69.女神と邪神
「お疲れ様。余裕そうだったね。ハラハラしなかったし」
「そりゃあ、シャルをハラハラさせてなるものかと、必死だったからな」
「嘘ばっかり」
試合が終わった後は必ずシャルステナが待ってくれている。わざわざ観客席から駆け付けて、選手控え室の前まで迎えに来てくれるのだ。
「次はシャルの出番だな。ハラハラさせないでくれよ?」
「私の出る競技は安全だもん。ハラハラなんてしないよ」
「いや、シャルがずっこけてパンツを公衆の面前に晒したりしないか、彼氏の俺はもう既にハラハラしてるよ」
「そ、そんな事しないもん!」
顔を真っ赤に染めて、抗議するシャルステナ。
あー、なんかシャルステナが恥ずかしがってるとこ見ると和むなぁ。昔を思い出して。
こういうのが、ノルドの言っていた事に当たるのだろうか?
「少し時間があるけど、どうする?」
「そうだなぁ。試合を観に行ってもいいんだけど……やっぱ剣がないと困るから、鍛冶屋に行こっかな」
毎回毎回ああやって出すのも面倒だしな。魔法で作ってもいいんだが、出来れば魔力は温存して置きたいからな。
「えっ?予備結構沢山持ってたよね?さっき一杯あった様に見えたんだけど…?」
「あれは安もんだ。あんな剣じゃ一試合毎に変えなきゃいけなくなるからな」
「そ、そうなんだ。うん、じゃあ剣を見に行こうよ」
そうして俺とシャルステナは街へ繰り出した。
まずはシャルステナが俺の剣を預けたという店に向かった。
「こんにちは」
「らっしゃい。ああ、お嬢ちゃんか。悪いが、やっぱりあの剣はダメだ。いい剣だが、その分ああまで綺麗に折れてちゃ直しようがねぇ」
「そうですか……」
「そっちの坊主があの剣の持ち主か?」
「そうです」
「まだガキの癖にあんな一丁前の剣持ってやがったのか。ほらよ。一応繋げてはあるが、所詮は応急措置だ。すぐにまたポキっといくぜ」
カウンターに置かれた俺の愛剣を受け取り、鞘から引き抜く。見事に真ん中で折れていたようで、そこにくっ付けた跡が残っていた。
これはもう無理だな。プロが言ってんだし、当たり前か。
「ありがとうございます。幾らですか?」
「1万5千ルトだ」
安いな。
シャルステナはなんとかして俺の剣を直してあげたいと思い、この店に預けた。それはここは街で一番高い鍛冶屋だったからなのだが、金銭感覚がバグっている俺はそれに気付く事もなく金を支払った。
「まいど。どうする?替えの剣も買ってくか?」
「とりあえず見せて貰っても?」
「構わねぇさ。出してる物なら手に持ってくれて構わねぇから、決まったら言ってくれ」
店主はそう言うと奥に引っ込んでいった。
俺は店内をずらりと見渡し、気に入ったものを手に取って振ってみる。
「うーん……違うな」
「これなんてどう?オーガのツノを使ってるんだって」
「どれどれ」
シャルステナのおすすめを手に取り振ってみる。
うん、なかなかいい。だけど、前より劣るって感じだな。
どんだけいい剣4歳児に買ってきたんだよ、あの親父は……
A級の素材使った剣よりいい剣て……
「なんか不満そうだね」
「うん、なんていうか前の方が良かった気がする」
「レイの剣て何で出来てるの?」
そういえば知らないな。
余り剣の事は詳しいわけではないが、剣には核とも言える素材があるらしい。それにより性能が大きく変わるそうなのだが、俺は自分の使っていた剣が何で出来ているのか知らなかった。
「知らない。親父からプレゼントされたから」
「あー、なるほど。あの人なら魔剣クラスの剣買ってきそうだね」
「本人が魔剣使いだしな。まぁ、正直4歳児に買ってくるものではなかったな」
若干呆れながら言った。
その後も何本か剣を見たが、シャルステナが見つけて来てくれた剣以上のものはなかった。
「とりあえず、この剣でやってくか……」
「とりあえずって、それ中々の名剣だと思うよ?値段も一番高いし……」
「そうかな?まぁ、いい剣だとは思うけど、安いしな」
「どこがよ」
この剣は貴族の娘であるシャルステナから見ても高いらしい。
どうやら俺の金銭感覚は末期のようだ。
「すいませーん!これください!」
「うわぁ、迷いがない……」
シャルステナが迷いなく高価な品を買おうとする俺に若干引いていた。
「おうよ!どれにしたんだ?」
「これ」
「おいおいおい、その剣はおめぇ見てぇなガキが買えるようなもんじゃねぇぜ」
「大丈夫大丈夫。お金ならあるよ」
俺は収納空間からお金を取り出しドンとカウンターに置いた。その額750万ルト。
「かぁー、これだから貴族のボンボンは」
「貴族はこっち、俺は平民」
俺はシャルステナを指差し、平民である事を伝えた。すると今度は、
「なせけねぇ、女に金出してもらうのか?」
「いやだから、俺の金だから」
といった風に全然信用してくれなかった。
「はいはい、持ってけ持ってけ。あんまり彼女にたかるんじゃねぇぞ?」
結局最後まで店主が俺の言うことを信じる事はなかった。
〜〜
剣を買った後2人で食事を取り、シャルステナは控え室に俺は観客席へと向かった。そこでギルク達と合流し、シャルステナの出番を待った。
「シャルがこけてパンツを見せびらかさないか心配だぁ。ドキドキハラハラする」
「俺はドキドキワクワクだな」
俺がシャルステナの心配をしていると、ギルクが横で期待するかのような目をして言ってきた。
「ハラハラだ」
「ワクワクだな」
「ハラハラ」
「ワクワク」
「ちょっと二人とも!また揉めないで下さいよ!どっちでもいいじゃないですか!」
俺とギルクが張り合っていると、リスリットがシャルステナの代わりにと止めてきた。
駄犬に止められるとは…
「シャルステナのパンツはドキドキハラハラワクワクするパンツなんだね」
「どこに冒険に行ったらそんなパンツと出会えるのよ。あたしが見てみたいわ」
お前らバカップルやめて漫才コンビ組んだのかと言いたくなる様なボケとツッコミを見せるゴルドとアンナ。
お前らはいったいどこを目指してるんだ?
『検索結果。残念ながら私のアーカイブにはドキドキハラハラワクワクするパンツに該当するものはありませんでした』
「あるわけないでしょうが」
「お前ツッコミ担当になったのか?」
素朴な疑問をぶつけてみた。
「んなわけないでしょうが!お断りよそんな担当。面白とセットにされるわ」
「いいじゃないか。何なら俺の代わりに面白までやってくれてもいい」
「い・や・よ!」
ギルクの誘いを断固拒否するアンナ。
「ドキドキハラハラワクワクするパンツ、セーラもほしーい」
「ドキドキハラハラワクワクするパンツはな、幻の国と言われているパンツ大帝国にしかないだ。だけど、そこには頭からパンツを被った様な変態しか行くことが出来ないから、ノーマルな俺たちには行くことが出来ないんだ」
子供の夢を壊さないようやんわりと不可能であると伝えたつもりだった。しかし、不可能である理由がよくなかったようだ。
「えぇー、じゃあセーラもパンツ被る!」
「ダメだ。早まるな。アンナみたいになるぞ。絶対やっちゃいけない」
案外簡単に行けるんだとセーラがパンツを被ろうとした。女将さんから大事な娘を託されたいわば親代わりの俺は慌てて止める。
病気を治すために旅立った娘が変態になって帰ってきたりしたら、女将さんに合わす顔がない。
「パンツ大帝国……どんなところなんだろ〜?」
「全てがパンツで出来た国だ。建物も、道も、はたまたパンツまでパンツだ」
セーラにまた嘘つき呼ばわりされないためにも、パンツ大帝国創始者の俺が答えてやらねばいけない質問だったので、自分でも何言ってんだろと思うような答えを作り、何とか誤魔化す。
「いや、最後のは違うでしょ」
「パンツまでパンツ…‼︎」
「いや、あんたはどこに衝撃を受けてんのよ⁉︎ていうか、素直すぎ!何歳よあんた⁉︎」
アンナのツッコミが冴える。やはりツッコミに転身したようだ。
『パンツ大帝国聞いたことない国です。私のアーカイブにも載せておきます』
「ああ、変態要注意とも載せておいてくれ」
「レイさんレイさん、もうふざけるのやめましょうよ。3人ほどパンツ被ろうとしてますから」
ライクッドの言う三人とは、シーテラ、ゴルド、そしてリスリットだ。セーラは俺が必死に止めているのでしてない。
「何であんたも被ろうとしてんのよ⁉︎」
「えっ?私も見てみたいなぁ何て?」
ここにもパンツ大帝国の存在を信じてやまないものがいた。
「ないからそんなパンツ!履き直しなさい全員!」
「待て!ゴルド以外のパンツは俺が貰おう」
「黙れエロ王子‼︎」
カッと目を見開き、真剣な表情で割り込んできたギルクの顔面にアンナの渾身の右ストレートが炸裂。
ナイスパンチ。
いやぁ、楽だわ。
代わりにやってくれるから。
〜〜
『エントリーナンバー82‼︎ シャァルステナぁ‼︎ 2年前ディクルドと激戦を繰り広げた彼女だが、今年は魔法演武にのみの出場だぁ‼︎ シルビアに勝るとも劣らない美少女であり、またその優しい笑顔に骨抜きにされた男は数え切れない‼︎だかぁしかぁし‼︎ 浮かれることなかれ‼︎ シャルステナはこの大会の歴史上最も危険な人物の女だぁ‼︎ 手を出そうものなら、命はないぞぉ‼︎』
どういう紹介だ。
シャルステナも困ってるじゃないか。笑顔が引き攣っている。彼女まで危険視されるじゃないか。
別に俺が危険視されるのは構わない。面倒事も減るだろうし、間接的にシャルステナを守る事に繋がる。いい事尽くめだ。
ただ、ファンの中に蹴ってくださいとか、燃やしてくださいとか言ってくる奴がいる事というか、殆どなんだが、そいつらがいるのがデメリットだ。
変態はどこにでもいるらしい。
まともなファンが欲しいものだ。これじゃあただの変態の集まりだ。
「ねぇねぇ、危険人物さんからはなんかないの?」
「シャルの一位通過は確定だな。可愛いから」
「そういうのいらないからマジで」
のろけはいらないと冷めた目で見てくるアンナ。だが、俺は言いたい。いっつもお前らのバカップルぶりを見させられている俺たちの身にもなれと。
偶には俺にも惚気させろ。
『それではシャルステナ選手の演武スタートです‼︎』
司会者が演武開始を告げる。
その声を聞き、シャルステナは静かに目を閉じた。集中を高めているのだろう。
いったい彼女がどんな魔法を唱えるのか楽しみだ。
俺より遥かに魔法の才があるシャルステナの事だ。きっと真似できない様な素晴らしい魔法を唱えてくれるに決まってる。
「氷の記憶、女神の物語を紡ぐ」
シャルステナは魔法名を唱えなかった。それどころかまだ詠唱中なのに魔法が発動する。
それは氷のオブジェだった。冬の太陽に反射し、キラキラと輝いている。
氷のオブジェは3っつ現れた。どれも人の形をしている。
一つは、小さく長い髪の女の子。一つは、異彩の施された剣を持つ男。そして、最後の一つはみすぼらしい格好をした男。
「出会いは必然、聖女、勇者、そして盗賊。山を越え、川を越え、三人は世界を巡る」
オブジェで作られた三人はゆっくりと歩き、その周囲の風景だけが、移り変わる。
「平和に過ぎる時は尊い。平和の中で起こった争いは世界を、三人を巻き込んでいく」
燃える山、死体が流れる川、そして醜い争いを繰り広げる人々。それを呆然と立ち止まり眺める三人。
その顔は始めに作られたオブジェのままで、感情を読み取る事は出来ない。
「やがて争いは三人にも牙を剥く」
燃える山が、死体で埋め尽くされた川が、そして戦争を繰り広げる様子を描いていた氷が一つに集まる。
「争いは終焉を迎えた。一つの大罪を残して。人の欲望が、憎しみが、そして悲しみが一柱の神を生み出した」
集まった氷は巨大な氷の塊となった。魔物とも悪魔とも見て取れるその容貌は、とても恐ろしく、そして強大な脅威として三人の前に立ち塞がった。
三人の後ろにはいつの間にか街が、そして様々な容貌の人々が現れていた。
「邪神。それは大罪を犯した人類への罰」
邪神が一歩踏み出す。
始めに聖女と呼ばれた少女が消えた。
また、一歩踏み出す。
次は街が消えた。
また一歩。
今度は異形の化け物が現れた。
そしてまた一歩、また一歩と踏み出すたびに異形の化け物は増え、人や街はその数を減らしていく。
「人類は滅びかけていた。罰の前に」
約半数が滅びた時、一歩踏み出す者がいた。
始めに現れた二人だ。
彼らが一歩踏み出すたびに、化け物はその数を減らしていく。
「勇者は聖剣と与えられた力を使って、盗賊は盗んだ力を使って、罰に抗った」
二人は一歩、一歩と踏み出し、邪神もまた一歩踏み出す。
やがて三人の間に距離はなくなり、触れられる位置まで近づいた。
そして、邪神はその両の手を2人の胸に突き刺し、勇者は剣を、盗賊は手を伸ばし邪神の体に触れた。
「罰は消えた。2人の死を引き換えに」
お互いを殺しあった三人を象る氷が崩れ落ちる。
地面に雪の様に散乱した氷は再び一つに集まる。
それは始めに消えた少女だった。
「聖女は共に旅した彼らの死を悲しんだ」
蹲り泣く少女。
「時は流れ、聖女は立ち上がる」
少し大きくなった少女はしっかりとした足取りで立ち上がる。
「2人の残した物を守る為に」
少女が一歩踏み出すと、街が増えた。そして人も。
それは復興の様に見えた。
そして、人々はその少女の周りに集まる。
側から見れば崇められ、聖女として文句ない扱いを受けている様に見えた。
しかし、少女の顔は優れない。
「平和になった世界で聖女は人々に祭り上げられ、やがて女神となった」
聖女に羽が生え、宙に舞い上がる。そして…
「女神となった彼女は、国を越え、海を越え、そして時を越え、世界を巡った」
女神の下の景色が次々に移り変わる。
そして、始めに現れた二人が姿を現した。
「やがて女神は降り立つ。愛する人の元へと」
ゆっくりと二人の元へと降り立つ女神。
「女神の記憶」
魔法名が綴られた。
その瞬間、氷が弾けキラキラとシャルステナの周囲を幻想的に照らし出す。
シャルステナの魔法に見入っていた観客達は一斉に拍手を送り出し、指笛まで聞こえてくる。
スタンディングオベーションで歓声を送られるシャルステナは少し恥ずかしがる様な仕草を見せてから、俺の方を見て微笑んだ。
俺は手を高く上げシャルステナに見えるように拍手を送る。
「見事だぁ!素晴らしいぃぃ!女神の神話を魔法で表現するとは‼︎」
「女神の神話?」
俺の質問など耳に入ってもいないのか号泣し拍手を送り続けるギルク。王子の威厳なんてあったもんじゃない。まぁ、元からあるかは怪しいもんだが……
「レイさんは知らないんですか神話?」
「邪神ならちょっとは知ってるぞ。後竜神の」
神話って事は神の話だろ?
女神の事は知らないが、実際に会ったことのある竜神とその時に教えてもらった邪神の話は知ってる。
それを神話と呼んでいいのかは置いておいて……
「まぁ、女神の神話はあんまり有名じゃないですしね。人気なのはやっぱり死神の話ですもんね」
「そっちも知らないな」
死神の話ねぇ……
聞いた記憶がないな。
「えっ⁉︎子供の時聞かされなかったんですか?悪い事すると死神に殺されるぞって話」
「なんだそれ、なまはげか何かか?」
「逆にそのなまはげってのがわかりませんよ。何ですかそれ?ツルツルなんですか?」
「まぁ、その死神と似たようなもんだよ」
子供が泣きそうな点では……
それにしても死神が子供を怖がらせる為に使われてるのか……
案外、死神なんて神はいないのかもしれないな。加護ももらえないしな。それでいくと、女神もか。女神も実は架空の存在なのかもしれないな。
「シャルステナさんの演武は女神と邪神の神話を題材にしてたみたいですね。女神の神話は聖女が街を発展させ、国を作り、人々を癒していったって話なんですよ。冒険とかそういう話はほとんどなくて、あまり人気がないんですよ。それに、邪神の神話を織り交ぜて、最後をハッピーエンドにしてますからね。これなら結構人気出そうですよ。邪神の神話は勇者と盗賊が相打ちになったところで終わってますからね。ハッピーエンドが好きな子供達には人気ないんですよ。けど、その二つの話を繋げるなんてシャルステナさん流石ですよ!いや〜、またみたいですね。後、途中で登場した燃える山あるじゃないですか。あれって……」
一人でどんどん盛り上がるライクッド。
聞く奴を間違えた。こいつに英雄譚とか、こういう話は聞いたらダメなんだった。
俺は空耳の様にライクッドの話を聞き流しながら、ウンウンと適当に相槌を打つ。
その傍で号泣するギルクをリスリットのところに蹴り飛ばし、挟み撃ちを未然に回避する。
あとはこいつをどうするかだが……
周りに目を向けてみる。
シーテラは相変わらず無表情で、まっすぐにシャルステナを見つめていた。何か思うところがあるのか、その目は真剣だ。そんなシーテラにキャッキャッと飛び回りながらセーラが騒いでいる。
この二人はナシだな。
次に目を向けたのはアンナとゴルド。未だパンツ談義に花を咲かせる二人。邪神のパンツがどうこう言ってる。
一体どうしたらそんな話になるのか凄く気になる。おそらくゴルドの天然あってこその結果だろう。
このままどこまで話が膨らむのか見ていたい気がする。
しかし、そうなるとこの面倒な奴を押し付ける相手がいない。自分から聞いて置いて黙れと一発入れるのもアレなので出来れば誰かに押し付けたいのだが……
「キッチック……」
「うん?」
声がした方を振り向くとシルビアが立っていた。その目は昨日よりは優しい。
やはり昨日は機嫌が悪かったようだ。
「シャルステナと話して良いだろうか?」
「はい?そんなの俺に聞かなくてもいいだろ?お好きにどうぞ」
何でわざわざ俺に聞きに来たんだか……
さっき司会者がいらんこと言ったからか?
「レイさん、聞いてるんですか⁉︎今いいところですよ⁉︎」
「聞いてる聞いてる。シャルの想像力が凄いって話だろ?」
「ちっがいますよ‼︎シャルステナさんの魔法に出てきた山の話ですよ‼︎」
うっぜぇー
もう殴って黙らせてもいいかな?
面倒くさくなってきた。
「その話私にも」
「えっ?」
「もちろんです‼︎シルビアさんですよね⁉︎さっさっ、どうぞ。しっしっ、レイさんはもういいですよ」
この野郎ぅ‼︎
人を虫みたいに払いやがって‼︎人が弱ってる事をいい事に調子に乗ってんじゃねぇぞ‼︎
お前ら後輩二人は、後で処刑だ。
ライクッドは俺を払うように追い払い、シルビアを代わりに手招きした。
手招きに応じ、シルビアは俺がいた場所に座ると、ライクッドに待ってといい、俺の方を向いた。
なんだ?さすがに今のは悪いと気を使って謝ろうとしてるのか?
そんな事を考えてシルビアの言葉を待った。
「……残念。あなたと戦う事はもうなさそう」
「はぁ?」
何?こいつも俺を怒らせたいの?みんなしてなんなの?
「魔力がほとんど使えないあなたじゃ、後の二人には勝てない」
「なんだそれ……まだやってもないのにわかるわけないだろ」
「あなたも運がない。残りの二人は前回3位だった子と、魔法学校で私の次に強い子。さっきの戦いはみた。相変わらずおかしな魔法を使ってたけど、ただの剣技で勝てる程あの二人は甘くない。見た所、魔法も上級を放てればいいとこじゃないかしら?」
「よく見てんなぁ。その通り」
あの駄犬が口を滑らした今隠す必要もないと、正直に言った。
「眼はいいから」
意味深な言葉を返してきたシルビア。
眼……か。
眼系スキルを極めてるのか?
「だから、残念。いつかまたどこかで機会があれば模擬戦でもしましょ」
「やなこった。どちらにしろ、あと1勝すれば上には上がれる可能性はあるんだ。勝ち残って見せるさ」
その2人がシルビアの言う通り強敵ならば、俺の戦った二人には勝つ筈だ。となると、この時点で戦績は3人とも2勝0敗。
俺が二人ともに負けると2勝2敗で敗退決定。後の二人は3勝以上で本戦進出。
逆に俺が勝てば俺がブロック一位通過で、残りのどちらかがあがってくる。
一番わかりにくいのは、俺が一勝しか出来なかった場合。その場合はその2人の試合によって延長戦も考えられる。
同点の場合はその2人の間での試合の勝者が抜けるというルールだから、全員3勝1敗なら延長戦だ。
そうでないなら、二位で抜けられる。
つまりだ、一勝すればいいわけだ。どうにかなるだろう。
「そう、出来ればいいわね。……ごめんなさい。話を中断させて、初めから聞かせて貰えるかしら?」
「はい‼︎まっかせといてください‼︎」
シルビアは無理でしょうけどと言った笑みを向けてから、ライクッドに向き直る。
そして、ライクッドは俺が勝ち残れるかなんてどうでもいいように嬉々として話を始めた。
もっと先輩の心配をしたくれてもいいんじゃないか?
ほんと可愛くない後輩だ。
そんな事を思いながらも、面倒を押し付ける事には成功したので、シャルステナを迎えに控え室へと俺は向かうのだった。




