得ません。前マスターは私に心が宿らなかったと気に病んでおりましたから』
あの天才が?気に病む?
……気に病む?
「ないない。あの自信と頭以外取り柄がない奴が、気に病む?ないないない」
『そんな事はありません。前マスターは完全なる人を作ろうとしておりましたから』
おいおい、あの天才と言う名の馬鹿は何をしてんだ?
それ悪者がやる事だろ?
えっ?何?
俺あのムカつく天才滅ぼさないといけないの?
……嬉々としてやろう。あいつの作った物片っ端から粉々に吹き飛ばして、やめてくれ〜と泣き叫んだところで引導を渡してやるぜ。
「キッチック兄〜!ゴブリンいたよ〜!」
おっと、先に滅ぼさないといけない奴が他にいたな。
「セーラ、やっていいよー!気を付けてなー!」
「うんー‼︎」
〜〜
「今帰ったわよぉ‼︎レイ、あんたいきなり逃げてくれちゃって‼︎あの後あたしがどれだけ……何してんのよ?」
ドバッと扉を開け放ち、怒りマックスで飛び込んできたアンナは怒りをぶちまける。しかし、宙吊りのギルクを見てアンナが固まる。
「キッチックさん!何で先帰っちゃ……えっ⁉︎」
「もういい加減にして、ルー………」
「レイ、このビッチの言う………何のプレイ?」
続いて入ってきたルーシィ、シルビア、シャルステナ。皆一様にロープでグルグル巻きで吊り下げられているギルクと、その前で木刀を持つ俺を見てタップリ一秒固まる。
「ち、違うから‼︎勘違いするな‼︎これはギルクが約束破ったお仕置きだから‼︎」
慌てて否定する俺。それに被せる様にギルクが
「そうだ!お仕置きと言う名のご褒美なんだこれは!邪魔するんじゃない!」
と言い、最後にやってやったと言う顔を向けてくる。
この野郎‼︎
「お前マジぶっ殺すぞ‼︎てか、それ自分も貶めてんだからな⁉︎」
「ハッ‼︎ち、違うぞ‼︎俺じゃない!レイだけがご褒美なんだ!」
「もう遅いんわ‼︎ボケェ‼︎」
自爆発言である事に気が付いたギルクは慌てて俺だけを蹴落とそうとするが、既に手遅れ。皆、俺がアンナに兄貴のパンツが欲しいと言われた時と同じ顔をしている。
「キッチックさんのせ、性へ……ご、ご趣味はそうなんですね。わ、私頑張ります!」
「違う!違うから‼︎頑張らなくていいから!」
何を言い出すんだこの子は⁉︎
そういう事はお姉様とやってくれ‼︎
「ルーシィになんか負けない!レイ、わ、私頑張るね!」
「やめてシャル⁉︎対抗しないで⁉︎」
頼むからシャルステナはそのままでいてくれ!
「あたしドン引きだわ」
「お前にだけは言われたくない」
「なんでよー‼︎」
掴みかかってきたアンナを木刀で一蹴。このままでは変態の烙印が押されそうだと、俺は必死に言い訳する。
そんな言い訳をたくし上げる俺にシルビアが一言。
「ご自由に」
そう言って、シルビアは何処かに行ってしまった。勘違いしたまま。
「ちょっと待てコラァーーッ‼︎せめて言い訳聞いてから帰れーーっ‼︎」
俺の叫びは虚しく宿に響くだけだった。
〜〜〜〜〜〜
『皆様長らくお待たせ致しました‼︎とうとうこの日がやって参りましたーー‼︎武闘大会本戦ーー‼︎』
『おおーー‼︎』
拡声器よりも大きな大歓声。今日までダラダラとやってきた武闘大会もとうとう大詰め。
本戦開始だ!
『武闘大会も残り7日!盛り上がっていきましょう‼︎』
ノリのいい観客達は再び大歓声を上げる。それに合わせて、スクリーンにトーナメント表を映し出した。
『本戦1日目‼︎第一回戦‼︎選手入場ーー‼︎』
闘技場の東と西に空いた穴から、完全武装の少年2人が出てきた。
「ディクと当たるのは決勝か……」
入場した2人には目もくれず、今初めて目にしたトーナメント表を目に焼き付ける。その横でギルクが必死にそれを書き写していた。
「さてと、俺も控え室に行くかな」
「あら〜、変態さんは早々と控え室に行って何をする気なのかしら?」
ニヤニヤと実に楽しそうに仕返ししてくるアンナ。
あの後、必死の説得であの場にいたシルビア以外の誤解は解けた。
それにも関わらず本家は俺の事をからかってくる。いい加減うざいので、ちょっと脅してやろう。
「いい加減にしねぇと、虫を大量に閉じ込めた隔離空間の中で一晩過ごさせるぞ」
「あっ、もうこんな時間!ちょっと失礼!」
大慌てで尻尾を巻くアンナ。一体どこに何をしに行く気なのやら。
「ったく、人の弱みを見つけたらこれだもんな。ヤクザか」
「相変わらず見事なまでの棚上げだな。いや、恐れ入った」
「黙れ。お前が俺を巻き込んで自爆したせいでもあるんだからな?」
何が恐れ入っただ。お前があの時いらん事を口走らなければ、あんな誤解は生まれなかったんだ。
お前もアンナと同じだよ。
〜〜
武闘大会の本戦は全7日に分けて行われる。今日は全64試合。明日は32試合と、予選を勝ち残った128名が毎日半分に数を減らしてき、最後に残るのは優勝者ただ一人。そして、その優勝者の所属校が武闘大会優勝校と言っても過言ではない。
優勝候補の3校の点差は0。今の所、同率一位だ。
依頼争奪戦まではうちが、この中で点数が一番低かった。一重に竜のせいである。
しかし、争奪戦を断トツで勝ち抜き一位をもぎ取ると、それにディク、シルビアのパーティが続き、総合点では同点となった。
『第7回戦!選手入場ーー‼︎』
控え室の闘技場側の扉がゆっくりと開かれた。
「よし、やるか」
装備は軽装。普段着に胸当てを着け、腰に差したオーガの剣に手を置きながら、ゆっくりと歩き出す。
後7回。
誓いを果たすにはもう負けられない。
『東に構えますは、騎士学校序列2位、ライザックーー‼︎あの瞬殺ボーイ、ディクルドに継ぐ実力派騎士‼︎対する西は、今大会の台風の目、キッチックーー‼︎彼率いるパーティは争奪戦で一億というとんでもない額を叩きだした‼︎さらにさらに!我々の調査によりますと、なんと彼はこの歳でB級冒険者の資格を持っているエリート冒険者‼︎やはりキッチックは只者ではなかったぁ‼︎」
調査って……監視してた時に見ただけだろ?
『両者共に申し分ない実力者‼︎これは熾烈な戦いが予想される‼︎あぁーー‼︎もう待てない!試合開始だー‼︎』
ドーン!
開始の合図と共に、全身重装備のライザックはその鎧に魔力を纏わせる。続いて、煌びやかな装飾の施された真剣にも魔力を通わせる。
「参る‼︎」
カッコをつけたのか、気合の篭った声でそう叫ぶとライザックは一歩踏み出した。ガシャガシャと鎧がぶつかる音を立てて接近するライザックが、剣を真上に振りかぶった。
「もらった!」
剣は抜かず腕を頭の上でクロスしただけの俺に、勝ちは頂いたと宣言したライザックは、力を込めてその剣を振り下ろす。
パキッ
甲高い音の音の後に、石が割れた様な音がなった。そして、数秒後に剣先が地に落ちて転がった。
「なっ⁉︎」
「悪いな。もう手加減はやめだ」
振り下ろした剣が真っ二つに割れ、先がなくなった事に驚愕するライザックに俺は殴りかかった。
魔力強化した鎧よりも硬い拳が、高そうな鎧を見るも無残な程に変形させ、砕いてく。
「くっ」
鎧から伝わる振動に我を取り戻したライザックは呻き声を上げなら、横薙ぎに折れた剣を振るった。
俺はその悪あがきの様な、一撃を肘と膝でサンドイッチし、叩き折る。
「なっ、やめ…」
「ハアァ‼︎」
武器を破壊され、恐れからか一歩下がったライザックに、腰を落とした一撃を入れる。それは最後に残った綺麗な鎧の部分を粉砕し、腹へと突き刺さる。
「グヌッ!」
鎧をなくし、腹を抑えヨロヨロと下がったライザック。俺は逃さないとばかりに無防備な顔面へ流れる様なハイキックをかました。
「ほっ」
「ガッ……」
グルっと白目を向いて崩れ落ちたライザックは、蹴られた部分だけ兜が砕かれ、半分だけ顔を覗かせていた。
『圧倒‼︎圧倒的な強さだ!勝者キッチックーー‼︎』
〜〜
「よくやったレイ‼︎それだ!それでいいんだ!俺はそれを待ってたんだ‼︎手加減など、ツバつけてその辺の道に捨ておけ‼︎それでうちの優勝は確定だ!」
「うるせぇ、抱き付こうとすんな。俺に抱き付いていいのはシャルだけだ」
グイグイと興奮気味のギルクの頭を押し、ハグを回避する。ついでにシャルステナにハグしてくれないの的な視線を向ける。
「もう、ちょっとだけだよ?」
しょうがないなぁといった感じで言った割には嬉しそうなシャルステナの体を優しくハグする。
「おい、アホ」
「なんだ、今いいとこ…」
シャルステナの柔らかさを堪能していると、ギルクの苛立ちの篭った声が聞こえ、目を開けると……
「ギャァァァァア‼︎」
タバスコがあった。
「レ、レイ⁉︎」
「目がぁぁぁあ!目がぁぁぁあ‼︎焼けるぅーー‼︎」
俺は目を抑え床を転げ回る。
「水竜ぅぅ‼︎」
「ええっ⁉︎」
慌てて水竜を作り出しその中に飛び込む。そして、目を開け激流で目を洗い流す。
バシャッ
「ハァハァ」
「だ、大丈夫レイ⁉︎」
「ギルクぅーー‼︎テメェ、ぶっ殺す‼︎」
「逃げたわよ」
逃げ足の速い奴め‼︎
「くっくっく、俺と鬼ごっこか?はっはっは、上等だこのボケ‼︎タバスコが空になるまで穴という穴にぶち込んでやらぁぁぁあ‼︎」
「えっ、ちょっとレイ⁉︎」
その日、雲の中に隠されていた城が滅びる時に聞こえた悲痛で、耳を覆いたくなる様な悲鳴がガルサムに響き渡った。
〜〜〜〜〜〜
本戦5日目。
手加減をやめた俺は順調に勝ち進み、ベスト8進出を果たした。
今日の相手はシンゲン。とうとうこの日がやって来た。あの日負けてから、ずっと待ち焦がれていた。
今こそ、あの日の負けを返そう。今度は制限も手加減もなしで。
『因縁の対決‼︎予選で激突した2人の因縁の対決だぁ‼︎前回は、魔力を思うように使えなかったキッチックが負けを喫したが、今日は違う‼︎制限がなくなり解放されたキッチックをシンゲンは止める事が出来るのか⁉︎そして、この対決の勝者はどっちだ⁉︎』
開始位置でお互いに笑みを浮かべ向かい合う俺とシンゲン。
開始合図の銅鑼の音が、闘技場全体に響き渡った。
「まさか再度剣を交える機会があろうとは、拙者思いもしなかったでござるよ。キッチック殿の実力を見誤っていたでござる」
「俺の実力というか、相棒の力みたいなもんだけどな」
開始の合図と共にゆっくりと歩み寄りながら、言葉を交わす。
「ははっ、そう謙遜なさるな。竜をテイムするなど、他の者には出来ぬ所業。それもキッチック殿の実力でごさるよ」
「そんな褒められると照れるな。けど、煽てられても勝ちは譲らないぞ?」
これから戦うとは思えない程穏やかに、だけどそれでいて相手から一瞬たりとも目を離さない。
「いらぬ世話でござる。勝利は自分でもぎ取るでござる。改めて始めるでござるよ。本気の試合を!」
それが俺たちにとっての本当の開始合図。
お互いの間合いが重なった瞬間、抜き身出た刃が抜き放たれる。シンゲンは風を切るような抜刀術で、刀を抜くスピードに膂力を乗せた一撃を。俺は腰の回転を乗せた強烈な一撃を叩き込む。
ドガッ!
お互いの剣が交差した瞬間、地面にめり込む4つの足。踏み込みと、お互いの剣の衝撃に耐えきれなかった地面がまるで豆腐のように俺たちの足を飲み込んだ。
それは銀線が重なる毎に深く、広く地面を砕いていく。
「見事!見事!本気の拙者とここまで刃を交わせる事が出来た相手に出会ったのは二度目でござる!」
「そりゃどうも‼︎俺は、えっと、5人目ぐらいだ!」
シンゲンへの対抗心から似たような言葉で返そうとしたところ、咄嗟に数が思い付かなった。結構な数に今まで出会って来た気がする。
「やはりキッチック殿は一筋縄ではいかぬでござるな」
「こっちのセリフだよ!魔爆!」
一瞬、出来た間に俺は魔爆を打ち込んだ。それをシンゲンは真っ二つに切り裂くと、飛び退いた。
切り裂かれた魔爆玉は掻き消えた。
くそっ、なんなんだよこのスキルは。
「その技は前に見たでござる。そんなものでは拙者は倒せぬ。今一度言おう。拙者は魔力を切る。如何なるものであれ、それが魔力であれば全て無効化出来るでござる」
「道理で補充してもしても、魔力が消えるわけだ」
厄介極まりないな。充填した魔力さえ無力化するとは……
魔装なんかシンゲン相手には何の意味も持たないだろうな。厄介なスキル持ちやがって……
そんな事を思いながらも、俺はどうしようもなく興奮していた。敵は強ければ強い程燃える。
「来い」
俺はばっと剣を持っていない左腕を突き出した。火の渦が俺を包み込み、猛々しく燃え上がる。やがてその収まる事のない火は一つに凝縮される。
「炎風剣!」
荒れ狂う火は突き出した左手に収まる真っ赤に燃える剣の内に閉じ込められた。
「この場で、魔法とは……何かあると見て臨むべきでござろうな」
「さぁ、どうだろうなッ」
二振りの剣を携え、俺はシンゲンに迫る。
先のシンゲンと俺の打ち合いは互角だった。剣と刀という使う武器は違うものも、腕前は互角と言っていい。
だけど、一つシンゲンは勘違いしてる。
俺の剣は、型にはまらない自由自在の剣。純粋な剣の腕ではディクには敵わない。それでも、競い合ってこれたのは、俺の剣術が剣一本だけで戦うものでなかったからだ。
オーガの剣でシンゲンを止め、左の燃える剣で斬りつける。
時にはそれは拳。
また時には魔法。
そして、今使うのは二刀流と……
手数が二倍に増え、刀だけでは対応しきれなくなったシンゲンは、その身を激しく動かし、紙一重でかわしていく。
「くっ、手数かッ」
「それだけかな?」
シンゲンの剣に触れないように注意しながら、着実に裂傷と火傷を刻みこんでいく中、俺は力任せの一撃でシンゲンの刀を弾き飛ばす。その衝撃で、シンゲンは刀を手放しはしなかったものも、大きくその上体を仰け反らした。
「固定!」
「むっ‼︎何をしたでござる⁉︎」
すぐに刀を戻そうとしたシンゲンの腕を固定した。
「ゼロ距離なら無効化できないだろ?」
「万事休すかッ」
そうシンゲンは驚愕混じりにおののきながらも、俺が何をするかは予想していた。
「喰らえ、鳳凰‼︎」
俺はシンゲンに向かって炎風剣を放り投げ、自分は瞬動で慌てて離脱する。
抑えをなくした火の嵐が刃となってシンゲンに襲いかかる。
それはかつて魔王に使った足止めとは似て非なるもの。ただでさえ馬鹿みたいに込めた魔力のせいで上級魔法に匹敵する威力を秘めた魔法が圧縮されその威力を増して襲いかかっているのだ。
その攻撃を防御する事も叶わず生身で受けるシンゲン。死にはしないと思うが、かなりのダメージを受ける事は免れないだろう。
十数秒経っても治らない炎刃の嵐が突如掻き消えた。魔爆を真っ二つにされた時と同じように。
「時間切れか」
俺はそう呟くと、剣を構え直す。
固定空間には時間制限がある。それは反転も、反発も同じだ。
およそ10秒。普段は一瞬しか使わないからそれに困る事もないが、今のような場合には物足りなさを禁じ得ない。
魔法の残滓で姿が見えないシンゲンの影を探す。
どこだ?
ジリジリと緊張感が高まる。汗が頬を伝い地面にポツリと落ちる。
それは突然だった。
立ち込める土埃と燃えカスの山に穴が空いた。まるでそこを何かが猛スピードで通過した後の様な穴には、何もいなかった。
シンゲンの姿どころか、虫一匹見当たらない。
ドバッ!ドバッ!
その一瞬後鳴り出した連続的な音。その音のした方向を見ると、地面に小さな穴が空いていた。
「なんだこれはッ」
シンゲンが何かしているのは間違いない。しかし、この断続的に続く音と、シンゲンの姿が見えない理由の関係性をすぐには見抜けなかった。
そうこうする内に音はより近くに、破壊痕はまるで円を描くようにして俺を翻弄する。
考えろ!
煙の中に突然出来た穴。連続的な音と何かが踏みしめた様な跡。そして、消えたシンゲン。
これには何か関係が……
俺は唐突に以前の戦った時の事を思い出していた。
シンゲンの最後の攻撃、あれも俺の目には映らなかった。
だけど、あの時シンゲンは俺の背後に移動していた。
つまり、これは……
「トルネード‼︎」
空に巻き上がる突風。それは発動した俺をも巻き込み、竜巻となる。
そして、それは高速移動中であったシンゲンをも巻き込んだ。
「見破られたか‼︎」
そうグルグルと渦巻く風の中でシンゲンは何故か嬉しうに叫ぶ。すでに服はボロボロ。上半身は裸で、下半身の服も半分以上が黒焦げ、なくなっている。その合間から覗く体は無数の火傷と裂傷の跡。
「だが、魔法である以上拙者には通用しない‼︎」
そう言って、無造作にシンゲンは竜巻を切った。そして、そこから切り開かれるように風が収まり、穏やかな空に戻っていく。
「知ってたさ。通用しない事は」
俺は口元に笑みを浮かべ、静かになった空に踏み出した。
「ぬかった!それが狙いでござるか⁉︎」
そう俺の狙いはシンゲンの動きを止める事ではない。空へ、俺の領域に招待する事が狙いだったのだ。
「借りは返すぞ!シンゲン!」
太陽に重なり眩しく光る俺をシンゲンは口惜しそうに口元を歪めながら、半眼する。
「瞬打‼︎」
真下に隕石よりも速く、人の目に止まらぬ速さで落下。その衝撃が魔装した腕にグンとのし掛かる。
「ガハッ‼︎」
「うおぉぉぉ‼︎」
気合いが口から迸る。俺の拳はシンゲンの鳩尾を捉え、勢いを殺さずそのまま塊となって地面へと落下。それと同時に鳴り響く轟音と土煙。
その中に俺とシンゲンの姿は飲み込まれた。
『ど、どうなったぁ‼︎一体何が起こったと言うのだろうか⁉︎決着か⁉︎決着がついのか⁉︎私もはやついていけませーん‼︎』
司会者が目まぐるしく変わる戦況に仕事を放棄し始める。そんな司会者の声にディクが声を漏らした。
「レイの勝ちだね」
「よ、よく見えましたね、あんな動き。私には何が何だか……」
おずおずと隣にいたアリスが、ディクの呟きに答えた。
「微かにだけどね。二人とも似た様な技を使ったんだよ。レイのは真っ直ぐにしか動いてなかったから多分瞬動。シンゲンのは、技名はわからないけど、仙気を足に纏ってたから気功の一種なんだろうね」
ディクの目には、シンゲンの動きが見えていた。この場の学生の中で彼とシャルステナだけが唯一見えていたのだ。目で追い続ける事は困難でも、捉える事が出来たのだ。
つまり、シンゲンの動きに反応する事も不可能な事ではなかったのだ。
『おおー‼︎立っているのはキッチックだぁーー‼︎』
立ち込めていた煙が霧散し、クレーターのように凹んだ地面から俺の姿が露わになる。そして、同時にその足元で大の字に倒れこむシンゲンの姿もクリアに見えるようになった。
「完敗、でござる、よ」
「そんな事ない。もう少し技の正体に気がつくのが遅れていたら負けてたのは俺だった」
「はっはっは……傷一つ、ないキッチック、殿に言われても、説得力が、ない、でござるな」
かもしれない。
危ない場面もあったが、結果的に俺は無傷でその場に立っていた。それをシンゲンは言い訳もせずに受け入れていた。
それなのに俺が代わりに言い訳なんてするべきじゃない。
「今回は俺の勝ちだ。また機会があればやろう」
「望む、ところ……」
シンゲンはそう言い終えると意識を失った。満足気な表情を浮かべて。




