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79.アンナの異変

本日1話目。

今日中に本戦までいけるかな?


 何てことはない山だった。

 断崖山のように特徴的な形をしているわけでもなく、広大でも標高が高いわけでもない。小学生の頃に学校で登るような標高の低いなだらかな山だった。

 そう感じるのは山の中に道があったからだろうか。階段ではなく坂と言った感じの道が、山を横断している。


「楽な登山だな」


 その呟きにシャルステナ達は同意し頷いた。断崖山を登った事のある者からすれば、拍子抜けする様な山だ。断崖山は道などなく、魔物も沢山いる。一時期は特に。

 しかも、放置されているため、進むには草木を踏み分けて進まないといけなかった。その事を体験した身としては山を登っているという実感が湧かない。坂を上り下りしている様な気分だ。


「なんか思ってたより外って平和ねぇ」


 アンナはこれまでの旅路で出会った魔物を思い出し、殆ど疲れてさえいない事に思い至った。そして、それは想像していたよりも街の外が平和だったからと結論ずける。


「そうだよね〜、もっとやばい魔物がいっぱいいると思ってたよ〜。なんか寝そう」


 アンナの呟きにゴルドは同意。そして、眠気を訴える。平和だと意識したら、眠気を感じた様だ。

 欠伸を噛み込み殺し、目には眠気からくる涙を溜めて大きく背伸びする。


「寝るなよ?」


 俺はゴルドに釘を刺した。

 こいつは口に出して言っておかないと本気で寝かねない。幼い頃からの友達なのだ。こいつが本当にやりそうな事は想像がつく。


「こうも平和だとあんたらの仕事なんてないんじゃない?」


 アンナは頭の後ろで手を組み横目で見ながらデュラン達にニヤニヤしながらからかう様に言葉を口にした。


「逆に俺たちの仕事はあるのさ」

「そうそう。Aランクとかの人も仕事がないから、D級の依頼受けたりしてるしね」


 デュランとアルルがそれぞれアンナに向けて自分達の仕事事情を話す。

 するとアンナは今度は俺に標的を変えてきた。


「だそうよ?A級目前のレイさん?」

「そんな事ガキの頃から知ってる」

「今だってガキじゃないあんた」

「一々揚げ足とんな、変態」

「うるさい鬼畜」


 昔から変わらない言い合いをする俺とアンナ。

 なんだかんだこうして6年だ。今ではお決まりの様なものになっている。


「王都とかだとA級の依頼は腐るほどあるけどな。あちこちから飛んでくる。その分、日にちもかかるけどな」


 シャラ姐がよく居なくなるのはこれが理由だった。シャラ姐はしょっちゅう旅をしているのだ。

 バジルはデュラン達の言うDとかCばかり受けているAランク冒険者。タチの悪いことにA級の依頼がないわけではない。面倒がっていかないのだ。働いて飲んでまた働いて飲んでの繰り返し。

 いい加減あいつのケツをシャラ姐が蹴り飛ばしてもいいと思うんだ。


「ぐぅ〜〜」

「起きろ」

「いたっ!」


 俺とアンナが話している隙に、器用にも歩きながら寝ていたゴルドを叩き起こした。

 本当に人の言うこと聞かない奴だ。もうその事については改善を諦めた。改善させようにもその言葉を聞かないのだから無意味なのだ。


「たんこぶになるよ〜」

「知るか。それより、お前はどうなんだ?そろそろC級ぐらいにはなったか?」


 いつだったか、ゴルドと一緒に依頼に行った事がある。それは遊びの延長線上のようなものだったが、その時ゴルドは冒険者登録を済ませてあるのだ。

 それから何度か一緒に行ったが、俺の知らない間にも何度か一人で依頼に行ったりしているらしい。

 初めに行ったのはかなり前の事なので、そろそろCぐらいには上がったかと思って聞いたのだが……


「まだまだだよ〜。僕はのんびりいくからさ〜」


 とのんびりした口調で言われた。

 実にゴルドらしい。人に合わせずマイペース。こいつとパーティを組む奴は苦労する事だろう。


「のんびりいってたら、そのうち食えなくなるぞ?」

「あっ、そっか。急いでいくよ」

「なんか違う…」


 言葉のあやみたいなものだろうが、違和感を覚えた。


「ゴルドは俺たちと同じD級なのか!」


 デュランは仲間を見つけたように喜びの声をあげる。


「なら、卒業したら俺たちのパーティに入らねぇか?」

「僕はしばらく王都でのんびりするんだ〜。だから、やめとくよ〜」


 ゴルドにふられ、デュランは肩を落とし残念がった。

 有望株を仲間に出来なくて残念だったな。こいつはそういう奴なんだ。俺もふられた。

 俺は同じくふられた仲間としてポンポンとデュランの肩を叩いた。


「ゴルドの目的はアンナでしょ?」

「ばれたか〜」


 シャルステナの突っ込みにゴルドは悪びれもなく答える。アンナは若干照れて顔を背けた。


「ピィ」(頑張れよ)

「何様だお前」


 偉そうに上から目線でゴルドに言ったハクを軽く小突く。一方、それを気にした様子もなくゴルドは頑張ると力強く宣言。アンナはまた顔を背ける。


「あなた達余裕ね。こっちはいつサソリが出てくるかってドキドキしてるのに」


 胸を押さえ、横目で批難するかのように言ったアルル。

 しきりに周りに目を配りサソリがいないか確認しているようだ。


「レイがいるからね〜」

「こいつなんだかんだ便利だからね〜」

「テメェ、サソリの群れの中に放り投んぞ」


 俺はアンナをガチ睨みする。しかし、アンナはそれにあっかんべーと喧嘩を売ってきた。

 こいつ舐めてやがるな。


「いい度胸だな。サソリの針で全身串刺しにしてやる」

「今のあんたにやられるあたしじゃないのよ!」


 そうアンナは粋がった。制限ありの状態の俺には負けないと自信満々のようだ。あながち間違ってはいない。

 しかし、次の瞬間、突然アンナは吹き飛んだ。木々の生い茂る山の中に。そして、一幕後、アンナの悲鳴が木霊する。


「いやぁぁぁあ‼︎虫虫‼︎こっちくんなーー‼︎」


 俺は瞬動で舐めた小娘をゾッとする空間に蹴り飛ばした。そこはサソリの方がマシだと思えるほど、ウジャウジャと近寄りたくない生物がワンサカ湧いている場所だった。


「もう嫌ーー‼︎たすけてぇーー‼︎」


 助けを求める声に反応したゴルドがアンナ救出に向かう。


「待っててアンナ‼︎」

「はやくぅー‼︎いやぁ!中に入んないでよー‼︎」


 アンナの叫びを聞いていただけでゾッとしてきた。背中が痒くなって、思わずぶるりと体を震わせた。

 うわぁ、絶対行きたくねぇ。

 俺は救出に向かったゴルドを勇者を見るような目で見つめた。


「こらぁ!虫‼︎僕と代わってよ‼︎」

「ちがーう‼︎とって!とってよ‼︎」


 虫に嫉妬するゴルド。そんなゴルドに虫の恐怖に襲われながらもアンナは突っ込みを入れていた。


「ハァハァ、助かったわ」


 ヨロヨロと木の陰から出てきたアンナとゴルド。アンナはすごく気分の悪そうな顔でゴルドに支えられていた。


「アンナの肌スベスベで柔らかいね」

「⁉︎…………もう大丈夫よ」


 ゴルドのセクハラ発言に咄嗟に拳を握ったアンナだったが、助けてもらってそれはないだろうと拳を収め、自分の足で立った。

 そしてギロっと俺を睨む。


「あんたも行って来なさい‼︎」

「え⁉︎や、やめろーーッ‼︎」


 ヒュンと弾丸のようなスピードで俺を捕まえたアンナはいつも俺が彼女を空に放り投げるようにして、悪魔の溜まり場に放り投げた。


「っーーーー‼︎」


 今度は俺の声にならない悲鳴が木霊する。

 そして、その後に響く爆発音と地響き。そして、その爆風で木々がなぎ倒され、道から俺の姿が見えた。

 その様はまるで強敵と激戦を繰り広げた後の様な格好だった。


「ええっ⁉︎」


 シャルステナは皆を代表して驚愕の声を漏らした。

 なんであの一瞬でそんなボロボロにとその目は語っていた。

 慌ててシャルステナが飛んでくる。


「強敵だったが悪は滅した」

「虫相手にそんなボロボロになって言ってもカッコよくないよ!」


 俺が空に光る太陽に向けて、そう如何にも決戦後といった風に言うと、シャルステナは俺の傷を見ながら突っ込んだ。


 そうしてシャルステナが治癒魔法を唱える声を聞きながら、俺は思った。


 このお仕置きは封印しようと。



 〜〜


 厳しい戦いの後、しばらくあいつらには関わりたくないと急ぎ足で山を降りた。

 そのためまだ昼のうちに山を抜け街まであと少しの位置まで来た。その頃にはすでにデュラン達三人はゼェゼェ言っていたが、もう少しだからと励まし、一方で今日中に街まで行くぞとスパルタな発言をした。デュラン達は諦めたように苦笑いを浮かべていた。


 そうして、今日中に目的地テレリーゼに到着した俺たちは、1日の疲れを取るため宿を探す事を方針に中へと入った。


 テレリーゼの街は少し荒れている印象を受けた。

 王都の道のように石畳ではなく、剥き出しの地面。その上に放棄されたゴミが目立ち、動物の糞が落ちている。

 店は寂れ、人通りは少ない。開いている店からは粗暴な声が響き、乱闘する音が聞こえた。


 全体的に街は暗かった。

 それは街の明かりか、人の雰囲気か。自分自身もその雰囲気にのまれそうになる。


「ちょっとこれ、大丈夫なの?」

「……とりあえず宿を探そう。話はそれからだ」


 アンナは声量を落とし、少しビクついた様子で聞いてきた。俺はそれに答えを持たず、後回しにした。

 デュラン達に案内され、宿屋へと向かう間、俺はその答えを探していた。


 総合的に見て、雰囲気は良くない。

 それは一時的なものか、それともいつもこうなのかは初めてきた俺には判別はつかない。

 道には血のついたガラスの破片が散乱しているし、飲み屋と思われる店からは常に怒声や争う音が聞こえた。


「デュラン、ここはいつもこんな感じなのか?」

「ん?何がだ?」


 デュランは質問の意図がわからなかったようで、逆に聞き返してきた。


「いつもこの街はこんな雰囲気なのかって」

「雰囲気?何かおかしいか?」


 デュランは本気でわかっていない様子だった。俺はこいつに質問した俺が馬鹿だったと、影のリーダーハングに目を向ける。しかし、目を向けられたハングも本気でわかっていない様子で首を傾げた。


「……なんていうか、暗いだろ?」

「?夜だからじゃないのか?」


 抽象的に自分の感じた事を言うと、デュランが首を傾げまた聞き返してきた。

 何故伝わらないのか、不思議に思いながら再び問う。


「街の雰囲気だよ。街の雰囲気が暗いし、荒れてる。これはいつもの事か?」

「?暗いか?」

「いや、いつも通りだね。どこもこんな感じだよな?」

「うん。変な感じはしないけど…?」


 デュランはハングに、ハングはアルルに同意を求めた。

 そして、全員が何もおかしな事はないと言う。


「……なるほど。わかった」

「?何がわかったんだ?」

「いや、大した事じゃない。それより早く宿に案内してくれ」

「おう」


 疑問が解決した俺は道案内を促した。


 宿に着いた俺たちはデュランのパーティと別れ、4人一部屋をとった。

 部屋を分けなかったのは、念のためだ。

 しかし、これ以上大きな部屋はないと言うので、デュラン達のパーティとは別の部屋を取ることになった。


 そうして、部屋に入り荷物を置いてすぐ全員で向かい合った。


「とりあえず、みんなが感じてる疑問だけど、おそらくこれが普通なんだ。逆に、王都が良かっただけで」

「って事は、この街って危険?」


 アンナは不安そうに聞いてきた。

 単騎でS級と戦えるレベルの実力がある癖に臆病だな。

 そう感じたが、思えば俺たちはまだ13歳かそこらなのだ。世間一般ではまだ子供。いくら強くても不安を感じるのは仕方ないのかもしれない。

 そう軽く考え過ぎた。だから、何も考えず事実だけを口にした。


「どうだろうな。ただ、絶対貴族である事を名乗るな。金目的で狙われるかもしれない」


 その言葉を聞いて、突然アンナが顔色を変えた。顔を真っ青にし、体を震わせ、何かに怯え始めた。


「お、おい、大丈夫か?」


 普通ではないアンナの怯えように心配になり声をかけるも、震えは止まらない。それどころか唇までガチガチと言わせ不安、いや違う。これは恐怖だ。アンナの目には恐怖の色があった。


「アンナ、大丈夫。大丈夫だよ」


 シャルステナはアンナを優しく抱き締め、背中を撫でた。そして、優しく語りかけた。そこにはアンナが何に恐怖しているか知っているかの様な落ち着きがあった。

 そして、シャルステナに便乗するようにハクがアンナの肩に乗り、ペロッと頬を舐める。ハクなりに慰めているのだ。


「そうだよアンナ‼︎アンナの事は僕が絶対に守るから‼︎」


 ゴルドはアンナの手を取り、その恐怖を取り除こうと力強く宣言した。


 二人の励ましが効いたのか、それとも二人と一匹の体温に安心したのか、少しずつアンナは震えが収まっていった。それでも顔色は悪い。


「今日は俺が一晩見張ってる。安心して休め」


 俺はアンナの体に触れて励ます事はしなかった。シャルステナの手前そういうのはどうかと思ったし、何に怯えているのか定かではない今の俺では、また同じ轍を踏みかねない。

 だから、せめてその恐怖を和らげようと、見張りを提案した。


 アンナはそれに震えながらも弱々しく頷く。その目にからは涙が流れていた。


 〜〜


 テレリーゼの夜は静かではなかった。時折激しく争う音が聞こえてくる。

 そんな中、アンナはシャルステナに慰められながら眠りについた。シャルステナはアンナが眠りについても離れず、同じベッドの上で眠った。ハクもアンナの耳元で一緒に眠っていた。


「ゴルド、お前も寝ていいぞ」

「ううん。起きてる。僕がアンナを守らないと」


 ゴルドはまだ起きていた。俺が見張ってるから眠っていいと言っても頑なにそれを拒否して、自分がアンナを守るんだと力強い目をして、窓から外を見回していた。


 俺はそれをベッドの上で座禅を組みながら見ていた。

 見張りをサボっているわけではない。空間を街全てに広げ、死角をなくし、全てを見ていた。

 街全てを覆う空間内の全てを見張るのはかなりの集中を要する。

 街の中で起こる些細な物の動きも全て感じ取る事が可能だ。


 だが、その中から、必要なものだけピックアップし、また不穏な動きがないか確かめる。とても脳の処理が追いつかない。普通なら。

 だけど、複数思考と思考加速、さらに集中によってかなりの量の情報を捌ききる事が出来る。

 それにより、見なくても見張りをこなす事が出来ていた。


 正直過度な見張りだ。確かに街の中で争いは起きている。だが、それが俺たちに飛び火して来る事はないと言い切れる。ここは飲み屋からは離れてるし、この辺りにそういった店はない。

 道に怪しい動きをする奴もいるが、わざわざ宿の中に忍び込もうとする様な奴はいなかった。


 だが、手を抜く様な事はすべきではないと思った。だから、真剣に、全力の探知で見張りを続けた。

 ゴルドもその目に人が映る度に両手剣に手を掛け、警戒していた。その目には終始熱がこもっていた。アンナを守り抜くという熱が。


 こんなゴルドの目を見たのは初めてかもしれない。何事ものんびりダラダラと取り組む奴が、好きな女の子のためならここまで変わる。

 恋は盲目と言うけれど、ゴルドの場合はちゃんと自分のやる事に向き合い必死になっている。

 俺はこの時こいつの恋を心から応援したくなった。


 〜〜


 朝になった。

 夜は騒がしかった街が朝は静まり返っていた。怒声も争う音も聞こえない。

 俺は今がいいとアンナ達を起こす。


 目を覚ましたアンナは一瞬後、昨日の事を思い出したのか、顔を真っ赤にした。

 羞恥に悶えるアンナを見て、俺たちは人心地つく。

 一晩寝てだいぶ落ち着いたらしい。なら、今のうちに移動するかと考えたが、依頼の最中である事を思い出した。


「悪いけど、2刻ほど寝かしてくれ。何かあればシャル、頼んだ」

「うん。任せて」


 アンナが少し落ち着きを取り戻した事で、俺たちにも余裕が生まれた。今すぐに街を出る必要はないと判断した俺は、僅かな時間だけ寝させてくれと頼んだ。

 徹夜明けの状態ではいらぬ失敗をし兼ねない。少しでも寝た方がいいと思ったのだ。

 それはゴルドもだ。


 未だ気を張っているゴルドにも休息を取らせないと倒れかねないと、まだ見張りを続けるというゴルドを半ば無理やり眠らせる。

 それから、徹夜明けのフラッとした頭をベッドに寝し、しばしの休息をとった。


 眼が覚めると、デュラン達が自分達の部屋から俺たちの部屋に来ていた。

 寝ている俺とゴルドを気遣ってか静かにしていたが、俺が起きた事に気が付くと、もう気を使う必要はないなとばかりにすぐに騒がしくなった。

 その声でゴルドも目覚める。


「おはよ〜」


 ゴルドは起きるとすぐにアンナを見て、いつも通りの笑顔を見せている事を確認し、自身も調子を戻した。


「悪かったわね、ゴルド。昨日は」

「いいよー。アンナの為なら僕はずっと起きてられるから」


 ゴルドが真顔で朝からそんな事を言うもんだから、アンナは照れて顔を背ける。そして、俺は『俺にはないのか?』という突っ込みを口の中で彷徨わせた。

 言うタイミングを逃したいうよりは、そもそもタイミングをもらえなかった。行き場をなくした言葉が口の中を彷徨っていた。


「なんかあったのか昨日?」

「うんにゃ、大した事じゃない。それよりこれからどうするか決めよう」


 大した事ではあった。アンナがあそこまで取り乱すなんて何事だと、今でも思っている。だが、それを会ってまだ間もないデュラン達に伝える気はなかった。

 今は落ち着いてるし、蒸し返す必要もなかった。


「そうだな。とりあえず俺たちはアーシュを探さねぇと」


 デュランは上手く流されてくれた。そして、自分達の本来の目的、アーシュを探す事をあげた。


「つまり、俺らもそれに付き合わないといけないわけか」


 まだ依頼は完了していない。デュラン達の目的は依頼には関係ないが、指導をする上では離れるのは得策とは言えない。

 俺はアンナを見た。正直アンナを連れて街を彷徨く事には抵抗がある。いつまたああなるかわからないからだ。

 そんな俺の視線に気が付いたアンナは首を縦に振った。俺はそれを大丈夫だからという意味で受け取る。


「とりあえず俺とデュラン達だけでギルドに行くか」


 だが、俺はアンナをここに残す事に決めた。無理をさせる必要はない。

 まずは俺とデュラン達だけで、アーシュの情報を探す。上手く見つかれば、そのまま指導の続きだとか何とか言って街を出る。

 そうすれば、アンナが恐怖で震える事は無いと考えた。


「了解だ。とっととアーシュを連れ戻しに行こう」

「ちゃんと謝ってくれよ、デュラン」

「そうよ。これ以上揉め事はごめんよ」


 三人はアンナ達を残す事に何の疑問も抱かなかったようだ。

 アーシュに対する思いには違いがあるだろうが、連れ戻したいという意思は同じだからだろうか。

 それ以外の事に多少無頓着になるのも仕方ないのかもしれない。


 そうして、4人で街へ繰り出す。おそらく事情を知っているであろうシャルステナに、アンナの事を任せて。


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