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81.同郷者

本日3話目。

本戦までは無理かな……

その手前で、ラッシュは終わりそう。

「まさかお前、転生者ッ…」


 それは無意識のうちに口から出た。同じ空間系の使い手。それだけなら才能があるんだなで終わっていた。だが、アーシュの言葉から出た二つの単語が、俺の中で結びつき、転生者という単語を導き出した。

 俺の唖然とした呟きに、アーシュは泣きそうだった顔を驚愕へと変えた。


「何故それを…⁉︎」


 見開かれた目と口がそれが真実である事を語っていた。

 俺以外にも転生者がいたのか……

 またノルドか?あいつがアーシュを転生させたのか?


「俺も転生者だからだ」

「えっ……ウソ⁉︎あなたもなの⁉︎」


 驚きからか声を張り上げたアーシュ。俺はそれにビクッと体を震わせた。チラリとシャルステナ達の方を向く。

 シャルステナ達は真っ直ぐこちらを見ていたが、声が聞こえてはいないようだった。

 よ、よかった〜。離れてなかったら一発アウトだったかもしれない。


 俺はふぅーと安堵する。

 まだ俺は打ち明ける覚悟が出来てないみたいだ。それはアーシュも同じだったみたいで、俺と同じように目だけデュラン達の方向に向けていた。


「アーシュ、後で話そう。今は試合を」

「え、ええ、そうね」


 一言俺がそう言うと、アーシュは合意した。先に試合を終わらせる事に文句はないようだ。


「で、この状況から総合的に判断すると、俺の勝ちって事になるんだが……そこんとこどうよ?」

「私の負けでいいわよ。同じ転生者になら負けても文句はないわよ」

「さいですか」


 さっきまでの負けん気は何だったんだ。ここでまた一揉めあるかと思ったが、案外すんなりと負けを認めてくれたもんだ。



 〜〜


 その日の夜。仕組んだくじ引きでうまい具合にアーシュと見張りになった。

 話す時間を設けるためだ。お互い知り合いに転生者である事をバラしたくないと思っていたため、二人きりになる必要があった。


「もう話していいぞ。外には聞こえない」

「ふーん、壁があるみたいね」


 トントンと隔離空間で断絶された壁を叩き、アーシュは俺の正面側にある石の上に座る。


「さてと、何から話すか……」

「まずは向こうでの自己紹介からじゃない?」

「ああ、まぁそうだな」


 確かにアーシュが何処から転生して来たのかは気になるところだ。


『俺の前世での名前は日向嶺自。日本生まれだ。日本語はわかるか?』


 この世界の言葉で日本をどう言ったらいいかわからなかったため、日本語で話した。そして、話しながらアメリカ人とかだったらどうしようと思い、言葉がわかるか聞いた。


『もちろんよ。私も日本人だったから。名前は木村沙希。当時は19歳で、大学に通ってたわ』

『俺は17で高校生だった。通り魔に刺されてこの世界にやって来た』

『うわぁ、痛そ……私は車でボンよ』

『そっちの方が痛そうなんだが…』


 若干引くように顔を歪めたアーシュ。しかし、車でボンの方が痛そうだ。少なくとも見た目的には……


「まぁ、この辺りで自己紹介はいいだろ」

「もう戻しちゃうんだ。久しぶりに日本語使えて嬉しかったのに」

「そうだな。だけど、口が慣れてないせいか疲れる」


 元日本人だから発音やアクセントは完璧だったが、いかんせん口がついていかない。今はこちらの言葉の方が楽に喋れる。


「アーシュはいつ死んだんだ?ラノベとかだと偶に時代が違う所からの転生者と出会う事もあったけど……アーシュは何時代から来たんだ?」

「平成よ、平成。平成27年の12月18日」

「12月18日……」


 その日はいつだったか。

 年号は同じだったと思う。あの日は、学校に行こうとしていた。確か休み明けの月曜日。

 そういえば寒かったな。

 だんだん思い出してきたぞ。

 前の日、バイトで疲れて帰ってきたんだ。その時、確か来週はクリスマスかと、独り身の自分を嘆いた気がするな。てことは……12月17か18に俺は死んだのか。


「たぶん俺とほぼ同じ時に死んだんだな」


 俺の声は自分でも驚く程低かった。

 前世に未練はない。だが、自分の死んだ時の様子を思い出すというのは、気持ちの良いものではなかった。


 何気なしに地面を見詰めた。視界に映る焚火の火、禿げた地面の上に転がる小さな石ころ、そして、震える足。


 震えてる?

 誰が?

 俺…?


「ちょ、君大丈夫⁉︎」

「あ、ああ」


 俺は戸惑いながら笑みを浮かべた。

 俺は何に震えてるんだ…?

 死?


「あー、やめよ!死んだ時の話なんて」

「そうだな」


 アーシュは俺は気遣ってか、明るく話題を変えようと言ってきた。俺はそれに小さく頷く。もう震えは止まっていた。


「アーシュはこっちに来てどうだった?」

「それを聞くのは野暮ってもんでしょ。ピッチピチの女子大生だったのよ?多少は未練ってもんがあるわよ」

「ははっ、そうだな」


 アーシュは冗談めかして俺を励まそうとしてくれてるみたいだ。


「けど、私はこういうのに憧れてたとこあったからね〜。未練はあるけど、こっちの世界を楽しむ事に決めたわ〜」


 アーシュはそう言って、君はと聞いてきた。


「俺は元々未練はなかったなぁ。けど、転生した瞬間は勘弁してくれよと思ったな」

「何?あんな虐められたとかそんな口?」

「いや、そんなのはなかったけど……どっから話したらいいか」


 それを説明するには夢の話をしなければならなかった。それなしでは要領を得ない説明となる事は目に見えていた。


「俺は前世にいた頃、不思議な夢を見てたんだ。明晰夢っていうのが一番近いんだけど、どうも夢だと思ってた世界はここだったみたいなんだ」

「はい?どういう事?」


 アーシュは首を傾げた。

 やはり簡単には理解してもらえないようだ。


「どう説明したらいいかな……結構ややこしいんだよ。前世ですでに夢を通して俺はこの世界に来ていたって言ったらいいかな。アーシュはそういうのなかった?」

「ないわよ。というかそれって、眠ったら異世界に行くパターンの奴じゃないの?」


 あったな、そのパターン。それが一番わかりやすい。


「それそれ。そのパターンだ。それプラス転生したんだ。で、それをやったのがノルドって奴なんだ」

「ノルド?誰?」

「死にかけた時に声が聞こえた事ってないか?」

「死にかけた事自体ないんだけど……もう死にかけた事あるの?」


 アーシュはそう言って、前世の反省はないのかと聞いてきた。


「もう4回ぐらい死にかけたかな。10日前にも死にかけたし」

「君馬鹿じゃないの?逆に生きてる方が不思議なんだけど…?」


 信じられないとまるで珍生物を見るような目になったアーシュ。命は大事にねとの有難いお言葉まで頂戴した。

 そんな有難いお言葉に俺は言い訳させてもらう。


「仕方ないだろ。魔力暴走したり、S級とドンパチしたり、谷に落ちたり、バイク事故起こしたり、どれも仕方がなかったんだ」


 そう全て仕方ない出来事だった。予想だにしなかった事が二つと、やらなければならなかった事が二つ。

 特に後者は人の命がかかってた。どちらも最善を尽くした結果なのだ。


「半分以上君の不注意に聞こえたのは気のせい?」

「気のせい、気のせい」


 そう、例え死にたがりの称号を持っていたとしても。


「てか、今流しそうになったけど、S級とドンパチ?君何してるの?死にたいの?」

「誰が自殺志望者だ。あれはな、居た堪れない事情があったんだよ」


 このままでは手首にカミソリを当てる人という評価になってしまいそうだったので、一から捏造されたものではない真実を語ってあげた。


「うわぁ、あれってそんなやばい事件だったんだ。……ていうか、君まじで何してんの?」

「…………」


 わざわざ説明したのに俺に対する評価は変わらなかったようだ。いや、むしろ悪化してるかもしれない。


「前世でもこっちでも年上の私から言わせてもらうと、せっかく生まれ変わったんだから命は大事にしないとね」

「…………子供みたいな揉め事ばっかり起こす奴に言われたくないな」


 正論だった。どっちも。

 お姉さんぶっていたアーシュはうぐっと痛いところを刺されたと呻く。


「………だって、デュランが悪いのよ」

「子供か。俺からしたらどっちもだったよ」


 あの争いに意味はあるのか、そこんとこお姉さん(・・・・)に聞いてみたい。


「聞いてよ。デュランってね、ニブニブなのよ」

「見てたらわかる」

「でしょ?デュランに気付いて欲しいのに、先にハングやアルルにバレるし……君にも」


 なんだ?恋愛相談に話題が変わったのか?

 えっ?

 ノルドの事とか気にならないの?

 デュラン>転生に関わったかもしれない奴、なの?


 その後も出るわ出るわ。

 惚気ているんですか?と聞いてみたくなる。


「…なのよ。どう思う?同じ男として」

「知らねぇよ。しいて言うなら、幼馴染だからだとかそんな感じじゃないか?」


 こんな風な投げやりな答えになってしまうのも無理はない。俺としては転生者同士もっと色々話したいのだ。

 結局、アーシュがどうやって生きてきたかとか、ノルドの影があったかなど色々わからずじまいだ。


「幼馴染だから?いや、そこは逆に萌えるとこでしょ。幼い頃から好きあった男女が涙あり笑いあり冒険ありの旅を超えて通じ合う。萌えるわ!」


 一人で盛り上がるアーシュ。

 一方、幼馴染がディクという萌えてはいけないシチュエーションの中にいる俺は、その萌えてはいけない部分を頭の中で浮かべてしまい盛り下がる。


「……実際、そういう感じじゃないんだから、萌える以前の問題だろ」

「うぐぅ……はぁ、どうしたらいいのかな……」


 もう既に転生者全く関係ない話へ突入して久しい。元の流れに戻すのは諦めて真面目に答えてやるか。


「まぁ、見た所あいつはお前の事、女だと思ってないんじゃないか?」

「ひ、酷くない⁉︎もうちょっとオブラートに包んでよ」


 オブラート……オブラートか。


「男だと思ってる」

「同じよ!」


 同じか。オブラートって難しいな。


「ち○こ付いてると思ってる」

「下ネタ⁉︎」


 何?下ネタもダメなのか。


「男だと思いきや、やっぱり女だとは思ってない」

「意味不明よ!女として見てないでいいじゃない!」


 えっ?それでオブラートなのか?

 オブラートに包むって難しい……


「自分で言って余計悲しくなってきた……」

「まぁ、そう落ち込むな。要は女だと思わせればいいわけだ。俺に任せろ」


 俺は落ち込むアーシュを励ますように言った。清々しい笑顔にアピール光を添えて。


「君に任せるの不安しかないんだけど……」


 そんなアーシュの不安と共に、『アーシュ女化計画』が始まった。


 〜〜


「う、うぐぅー‼︎ぷはっ!こ、殺す気か⁉︎」

「うにゃーー‼︎」


 朝、悲鳴と言う名の目覚ましで目を覚ます。

 横を見れば、ゼェゼェと肩で息をするデュラン、とその手に頭を鷲掴みにされ、痛みに苦しむアーシュがいた。


「窒息死するとこだったぞ!」

「な、何よ。ちょっとだ、だ、抱き枕にしちゃっただけでしょ!そ、そんなに怒らないでよ」


 アーシュの豊満な胸に殺されかけたデュランは朝から怒りをぶつける。

 一方、アーシュは顔を赤らめつつも、必死に言い返していた。自分に100パーセント非がある事はわかってるが、認めるのは羞恥心が耐えられなかったらしい。


 あらら。抱き枕作戦は失敗か…


 〜〜


「今日のクエストの確認するぞ〜」


 朝の作戦は失敗に終わった。

 女の胸が嫌いな男はいないと、そこを前面に押し出した作戦だったのだが……恥ずかしさと緊張から力加減を間違えたアーシュによって失敗に終わった。


 とりあえずこれは毎日続けていくとして、遊ん……恋の応援ばかりしてはいられない。しっかりと本題の依頼をこなさなければ。


「この先にある沼地にドレッグが大量発生しているらしい」

「ドレッグ?」


 シャルステナは聞き覚えがない様子で、小さく首を傾げる。


 ドレッグは珍しい魔物だ。その生息域が限られている。その為知名度は低い。

 だが、限られた地域ではかなり頻繁に見かける魔物だ。


「特別強い魔物じゃない。沼地にしか生息しないから、足が取られないように気をつけてな」


 ドレッグの階級はA級。しかし、それは沼地での戦闘に限る。それ以外の場所で戦えば、強さはCにまで落ちると言われている程だ。

 簡単に言えば、沼地特化の魔物なのだ。


 〜〜


「ここだな」


 後一歩踏み出せば、沼地へと踏み込む位置で立ち止まり確認するように呟いた。

 眼前には濁った水ともドロドロした土とも思える地面が視界一杯に広がる。後ろを見ればしっかりとした固い土から草木伸びているのに、まるでここから先はアスファルトで舗装されていないかの様に景色が異なる。


 俺はしゃがみこみ泥に触れてみる。泥は柔らかく少し力を入れただけで深く手は沈み込んだ。


「うわっ、ドロドロ」


 足で踏みしめたら膝まで埋まりそうだなと顔を顰める。


「そんな顔するなら触らなきゃいいのに」


 シャルステナはどこか呆れた声で言った。


「うわー、うん…」

「言うな‼︎それは言うな‼︎」


 思った事をすぐ口に出すゴルドを大声を出して止める。だが、既に手遅れ。

 ゴルドが何を言うつもりだったか気が付き皆顔を歪め、後ずさる。しかし、俺は既にそれに触れていた。背筋が痒くなる。

 慌てて水魔法で手を洗う。


「……よし、切替えてドレッグを狩るぞ」

「って事はこの泥の中に足を入れないといけないの?」


 アーシュが汚物を見る目で泥を見詰め、嫌そうに言った。ゴルドが余計な事を口張ったせいだ。


「いや、俺がやろう」


 シャルステナもアーシュと同じく嫌そうな顔をしていた。こんな顔をされてしまっては仕方ない。半分はゴルドのせいだが、もう半分はこの依頼を選んだ俺にある。

 制限も取れた事だし、肩慣らしについでに俺が一人でやる事にした。


「ありがと、レイ」

「お礼はキッスでお願いしたいな」


 などとイチャついたら、


「私に対する当てつけかぁーー‼︎」

「うおぉぉ!あ、あっぶね」


 アーシュに蹴りとばされた。

 慌てて固定空間を使い、泥の上に立つ。ギリギリ触れない位置で、何とか汚物を避けた。

 ギリギリセーフと安心したのもつかの間。そこは既に泥の上。つまり…


 シャァァ‼︎


 ドレッグの縄張りだ。縄張りに入ったからか、それとも騒がしかったからかはわからない。

 ただ、泥の上に立つようにして佇む俺は既に包囲されていた。


「あわわわ!ご、ごめなさーい‼︎は、早く逃げてーー‼︎」


 まさかの事態に蹴りとばしたアーシュが酷く慌てる。

 サメのような背びれが、船の周りを囲むようにして、俺の周囲を旋回していた。数は軽く10は超える。

 この数のA級の魔物に囲まれた事などないであろうアーシュは、俺の身を心配し慌てていた。


 それはデュラン達も同様だ。自身が狙われているわけではないが、仲間が狙われている。だが、自分達が突入したところで結果は見えている。だけど、放っては置けないと、何をしたらいいかわからず慌てていた。


「い、今助けるわ!」

「や、やめろ‼︎お前じゃ食い殺されて終わりだ!」


 泥の中に足を踏み入れようとしたアーシュをデュランが両肩に手を回し持ち上げるようにして止めた。


「で、でも…‼︎」


 涙目でデュランを見るアーシュ。まだ知り合ったばかり。だが、この世界に2人としていないかもしれない昔を語れる相手。そんな相手が死にかけているのだから、どうにかしなければと彼女は思っていた。


「アーシュさん落ち着いて。レイに何かあれば私が動くから」


 シャルステナは笑顔を見せながら言った。

 見ればアンナとゴルド、そしてハクも何かあった時のため、いつでも飛び出せるように備えていた。それは俺の指示がいつ飛んできてもいいようにとの準備だったのだが、アーシュにはそう見えなかった。


「そうね。慌ててる場合じゃないわね。私に一つ考えがあるの。私がレイを助けに行くから、みんなは援護して」


 アーシュは落ち着いて考えた。今自分にできる全力で俺を助けなければと。

 そのためにシャルステナ達、皆の力を借りようと。


 そんなアーシュにデュラン達は任せろと気合を入れ、シャルステナ達は唖然とする。

 決定的に両者では、落ち着くの意味合いが異なっていた。


「ええっと、そんな必要ないと思うけど……」


 シャルステナはおずおずと意味合いの修正に乗り出した。


「大丈夫‼︎貴方も見てたでしょ?私なら出来るわ!」


 しかし、アーシュには届かない。


 そうこうするうちに、包囲網は縮まり、いつ襲ってきてもおかしくない状況に陥る。

 しかし、シャルステナの言ったとおりアーシュ達が俺を助ける必要なんてない。なぜなら……


「こい。リハビリついでに相手してやる」

 シャァァ‼︎


 俺の挑発に乗るかのようにドレッグ達は一斉に泥から飛び出してきた。


「逃げてーー‼︎」


 アーシュの悲鳴が鳴り響く。

 サメのような歯。しかし、体は鯨のように大きい。おでこから背中にかけて、泥を掻き分けるためなのか鋭く尖る背びれ。まるで金属の様な光沢を放つそれに触れれば、肉が切り裂かれる事は間違いないだろう。


 アーシュ達から確認できる俺の姿はそんなドレッグの大軍に埋もれ、視認出来ない。側から見ればいつ食い殺され、バラバラになっていてもおかしくない状況。


 しかし、俺にとってはこの程度ピンチでもなんでもなかった。むしろ、好都合。一度に相手出来て、一匹一匹やる手間が省けた。


「炎風剣」


 ブワッと巻き起こる熱の嵐、それは俺もドレッグも飲み込み収束する。真っ赤なマグマの様な色をした剣へと。


「炎風剣第二の型、火炎地獄‼︎」


 俺の周囲の沼に火柱が落ちた。真上に掲げた炎風剣がまるで噴水のように沼へと火柱を突き立て続ける。

 ブクブクと水は瞬時に沸騰し、泥は乾き固まる。

 そして、その中にいたドレッグは硬くなった地面に絡め取られ、身動きが取れなくなる。


 俺は剣を地面に突き立てると、大きく飛び上がる。


「炎風剣解放」


 剣型手榴弾のトリガーを引いた。


 ドドドォン‼︎


 大爆発。クレーターのように乾いた地面に大きくな穴を開ける。そして、そのクレーターに流れ込むように泥水が流れ込む。


「なっーー⁉︎」


 魔物の残滓が消え、何事もなかったかのように戻り始めた泥水に埋もれてしまう前に魔石と素材を魔法で集める俺を見て、アーシュは目玉が飛び出しそうな程驚いていた。


「よし、終わった、ぞ?どうした、アーシュ?」


 回収を終え固い地面に戻ってくると、アーシュが口をパクパクさせて、何か言いたそうにしていた。


「聞いてなーい‼︎君がこんなに強いなんて聞いてない‼︎何⁉︎何なの今の爆発⁉︎君おかしいの頭だけじゃなかったの⁉︎必死になって助けてしようとしてた私はなんだったの⁉︎穴に入りたい気分なんですけど⁉︎」


 言いたい事を叫び、アーシュは顔を隠した。隠れるための穴を掘ってあげた方がいいかもしれない。


「どうぞ、急設の穴倉だけどこれで勘弁してくれ」

「ありがとうございます⁉︎」


 アーシュは怒りながらも穴に隠れた。


「ヒーフーミ、うーん。ちょっと少ないな。もう一回行ってくるわ」


 集めた魔石の数を数え必要数に届いていない事がわかったため、じゃと手を上げ戻ろうとする。


「置いてかないでよ‼︎このまま放置⁉︎ノったはいいけど、出られない私の気持ちを察してよ⁉︎」


 穴から這い出て怒るアーシュ。


「察してるから行こうとしたんだが…?」

「放置プレイ⁉︎なんとかして私を穴の外に出そうと奮闘してよ‼︎」


 誤解を招くような言い方はやめてほしい。変態プレイなんかしてない。


「んじゃあな」

「この状況で行く⁉︎」


 今から別のところで奮闘するからな。

『待ちなさーい‼︎』と言う叫び声を追い風に沼地を駆け抜けた。


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