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62.障害ではなく、それは脅威です

目標通り投稿出来て一安心です。

『さぁ!やって参りました‼︎この寒い冬を熱くする季節が‼︎ご来場の皆様ご覧ください‼︎今年も大陸中から集まった優秀な子供達を‼︎』


 魔道具で拡声された声が闘技場に集まった人々を熱くする。熱狂の渦の中心にいるのは、トーナメント出場選手達。その中に腕を組んで開会式が終わるのを待つ俺の姿もあった。


『まずはぁ!こちら‼︎トーナメント予選第1日目‼︎』

 おおぉぉおお‼︎


 観客が大いに盛り上がる。その中でも一際うるさいのは王子だ。武闘大会オタクの王子の声だけは単体で聞こえる。拡声器よりうるさい。

 今後の事を鑑みるに、喉を潰す薬でも混入した水を飲ませるべきかもしれない。例えば硫酸とか。きっとイチコロだ。


『今回の最注目選手をご紹介しましょう‼︎』


 おっ?

 俺は司会者の言葉に興味を惹かれた。ディク以外どんな選手が出場するのか知らないため、要注意人物を確認出来るいいチャンスだ。


『まずはやはりこの男‼︎僅か10歳にてトーナメント優勝を果たした期待の少年騎士‼︎ その甘いマスクに女性ファンが続出中‼︎ その強さも相まって超有望株として熱い視線を集める少年は、どんな試合を見せてくれるのか⁉︎ ディクルドーーッ‼︎』


 モテモテじゃねぇか‼︎

 何で彼女いねぇんだよ‼︎


『さぁ、次の注目選手に参りましょぉお‼︎魔法学校からは麗しき氷の美少女がやって来た‼︎去年は惜しくも決勝でディクルド選手に敗れるも、彼女の熱き闘志を消すには至らなかったぁ‼︎今年は勝利をぶんどれるかぁあ‼︎シルビアーーッ‼︎』


 闘技場の四方に浮かぶ様に設置されたスクリーン。原理はよく分からないが、映像投影魔具と言うらしい。使用方法は実に簡単で、カメラ的な魔道具で撮影し、テレビ的なスクリーンに映し出すというものだ。ただし、記録は出来ないそう。ただ、現在の映像をそのまま投影する事しか出来ないらしい。


 そのスクリーンには今、氷の様な水色の髪の少女が映し出されていた。不機嫌そうにスクリーン越しに観客を睨む顔。しかし、それでもその可憐な容貌がなりを潜める事はない。だが一方で、気が強そうな印象は隠せないでいる。


 うわっ、キツそうな子だなぁ。確かに美少女だけど、プライドが高そうで、性格もキツそうだ。


 そんな第一印象を受けながらも、『要注意、要注意』とチェックを入れた。


『さぁ、残された王立学院からは、まさかのたった一人だけの出場‼︎いったい彼は一体何者か‼︎二年前ディクルド選手と激戦を繰り広げたシャルステナ選手の代わりが彼に務まるのかッ‼︎それともトーナメントは捨てたのか王立学院‼︎一体彼は何者なのか‼︎その戦いに目が離せないッ‼︎キッチックーーッ‼︎』


 久しぶりに登場、アピール光を焚いて準備していた俺は思わずガクッと膝が抜けそうになった。

 はぁぁぁあ⁉︎それ俺じゃないのか⁉︎キッチックって誰だよ‼︎


 俺はそんな奴いたっけ?と一応周りを見渡しが、王立学院の校章を付けているのは俺だけだ。間違いなく、俺がキッチックという事だ。

 そして、周りを見渡した事で、『えっ、何あいつ?』みたいな痛い視線を頂戴していた事に気が付いた。


 ピカピカと光り躓く俺。周りはそんな俺に若干引き気味だ。何がしたいんだとその目は誰しもが語っていた。幼馴染のディクでさえ、何遊んでるんだよと呆れた表情を浮かべ、魔法学校の期待の星、シルビアは物凄く冷徹な目で見ていた。

 なにあれ?怖っ…


『それでは始めましょう‼︎本日、第一試合‼︎』


 司会者の言葉を受け、その場に集められたトーナメント出場者達は、第一試合の選手を残して退場した。

 俺は残る側だった。つまり、早速今から、俺の試合があるわけだ。

 相手選手はヤンデル学校の少年。


『東に構えますはヤンデル学校所属!パールディン‼︎西に構えますは今大会注目選手!キッチック‼︎これで彼がシャルステナ選手の代わりが務まるのかわかるでしょうか‼︎それでは第一試合開始‼︎』


 だから誰だよと思いながらも、自分の事だと半ば諦め、後でこれをやったであろうギルクを殺すと決める。

 後で覚えてやがれ、と騒ぐギルクに視線を向けてから、相手選手を見た。気のせいか煩い奴が静かになった。


 パールディン選手はゴツい鎧を身に纏い、顔まで隠れているため、その表情はわからない。だが、若干緊張しているような雰囲気が伝わってくる。

 まぁ、さっき注目選手として紹介された奴にいきなり当たれば緊張もするか。


「よろしく、パールディンくん」

「…………やぁ‼︎」


 緊張を少しでも解して上げようと握手を求め、手を差し出すと、パールディン君は一瞬様子を見るように固った後、気合を入れて斬りかかってきた。

 その剣筋は銀線を残す程速くはなく、十分目で追う事が可能であった。


「おっと」


 俺は目で剣筋を追いながら、バク転して躱し距離を取った。


『握手を求めたレイ選手に剣で答えたパールディン選手‼︎ギリギリのところでそれを躱したが、彼は一体何をやってるんだ⁉︎いきなりやられるつもりか⁉︎』


 そんなつもりねぇよ、と独り言の様に突っ込みながら、今度は普通に近寄っていく。


「いきなり、危ないだろ?」

「ハァ‼︎なっ…⁉︎」


 勢いよく斬りかかってきたパールディン君の剣を、真剣白刃取りで受け止める。そして、それを捻り奪い、クルリと回し持ち手を掴んだ。


「か、返せ‼︎」


 咄嗟に剣を奪い返そうと掴み掛かってきた彼をヒョイっといなし、背後を取る。


「ふーん。軽いなっ」


 奪った剣の感触を確かめながら、一振り。そしてそのままシュバッと振り返った彼の喉元に剣先を当てた。


「まだやる?」

「こ、降参します……」


 その言葉に会場が湧き上がる。俺は一際騒ぎ立てるギルクに、前触れなく取り上げた剣を投げつけた。それを頬に斬り傷を負いながらも、ギリギリのところで躱した某王子は冷や汗を滝の様に流す。


「チッ、外した」

『か、彼は一体何がしたいんだぁ‼︎観客への攻撃はやめてくれぇ‼︎ていうか、騎士団何してるぅ⁉︎』


 俺が剣を投げつけたのが予想外だったのか、反応出来なかった騎士団。

 キャランベルの苦労がまた増える。彼は果たしてこの大会中その頭皮を守る事が出来るのだろうか?


『とにかく、第一試合はキッチックの勝利だぁ‼︎』


 今度は歓声が起こらない。ギルクが煩いのはここにいた全員が気が付いていた事で、俺はそれを鎮める為に剣を投げたと観客は解釈したようだ。

 騒いだら剣が飛んでくると、静かにおぉぉと言うだけで歓声はなかった。


 なんだよ、俺が危ない人みたいじゃないか。

 マジで覚えてろよギルク。


 〜〜


「騎士長の幼なじみって本当にあの人なんですか?」

「うん。そうだよ」


 試合を見ていたアリスは疑う様に、ディクルドに尋ねた。そして、帰ってきた答えに首を傾げた。


 本当にあれ?確かに弱くはないけど……


 何度か聞いた話で、その少年もまたこの人ぐらい飛び抜けているのだろうと考えていたが、今の試合を見る限りそうでもなさそうだ。

 2人が別れてからかなり経つと聞くし、実力差が開いてしまったのかな、とアリスは考えた。


 しかし、ディクルドはそうは考えなかった。何度もレイと勝負してきた彼は知っていた。レイは追い詰められるまで、本気を出さない事を。

 常に隠し球を用意していた彼が、手を抜くのはいつもの事。今の試合を見て実力差が開いたと感じる余地はなかった。むしろ、彼の隠し球を打ち砕けるか、と迫る決戦に向けて闘志を燃やした。


 〜〜


「申し開きはあるか?」

「ある!あるから、その物騒な斧を下ろしてくれ‼︎」

「お前の首にか?」

「地面にだーーッ‼︎」


 まるで処刑人の様に手と首を同じ枷に嵌められたギルクが大声で叫ぶ。その姿からは彼が王子だとは誰も想像出来ないだろう。


「前にお前の情報を隠したいって言っただろ⁉︎これもそうだ‼︎」

「そんな事は分かってんだよ。俺が聞きたいのは、なんだあの名前はって事だよ」

「あれはだな、その、なんというか、ノリ?」

「死ね」

「ゴブフォ‼︎」


 俺はギルクにトドメをさして、処刑台を降りる。


「あーあ」

「だから鬼畜なのよ」

「今回に関してはあいつが悪い」


 ギルクの処刑を見守っていたゴルドとアンナ。その目には全く同情するものが含まれていない。慣れたのか、それとも今回はあいつの自業自得だと思っての事かは知らないが。


「さてと、あの馬鹿頼むわ。俺もうすぐ出番だから」

「放置しといていいんじゃない?」

「それはそれで後で見たかったとウザそうだから、叩き起こして連れてってやってくれ」


 俺はそう言い残し、次の出番、障害物競走に向かった。


 武闘大会は1つのトーナメントと9つの種目に分かれている。

 トーナメントの予選は毎日行われる。他の種目はその合間、合間に入ってくる感じだ。それは観客を退屈させないためと、選手が常に最高の試合が出来る様にとの措置だ。

 まる1日あれば魔力もかなり回復するし、傷を癒す時間もある。毎日試合があるわけではないが、連続である日もあるのだ。そのため一方に不利な状況を作らない為にそういった日程になっているのだ。


 また、これはメインであるトーナメントの補助的なものであるため、他の種目は結構適当なものが多い。

 今から出る障害物競走など、どこの運動会だと突っ込みたくなる。だが、内容は結構ハードだったりする。ゴール出来ない者など毎年大量に出るらしい。大怪我をする者もいるそうだ。

 それでもなくならないのは、日本のように危ないからやめるという世間の意思がないからだろうか?それとも魔法があるため、余程の事がない限り大丈夫だからだろうか?


 まぁ、それは置いといてだ。

 中には危険もクソもないような種目もあるが、俺が出るのは大概危険な奴ばかりだ。なので、うまい具合にトーナメントも手を抜いていかなないと途中でバテる可能性がある。

 ディクと当たればその限りではないが、他は出来るだけ魔力も使わずにいきたい。それは種目でもだ。

 俺にはほとんど休みがないからな。


『さあ次の種目に参りましょう‼︎障害物競走‼︎皆様ご存知の通り、選手達にはこれから様々な障害が待つコースを走り抜けてもらいます‼︎妨害も手助けもなし‼︎違反者は即失格‼︎選手の皆さんは気を付けて下さい‼︎己の力のみで駆け抜けて下さいよ‼︎』


 そんな事は知ってるとばかりに選手達が頷く中、一人ルールを知らなかった俺は冷や汗をツーと流す。

 あっぶね……

 自分が障害になるつもりで、他の王立学院の生徒以外を足止めしようと思っていたが、危機一髪であった。

 後でルールの確認をしとかないとな。


『さあ、スタンバイオーケーかい⁉︎選手諸君‼︎それでは3、2、1、スタート‼︎』


 一斉に100人近い選手達が駆け出す。入り口付近は大混雑だ。我先にと、誰もが必死に足を回転させる様子は、魔具を通して闘技場の画面に映し出されていた。


 ファンタジーな障害物競争は、とてもじゃないが闘技場の中で出来るものではない。観客は街の外に用意された障害を乗り越える俺たちの姿をスクリーンの上で観戦していた。


 開始直後の大混雑を避けるため、俺はそのスクリーンには映らない最後尾につき、のんびり走るというか歩いていた。

 どんな障害があるのかわからないんだ。後ろからいった方がいいだろうと言い訳を考えながら、先人達が切り開いた開拓済みの道を進む。


『さあ、早くも先頭集団が第一関門に差し掛かったァ‼︎立ち塞がるのは大きな壁‼︎登ってもよし、壁に穴を開けて通り抜けるのもよしだ‼︎飛び越える⁉︎そんな事出来るならやって見やがれ‼︎』


 煽るような解説をする司会者。俺は挑戦状かとそれを受け取る。

 ほぉ?飛び越えられないとでも?


 続々と壁を登る生徒達。壁を壊そうというものはないない。そんな事をすれば他の者にその後を抜けて来られるだけだからだ。力を使うだけ無駄だというものだ。


 そして、最後尾の俺がたどり着いた頃には、もう壁を越えて向こう側に降り立つものが全体の約半数程いた。さすがは大陸中から集まった優秀な者達といったところか。たかが高い壁如きでは止められないようだ。


 この種目にはディクもあの魔法学校の子も出ていないため、手抜きコース真っしぐらであったが、考えていたよりも手強いようだ。

 あんまり手を抜いてもいられないか……


 そんな事を考えながら、俺は空に飛び上がった。そこはかなり壁から離れた位置。

 それを見ていた者は何してんだと笑いを漏らすが、すぐにその顔は驚愕の表情へと変わる。


『なっ、なっ、なんとぉ⁉︎キッチックがぁ、飛んでいる⁉︎いや、走っている⁉︎何もない空中を走っているぞッ⁉︎』


 その驚愕の解説に壁をよじ登っていた者たちが振り向き、唖然と口を開ける。俺はそんな彼らの視線を受けつつ、障害を難なくクリアした。

 若干してやったり感がするのは否めないが、この程度の障害なら簡単にゴール出来そうだ。


 〜〜


「は、走ってますよ⁉︎騎士長‼︎」

「昔からレイは何もないところでジャンプ出来てたからね。あれぐらいやってのけるよ」


 アリスはスクリーン上に映し出された信じがたい光景に目を見開いた。思わず驚愕の声を漏らすが、それに対し平然と答えたディクルドを見て、思い直した。


 この昔から異常なディクルドが唯一ライバルと認めている相手なのだ。普通である筈がない。単なる基礎能力だけで判断するのは早計だったと思い直した。

 何より、初日から空を走る奇行をやってのける相手。他にも何か隠しているに違いない。


『キッチックが一気に追い上げてきたぞ‼︎最後尾にいたのにもう真ん中まで登りつめてきた‼︎だが、何故歩いているんだ彼は⁉︎』


 壁を越えたレイはまた歩いていた。それは余裕の現れか、それとも舐めているだけかは、スクリーン越しには判断出来ない。

 ただ一つ、わかるのは本気でやってない事。

 シャルステナはそんなレイの様子に、頭を押さえため息をついた。手を抜き過ぎだろう、と。


 そんな呆れ顔のシャルステナの横で、ギルクは何してんだ⁉︎ぶっちぎれ‼︎と怒りを爆発させていた。


「あのアホめ‼︎何してるんだ⁉︎」

「流石はレイさん、余裕ですね」

「先輩の相手の人達がかわいそうですよ……」

「レイ兄かっこいいー」

『さすがマスターです。あえて意表を突いて歩くという行為尊敬します』

「そっち?飛んだ方じゃなくて?」

「アンナも飛んでよ〜。せっかくスカートなんだから」

 バチン!


 口々に感想を口にし、今日もゴルドは叩かれる。もはや彼の頰は紅葉あってのものとなりかけている。知り合って間もないセーラなど、ゴルドの顔を紅葉で判断する様になっていた。シーテラのプログラムが紅葉判断になっていない事を祈るばかりだ。もしそうだったら、紅葉がない彼をゴルドと認識してくれない事だろう。


 〜〜


『続いての障害は水攻め‼︎魔法騎士が放つ水魔法を超える事が出来るかぁ⁉︎』


 先頭集団が早くも次の障害へと差し掛かった。続く障害は水攻めと言う名の川。魔法と言う奇跡で作られた川は、王都でレイ達が遊びに行っていた穏やかなものとは違い、かなり流れが速い。しかし、レースであるため、止まることは許されない。


 選手達は意を決し、足を取られれば流されること間違いなしの川へと突入していく。その上をうわぁ濡れたくないなぁ、と他人事の様に見下ろしながら走る俺。

 眼下を流れる川に押し流されていく人を見ながら、あれも失格なのかな?と疑問に思いながらも、反対岸に辿り着いた。


『キッチックが先頭集団に躍り出た‼︎また空を走っていたぞ⁉︎一体お前は何なんだ⁉︎鳥か⁉︎』

「鳥は飛ぶだろ」


 そんな聞こえもしない突っ込みを入れながら、俺はまた歩く。

 どこに障害があるかわからないし、誰かが障害に突入してからでもいいだろ。


『続いての障害はコチラ‼︎間欠泉溢れる危険地帯‼︎ボーと走ってるのと間欠泉に吹き飛ばれるぞぉ‼︎』


 プシューと吹き出す熱湯。とても熱そうだ。更にブクブクと間欠泉の中で沸騰する水。それがいつ来るか分からない吹き出しを、より察知し難くしている。


 そんな間欠泉地帯に先頭集団の選手達は慎重かつスピィディに歩を進めた。流石はここまでトップを維持しただけはある。この程度、臆する事はないようだ。


 一方、そんな彼らと同じく俺もスピードをあげる。と言っても、走っただけだ。そして、そのまま危険地帯へと足を踏み入れた。


『迷いなく踏み出したキッチック‼︎間欠泉にぶつかるぞ⁉︎』

「えっほ、えっほ、ほい」

『おぉ‼︎簡単に避けた‼︎また、避ける‼︎彼には次に吹き出す場所がわかっているのか⁉︎」


 イエス。こんなもの空間スキルだけで十分だ。来る前に動くからすぐわかる。

 そんな風に間欠泉ばかりに注意を払って危険地帯を潜り抜けると、気が付けば俺はトップになっていた。


 あらら。これで次は一発目に突入しないといけないのか。


 そんな風に、未知の障害へとほんの少しだけ危機感を募らせていると、少しでは済まない危機が降って来た。


『キッチックが抜けたー‼︎一気にトップに躍り出た彼に立ち塞がるは最終関門‼︎その名も火竜‼︎』

「はっ…?」


 思いもしない障害に思わず間抜けな声が漏れる。聞き間違いであってくれと、巨大な影が現れるまでの僅かな間に願うが、無情にもそいつは現れた。


 クゴォォオ‼︎


 真っ赤な鱗を纏う巨大な影。それはまごう事無く火竜の姿であった。


 ドゴォォォォオン‼︎


 鳴り響く咆哮と地響き。


 嘘だろ……

 誰がクリア出来んだよ……


 俺だけでなく選手全員の動きが止まる。


『キッチック、我輩を越えてみよ』

「無理です」


 即決。

 無理無理無理無理‼︎障害がでか過ぎる‼︎


『安心せよ。ブレスは禁止されておる』

「いや、それは問題じゃないから。自分の下見てみなよ?軽くクレーターになってんじゃん。そんな事普通に出来る奴を越えれるか」

『ならば、叩き潰すまで』


 ドゴォォォォオン‼︎


「待て待て待て待て‼︎運営‼︎俺じゃなきゃ死ぬぞ⁉︎」


 火竜の腕を飛び上がる事でギリギリ躱す。地面から粉塵が巻き上がり、大きく地面に穴が開く。


『さすがのキッチックもこれは厳しいかぁ⁉︎はっはっは‼︎毎年毎年俺たちが腕によりをかけた障害突破しやがって‼︎今年はゴールできると思うなぁ‼︎』

「本音漏れてんぞ‼︎」


 本音を聞いた選手達は続々と反対方向に引き返す。

 あんなの卑怯だと叫びながら運営に文句をたれ、障害と呼ぶには生易しい脅威から少しでも遠ざかろうと実に正しい選択をする。俺もそれに乗っかりたいぐらいだ。しかし、現実はそう簡単にはいかない。


『どうした?避けるだけでは我輩はどかせんぞ?』

「俺も逃げていい?」

『逃がさん』


 ですよねー。めっちゃあなた楽しんでますもんねー。やっと出番きたのに全員逃げたら、活躍できないもんねー。

 火竜は去る者は追わずの精神は持ち合わせていないようなだ。


「クソ運営がぁ‼︎」


 俺は地に降り立つと、取り敢えず叫んだ。何故、初日からこんな難関に挑戦せねばならんのだ。


『隙だらけだ』


 火竜は再び腕を振るう。それだけであたりに突風が吹き荒れ、先程の攻撃で砕けた地面が吹き飛ぶ。

 無茶苦茶ですやん。もはや魔法ですやん。


 そんな風に実力差を身に染み込ませつつ、岩石の弾丸となり迫り来る岩を躱し、砕きながらも、同時に急降下してくる巨腕へ対応も行う。


「反転」

『むっ』


 腕のベクトルが逆転し、跳ね返るようにして弾かれる。それによりバランスを崩した火竜の足を追い討ちを掛けるように反発空間で弾く。


「だめ押し‼︎」


 嵐の様な風が吹き荒れる中飛び上がった俺は火竜を殴る様にして、さらに回転を加える。だめ押しだ。これでどうにもならなければ、全力で逃げよう。


『ぬぅ‼︎』


 ドコォォン‼︎


 ひっくり返っただけ。それだけで地面を破壊する障害物。

 ダメージと呼べるものは一切ない。だが、それでいい。


「固定」


 火竜の羽と地面を縫い合わせる。前にお化け屋敷でやった方法と同じだ。

 本当に便利なスキルだ。たった一つのスキルなのに使い方次第で空を走ったり、動けなくしたり、防御にもなる。


『フン!むっ?動けん』


 起き上がろうとする火竜は何故か羽が地面から離れない事に戸惑う。すぐに俺が何かしたと判断するも、横になるようにひっくり返った状態では片手しか動かす事が出来ない。

 火竜ならばその状態でも地面を破壊し、体勢を立て直す事は可能だろう。だが、それよりも先に障害を突破し目の前に立つゴールへ飛び込めない俺ではない。

 俺は空中で反発を使い飛び上がると、そのまま魔法で体を押し流して、ゴール地点を通過。完全に障害を乗り越えた。


『ご、ゴールぅぅ‼︎クソがぁ‼︎』


 悔し涙を流しながらも、俺のゴールを伝えなくてはならない司会者に少し同情しながらも、俺は悠然と地面に降り立つと、大音量の歓声が遠くから木霊した。

 ここまで聞こえてくるとは、会場はえらい盛り上がりだなと、冷静に分析しながらも役目を終えた固定を解く。


『まさか抜けられるとは思わなんだ。しかもこんなに容易に……』


 地面との縛りから解放された火竜はすぐ若干悔しそうにしながら、ドシンと音を立てて体制を立て直した。


「こっちこそあんたが出てくるとは思わなかったよ。やめてくれない?他に誰もゴール出来ないよ」

『一度引き受けた事は最後までやり抜く。それが信条だ』

「ああそう……」


 もう満足しただろと交渉するも、それをバッサリ切り捨てる火竜。

 迷惑な信条だ。俺単独ゴールじゃないか。これでは。

 可哀想に…


 俺は千里眼を使わなければ見えない所まで逃げ去った彼らを見て、深く同情した。

 ………………連れてきたのは俺なんだけどね。


 〜〜


「な、な、な、なんですかあの化け物は⁉︎竜を殴り飛ばしたよ⁉︎」

「飛ばしてはないんじゃないかな?」

「そんな事はいいの‼︎竜が拳で倒れたのよ⁉︎」

「レイの事だから多分他にも何かしたんじゃないかな?」


 映像を見ていた観客は半分は目の前で起こった事が信じられず静まり返り、もう半分は熱狂覚めやらぬ様子で騒ぎ立てていた。

 そんな中、レイの戦力分析のつもりでレースの様子を見守っていたアリスは、驚愕からいつもの敬語も忘れ、昔の様な言葉遣いであたふたしていた。

 一方、取り乱すアリスの横に立ってレースを見ていたディクルドは彼女に言葉を返しながらも、自分も出ればよかったなぁと全く別の事を考えていた。


「楽しみだなぁ。早くレイと戦いたいよ」


 そんな事を笑ながら話すディクルドに、アリスは『あっ、この人も化け物だった……』と今更ながらに再確認した。


 一方、彼らの丁度真正面には眼光の鋭い少女が食い入る様にスクリーンを凝視していた。


「強い……何者…?」


 画面を睨む様に見詰めるシルビアは、予定外の強敵が出てきたものだ、と元から鋭い目をさらに鋭くする。


「どちらにしろ、勝つのは私よ」


 ただ臆する必要はないと気合いを入れ、自分を鼓舞する。

 元より化け物を倒して優勝するつもりで、この一年鍛錬を続けてきたのだ。倒さなければならない相手が1人増えたところで問題ない。

 それに、あの化け物よりも弱そうだ、と安易な結論を出した。それは手も足も出ずに負けた苦い記憶と、先のふざけた行動があったからだ。


 彼女にとってディクルドとの試合は初めての敗北だった。その忘れようもない屈辱がディクルドを大きくし、また雪辱を果たす相手として巨大化させたのだ。

 また、全員が真剣に望むこの大会でどう見てもふざけているとしか思えない態度をとるレイの事を軽蔑し、それが無意識の内に私より弱いという結論を安易に出してしまった。


 そんな風にレイの戦力分析を行う、騎士、魔法学校のトップ選手達とは別に、彼の応援に来ていたギルク達は、スクリーンで竜と会話するレイの姿を見ながら、興奮していた。


「うおっしゃぁぁぁあ‼︎」

「うるさい。レイなんかまた強くなってない?竜を転がしたんだけど…?」


 耳元で騒ぐギルクにシャルステナは冷たく文句を言いつつも、また修行しないと、と呆れ半分に呟いた。


「先輩、腕力やばくないですか⁉︎あれ!」

『マスターは力ではなく、スキルで竜を転がしたと分析します』

「どっちにしても、人間じゃないね」


 単純に見た事だけを信じ、驚愕するリスリット。それに対し、シーテラは冷静な分析の結果を伝える。しかし、彼らの中では結論、レイは人間というカテゴリーから外れてしまったらしい。ライクッドの言葉に二人は深く頷いた。


「あたし出なくてよかったぁ」

『アンナなら食べられてた』

「うっさいての」


 アンナはいらん事は言わんでよろしいとハクを小突く。


「レイ兄かっくっいい〜‼︎」

「アンナ、デート行こうよ」


 心が折れないゴルド。脈絡も何もなくアンナにアタックする彼はこの中で一番ハートが鋼鉄なのかもしれない。今日も彼の頬から綺麗な紅葉が消える事はなかった。


 こうして武闘大会1日目は、大興奮の中、終了した。

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1度、実況がレイと呼んでましたよ。
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