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74.フッフッフッ、君達俺の得意分野で勝てるとでも?

短かったので、本日二話目。

「フッフッフッ、とうとうこの日がやって来たか」


 長かった。竜とか、竜とか、竜に邪魔され続けたこの大会。それがとうとう竜の魔の手から解放され、俺が最も楽しみにしていた舞台がやって来た。

 その名も依頼争奪戦!


「レイ?なんか周りからおかしな視線が集まってるからその笑い止めてくれない?」

「これが笑わずにいられるか?とうとう来たんだ俺の得意分野!間違いなく、一位以外あり得ない!」


 俺は絶対の自信を胸にそう高らかに宣言した。

 さらにシャルステナの言うおかしな視線が集まるが、気にしない。今日の俺はそんな視線跳ね除けてしまう程に絶好調なのだ。


「けど、レイは今制限ありなんだよ?わかってる?」

「チッチッチ、シャルステナ君。わかってないな。そんな制限関係ない。何故なら‼︎このチームこそ間違いなく最強パーティだからだ!」


 依頼争奪戦ではパーティを組む事が出来る。パーティ人数は4人まで。一学校に付き25パーティまで参加可能。どこもそれギリギリで参加してくるから、参加人数は1000人。トーナメントレベルでどデカイ競技だ。


 そしてみよ!この我が最強パーティを!

 学院創設史上が三人と、天然ボケ1人。さらには竜の子供までいるこのパーティに誰が勝てる?

 ディクだとしても負ける気は全くしない。何故なら、俺も勝てる気がちっともしないからだ。


「っというわけでだ。俺がリーダー。お前ら手下。シャルはリーダーの女。オーケー?」

「私の立場って何?」

「リーダーより上、実質最高司令」


 何故ならリーダーがシャルの言う事に逆らえないからだ。

 他の手下は若干一名がブーたれているが、無視しよう。手下に意見を言う資格はない。


「よし、手下三人は俺の言う事に従えよ?」

「私は?」

「たぶん出番ない」


 だってシャルステナを出す必要がある依頼なんて出てくるわけないじゃん。

 S級来てもこの三人と俺で過剰戦力だし、SSなんてそもそも挑戦しない。俺が全開状態じゃないと危険過ぎる。ていうか、そんな依頼出てくるわけない。

 SSなんて出たら本気で一大事だ。王都進行レベルで召集かけられる。学生の一競技に出すなんてしてる場合じゃない。


「何でこんなパーティ作っちゃったのよ……」


 出番がないと知ったシャルステナは項垂れる。


「ギルクに言え。あいつが確実な勝利のために組んだんだ」


 だいたい俺が全開状態になったらどうするつもりだ?

 ガチでSS来ても勝てそうだぞ?このパーティ。


『みなさん集まりましたね‼︎今年も冒険者ギルドで余った未達成を大量に回してもらいました‼︎じゃんじゃんクリアしてください‼︎』


 この競技は冒険者ギルドで処理に困った依頼を学生にやらせようとの目的で始まった競技だ。いわば残り物処理の様なものだ。


 ギルドに入ってくる依頼はその数が非常に多い。毎年大量に未達成となる依頼が出る。それを減らそうとしているのだ。

 冒険者の仕事は中々ヘビーで、みんなやりたがらない。一攫千金を狙えるのは一部で、ほとんどは割に合わない仕事をしている様なものだ。いわば冒険者とは博打の様なものなのだ。才能と出会いが全てを決めると言っていい、そんな職業なのだ。


 それに毎年死人も沢山出る。だから、どうしても冒険者の数が足りなくなる。そうして、必然的に未達成依頼がドンドン増える。それが俺たちに回されてくるのだ。

 また、本物の依頼であるため達成報酬が出る。それを楽しみにしている者も結構いるようだ。


『それではみなさん、一か月頑張ってください‼︎22日後ここでまた会いましょう‼︎くれぐれも無茶な依頼は受けず生きて戻って来てください‼︎』


 そうして集められた250のパーティは散り散りに解散していった。


「リーダー、みんな行っちゃたわよ?あたし達も早く行かないと」

「これだから素人は」


 全くリーダーが黙って待っているのだから、一々突っかかって来るんじゃない。黙って待て手下1。


 依頼争奪戦はその期間も長い。これがあるため武闘大会が長びくと言ってもいい。

 期間は20日。その後2日間だけここに戻ってくるための日数が与えられる。

 何故こんなに長いかというと、この街周辺だけで依頼をするには達成出来る依頼が限られている事と、参加パーティが多過ぎて依頼を巡って争いが起きる事が目に見えているからだ。この長い期間はできるだけ散らばって依頼を受けて欲しいという運営側の意思の表れなのだ。


 そのため、この街から徒歩10日圏内にある街のギルドも協力して、この時期だけ武闘大会参加選手専用の依頼板が作られる。それを見て、それぞれが達成出来る依頼をこなしていくのが、この競技の基本だ。

 この基本にこそ、俺が出遅れてまでここで待機をしている理由がある。

 この競技は名前の通り依頼争奪戦だ。どのパーティが如何に早く依頼を達成出来るかを競うのだ。つまりだ。単純に競う相手は少ない程いい。


 つまり、俺は今どの方角が一番空いてるのか探っているのだ。無論、一々数を数えたりはしない。大まかでいいのだ。

 ただ方角的に少ない場所に行く。それが俺が思い描いた勝利への第一段階だ。


「残留が大体200」


 こいつらは考慮しなくていい。おそらくただ参加しただけで、本気で勝ちに行く気はないのだろう。この街は地形的に魔物が少ない土地だからな。


「北と東がおよそ250ずつ」


 この方角に人が多いのは恐らく大きな街があるからだろう。

 その周辺で依頼を達成するつもりか。作戦ミスだな。大きな街は冒険者の数が多いから依頼未達成数が少ない。

 結構熾烈な争奪戦になるぞ。


「西と南は150ぐらいか」


 どちらも複数小さな街がある方角だな。ディクとシルビアは共に西か。

 シンゲンは……どこだ?西と南にはそれらしい反応はないぞ?

 後ルーシィはシルビアと一緒だから西か。ってことは、気をつける相手がいないの南だな。


「南に向かうぞ」

「ラジャー隊長!」

「いい返事だ、ゴルド隊員」


 そんな風にふざける男連中に女性陣は冷ややかな視線を向ける。早く行こうよとその目は語っていた。


 〜〜


「んじゃ、ギルク、セーラとシーテラの事よろしく頼むな」

「わかった。わかったから早く行け‼︎出遅れてるぞ!」


 街を出る前にギルク達と別れを済まそうと寄ると怒鳴られた。しっしっと虫を払うような仕草で俺達を追い出そうとしてきた。


「それも計算の内さ。シーテラ、この街で色々やってみるといい。金はギルクに幾らか渡してあるから、好きな事をしていいからな?」

『はい、マスター』


 せっかく遠出して来たんだ。彼女が何か新しい事を始めるキッカケになればいい。それでないと連れ出した意味がない。


「セーラ、無理はするなよ?魔物を狩りに行く時はギルクかライクッドを連れてくんだぞ?」

「私は⁉︎」


 候補から外されたリスリットは声をあげるが無視する。こいつにセーラを任せるのは不安だ。


「わかった‼︎キッチック兄も頑張って‼︎」

「聞いたかギルク?これがお前の嘘が生み出した結果だ」

「わ、悪かった。だ、だから、その拳を下ろせ。ま、真下にだぞ?」


 素直に謝ったため俺は拳を下ろした。ちゃんと真下に。

 この3週間の間にキッチック兄からレイ兄に戻ってなかったら遠慮なくいかせてもらうが…


「じゃ、行ってくる」

「行ってくれね」

「ピィイ!」


 俺とシャルステナ、ハクは普通に行ってくるとだけ告げた。


「ギルク、例の件よろしく」


 しかし、ゴルドはギルクに謎の言葉を告げる。

 例の一件?


「すまん。もうばれた」


 それに対するギルクの答えは失敗のお知らせだった。


「ゴルド、あんた後でお仕置きだから」

「えっ⁉︎」


 まぁた、アンナに何かしたのかこいつ。懲りない奴だな。

 反省の色なしって奴だな。


 そうして、俺たちのパーティは南へと進路をとった。


「行ったか……。さて、詰めの甘い後輩達のために一肌脱いでやるとするか」


 その場に残った4人はそのギルクの言葉に首を傾げるが、ギルクはそれに答える事なく宿の中へと戻っていった。


 〜〜


「ここで一旦休憩にするか」


 俺の言葉にみな一様に頷き、地面に腰を下ろす。そして、収納空間から飲み物とコップを取り出し皆に渡した。


「だいたい2キロ先に山がある。見た所他のパーティはその前で今日は休むつもりのようだが、俺たちは今日の内に抜けるぞ」

「ちょっと待ってよ。あたし疲れたんだけど?」


 まったく文句の多い手下だな。黙って従えってんだ。


「山を抜ければすぐ村がある。そこで宿をとって休んだ方がお前的にもいいんじゃないか?山って言っても2時間もあればこのパーティなら抜けれるだろうしな」

「オッケー、それでいきましょ」

「私もいいレイ?」


 アンナが納得したところで、今度はシャルステナが手を挙げた。


「もうすぐ夜になると思うんだけど、視界が悪い中山登れるかな?」

「光魔法使えばいいんじゃないか?火でもいいし」


 シャルステナの意見に、対策を答える。俺は赤外透視があるから別に必要ないが…

 そんな事を考えているとゴルドと目が合った。何か言いたそうにしている。


「なんだゴルド?」

「いやぁ、お腹減ったなぁと思って」

「これでも食ってろ」


 そう言って収納空間から取り出したお菓子を放り投げる。ついでにハクのおやつも取り出してあげる。


「そろそろ行くか」


 バクバクとおやつを貪る一人と一匹を引き連れ俺たちは先を急ぐ。


 およそ15分程で山の手前にたどり着く。

 俺たちが着くと周りは野宿の準備の手を止め、目を向けてきた。

 その視線は俺とシャルステナに対して殆どが集まっていた。俺が注目、というか注意する相手として見られるのは仕方ない。それなりに結果は残して来ているからな。そして、それはシャルステナも同様だろう。

 ハクは俺とセットにされていて直接的に注意を引き付けてはいないようだ。アンナとゴルドは、そもそも結果らしいものも活躍も見せてはないためノーマークだ。


 彼らは俺たちを敵意と警戒混じりの目で見つめてきた。その視線は俺やシャルステナ個人からやがて全員へと行き渡る。

 そしてある事に気がつく。

 荷物少な過ぎないかと。それも当然。荷物として一番かさばるものは野営セットだ。そんなもの手荷物として持っているわけがない。もちろん収納空間にしまってある。


 俺は一旦足を止めると、山の中に空間を広げる。先程まで広げていた空間より、遥かに詳細に山の中を物色していく。

 ほんの数秒の事だが足を止めた俺に全視線が集まった。何かするのかと警戒でもしているのだろう。

 そんな警戒などただ心労を重ねるだけの無駄な苦労だと思いながら、わずか数秒で山の中を丸裸にした俺は、再び足を踏み出した。


「お、おい、あいつら山の中に入ってくぞ」

「止めた方がよくない?」

「他の奴の事なんてほっとけよ」

「そうそう、勝手に潰れてくれるんだから」


 周りから俺たちを心配する声が聞こえ、その後で俺たちがやられる事を願う声が聞こえた。

 そんな声など構う時間が勿体無いとばかりに無視し、野宿の準備をするパーティの中心を横切って、俺たちは山の中へと足を踏み入れた。


「こっちだ」


 俺は先導して草木生い茂る山道を掻き分ける。時折剣も使いながら道を作っていく。


「魔物が出るぞ。アンナ行け」

「なんであたしが…」


 文句を言いながらもアンナは軽く出てきた魔物を真っ二つに切り裂く。素早い斬撃で反撃する暇など与えない手際は見事だ。断末魔さえ上げさせなかった。


「魔石と素材は回収しとけよ」

「わかってるわよ」


 アンナが魔石と素材を回収している間にも、魔物は出てくる。


「ハクとゴルドでやっちまえ」

「ピィイ!」

「イエッサー!」


 ハクとゴルドはアンナと同じく魔物を瞬殺する。

 正直よく山で出会う魔物は大概雑魚なので、一人でも十分なほどだ。


「本当に私の出番ないかも…」

「出番が欲しいなら、あげようかシャル?丁度いい奴がいるんだよ」

「なんか嫌な予感がするんだけど……」


 シャルステナは何となく嫌な気配を感じているようだが、そんな事はない。シャルステナなら楽勝さ。S級ぐらい。


「あれはなんて魔物?」

「シャークヘッド。噛みつきと猛毒の霧には気をつけろよ?猛毒の霧は火に弱いから。あ、後接近戦は絶対ダメだから」

「うん、わかった」


 シャルステナに名前と注意点を教える。

 俺たちは気配を殺して茂みに隠れながら、相手を観察していた。

 こいつは倒しておかないと後ろの奴が死にかねない。

 シャルステナ先生にやって貰おう。


 シャークヘッドは蛇の様な体にサメの顔を取り付けた様な魔物だ。

 大蛇のように長く太い体に飲み込まれたら一貫の終わりだ。あいつの体は猛毒の血液に満ちている。斬って油断したらその血にやられる。一応解毒薬はあるが、戦闘は続行不可能だろう。


「火の記憶、灼熱の大地より出でし竜となれ、火竜!」


 これが火竜の詠唱か。この詠唱からだと火竜の仕組みがイマイチよくわからないな。

 密かに魔法をパクろうとしていた俺は、作戦失敗に心の中でため息を吐いた。


 シャルステナの作り出した火竜の息吹にさらされたシャークヘッドはひとたまりもなかった。

 さすがはシャルステナ。火力が他とは違う。おそらく俺がやってもこうはならない気がしてならない。多分イメージ力が強いんだろうな。


 1分もかからずシャークヘッドは灰塵と化した。せめてもの抵抗とばかりに、燃える体ごと俺たちへと迫って来たが、火竜の勢いに勝てるわけもなく、その体は塵となった。

 あらら、シャルステナちゃん素材ごといっちゃった。勿体ねぇな。あいつは中々生まれないから結構な値段で素材が取引されてるのに…


「さっすがシャル!」

「ありがと、アンナ」


 シャルステナはアンナにお礼を言いながら、魔法を解除した。

 火竜はそれで消えるが、木々に燃え移った火は消えない。地面には黒焦げた跡が残り未だ灰煙を発している事から高温である事が一目でわかる。

 俺はウォーターウェーブでその火の鎮火にあたる。これぐらいなら今の俺でもどうって事はない。


「お疲れシャル。さてとそろそろ日が沈みそうだから、早く抜けてしまおう。うまく行けば日が沈みきる前に抜けれそうだ」


 もう強い魔物はいない。これなら死人が出る事もないだろう。

 俺は空間を広げると、片手間で相手出来る魔物だけを相手にし、山を少し急ぎ足で下りた。何とかまだ日の光がある内に山を抜けた所で一休みし、暗くなってから道なき荒野を進む。


「なんか荒れた所だねぇ」


 ゴルドは荒野の殺風景な景色を見て、荒れた所だと表現した。だけど、俺は綺麗な所だと思う。人の手が加えられていない綺麗な所だと。

 人の手が加えられた所が荒れた場所であるとは限らない。精巧に作られた建物が、景観が綺麗だと思う事もある。

 だけども、こうして自然に荒れている場所も綺麗だと感じる。案外俺は自然そのものが好きなのかもしれない。


「足元に気を付けろよ?」


 凹凸の激しい道。暗い中歩くのなら、足を取られないよう気を付けなければならない。俺はしっかりと見えているが、他はそうでないだろうと注意を促した。

 他にも足元を気を付けろと言った理由はあるのだが、今は大丈夫だろう。


「あいた!」

「言った側から何やってんだアンナ」

「もぉ!ガタガタ過ぎるのよ!」


 アンナは岩に躓き見事にこけた。すぐに起き上がると八つ当たりか、自分の躓いた岩を足でゲシゲシと蹴り始めた。


「シャル悪いけど火くれるか?」

「うん」


 俺はタバコの火でも貰うかの様に松明に火を灯した。

 それをさらに三つ作り全員に手渡す。

 光魔法で照らしてもいいのだが、維持するのに魔力も使うし、何より疲れる。古風だがこうして松明に火を灯す方が何かと便利だ。数回は使えるし、収納空間があるため荷物にもならない。

 こうしたちょっとした道具は幾つも収納空間へと入れてある。いわばこれも他にはないアドバンテージだ。


「村が見えたぞ。あれだな」

「えっ?どこ?」

「あっちのずっと先だな」


 俺は村のある方向の真っ暗闇を指差し、シャルステナの問いに答えた。


「よく見えるね」

「俺は真っ暗でも見えるんだ」

「そのスキルあたしにも教えてよ」


 アンナが便利そうだとスキルの教えを請うた。


「眼系を育てろ。そのうち覚える」

「うへぇ、あれ相性悪いのよねぇ」


 露骨に嫌そうな顔をしたアンナ。育てる気はなさそうだ。


 俺が差し示した方角に向かって俺たちのパーティは歩を進める。普通の学生なら疲れ果てて動けないレベルの距離を既に踏破しているが、俺たちのパーティの足は軽い。なんだかんだ文句の多いアンナも疲れてなどいないようだった。


 数分歩くとシャルステナ達にも村の姿が見える様になって来た。

 村の周りはぐるりと一周木で囲まれ、村の入り口には衛兵と思しき甲冑を身に着けた男性が一人立っていた。


「武闘大会の学生か?早いな」

「こんばんは。村に入ってもいいですか?」


 俺は衛兵の問いに頷き、村に入ってもいいか聞く。


「一応決まりでな、身分証を見せて貰っても構わないか?」


 そう言われて全員身分証を取り出した。

 事前に持ってくる様に言っていたため、シャルステナ達はすぐに手荷物の中から取り出し手渡した。

 俺はカバンに手を入れる振りをして、こっそりと収納空間から身分証を取り出した。


 前に母さんに言われたのだ。

 余りこのスキルは知らない人の前では使わない方がいいと。

 武闘大会で結構豪快に使ってしまったが、あれは武器だったから良かったのだ。あれ程沢山の武器がいきなり現れて消えれば、中々人はそれが俺のスキルだとは思わない。もっと違うものだと考える。

 何故か。

 それは頭で出来ないと考えてしまっているからだ。


 この世界にはゲームもラノベも存在しない。そんな世界でアイテムボックスとも呼ぶべきこのスキルの存在を思い浮かべる者は少ない。

 異次元空間という概念そのものが取っ付きにくいものなのだ。


 むしろ、魔法で武器を作って消したと考えてしまうのが、この世界の人々の思考なのだ。その方がより身近で、思い浮かべ易いからだ。

 ただし、それは武器の様な作れそうな物だけに限られる。


 身分証の様な明らかに魔法で作る事が不可能な物まで取り出せば、さすがにスキルだと気が付かれる。

 具体的に言うとだ。鉄や土製、後水などは大丈夫だ。だが、布、紙、後肉や魚などの食品はダメだ。


 今回取り出したのは身分証。大別すれば紙に当たる。細かい事を言えば、魔具なのだがどの道魔法で作る事など不可能である事に変わりはない。

 だから、わざわざコソッと取り出す事にしたのだ。


「はい、君はいいね。あ、貴族様ですか。あなたも。知らなかった事とはいえ無礼な言葉を。どうかお許しください」


 ゴルドの身分証を受け取り確認した後、今度はシャルステナ、アンナと受け取ったところで衛兵が頭を下げた。


「いえ、そんな…頭を上げてください」

「あたしも別にいいから」


 シャルステナは少し申し訳なさそうに言ったが、アンナは慣れた様子で言った。

 そんな二人を見て俺は、そういえばこの二人貴族だったなと思い出していた。王立学院で一緒に生活していたが、貴族だからと威張られた事がなかったから、あの学校が貴族御用達だったのを忘れていた。


「寛大な貴族様の御心に感謝いたします」


 そう言って衛兵は三人に身分証を返した。その顔は特に強張ったりなどはしておらず、まるで一つの定型文を読み上げている様な印象を受けた。


「あなた様も貴族であらせられますか?」

「いや、俺は平民です」


 口調を改めて聞いてきた衛兵。俺は自分にはそんな言葉使いは必要ないと暗に伝えながら、身分証を手渡した。


「そうか。では、拝見させてもら、う⁉︎Bランク冒険者⁉︎」

「はい、一応」


 衛兵は目をギョッと見開いて驚き、後退った。衛兵はこんな子供がBランクにまで登り詰めたのかと驚愕していたのだ。しかし、衛兵はすぐに落ち着きを取り戻し、身分証を返してきた。


「そ、そうか。す、すまない。取り乱した。君も問題ない」

「ありがとうございます。じゃ、中に入らせてもらうか」


 前半は衛兵に、後半はシャルステナ達に向けて言った。そうして、俺たちは村の中へと入った。


「とりあえずまずは宿だが、あそこでいいか」


 真っ先に目に付いた宿屋に皆を引き連れ入った。

 中に入るとすぐに宿の主が出てきて、部屋は空いているのか確認を取った。

 すると、部屋は余裕で空いているそうなので、二つ部屋を取り、男と女に分かれた。


 宿泊日数は一日で、人4人、竜一匹の合わせて4万5千ルトと少しお高めだった。金はまとめて俺が支払い明日から出る依頼料から引いておく事で纏まった。

 別にこれぐらい構わないんだけどな。律儀な奴らだ。アンナ以外。あいつほんと貴族なのだろうか?実にけち臭い。


 宿の部屋は何とも言えない普通の部屋だった。広くもなく狭くもない部屋にベッドが二つとテーブルが一つあるだけの質素なものだった。

 風呂とトイレがついてるのは良かったが。共同の所もあるからな。


 ご飯は中々美味かった。見た目はビーフシチューだが、少し辛味の効いた料理だった。ニューフと言う郷土料理らしい。


 食事が終わると各自部屋に戻り、しばらくしてから俺は用事を済ませる為に部屋を出る。


「ゴルド、ハク、俺は村にギルドがあるようならちょっと行って来るから、先に寝ててくれ」

「りょ〜か〜い」


 既に寝ているハクと、落ちかけているゴルドに一言言い残し、俺は宿の主にギルドはあるのか尋ねる。

 こういった小さな村にはギルドがない事も多々ある。近くに大きな街があれば、そちらに建てるからだ。

 シエラ村なんて正にそれに当てはまる。


 幸いここにはギルドがあるそうだ。

 宿の主にそこまでの道のりを聞いて、俺は一人夜道を歩いた。既に子供が出歩く時間ではないが、こんな小さな村で子供を襲う奴などいないだろう。

 襲われても、まぁなんとかなるだろ。殺していいのなら。


 若干物騒な事を考えつつも、教えられたギルドにたどり着いた。

 明かりは付いており、中から冒険者達が酒を飲み交わす音が聞こえてくる。


 シャララン


 扉を開けると鈴の音色が鳴る。その音に何名かの冒険者が振り向いた。そして、一瞬変なものを見るような顔になり、すぐに納得顏を浮かべた。

 新顔が絡まれるという定番はなさそうな雰囲気だ。これならシャルステナ達を連れて来ても良かったかもしれない。


 絡まれる事はない代わりと言ってはなんだが、俺が来たことを酒のアテにして飲み始める冒険者達。『もうそんな時期か』とか『今年もガキが死ぬのかねぇ』と言った言葉が聞こえてきた。


 恒例のイベントなしかと若干気を抜かれながらも、俺は奥のカウンターへと足を進める。

 そんな中俺はふと懐かしい気持ちになった。

 王都のギルドに初めて顏を出した時の事を思い出したのだ。あの時は確かカウンターより背が低くて、ミラ姐が覗き込む様にして話してたっけ。


 そんな事を考え、俺はカウンターの前に立つ。

 俺も大きくなったもんだと、カウンターを見下ろしてから、そこに座る男性に目を向ける。


「ようこそ。武闘大会に出場している方ですね。臨時カードを提出していただけますか?」


 そう言われて俺はポケットから冒険者カードによく似たそれを取り出す。


「はい、確かに」


 男性に手渡したカードには、俺たちのパーティメンバーの名前と依頼達成数、そして達成額、そしてクリアした依頼の難度が記載されていた。今はまだパーティメンバーのところ以外は全て空白だが、依頼を達成すれば専用の魔具で書き換えてくれる。

 これを持って帰る事で、総合的に順位が決まる。


 基本は達成額で判断するらしいが、上位のチームの達成額が大きく離れていなければ、依頼達成数、難度を見て、より好成績を残したほうが勝利する。

 達成額の差は厳密ではないが、最上位のチームの達成額の一割に他のチームが迫っていたら、この判断方法を用いるようだ。

 つまり、20万なら18万まで稼いだチームはまだ勝てる可能性が残されているという事だ。

 まぁ、そんな少ない額で争われる事はないだろうが……


 俺の予想では平均1000から1500万程は稼ぐのではないかと思っている。かなりウハウハだ。

 こうして冒険者の美味しいところをアピールして人を増やすつもりでもあるようだ。


 俺たちの目標は少なくとも5000万越え。かつて一日でその三倍を稼いだ事もある俺とシャルステナ達なら決して不可能ではないはずだ。


「ここに来るまでの途中で魔物を倒したので、達成可能な依頼があるか見てもらえますか?それと買取を」

「はい。それでは魔石と素材をお願いします」


 俺はバックから今日狩った雑魚魔物10匹分とシャークヘッドの魔石、素材を取り出した。


「こ、これは⁉︎まさかシャークヘッド⁉︎」


 その声に俺をアテにしていた冒険者達が一斉に振り向いた。『聞き間違いか?』とか『嘘だろ?』とか言った言葉が後ろから聞こえて来るが、俺はそれとは全く関係ない事を考えていた。


 うわっ、すご!

 一瞬で当てた。やっぱりプロは違うな。俺は全然わからんけど……


 魔石は魔物によって大きさ、形、色が異なるらしい。俺は精々よく見るコボルト、ゴブリン、オークといった雑魚達の大きさと形ぐらいしかわからない。

 色は確かに言われてみれば違うが、ピンクや黄色と言った派手な違いがあるわけではない。薄いとか濃いとか後透明度がどうとかだ。

 鑑定士はそれを見て判断するらしいのだが、俺にはちょっとわからない。そこは経験と知識がモノを言うのだろう。


「こ、これはまさかあの山の主の……」

「あっ、多分そうです。通り道にいたんで」

「これはさすがに……」


 そう言って、男性は疑いの目を向けて来た。おそらく誰か別の冒険者にやってもらったのではないかと疑っているのだろう。


「信じられないなら運営に聞いてくださいよ」

「いいんですね?」


 男性の確認に俺は力強く頷いた。そして、男性は奥の部屋へ確認を取りに入っていった。通信魔具がそこに置いてあるのだろう。そして、そこで運営に確認を取るつもりだ。


 運営から俺たちに支給された物はこの臨時のギルドカードだけではない。俺たちの動きを監視する魔具と、救援を呼ぶ為の魔具も同時に支給された。


 前者は首飾りの様になっており、パーティリーダーあるいは後衛がつける事になっている。俺たちのパーティはシャルステナがつけている。俺ではないのはいつもネックレスをつけているからだ。

 この首飾り型監視魔具は運営に俺たちの動きを送り続けている。昼間はそれを流し、観客を楽しませ、同時にズルがないかの監視も行っている。


 また、監視はこれだけではない。ギルドの職員も不正がないか監視し、この様に怪しいと感じたら運営に確認を取る手はずとなっている。

 この二重監視でこの競技の公正かつ公平な勝負を成り立たせている。


 後者の支給品は、危険な状態に陥った時に助けを呼べる魔具だ。通信魔具の簡易版と言っていたが、それで近くにいる騎士や、魔法師に救援を要請する事が出来るらしい。

 だが、駆けつけるまでには時間がかかる。だから、無理な依頼はしない様にとも言っていた。


「確認が取れました。不正はありませんでした。疑った事を謝罪致します」

「いえ、疑いが晴れたならそれで」


 部屋から出て来た男性はどこか気疲れした様子だった。すぐに謝罪してくれたので、俺は謝罪を受け取り、話を戻す。


「それで達成出来た依頼はありますか?」

「シャークヘッドは正規の方で出されておりましたので、それがまず一つ。他はそうですね、魔石を10個集めて欲しいとの依頼がありますので、それで如何でしょう?」

「はい、じゃあそれでお願いします」

「では、達成数1、報酬502万ルト、E区分1となります。正規の依頼は達成数、難易度には計測されないのでご了承ください」


 ヒュー、幸先いいねぇ。

 1日で目標額の10分の1が集まったぜ。S級と出会えたのが、幸運だったな。


 それにしても正規の依頼でも達成額には計測されるんだな。

 断トツトップを狙うなら正規の依頼をやる方がいいかもしれないが、ディクとかのパーティが怖いから出来るだけ掲示板にある奴をこなしていこう。

 ある程度達成数が増えたら、正規でいくのもアリかもしれないが…


 それから残った素材を売却し、達成額にプラス1万された。そして、軽く専用掲示板を眺めてから帰路につく。冒険者達は始終興味深そうな目で俺を見ていたが、特に話しかけてくる事もなく、俺はギルドを出た。


 そうして、宿に戻るとゴルドとハクは既に爆睡中であったので、俺もすぐに眠りについた。いつもの謎行動に頭を悩ませながら。


 …………ゴルドって寝る時三点倒立してるんだな。



異夢世界を読んでいただきありがとうございます‼︎


武闘大会編も中盤に入りました。が、依頼争奪戦は大会というより冒険者色が強くなっています。大会後の先取りですね。本格的に冒険を始める前に、冒険者という職業が何なのかを書きたいと思い大会に取り入れました。その分、序盤は説明が多い箇所があるので、流し読みして下さい。


次は明日更新!

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