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73.最強種の実力

ちょっと短めです。

 武闘大会10日目。


「ハク今日は頼むぞ?」

「ピィイ‼︎」


 ハクの元気な声に、思わず頬を緩めた。

 俺とハクは闘技場の中心に近い場所で、相手選手と向かい合っていた。


 ルーシィ・ヒュールキャス。

 帝国貴族のお嬢様で、シルビアが太鼓判を押す実力者。昨日シンゲンと戦い、俺と同じく敗北を喫したそうだが、ギルク曰く中々の接戦であったそうだ。

 そんな彼女相手に今の俺がまともに戦えば、勝機はないに等しい。しかし、まともでもない手段、ハクがいればどうにかなる。

 ハクの実力はイマイチ測りかねるが、俺はゴルド達と同等と予想している。その予想が外れていない事を祈るばかりだ。


『予選二回戦最終日、最注目の試合‼︎お互い負ければ敗退、勝てば本線出場が決まる負けられない試合です‼︎不利なのはキッチックだと思われていたこの試合‼︎追い詰められたキッチックは切り札を出してきた‼︎なんと彼はあれだけの実力を見せながら、テイマーという才能を隠していたのです‼︎ご紹介しましょう‼︎ハク‼︎』

「ピィイ‼︎」


 ハクは俺の肩から飛び上がり、くるりと一周する。小さな竜が一生懸命に飛んでいるのを見て観客達は和み、可愛いー‼︎と大人気になり、竜愛好家が一気に増えた。

 この10日程で竜に対する恐れが少なくなっていた事もあって、すんなり受け入れられたようだ。


 ひとしきり歓声を浴びると、うちの可愛い竜は満足気な表情で肩へと戻ってきた。


「大人気だなお前」

「ピィ!」


 誇らしげに当たり前と胸を張るハク。その仕草がまた観客の人気に火をつける。俺への応援よりハクに対する応援の方が多いのは気のせいではない。


 一方、対戦相手であるルーシィは上から見下ろす様な視線を俺とハクに向けていた。


「なんだ。切り札っていうぐらいだから、どんなのが出てくるかと思ってたけど、そんな小さい竜だったんだ。心配して損した」


 どうにも我が家のハクちゃんを舐めてかかって来ている相手選手。

 うちの子を舐めないで!と声を大にして叫びたいが、ぐっとこらえ、後でハクに自分で証明してもらう事にする。


 ドーン!


 試合開始の銅鑼がなった。


「ハク、ブレスだ!」


 開始直後、とりあえずハクの実力がどれくらいのものなのか知るためにブレスを指示する。

 竜の代名詞とも言えるブレスの威力こそ、その実力を垣間見るのに一番適していると思ったのだ。


 ハクは肩から飛び上がると、一度首を真っ直ぐ上に向けためのポーズ。それから、首を振り下ろすと同時に開いた口から火属性のブレスが勢いよく放たれた。

 その火の激しさは前に見た時とは比べ物にならないものだった。目の前一帯を火の海と化したブレスは、火竜の出すようなブレスには遠く及ばないまでも、B級程度なら一撃で葬ってしまいそうな威力があった。


「ナイス、ハク。一旦戻れ」

「ピィイ‼︎」


 ハクは褒められて嬉しかったのかクルクル旋回して戻ってきた。ハクが俺の肩に戻ると、間をおかず火炎の向こう側から大質量の水が押し寄せる。

 まぁ、あれで終わるわけないわな。

 俺はそう思いながら、ハクを乗せたまま後退した。


 この魔法は、ウォーターウェーブだろう。かなりの出力で打っているようだが、あの波のような動きは間違えようがない。

 このまま巻き込まれても大したダメージも受けないだろうが、その間に何か別の魔法を唱えられたら厄介だ。ここは斬っておこうか。


 俺は魔法を魔力充填した剣で切り払おうと、腰の剣に手をかけた。しかし、魔力充填する前にハクがそれに対応する。


 再びブレスを打つ体制に入ったハク。

 この波を火で止める気か?とハクの行動を計りかねていた。

 その僅かな逡巡の間に、ハクはブレスを放つ。小さな体に不釣り合いな程鋭い牙。その合間から出てきたのは荒々しく燃ゆる火……ではなく、霜を振り撒く冷気であった。


「これは……」


 俺は唖然として呟いた。小さくない驚愕が胸で踊る。決して不快などではないその驚愕は、ハクが二種のブレスを放った事に対しての歓喜でもあった。

 ウェアリーゼが昔言っていた。竜は属性を一つしか持てないと。なら、何故ハクは火と氷、二種のブレスを撃てるんだ?

 不思議な現象に俺は胸を躍らせていた。


 ハクの氷のブレスは魔法を波のまま凍らせた。遠くで舌打ちする様な音が聞こえたが、それよりも俺は気になって仕方ない事をハクに尋ねる。


「ハク、お前何属性のブレスが撃てるんだ?」

『火、水、風、土、雷、氷の6属性』


 ……6属性も撃てるのかよ。光と闇は無理なようだが、それでも凄い。うちの子は優秀だ。

 ってことは、ハクはこの6属性のうちどれかの属性を持つ事になるのかな?それとも、全部?

 どちらにしろ、ハクの成長が楽しみだ。早く成竜になってくれないものか。


「ハク、土のブレス」

「ピィイ‼︎」


 ハクの成長を垣間見て嬉しくなった俺は、空間で相手の位置を探り、ブレスを撃つ方向を指差した。ハクは一泊置いてブレスを放つ。土のブレスは初めて見たが、物理的に痛そうなブレスだった。大量の岩石が高速で飛んでいく様なものだった。

 ハクのブレスは凍り付いた波を易々とと破壊。その勢いを落とさずルーシィに迫った。


 氷の壁に阻まれ相手の位置が見えない状況で的確に攻撃が来た事に驚愕の表情を浮かべたルーシィは、慌てて転がる様にして回避した。すぐ様反撃しようと起き上がったルーシィ。そんな彼女に、今度は剣が襲いかかる。


「いつの間にッ!」

「俺がいる事も忘れてもらっちゃ困るよ」


 そんな事を言いながら、魔力温存の為、気配遮断を解除する。気配遮断状態の俺に反応するとは、思ったよりも近接戦闘の技術が高いようだ。


「ハク!」


 今回は特に指示を出さなかった。

 ブレス以外にもどんな戦い方をするのか見てみたかったからだ。俺が後方に飛び退くと、交代でハクが飛び込む。

 ルーシィはそれをチャンスと思ったのか、口の端をニヤッと緩めるとハクめがけて槍を突き出した。


「ピィイ!」


 ハクはその小さな手で槍の先端を叩いた。それだけでまるで車にぶち当たったかのように勢いよく吹き飛ぶ槍。あまりの衝撃にルーシィが思わず槍を持つを放した。

 丸腰になったルーシィは余裕の笑みを恐怖に変えた。竜という最強種の実力を小さいからと侮ったのが運の尽き。幾ら小さくてもハクは最強種の子供なんだ。弱いわけがないだろう?

 その小さな体はフェイクみたいなものなんだ。パワーは通常時となんら変わらないのだ。


「ピッ」

「な、何これ⁉︎」


 ルーシィはハクに捕まった。伸ばした爪で器用にぐるぐる巻きにされて。ウインナー巻きの様な状態だ。


「よし、よくやったハク」


 俺はハクの頭を撫で褒める。

 そして、ルーシィに目を向けて、降参を促そうとしたその時、俺の危機感知が警告を鳴らす。


「チッ」


 慌ててハクの爪を剣で叩き切り、その場から離脱する。その数瞬後、水と風の嵐が突如として巻き起こる。


 ウォータートルネード。

 既存の魔法でも上級に位置するその魔法は、エアリアルファイアの水バージョンのような魔法だ。しかし、エアリアルファイアは中級、ウォータートルネードは上級。この違いは最終段階に起こる現象のせいで出来た格差だ。


 ウォータートルネードは水を巻き上げる。火と違いそれは勝手に消えるものではなく、そこに存在し続ける。

 空中にある水は普通は落ちて、地面の上に水溜りを作る。しかし、上昇気流が真下にある状態ではそれも叶わない。いわば、竜巻の真上に水が溜まり続ける事になるのだ。そして、それをそのままにしておくのは非常にもったい無い。

 過去、この魔法を作り上げた人はそう考えた。そうしてできたのが、水の刃が周囲に乱舞するというこの魔法。

 この魔法はかなり広範囲に影響を与える殲滅魔法なのだ。それを僅かな間に作り上げ発動させる彼女の発動速度はシャルステナに迫るものがある。


「ハク、俺の後ろにいろ!」


 俺はハクを庇うようにして前に出る。そろそろ水の刃が放たれる頃合いだ。

 普通ならそれはランダムに散らばるだろうが、相手が俺とハクしかいない今の状況でそこを弄っていないとは考えにくい。全弾俺たちのいる方向に向けて発射されるだろう。


 俺は剣に魔力を通わせる。

 オーガのツノで出来た剣は前のよりも魔力の通りが悪い。それが普通で前まで使っていた剣が良かっただけかもしれないが、性能ダウンを感じる。

 慣れるまではその都度こういった違和感を味わう事になるのかもしれないな。


 水刃が発射された。

 予想通り連続でこちらに向かってきている。

 俺はさらに一歩前に踏み出すと同時に剣を抜き放つ。

 切り裂かれた刃は中心で分かれるようにして俺の両側に落ちる。地面を切り裂きカマイタチの様に着弾した水の刃が10を超え、堀が段々と深くなってきている。


 バシャッという音ともに刃を切り落としていく俺の視界に爪を引きちぎり、拘束から解放されたルーシィが立ち上がるのが目に入る。

 そして、彼女はウォータートルネードを解除せずにそのまま新たな魔法を行使した。


 風切。

 それは一定範囲にカマイタチを無数に発生させる魔法。中級に位置するその魔法は、中級とは思えない程の威力を込めている。

 風切は鋭さを特に意識した風魔法だ。

 いわばそれ特化の相手を細切りにする為の魔法だ。


「ハク!爪で弾け!」


 水刃だけで手一杯の俺は風切の対応をハクに任せる。

 ハクも魔力充填ぐらいは出来るだろう。

 そんな俺の思惑を上回る成果をハクは出した。


 ハクは爪に魔力を通わせ、伸ばした。そこまでは指示通り。だが、その後ハクはあろうことか全ての刃を爪で受け切った。

 鞭のように爪を動かし、水刃まで弾く。

 そんな風切を遥かに上回る手数で防御するハクは、さらに相手への攻撃も加えた。


 一本の爪がルーシィ目掛けて飛来した。

 ルーシィはそれに拾い上げた槍で対応しようとするも、爪はフニャフニャと曲がり、どこから攻撃が来るのか予測できない。ルーシィを襲う爪は槍を巻き取るとさらに伸びてルーシィを襲う。

 間一髪爪を回避したルーシィにハクは尚も追撃を加える。

 ブレスだ。

 雷のブレスをハクはルーシィに向けて放った。


「あぁぁぁッ‼︎」


 爪ばかり気にしていたルーシィは避けきれずまともにそれを食らい、悲鳴を上げた。

 ぷすぷすと煙が体から舞い上がり、全体が軽く黒焦げていた。何より髪がボッサボサになっており、アフロヘアーへと変わってしまっていた。


 ハクは容赦がなかった。

 口から煙を吐いているルーシィを爪で両手両足を縛り、持ち上げた。

 そして残りの爪を、刺すよ?と脅すかのようにユラユラと彼女の目の前で漂わせる。


「や、やめて‼︎さ、刺さないで‼︎私の負け、負けでいいから‼︎」


 爪の恐怖に彼女はあっさり降参を宣言した。


 俺は全く動かずそれを見ていた。

 あいつ俺の指示なしの方が強いんじゃないか?

 てか、なんか違う。もっとこうなんていうか、竜らしくない。

 爪で攻める竜ってどうなの?


 そんな事を思いながらも、俺の本戦出場は決定した。

 その事を司会者が伝えると、


「ピィイ‼︎」

「あ、ばかっ…」


 ハクは勝利に激しく喜びを表した。そうすると今ハクの爪に捕まっているルーシィは上下左右に激しく振られあわわわとなり、そしてスポッと手足が爪から抜けた。


「あっ」

「ピッ?」

「きゃぁあぁぁあ‼︎」


 ったく、仕方のない奴だ。

 俺は瞬動で一瞬で着地地点に移動すると、ルーシィを受け止めた。


「悪いな、うちの竜が」

「ひゃ、い、いえ」


 恥ずかしそうに目を逸らしたルーシィを地面に下ろす。そして、勝者が敗者にこれ以上何か言うことはないだろうと、俺はハクを連れてその場を後にした。


 こうして、この日予選は全て終わり、本戦に出場する選手が決定した。ディク、シルビア、シンゲン。この三人も余裕の通過だ。


 後は全開で試合を勝ち抜いていくだけだ。



 〜〜


「「「「「「「「本戦出場おめでとうレイ‼︎」」」」」」」」

「お、おう」


 俺は戸惑いながらも返事を返した。

 えっ?

 なんで?パーティ?


 試合が終わって外に出るといつものようにシャルステナがいなかった。不思議に思いながらも、少し待ってから宿へと戻ってきたところ、扉を開けた瞬間クラッカーで紐まみれになり、硝煙の匂いが鼻に突き刺さった。


「祝ってくれるのは嬉しいけど、まだ本戦出場決定しただけで大袈裟じゃないか?」

「うん。けど、今日はレイの誕生日でしょ?そのついでだよ」

「えっ?あっ……完璧に脳内から消えてた」


 そういや今日こっちの世界での誕生日だったな。前世と違うからつい忘れてた。

 ややこしいんだよな。2つもあると。


「もう、自分の誕生日でしょ?レイが忘れてどうするのよ」


 シャルステナは呆れた声を漏らした。俺は苦笑いするしかない。


「正直お前の誕生日などどうでもいいが、本戦出場を祝うなら話は別だ」

「逆なら頷けるんだけどな」


 俺からすれば、本戦出場の方がどうでもいい。元々当たり前に出れると思ってたからな。

 いわばこっからが本番だ。


「先輩、もう一回でいいので、手紙書きなおしてください」

「面倒だから嫌だ。とっとと出せ。そして、変態の汚名と共に自由を手に入れろ」

「その汚名が問題なんですぅ……」


 リスリットはうな垂れた。もう一度俺に手紙を書き直してもらう事を諦めたようだ。

 ただ、あの手紙を貰って引かない奴は変態以外いない。ほぼほぼ間違いなく自由を手に出来るはずだ。

 いくら権力に目が眩んでも俺なら連れ戻そうとは思わない。だってそれが相手の欲を満たす事になるのだから。

 そうなったら変態は手がつけられない。放置に限る。


「ま、三年経って戻らなかったら、嘘がばれてお前の汚名も晴れるさ」

「ならいいのかな……?」


 リスリットは自信なさ気に首を傾げた。


『マスター、お祝いのキッスです』

「いらないいらない!どうせまたあの天才の差し金だろうけど、そういうのはいらないから」

『何故でしょう?前マスターはこうすれば男は喜ぶと言っていたのですが……』


 何故そんなに前マスターの遺言を疑う事なく信じられるのか聞いてみたい。

 今のところあいつの良いところなんて一つも出てきていないと思うのだが…


「まぁ、せっかく祝ってくれるって言うんだ。いっちょ明日からの景気付けに今日は騒ごう‼︎」


 そうして、俺の誕生日兼、本戦出場祝い兼、前夜祭は始まった。

 祝いは終始賑やかに過ぎて行った。

 明々後日から開催される最後の競技に向けて、その日は夜遅くまで騒ぎ続けた。



 〜〜


「うっ、食い過ぎた」


 調子に乗って食い過ぎた事を後悔しつつ、俺は1人宿の屋上で夜風にあたっていた。

 騒ぎ過ぎて熱くなった体を冷ましにきたのだ。

 あまり長居すると汗が冷えて風邪を引くかもしれないので、そろそろ戻ろうかとした時、誰かが登ってくる音がした。


 屋上の扉がゆっくりと開き、そこからギルクが出てきた。


「なんだギルクか。お前も中が暑かったのか?」

「俺は静かに飲んでたからな。暑くはない」

「あー、なんかどこかのバーにいる『彼女に一杯』とか言って口説こうとする奴みたいに飲んでたな」


 お前はどこの道に入ろうとしてるんだと突っ込みたくなった。


「イカしてただろ?」

「さぁ?女が集まってきていない時点でイカしてなかったじゃないか?」


 ぽつんと一人で飲んでたからな。ボッチ認定されるぞ。


「お前、冒険者になるんだろ?シャルステナも」

「なんだいきなり。そうだけど?」


 いきなり話を変えてきたギルク。俺はギルクの問いに頷き返す。


「それが簡単に通ると思ってたら大間違いだ」

「はぁ?いきなり何の話だよ?」


 ギルクが何を言いたいのかいまいちピンとこない。


「まぁ、俺に任せとけ。簡単にいく様にしてやるさ」


 ギルクはそれだけ言って戻っていった。


「なんだあいつ…?」


 俺はギルクの消えて行った扉を見つめそう呟いた。

 何をしに来たんだよ、あいつは?


異夢世界をいつも読んで頂きありがとうございます!


久々の三連休。たっぷり時間が取れるので、連休中は毎日更新。私の調子次第では、1日に2話更新するかも……


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