表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/253

70.敗北からの新たな勝機

「一位おめでとうシャル。どうやってるのかわからなかったよ。詠唱しながら魔法を発動するなんて、さすがはシャルだな」

「ありがとうレイ。まだ、練習中なんだけどね。凄く集中しないと出来ないし」


 シャルステナは明るく笑みを浮かべながら、まだまだだよと謙遜していた。しかし、謙遜なんてする必要はない。今この街にいる誰にも真似できない事をやったのだ。もっと胸を張って誇って欲しい。そして、最近大きくなってきた膨らみを強調して欲しい。


 シャルステナがやった演武の何が凄いかというと、詠唱中に魔法のトリガーを引き続けたという事だ。

 俺はほとんど詠唱はしないが、複数思考を使わなければ不可能である。もっと言うと、それを使っても俺はシャルステナがやった様には出来ない。


 原則として魔法は一思考につき一種類しか発動出来ない。複数思考はその思考の数を増やすし、発動可能な魔法の数を増やすだけだ。

 つまり、思考一つ一つは独立しているのだ。


 例えば、二つ思考を使い分け、イメージをわけて交代、あるいは同時に発動するのが俺のやり方。

 一方、シャルステナのやり方は一つの思考でイメージと同時に魔法を発動させているのだ。おそらく無意識に魔法が発動するまで、繰り返し鍛錬してきたのだろう。

 とても俺には真似できない芸当だ。


 いわば、シャルステナの詠唱魔法と俺の複数思考型魔法は対極に位置したやり方だな。


「あ、そうそう、シルビアがシャルと話がしたいって」

「シルビアが?またレイの事かな?」


 用件については聞いてなかったな。だけど、おそらく俺の事ではない。

 シルビアは俺と戦う事はもうないみたいな言い方をしていた。それはつまり情報収集する必要がなくなったという事だ。ならば、俺について今更聞きに来る事もないだろう。


「違うんじゃないかな。さっき、もう戦う事はないみたいな事言ってたし……」

「えっ?何で?」

「俺のブロックの残りは制限ありで勝てる相手じゃないからだってさ」

「大丈夫だよ、レイなら。制限ありでも負けないよ」

「だといいけどなぁ」


 シャルステナは俺を励ましてくれた。だけど、俺の頭からシルビアの言葉が離れる事はなかった。

 シルビアは俺の今の状態を冷静に分析し、その上で俺が勝ち残る事はないと結論を出した様子だった。こんな言い方はあれだが、一方のシャルステナの言葉は根拠も何もなく、ただ励ましているだけに思えた。

 シャルステナにべた惚れの俺からすれば、それでも十分なのだ。

 ただ冷静に考えると、シルビアの言っている事が嘘であるとも思えず、不安を覚える。


 魔力制限ありで俺はどのくらい戦える?

 限界突破、隔離空間、魔人形は消費魔力が多すぎて使えない。

 残る仙魂スキルで使えるのは、魔工、魔装、収納空間。

 魔法を魔工で圧縮するのは消費魔力が大き過ぎるから、炎風剣改は使えない。魔爆も中規模一発が限界か。

 魔装はどれだけ相手の攻撃を受けるかにもよるが、相手がそこそこやると考えると5分もてば御の字だな。

 収納空間は城ぐらいの大きさまでなら出せるから、使い放題だが、基本的に攻撃力はないからなぁ……

 あれを使えば攻撃にもなるが、如何せん結構貴重だからなぁ。命が関わる事に使いたい。


 こうして改めて考えてみると、仙魂スキルは殆ど使えない事が分かった。

 それはつまり、仙魂スキルなしで戦わなければならないという事だ。さらには、上級…水竜は使えない。使えばそれで終わりだ。

 もっと言えば、出来れば魔法は使いたくない。消費魔力がスキルより大きいから、余裕がない時は使いたくない。


 ………結構やばくね?

 この状態で、ゴルドやアンナに勝てるか?無理だな。

 相手があの2人レベルかはわからないが、それと変わらない実力を持つなら俺が勝つのは不可能じゃないか?

 そう思えば、シルビアの言った事は腹も立たずに納得出来る気がする。


 使える魔力は1700。これを如何に節約出来るかだな。


 〜〜


『7日前に始まって以来、他を圧倒し続けてきたキッチック‼︎しかぁし‼︎今日の相手は簡単にはいかなぁい‼︎前大会でディクルド、シルビアに続き3位という好成績を収めた男、シンゲンが今日の相手だ‼︎この男もシルビア、ディクルドと同じく5年生にしてトーナメントを勝ち抜いた強者だ‼︎魔力に制限があるキッチックは果たして勝ちを奪い取る事が出来るのかぁ⁉︎』


 シンゲンと紹介された男は、長い髪を後ろで束ね、背筋がピンと伸びた男だった。背は俺よりも高く、服は着物、チョンマゲではないが日本人が思い描く武士の様な格好と佇まいを持つ男だった。


「拙者、シンゲンと申す。此度の試合宜しくお頼み申す」


 喋り方まで武士みたいな奴だ。礼儀がしっかりしていそうな印象を受けた。


「怪我が完治しておらぬのは誠に残念でござるが、試合は試合。手加減はせぬ」

「こっちも手加減して貰おうなんて思ってないさ。俺は全力は出せないけど、いい試合をしよう」


 固く握手を結んでから、俺とシンゲンは少し離れた位置で試合開始の合図を待つ。


『始め‼︎』


 試合開始の銅鑼がなった。


「さて、どんだけ足掻けるかいっちょやってみますか!」


 銅鑼がなると共に俺は駆け出す。そのスピードは普段より目に見えて遅い。


 実は固有スキルのお陰で魔力が有り余っている俺は、普段から身体強化系のスキルを常に発動させていた。

 それは魔力量を上げる目的と、咄嗟の事に対応出来る様にするためだ。

 また、当たり前の事だが、スキルは使い続ければ、その扱いが上手くなる。それはスキルレベルがカンストしてからでもだ。ある意味カンストするまではお試し、チュートリアルみたいなものだ。

 スキルを極めるという事はその先にあるものなのだ。


 身体強化系のスキルを常時発動してきた俺はそのスキルを極めたと言っていい程の域にまで来ている。

 カンスト時では合わせて体感500程しか上がってなかったのが、今では1500は上がっていると自負するまでになっている。

 だけど、逆に言えば使っていない時の下がり幅が大きい。


 今回は魔力は出来るだけ節約していかなければならないため、身体強化系のスキルも削っている。他にも空間、眼系、危機感知もオフだ。

 これらを常時発動させていては1700などあっという間に使い果たしてしまう。必要に迫られた時以外、温存しておかねばならない。


 シンゲンは開始位置から動かなかった。腰を落とし刀に手を添え、俺が来るのを待ち構えていた。

 俺は走り寄りながら、剣を抜く。昨日買ったオーガのツノで作られた新しい剣だ。


「疾っ」


 シンゲンは勢いよく刀を振り抜いた。

 抜刀術。

 最速に加速された刀が、シンゲンの間合いへと踏み込んだ俺に迫る。


「くっ」


 いつものように動かない剣をなんとか刀と体の間に滑りこませ、軽く飛んで勢いを殺す。そして、着地と同時に今度は俺が一撃お見舞いするつもりだった。

 だが、軽く飛んだつもりが、着地したのは開始位置と同じぐらい離れた場所だった。


「軽い」


 一言そう言うと、シンゲンは突きの構えで迫ってきた。そのスピードは身体強化した状態の俺と同等。

 明らかに今の俺とシンゲンの肉体に差がある証拠だった。


 俺は紙一重でシンゲンの攻撃を防ぎ続ける。ギリギリで避け軽く皮膚を切られ、剣で弾く事は出来ず、また受け止める事も出来ずそのまま飛ばされ続けた。

 まるで昨日までの試合が何だったんだと言いたくなるぐらいシンゲンと彼らには差があった。

 この差はステータスがあるからこそ出来た差であろう。

 明らかに相手になっていなかった。


「どうした?このまま何もせずに拙者に切られる腹か?」


 シンゲンは華麗な刀捌きで俺を追い詰めながらも挑発してくる。


「チッ、反発!」


 これ以上はやられると判断した俺はシンゲンを弾き飛ばし、自分も弾かれる様に後ろに飛び退く。


「ハァハァ」

「残念だ。初日の竜との一戦を見て以来、拙者、キッチック殿との試合を心待ちにしていたのだが、キッチック殿は誠に調子が悪いらしい」


 バランスを崩すことなく着地を決めたシンゲンは、頭を降りつつ肩を落とした。


「そいつは悪かった。期待に添えなくて。だけど、まだ試合は始まったばかりだぞ?」

「……心残りだが、全力を出せないキッチック殿とこれ以上試合を続けるのは無意味。願わくば先の言葉が真実である事を願おう」


 シンゲンの纏う雰囲気が変わった。

 来るか…


 俺は予見眼を使い、シンゲンの動きを待った。腰を落とし、両手で剣を持ち、その時を待つ。


 左後方からの振り下ろし!

 予見眼の教えてくれた方向に剣を振るいながら、右方向にサイドステップ。

 瞬間、予測と寸分違わぬ所へ刀が降り降ろされる。


「くっ!」


 予測、防御。

 予測、回避。

 何度同じ事を繰り返しただろうか、俺の息は上りきり、未だシンゲンは余裕を持った動きで俺を着実に追い込んできていた。


 予測、防御。

 予測、防御。

 やがて、避ける余裕もなくなり、シンゲンの振るう刀に翻弄され始める俺。毎度違う角度、方向から降り降ろされる刀に体がついていかない。

 明らかに他の強化系、あるいは何らかのスキルを併用している動きだった。

 俺がその動きを真似ようとすれば、限界突破は必須だろう。


 魔力がなければこの程度なのか俺は……


 自分の事を情けなく感じる俺とは違い、シンゲンは驚きと感嘆を感じていた。


「見事。ここまで防ぎ、逃げられるとは拙者思いもしなかった」

「ハァハァ、褒めてんのかそれは?」


 逃げてばっかに聞こえるぞ?


「無論。誠に残念である。全力のキッチック殿と戦えぬ事が。しかし、次の試合もある。そろそろ終わらせるとしよう」


 シンゲンの姿が消えた。

 瞬動か⁉︎

 そう思った俺は、直線上に剣を振るった。しかし、予見眼が示したシンゲンの出現場所は俺の真後ろだった。

 くそっ、間に合わない!

 剣を背中へと回そうとするも、間に合わない。そして、予測が実現する。


 ザシュ


 肩甲骨からお尻にかけて、斜めに切り裂かれた俺は前のめりに倒れた。

 それでも、意識は保ち、このままやられてたまるかと立ち上がろうとする。


「深い傷を負って立ち上がるとする気力は見事。しかし、此度の試合でそれをするのは愚か。キッチック殿なら既にわかっておるのでは?今の状態では拙者に勝てぬと」

「まだまだ、ハァハァ、やれるさ。切り札が残ってるからな」


 魔力も後1000は使える。

 魔爆さえ当たれば、まだ勝ち目はある。


「ならばその切り札とやらを使ってみるでござる。拙者、無意味に人を切る趣味はないでそうろう。それでキッチック殿の気が収まるのであれば、受けて立つでござる」

「ハァハァ、気前がいいな?わざわざ受けてくれるなんて」

「元々、キッチック殿だけがハンデを背負っていたようなものでござるからな」


 シンゲンはフェアプレイ精神を持っているようだ。その言葉に嘘偽りは感じなかった。


「死んでも後悔すんなよ?魔爆玉‼︎」


 遠慮なく魔爆玉を打たせてもらった。

 あの馬鹿みたいに強かった魔人にさえ、ダメージを与えたこの技を耐えれるものなら耐えてみやがれと今日使える残りの魔力全て込めて打った。


「破っ!」


 その魔爆玉をシンゲンは真正面から叩き斬った。

 無意味だ。魔爆玉は全てを破壊する一撃。斬ったところで、その破壊が止まる事はないと、俺は舐めてかかっていた。


「なっ!」


 斬られた魔爆玉は、シンゲンにダメージを与えるどころか、爆発を起こす事さえなく、消えた。

 それはもう不自然なくらいスッと込められた魔力の残りカスさえ残す事なく、綺麗サッパリと。


「拙者の刀は魔力を斬る。それが魔法であろうと、魔力の塊であろうと斬ったものは全て無に帰す」


 シンゲンは自分の力を隠す事なく、自身の力を誇示した。


「…………参った。降参だ」


 俺は両手を拳銃を向けられた時の降参ポーズのようにあげ、負けを認めた。

 降参だ。ああも見事に切り札を切られちゃ、どうしようもない。


『キッ、キッチックが負けを認めたぁ‼︎勝者、シンゲン‼︎』


 観客の大歓声が俺ではなく、シンゲンへと向けられた。


 …………悔しいな……こうして一対一の勝負に負けたのはいつ以来だろう。

 パッと思い出せるのはディクに負けた時の事。

 あの時も悔しかった。顔では笑っていたが、内心結構悔しがってたな。

 その度に次は勝つと心に誓ってたな。懐かしい…


 こうして、俺は久方ぶりの敗北を味わった。


 〜〜


「いやぁ、負けちゃった。テヘッ」

「テヘッじゃないこの野郎‼︎何負けてるんだ⁉︎アホか⁉︎アホなのか⁉︎いつもみたいにバンバンぶっ放せば勝てだろ⁉︎」


 テヘペロと可愛く許して貰おうと総司令の元に向かったら、やはりそれでは総司令の怒りは収まらず怒鳴り散らかされる。

 ライクッドがギルクをホールドしていなければ、殴りかかってきそうな勢いだ。


「いや、ほんと悪かった。どうしようもなかったんだって」

「出来ただろ‼︎後先考えずに魔力を使えばよかったんだ‼︎いつものお前ならそうしただろう⁉︎」

「いや、そうなんだが……シャルに先手を打たれてな…」

「先手だと⁉︎」


 ギルクはバッとシャルステナの方を向く。そして、シャルステナはシレッとした顔で先手の内容を語り始めた。


「レイが無茶できない様に、寝ている間に血契約したの。二週間5パーセントしか魔力使えない契約を私との間に結んだの。血契約だから、後11日間レイは何があっても5パーセント以上魔力は使えない」

「ドアホー‼︎何してんだ⁉︎」


 血契約とは契約者2人の血で成り立つ契約の事だ。この契約はかなり強力で、それを破る事は困難を極める。罰則が定められていれば、破ろうとした時、また破った時にはその罰則が課せられる事になる。

 シャルステナが勝手にした契約では罰則は定められていないが、それでも破る事は出来ないのが血契約。

 俺に流れる血が鎖となって、契約破棄を妨害してくるのだ。それを破るのは容易ではない。


「っということで、マジで無理だったんだわ。勘弁してくれ」

「シャルステナ‼︎破棄だ破棄‼︎その契約を今すぐ破棄するんだ‼︎」

「嫌よ。治癒術師として破棄できない。だってレイ絶対無茶するんだもん」

「それをさせろっと言ってるんだ‼︎今無茶しないでいつするんだ⁉︎」


 昨日の晩、契約の事を教えられた俺もギルクと似たような事を言った。すぐ破棄してくれと。

 さすがに勝手に契約したのは頂けないと、強めに言ったのだが、シャルステナは頑なにそれを拒否した。

 シャルステナの言い分は、レイはすぐ私との約束を忘れて突っ走るから、強制的にさせないとダメだからというものだった。


 こうなったらシャルステナは頑固だ。絶対に首を縦に振らない。それに、彼女の言い分もわかるのだ。俺は確実に約束を破るし、祭りと変わらない武闘大会で無理して欲しくないというのも。

 だから、俺は彼女の説得を早々に諦めたのだが、武闘大会命のギルクはしつこくシャルステナを説得中だ。しかし、その説得も結局は、無駄に終わるであろう事は目に見えていた。


「どうすんだ⁉︎こいつは明後日も試合なんだぞ⁉︎そこで負ければ終わりなんだぞ⁉︎」

「大丈夫。レイなら勝てるよ」

「そう言ってって今日負けただろ⁉︎」


 ほんとシャルステナの信頼が厚い。今日負けたのにも関わらず、次の試合は絶対勝てると信じきっている。

 その信頼にどう答えていいのやら……

 今日の試合で、シルビアの言っていた事が真実だった事はわかったからな。このままだと明後日も勝てない可能性が高い。


「シャルステナ‼︎ギルク・ラストベルクの名において命じる‼︎契約を破棄せよ‼︎」


 王子の権力まで使って契約を破棄させようとするギルク。もう最終手段だ。こいつが俺たちに権力使ってきたの初めて見た。


「嫌」


 シャルステナは権力をシレッと振り払う。こうなってはシャルステナの説得はもう不可能だ。

 ギルクにこれ以上契約を破棄させる様に説得する術は残っていない。


「もう諦めろギルク。こうなったシャルは頑固だから説得は無理だって。それより、制限ありのままでこの次の試合をどう勝ち抜くか考えた方が利口だ」

「何諦めてんだ⁉︎次の試合に負けたら敗退確定だぞ⁉︎わかってるのか⁉︎」


 胸ぐらを掴み縦に激しく振るギルク。


「いやだから、負けないように何か考えようって言ってんだ。どうせ相手の情報持ってるんだろ?とりあえずそれを教えろよ」

「本当に制限ありでどうにかなるんだろうな⁉︎」

「とりあえず話してみろって。聞かないとわからん」

「ッチ、仕方ない」


 舌打ちしながらも、少し落ち着いた様子を見せるギルク。やっと怒りが治まってきたようだ。


「相手選手の名前はルーシィ・ヒュールキャス。帝国貴族の家系で幼い頃から英才教育を受け、魔法学校でシルビアに次ぐ実力の持ち主だ。得意魔法は風と水。近接戦闘では主に槍を使うそうたが、その実力はイマイチだ。後、魔法は詠唱抜きで発動してくる。威力はシャルステナやシルビアには及ばないが、発動スピードだけは大したものだ。今年の試合では、全て開始直後の魔法一発だけで勝ち残ってきている。今までの試合で使った魔法は既存の魔法だけで、特筆すべきものはなかった。おそらくオリジナルを作るタイプではない。主流の魔法で攻めてくるタイプだ。それと、趣味はガーデング。好きな物は花。口癖は…」

「そんな情報はいらん。戦い方だけで十分だ」


 趣味や好きな物まで情報を集める必要あったか?

 何でそんな事知ってんだよ。


「で、俺が勝てる確率は?」

「今日の調子なら0だ。近づく前にやられる」

「ってことは魔法でやるしかないわけだ」


 0か。厳しいな。こいつの目は結構信用出来るからな。伊達に武闘大会の大ファンやってるわけじゃないだろうし。


「殆ど使えない癖にどうやるんだ?どうせお前のお得意魔法は全ておじゃんだろ?」

「その通り!って何でわかるんだよ?」

「アホめ。お前の魔法を今まで一番喰らってきたのは誰だと思っている」


 胸を張るとこが違うと思うが、本人がいいのなら別にいいや。面白にも譲れない誇りの様なものがあるだろう。


「後簡単に思いつく方法は、魔力がなくなるまでひたすら逃げ続けるとかか?」

「無理だな。彼女は魔力2万を超える猛者だぞ。それに消費魔力の少ない魔法を得意としている。そう簡単になくならないぞ」

「何で他人の魔力量まで知ってんだよ?」

「フッ、俺を誰だと思っている。この程度朝飯前だ」


 王子という立場は他国の人間の個人情報さえ、簡単に入手出来てしまうらしい。


「魔力2万かぁ……」


 単純に考えてS級クラス。

 この魔力量で俺がS級を倒せる技といえば、あれしかない。一瞬で相手との距離を詰め、その勢いそのままに拳をぶち当てる瞬打。しかし、ここで一つ問題が出てくる。

 あの技は威力が高過ぎるのだ。A級の魔物なら一撃必殺も夢ではない程に。


 だが、試合で使うとなると話が変わってくる。

 おそらくあの技を使えば、殆どの奴が一撃で絶命してしまう事になるだろう。粉々に吹き飛ぶなんて事になりかねない。耐えられるとすれば、ディクと今日戦った侍ぐらいだろう。肉体派の奴でないと打ち込むのは怖い。

 これはあくまで試合なのだ。命のやり取りはご法度。

 勝負に勝っても、試合は負けてしまう。

 それに俺も意味もなく人殺しなどしたくはない。


 それ以外で勝てそうな技は炎風、氷風の二刀流か。だけど、段数制限を考えれば余りいい方法とは思えない。聞けば水魔法が得意という事だから、炎風剣はほぼ無意味。さらに風魔法も得意らしいから、自身の周りに強風を撒き起こされるとそもそも風の刃が通らない可能性がある。

 こっちもダメだな。

 不安要素が多い技に魔力を使う余裕はない。


 後は身体強化と瞬動、後竜化して攻める方法か。

 一番可能性はありそうだが、なさそうでもある。

 ギルクの話からすれば、魔法のみで勝ち上がってきた選手のようだ。対応策は用意していると考えていいだろう。

 その対応策を魔力が尽きる前に打ち破れるか、正直賭けだな。


 …………切り札を切るか?

 いやダメだ。あんなもの使えば1分も経たずに魔力が切れる。


 手詰まりだ。

 今から新しい戦闘方法を模索するにしても、魔力がないから試行錯誤する事が出来ない。

 それはつまり今あるものだけでどうにかこのピンチを乗り越えなければならないという事だ。


 俺は腕を組み、ああでもないこうでもないと試行錯誤を続ける。

 ギルクも同じく試行錯誤し、時折思い付いた方法を話してくるが、どれも不安要素が拭えない。

 試合とは本来そういうものかもしれないが、王立学院を背負っていると言っても過言ではない俺の立場上安易な結論を出すことは躊躇われた。


「その瞬打という技は手加減出来ないのか?」

「出来ないな。するとしたら、瞬動以外の他のスキルを全て発動させないようにしないといけない。だけど、それだと俺もかなりのダメージを食らうし、おそらく一撃必殺にならない。あの技はそもそも手加減するように出来てないんだ」


 手加減を考える必要が今までなかった。あれを使う相手は魔物か竜だけだったし、むしろ考えるのはどうより強力な技にするかだった。

 あの技は消費魔力がお手軽な分、手加減出来ないのが弱点だ。


「鳳凰は……使えないか。前の奴ならどうだ?」

「相性が悪い。風魔法との相性が最悪なんだ。前にシャル相手に使った時跳ね返された」


 あの時はビビったな。近くにリスリットがいなければ、自分の技で焼かれるところだった。


「単純に攻めるのは……愚策だな」

「ギルクもそう思うか?」

「ああ」


 やはり俺の考えは正しかったか。

 司令がそういうのなら間違いない。どうせ対応策の一つや二つご存知なのだろう。

 それを考慮し、愚策というのならやるべきではない。


「ミニ水竜なんてどうだ?」

「アホ、あれはデカイから意味があるんだ」

「土の人形に武器持たせて特攻は?」

「それは切り札として用意してるが、1分持たない」

「魔力暴走攻撃は?」

「あれは相手を捕まえないと当てられん」

「ならば、空を飛んで…」

「暴風壁使われたら終わりだ」

「お前の財力に物を言わせて賄賂」

「それだ‼︎」


 ナイスアイディア‼︎

 それだよ、それ!5千万も渡せば勝ちを譲ってくれるに違いない!


「だ、ダメだよ二人とも!」

「止めてくれるなシャル。これしかないんだ」

「そもそもシャルステナが契約を破棄すればこんなに悩む事はなかったんだ」


 ギルクと二人で相手選手のところに行こうとすると、シャルステナが扉の前に両手を広げ立ち塞がった。


「バレたら出場資格取り下げになるかもしれないんだよ?」

「こんな名言がある。バレなければ犯罪は犯罪にならない」

「それただの犯罪者の言い訳だよね⁉︎」


 バレなければそれは罪を犯していないのだ。


「そういえば俺も昔、城の牢屋に入っていた奴からこんな事を聞いた。バレても風呂付き、飯付き、トイレ付きと」

「だからそれも犯罪者だよね⁉︎」


 しかもタダと。


「みんなも止めてよ!」


 シャルステナはアンナ達に助けを求めた。


「あたしは別にどっちでも。バレたらバレたで面白そうだし」

「私は身代わり、私は身代わり」


 興味なさげなアンナと、いつの間にかトラウマと戦っていたリスリット。

 ゴルドは現在アンナの足の下でおねんね中。シーテラはそもそも俺の味方なので放置。セーラはよくわかっていない様子。

 ハクはおねんね中。ライクッドは読書中だ。


 つまり、シャルステナに味方はいなかった。


「ひどいよみんなぁ」


 泣き言を言うシャルステナだったが、そもそもの事の発端は契約を勝手に交わした事にある。


「どいてくれシャル」

「どかない!」

「レイ、裏口から……」

「行かせないよ!」


 シャルステナは裏口を巨大な氷の壁で覆った。

 そのすぐ側で本を読んでいたライクッドがその冷気に体をブルッと震わせ大きなくしゃみをした。


「ハクション‼︎な、何ですかいきなり?寒いんですけど……」

「レイ達が賄賂で勝ち抜こうとしてるから、止めてるのよ!ライクッドも手伝って!」

「えっ?僕が本を読んでいる間に何でそんな事になってるんですか……」


 ライクッドは全くついていけてない様子だった。この場にいながら全く話を聞いてなかったようだ。


「ライクッド先輩命令だ。絶対手伝うなよ」

「俺からは王子命令だ」

「なんかよくわかんないですけど…………そもそも賄賂なんて要ります?」

「そういう結論に至ったんだ」

「あぁ、なるほど。全部わかりました。レイさん達一つ忘れてますよ」


 忘れてる?何が?


「トーナメントのルールを思い出してくださいよ。その中にテイマーはテイムした魔獣を連れて参加してもいいって書いてあったじゃないですか」

「「ハク!」」

「ピィイ?」


 ギルクと俺はライクッドの説明を聞いて同時に気が付いた。

 そうだよ、ハクを連れて出てもいいんじゃないか!

 俺とギルクに名前を呼ばれたハクは目を覚まして、キョトンとしていた。


「はい、これでいいですよね。魔法といてくださいよ」

「なんか……」

「ああ……」

「早く言えや、だろ?」


 俺がシャルステナとギルクの気持ちを代弁してやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ