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68.魔力制限

 俺はまたあの場所に来ていた。浮遊感とは違う、真っ白なキャンパスの上に俺という絵の具を一滴垂らした様な孤独感を味わいながら、世界に問いかける。


「いるのかノルド?」


 ポツンと存在する自身と、その世界の境界が少し曖昧で、それでいてハッキリしているそんな場所。そんな世界が彩りを持ち始める。


「いるにはいるが、何慣れきってんだこの状況に」


 少しは抵抗しろと言いたげな声が聞こえた。シャルステナが来て安心して、ノルドに会えるかもと期待して目を閉じた俺は、苦笑いしながら声がした方に目を向けると……うん?目?あれ?体があるぞ?


「ここは俺とお前の精神世界だ。俺とお前の繋がりが深まれば、この世界は豊かになる。具体的にいうと、今お前が不思議に思ってる様な事が起こる」


 俺が不思議そうな顔をしていると、俺の思考を読んでノルドが説明してくれた。

 ノルドのいう繋がりが何かはわからないが、それが強まったお陰で、こうして顔を合わせる事が出来たという事なのだろう。


「それで?今回はどんな感じ?どうせ時間はないんだろうけど……」

「わかってるなら聞くな」


 大袈裟に肩を落とすノルド。


「また夢を見せるか?」


 前は夢で時間を引き延ばしていたから、またそうするかと聞いてみた。すると、何故か物騒な言葉が返ってきた。


「いいや、今見せたらお前が消えちまう」

「はぁ⁉︎」


 夢を見るだけでなんでそんな物騒な言葉が出てくるんだよ。

 何?そんな危ないもん見せてたの俺に?


「いいか?お前は自分で思ってるより不安定なんだ。普通なら耐えられる事にお前は耐えられない」


 絶賛パニック中である俺を放置し、ノルドは至って冷静に話す。


「いやいや、ちょっと待てよ。俺が不安定?そんなわけあるか。お前も見てたならわかるだろ?断崖山の時だって、何度限界を超えたかわからないぐらい頑張れたんだ。耐えられないわけないだろ」


 俺の言い分にノルドはわざとらしくため息をつく。

 え?何かおかしな事言ったか?


「お前馬鹿か?肉体の話をしてるじゃない。魂の話をしてんだ」

「魂…?」

「そうだ。お前の魂は他より脆い。簡単に崩れさってしまう」


 ノルドの淡々とした口調が、それが嘘ではない事を裏付けている様だった。

 何故そんな事がわかるのか、何故俺の魂は脆いのか。

 聞きたい事はまた増えた。だけど、それらを差し置いて俺の口から出たのは……


「……だから、セルナの記憶を奪ったのか?」


 セルナの事だった。


「そうだ。……俺を恨むか?」

「…………」


 俺はすぐに答える事は出来なかった。


 俺自身はノルドを恨んでなどいない。だけど、胸の奥に悶々とした何かがあるのも俺はわかっていた。

 それが何かわからず、俺は言葉を詰まらせたのだ。


「……恨んではいないと思う。……これは…そう、虚しい…」


 何が虚しいのかまではわからない。だけど、俺の中の俺はそんな思いを俺に伝えてきた。


「そうか。だけど、それはもう一人のお前の気持ちだろ?お前自身はどうだ?」

「俺は恨んでなんかいない。むしろ感謝してる。この世界に転生させてくれた事を」


 今度はすぐに答えを出せた。

 俺は本当にノルド事を恨んでなどいない。何度かアドバイスもしてもらったし、夢も見せてもらった。そして、何より転生させてもらった。

 恨む理由がない。


「俺がお前から大切な記憶を奪っていたとしてもか?」

「……例えそうだとしても、奪わなければ俺は消えてたんだろ?なら、お前を恨むのはお門違いだ」


 本当のところどうなのだろう?

 俺がこいつを恨む理由がないのだ。それは記憶がないからに他ならない。だけどもし、俺が全て思い出したらノルドを恨む事になるかもしれない。

 だが、少なくとも今は恨まないと思いたい。


「……へー、てっきり恨まれるかと思ってたがな。まぁ、この話はこの辺にしておこう。時間もないしな。一つアドバイスというか、忠告をしておく」

「なんだ?」

「シャルステナを失った時、お前は消えるぞ」

「……だろうな」


 話の流れからしてそれはわかっていた。

 きっと今の俺はシャルステナを失えば耐えられないと。


「……他は…ギルク達もか?」

「さぁな。そこまではわからん。だが、今のお前がシャルステナを支えにしているのは確かだ。その支えが消えれば、すぐに倒れて崩れるぞ」

「そっか……そうなったら、また俺の記憶を奪うのか?」

「ああ。お前に消えてもらうわけにはいかないからな」


 つまり、シャルステナを失った時、俺は彼女との思い出を全て失うのか……

 嫌だ……だけど、自身まで消える事になるのなら、どっちがいいかなんてわからない。


「……」

「そう深刻に考えるな。要は彼女を守り抜けばいい話だろ?」

「簡単に言ってくれるなぁ」


 だけど、少し気が楽になった気がした。そうだよな。今までと変わらない。失いたくないなら、守り抜けばいい話だ。その為に今まで頑張ってきたんだ。


「あともう一つ、お前セーラを連れ出す事でレイジを受け入れたとでも思ってるだろ?」

「そうだけど……何か問題あるか?」

「はっきり言ってやる。それは受け入れたんじゃない。感情に流されただけだ」


 感情に流されたか……

 けど、それが受け入れるって事じゃないのか?

 俺があいつの心を受け入れる。そういう事じゃないのか?


「なら、どうすればいいんだよ?セーラを連れ出さなかったらよかったのか?」

「違う、そうじゃない。それ自体は別に間違ってない。ただな、お前が勘違いしてるようだったから言っただけだ。俺も確実なとこはわからないが……救ってやれ、あいつを。あいつの思いに応えてやれ。たぶんそういう事だ」


 その言葉を最後にノルドは消えていった。またなと、軽く手を振りながら。

 俺も軽く手をふり返す。死に掛けてる時に何やってるんだろうとも思わなくもない程、穏やかな別れだった。

 そうして俺も、現世へと戻っていった。


 救ってやれか……


 〜〜


「ふぅー、戻ってきたか」


 ノルドとの邂逅を終え、俺は宿の一室で目を覚ました。

 髪をむしりながら体を起こし、窓の外を見る。外は明るく、日が昇りきっていないことから、まだ朝だと判断する。


「問題は何日寝てたかだな」


 ノルドと会える時間は短い。ほんの数分程度。それにも関わらず、目を覚ますとかなり時間が経ってしまっている事が前にあった。

 あそこと現実で時間の流れが違うのか、単にノルドと会った後寝てるだけかはわからないが、ノルドと会った後は今が一体いつなのかわからない事は確かだ。


 ガチャ


 外に出ようとベットから降りると、おもむろに扉が開いた。


「おはよう、シャル」

「目が覚めたんだね!調子はどう?」

「うーん、まぁまぁかな」


 軽く腕を回しながら答える。

 ちょっと体がだるいな。


「そっか。しばらくは無茶しないでね。魔臓器にもダメージ受けてたみたいだから」

「えっ⁉︎」


 魔臓器とは地球人にはない臓器だ。

 魔力を保持しておくための臓器とでも言おうか、何せそれがないと魔力0になってしまうこの世界の人間にとってかなり重要な臓器だ。

 そこにダメージを受けたという事は……


「2週間は大量に魔力を使わないでね」

「………無理じゃないかな…?」


 武闘大会真っ最中の今、魔力なしのハンデは厳しい。勝てるものも勝てない。


「レイなら大丈夫よ。本戦までには回復するだろうから、それまで我慢して」

「ちなみにどれくらいなら使っていいの?」

「うーん、1日5パーセントぐらいまでかな」


 俺はすぐさまステータスプレートを取り出し数値を確認する。


 名前:レイ

 種族:人間|(青年)

 年齢:12歳

 レベル:85

 生命力:7836

 筋力:4035+200

 体力:4436+200

 敏捷:4163+400

 耐久:3936+190

 器用:2736+400

 知力:2369+50

 魔力:33265+1110

 通常スキル

「観察」レベル9:対象の状態を認識し易くなる

「魔力感知」レベル9:周囲にある魔力を感知できる

「気配感知」レベル9:周囲の気配を察知しやすくなる

「身体制御」レベル9:バランスを崩しにくくなる

「身体強化」レベル9:一時的に肉体を強化する

「空中制御」レベル9:空中での体のバランスを保ちやすくなる

「計算」レベル9:知力上昇(中)

「空間」レベル9:自身を中心とした空間内の動きを把握できる

「集中」レベル9:集中力が上がる


 耐性スキル

「苦痛耐性」レベル9:苦痛、痛みに耐性がつく。耐久値上昇(中)

「恐怖耐性」レベル4:恐怖を和らげる。耐久値上昇(小)

「氷結耐性」レベル5:氷属性の攻撃に対して耐久がつく。耐性値上昇(小)


 希少スキル

「空間探索」レベル9:スキル「空間」で知覚可能な生物の動きと空間内に存在するものの形を知ることができる

「固定空間」レベル9:数秒間、一定の大きさの空間を固定する

「反転空間」レベル9:数秒間、一定の大きさの空間に触れたもののベクトルを反転させる

「反発空間」レベル9:数秒間、一定の大きさの空間に触れたものを弾く

「立体軌道」レベル9:自由自在、縦横無尽な動きができる。無理な体制からでも可能。筋力、体力、敏捷が上昇(極大)

「魔力充填」レベル9:物質(生物を除く)に魔力を蓄積させることができる

「魔力重複」レベル9:魔力の重ね掛けができる

「魔素変換」レベル9:魔力を魔素に、魔素を魔力に変換できる

「魔素充填」レベル6:魔素を物体に注入できる

「芸術家」レベル8:器用が上昇(絶大)。人の心を動かす作品を作れる

「複数思考Ⅲ」レベル8:思考速度大幅上昇。同時に5つのことを考えることができる

「俳優」レベル7:演技力が大幅に上昇

「肉体強化」レベル9:身体能力を一時的に大きく上昇させる

「五感強化」レベル9:五感を一時的に強化する

「透視」レベル9:物を透視できる

「千里眼」レベル9:地平線まで見通すことができる

「隠密」レベル9:気配を殺し、自らが発する音を小さくする

「瞬動」レベル7:一定距離を敏捷値の10倍の速度で移動する

「二段飛び」レベル9:一回のジャンプに付き一度だけ、空気を踏み台にできる。また、ジャンプ力が大幅に補正される

「瞬速」レベル7:敏捷上昇(大)

「危険察知」レベル8:身に致死性の危険が迫った時、どこから危険が迫るか察知できる

「予見眼」レベル9:数瞬先の未来を見ることができる。また動体視力が大幅に向上する

「赤外透視」レベル1:赤外線を知覚出来る

「精霊眼」レベル6:精霊を認識できるようになる

「瞑想」レベル6:己の精神世界へと旅立つ


 仙魂スキル

「限界突破」レベル7:肉体の限界を超えて、身体能力を向上させる。一定時間経過すると、しばらく行動不能になる

「収納空間」レベル9:物を収納する空間を精製。空間内では時間が停止する。また、生物は収納不可。

「隔離空間」レベル8:1辺3メートル程の立方体の空間を生成。空間内と外は断絶され、影響を受けない。

「魔工」レベル6:魔力を操作し、加工する

「魔装」レベル7:魔力で肉体の強度、および能力を強化する

「魔人形」レベル2:他人の肉体を魔力で操作する。操作を行う際には、相手に触れ、魔力を込める必要がある。また、精神を操る事は出来ない


 魔法スキル

「火魔法Ⅴ」レベル8:魔力上昇(極大)。火魔法の操作性と威力が上昇

「水魔法Ⅴ」レベル7:魔力上昇(極大)。水魔法の操作性と威力が上昇

「風魔法Ⅴ」レベル6:魔力上昇(極大)。風魔法の操作性と威力が上昇

「土魔法Ⅴ」レベル5:魔力上昇(極大)。土魔法の操作性と威力が上昇

「空間魔法Ⅳ」レベル7:魔力上昇(大)。空間魔法の操作性と威力が上昇

「治癒魔法」レベル7:魔力上昇(極小)。治癒魔法の効果上昇

「光魔法Ⅳ」レベル6:魔力上昇(大)。光魔法の操作性が上昇と威力

「氷魔法Ⅲ」レベル7:魔力上昇(中)。氷魔法の操作性と威力が上昇

「雷魔法Ⅲ」レベル8:魔力上昇(中)。雷魔法の操作性と威力が上昇


 加護スキル

「竜化」レベル3:竜神の加護を高め、肉体へと還元する。耐久値上昇(大)


 武器スキル

「剣術」:自己流剣術[火剣<灼熱魔翔斬>、炎風剣<炎風斬、無限炎斬>、氷風剣<氷風斬、無限氷斬>]

「格闘術」:自己流格闘術[瞬打]


 固有スキル

「経験蓄積」レベル9:過剰な経験を蓄積する。蓄積量が大幅に増加。自動で発動。蓄積量932,642

「経験還元」レベル3:蓄積した経験を魔力に還元できる


 ○¥°%#

 称号:「@&☆$」「シエラ村のライバル」「怒れる魔女の忠犬」「ボッチ」「創世神の加護」「怠け者」「登山家」「竜神の加護」「逃走者」「創世神の加護Ⅱ」「魔物の天敵」「少年教師」「竜神の加護Ⅱ」「死にたがり」


 えっと約3万3千だから……1700ぐらいか?

 C級クラスの魔力しか使えないのか……

 てことは、隔離空間なんか使ったら一発アウトじゃねぇか。やばいなぁ……


 うん?ちょっと待て。なんだこの称号は?死にたがり?

 なんだその自殺志望者に与えられそうな称号は。

 俺は別に好きで死に掛けてるわけじゃないんだぞ?


 それにしても、ほんとスキルが増えないなぁ。

 この半年で一個しか増えてない。

 前までいい調子だったのにまた停滞してきてる。一つ一つのスキルの扱いはそれなりにうまくなってきたけど、レパートリーが中々増えないのは困るな。

 いつになったら親父達に追いつけるのか……トホホホ


「先は長いなぁ」

「うん。頑張ってねレイ。トーナメントは本戦からが本番だからね」

「あ、うん。そうだな」


 噛み合ってるようで噛み合ってない会話をする俺とシャルステナ。その事に俺は気が付いているが、シャルステナは気が付いていないようだった。


「それで今日は何日?また一週間ぐらい寝てたか?」

「ううん。レイが倒れたのは昨日だよ。ほんとレイは危なかっしいね。ハラハラして仕方ないよ」

「そいつは悪かった。まぁ、まだまだハラハラさせる事になると思うけど、勘弁な?」

「えぇー、ハラハラさせないでよ〜」


 シャルステナはいたずらっぽく笑う。俺もつられて笑みをこぼした。


 笑いながら俺はある事を思い出す。


「あっ、俺今日試合じゃ……」

「あっ!そうだよ!それでレイの様子見に来たんだった!早く!もうすぐ試合始まっちゃう!」

「ちょ、ちょっとタイム!剣、剣!」


 慌てて俺の手を引き部屋を飛び出そうとするシャルステナに待ったをかける。

 服はボロボロで血がついていて、着替えたい衝動に駆られるが今は時間がないから後にしよう。だけども、剣がないのはまずい。

 そう思い、部屋を見渡すも俺の愛剣は見当たらない。


「あ、あのねレイ。剣なんだけど……」

「うん?シャルが預かってくれてるのか?」

「ううん。言いにくいんだけど……レイの剣は昨日の衝突で……折れちゃったみたいなの」

「………そっか」


 幼い頃に親父に買ってもらった剣。初めての自分の剣だけあってずっと大事にしてきたが、そうか、折れたか。

 人にも、物にも寿命はある。何千という魔物を狩り、毎日のように振るってきた俺の愛剣は、よく頑張ってくれたと思う。


「折れた剣は捨てちゃった?」

「今は街の鍛冶屋でなんとか直せないか頼んでる。だけど、たぶん無理だって」

「そっか。ありがとう。とりあえず今は闘技場に急ごう」


 何も悪くないのに、責任を感じてしまっている様子のシャルステナの頭を撫で、ありがとうとお礼を言った。

 それから今度は俺から手を引いて闘技場を目指した。


 〜〜


『キッチック復活‼︎昨日は大事故を起こし見るも無残な姿だったが、彼は再び戻ってきた‼︎』


「おかえり〜」「怪我は治ったのー」と観客から声援と歓声が飛んできた。

 俺は手を振ってそれに答え、バク転して元気な事を伝えた。


『しかぁし‼︎昨日の事故は彼に大きな傷跡を起こしたぁ‼︎私どもの調査で、昨日彼は幼い頃から使ってきた愛剣を失ってしまった‼︎』


 いつも腰にあった重さがない事に寂しさを感じた。

 ほんとあいつには世話になった。

 色々無茶をさせてしまったが、ゆっくり休んでくれと心の中で祈る。


『それに加え、彼は大きなハンデを背負ってしまった‼︎キッチックを治療したS氏の後輩R氏によると、なんとキッチックは1日に自身の魔力の5パーセントしか使えなくなってしまった‼︎厳しいハンデを背負ってしまったキッチックは果たして勝ち残る事が出来るのか⁉︎』


 おい、誰だ情報を漏らした奴は。その情報こそ漏らしたらダメなやつだろ。

 S氏の後輩のR氏?

 S氏は間違いなくシャルステナだろ?

 その後輩っていってら結構な数いるよな?誰だ?

 待てよ?シャルステナがそんな事話す奴なんて限られてるよな。


 ……なるほど、間違いなく、確定的にあいつだ。

 あの駄犬、怪我が全開したらどうしてくれようか。


 そう思い観客席に目を向け、駄犬を探す。

 後で覚えておけよと目で伝えようとしたのだが、その必要は既になかった。俺よりもお怒りなうちの司令が駄犬を追い回していた。その光景の物珍しさにしばし釘付けになる。

 いつも逆に追い回されてる奴が、追い回されている奴を追っている。ここにカメラがあったら一枚残しておきたい光景だ。


 そんな風に余所見をしていると、ガラの悪そうな声が聞こえてきた。


「おいゴラ!何余裕ぶっこいてんだ!ぶっ殺すぞ!」

「ん?悪い悪い。ちょっと珍しいものが見れてな」

「ああん⁉︎」


 何?ヤンキー?

 この世界初のヤンキーだ。うわぁ、リーゼントなんて初めて見た。ちょっと感動。

 へー、あんな風になってのんか。漫画やアニメでしか見た事なかったけど、あんな感じなんだぁ。


「何見てんだゴラァ⁉︎目ん玉むしりとんぞゴラァ⁉︎」

「うわぁ、感動。握手してください」

「テメェ舐めてんのかゴラァ⁉︎」


 握手は断られてしまった。残念……

 レアなのに…


 俺が握手を断られ残念がっていると、試合開始の銅鑼が鳴らされた。


「オメェ、弱ってんだってなぁ?ラッキーだぜ。怪我人に当たった俺はよ」

「カチン」


 ヤンキーの物言いに俺はカチンと怒りを表す。実は何も思ってなかったりするが……


「怪我人は大人しく家で寝てな‼︎俺がまたベットの上に送り返してやるぜ‼︎」


 ヤンキーはフェイントも何もなく、真っ直ぐに突っ込んできて、手に持ったナイフで突き刺してきた。

 俺はそれを剣で弾こうと腰に手をやったが空を掴む。

 あっ、今はないんだった……


 慌てて回避行動をとり、紙一重で突きを躱すと、バク転を2回ほどして距離を取る。


「はっはっー‼︎逃げる事しか出来ねぇか‼︎武器もねぇしなぁ⁉︎」


 距離を置いた俺を追うように走り寄ってくるヤンキー。


「武器?」


 それはこれのことか?

 振り下ろされたナイフに合わせるようにして俺は手を振るう。

 カキンと甲高い音がして、ヤンキーの持ったナイフが勢いよく宙を舞う。


「なっ⁉︎」

「隙だらけだ」


 腹にヤクザキックを打ち込み、ヤンキーの体を吹き飛ばす。

 ヤンキーの格上、ヤクザの一撃だ。格下の彼にとってはたまったものではないだろう。


「くそっ‼︎どこが怪我人だゴラァ⁉︎」

「あいにく魔力以外は正常なんでな。これぐらいは、な?」


 正直に言えば、体も少々動きずらい。気だるさがある。

 どうもこれは魔法で傷を癒す弊害の様なものらしい。

 この世界の治癒魔法は一発で完全回復なんて出来る程甘いものではない。

 傷を縫合したり、足りない物を魔力で補ったりと治癒を促進する様な感じだ。

 だから、心臓がなくなりました、治してくださいとはいかない。

 まぁ、そんな事を言う奴なんかいないだろうけど……

 いたらゾンビじゃないかそいつは?


「なら、これはどうだ⁉︎魔力がほとんど使えないなら魔法は防げねぇだろ‼︎ファイアボール‼︎」


 うん、確かに魔法で攻められるときついな。上級とか来られたら防ぎようがないもんな。

 と、身構えていたのだが、放たれた魔法は初級も初級。超お手軽魔法だった。

 こんなもの魔力を使うまでもない。軽く躱すだけで十分だ。


「チッ、ファイアボール‼︎ファイアボール‼︎ファイアボール‼︎」


 次々に放たれるファイアボールを余裕を持って躱し、少しずつ近づいていく。


「おい、そこの変な髪の奴」

「変じゃねぇ‼︎リーゼントだ‼︎男の象徴だ‼︎」

「さっき武器がないとか言ってたが、残念だったな。武器はあるぞ。よりどりみどり。何がいい?選ばせてやる」


 俺は収納空間から大量の武器を出した。

 剣、槍、斧、弓、あらゆる武器が何も無かった地面に突如散乱した。


「は?」


 ヤンキーは目の前で起こった摩訶不思議に口を開け惚けた。

 司会者も絶句し、観客達も虚を疲れたのか一様に目を見開いていた。


「おい早く選べよ。せっかく選ばせてあげてるんだから。希望がないなら、俺が決めるぞ。そうだな、やっぱり使い慣れてる剣にでも……」

「ま、待て‼︎それだそれ!その丸くて黒い奴‼︎」

「うん?これか?」


 俺は指差された武器を拾いあげる。

 これか……うん、これかぁ……


「テメェが自分で言ったんだからな⁉︎男なら二言はねぇよな⁉︎そんなボールでどうやって戦うんだよ⁉︎ふっはっはっは‼︎」


 馬鹿にする様な笑うヤンキー。

 確かにこれを知らないものからすれば、ただのボールだろう。しかし、これを知ってる者からすれば、呆れてものも言えない程に、馬鹿な選択だ。

 これの正体を身を持って知っているギルクなんかリスリットへのお仕置きをやめ青ざめている。


「こうやって戦うんだよ」


 俺はポチッとボタンを押してから、ポイッとヤンキーに向かって投げた。


「はっはっはー‼︎馬鹿じゃねえのかぁ⁉︎当たっても…?」


 ヤンキーの言葉など聞かず、一目散にその場を離れる俺。ちゃんと武器は回収済みだ。

 そんな逃げる俺を見て、ヤンキーは首を傾げようとした。しかし、その暇もなかった。


 ドカーン‼︎


 ヤンキーの足元、俺の投げたお手製手榴弾が勢いよく爆発したからだ。爆心地にいた彼は、見事にその爆発に巻き込まれ炎上。

 慌てて駆け付けた治療班が彼を手当てする。俺の時は全然来てくれなかったくせに、素早い対応だ。


『勝者キッチック‼︎ハンデなどものともしない戦いにファンが大盛り上がりだぁ‼︎』


 黄色い声援多数の大歓声の中、俺は退場していった。



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