53.モテ期到来
『マスター、どの様にしてここを抜け出すおつもりですか?』
「マスターはやめてくれない?レイって呼んでよ」
『お断りします。マスターは新しい私のマスターですから。それと私はシーテラと呼び捨てにしてください』
「それはいいけど……マスターはやめて」
『お断りします』
そんな問答を10分程続けた。
シーテラはかなり強情だった。一歩も譲ってくれない。結局、俺が折れて、マスターの呼び名を認可する事になってしまった。
人前で呼ばれると恥ずかしい……絶対シャルステナに何か言われる気がする…
『マスターは気分が優れないようですね。早くこの陰険な場所から抜け出しましょう』
「誰のせいだよ……」
何を勝手にこの場所のせいにしてるんだ。君だよ君。俺が気分が優れない原因は。
それによっぽど早くここを出たいのか、手まで引いてきている。まぁ、何千年もこんな所に一人でいたら、すぐにでも出たくなる気持ちはわからんでもないが……
『マスター、行き止まりです』
「そりゃ、ここは土で覆われてるからね。上の方に抜け道があるんだ。そこまで飛ぶよ」
『マスター、私は飛べません。前マスターがその様な機能は取り付けてくれませんでした』
「だろうね。俺に掴まって。飛び上がるから」
『了解です。マスター』
そう言ってシーテラは俺の首に捕まり、腰を曲げた。
「何故その体制なんだ…?背中に捕まれよ」
『拒否します。前マスターが男性に掴まる時は、お姫様抱っこと申しておりましたので』
「あの自称天才野郎!」
俺は再び燃え上がる怒りを口にして、諦めた様にシーテラをお姫様抱っこした。どうせ一度言い出したら、聞いてくれない。それはさっきのでわかった。
それより、あの天才野郎何を吹き込んでんだ!もっとマシな事を教えろ!
「しっかり掴まってろよ」
『もう貴方を離さない』
「…………」
ほんと碌な事を教えてねぇな!
そんな再燃した怒りを胸に飛び上がった。二段ジャンプと固定空間を用いて、何回か飛び上がり、穴の入り口まで戻った。
シーテラの体は人工生命体の名にふさわしく、人を触った感触と変わらなかった。そんな彼女を作ったという天才野郎は確かに天才なのだろう。だけど、素直に賞賛出来ない自分がいる。過去の人達もきっと同じ気持ちだった事だろう。
『マスター、流石です』
「…ありがとう」
若干疲れが出たが気にしては負けだと、出口に向かって歩き始めた。
あの天才野郎、生きてたら絶対殴ってやる。死んでるだろうが…
しばらく歩くと、洞窟の出口が見えてきた。
まだ、日が昇っているようで、出口からは光が差し込んできていた。その光をみたシーテラが、突然走り出した。俺はその後をゆっくりと歩いて追った。
彼女にとっては何千年振りの日の光だ。走り出してしまうのも、仕方のない事だ。どうやら、懸念していた感情と言う物があるようで、安心した。
人間と同じ様に話して動くのに、感情がないただの人形なんて悲しいもんな。
『マスター……とても綺麗です』
シーテラの見つめる先には、沈みかける太陽があった。赤く染まった水平線が、俺たちにも反射してきて、周りの景色と共に赤く染まる。
俺にとっては何度も見たような景色。だけど、彼女にとっては、何千年振り、あるいは初めて見た夕日だ。
思わず見惚れてしまうのも仕方ない。
俺はそんな彼女へと視線を向ける。
今まで暗い場所にいたため、彼女の容姿を初めてキチンと見た。
薄い緑の髪。見ようによっては水色にも見える髪に、青く光る眼。今は子供の様な顔で夕日を見ているが、普段は年上のお姉さんといった感じになりそうな顔立ちをしている。その体はある所はあり、ない所はないスレンダーなスタイルだ。
「……世界にはもっと綺麗な景色がいっぱいある。いつか自分の足で回ってみたらいいよ」
『はい!マスター』
嬉しそうに、そしてとても楽しそうに頷く彼女に、俺は連れ出して良かったと、心からそう感じた。
〜〜
「あ、レイ!」
「よっ、みんな帰り?」
山から出た所でシャルステナ達、修行組とバッタリ会った。
「うん。今さっき終わっ……誰?」
後ろから続いて出てきたシーテラを見るなり、冷たい視線が俺に向けられた。
「ええっと、名前はシーテラで、オートマタ」
『シーテラと申します。人工生命体です』
「オートマタ…?それって…」
「なんかさ、この島の遺跡調べたら、シーテラと出会ってさ。5千年も外に出てないって言うから、連れてきた」
「……はぁ」
簡単に経緯を説明すると、シャルステナは頭に手を置いてため息を吐いた。
「この頃ため息多くないか?」
「誰のせいよ!」
俺のせいだとギャーギャー文句を言いはじめるシャルステナ。俺は苦笑いで、一歩引いた感じだ。相当お怒りが溜まっていたようだ。一度発散させておかないと……
「いや、俺が悪かったから、そろそろ許してくれシャル」
「嫌よ!何回言ってもレイは聞かないんだもん!」
「ところで、レイさん、遺跡って何ですか?」
「お前、よくぶち込んでこれたな。遺跡ってのはな…」
俺がシャルステナにお説教されている流れで、いきなりライクッドが入ってきた。
普通なら空気読めとなる所だが、お説教されている俺には渡りに船だ。そう思い乗り込もうとした。しかし、シャルステナが乗船を許可してくれなかった。
「レイ‼︎まだ、話は終わってない!」
「いや、だってライクッドが…」
「言い訳しないで!」
「は、はい…」
「ぷっ」
あいつ後で殺す‼︎確信犯だ!間違いなく!
絶対、これを狙ってやがった。甘い蜜で引き寄せ、俺を罠にかけやがった。後で地獄へ招待してやろう。強制的に。
「うわぁ!これが人工?人間と同じに見えます。質感も人間と同じ感じ…」
『私のボディは人間とほぼ変わらない構造で、出来ています』
「……触った?」
「えっ?」
突然、また絶対零度の視線を向けてきたシャルステナ。俺は一歩引いて、凍結を避ける。
「だから、シーテラさんの体に触ったって聞いてるの?」
「そ、それはだな、脱出の時に、仕方なくというか、抱えたと言いますか。うん、天才野郎の罠だった」
俺は悪くない。どう考えても、天才野郎が仕組んだ事だとしか思えない。全部あいつが悪い。
「……火竜焼いて」
「えっ?ちょ、待ってッ‼︎危ない‼︎」
突然、出現した火竜のブレスを間一髪躱す。
「避けないでよ‼︎」
「避けるよ!燃えるじゃん!」
俺、悪くないもん。悪いのは天才野郎だ。あっちを焼いてくれ。俺は無実だ。
冤罪で焼かれてたまるか。
『マスター、火の生命体です』
「違う!魔法だ!シャル、一回落ち着こう!ちゃんと、ちゃんと、説明するから‼︎」
俺は必死に避けながら、シーテラの間違いを正し、シャルステナを説得した。すると、シャルステナは少し思案顔になり、火竜を止めた。
「ふぅ……えっとだな、とりあえずこれ見てくれ。シーテラ頼む」
『はい、マスター』
俺は収納空間から記録装置を取り出した。いきなり部屋が出てきた事に、三人は驚いていたが、すぐに元に戻った。いつもの事かと言いたげな表情だった。
そして、シーテラがポチポチッとボタンを弄り、再びあの腹立たしい奴が登場した。
「な、何ですか⁉︎これは⁉︎」
「過去にこんな技術が⁉︎」
「…………」
ライクッドとリスリットは驚愕していたが、シャルステナはそれ程でもなかった。少し目を見開いただけで、取り乱しはしなかった。代わりに、どこか遠い所を見て懐かしむ様な、そんな眼をしていた。
そして、腹立つ天才は先程と全く変わらない説明を始める。話が進む内に、リスリットとライクッドは俺と同じく怒りを露わにし始めた。俺はウンウンと頷き、それに同意する。二度目でも腹が立つのは変わらないのだ。
そして、話が魂の合成にまできた。
「同化……」
「この辺りから話が訳が分からなくなる」
シャルステナの呟きに合図を打つように説明を挟むそして、更にちんぷんかんぷんの説明が進むと、
「……魂を…引き裂いた…?」
「ん?いや、俺にそんな眼向けられても困るんだけど…」
シャルステナが俺を真っ直ぐと見詰めてきた。眼は限界まで大きく開かれ、何かあり得ないものを見たかの様な印象を受けた。そんな訳が分からないと言った顔をしたシャルステナは、話についていけなくなったのだろう。
だけど、俺にも言ってる事はよくわからない。だから、俺には説明出来ないと告げると、シャルステナは無言で再び映像を凝視し始めた。画面に食い入るかの様に、真剣な表情で見詰めていた。
歴史に興味があるのかな?
そして、やがて説明が終わり、どうでも良い自慢話に突入仕掛けた所で、映像を止めさせる。
「これで終了。後は腹立つ事しかないから」
「待って!これで終わり⁉︎」
「あ、おい、シャル」
俺が終わりと告げると、シャルステナは俺ではなく、画面の中の天才に掴みかかろうとした。しかし、そこには掴める物は何もなく、スカッと空振りしてシャルステナは前のめり倒れる。すかさず俺がフォローにまわり、地面に着くまでにシャルステナの体を支えた。
「レイ…?」
「落ち着いた?」
「…………うん」
俺の顔を見て、何と言っていいかわからない顔をしたシャルステナ。そして、やがて俺の言葉に小さく頷くと自分の足で立った。しかし、その表情はとても暗かった。
今の映像の何が彼女をこんな風にさせてしまったんだろう?
確かに腹が立つ映像だったが、こんな風にシャルステナが落ち込む様な要素はなかったと思う。
「大丈夫かシャル?」
「…うん、ちょっと、話がわからなかっただけだから…」
「…………」
ただ話が分からなかっただけとは、とても思えない。何か彼女にとって、取り乱してしまう様な内容があったとしか思えない。
シャルステナが取り乱し始めたのは、魂の合成の辺りからだったよな。これは、禁忌の方法と言ってもいい。その後の魂を分解するという話も。
だけど、そんな事でシャルステナがここまで取り乱すだろか?シャルステナにとって、それはそこまで許せない事だったのだろうか?
……そうは思えないな。確かに簡単に許せる手段ではない事はわかる。だけど、あの天才は言っていた。滅亡寸前だと。
其れ程まで人類は追い詰められていたのだ。許せる許せないの話ではない。例え許される事ではなくともやらねばならなかったんだ。
その事をシャルステナがわからない訳がない。彼女は計算は苦手だが、頭は物凄くいいのだ。俺がわかって、彼女がわからない筈がない。
なら、なんだろう?
彼女が本当に取り乱した瞬間、彼女はこれで終わりかと大声で言っていた。
説明が足りなかった?それだけで取り乱すか?
何かもっと説明が欲しい箇所があったのか?
……ひょっとして、邪神の結晶の事か…?
俺が持ってるから、シャルステナは取り乱したのか?
「……シャル。邪神の結晶の事だけど、俺の意思で取り出さない限り、二度とこの世界に出てくる事はないからさ。そんなに考え過ぎないでくれ」
俺はシャルステナに元気を出して貰おうと、安心させる様に優しく言った。それにシャルステナは小さく首を縦に振っただけで、他には何も反応を見せてくれなかった。
「……一度戻ろうか」
元気が戻らないシャルステナが心配になり、取り敢えず城に戻って食事でもしようと思った。多分、今の彼女は混乱していて、俺の言葉が耳に入っていない。時間を置いた方がいいと思ったのだ。それから、もう一度話をしよう。
そうして、元気のないシャルステナに気を使いながら、俺たちは城へと戻った。
そして、城の前に着くと、ギルクが磔にされていた。
「…空気読め、KY王子」
俺はそう吐き捨てると、ギルクを無視して中へと入った。シャルステナも、それに続く。しかし、その顔は心ここに在らずといった感じで、ただ流れに任せているだけの様だった。
シャルステナがこんな状態なのに、お前は何やってんだ。空気読めや。
「レイさん、あれ放って置いていいんですか?」
「いいんだよ。何があったかはわかるから」
どうせ地獄部屋をクリアして、いざ女湯へと乗り出した所で、母さんに見つかったのだろう。それで磔にされただけの話だろう。今はそんなアホな王子の事より、シャルステナの方が大事だ。このまま放置なんて出来ない。ギルクは別に放置しておいて問題ないが……
食堂につき、適当な椅子にシャルステナを座らせた。
「シャル、何か食べるか?」
「…………」
シャルステナは俺の言葉に反応を示さなかった。
物凄く心配になってきた。取り敢えず、ご飯を食べさせよう。食べてくれるといいが…
シーテラはいつも通りだが、他の二人は心配そうにシャルステナを見ていた。道中もずっとこんな感じだったし、心配するのも無理はない。
俺は二人にシャルステナを見て置く様に頼み、シャルステナの分の食事を取りに行った。俺のはいい。食べてる場合じゃないしな。
「シャル。ほら、少しは食べとかないと」
「……」
シャルステナはその言葉に流される様に、ゆっくりと食べ始める。だけど、味を楽しむといった事は一切なく、機械的に口に運ぶといった感じだ。
「お前らも飯取ってこいよ」
「あ、はい」
「レイさんはいいんですか?」
「俺は後で食べるから、先に食べとけよ」
シャルステナが心配で、喉を通らんだろうしな。
二人はイソイソといった感じで、食事を取りに向かった。シーテラはそのまま座っていた。
オートマタは食事を摂らないのかもしれないな。一応聞いとくか。
「シーテラも食事を取るなら、自由に取ってくれていいから」
『はい、マスター』
シーテラはそう言うと、席を立ち、二人の後を追っていった。聞いてよかった。ご飯食べれるんだな。
そんな事を考えながら、食事を取るシャルステナを見詰めていた。
本当に大丈夫なのかな、これは?時間を置こうと思ったけど、それで本当に良かったのかな?
俺は不安になりながらも、ジッとシャルステナを見ていた。少しでも何か彼女にしてやれる事はないか考えていた。
「ちょっと鬼畜、シャルに何したのよ」
「俺は何もしてないさ。ちょっと、色々あってな。心ここに在らずって感じなんだ」
睨むようにアンナが俺を見て言ってきた。シャルステナの様子がおかしいのを、俺が何かしたせいだと思った様だ。
それは全くの間違いではないのだが、シャルステナがこうなったのは、あの天才のせいだ。あいつが何かいらん事を言ったから、シャルステナは混乱して、心ここに在らずになってしまったのだ。
「シャルステナ、大丈夫なの?」
「……わからない。時間を置けば、落ち着くと思うんだが……」
こんな事は初めてで、どうしたら元に戻ると、確信出来る手段はなかった。時間をおけばというのも、単なる推測でしかなく、それが余計俺の心配を加速させる。
「シャル〜、これ見て。今日ね〜、ゴルドと砂浜で遊んでたんだけど……」
アンナは綺麗な貝殻の様な物を取り出し、シャルステナに話しかけた。シャルステナを元気付けようとしているようだ。だけど、シャルステナは殆ど反応を示さなかった。偶に頷くぐらいで、声を出したりはしなかった。
アンナでも無理か……
一年の頃から仲の良かった二人。アンナならば、シャルステナに元気を出させる事が出来るかもしれないと密かに期待していた。だけど、余り効果はないみたいだ。
アンナはめげずに色々とシャルステナに話をするが、一向に元気が出る様子はなかった。
どうしたものかな……
そんな事を思い、思案していると、食事を取りに行っていた三人が戻ってきた。
「誰…?」
「シーテラ。ちょっと説明が面倒だから、また今度話す。シャルが元気になってからな」
「シャルがこうなったのって、やっぱあんたのせいじゃないの?」
「だから、違うって。腹立つ天才のせいだ」
「誰よ、そいつは?」
「シーテラを作った奴だ」
「作った?」
「そこの説明はまた今度だ。今はそれどころじゃないだろ?」
しつこく聞いてきたアンナに、シャルステナの方を見て、そう言った。すると、それもそうねと頷きアンナは再びシャルステナに話しかけた。
「レイさん、これ。レイさんも食べないとダメですよ」
「え、ああ、ありがとう」
ライクッドが手に持つ皿を一つ俺にくれた。よく出来た後輩だ。その横であっ、と言って口を開けている犬とは大違いだ。
『マスター、とても美味しいです。岩や木と違って、美味です』
「何を食ってたんだよ……」
シーテラの物言いに、少し呆れた声を漏らした。岩や木は食べ物じゃないよ。というか、あの廃墟の崩れた後ってこいつの食事の後だったのか?ひょっとして…
「岩を食べるなんて、歯が硬いんだね〜。僕なら折れちゃうよ」
『歯は前マスターが金属でも貫ける様にと、魔鋼金で作ってくれましたから』
「へぇ〜。僕の歯も、魔鋼金なら岩食べれたのにね〜」
どこかおかしな会話を始めた二人。
ゴルドよ、岩は食べ物ではないよ?だから、食べようとしなくていい。
「先輩先輩、私思いついたんですけど…」
「なんだ?」
耳元でコソコソと話しかけてきたリスリット。何か思い付いたらしい。
「先輩ってよく、シャルステナ先輩のスカートめくって、叩かれてるじゃないですか。それ、やったら元気出るんじゃないですか?」
「もうやった。白だった」
期待した俺が馬鹿だった。その程度の事は既にやってある。それでも元気にならないから、困ってるんだ。
『マスター、大変です』
「どうした?」
『燃料が尽きそうです』
「今食べてるじゃないか」
思いっきり補給してる様に見えるんだが…?
『この食事には魔力が含まれていません。これでは補給が出来ないです』
「えっ?シーテラ、魔力で動いてたの?」
『オートマタですので』
いや、そんな常識ですみたいに言われても困るんだけど……昔は常識だったのかもしれないけどさぁ。
『マスター、魔力の補給を要求します』
「いいけど…どうしたらいいのさ?魔素に変換してあげればいいの?」
精霊と同じ補給方法でいいのだろうか?魔力は余ってるから、結構沢山あげられるけど、どれくらい必要なのかな?
『私がマスターから吸い取ります』
「…吸い取るの?」
『はい』
「どうやって…?」
そんな方法あんのか?人の魔力勝手に取るって……
あの天才、他に何残したんだろ…
恐ろしい発明が残ってなきゃいいけど…
『私の口は魔力を吸収する能力があります。今までは食べ物に含まれる魔力を吸収してきましたが、この食事には魔力が含まれていませんので、食事での補給は不可能となります。その場合、直接生物の体から吸い取る事が出来るよう、口に機能が備わっております』
「口…?」
それってつまり、噛み付くって事か?こいつの歯、岩砕くんだよな?大丈夫か、俺?
そんな不安を誤魔化すように俺は水を口に含んだ。
『はい。つまり、簡単に言いますと、接吻して魔力を吸い取ります』
「ブフー‼︎」
「だ、ダメぇーー‼︎」
「えっ…?」
シーテラの発言に俺は口に入れていた水を吹き出し、シャルステナが突如復活した。思わず、間抜けな声が出る。
「ダメダメダメダメ‼︎絶対ダメぇ‼︎」
駄々っ子の様に、首を大きく振って、やらせないと拒否するシャルステナ。すっかり元気が出たみたいだ。よかった。これで一安心だ。
俺は大声で叫ぶシャルステナを見ながら、安堵から息を吐いた。
『しかし、補給が…』
「別に口じゃなくても、腕でもいいじゃない‼︎」
『前マスターの遺言ですので』
またあいつか‼︎お前は過去で何を教えてたんだ‼︎しかも、遺言って……
天才の頭の中はわからん。死ぬ前に何を残してんだよ……
もっとあるだろ。例えば、対邪神用の兵器とか。
「それでもダメぇ‼︎」
『しかし、遺言が……』
そんな問答を何度も続ける二人。どちらも一向に折れようとしない。
しかし、突然その膠着状態の言い合いに終止符が打たれる。
バッとシャルステナが振り向いたのだ。顔を真っ赤にして、さっきとは違う意味で取り乱しているようだ。
「シャル落ちつッ⁉︎⁉︎」
「んっ……」
俺がシャルステナを落ち着かせようと、顔を近ずけた瞬間、ガバッと首を抱き抱えられーーキスされた。
柔らかい感触が唇に伝わってきた。
突然の事に、俺も含めて、食堂にいた全ての者が膠着した。周りの者は唖然と口を開け、手に持ったスプーンやナイフを落とす。
一方、俺はシャルステナにされるがままだ。
突然ですが、皆様にお知らせいたします。現在、脳の処理が止まっています。
「……んぁ」
「………………………し、シャルステナさん…?」
しばらくして唇を離し、潤んだ瞳で俺を見詰めていたシャルステナ。俺も惚けていたが、先に意識を取り戻し、シャルステナに呼びかけた。
「ッ‼︎あ、あ、あ……」
俺の声に、何をしたのかやっと理解したと言った様子になったシャルステナ。顔を更に赤く染め、首から風を切るような速度で手を離すと、ゆっくり後退し始めた。
「ごごごごめんなさあーーぃぃい‼︎」
そう叫びながら、シャルステナは猛ダッシュで食堂から走り去った。
そして、残された俺たちを、なんとも言えない沈黙が包む。俺は未だ何がどうなったのか、よくわかっていない。
ええっ?ええっ⁉︎えええっ⁉︎
何が起こった今⁉︎
そんな混乱の中で、呆然と走り去ったシャルステナの方向を見ていた。
しかし、突然、首がクルリと回された。誰かの手によって……
それはシーテラの手だった。
『マスター、魔力をもらいます』
「えっ、ちょ、タンッ‼︎」
再び唇に柔らかな感触が伝わり、同時に今度は力が抜ける様な感覚に苛まれた。魔力を取られているのだろう。
『マスター、ありがとうございます』
「…………」
いつも通りのシーテラ。彼女にとってはどうという事はないのだろう。しかし、俺やそれを見ていた者、特に補給の話を聞いていなかった者には、もう衝撃が大き過ぎた。
俺は思考停止状態に陥っていた。他の大多数の者もそうだ。思考が停止しているようで、口を開けたまま固まっている。
しかしごく一部、というか1人だけは、思考停止ではなく混乱状態に陥っていた。
そして、混乱状態に陥ったただ一人の人物、リスリットは俺に近ずくとーーキスした。
「んっ……」
「うんんんん⁉︎」
はぁぁぁあ⁉︎
思考停止状態が破られ、俺は叫んだ。しかし、口を押さえられている様な状態なので、言葉にならなかった。
「……ん」
「……何故…?」
「へっ…?あ、ご、ごめんなぁぁさい‼︎」
俺の問いかけにリスリットは逃走で返事をした。シャルステナと同じだ。
再び沈黙がこの場を包む。
リスリットにキスされ、思考が動き出していた俺は、何が起こったのか、考えた。
えっと…シャルステナとシーテラが、キスでの補給で言い争っていたんだよな?それを俺はシャルステナの元気が戻ってよかったと、思いながら見てたんだよな?
それから、いきなりシャルステナが振り向いて、キスしてきたと。何故?シーテラに取られるのが嫌だった?
それはつまり、シャルステナは俺の事を……
次に、シーテラだな。これはシャルステナがいなくなり、補給を邪魔する奴がいなくなったからと、すかさずキスしてきたんだな。
これはわかる。一番謎なのは、リスリットだ。
何故に?
単純に考えれば、シャルステナと同じく、俺に惚れてるんだろう。
だけど、俺リスリットに何かしたか?
結構酷い扱いだったと思うんだが……ドMなのか?あいつは…
まとめてみよう。
つまり、こういう事だな。
俺モテ期。
「フッ」
思わず笑み漏れてしまった。それはもう無意識に。
しかし、その無意識の行動に、呆然としていた観客がブチッと音を立てて、キレた。
次々に意識を取り戻し、魔法を撃ってきた。俺はそれを避けずに受け止める。これはイケメンたる俺の宿命だ。モテない男共の気持ちを受け止めてあげなければ。
やれやれ、モテる男は辛いな。
大爆発の中心で、1人やれやれと首を振りながら、俺は非モテ男達の鬱憤を受け止めたのだった。
何故か急にハーレムのようになりましたね。何故でしょう?私にもわかりません。今後、ハーレム化していくのかも不明。
次は明日更新〜




