76.海の狩人
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自然の風が小さな土埃を残しながら、大地を吹き抜ける。バタバタと音を立てて揺れる木々。その揺れの大きさで、その実を大地に落とし、風に運ばせる。そうして、大きくなったライクの木から、新鮮もぎたての木の実を回収。全速力で馬車へと引き返す。
その途中、偶然見つけたウサギを二羽狩って、残す依頼はドーンワームだけとなった。
「何も起こらなかったか?」
「うん」
「そっか。じゃあ、またブラブラ歩くとしようか」
そうして再び行く宛のないブラリ旅が始まろうとした時、耳に地鳴りの音が微かに聞こえた。
「静かに!」
談笑していた仲間たちに、人差し指を口に当てて黙るように伝える。
そして、感覚強化で聴覚を強化し耳を澄ます。
ガッガッガッガッガッ
地鳴りのようなその音は確かに聞こえていた。何かを掘るような音にも聞こえる。
「シャルそこだ!」
「うん!ストーンアウェイク!」
詠唱を破棄したシャルステナの魔法が、荒野の地面に大きな穴を開けた。それは外部からの衝撃で開けたものではなく、内部から岩を幾つもを浮き上がらせ、堀開けた穴だった。大穴の真上に浮かび上がった岩。その下には、水を奪われた魚の様に足掻くドーンワームの姿があった。
岩石の雲は一時の停滞の後、空から降る落石となってドーンワームへと降り注ぐ。ドシャっと肉を潰す様な音が聞こえてくるが、穴が目隠しとなりグロテスクな光景に目を逸らす必要もなかった。
やがて岩の半数が落下した時、突如岩がドロッと溶け落ちた。
「火の記憶、赤く赤く岩を染め上げよ、溶岩の雨!」
ドロッと溶け落ちた溶岩の雨は、ジューと言う肉を焦がす音を上げ、さらにドーンワームの悲鳴と地鳴りが鳴り響く。リズムも音程もバラバラな音色をその穴は反響させるかの様に響かせ、奏でた。
やがて全ての岩が溶け落ちると、穴の表面は見事な程に平へと戻っていた。しかし、丸い溶岩の池にと材質は変化していたが……
「さすがシャルステナちゃん‼︎可愛いだけじゃないんだ‼︎」
「すげー‼︎溶岩なんか俺初めて見た‼︎」
「すごぉい‼︎シャルちゃん、魔法師だったんだ!」
デュラン達三人は初めてシャルステナの実力を目の当たりにし、興奮しきっていた。商人のおっちゃんは、驚いた様子だが、騒いだりはせずウンウンと満足顔で頷いていた。
一方、ゴルド達はもう慣れたもので、当たり前の様にお疲れとシャルステナを労う。俺はシャルステナの頭を撫でるかのように手を持っていき、おでこの前で指を丸めた。
「ていっ」
「いたっ」
俺は軽くシャルステナのおでこにデコピンした。
「な、何するの、レイ?」
シャルステナは少し赤くなったおでこを手で押さえながら、戸惑うように聞いてきた。それに俺は親指を後ろを刺すようにして、デコピンもとい、お仕置きした理由を話す。
「あれ、どうすんだ?昨日もだけど素材ごと燃やしちまったら、依頼達成出来ない事もあるんだぞ?」
「け、けど、今回のは魔石だけ……」
「ていっ」
「いたっ」
まだ反省していないようだと、俺はもう一度デコピンする。
「なぁ、シャラ姐やバジルが何でまだA級かわかる?」
少し遠回しな説明を俺は始めた。
「えっ?シャラさんとバジルさん?それは昇格条件を満たしていないからじゃ…?」
「まぁ、そうだな。じゃ、昇格条件とはなんでしょう?」
まるで授業する様に説明する。レイ先生再就職だ。
「確か依頼達成数と実力……だったと思うけど…」
少し自信なさ気に答えたシャルステナだったが、言っている内容に間違いはない。
「うん、正解。シャラ姐もバジルもな、S級を倒せる実力がある。バジルは知らんが、シャラ姐は依頼達成数も満たしてる。なら何でシャラ姐はS級冒険者じゃないと思う?」
「ええっと……」
シャルステナは言葉に詰まった。少し難しかったかもしれない。だけど、先日シャルステナが俺について来てくれると知ったからか、彼女に冒険者としての知恵、知識を知ってもらいたい。
ここはレイ先生として、優しく生徒に教える事にしよう。
「答えはな、実力が足りないからだ」
「えっ?でも……」
シャルステナが矛盾していると言いかけ、それを俺が遮った。
「うん、S級は倒せる。だけど、余裕があるってわけじゃない。そんな状態でS級と戦えば、そのうち死ぬ。だから、ギルドはSランク冒険者だと認定しない。それは無駄に優秀な冒険者の数を減らす事になるだけだからな。だけど、もう一つ別の理由がある」
「別の理由…?」
シャルステナは俺の言葉を繰り返し、聞き返してきた。
「こんな言い方は進行を体験したお前らにはアレかもしれないが、魔物は貴重な資源なんだ。特にS級ともなれば、数は少ないし倒せる奴も少ない。だから、ギルドは、主にギルドと繋がってる商人、鍛治師とかがそれを欲してる」
死人も沢山出たあの災害の裏では、ウシシッと大儲けしていた奴らがいたのだ。いわば魔物の素材を求める者にとっては、あの大進行は願っても無い出来事だった。
大量に素材を加工、様々な製品に作り変え売り出していた。魔物の素材は武器にも、服にも、薬にもなる。
人の死の代わりに手に入ったものがそれだから、納得もいかない事もあるだろう。特にあの戦場に居たものは……
「そっか。余裕がなければ、私の様に素材ごと魔物を消してしまう事があるから」
「そうだ。そこで、俺がシャルにお仕置きした理由に戻るわけだが、B級と言えど貴重な事には変わりない。使い道は様々だけど、冒険者はできるだけ素材を無駄にしない様に気を付けないといけないんだ。それは金の事もあるし、今言った貴重だからって事もある。昨日も、今のもシャルステナには余裕があった。なら、無駄にしちゃいけない」
「うん……ごめんなさい、レイ。素材を無駄にしてしまって」
シャルステナは少し俯きかけに言った。
俺はそんなシャルステナの頭に手を持っていき、今度は優しく撫でた。反省してるなら、これ以上何か言う事はないし、伝えたい事は伝えた。
「なんかあたしとの扱いの差が納得出来ないんだけど?あたしにもデコピンで済ませてよ」
「それは無理な相談だ。お前ならあの溶岩の中に放り込む」
「殺す気⁉︎」
扱いに差があるのは当たり前だ。昔からだろ。
「アンナ、アンナ」
「何よ?」
ゴルドがアンナの名を呼び、若干不機嫌気味にアンナが振り返った。
「ていっ」
「あいた!いきなり何すんのよ⁉︎」
「あれ?おかしいな?」
ゴルドが何故かアンナにデコピンした。それに当然の反応を示したアンナ。しかし、そんな反応が予想していたものと違ったのか、ゴルドは不思議そうに首を傾げる。
「あんたァ‼︎ケンカ売ってんの⁉︎」
「く、苦しいよ、アンナ。デコピンして欲しいって言ってたじゃん」
ゴルドは胸ぐらを掴まれ苦しそうに顔を歪めながら言った。
「何もしてないのにされて嬉しいわけないでしょうがっ‼︎」
至極真っ当な言い分であった。
〜〜〜〜
太陽が夕陽に変わる少し前、俺たちは街へと戻って来ていた。街には既に争奪戦参加パーティの姿があり、昨日に比べると遥かに街が手狭に感じられた。
街に戻ってすぐ、依頼達成報告の為、ギルドに向かった。
ガハハと豪快な笑い声が響くギルド内。今日もまた昨日と同じく、仕事を終えた冒険者達は酒を飲み交わし、1日の終わりへと突入していた。
バジルの様な飲んだくれが多いのか、それともこのギルドの冒険者が優秀なのかは知らないが、酒の匂いに慣れていない者からすれば、鼻を押さえたくなる様な匂いが蔓延していた。
昨日の夕方追い抜いた学生達は酒の匂いに顔を歪めたり、実際に鼻を押さえながら、掲示板の前で討論を交わしていた。
これがいいと依頼書を指差しアピールする者もいれば、黙って依頼内容を吟味している者もいる。
そんなバラバラな集まりだが、皆一様に楽しそうである。遠足に近いものがあるのだろうか、魔物のいる所では見せる事がない笑顔がそこにはあった。
そんな彼らを横目に眺めながら、俺たちは依頼完了の報告をするため、受付へと足を向ける。
「依頼完了報告です」
すぐに依頼の報告を行い、証拠となる魔石、素材を提出する。
「さすがはシャークヘッドを倒しただけはありますね。すべて1日で終わらせるとは」
「運が良かっただけですよ。あ、それと臨時で護衛の依頼もしたんですけど、依頼主から話は来てますか?」
この村に着いた後すぐに依頼主であった商人とは別れた。後でギルドを通して報酬は支払うと言われ、踏み倒そうとしてきてもデュラン達の証言があるため、取り立てる事が出来ると考え、口約束で了承した。
それは達成額だけでもカウントされる事になるだろうと思っての事だったが……
「来てますよ。『海の狩人』と合同であったため、達成額としてもカウントされませんが…」
と言われた。どうやら、他パーティと組んで依頼を達成しても、達成額としてはカウントされないようだ。
「シーマン?」
「俺たちのパーティ名だよ」
そんな事はハングに言われるまでもなくわかっていたが、1人絶対にわからない奴がいたため、わざと聞いた。
「俺たちの住んでた街では海の魔物相手に命張って街を守る男達の事を海の狩人、シーマンって呼んでてな。俺たちもそれにあやかって強くなろうってそのパーティ名にしたんだ」
「へー」
ハングの説明にシャルステナ達は余り興味なさ気だったが、俺は面白いと感じた。
土地によって様々な風習や呼び名があるのは当たり前の事だが、それを知る事でまた一つ世界を知った気がしたのだ。俺にはそれが面白いと感じた。
「カードを返却いたします」
更新済みのカードを受け取り、さっそく中身を確認する。シャルステナ達も背後から背伸びして覗き込む様にしてカードを見た。
依頼達成数5
達成額735万3500ルト
難度
A
B 3
C
D 1
E 1
「うっひゃー、僕らお金持ちだね〜」
「にっししし、この調子でガンガン稼ぐわよ!」
バカップルはご満悦のようだ。特にアンナは目がお金に変わっていた。銭ゲバアンナと呼ぼう。
「レイの馬鹿げた財力はこれなのね……」
シャルステナは呆れた様に呟いた。子供ながらにして下級貴族クラスの財産を持っていた俺に呆れたのか、そんな事が出来てしまうギルドのシステムに呆れたのかは知らないが……
「なんだよこれ?冒険者カードじゃないのか?」
「勝手に見んなよ、デュラン」
「悪い悪い。けど、見たことないもんだから気になってよ」
人の冒険者カードを勝手に覗き込むのはマナー違反だ。それをデュランに注意すると、おどけた様子で謝罪と言い訳をしてきた。
「これは臨時冒険者カード。武闘大会の競技種目依頼争奪戦で配られるカードだ。これで順位を決めるんだ」
カードをプラプラと振り掲げ説明する。
「なるほどなぁ。そんな話を聞いた事はあったけど、お前らはそれに出てるのか」
「ああ」
「強いわけだ。武闘大会に出る奴は優秀な奴ばっかりだって聞くぜ?どこの学校なんだ?」
「王立学院」
「まじかよ!って事はお前ら貴族?」
一歩下がり全員の顔をバッバッと見てデュランを驚いたように言った。
三大学校の一つはさすがに知っていたようで、ハングもアルルも同じく驚いていた。
「シャルとアンナはな。俺とゴルドは平民出だ」
「いやぁ、可愛い上に貴族とか、完璧だな」
「そんな褒めないでよ〜。煽てても何も出ないわよ〜」
「お前の事じゃねぇよ」
デュランがシャルステナの事をべた褒めすると、アンナが何を思ったか、自分の事だと思い浮かれた様子で喜んだ。それに俺は辛辣な突っ込みを入れる。
「いやいや、二人ともだよ」
「はぁ?お前頭おかしんじゃねぇのか?こいつが可愛い?この兄貴のパンツで発情する女が?そのパンツを同級生に取りに行かせる女が?魔物狩ってたら悦に浸って奇声をあげる女が?脳みそに糞でも詰まってんじゃねぇか?」
俺はドン引きして、アンナが如何に可愛いなどと呼ばれる奴ではない事を説明した。それにアンナはムキーと怒り、足蹴りして来る。
無論俺はそれを軽く躱し、俺の前にいたデュランがギルドの壁まで吹き飛び、撃沈。壁にもたれかかるようにして夢の中へと旅立った。
「避けてんじゃいないわよ‼︎だいたい!あんたは!後ろに!目でも!ついてんの⁉︎」
アンナは手足を使い背後から何とか俺に一撃入れようとするも、俺はシュバッバと風を切る様な音を立てて避け続けた。
そして、ハングとアルルは流れ弾を避けるためか少し離れた。デュランの二の舞いを避ける賢明な判断だ。
「さて、とっとと宿とって休むか。またな、お前ら。どこかでまた会ったら飯でも食べよう」
「ナチュラルに無視してんじゃないわよ‼︎」
「あ、ああ」
「ま、またね」
俺はハングとアルルに手を振りながら、ギルドを出た。その後ろをアンナ、シャルステナ、ゴルド、ハクと続き、アンナ以外は皆別れを口にする。アンナは未だ俺に一撃入れようと奮闘中だ。
「なんで当たんないのよ‼︎」
〜〜
「嫌だ!なんで俺が謝らないといけないんだ!」
「今更渋るなよ。元からそのつもりでこの村に来たんだろ?」
次の日の朝、俺たちがギルドの前を通りかかると、中から揉める様な声が聞こえてきた。
「違う!あいつが勝手に出てったから、仕方なく連れ戻しに来たんだ!なのに、勝手に戻りやがって!もう知らん!」
その声は聞き覚えのあるものだった。何してんだと思いながらも、中を覗く。
「はぁ。ちょっと入れ違いになっただけじゃない。わがまま言わないで迎えに行こうよ」
「わがままじゃない!俺はリーダーとしてあいつが勝手な行動を……」
ギルドの中で昨日別れたばかりの三人が言い争っていった。というよりは、デュランが一人怒り、他2人がなだめ、説得しているという感じだった。
「朝っぱらから何してんだよ?他の冒険者にしばかれるぞ」
このまま放置して行くのもあれだろうと、声をかけ先輩として忠告してやった。
朝っぱらから騒いでたら迷惑だろ。少しならいいにしても、ずっとこの調子ならそのうち誰かにしばかれる。冒険者は気の短い奴が多いからな。
「で、何を揉めてたんだ?」
「実は……」
俺が何故言い争っていたか聞くと、ハングが説明してくれた。
なんでも、彼らが無茶をしてまでここまで来たのは、例のケンカ別れした仲間を迎えに来たのだそうだ。前にいた街でここに来たという情報を仕入れ、何とか辿り着いたものも、すでに彼女はこの村を出て、デュラン達が来た街へ戻ったのだという。
それでまた戻ろうという話になったのだが、デュランが渋ったそうだ。彼曰く、何故自分が勝手に出てった奴のためにそこまでしないといけないのかと。
そんなデュランを二人で説得していた所に俺たちがやって来たというわけだ。
「ふーん。ま、あんまり熱くならないようにな」
「えっ?一緒に説得してくれるんじゃないの?」
「何で?」
立ち去ろうとした俺にアルルがそんな薄情なと言った目をして見てきた。それに俺は不思議そうな顔で聞き返す。
「何でって言われても……」
アルルは困った様に表情を変えた。
「はぁ、仕方ないなぁ」
俺はわざとらしくため息をついて、説得に協力する事にした。
女の子にこんな顔をされて、放って行ったらシャルステナに軽蔑されてしまう。
「ありがとうレイ!助かるよ!」
「俺からも感謝するよ」
ハングとアルルはパーと顔を明るくしてお礼を言った。一方、デュランは顰めっ面で俺を睨んできた。
「俺は何と言われても行かんぞ!」
そうデュランは仁王立ちで、宣言した。ここを動かないと意思を込めて。
面倒な。
「…………行くか死ぬか今選べ」
「へっ?」
俺はどうやって説得するか迷った末、剣を首筋に当てる説得を選んだ。別名脅しともいう。
「れれれレイ、まままて」
「待たない。三秒で決めろ。決めなければ、永遠に地面とキスする事になる。3、2、」
「わ、わかった‼︎行く!行くから!」
デュランは涙目になりながら叫んだ。
よし、説得は成功だな。
「っとまぁ、こんな感じで説得は出来たぞ?」
「説得って言うのかな…?」
「脅しだよな、完璧に……」
この二人は代わりに説得してあげた俺に文句があるのだろうか?
この二人にも説得が必要か?
そう思い少し目を細めると、二人は青ざめバッと顔を逸らして視線を泳がせ、下手くそな口笛を吹き始めた。
どうやら説得は必要ないらしい。
「んじゃ、俺たちはもう行くから」
「ま、待ってくれレイ!」
「今度は何だ?」
シャルステナ達を外に待たせてるから早く行きたいのだが、今度はハングに呼び止められた。
「お前らずっとここで依頼するのか?」
「いや、ここは混んで来たんでな。今から街へ移動しようかと…」
「本当か⁉︎なぁ頼む!俺たちも付いて行かせてくれ!」
本当は明日移動しようかと考えていたが、予定より早く依頼が終わったため今日移動する事にした。
それをハングに教えると、パンと手を合わせて同行を懇願してきた。
それは自分達だけでは移動も心許ないからだろう。
「まぁ、待て。お前らはどこの街に行くつもりなんだよ?」
「テレリーゼ、ここから西に1週間ぐらい行った所にある街だよ」
俺は顎に手を置き考えを巡らせた。
正直この辺りの地理には詳しくないため、街が確実にある方向に進めるのはありがたい。
一週間というのも許容範囲内だ。
問題は、他のパーティと一緒だとその間に倒した魔物や収集した素材やアイテムで、依頼が達成できない事だ。
デュラン達と共に行くのはいい。なんだかんだもう知らない仲ではないし、このまま放置して死なれたら寝覚めが悪い。
こいつらが冒険者じゃなければ護衛って事で依頼を出させるんだが……
いや、待てよ?
護衛は無理だがあれならいけるんじゃないか?
俺はBランク冒険者。受注条件も満たしてる。それに指名依頼にさせれば、他の冒険者に取られる事もない。
「……条件がある」
「連れてってくれるのか!ありがとう!それで条件って?」
ハングは本当に嬉しそうにそう言ったが、デュランは若干引き攣った笑みを浮かべていた。アルルはハングと同じで助かったと感謝する様な笑みを浮かべていた。
「俺たちが昨日武闘大会に出場中なのは話したよな?そこで問題が一つある。他のパーティと一緒に行動するとその間の行動が俺たちのポイントにならない事だ」
「それはつまり……連れてはいけないって事?」
アルルは残念そうな目をした。
「いや、違う。条件を飲めるならその問題は解消される」
「本当⁉︎どうすればいいの?大概の事なら承諾するわよ?あっ、体は無理よ。私はそんな軽い女じゃないわ」
アルルは若干相手の思考を間違った形で早計する癖があるようだ。今のも冗談じゃなくマジ顔で言われた。
「……条件てのはお前らが俺に依頼を出す事だ。そうすれば俺とお前達の関係は、徒党を組んだ冒険者ではなく、依頼主と依頼を受けた冒険者の関係になり問題はなくなる」
アルルの言葉には反応を見せない方が正解だと考え、華麗にスルーして条件を説明した。
「確かに……しかし、冒険者が依頼を出すなんて事出来るのか?」
「普通は無理だ。理由は、面倒だから飛ばすが、とにかく普通は出来ない。だが、出せる依頼もある」
冒険者が依頼を出す事が出来ない理由、それは簡単に言えば、冒険者なら自分でやれと言う事だ。
例えば、A級の依頼で報酬200万ルトの素材収集の依頼があったとする。Sがその依頼を受けて、Pに報酬150万ルトでその素材収集の依頼を出せば、Sは何もしていないのに50万の儲が出る事になる。
そう言った不正を防ぐ為に特別な事情、あるいは条件が満たされた時にしか冒険者は依頼を出す事が出来ない。
今回の場合は後者だ。シーマンはその条件を満たしている。その条件とは、Dランク以下の冒険者である事。
「指導依頼を出す事なら出来る」
「指導依頼?それって確か……」
「Bランク以上の冒険者に冒険者としての指導、心得を教えてもらう事の出来る依頼だ」
聞いたことはあるけど、よくは知らなそうなアルルに代わり俺が指導依頼の概要を説明した。
「だけど、それだとあなた達に頼む事は出来ないんじゃ……」
「出来る。俺が条件を満たしてるからな。俺はBランク冒険者だ」
「ええっ⁉︎」「なにーーっ⁉︎」「まじ⁉︎」
三人は一様に驚愕していた。
やはり俺の年でBランク冒険者というのも珍しいらしい。
俺は証拠である冒険者カードを三人に見せる。
「ほ、ほんとだ…」
「くぅー、年下に負けるってのは……」
「やっぱりただもんじゃなかったんだ」
アルルは口を押さえ信じられないと言った様子。デュランは拳を握り悔しがり、ハングは納得顔だ。
「ま、とにかくこれで条件はオールクリアだ。後は依頼内容だが、テレリーゼの街まで指導しながら連れて行って欲しいとでも言えばいい。期間はそうだな10日ってとこか。ついでに俺を指名しろ。報酬はB級は最低10万はかかるから、後はそれが払えるかどうかだが…」
「無理無理。私達D級よ?そんな余裕ないわ」
アルルは手を振ってそんな金はないと言う。まぁ、それも当然と言えば当然。4人、今は3人のパーティの報酬なんかたかが知れてる。宿代とその日の食費を稼ぐので手一杯だろう。
「なら、後払いでいいから、ギルドに立替えて貰うんだな」
「それだとしばらくタダ働きに…」
「大丈夫さ。考えてもみろ。今からお前らは指導を受けるんだぜ?前よりはマシな稼ぎになるはずだ」
「言われてみれば…」
こうしてシーマンはギルドにツケで依頼を発行した。指名依頼という事で上乗せ5万取られたが、横にいた俺が笑顔で頷くと、引き攣った笑みを浮かべながらも三人とも頷いた。
契約期間は10日。
その間に彼らをテレリーゼに送り届け、同時に彼らに冒険者としての指導をするという依頼を俺たちは受ける事になったのだった。
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