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72.寝かして下さい

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 ウェアリーゼ達を見送った後、俺は歩いて街へと戻った。竜達の宴が終わる頃にはすっかり夜が明け、気持ちの良い朝日が街を照らしていた。


 街の中心に建つ闘技場に向けて走る6本の太い線。闘技場に向かう大通りとして作られた道には、商店が立ち並び、この街の人々の生活を支える生活用品、食料品を販売するお店や、試合を見に来た大勢の観客達向けの土産屋などが混在している。昼はそういった店にやって来る人で賑わう通りも、朝は静かなものである。人通りはまばらで開いている店は殆どなかった。


 そんな大通りをしばらく歩き、俺は宿へと戻って来た。

 昨日は色々と疲れる一日だったから早く寝たい。

 そんな事を思いながら、扉を開けるとシャルステナが待合室でスースーと寝息を立てて寝ていた。ひょっとして彼女は一日中俺が帰ってくるのを待っててくれたのだろうか?

 そうとも知らず竜達と宴会してたなんて……


 俺は申し訳なくなりながらも、シャルステナを起こさないようそっと抱き抱えると彼女の部屋のベットに寝かした。

 その後、自分の部屋に戻った俺は、昨日の汗を流す為、軽くシャワーを浴びてからベットに横になる。ベットにはハクが寝ていたが、俺が帰って来たことにも気が付かず爆睡していた。


 そうして、睡魔に逆らわず落ちようとした矢先、バンと扉が勢いよく開かれた。


「レイ、ハク‼︎一大事だ‼︎今すぐ俺と一緒に来い‼︎」

「ピピィ‼︎」


 グッスリ眠っていたハクは、ギルクの大声でビックリして飛び起きた。


「朝からうるせぇな。なんだよ一体?」


 寝ようとしていたところに水を差され若干不機嫌ながらも、一大事と駆け込んで来たギルクの話を聞くまでは邪険にするわけにはいかないと体を起こし聞き返した。


「お前のテイマー申請が通らなかった‼︎」

「はぁ⁉︎なんで⁉︎」

「竜をテイムなんて出来るかと、追い返されたんだ。とにかく一緒に来い。実際に見せれば通るはずだ」


 ったく、本当に一大事じゃないか。さっさと行って、帰って来て寝よ。


 そんなわけで、俺は眠そうなハクを連れて、ギルクと共にテイマー申請に向かった。

 申請自体はハクを見せた事ですぐに終わった。しかし、ついでにとギルクと大通りで朝食をとって帰ろうという事になり、宿には戻らず適当な店に入る。


「らっしゃい。適当に空いてるとこ座ってくれるか?」

「わかりました」


 空いてる席を探し店内を見渡す。朝だというのに店はモーニングを食べに来た客で満員に近い程賑わっていた。そんな店内を進み、奥の方にあった空席を発見。二人でそこまで移動すると、すぐ近くの席に見慣れた頭があった。


「ディクお前も朝飯か?」

「あふぁ、らいふぉ?」

「食ってから喋れ」


 何言ってるかわからん。それに汚い。


 ディクの座るテーブルの上には皿が何皿も積み上げられており、朝から食欲全開のようだ。しかし一方で、その真正面に座る少女は一皿を大事に食べており、若干の呆れ目が正面に向けられている。

 そんな視線には見向きもせず、ディクは口に入れていたものを飲み込むと、新たな皿に手を伸ばし口にかけ入れる。


「ゲフン!」

「誰が全部食ってから喋れって言ったよ?口に入れたもんだけ食えって言ったんだよ」

「もぐもぐ、ごっくん。もう、痛いなぁ。レイ達も食事?」

「ああ。今日は保護者同伴か」


 そう言って保護者に目を向ける。この子は確かアリスって名前の子だったか。

 何故かは知らないが緊張しているように見える。


「うん、迷子になるからね」

「おい、レイ店を出るぞ」

「まーた、敵と飯は食えないとか言う気か?あのな、殺し合いしてるわけでもないんだし、そこまでする必要あるか?」


 店を出ようとするギルクを引き止め、少しだけ小言を言う。こいつの武闘大会優勝へ向けての熱は嫌いではないんだが、少々やり過ぎな気がしてならない。

 一度口に出して言ってやる必要があるだろう。


「ある!敵に情報を与えることになるんだぞ」

「アホか。飯食いながら情報集めようとする奴なんざお前ぐらいのもんだよ」


 俺はギルクの言葉など聞かずどしっと席に腰掛けた。


「うちのアホが悪いな」


 俺は主にアリスに向けて謝罪した。ディクは素知らぬ顔で飯にかぶりついているから、別にいいだろう。


「い、いえ、言ってる事は分かりますので」

「保護者さんは俺たちより年上だろ?敬語なんかいらないよ」


 俺も使う気ないし。

 だって聞く所によるとディクの身内みたいなもんだろ。何年か一緒に暮らしてたって言ってたし、何より保護者だからな。


「アリスはね、結構頭固いから僕にも敬語のままなんだ」

「か、固くないです!私は騎士としての序列を考慮してですね、他の騎士達の模範にならないといけないと……」


 序列?

 ディクはこの人より立場が上なのか?

 当然といえば当然だが、学生の分際で普通の騎士より立場が上というのはどうなのだろうか?


「ね?固いでしょ?」

「うん?まぁ、そうだな。それより、お前が偉い立場にあるなんて聞いてないぞ」

「偉くないよ。騎士学校では、他の学校の生徒会長の様な役職を騎士長って言うんだけど、アリスはその僕の副騎士長なんだ」

「偉いじゃないか。へー、迷子の生徒会長様か」

「迷子の騎士長だよ」


 どっちでもいいんだよ。そこは重要じゃない。

 本当に皮肉とかが通じない奴だな。保護者も半目で呆れてるぞ。


「ギルクもいい加減座れよ」

「……仕方ない。フルコースで勘弁してやる」

「ふざけろ。むしろ俺が奢って貰いたいわ」


 何がフルコースだ。迷惑かけられてるのはこっちだってのに。


「ハクはどれ食う?」

『これとこれとこれ』

「ギルクは?」

「俺は普通のモーニングでいい」


 モーニング一つだけとは小食な奴だ。

 店員を呼び、三人分の注文をする。例の如く店員は唖然としていた。


「ふぁぁー」

「なんだ寝不足か?」


 大きな欠伸をして体を伸ばすとギルクがそう聞いてきた。


「寝不足というか寝てない。寝ようとしたらお前が呼びに来たからな」

「そうか。それは悪かったな。まぁ、今日は休みなんだから、後でゆっくり寝るといい」

「そうさせてもらうよ」

『ハクも寝るー』

「お前は十分寝ただろ?」


 一緒に寝ようと言ってくるハクは可愛いが、余り甘やかしてばかりではいけない。

 ちゃんと規則正しい生活をさせなければ。ハクは暇さえあれば寝ようとするからな。


「レイどうしよ…なんかアリスが固まってるんだけど……」

「はぁ?なんで?」


 そう言いながら、話題の人物アリスに目を向けると、口を大きく開き、目を見開いて固まっていた。時折口がカクカク揺れている。

 美人なのに台無しだなと思える状態だった。


「おーい、どうした?」


 そう呼び掛けてみるが反応がない。これは気付けが必要だな。俺はディクの頭をガシッと掴むと無理矢理にアリスの眼前に接近させる。


「な、何?何するのさレイ?」

「いいから黙って何もするな」


 ディクの顔が俺のアシストにより、アリスの顔のすぐ前、あと少しで触れる位置まで来た時、


「ひゃ‼︎」


 とアリスは顔を真っ赤にして後ろに下がった。しかし、椅子に座った状態でそれをしたため、綺麗にそのまま椅子ごと後ろに倒れた。


「な、何ひてるんでひゅか⁉︎」

「えっ?僕?」


 全責任をディクに押し付け、俺は知らんぷりで食事に戻る。


「今、き、キスしようとした⁉︎別にいいんだけど、じゃなくて‼︎いきなりビックリするじゃない‼︎それはもっとその、こんな人の多い所…」


 アリスはバンと机を叩いて怒るかと思ったら、次の瞬間には頬を赤くしモジモジしたりを繰り返していた。

 いやぁ、青春だねぇ。


「ええっと、よ、よくわからないけど、ごめんよ」


 わかってやれよ。ていうか、わかれよ。


「ディク、俺たちもう行くから」

「ええっ⁉︎この状況で放置してくの⁉︎レイがやったんだよ⁉︎」

「いやいや、もうそれは俺の手を離れた案件だから」


 今は君達二人の案件だ。俺たちが口を出す事じゃない。

 俺たち3人はディクと未だ一人でモジモジしたり怒ったりを繰り返しているアリスを置いて店を出た。


「相変わらずお前は鬼畜だな。やはりあの名前にしてよかった」

「ふざけんな。セーラがマジで勘違いしてんだぞ?誤解が取れなかったら、お前死刑にするからな」

「お、おおぅ」

「それと、あの鈍感にはあれぐらいやらないとダメなんだよ。俺は手を貸してやっただけだ」


 あの状況で未だ気が付かないディクに呆れはしたが、幼馴染として多少の手は今後も貸してやる事にしよう。

 あくまであの二人の話なので、お節介は焼き過ぎない程度にな。


 俺とギルク、そしてハクの3人は宿へと戻ってきた。

 ハクはセーラのレベル上げについて行かせ、ギルクは闘技場に観戦に向かった。

 俺は部屋に戻り、やっと眠れると目を閉じた。

 しかし、またしても邪魔が入る。


 コンコンというノックが部屋に鳴り響いた。

 一瞬無視してやろうかと思ったが、シャルステナだったら悪いので扉を開ける。


「おはようございます、レイさん」

「ライクッドか。どうした?」

「ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」

「ああ、中に入れよ」


 シャルステナではなくライクッドだったが、話だけならと中に招き入れる。


「それで?話ってなんだ?」

「実は、僕学校を辞めようかと思ってるんです」

「……何でまた?せっかくAクラスに上がれたのに辞める必要があるか?」


 思ったより深刻そうな話を持ち出してきたライクッド。ここは先輩として、しっかり話を聞いてアドバイスしてやらないといけないと、理由を尋ねた。


「レイさんは今年で卒業したら、本格的に冒険者になって世界を回るんですよね?」

「ああ。そのつもりだ」

「僕がそれに付いて行きたいから学校を辞めると言ったら怒りますか?」


 怒りなど覚える筈もない。後輩が俺を慕ってくれてそう言ってくれるのは嬉しく思う。


「怒りはしないさ。ただ学費を出してくれた親御さん達に悪いだろ。しっかり卒業してからでも遅くはないんじゃないか?」


 俺もこの一年は学校にいる必要はないようなものだった。それでも学生であり続けたのは、この武闘大会と親父達に悪いというのが大きな理由だった。


「僕に親はいませんよ。学費は自分で働いて稼ぎました」

「自分で?その年でか?」


 親がいない事には触れなかった。そういう子は王立学院にも沢山いた。魔物や盗賊に殺されたと彼らは辛そうに言っていた。この世界ではそれが日常的に起こっている。ライクッドもその被害を受けた一人なのだろう。

 だけど、他と違うのは彼が誰にも助けてもらっていないところか。他の子は親戚や、親の知り合いが代わりに育ててくれて、学費まで出してくれたそうだ。


「レイさんにだけは言われたくないですよ」


 ライクッドはこの歳で王立学園の高額な学費を稼いでいたらしい。どうやってかは知らないが、苦労したであろう事など聞かずともわかる。

 半笑いで返してきたライクッドは苦労なんて思ってもいないようだが。


「確かに……でもいいのか?そこまでして入った学校を途中で辞めて?後悔しないか?」

「どうでしょう。後悔はあると思いますが、働きながら学校に通って自分の実力を上げるより、レイさんと一緒にいた方が自分のためになると思ったんです」


 後悔はあるのか。なら、俺としては学院に通い続ける事を進めたい。

 今だけだ。あの学院に通えるのは。

 俺との旅なんて卒業してから幾らでも出来る。


「……俺はオススメしないがな。学校ってのは学ぶ為に作られたところだ。それなりに環境は整ってるし、何より教えてくれる教師がいる。確かに俺もお前に教えられる事は沢山ある。だが、世界を回りながら、その時間があるかと言われればわからない。移動中常に修行しながらって訳にもいかないだろうし、いわゆる魔物の巣窟、ダンジョンの中にいる事も多くなると思う。そんなところでお前に教えられる事はないぞ?」


 世界は広い。この地球とは比べ物にならない体のスペックをもってしても、この大陸だけで端から端まで行くのに数年を要する程に。

 だから、その分旅のほとんどは移動に費やされる。

 魔物がウジャウジャいるところで寝泊まりする事もあるだろう。そんな中、修行や教えを説けるタイミングなど限られている。


「自分で学びますと言いたいところですが、実際はわからないんですよね。レイさんの動き。試合でほとんど何してるかわからなかったです。やっぱりそもそもの実力がレイさんについて行くには足りてないんですよね」


 ライクッドの言う通り、俺の動きを見て学ぶ事が出来るならそれでいいだろう。

 だが、まだライクッドはその域に達していない。

 その事を自覚しているからライクッドは悩んでいるのだろう。


「……まぁ、言葉を飾らず言えばそうだな。はっきり言うと、今のお前だと死にかねないと思う。セーラを助けるまでは危ない所へは行く気はない。ただその後は、俺の夢の為にはどうしても危険を侵す必要が出てくる。一年だけ休学して付いてくるか?」


 俺は一つの選択肢としてそう提案した。

 4年からの王立学院の授業は選択制だ。まる一年行かなかったところで金さえ払えば退学になる事はない。

 さらに、二年あれば全ての科目を履修することが可能だ。一年休んでも取り戻す事は出来る。

 俺はライクッドの答えを真剣な眼差しで待った。


「……いえ、やめておきます。レイさんと話してスッキリしました。僕は後何年か王都で頑張ります。その後、レイさんを追いかけます」


 ライクッドの答えは王立学院に残るというものだった。スッキリとした表情でそう言った彼に迷いはもうなかった。

 先輩として後輩の悩みをいい方向に持って行けたようで俺はホッと胸をなでおろす。


「そうか。まぁ、どこにいるかわかんないだろうし、俺から迎えに行くさ。時折、王都とシエラ村には戻って来るつもりだったからさ」

「お手間をおかけします」

「気にすんな」


 俺としても一緒に旅してくれる仲間が増えるのは嬉しい事だ。

 ちょっと寄り道して迎えに行くぐらいどうって事ない。


 そうして先輩として後輩の道を示した後、再び眠りにつこうとすると今度は後輩2がやって来た。

 今日はとことん睡眠邪魔されるな。

 しかも、ライクッドより深刻そうな顔をして話を聞いてくださいと言ってきた。さすがに眠いからと追い返す訳にもいかず、再び部屋へと招き入れる。


「先輩、助けてください」

「はぁ?それだけ言われても困るんだが?何から助けて欲しいんだよ。一から説明しろ」

「実は私には婚約者がいるんです。私の生まれた村は獣人しかいないところなんですが、生まれた時にはもう既に結婚する相手が決まってたんですぅ」


 なんか若干抜けてるとこがある気がするが突っ込まないでおこう。話が進まん。


「それでそいつから逃げる為に学院に入ったんですが、もうすぐ私が結婚出来る年齢になるから帰って来いって手紙が毎日来るんですぅ。お願いします、先輩!私と駆け落ちしてください!」

「アホか‼︎この駄犬が!俺はシャルと付き合ってるの。シャルに惚れてるの。意味わかるか?出来るわけないだろ」


 ゔぅとリスリットは耳を曲げて泣き始める。

 おいおいおいおい、泣くことないだろ。俺ならオーケーしてくれるとでも思ってたのか?

 やっぱこいつ頭のネジ抜けてるだろ。


「うわぁぁん‼︎」

「ちょ、泣くな。俺が悪者みたいだろ。取り敢えずもっと詳しく話せ。駆け落ちは無理でも何か方法考えてやるから」

「うぇぇぇえん、本当ですか…?グスッ」

「ああ、取り敢えず顔拭いて、それから話せ」


 タオルを放り投げリスリットに渡す。

 リスリットが泣き止んで落ち着いてから、改めて話を聞き始める。


「私は村では一つ掟があるんです。決闘に負けた者は勝者の言うことに従うと。私の父は村で一番偉い族長で、私はその娘。つまり、私と結婚した相手が後の族長となれるんです。私が生まれる前、父は村で一番強い戦士に負けました。その男は暴力的で野蛮な男なんですが、村の掟で父はそいつの言うことに従わないといけませんでした」

「それでお前と婚約者となったと?そいつアホか?族長になりたいなら、族長の座を譲れって言えばいいのに……」


 俺ならそうするけどな。その方がより確実だし、何より好きな相手と結婚出来る。


「族長はうちの家系の男がなる事が掟で決まってるんです」

「なるほど……それでお前はそいつと結婚したくないから逃げて来たと。だけど、今連れ戻されそうで困ってると」

「はい」


 話の内容はわかったが、中々ヘビーだな。

 所謂政略結婚のようなものか。


「お前の親父さんに頑張ってもらってその男ともう一度試合してもらうってのは?」

「争い事一つにつき1回の決闘と掟で決められているんです」


 そりゃそうか。何度でも挑戦出来るんなら結局争いは治らないもんな。


「お前がやるってのは……無理か。まだ弱々だもんな」

「昔よりだいぶ強くなりましたよ‼︎けど、ダメなんです。決闘は男しか出来ないんです」


 男尊女卑の社会か。

 日本では法律で男女平等が定められているが、この世界では違うようだ。

 だが、リナリー先生とシャラ姐のような社会進出してる様な女性も多くいる。リスリットの村が特別そうなのかもしれないな。


「……リスリット、お前将来何になろうと思ってる?村に帰るのか?」

「絶対嫌です‼︎あの村に帰ったらいつか絶対好きでもない人と結婚させられますもん!だから、私は冒険者になってあの村から逃げるんです!」


 政略結婚から逃げる為に冒険者になろうとしてたのか。

 まぁ、なる理由は人それぞれだしな。


「ってことは、あと3年王都にいられればいいわけだ。よし、ならこの問題は解決する必要がないな。先延ばしにすればいいって事だな」

「はい!なんかすっごい方法考えてください‼︎」

「お前もちょっとは考えろ駄犬が」


 人任せ過ぎるだろ。もっと自分で考えようという気概はないのか?

 はぁ、こうしてみるともう一人の後輩は優秀だな。自分で考えて考えて、どうしていいか本当に迷ってから相談しに来たライクッドを見習ってほしい。


 俺は内心馬鹿な後輩に嘆息しつつも、重たい頭で策を考えた。


「後三年引き延ばすには、相手に疑いを持たれては厳しい。つまり、疑いを抱かれず、尚且つ村に連れ戻されない言い訳を考えなくてはならない」

「はい」

「よし、こうしよう。お前その男にラブレター書け」

「はぁ⁉︎嫌です‼︎そんな事して何になるんですか⁉︎」

「いいか、よく聞け。そいつがお前を連れ戻そうとしてるのは、お前が卒業しても村に戻ってこない事を恐れているからだ。その心配をなくしてやればいい」


 ラブレターでこいつ俺に惚れてんだなと安心させてやれば、男は単純だからホイホイ引っかかる。

 聞けば脳筋のような奴だ。間違いなく引っかかる事だろう。


「な、なるほど……けど、ラブレター書いてもそんなに好きなら戻ってこいみたいになりません?」

「ならない。一言『私はより完璧な妻としてあなたの元に馳せ参じたいと思っています』とでも書いておけばな」

「さすがレイ先輩‼︎悪巧みで右に出る者はいませんね‼︎」

「ディスってんだよなそれ?おい」


 嫌味にしか聞こえない褒め方をするリスリット。俺が鋭い視線を向けると、リスリットはフルフルと高速横振りを見せ、慌てて否定する。


「後、信用を持たせるために『私がいない間寂しい思いをされたならこれを使ってくだい』と書いてお前のパンツも一緒に送っとけ」

「うぇぇ⁉︎嫌ですよ‼︎」

「逃げたいんだろ?なら、我慢しろ。うまくいけば相手がドン引きして婚約解消してくれるかもしれん」


 作戦はいつも何重にも仕掛けなければ意味はない。それをしてそれは初めて作戦と呼べるのだ。


「それは適当に買ったものでも?」

「アホ。獣人は鼻がいいんだ。そんな事したらすぐバレるぞ。ちゃんと脱ぎたてホヤホヤを送れ」

「うぇぇぇ……」


 嫌そうに顔を歪めるリスリット。そんな彼女を見て、俺はこれはいけると確信する。


「後そうだな。手紙にキスマークつけとけ。ラブレターには定番だからな。よし、お前に書かせると心配だから俺が書いたのを丸写ししろ」

「すっごい不安………私、村で変態扱いされるんですかね?」

「そのつもりだ。どうせ帰るつもりがないんならいいだろ?」


 変態は嫌ですぅと言うリスリットの言葉など聞かず、俺はペンを取ると手紙を書き始めた。


『拝啓愛しの旦那様。

 村への帰還のお手紙拝見しました。あなた様が私の事を思って書いたお手紙をおかずにベッドで眠れぬ夜を過ごす毎日です。ハァハァ。

 毎日ベッドの上であなた様に辱められ、嫌がる私を蹂躙する妄想で今日も濡れ濡れです。ハァハァ。

 早く戻りたい。

 そう毎日のように思います。

 しかし、あなた様の妻として相応しく技量を身に付けようと通い始めた王立学院を退学して戻る事は承諾しかねます。

 そうして嫌がる私を無理やりに連れ帰り、組み伏せるシチュエーションに私は興奮する毎日です。ハァハァ。

「やめて私はまだここで学びたいの‼︎」

「うるさい‼︎お前が学ぶべきは俺との行為だけだ‼︎」

 と私の意見など聞かず連れ去られ、一生あなた様の性奴隷として生きる。なんてなんて素晴らしいシチュエーションでしょう。ハァハァ。

 待ってます、ハート。

 最後になりますが、私のパンツを同封しておきます。寂しい夜はこれを使ってくだい。

 PS 鞭と縄を買って三年後に戻ります。』


 俺は筆を置くと一言。


「完璧だ」

「どこが⁉︎ただの変態じゃないですか私⁉︎」


 お願いしますやめてくださいと涙目になってやり直しを要求してくるリスリット。しかし、わざわざ眠いのを我慢してまで書いた力作をやり直しなんて出来るわけがない。

 睡眠不足の謎のテンションが作り上げた手紙だ。これ以上のものは書けない。


「大丈夫だ。これで迎えに来るようなら、こいつもかなりの変態だ」

「それ全然大丈夫ないですよね⁉︎最悪の場合、相手も私も変態って事になるんですよね⁉︎」

「そうなった時は変態同士仲良くやるんだな」

「私はノーマルですぅ‼︎」


 ああだこうだと文句の多いリスリットをとっとと書いて送れと強引に部屋から追い出した。

 もう限界。今度こそ、寝よう。

 そう思いベッドに入ろうとした瞬間、またしても扉がノックされた。


 ベッドと扉、視線を交互に動かしてから、はぁーと長めのため息をつくと扉を開けた。


「あ、レイ。やっぱり帰ってたんだね。レイが私を運んでくれたの?」

「ああ」


 やって来たのはシャルステナだった。今一番帰れと言いにくい相手だ。

 元々シャルステナにそんな事を言うつもりなど毛頭ないが……


「今日は1日休みだよね。だから、その、一緒に……デートしよ!」


 シャルステナは一瞬恥ずかしそうにモジモジして言い淀んだが、パッと顔を上げデートに誘って来た。

 もちろんそんな可愛らしい彼女の誘いに対する答えは決まっている。


「ああ。行こうか」

「うん!」


 そうして俺のまだまだ休めそうにない1日は続く。

 馬鹿だなぁ、俺……


 この街でデートするといえば、闘技場か大通りしかない。前は闘技場デートだったのを思い出し、今日は大通りに行く事にした。

 この街の大通りは王都の大通りと比べると、観光に来た人向けの店が多い。

 ある意味観光客でもある俺たち二人は積極的にそういったお店に入り中を物色した。


 そういえばお土産買ってなかったなと、幾つかめぼしいものをピックアップし購入。シャルステナは何も買わなかったが、途中休憩がてら寄ったお店でスイーツを買って二人で食べた。

 その間何度か眠気に負けそうになったが、気合いで踏ん張った。


 そうして、俺たち二人は大通りを抜けて公園の様になった場所にあるベンチに並んで腰掛けた。


「レイ沢山買ってたね。誰にあげるの?」

「酒はギルドのみんなに、後のお菓子は学院の居残り組と家族への土産だな」

「相変わらずお金の使い方がすごいね……なくなっちゃうよ?」

「なくならないんだな、これが」


 豪遊してるのになくなりかけたらどデカイ収入が舞い込んで来る。いい加減金があり過ぎるこの状況にも慣れてきたものだ。修学旅行でかなり減ったのにも関わらず着実に貯金が増えて来ている。

 普段の生活では中々減らないのに、冒険者として普通に稼いでいるためにこうなってしまっているのだろう。


「ふぁぁ」

「眠そうだねレイ。ひょっとして寝てない?」

「まぁ、なんだかんだ色々とあってな」

「無理したらダメだよ?まだ怪我治ってないんだから」

「わかってるんだけど、こういう時に限って断りずらい話ばっかりみんな持って来るんだ」

「それって私も?ごめんねレイ」

「いやいや、シャルの事じゃないさ。主にライクッドとリスリットだな」


 俺は慌てて否定した。

 ダメだ。頭が回ってない。


「どんな話だったの?」

「まぁ、二人ともお悩み相談だったな」


 余り軽々人に言うのはよくないだろうと適当に誤魔化した。

 そこでふと思う。二人は王立学院を卒業した後冒険者になると言っていた。シャルステナはどうなのだろう?

 思えば俺は彼女に将来どうするのか聞いた事は今までなかった。王都に残るのだろうか?

 なんとなくシャルステナは一緒について来てくれるのではと思っていたが、ちゃんと聞いておかないと。

 答え次第では、遠距離恋愛になってしまうしな。


「シャルは卒業したらどうするんだ?俺は冒険者になって世界を回るけど……シャルはどうするんだ?」

「私?そんなのずっと前から決まってるよ。レイに付いてく。だって、レイと離れたくないもん」


 シャルはそう言ってキスしてきた。甘えて来ているようだ。俺は安堵する自分を感じながらも、それに応える。


 よかった。シャルステナと離れ離れにならないで済む。

 そう安堵した。そんな安堵の中、俺は不覚にもシャルステナの前で寝てしまうのだった。


 〜〜


 レイとシャルステナが公園でいちゃつく様を、気配を殺し見ていた者がいた。黙って二人を見守る表情は真剣なものであったが、どこか悲しげにも映る。


「アホか」


 そう一言馬鹿にする様に呟くと、ゆっくりとその場を後にする。残されたのは抜け落ちた金色の髪の毛と、高級な香水の香りだけだった。


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