66.筋肉って素晴らしい
武闘大会5日目。
予選2回戦の初戦。相手はノースリーブ学園所属のニクキン君だ。
12歳とは思えない外見に、ゴツゴツとした筋肉を隠す事なく、むしろ嬉々として披露する肩から先が途切れた服装。いわゆるノースリーブだけを着用し、側から見ているととても寒そうだが、本人は自身の肉体を見せる事に忙しく、寒さは感じていないようだった。
「……勇者だ」
そんなボディービルダーの対戦相手である俺は、高級モフモフの毛皮の服に身を包み、真冬の服装である。とてもこれから戦うとは思えない格好だ。
だが、これを脱ぐ気にはなれない。何故なら、今日は物凄く寒いからだ。今日の気温は寒冷前線でも通過している最中なのか、–2度。朝眼が覚めると昨日まで降っていないかった雪が降り積もっており、さらには風まで加わって吹雪いている。
そんな中ほぼ裸でポーズを決める勇者。
俺はそんな彼に拍手を送りたい。その格好で外に出ようと思った彼の勇気と筋肉愛に。
ここまできたら君は本物の筋肉愛好者だよ。俺には真似出来ない。
「ありがとうありがとう」
俺と同じく拍手を送る観客に応えるニクキン君。片手を上げ、雪をその筋肉に積もらせながらも、寒さなど微塵も感じさせない彼は勇者だ。
「キッチック、待っててくれてありがとう。観客に私の筋肉を披露する事が出来た。私はもう満足だ」
「ははっ、満足したなら俺の勝ちでいいか?」
「ノー、それは話が変わってくるよ。君には私の美しい筋肉から繰り出されるパワーを示す相手になって貰わねばならない。竜を殴り飛ばす力を持つ君と対戦できる私は幸運だ。これで筋肉美こそ、最強と世に知らしめる事が出来るのだから。私の筋肉、そして、美の前に君は沈むのだよ」
今の話を纏めると、ニクキン君はどうやら、パワー勝負をお望みのようだ。それならディクの方が相応しい相手だろうが、ここは一つ彼の筋肉愛に免じて受けてたとうか。
「キッチック、筋肉に沈むのだ!」
「それはお断りだ!」
沈むなら、ゴツゴツとした筋肉じゃなく、柔らかで弾力のある果実に沈みたい。男というのは得てしてそういう気持ちで、日々の苦難の中を生きているのだ。
「むっ、私の美を避けるとは……」
「いやいや、そんな汗ビッショリの筋肉なんかに沈めるかよ」
さば折でもするつもりだったのか、抱き締めようとして来たニクキン君を避けると、批判じみた目を向けられた。
私なら喜んで飛び込むのにと独り言を言いつつも、再度抱き付こうとしてきたので、顔に蹴りを放って止める。
「だから、それはやめろって。竜を殴り飛ばした力がご所望なんだろ?」
「むっ、望むところ!」
軽く拳を握り、ニクキン君を挑発。すると、ボコッと二頭筋を膨らませ、大袈裟なぐらい振り被るニクキン君。
「マッスルインパクト‼︎…………」
「…………ええっと、竜飛ばしパーンチ!」
技名を叫び、俺が技名を叫ぶのを待っていたニクキン君。彼のいらぬお節介のせいで急遽技名を考える羽目になった俺は、ただのパンチに捻りも何もない名前をつけた。
二つの拳がぶつかり合う。それは拮抗…さえしなかった。
バキバキと生々しい音を立て、指がそして、腕の骨が砕け、あらぬ方向へ折り曲がる。
い、いったそー……
「ノォォォォ!私の筋肉がぁ!」
「骨だろ」
どう見ても筋肉ではなく、骨に問題がある。しかし、彼はそれよりも傷ついた筋肉の方が大事なようだ。
見上げた筋肉愛だ。
「ふーふー、まだだ。私は右利きではなく、左利きなのだ。左では負けん」
「えっ?まだやる気?」
「当たり前だ!我が愛を筋肉に伝えるまで私は諦めん!」
闘志?冷めやらぬニクキン君。折れた右腕の事など忘れたかのように、左手を振り被る。
まじか。素晴らしい筋肉愛だ。
俺は素直に賞賛した。だが、手加減するかは別の話だ。
「オーマイガァァア‼︎私の左二頭筋がぁ!」
「いやだから骨だって」
明らかにおかしな方向に折れ曲がった腕よりも、筋肉の方がやはり彼にとっては重要らしい。
「ふーふーふー、まだまだぁ‼︎足の力は腕の3倍‼︎私のマッスルエクスプロージョンが君のパワーを打ち破る‼︎」
「えっ?まじで?まだやんの?」
「私の筋肉愛はまだ気高く燃え盛っているのだぁ!」
ニクキン君は蹴りを放った。俺はそれに合わして拳を振り下ろす。
「ノォォォォ!私のふくらはぎがぁ‼︎」
「…………骨ね」
突っ込んでも意味がない事はわかっていた。だが、突っ込まずにいられなかった。
「まどぅあまどぅあ‼︎」
「いやいや、もうやめろよ。痛みで呂律も回ってないじゃん。それに立ってるだけで精一杯だろ?」
「これしき!私の、筋肉愛のッ前にはッ……!」
俺は感動していた。ここまで筋肉愛が凄い人を俺は見た事がない。きっと彼にとって、筋肉は恋人であり、仲間であり、そしてかけがえのない存在なのだ。
その筋肉の為にここまで体を張れる彼に俺は感動した。
「ニクキン君、俺は君の事を尊敬するよ。そこまで筋肉を愛しているのは君しかいない」
俺は感動で涙を流していた。観客達もスタンディングオベーションで拍手を送っている。
「そんな君だから見せよう。これが俺の本気の一撃だ」
ニクキン君の筋肉に俺はパワーで応えよう。
「はぁぁぁあ‼︎」
強く握った拳を、勢いよく地面に叩きつけた。
全魔力を使用した限界突破の光が強く輝く。フルの魔力をまるまる使ったお陰か、今までの何倍もの力が溢れてくる。体感的には軽く普段の4倍になっているのではなかろうか?
上限が上がっているみたいだ。
ドゴァァアア‼︎
ビシッと地面に亀裂が走り、周囲の地面が盛り上がり、同時に砕けた地面が爆風となって、吹き荒れる。
岩石を含む爆風から、ニクキン君を庇いながら、俺はその場から離れる。
「これが俺のパワーだ」
「素晴らしい。素晴らしいパワーだ!」
俺とニクキン君に友情が芽生えた瞬間だった。
〜〜
「キャァア‼︎」
「うわぁぁぁあ!」
グラグラと揺れる地面。まるで地震の様な現象を起こしたのは、目の前で試合をしていた1人の少年。
観客達はバランスを崩し倒れ込んだり、支えに掴まり耐えたりしていた。
「きゃっ、あ、ありがとうございます」
「気にしないでアリス。凄い一撃だね。地震みたい」
「その地震の中で、何でそんな普通に立ってられるんですか……」
アリスは呆れた様な視線をディクルドに向ける。
「それにしても、あれじゃあ今日の試合は中止かな」
「で、ですね……」
ディクルドはヒビ割れ、隆起、陥没した闘技場の舞台に目をやり、あれでは試合は出来ないだろうと考えた。
アリスも視線を辿った先の光景を見て、苦笑いしながら同意を示した。
この二人、人間じゃないよ………
〜〜
建物の軋む音と物が倒れる音で私は目を覚ました。
「地震…?」
初めての経験。知識としては知っていたけど、本当に地面が揺れるなんて事があるのね。
そんな事を思いながら、揺れが収まるのをベッドの上で待った。頭を庇ったり、机の下に入ったりしたりはしなかった。
何が起きても咄嗟に対応出来るという自負があった。
揺れはそう長くは続かなかった。
揺れが収まると、寝起きの私は身支度を整え始める。
「街は無事かしら?」
そう呟くも焦って外に出るような事はしない。
感じた揺れは其れ程大きなものではなかったし、少し物が倒れた程度だろう。
口に出して心配はしてみたが、大惨事など起きてはしないだろう。
身支度を終えると、闘技場へと向かった。
昨日は少し気持ちが高まり過ぎて中々寝付けなかった。もうキッチックの試合は終わってしまっているかもしれないが、一応確認しに行こう。その後にも、あの化け物の試合もあるし、ついでだ。
そう思い、闘技場に着いた私はとんでもないものを目にした。
それはないだろうと思っていた大惨事が広がっていたのだ。外と比較しても、明かにおかしい地面の亀裂。そして何より隆起し、陥没した舞台。
すぐにこれが先程の地震を引き起こした原因だとわかった。
何があったの…?
舞台の中心から広がる様に走る亀裂。そして、真ん中だけ陥没した地面。
明かに何者かが、何かした後がそこにはあった。
そして、それをなした人物はすぐにわかった。
キッチックだ。
試合の順番からして、彼しかいない。こんな事が出来そうな者は。
「…………」
私はその惨状をただ見詰めていた。
一体どんな魔法を……
その場にいなかった私はまた強力な魔法を使ったのだろうと考えた。まさかこれをパンチでなしたなど夢にも思わず……
〜〜
「いやぁ、筋肉って素晴らしい」
すっかりニクキン君と意気投合し、話し込んでしまった。彼の筋肉への愛を聞いていると、俺も段々筋肉が好きになってきた。
以前も親父の筋肉を見て憧れを持った事があったが、男はやはりそういったものに憧れを持つものなのかもしれない。
「はいはい。もうわかったから。それより、何であんな事したの?運営の人達慌てて補修してるよ?」
「あはははは、いやぁ、ニクキン君の志に感動して思わず…」
いやぁ、まさかあそこまでになるとは……
限界突破恐るべし。
使う魔力が多くなればなるほど上昇量が増えるとはわかっていたが、まさかあそこまでになるとは……
時間制限がある事が悔やまれる。なければ、それだけで最強になれそうなのに……
「笑い事じゃないよ……もっと人の事を考えてあげないと」
「うん、まぁ、そうだな。今度からは気をつけるよ」
シャルステナの言う事も最もだな。やり過ぎた。
今後は少し運営にも気を使おう。いや、けど運営のせいで苦戦してるってのもあるからな。
ある意味いい仕返しになったかもしれない。
「ほんとにわかってるのかなぁ」
「大丈夫大丈夫。それより、ゴルドの応援に行こうぜ」
「あ〜、あれね……」
シャルステナは言い淀むと、少し微妙な表情になった。
「あの競技ってなんだかアレだよね…」
「ああ、何であんの?みたいな感じだろ?」
ほんと何であるのかわからない。もうアレは武闘大会とは別枠でやる様なものだと思う。
そもそも名前に大会ついてるし……
別枠でやれよ。
俺とシャルステナは、観客席に向かった。先にギルク達が行って、席を取ってくれているはずだ。
試合が終わった後、俺は限界突破で行動不能に陥った。シャルステナはそれを看病してくれていた。他は薄情な奴等ばかりで放置だ。
シャルステナが居てくれたお陰で、少し魔力を回復する事が出来たため、魔人の時と同じ様に片言だが、ニクキン君と話す事が出来た。
シャルステナは後で話せばいいのにと呆れていたが、俺とニクキン君の間に生まれた熱を抑える事が出来なかった。
試合の勝敗など忘れ、筋肉とパワーについて熱く語り合った。
試合は一応俺の勝ちになった。ニクキン君が俺のパワーに感動してくれたお陰か、あっさり降参してくれたのだ。
『同じ筋肉を愛する者の中で争いなど起きない』と勝ちを譲ってくれた。
これで俺は一勝した事になる。ニクキン君には是非2位通過して貰いたいものだ。
闘技場の端の階段を登りきり、円の中心に向けて下る様に作られた席と階段を、2人で並んで下りる。
俺とシャルステナが通り過ぎると、観客はこぞって凝視する。すっかり有名人となった俺か、超絶美少女であるシャルステナのどちらを見ているかはわからない。どちらもというのが、正解かもしれないな。
シャルステナの知名度がどれほどのものかは知らないが、聞く所によると以前の出場でそれなりに知られてはいるようで、歩いていると偶に声を掛けられている。
そのほとんどが男なのには若干イラっとくるものがあるが、王立学院でもアイドルの様な立場だった彼女は慣れたものだ。適当に流しているように見える。
「あ、あの!」
そんな事を考えていると、緊張した様子の女の子に声を掛けられた。年は少し上ぐらいだろうか。背は俺より低いがシャルステナよりは高い。
俺とシャルステナは平均よりも少し上といった感じなので、彼女は16とかその辺りかもしれない。
またシャルステナのファンかな。
珍しく女性ファンか。
ディクといいシャルステナといい、こんなテレビどころか、雑誌も写真もない世界でよくファンなんか出来るものだ。
俺は他人事の様に考えながら、一歩下がる。
せっかく勇気を出してきたのだから、邪魔しちゃ悪い。
「何でしょうか?」
シャルステナがお外用の口調で尋ねる。
「あの!キッチックさんの試合凄かったです!握手してください!」
「え?俺?あ、ありがとう」
シャルステナではなく、俺に手を差し出してきた。俺はお礼を言いながら、差し出された手を握る。
シャルステナは少し面白くなさそうな顔をしていたが、俺もいつもあんな顔をしていただろうから、我慢して欲しい。
「私も握手して貰っていいですか?」
「あ、俺も俺も」
周りでそれを見ていた観客達が、それを皮切りに次々握手を求めてきた。
慣れていないせいか、少し照れ臭い。
「どもども」
「ありがとうございます」
「あ、おねぇさん美人で、いてぇ‼︎」
1人1人丁寧に握手を繰り返す。時折、シャルステナに足を踏まれる事があったが、焦っておかしな事になる事もなく、無事終える事が出来た。
「ふぅ、人気者は辛いぜ」
「……早く行こうよ」
「シャルステナさんちょっと拗ねてます?」
「拗ねてないもん!」
相手をしていなかったせいか、それとも嫉妬したせいか、拗ねて歩き出したシャルステナを追い掛けた。
「遅いぞ。もう始まってる」
「悪い悪い。ファンに囲まれてた」
「なんだその羨ましい状況は?代われ」
「アホか。てか、今日はえらくテンションが低いな」
いつもならば、「何してんだ⁉︎始まってるぞ‼︎」とか言ってきそうなものだが、今日のギルクは静かだ。ノーマルモードだ。
「あれを武闘大会の競技とは俺は認めん。ダンスもだ」
「だそうだが?」
「うるさいわね。あたしだって、武闘大会らしくないと思ってたわよ。だいたい、このあたしの素晴らしいダンスが見えなかったからって、あの点数はどういうことよ?あれぐらい見えないで、何で審査員長やってんのよ。あんたも審査員してたんなら、あのオカマ説得しなさいよ。それか、100点ぐらいあたしに出しなさいよ」
「はいはい、そうですねー」
未だダンスの審査に納得がいっていないアンナは、ここぞとばかりに不満をぶちまける。オカマ審査長に対しての愚痴から始まり、文句を言いたくなるのも仕方ないかと思い聞いていたら、八つ当たりの様に俺にまで文句を言ってきた。
無茶苦茶言ってるので、俺は適当に流しながら、舞台に目をやった。
まだほとんど補修されていないが、クレーターになっていた中心部だけは綺麗な更地になっていた。そこに今回は審査員として選ばれた4人と司会者、そして審査長がいた。
「あの4人は誰なんだ?右にいる人は見たことある気が……」
誰だっけ?最近あった気がするけど……
他は……知らないな。
「右から順にライクベルク騎士団団長、父上、魔法学校校長、ヤンバルク帝国皇帝だ」
ギルクは座ったまま、順々に紹介してくれた。
父上ってことは…王様⁉︎それに皇帝⁉︎
いやいや、まずいだろ。大国のトップがこんなとこに来てたら。
「えっ?それやばくね?暗殺とか起きねぇよな?」
「アホ、今ここはこの大陸一安全な場所だぞ」
言われてみれば確かに。
国のトップが二人もいるんだ。その分警備も万全にしてるはずだよな。
その割には俺の剣はギルクを公開暗殺しかけたけどな。
ま、あれはまさか俺があんな事をするとは思ってなかったからだろうと、考える事にしよう。
「まぁ、確かに……けどさ、いきなり戦争…とかなんねぇよな?」
「さぁな。それはわからん。うちと帝国は特別仲が良いわけではない。だが、お互いに相手の戦力はわかってる。いきなり戦争とはならないさ。この武闘大会も元々はそういった事が起こらないようにと、親交を深める目的で始まったしな」
「へー、親交ね。仲良くなれればいいけどなぁ」
ここ2年ぐらい騎士学校が優勝してるんだろ?それ以前は知らないが、ディクという特異点のお陰でライクベルクは勝利をもぎ取ってるわけだが、反対にヤンバルクは負け続けてるわけだ。
それで今年もとなると、向こうもかなり鬱憤が溜まってくるんじゃなかろうか?
そうなってくると、小競り合いが始まり、最後には戦争なんて事に……ならないといいなぁ。
俺は戦う事は好きだが、戦争は嫌いだ。
経験した事はないが、戦争は辛いと思う。それは日本での教えが俺の中に残っているせいかもしれない。
昔の戦争の話も、死ぬ直前に起こっていたシリアの内戦。
俺は所詮は傍観者だったが、聞く話すべてが、悲しく辛いものだった。いいニュースなんて聞いた事はない。
それが戦争、と俺は考えている。
いい事が起こり得ないものだという価値観が、俺の中で定着してしまっている。
だから、極力戦争など起こっては欲しくない。
「それで、一発芸はどんな感じだ?」
「つまらん」
「やっぱりなぁ」
本職の芸人でも一発芸が面白いなんて事は稀なのに、たかが学生の一発芸なんて知れてるよな。
「ゴルドまだかよ」
限界突破したせいで疲れているため、早く帰って寝たい。ゴルドの一発芸を見たら、即刻帰ろう。どうせ面白くない。
「あ、出てきたよ!」
「やっとか」
指差しゴルド登場を伝えたシャルステナに、ギルクはやれやれといった様子で返す。
ギルクもどうやら早く帰りたい派みたいだ。
ゴルドはのほほんとした表情でこちらに手を振ると、舞台に立った。余り緊張はしていないように見える。
『エントリーナンバー85‼︎ゴルドオォ‼︎』
「は〜い、一発芸やりま〜す」
いつもと変わらぬ気の抜ける返事をするゴルドに観客は少しほんわかした。緩い雰囲気の中、ゴルドは尻を突き出し、手を前に出した。
まるでトイレの便器に腰掛けた様な体制だ。ほんわかしていた空気が若干引き攣った。
ブゥーーー‼︎
ゴルドはトイレの姿勢で空に浮かび上がった。ブゥという、聞いたら鼻を押さえたくなる音を携えて。
よく見れば彼の尻から何か出ている。
誰かが屁?と言った。
確かにカラクリを知らない者から見ればそれは屁だった。屁にしか見えない。屁で空を飛んでいる。
実際は魔力噴射というスキルの力らしいのだが、よくよく聞けばゴルドのしている事は屁と変わらない。
空気の代わりに魔力を出して飛んでいるそうだ。
しかも、たちの悪い事に真っ直ぐに飛ぼうとするとあの体制が一番安定するらしい。
はっきり言おう。
汚い。
観客の大半がドン引きだ。審査員も顔が引き攣っている。
しかし、俺は感心していた。
王様と皇帝の前でよくあんな堂々と屁がこけるなと。
不敬につき打ち首、とかならないといいけど……
屁の塔を建築しながら、空高く登っていくゴルド。
あいつ………帰りの事考えてるんだよな?
15分後、あちゃーといった表情をして、地面に激突するゴルドがいた。




