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9.学校に行こう

 

 ──俺は何をしたらいいのだろう?


 創世神の加護を受け、俗に言う進化というものをした翌日、俺はまずそれを考えた。


 ……というのも、俺は何か役目があってこの世界に来たのではないか、という仮定と推測に基いて、これ以外に方法ねぇ! と思い切った決断をしたわけだが。


 冷静になって考えてみれば、意識不明の状態で長い夢を見ている可能性もあるわけで。


 その可能性を考慮しつつ、されど万一の備えとして何でも出来る冒険者を目指すには、何か別の目的があってもいい気がする。一生懸命頑張って、何もありませんでしたは肩透かしというか、普通に辛い。


 それに、保険という意味でなくとも、万能な冒険者に俺はなりたいと思うのは、何でもかんでもやりたいからだ。


 人の限界? 世界の摂理? そんなものは知らん。


 それに縛られ、窮屈な生き方はもうしたくない。鳥籠に逆戻りだけは本当に勘弁だ。俺はここで、やりたいことを自由にやらせてもらう。


 ……と言いながら、俺はそのやりたい事を漠然としてしか捉えきれていないわけで。


 万能な冒険者なると目標を定めたまではよかったものの、それはどこまでいこうと手段である事に変わりはない。言ってしまえば、要求される強さ、技、知略などそういったものを一括りにして、必要なものを兼ね備えようという話だ。

 だから、その手段を活かせるような夢を見つけたい。


 しかし、そこは俺も男の子。どうせ目指すのなら世界一のと前に付けたくなってしまうのである。


 夢は大きく、目標は高く。

 目標が高ければ高いほどに、夢は広がっていくのだ。

 逆に、夢が大きければ大きいほどに、必要とされる目標値は高くなる。

 それらの相乗効果が大切なのだ。


 世界一万能な冒険者──それはきっと、世界で一番自由な冒険者に与えられる称号であろう。如何なる未知に対しても妥協せず進める柔軟さと、この厳しい世界を生き抜く強さを併せ持った冒険者。

 そういう未来像を俺は描いているのだ。


 しかしだ──何をすれば、世界一自由な冒険者になれるのだろうか?


 これでようやく文頭へと繋がったが……何にも思いつかないのだ。そもそも、基本的にシエラ村の中で生活圏が終わっている俺に、世界一自由な冒険者になる方法を思い付けというのが無理な話だ。現状、俺の世界は村の柵で終わっていると言っても、過言ではないのだから。


 そこで、登場するのが【冒険者の夢】とタイトルを打った一冊の本。先日、ガバルディで駄々を捏ねて手に入れた一品だ。

 タイトル的に、きっとこれには全ての冒険者が目標とするような事が書かれているのだろう。


 そんな事を思いながら、俺は本を開いた。



『──冒険者。


 この言葉を聞いて、この本を手に取った君は何を思い浮かべるだろうか?


 危険に身を置く仕事をしている者、世界を旅する者、依頼を受け凶悪な魔物から守ってくれる者、野蛮な行為をする者など、各人の印象を挙げればキリがない。


 しかし、それらは真実を示してはいない。


 己が力を誇示したい者もいれば、生活のためという堅実な目的を持つ者もいる。かと思えば、世界を旅したいだけの流浪の民や、魔物から人々を守るためという正義を掲げる者もいる。


 冒険者の意味は広義的で、1つの枠に収めるのはとても困難だ。


 しかしながら、敢えて1つの枠に収める事を強要するのなら、冒険者とは夢見る者たちだと、私は答える。


 何故なら、それは誰しもが持つものだからだ。何も冒険者に限らず、街の中で暮らしている者も、誰しもが夢をみる。


 しかし、危険を冒す時、人は大きな勇気を必要とするものだ。それも自らそれに飛び込んでいくのなら、尚の事、大きな理由がなければ人は動けない。


 ならば、その理由とは何から生まれてくるものなのか。


 決まっている。人が持つ夢だ。夢なくして、人は危険に飛び込めない。もしそれがない者が飛び込めば、たちまち命を落とす事だろう。冒険者は常に命懸けの仕事だ。


 そうして自然淘汰され、残る本物の冒険者は、夢を抱く者達だけである。


 おそらくこの本を読んでいるという事は、君には冒険者になる気が少しはある、あるいはもうなっているのだろう。

 だが、冒険者の先輩として、夢がないのなら、冒険者として生きるのはやめた方がいいと、ここでアドバイスしておく。それが生死を分ける最低ラインだ。


 しかしながら、まだ決めかねているだけなのなら、これを読む君に、1つの道を提示しよう。


 私は、既に引退した身だが、かつては世界の秘境を巡る事に情熱を燃やしていた。


 その中でも世界最高峰の秘境──俗に、七大秘境と呼ばれる場所を巡るのが、私の夢だった。


 だったというのは、既にそれが出来ない体になったからだ。そう、私は夢に敗れた者だ。


 私が行けた場所は、竜の谷、世界樹の森、迷宮、神の塔の4つ。しかし、その奥へと辿り着くことはついぞ出来なかった。

 さらに、空島、死の都、幻影島と呼ばれる場所は、この目で見る事すら叶わなかった。


 それ故に、ここに私の夢を記す。願わくば、これを読んだ君が代わりに私の夢を果たしてくれる事を願って、私の知る全てをここに書き残そう』



 ──序章。


 そう書かれた章を読み終えた俺は、食い付くように持っていた本を、ゆっくりと下ろした。


「……これだ」


 少し予想していた内容とは違ったが、読み終えた俺の中にあったのは、心地良くも何とも我慢ならない興奮だった。


「これだよ、これ! こういうのを待ってたんだ!」


 七大秘境の文字を読んだ時、全身に駆け巡った猛りと震えは、筆舌にし難い。

 序章を読み終えただけだが、その過酷さが伺える内容と未知の領域を感じさせるネーミングは、俺の心をピンポイントに揺さぶった。


 俺は、興奮冷めやらぬままに、本に再び顔を近付け、時折挟まれる作者が実際に辿った道順を示した地図や、その道中出会った危険な魔物の絵などを読み飛ばしながら、それぞれの秘境について詳しく書かれたページに、ザッと目を通した。


 そこに書かれていた内容は、実際に行った4つの秘境には、地図は勿論のこと留意する点などかなり詳しい事まで書かれてあり、残る3つについては文献などを紐解いた結果得られた情報を事細かに記してあった。


 そして、最後の章には、命辛々逃げ帰って来た作者の経験談と、それによってもう冒険者を引退せざるを得なくなった事が、彼の無念と共に綴られており、生半可な気持ちでは挑まないようにと念押しされてあった。


 だが、最後の一段落。序章にもあったように、彼は願っていた。


『これを読み、七大秘境へ挑戦する危険性を知った君へ。

 それでも、挑むというのなら、私は止めはしない。勇気ある選択と賛美しよう。そして、預けたい、私が果たせなかった夢を。

 一度でよかった。その場所に、その奥に、何があるのか知りたかった。結局私は、どの秘境も途中で断念せざるを得なかったが、君は私とは違う結果になるかもしれない。


 それを、期待し、応援し、締め括る事にする』


 そう、本を読んだ者へ夢を託して、文章は終わっていたが、その下には本を書きしたためた日付けだろうか、100年以上前の日付けが書かれてあった。


「生きてたら、直接話を聞いてみたかったな……」


 さすがにもう生きてはいないだろう。それが少し残念で、虚しさが胸に落ちたが、俺はパタンと本を閉じると、顔の前に掲げた。


「七大秘境の制覇……世界で一番自由な冒険者に相応しいでっかい夢じゃないか。俺があんたの代わりにやってやるよ」


 そして、いつかその経験を綴って、この本の第2部を書いてやる。それが、俺に夢をくれたこの本の作者への手向けだ。



 〜〜〜〜



 冬が終わり、新しい春がやってきた。ホケェ〜と家でしておきたくなるような陽気な天候に、若干の寒さを残す気温。

 俺の体感では、そろそろ桜が咲く頃だろうか。まぁ、生憎とこの村にはないのだが、遠くに見える山がピンクの点々に彩られるところは、以前にも見たことがある。


 そんな新春の頃合いに、あと2年に迫った受験に向けて、ディクはさらに励むようになっていた。落ちたらどうしようなどと意味不明な不安に駆り立てられているらしい。受験ノイローゼのようなものかもしれないと、俺は暖かく見守っているが、逆に、7歳の子供向けの受験にどう失敗したら落ちるのか聞いてみたい。


 俺は知ってるんだぞ。

 7歳どころか、倍の年齢差がある村の少年に、敬語で話されているのを。

 だって、鬼ごっこに混ぜてと言っただけで、ブルブル震えられて敬語で断れた時には俺もいたからな。


 その経験があって、何故受験に落ちるかもしれないと不安になるのか。

 ちょっと俺にはわからない。強いて言うのなら、ディクの不安要素は勉学だろうが、2年以上前から受験に備えている他の5歳児がそうそういるとは思わない。


 正直、あいつは馬鹿だと思う。


 でも、それを口にはしない。不安だと思うのなら、それがなくなるまでやればいいのだ。勉強も鍛錬も、やって後悔するような事にはな……った実例はあったが、まぁ周りが同じ騎士を志す子供ならば、むしろ頼もしいと思ってくれるのではないだろうか。

 きっと悪い事ではない。村の人達も、成人したあたりからは俺とディクにも普通に接してくれるし……


 しかし、生憎と俺は学校に行くつもりはないので、このまま村の子供達にはみられる生活を続けていくわけだ。

 ディクが早過ぎる受験勉強に入って、そろそろ1年。その予行練習は十分にやった。


 結論から言うと、超暇だ。

 改めて、この村には何もないのだという事を思い知らされた。


 だが、だからと言って本気で友達を作る努力をする気にはなれないのだ。純粋に面倒臭いし、特に彼らとやりたい遊びがあるわけでもないからだ。いまいち本気にはなれない。


 そんなわけで、さらに一人でいる時間が増えた俺は、それを有効活用して、オリジナル魔法を開発に勤しんでいた。


 ……というのも、数ヶ月前に買った魔法書を読んだ時に話は遡る。


【魔法の法則性】。

 そう、タイトルを打った本を書いたのは、マリス・リベルドという人物だ。本が出されたのも割と最近で、10年ほど前に書かれた本らしい。


 そして、気になるその内容だが、書かれてあったのは、世界への干渉の度合いと消費魔力の関係と魔法発動におけるイメージ過程の定式化、付録としてその考察に基づいて幾つか魔法が記載されていた。


 付録はいいとして、少し初めの二つについて、詳しく説明しよう。


 この世界は、創世の神によって生み出されたとされている。創世の神は、まず大地を、次に海を、そして、空気を、最後に人や木、亜人や動物など、数多の生命を創った。


 つまり、俺たちは創世の神の力の中で生きているのだ。


 ならば、創世の神が創り上げた法則へと介入する魔法に必要となる力──すなわち魔力は、書き換える事象の内容と規模に依存するのではないか、という理論に基づき、水を生み出し操る場合と、初めから存在する水を操る場合とで、対比的に魔力消費の大小が書かれてあった。


 結論を言うと、存在する水を扱う方が魔力消費は遥かに少ない事が、実証されていた。


 そして、次に魔法発動におけるイメージ過程は、初級魔法のファイアボールを例にして語られていた。


 俺の場合、ファイアボールを発動するには火の球を思い浮かべるが、火と球をバラバラに思い浮かべ、掛け合わせても発動する。その際、思い浮かべる順番を変えても、同様に。

 つまり──


 1.【火】→【球体】→ファイアボール

 2.【球体】→【火】→ファイアボール

 3.【火の球体】→ファイアボール


 矢印を時間の流れる向きとすると、このように書ける。これは、実際に本に書かれていたものをそのまま持ってきたが、さらに著者はこれをこのように書き換えていた。


 1.【火】+【球体】=ファイアボール

 2.【球体】+【火】=ファイアボール

 3.【火の球体】=ファイアボール


 矢印から式に書き換えると、1と2が本質的に同じものである事がよくわかる。この事からイメージ過程において、想像する順番はさして重要なものではなく、足し合わせられるかが重要であると言える。つまり、魔力操作が十分出来ているのに、発動出来ないというのは、それが上手くいっていないという事なのだ。


 さらに3だが、これは【火の球体】というイメージそのものに、【火】と【球】という要素を含んでいるから同様の魔法が発動する。

 さらに言うのなら、【火】は【熱い】や【赤色】といったさらに細かな要素へと分解出来る。それはまた、【球】も同様にだ。


 つまり、イメージの要素は合体していてもいいという事だ。そして、これこそが俺もオリジナル魔法を構築出来るかもしれないという発想の根底にあるもので、これはイメージ過程の簡略化が可能である事を示しているのだ。


 詳しく説明すると、このファイアボールのように、一般的にイメージ過程が単一、あるいは2つほどに少ないものは初級魔法と言われるのだが、中級魔法にもなると少なくとも3要素以上必要となり、上級魔法においては10要素以上が必要となるらしい。

 さらには、先ほどの理論から魔法の規模が大きくなるほどに、多量の魔力を同時操作する技量が必要となってくる。


 これがどれだけ難しいか。


 俺が中級魔法を中々上手く扱えない事からわかってもらえるだろうか。あるいは、魔法職が基本後衛で、長い詠唱を必要とするのが普通と言えば、どれだけ集中が必要とされるものかわかってもらえるだろうか。


 しかし、3のイメージの合成は魔法の難易度を一段階下げられる可能性を示唆している。これを応用出来れば、複雑な魔法をより効率的かつ容易に発動させる事も不可能な事ではない。


 そして、俺が何より感銘を受けたのは、このイメージ過程の定式化そのものである。

 これまでは見て覚えるを繰り返してきた俺だったが、そこに実際に必要な要素を書き出し何が足りないか考えるという行程が追加される事になったのだ。

 たったそれだけの事かと思うかもしれないが、実際にそのお陰で、中級魔法の習得が加速度的に進んだ。


 そんな時、ふと思い付いたのが、これらの理論を使えば、オリジナル魔法を構築する事も不可能ではないのではないか、というものだった。

 ひとまず、一から編み出すのは難しいと考え、必殺魔法の改良する事にした俺だったが、事は簡単には進まない。


 灼熱魔翔斬と名付けた魔法は、親父の技を真似た代物だ。しかしながら、あれは魔剣だから出来る剣技であり、魔法ではない。

 大きな違いを一つ上げるのなら、発動速度だろう。剣技のような名前ではあるものの、一応魔法ではあるので、魔剣のように剣を振るえば出るような仕様ではない。


 だが、理想としてはそれが望ましい。

 単純に考えて、好きなタイミングで何度もあの技が使えるだけでも、かなり強力な切り札となる。


 だが、どうやればそれが出来るのか。


 考えた末に、俺は魔法の剣を生み出してはどうかと考えた。

 そう、魔剣を、魔法で作るのだ。


 果たしてそんな事が可能なのかはわからないが、似たものなら作れる可能性はあると、俺は試行を重ねた。


 そんなオリジナル魔法の開発に精を出すようになったある日の事だ。


「最近、一生懸命魔法を練習しているようだけど、レイは、学校に行きたいの?」


 母さんにそんな事を聞かれた。


「違うよ、僕はただオリジナル魔法を作ってみようかなって」

「あら、そうなの? けど、行ってみたらどう?」

「どうして? 学校に行かなくても、ここで十分勉強出来るよ」


 学校は、ディクが目指すような騎士養成の学校から、一般の子供達向けのものまで、種類は沢山あるが、それに共通しているのは、7歳でしか入学出来ないという事。それから6年間に渡り、親元を離れ勉強や鍛錬に励む。

 そして、成人する2年前──13歳に卒業し、それぞれ学校のある地域で職に就いたり、生まれ故郷に戻って仕事を探したりするらしい。もちろん義務教育ではないから、行くか行かないかは自由だ。


 そして、義務でないのなら、俺は行く気がない。仮にも、公立の高校に行っていた俺が、小学生に混じって何を学べと言うのだ。


「どうかしら? レイにも知らない事や出来ない事はまだまだ一杯あるでしょう? 例えば、世界の歴史や地理。強力な魔法の使い方に、剣術や槍術。他にも、沢山レイが学ぶべき事はあるはずよ?」


 この世界での歴史や地理なら、自分で調べた方が早い。その前に文字の読み書きから教えられそうだ。

 魔法の使い方なら、すでに中級魔法に手を出している。むしろ早過ぎるぐらいで、母さんに新しい魔法を教えて貰った方が早い気がする。


 しかし、剣術や槍術においては、一理ある。型を知れるなら学んでもいいと思うが、今更自分のスタイルを崩すのは少し抵抗がある。少なくとも、時間を無駄にしてまで積極的に学びたいとは思えない。

 相手だけなら、困るほどに強い親父がいるのも、行きたいと思えない理由の一つだ。


「ここにいた方が僕はもっと沢山学べるよ」

「もう……似ないでいいところまであの人に似て、頑固なんだから。仕方ないわね、本当は言いたくなかったのだけど……あなた、ディク君以外の友達いるの?」


 直球だなっ! いませんよ、友達は!

 ディクが学校に入学したら、もれなく一人ですが、それが何か?


 とは、もちろん言えず……


「……いないよ」

「そう、なら友達を作りに行ったら?」

「そんな事のために、学校に行くの?」


 この世界で学校はそう易々と行けるものではない。それは、学費が高いという事の他にも、場所的な意味でも。

 歩いて行ける距離に学校がある事など稀。殆どは入学と同時に寮生活だ。場所によっては、長い旅をしなければならない事もある。


 それでもいいと、本人の頑張りとその親の理解があってやっとこさ入学出来るところなのだ。そんな所へ、友達を作りに行くなど、不純な動機にもほどがある。


「僕はいいよ、別に。遊び相手は、こいつで十分だから」


 そう言って、剣と本を手に持った。そして、言ってから気が付いた。


 あれ、これって植物が友達と言ってる奴と同じじゃね?


「……行きなさい、学校に。そうしたらきっと、あなたにもきっと友達が……いえ、必ず出来るわ」


 涙ぐむのは止めてくれ。俺が可哀想な子のように思えてきたから。

 いや、母さんから見たらそうなんだろうけれども……現実も何も否定出来ないほどにボッチなんだけれども。


 結局、その後母さんを説得することは出来ず、親父にもボッチなのだと報告されて、俺は学校に友達を作りに行くことになった。



 〜〜〜〜



 ボッチで何が悪いっ!


 そう、開き直った俺に、『ボッチ』という不名誉な称号が付与されてから、数日。


「ぐずっ……あいつら同じ村の生まれとは思えない。仲間意識はないのか、仲間意識は」


 子供なんて嫌いだ。


 汚名を晴らそうと、村のわんぱくボーイ達にちょっと木剣を持ってチャンバラしようと言ったら、泣き叫んで逃げられるし。

 これなら興味が湧くだろうと広場で遊んでる子供達の目の前で魔法を発動させたら、軽くパニックが起きたし。

 ならばと、最近芸術家スキルなるものを修得し、もはや一流の画家レベルと今噂の俺が、渾身の出来と自負して女の子に似顔絵を描いて持って行ったら『あたしこんな顔じゃないって』言って泣かれるし。


 もう俺はこの村でやっていけません。心が折れました。

 だから、出て行きます。


 そう、村中の子供達に泣かれ、親からお叱りを受けた俺は、大人しくこの村から出て行く事を決めた。


「でも、どこに行こ……」


 母さんから教えられた学校の候補は3つあった。

 ディクが目指している騎士学校。

 数多くの有名な魔法使いを排出してきた魔法学校。

 貴族から平民まで分け隔てなく通える王立学院。


 どれも世界的に見ても特に有名な学校らしい。世界中から有能な子供達が集まってくるとの事だ。極論友達を作りに行くのならどこでもいいのだが、ひとまず騎士学校は、そのまま騎士に繰り上げされる事になるらしいので、除外だ。


 次に魔法学校だが、これも除外。他国なため遠いし、名前からわかるように魔法をメインに教える校風だからだ。


 故に残るは、王立学院。徒歩2週間の距離かつ、校風は生徒の自主性を重んじるものらしい。何でも、入学の三年間で基礎をたたき込み、その後三年間は大学のように自分で授業を選択していく事になるのだとか。


 まぁ休みに村に戻って来れる事や、自分の学びたい事だけを学べる環境という事を考えると、ここが一番マシではなかろうか。単なる消去法でしかないが……


「……受験勉強かぁ……やだなぁ」


 もうこの世界に来てからの事を考えると、10年近く昔の話だからか、どんな風にというのはよく覚えてないが、嫌だった覚えはある。

 それがまた、と考えるとどうしても嫌気が刺してしまうが、よくよく考えてみると、特にする事は何もないのでは、と思った。


 何故なら……


 剣術→子供が泣いて逃げ出すレベル。

 魔法→パニックが起きるレベル。

 勉学→小学生向けのテストに落ちたら普通に泣くよねのレベル。


「あれ……俺何したらいいんだ?」


 俺は困り果てて、受験生に聞いてみた。


「まず、言葉を覚える事だよ!」


 とてもドヤ顔で言われた。


「物の名前や地名が問題だから、それを覚えて、書けるようにならないとね! 僕が教えてあげてもいいよ?」


 とても勝ち誇ったような顔だった。

 とりあえずディクが親父さんに出された問題に全て正解を書いて、俺は家に帰った。


 それから数時間後、ディクに勝負だと問題用紙を叩きつけられ、それが3時の恒例になったのはまた別の話だが、どうやら勉強の方でも俺は泣かないで済むレベルではあるらしい。


 それが確かめられ、俺はもういいかとこの問題を忘れる事にした。

 それよりも、オリジナル魔法開発だ。


 せっかく魔法書を読んで、発想を得たのだ。腐らないうちに仕上げたい。

 しかし、実際に目にした事があるか、ないかの違いは大きい。一口に燃える剣と言っても、蓄積がウリの灼熱魔翔斬とは違う。剣そのものが魔法だ。


 それも理想とするのは一撃ではなく、連続的使用が可能な一振り。まだ、そのイメージが固まりきっていない。


 今出来たのは、ただの剣を象っただけの剣。

 式に直すなら、【剣】+【火】=【火の剣】。まだ完成には程遠い。

 他にも、中級魔法のイメージ過程を参考にして、【火の刃】を生み出す魔法を作ってみたが、あいにく単発仕様で、理想には程遠い。維持出来ているという意味では、【火の剣】の方が理想には近い。


 そして、もう1つ別に問題がある。

 魔力操作が未熟な事だ。実は、とうの昔にスキルレベルはカンストしているのだが、それでも必要な魔力を集め切れていない。予想では、中級魔法を何発でも放てるだけの魔力量──上級魔法レベルの魔力消費を考えてはいるが、今の俺にはそれだけの魔力を扱う技量がない。


 母さん曰く、スキルレベルというのは、熟練度を数値化したもので、カンストしたというのはあくまで極めた言える最低段階。数値化されない熟練度を鍛える事が、本当に大事な事なのだと言う。

 だから、俺は自分自身まだ未熟なのだろうと考え、最近は魔法のイメージを式化していく傍、魔力操作を重点的に鍛えている。


 出来れば学校に入学するまでに完成させたいものだが、イメージの定式化と魔力操作の熟練度。この2つの課題をクリアしなければ、到底無理だ。

 そのため、鍛えるという意味でも中級魔法習得にも精を出すようになったが、これもなかなかどうして。


 俺は余り魔法の才能がないのかもしれない。困った事に。


 進化の時に短慮を起こさなくてよかったと喜ぶべきなのかは微妙なところだが、そんな風にオリジナル魔法の開発は、色々な点で困難を極めた。


 それでも諦めず、ああでもないこうでもないと何度も式を組み立て、スキルを磨いていくこと、1年──魔法の完成よりも先に、別れの日がやってきた。


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