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63.見応えって大事だよね

 武闘大会2日目。


 今日は俺の試合はない。次は明日の午後だ。今日と明日は予選第一回戦の続きがある。明後日以降から2回戦が始まるが、まだ出揃っていないのでいつ試合かはまだわからない。

 代わりと言ってはなんだが、午後からアンナがでる種目がある。なので、今日の俺は一観客として闘技場に来ていた。


「ディクの試合は……10番目か。結構後なんだな」


 闘技場のスクリーンに表示された今日の試合の予定表を眺め、ディクの試合まで他の選手の試合でも見て時間を潰すかと、シャルステナと共に観客席へと移動する。


 途中、ふと目についた飲料水を売る出店。俺はシャルステナへと顔を向けて問い掛ける。


「シャルなんか飲む?」

「うん!」


 ニッコリと満面の笑みでら答えたシャルステナ。とても機嫌が良さそうだ。恐らく、久しくしていなかったデートにお誘いしたのが理由だと思われる。

 武闘大会中は忙しいため、余り時間がないかと思われたが、案外早くに時間が空いた。しかし、これから更に忙しくなる事を考え、折角のチャンスだからと誘った。決してギルクから離れるための口実なんかじゃない。うん。


 飲み物を購入した後、少し他の店も見て回ってから、観客席に腰を掛けた。

 その頃には既に多くの観客が観戦に来ていた。まだ始めの試合も始まっていないのにすごい人だ。

 俺たちの様に試合のない学生だけでなく、一般の客もかなりいる。いや、むしろ一般の人の方が多いかもしれない。


「試合楽しみだなぁ」

「レイは昨日の試合見てないもんね。結構いろんな戦い方をする人達がいて見応えがあったよ?」

「予選で?」


 俺の試合で例えるなら、とても見応えがある様なものではなかったと思うんだが……

 開始1分どころか、三十秒もなかった試合が見応えがあるかな?

 そんな疑問を抱えていると、シャルステナが優しく教えてくれた。君がおかしいんだよと。


「レイ以外の試合は、だけどね」

「…………よーし、そろそろ試合が始まるな」


 なんだか責められている気がして話を逸らした。次からは見応えを作る事にしよう。


『さぁ‼︎武闘大会2日目‼︎皆さん、今日も盛り上がっていきましょう‼︎まずは本日の第一試合の選手をご紹介いたしましょう‼︎東に構えますはぁ、ハゲール学園からやって来たテッペン・ハーゲン‼︎西に構えますはぁ、ポッコーリ学院所属、デーブル‼︎それでは、試合開始です‼︎』


 ハゲ対デブ……ではなく、ハーゲンとデーブルの試合が始まった。ハゲ、ではなくハーゲンは槍、デブかもしれないデーブンは斧だ。

 ハゲ、……もういいかハゲとデブで。


 ハゲが槍を突き出すと、それをデブは斧の側面で弾く様にして防御した。そして、そのまま斧を振り下ろす。ハゲは持ち手の方を回す様にして斧を横に逸らす。そして、すぐに槍で付く。

 そんな代わり映えしない攻防が繰り返される。


「どっちが勝ちそう?」

「ハゲかな」

「ハゲ?……ハーゲンね。私はデーブンだと思う」

「デブか……今のところは互角だけど、多分ハゲが有利になるんじゃないかな?」

「なんで?力がありそうなデーブンの方が押し切るんじゃない?」

「デブは体力がないからな」


 力ではデブが有利だろう。だが、ハゲはそれをテクニックで防いでいる。今の攻防は若干ハゲが押され気味だが、余裕はありそうだ。

 一方のデブは思うように攻めきれず、若干焦っている様にも見える。

 この勝負はデブの体力が切れる前にデブが決め切れるかどうかで決まると見た。そして、どちらに傾きそうかと考えるとハゲが有利だと思う。何故ならデブは既にハァハァ言ってるからだ。じきに動きが鈍くなる事だろう。


 そんな俺の予想通り、デブは体力切れで鈍くなった所を槍で貫かれた。デブの悲鳴と観客の歓声が鳴り響く。

 残虐な様だが、観客はこれを見に来ているのだし、ましてデブが死ぬ事はない。騎士団を始め大陸中から優秀な治癒術士が集まって来ているのだ。この程度の怪我で死のう筈がない。


「予想通りだな」

「本当だね。レイの言った通り、体力切れで負けちゃった。けど、見応えあったでしょ?」


 見応えねぇ。

 確かに実力がほぼ同じ者同士の戦いだったけど、見応えがあったかと問われれば、首を傾げざるを得ない。


「…まぁまぁかな。互角の試合を見応えのある試合と言うならそうだけど、派手な技も、ましてや凄いと思えるようなものもなかったからなぁ」


 正直言うと、とても退屈な試合であった。もっと激しい試合を期待していたのだが、魔法も一目でわかるスキルの発動も見られなかった。


「レイからしたらそうかもだけど……今のデブ…デーブル君の斧捌きなんて中々だったと思うけど…?」


 誤魔化したい様だから触れないでいてあげようか。


「ま、斧上級の授業を取っていた俺からしたらあれぐらい普通に出来て当たり前ってレベルだったけどな」

「うわぁ…メインじゃないのにそこまで極めてるんだ……」


 極めてはいない。所詮は授業を取っただけのレベルで、人に自慢できる程上手くはない。扱いだけなら俺よりうまい奴は学院でも沢山いた。

 その基準で評価すると、斧捌きに関しては俺と同じく最低レベルといったところだろう。


『次の試合に参りましょう‼︎続いては……』


 ディクの試合まで面白いものはなさそうだなぁ。一応対戦相手になるかもしれないから、見てはおくか。

 そんな事を考えながら、シャルステナの言う見応え(・・・)のある試合を観戦していた。その中には実力を隠していそうな者も大勢(勝った奴のほとんど)いたが、今日の試合の中でおおっとなる様な展開はなかった。


 そうして、試合観戦にも飽きてきた時、ディクの試合が始まった。やっと見応えがありそうな試合がやって来たと、期待して闘技場の中心に立つ二人を見詰めた。


『ついに、ついに出てきたぞこの男が‼︎今大会最注目選手ディクルドォ‼︎今年も秒殺記録を更新し続けるのかぁ⁉︎そのディクルドに対するはハゲール学園生徒会長、その実力は折り紙つき、ツルーピッカ選手‼︎彼は秒殺記録を打ち破る事が出来るのかぁ⁉︎』


 なんだその記録は……?と思った瞬間、ツルピカが瞬殺された。


『びょ、秒殺‼︎開始1秒で決着ー‼︎今年も彼の秒殺は止まらない‼︎誰があいつを止められる⁉︎』

「なぁ、秒殺記録って、あいつずっとあんな調子なの?」

「うん。今まで1分もった人が私を含めていないらしいよ」


 相手が可哀想だ。なんで本気なんだよ。今の瞬動だろ?少しは手加減てものをしてやれよ。

 これまで頑張ってきた子たちが可哀想じゃないか。


「あいつは加減てものを知らんないのか。見応えなんてあったもんじゃないな」

「レイも人の事言えないと思うよ?」


 そんな訳ないと言い返したい所だが、前の試合秒殺してしまった手前、苦笑いするしかなかった。

 次は1分経ってからトドメをさそう。これならシャルステナに言われた見応えもバッチリのはずだ。


 そんな事を考えていると、観客の声援に混じって何か叫んでいる女性達がいる事に気がつく。そこに目を向けると、若い女性達が一人一人プラカードを掲げディクルドに熱い声援?を送っていた。


「付き合ってください?」

「えっ?」

「いや、ほらあれ」


 プラカードの方を指差す。

 そこには名前と、書き方は違うがすべてに付き合ってくださいの旨が書かれている。

 よく見れば、観客席のあちこちにそのプラカードが掲げられている。


「ファンの子達かな?」

「まぁたぶんそうだろうな。チッ、モテモテじゃねぇかあいつ。俺もモテ…」

「モテ、何?」


 つい本音を暴露しそうになったところで、横にシャルステナがいた事を思い出した。慌てて口を閉ざすも時すでに遅し。シャルステナは可愛らしい顔にニッコリとした笑顔を貼り付け、微笑みながら聞いてきた。

 しかし、俺にはわかっている。これはシャルステナが怒ってる時の表情その一だ。


「……モテたいと思ったけど、俺にはシャルがいるからモテなくていいや。うん」

「ふーん」


 シャルステナの機嫌が急降下の一途をたどっている様だ。どうやら俺の言い訳がお気に召さなかったみたいで、リスのように拗ねている。

 シャルステナのご機嫌取りをしないといけないな。


 〜〜


『ダンスコンテスト〜‼︎これは今年から新たに加わった競技です‼︎名前の通りダンスのレベルを競うこの種目を採点してくれるのはこの人‼︎ミスターキャロット‼︎』

『みんなよろしくね♪』


 オカマか‼︎

 いや、別にいいんだけど……この世界にもカマさん達がいたのか……

 この世界初のオカマに、軽く衝撃を受けた俺は現在そのカマさんの真横にいる。シャルステナも。そして、その隣にはディク、シルビアとこの大会の目玉選手がズラリと顔を連ねている。


『ルールをご説明いたしましょう‼︎ミスターキャロット採点長は最大50点、他の4人には最大10点、そして私も10点、合計100点満点でダンサー、一人一人に点数をつけていきます‼︎その点数の高かった順にがダンスコンテストの順位を決定いたします‼︎それでは始めましょう‼︎エントリーナンバー1番‼︎コラセッオ‼︎』


 闘技場のど真ん中に設置された踊り場。その前に用意された6席の一つに腰掛け、選手が入場して来るのを待つ。


 どうして俺がこんな事をしているのか、それは少し時間を遡る。


 午前の予選試合が終わってから、俺はシャルステナの機嫌を取るため少し高めのお店にでも行こうと外に出た。すると、それを待ち構えていたかの様に司会者に捕まり、ここへ強制連行された。その後でディクとシルビアも強制連行されてきた。

 そのため、未だシャルステナの機嫌は悪く、俺もお腹が減って若干イライラしている。とりあえず八つ当たりに次の選手の点数はゼロだな。


 そんな八つ当たりを受けたコラセッオはたまったもんじゃない。機嫌の悪いシャルステナは採点がとても厳しく1点、ディクは基準が分からないためか5点とど真ん中をつき、シルビアは俺と同じゼロだ。オカマは17点と実に誠実な採点を行っていた。司会者は3点だった。

 よって彼の点数は26点とおそらく低いものになったのだった。肩を落とし帰っていく彼を見てなんか悪い事したなと若干反省した俺は少し真剣に点数をつける事にした。八つ当たりは良くないよな。


『採点長、彼の踊りはいかがでした?』

『うーん、腰の振りがイマイチだったわね〜。もっとリズムに合わせて動かさないとダメね』


 選手が退場した後オカマに意見を求めた指導者。それに軽くアドバイスする様な形で意見を述べたオカマの横で俺は思った。


 俺たちは必要かと。


 はっきり言おう。

 ダンスなんてわかんねぇ!

 他もそうだろう。ディクなんて目に見えて焦ってる。しっかり採点しなきゃと使命感に追われ真面目にやってる。真面目なあいつらしいが、他は真面目になんかしていない。俺は八つ当たり、シャルステナも若干八つ当たり気味、シルビアに至っては魔法学院以外は全員ゼロにする気でいるように見える。


 とりあえずオカマの助言を聞いて少しずつ採点のレベルを上げていくしかないな。

 まずは腰だな。とにかく腰を見よう。

 そう考え次に出て来た女の子の腰あたりを凝視していると横から鉄拳が飛んできた。腰と胸はダメだ。色々と問題がある。


 そんな風にオカマの助言をしっかりと聞き、その都度それを取り入れていくスタンスで採点していった。もちろん、シャルステナに気を付けて。そうして、とうとうアンナの出番となった。


『エントリーナンバー58番‼︎アンナ‼︎』


 誇らしげに胸を張りながら出てきたアンナ。その顔は自信に満ち溢れている。


 打楽器が奏でる音色がリズミカルに鳴り始め、そのリズムに合わせアンナも踊りだした。


 それは剣舞だった。二本の剣を振り回し、まるで流れる様に自在に動かすアンナに俺とディクは思わず目を見開いた。

 それはこの大会始まって以来の見応え(・・・)だった。


 踊る様に、だけど、その場にはアンナだけでなく誰かがいる事を想定した様な見事な動き。俺とディクの目にはその相手と舞う様に踊るアンナの姿があった。


 まいったな。あの変態がここまでになるとは……

 あいつの双剣と俺の剣、おそらくいい勝負じゃないだろうか。其れ程文句なしに見事な動きを見せるアンナ。


 初めて剣を交わした日はただの憂さ晴らしだった。そしてそれは俺の圧勝だった。それが今では剣技だけで勝てるとは言い切れないレベルまできている。

 まだたった5年。されど5年。

 もう30近い俺からすれば短い様に思えたその年月が、本当は長いものだったと気が付かされた踊りだった。


『ありがとうございました‼︎続いて採点に移らせて貰います‼︎』


 俺は10点と点数を出した。シャルステナとディクもだ。シャルステナはアンナの友達だからというのも理由の一つだろう。

 しかし、他はそうでもなかった。

 シルビアは魔法学院のまわし者だから仕方ないとして、オカマと司会者がゼロとはどういう事だ。


 そんな疑問に対する答えはすぐにわかった。オカマがアドバイスとしてアンナに言ったからだ。


『見えなかったわ。人に見せるものなのだからゆっくり踊らないとね?』


 つまり、動きが速すぎて何をやってるかわからなかったと?


 そんな馬鹿なー‼︎とアンナは叫びながら、抗議する。しかし、抗議が認められるはずもなく、アンナは騎士に引きずられて戻っていった。

 俺もアンナと同意見だったが、言ってる事もわかるので苦笑するしかなかった。


 まじで俺はなんでここにいるんだろうか…?


 そんな問いかけは俺の胸の内にしまわれた。


 〜〜


 武闘大会3日目。


 今日は注目選手、シルビアの試合がある日だ。俺は彼女の実力が如何程のものか知らないため、観客席に来ていた。今日はうるさい奴も一緒だ。


「あー幸せだ〜。なんていい日なんだろう今日は」

「毎日言ってるよね?」

「うざ」


 ギルクのうざい言動に思わず本音が漏れる。いい加減静かにしてもらいたいものだ。


「先輩〜、私達と役目交代してくださいよ〜。もう私無理ですぅ」


 泣きつく様にギルクの相手を代わってくれと懇願してきたリスリット。若干甘える様な仕草にシャルステナが俺の腕を抱き、『レイは私の』と主張する。腕に柔らかい感触が伝わってきて、ギルクと同じく幸せになる俺。

 そんな俺を挟む様にしてリスリットとシャルステナの間でバチバチと視線がせめぎ合う。


 なんだこれ……?


 よく分からない光景に目を奪われていると、突如身の危険を感じ、その場を飛び退いた。


「うおっ!あぶねぇ!」

「チッ」

「レイさん一度死ぬべきですよ」


 短く舌打ちするギルクと、リア充死ねと静かに告げるライクッド。

 やれやれ、非モテ男共の嫉妬降りかかるのもイケメンである俺の宿命だなと2人が聞いたらガチバトルに発展しそうな事を考えていると、シーテラが進み出た。


『マスター、補給です』

「えっ?ちょ、ちょっと待……」


 補給という名のキスを公衆の面前で繰り広げた俺に周りから嫉妬と殺意混じりの視線を向けられる。

 シャルステナとリスリットは俺とシーテラを引き離そうと手をこまねいているが、ギルクとライクッドは得物を抜き、今にも襲いかからんとしていた。


「っぷは、い、いきなり過ぎるぞ、シーテラ」

『前マスターの遺言でギリギリで補給しろと仰せつかっていますので』

「またあいつか‼︎」


 あいつは一体シーテラで何がしたかったんだ⁉︎碌な事を教えてねぇ!

 そんな故人にこの状況の責任を取ってもらいたい俺に、身代わりの責任が押し付けられる。すなわちシャルステナからのお説教だ。


「レイ!また油断してた‼︎いっつも油断したらダメって言ってるのに!」

「いや、まぁ油断はしてたが、補給はしないといけないから、どっちみちしないといけないじゃん」

「それは私がするから!」

「それはダメだ!シャルの唇は俺だけのものだ」

「……レイったら」


 頬を赤らめ、軽く目を閉じたシャルステナ。言わなくてもわかる。これはあれだ。俺はそれに応えるべく、シャルステナに手を伸ばそうとして、慌ててその場を飛び退いた 。


「シャル……げっ、あぶねぇ‼︎」

「死ねアホ‼︎」

「今日こそ殺します」


 二度目はさせないとばかりに良いところで乱入してきた2人。得物の振り方がガチだ。本気で殺りにきている。それに参加するかの如く、続々と剣に手をかける周りの観客達。

 それを見て慌てて逃げるも、四方八方敵だらけ。


 ヤ、ヤベェ…

 非モテ男共の嫉妬を甘く見ていた。


「ちょ、たんま!」

「たんまはない‼︎大人しく斬られろ!」

「ふざけんな!モテないお前らが悪いんだろ!」


 その言葉が引き金だった。武器に手を当てていた者たちが一斉にその銀に輝く武器を取り出し、襲いかかってきた。

 およそ百に届かんとする暴挙と化した集団に追われ、俺は闘技場の中心へと流れ込む。

 そこには、丁度試合が終わったところのシルビアがいた。そこに突然乱入して来た俺と、その後ろから押し寄せる大観衆。

 シルビアは突然の事で脳が追いつかず、慌てふためいた。


「ちょっと‼︎いきなり何なの⁉︎」

「非モテ男共の反乱だ‼︎」

「はぁぁ⁉︎」


 シルビアの取り乱した問い掛けに、簡潔に答えると訳が分からないと声を漏らすシルビア。


「ディクー‼︎ちょっと助けろ‼︎てか、お前も俺と同じだろうが‼︎」

「ええっ⁉︎僕も⁉︎」


 お前もだろ‼︎ていうか俺よりモテてるだろうが!お前も嫉妬を受け止めろ!


 そんな風にディクを巻き込み、二人で共同戦線を張る事になった俺たち2人。それを呆然と見つめるシルビア。突然過ぎる展開についていけなくなったのだ。

 シルビアは2人の戦力分析をする事も忘れ、ただ呆然と2対100の戦いを見守った。

 いったい何なのよ……と。


「お前右、俺左!オーケー⁉︎」

「え、あっ、うん」


 もう流されるだけのディクは俺の作戦もクソもない作戦に返事をする。

 流され気質は変わっていないみたいだと1人懐かしがりながら、2対100の戦いへと身を投じる。


「ディク!どっちが多く倒せるか…」

「ははっ、勝負だね」


 二人して懐かしい感覚にニヤッと笑い、同時に踏み込む。


「「1‼︎」」

「「2‼︎」」


 同時に重なる声。そして、ほぼ同時に崩れる対の非モテ男達。

 それは数が50になるまで繰り返される事になる。


 突然始まった2対100の戦い。それを唖然と見ていたシルビア。彼女の他にも唖然とする者はいたが、その大多数は2人を応援していた。それは観客が戦いを見に来ているという事と、ほとんどが女性でしかもディクルドのファンであった事が理由だ。

 観客達にとってそれはとても面白い、見応えのある戦いだったのだ。それを感じ取り、司会者としての責務を果たす彼もまたこれを面白いと感じていた。

 もしそうでなければ、即刻止められるだろうし、後で問題になっていた事だろう。


「「49‼︎」」


 勝負に熱中していた俺とディクの怪しく光る目がギルクとライクッドに向けられた。2人は俺とディクが揃った瞬間、やばい気配を感じ取り、逃げようとしたのだが、人の壁に邪魔され撤退出来なかった。だが、何とか後方まで下がる事ができ、生き残った。

 しかし、生き残った2人の前には、人で足の踏み場がないほどの惨事が広がっていた。


「うおおお‼︎逃げろぉ‼︎」

「やばいやばいやばいやばい‼︎あの2人やばすぎますよ‼︎」


 多勢に無勢をものともしない俺とディクに先程の怒りなど雲の彼方へと飛ばし、自分の保身の為、必死に闘技場の壁を登ろうとする。だが、それも後ろから迫る俺たちから逃げる手立てにはならなかった。


「「50‼︎」」


 こうして反乱は力でねじ伏せられたのだった。


「「後1人…」」


 このままでは引き分けだと、立っている者はいないかと目を凝らす俺とディクの目に入ったのは、呆然と立ち尽くすシルビアの姿。


「はっ…?」


 どう見ても自分がターゲットになっているとしか思えない状況。ただ呆然と立って見ていただけのシルビアは、この二人は何がしたいのよと叫びながら、迎撃態勢に入る。

 今の自分ならあの化け物と互角に戦えるはずという自負があっても、化け物を含む二人はきついと冷や汗を流しながらも、何もせずにやられるわけはいかないと、その元より鋭い眼を一層尖らせる。

 しかし、間一髪のところでそれは止められる。


「レイ!その子は違うよ‼︎」

「ストーップ‼︎騎士長その子違いますから!観客ですから!」


 シャルステナとアリスが2人を止めに入ったのだ。ギルク達がやられたのは自業自得だと何もしなかった彼女達だが、乱入され、しかも何もぜず観客に徹していた彼女をやるのはまずいだろうと割って入って来たのだ。

 二人は後ろから羽交い締めにされ、引きずられていく。

 残されたのは気絶した男共とシルビアだけだった。


「いったい何なのよ……」

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