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52.過去からのメッセージ

 シャルステナはやはりチートであった事が判明した次の日、俺は山の中へと来ていた。今日は釣竿の材料集めが目的ではない。先日見つけた石畳が気になったのだ。あれは遺跡の一部ではないのかと。

 そして、遺跡の一部なら他にも何かあるはずだと、俺は調査に乗り出した。


 早速、空間探索を使い遺跡と検索してみるが、何もヒットしない。これはつまり、検索出来ないと言うことだ。

 おそらく、石畳と同じく大きな石で作られた遺跡はこの検索名ではヒットしない。バラバラの岩とでも、認識されているのかもしれない。そもそも元は自然にあったものを切り出し、加工したりして作った物だ。素材的にはなんら変わりはない。

 それらをスキルに見分けろというのも無茶な話だ。


 俺は空間検索でお手軽に見つける事を諦め、足を使い地味な調査を始める。空間探索が無理なのはわかっていた。たぶん無理だろうけど一応……という感じでやったのだ。落胆はしていない。

 それに、空間で開けている場所はわかるので、そこを中心にして回ることが出来る。手掛かりが何もないよりは効率的だ。


 一時間ぐらいかけて、5箇所ぐらい開けた場所を回った。しかし、遺跡の建物などは見つからなかった。代わりに石畳は見つける事が出来た。やはり、この島にはかつて人が住んでいたと見て間違いないようだ。


 5箇所目で石畳を見つけた後、俺は戻る事にした。そろそろエサを投入する時間だからだ。

 その後は海で遊ぶから、調査はまた明日だな。


 〜〜


 1週間が経った。

 あれから毎日のように海で遊び、夜は閻魔となりギルクを地獄へ放り込んだ。ギルクは現在地獄をクリア仕掛けている。もう直ぐ、天国(女湯)に辿り着きそうだ。それが本当に天国となるかは今の所不明だが……


 今日は休息日だ。一週間、海で遊び続けたので疲れが溜まっているだろうと、休息日にした。ギルクはそんな俺の気遣い関係なく、地獄へと既に乗り出した。今日、クリアするつもりらしい。


 やはり王子はエロに正直だ。ああもオープンであると、女性陣も強くは止められないらしい。むしろ、王子ならいいかなと、玉の輿狙いまで現れる始末。

 日本なら変態教師として新聞の一面を飾る事になる行いも、ここでは王子だからと黙認されてしまうらしい。羨ましい限りだ。俺は母さんが怖くてとても真似できない。


 一方、他のメンバーだが、シャルステナとリスリット、ライクッドの三名は朝から修行している。こっちも休息日は関係ないみたいだ。

 アンナとゴルドはまた何処かに二人で遊びに行っている。もう籠絡直前ではなかろうか?

 ハクは知らない。気が付いたらいなかった。また何処かに一人で遊びにでも行ったのだろう。

 そんなわけで一人ぼっちな俺は、再び遺跡調査のために山へと来ていた。


 この一週間チマチマと調査を進めていたのだが、一向に進展していない。毎日、石畳を見つけては、違ったかとか、あれ?ここ前に来たなとか、そんな事を繰り返した。


 そんな所へ突然やって来た休息日。まぁ、俺が休息日にしたんだが……

 とにかく、その休息日を活かさない訳にはいかない。

 今までは次の日になって、どこまでやったっけ?、となかなか調査が進まなかったが、今日は1日かけて、全部回ってやろう。というか、遺跡を探検してやろうという気持ちでやって来た。


 まずは端から順に潰していこうかと、今いるところから一番遠い地点に向かった。道中幾つかあるポイントもついでに潰し、目印を置いた。目印とは空間検索に引っかかり、尚且つ、この山に無い物であればいい。それと、数が多い方が良かった。


 そのため、竜化のせいで何枚か破れたズボンをさらに千切り、石で抑えて置いていった。これで布と調べたら、検索出来る。それとポイントを照らし合わせれば、既に行った場所がわかるはずだ。

 初めからやっていれば良かったと、若干後悔しつつ次のポイントへと向かう。


 千切っては置き、千切りっては置きを繰り返し、気が付けば、半分程のポイントを周りきっていた。しかし、本命は見つからない。そう簡単にはいかないみたいだ。ひょっとしたら、もう倒壊してしまっているのかもしれないな。


 そんな考えが一瞬頭を過ぎったが、最後まで回ってみようと気を取り直し調査を続けた。


 そうして、黙々と回り続ける事3時間。千切るズボンももう殆どなくなり、そろそろ今履いているズボンにダメージジーンズ的なアレンジを加えようかという頃、全てのポイントを周り終えた。


「ないな〜。もう全部崩れちゃったのかな」


 少し落胆しながらも、声に出して現状の確認を行った。


 どうしようか?

 このまま諦めて帰った所で、まだ昼過ぎ。やる事がない。それなら、まだ調査を続けてみてもいいかもしれない。

 元から今日1日はそうするつもりだったのだ。今更予定を変更しても仕方ないしな。


 そう考え、調査を続行する事に決める。

 さてと、そうなってくるとこの調査方法を変えないとダメだな。

 とりあえず、地面にポイントの分布でも書いてみようか。


 俺は枝で少し更地になっている場所に、島の形と見つけたポイントを書き込む。こんな時にも芸術家はいい仕事をしてくれる。芸術と言うわけではないが、それなりに分かりやすい地図が出来た。


 出来た地図を少し遠目に眺める。こうして書き出してみると、空間の弱点もわかってくる。弱点という程の事ではないかもしれないが、やはり地図にした方が分かりやすい。


 空間はどうしても広範囲に広げると、全てを一度に感じとる事が出来ない。いや、出来るのだが、情報量が多すぎて脳が追いつかない。知力が上がるにつれ、だんだん処理が出来るようになってきているのだが、それよりも空間の範囲が広がるスピードの方が早い。そのため注目する範囲を少しずつ変えて、感じとっていくしかない。


 しかし、その方法では全体像がわからない。だからこうして書き出したのだ。こうして地図にすると全体像がよくわかる。

 だが、そろそろ空間を広げることに力を注ぎ込むのもやめた方がいいかもしれない。もう十分な広さがある。

 それに処理が追いつかないのなら、広げる意味もあまりない。一旦ストップをかけてみる頃合いなのかもしれない。


 そんな事を考えながら、しばらくボーっと地図を眺めていると、バラバラに見ていた時にはわからなかった事がわかってきた。


「今の森、いや、山に、昔は街があったのか…?」


 地図を見て感じた推測を述べる。

 ポイント一つ一つはバラバラなのだが、島の中心、つまり山を中心に全体的に円状に広がっているように見える。それはどこか見覚えがあるものだった。確か放射同心円型都市とかいう名前だったか。

 この広がり方はそれにそっくりだ。そして、それはこの世界の街の特徴の一つでもある。


 王城や領主邸を中心として、その周りを囲むように街が広がるのが、この世界の街でよく見かける形だ王都やガバルディなどがまさにそう。おそらくこれは魔物などの脅威が世界にあるからだろうと、俺は思っている。


 魔物と戦う力のない一般人は、王や領主、力のある者の元へ集まる。そして、守ってもらうのだ。いや、人々を守る力があるからこそ、王と領主は人々の上に立つ資格を得ているのだ。

 もし力がなければ、国としては成り立たないだろう。よくも悪くも国には力が必要だ。


 だから、この島の中心には力を持った人物、あるいは力を持った集団の本拠地があったと考えられる。今まで見つかったのは、その街の道なのだろう。


 となると、山の中心を調べてみるのがいい気がする。そこが一番遺跡が残っている可能性が高い。

 しかし、ここで問題がある。問題というか、中心地は山の頂上で、そこに何もなかった事は既に、わかっているのだ。

 つまり、中心には遺跡がない。流石に、傾斜がかなりきつい斜面の上に何か立てたりはしないだろう。


 だいたい、何でこんな切り立った山の周りに街を作ったんだ?

 もっと平坦なとこに作った方が、いいんじゃないかな?

 島だからと言えば、それまでかもしれないけど……


 いや、そもそもここは島だったのかな?

 地球なら人間が生きている間に、大陸から島が分離するなんてなかっただろうけど、ここは異世界だからな。どんな感じで島が出来てるかもわからない。

 おそらく似たような感じだけど、一つ地球じゃありえない物がこの世界にはある。


 魔法だ。

 もっと言えば、スキルや魔力もそうだが、今は魔法で考えよう。


 魔法を使えば、周りの陸地を海に沈めるぐらい出来そうだ。俺でも時間をかければ出来るだろう。なら、親父みたいな化け物クラスがやれば、簡単に出来るのだろう。

 まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。


 大事なのは中心に何もないという事。いや、遺跡がないという事か。代わりと言ってはなんだが、山はある。

 山を中心にした街か……鉱山都市だったのか?

 それなら、山を中心に広がっていてもおかしくない。つまり、鉱山に入る場所があるのかも……


「洞窟か…」


 探すべきなのは、洞窟。鉱山の入り口が残っていたとしたら、今はその様になってるはずだ。山が崩れて埋もれていたら諦める他ないが……


 俺は山頂を中心に麓まで空間で山をスキャンしてみた。すると、簡単にそれらしき反応を捉える事が出来た。


「……あった」


 山の中腹、そこに人1人ギリギリ通れるぐらいの穴が開いているのを見つけた。坑道にしては小さい気もするが、長い年月の間に、壁が崩れ埋まったのだろうと俺は考えた。

 そして、少し興奮しながら今見つけた洞窟の入り口へと向かう。


「ここか。結構暗いな……ま、そりゃそうか。明かりなんてないもんな」


 光魔法で明かりを作り、それを前方に動かしながら、中へと入っていく。暗視などのスキルのお陰で、暗い所でも目は見えるのだが、明かりがある方が見え易い。

 戦闘中ならそのままだろうが、今は戦っている訳ではないので明かりを作った。


 遺跡と言えば罠だ。ここは遺跡かどうかわからないが、目がよく見えた方がいい。俺はしっかり地面を踏みしめ警戒しながら、ゆっくりと奥へと進んでいく。


 10分程変わらず岩が剥き出しの洞窟を進んだ。すると行き止まりに差し掛かった。岩で前が塞がれていた訳ではない。崖のように前方の地面が消えたのだ。まるで落とし穴の様に、大きな穴が開いていた。

 覗きこんでみても下は見えない。穴の先も見えない。

 まるで山の中心に大きな穴が開いているかの様だった。


「結構深いな。降りてみるか」


 俺はそう呟くと、躊躇なく身を投げ出した。風魔法で勢いを殺しながら、下へと落ちていった。

 そして、静かに地面へと降り立つとぐるりと辺りを見渡した。


「石畳?てことは…ここが遺跡か…?」


 降り立った地面を軽く足で小突きながら、石畳である事を確かめ、暗い前方を見ながら呟く。

 ここは坑道じゃなかったのか……

 ここに石畳があるって事はここも街の一部だったって事だよな?でも何故、それが山に覆われてるんだ?


 そんな疑問を抱えながら、俺は暗闇の中を進む。


「ここには建物が残ってるんだな」


 明かりに照らされた周りの建物を見ながら、誰もいない街の石畳の上を歩く。

 民家みたいな感じだな。造りは石かな?今の王都の建物より、頑丈そうに見えるけど…昔はそれなりに大都市だったのかな?


 俺の足音以外の音が何も聞こえない暗闇の中を、崩れかけている建物を無視し、中には入らず石畳の上を歩いた。

 民家に大した物は残っていないだろう。調べるんなら、それなりに大きな建物を調べてみたい。


「あったあった。あれがこの街の中心だな」


 まっすぐ15分程歩いた所で一際大きな建物の遺跡を見つけた。あれがこの街の中心だろう。あそこなら、ここが何の遺跡かわかりそうだ。


「お邪魔しまーす」


 返事があったら怖いが、なかったので普通に中へと足を踏み入れた。扉は木で出来ていたのか腐って既に形をなくし、オープンな玄関となっていた。


 とりあえず入ってすぐの部屋へと入ってみた。遺跡探索の心得など知らないので、目に付いた所から調べていく。


 俺が入った部屋はある程度の広さがあった。壁際に金属で出来たキッチンが並び、真ん中には木のテーブルがあった。木のテーブルは既に腐っているようで、少し触れただけで崩れてしまった。


「金属製のキッチンか。王都でも見たことないな。王城にはあるんだろうか?」


 最低でも金属加工が出来る水準にはあったみたいだな。


 その後、一階にあった部屋を全て回ったが、殆どが腐っているか、壊れていて原型を残している物はなかった。


 二階に上がると、今度はだだっ広い廊下と、一際大きな部屋が一つだけあった。その部屋の奥には、少し高くなった場所に椅子が一つ置いてあった。

 この椅子は宝石と金で出来ていて、とても座り心地が悪そうな作りだった。痛そうだ。かつては座布団でも置いてあったのかもしれないが、今はそれらしき物はない。


「ここは王の間ってとこか……見え張ってんな」


 そんな感想を漏らしてから、更に上へと登る。椅子はちゃんと回収しておいた。高く売れそうだからな。ギルクにでも売ろう。王様が欲しがるかもしれない。


「なんだここは…?」


 三階に上がり、ある部屋に入った瞬間、その部屋の違和感に思わず声が出た。

 これまでの部屋は年月に耐えられず、殆どの物がその形をなくしていた。部屋の壁も所々崩れていた。先程の椅子の様な金属製の物は残っていたが、それでも汚れが目立った。


 しかし、ここにある物は汚れどころか埃も見当たらない。

 壁は今までの石造りが何だったんだと言いたくなるぐらい、全く異なる材質で出来ていた。


 カンカン


「金属じゃない?」


 軽く壁を叩くと金属とは違う感触が返ってきた。なんだこれは?石でもないぞ?


 ガサッ


「ッ‼︎誰だ⁉︎」


 突然背後から物音がして、驚き振り向いた。


『音声認識…不適合。来訪者と認識…』


 振り向いた先には、人型の“何か”がいた。女性の様な顔をしていて、胸には膨らみがある。見た目は完全に人間の女性だ。だが、暗闇の中でもハッキリと見える光る目と機械的な声が、人ではないと明確に告げている。

 俺は警戒心を緩めず、目の前の“何か”を凝視する。敵対する事になるのかは、こいつの動き次第だ。


『来訪者、ようこそ。失われし都へ』

「…………お前は…俺を排除したりはしないのか…?」


 ようこそと、歓迎の言葉を述べた"何か“に会話が出来そうだと、俺は敵対する事になるのか聞いてみた。おそらく、今の感じからはそうなるとは思えないが、念のために聞いた。


『いいえ。私に戦う力はございません。私の使命は来訪者にこの都を案内する事です。敵対するつもりはございません』

「……一ついい?」


 俺は一先ず警戒を解いて、会話する事にした。


『なんでしょう?』

「君は何?」

『私はオートマタと呼ばれる人工生命体です』


 人工生命体⁉︎

 そんな物を作る技術があったのか⁉︎

 俺は驚愕した。これまで石造りだったから、今とそう変わらない水準の文明だったと思っていたのだが、どうやらかなり上だったみたいだ。


「1人でここで生活してるの?」

『それが与えられた使命ですので』

「そっか…ここは何年前からある遺跡?」

『およそ5千年前にこの都は廃棄されました』


 5千年か…長いな…

 与えられた使命と言うけど、ちょっと可哀想だな。心があるのかはわからないが、辛い事だと思う。


「それは何故?」

『5千年前、邪神と人類の間で戦争が起きました。人類軍は一箇所に集まり力を合わせて、邪神軍と戦いました。その際、この都は邪神に攻められぬ様、勇者によって隠されました。初め、私はこの都の維持を目的とした使命を与えられました。しかし、戦争後被害が甚大だった人類軍は一つの国として纏まり、この都は廃棄される事になりました。そして、私には新たにこの都に訪れる来訪者を、案内するという使命が与えられたのです』


 また邪神か……

 たった一人の神が起こした戦争だろ?他の神は何もしなかったのかな?

 その割には邪神の結晶を集めて封印してるって言うし、他の神より邪神は強かったのかな?


 にしても、勇者ってやばいな。このでっかい山被せて街一つ隠したんだろ?どれだけの魔力があったんだよ。

 それよりも強い邪神って……

 よくよく考えれば、あの魔王よりも強いんだよな。たぶん、遥かに。親父でも勝てないかもしれない様な奴なのか……


 竜神が慌ててた理由がよくわかるな。邪神の結晶一つでどれだけの力を持ってるのやら。

 俺にはわからないが、きっとわかる人にはわかるのだろう。その強大さも……


「オートマタさんに名前あるの?」

『はい。勇者より賜わりました名がございます。シーテラと申します』

「勇者に名付けされるなんて凄いなぁ。シーテラさんはずっとここにいるの?」


 俺はシーテラさんにここから出ないか聞いてみようと考えた。こんな暗い場所で一人でいるのは辛いだろうと思ったからだ。本人が望むなら、俺が世話するつもりで。


『それは私にはわかりかねます。私が承った使命は二つ。一つは来訪者の案内。もう一つは邪神が復活した際に後世に邪神の情報を伝える事です。この場合は外出が許可されております』

「つまり、それ以外の事で外に出る事はないと…?」

『はい。それがマスターの遺言ですので』


 相変わらず声は機械的で、淡々と説明している様に聞こえるが、出る意思がないという事は伝わってきた。


「……そっか。シーテラさんがそう言うのなら仕方ない」


 無理に連れ出す事は出来ない。俺の考えているオートマタならば、マスターの命令は絶対だ。そこに感情でもない限り、それに逆らう事は出来ない。だから、シーテラさんが心を持っているのなら、逆らう事は出来るだろう。

 だけど、今の応答で心があるのかはわからなかったが、出る意思がない事は確認できた。ならば、俺が何を言おうが無駄だろう。本人が出たいと思っていないのだから。


「じゃあ、シーテラさん、案内してもらってもいいかな?」

『はい。しかし、案内と言っても、現在まで当時の形を残しているのはここと、玉座だけでございます。そのため、この2つのみの案内とさせていただきます』


 玉座ってあれか?俺が盗んだやつか?

 ……返そう。持って行ったのがバレたら怒られそうだ。


「シーテラさん?あの、怒らないで聞いて欲しいんだけど……その玉座なんだけどね、俺が拾ったというか、盗んだというか……まさか誰かいるとは思ってなかったんだ。返すから許して。ごめんなさい」

『問題ございません。ここにある物は来訪者に譲って構わないと、マスターから承っております。どうぞそのままお持ちください』

「え?いいの?じゃあ、遠慮なくもらっときます」


 くれるならもらうさ。高そうだもん。今回の旅行で結構使っちゃったからな。売って金にしたいし……


『では、残りを案内させていただきます。少しお待ちください』

「あ、はい」


 シーテラさんは壁へと歩いて行き、何かし始めた。何か機械のボタンを押すような音が鳴り響き、しばらくすると、部屋に明かりが灯る。


『これよりマスターが残したメッセージを再生します。中央をご覧ください』


 そう言うと、再び壁へと体の向きを変え、何か操作し始めるシーテラ。

 俺は言われた通り、中央を見ていた。

 映像技術もあったのかな?建物との差があり過ぎないか?


 そんな事を考えていると、中央に大きな光の玉が出現した。そして、その玉の中に色が現れ、人の姿が現れた。


『初めましてだな、未来の子よ。私はクラクベール。天才魔工技師だ』


 堂々と自身を天才と呼んで現れたのは、若い青年だった。歳は20過ぎだろうか?其れ程年老いている様には見えない。だが、その自信に満ち溢れた表情から、青年とは思えない風格が伝わってくる。


『未来の子よ。君が何故ここを訪れたのかは、天才たる私にもわからないが、この隠された街を見つける程度には、優秀であるようだな』

「……こいつ何様?」

『マスターです。私を作り、この映像記録装置を作った自他共に認める天才魔工技師です』


 他はいいけど、自も認めていいのかな?

 凄い人なんだろうけど、めっちゃ偉そうだよな。けど、5千年前の人なら、俺からすればかなり年上?だもんな。ここは大人しく話を聞いておこうか。


『さて、そろそろ本題に入ろう。何故、天才たる私がこの映像を残したかだが…』

「一々天才ってつけないと気が済まんのかこいつは……」

『マスターですので』


 シーテラさんはこの天才大好き野郎に寛容なようだ。マスターだからだろうか?

 そのせいで増長したとかじゃないのか、こいつ?


『実は勇者に頼まれたのだ。勇者が研究材料を提供してくれると言うのでな。仕方なく、こんな記録映像ごときを作る事にしたのだ』

「不思議だな。腹が立たなくなってきた」

『マスターですから』


 シーテラさんはマスターですからを押すが、そうではない。単純にこいつに慣れたのだ。所謂、こいつは天才過ぎて、研究にしか興味ない様なダメ人間なんだろ?

 そう思うと、俺も寛容な気持ちで接することが出来そうだ。


『勇者の要求は、後世に邪神の脅威を伝える事だ。現在我々は世界創世以来、最大の危機に立たされている。世界には見た事もない化け物が溢れ、人まで化け物と化している。我々はこれを魔物と魔人と名付けた』


 なんかいきなり深刻な話になってないか?声のトーンも下がってる気がするし、俺も真剣に聞いた方が良さそうだ。


『これは全て邪神の脅威だ。そのため、我々は邪神を打つ事を決定した。各国の精鋭を集め、邪神を殺すつもりだ。すでに、50もの国が人と共に消えた。このまま手をこまねくだけでは、滅亡あるのみ。だから、我々は攻勢に転じる事にした。だが、正直に言おう。おそらく不可能だ。可能性があるとすれば、勇者と神達だが、天才たる私の見立てでは、邪神を殺す事は我々には出来ない』


 勝ち目はないって……邪神は倒されたんだろ?

 それに勇者だけでなく、神までいて勝ち目がないのか?一体邪神って何者なんだよ…


『これは天才たる私だけでなく、神もまた同じ見解を示している。しかし、だからと言って、このままでは世界が滅ぶ。だから、天才たる私と神とで一つの方法を編み出した。それは、創世神のシステムを利用する方法だ』


 竜神も言ってたな。創世神の作り出したシステムの事を。それに邪神が干渉して、魔物を生み出したって。この天才と神がそれを利用したのか?それで邪神を倒したのか?


『邪神は神だ。神には加護分配システムがある。本来は神の力の2割だけが、そのシステムを通して均等に分け与えられるが、今回はそれを10割にする。そして、その加護は魔物や魔人ではなく、全て勇者へと注ぎ込む。すると、どうなると思う?まぁ、凡人にはわかるまい』


 俺は記録装置に魔爆を撃ち込みそうになったが、理性でなんとか止める事が出来た。

 過去に行ってこいつを殴りたい。


『同化するのだ。魂が合成される。つまり、邪神と勇者が一つの魂を共有する。肉体は恐らくだが、取り込んだ勇者の物に宿る事になるだろう』

「ど、同化…?」


 腹立たしい事に凡人たる俺は、ムカつく天才についていけなくなりかけていた。

 加護を受け過ぎると奴隷になるんじゃないのか?

 それが、10割になると同化って……意味がわからん。


『凡人たる君には理解出来ないだろう。だが、安心したまえ。私以外の者が理解出来ないのは仕方のない事だ。何故なら、天才は私一人だけなのだから』

「さっさと説明しろや‼︎」


 俺は聞こえていないとわかっていながらも、叫ばずにはいられなかった。この天才野郎は人を怒らせる天才だ。


『幾ら邪神とはいえ、勇者の魂を乗っ取るのには時間がかかる。そこが我々に残された最後のチャンスだ。一時的に勇者が邪神を抑え、その隙に魂と肉体を分離させる。そして、肉体の保護を失った魂をバラバラに引き裂く。その為の手段は天才たる私が何としても用意する』

「魂を引き裂くって…」


 もうついていけないっす。

 俺は考えるのをやめた。後の事は記憶して帰るだけでいいや。もう凡人には無理っす。

 俺は天才に敗北したのだった。


『さて、そうなった時、別れた魂の欠片は世界に残る事になる。魂だけでは直接的な脅威にはならないと思われるが、間接的に脅威になり得る可能性がある。おそらく、加護を与える事は可能だ。もし、全ての結晶の加護が一つの肉体に集まれば、再び魂が合成し、邪神が復活するだろう。それも勇者の力を取り込み、更に強大な力を得た邪神が』

「…………」


 そんな結晶を俺が持ってるのか…?

 本気で嫌なんだけど……誰か収納空間手に入れてくれないかな…?


『魂の欠片一つ一つであっても、肉体を乗っとる可能性はある。魂をバラバラにした後、我々が回収し、厳重に封印するつもりだが、まだどうなるかはわからない。魂の分断など、天才たる私にとっても初の試みだ。失敗はなかろうが、どの様にバラけるのかは予想出来ない』


 天才なら、そこも考えとけ馬鹿野郎!お前のせいで、俺がこんな危ない物持っとかなくちゃならなくなったんだぞ!


『そこで、天才たる私は考えた。未来の奴に任せればいいと』

「ぶざけんなこの野郎‼︎そんな物、勝手に俺たちに任せんじゃねぇ‼︎」


 自分達で終わらせろよ‼︎厄介な物残してんじゃねぇ‼︎そんなんでよく5000年も復活しなかったな‼︎ザラすぎんだろ‼︎


『さあ、これでわかっただろう。凡人たる君は天才たる私が残した欠片を回収し、封印しなければならんと』

「誰がやるか‼︎いや、もうやってるけど……二度とやんねぇぞ‼︎」


 俺は怒りをぶちまけた。

 世界の脅威が残ってるから、お願いします的な感じで言われたらやったかもしれないよ?

 だけどな、こんな腹立つ奴の言う事なんか聞きたくない。聞いたら、余計腹が立つ。


『これで、邪神の脅威についての話は終わりだ。しかし、天才たる私が作った記録装置にはまだまだ余裕がある。流石は私だ。この程度の物でも、凡人とは比べ物にならない性能だな。さて、せっかく時間が残ったのだから、未来の君に天才たる私がいかに優秀で、凡人から崇められているか、教えてやろう。まずは、私が2歳の頃の話だが……』

「シーテラさん止めて。今すぐに」

『はい』


 どうも今からはイライラしかしない話が始まりそうだったので、シーテラさんに映像を止めてもらった。もう見なくていいだろう。というか、二度と見るか。

 もうこいつの面は拝みたくないね。


「シーテラさんありがとう。もうこの映像見ないから消しちゃって」

『わかりました』


 シーテラさんは壁のボタンをポチポチッと押して、映像を消した。

 ふう、やっとあの腹立つ面が消えた。一安心だな。


『来訪者。これで案内は終了となりますが、どうなさいますか?』

「うーん。他には何も残ってないんだよね?」

『はい。主だった物や貴重な物は殆ど回収されてしまい、残った物も風化により朽ちてしまいました。現状他に案内する場所はございません』

「じゃあ、帰ろうかな。シーテラさんも一緒に来ない?」


 俺はシーテラさんを誘ってみた。先程は諦めたが、話を聞いて、彼女を外に連れ出せるかもしれないと感じたからだ。


『申し訳ありません。私には来訪者を案内するという使命がございます』

「うん。だからさ、その案内がなくなれば、シーテラさんは自由になるんだよね?」

『はい。しかし、この記録装置がある限り、私はここに残らねばなりません』


 そう、彼女をここに縛り付けているのは、天才野郎の残したこの記録装置だ。これさえ、なくなれば彼女は自由になる筈だ。


「シーテラさん。確認だけど、ここにある物は全て俺がもらっていいんだよね?」

『はい。問題ありません』

「なら、俺はここにある記録装置、それからシーテラさん、君も貰うよ。それなら使命はなくっなって、外に出ても問題ないよね?」

『それは…確かに問題ございませんが…記録装置は持ち運べる物では…』


 確かに記録装置は持ち運べるような物ではない。この部屋全てが記録装置なのだ。だけど、俺には関係ない。部屋ごと収納してしまえば、問題ないからだ。

 それに、もう一つ手を打った。言葉の裏を取るようなものだが、シーテラさん自体を俺が貰った事にすれば、彼女は使命を捨てても問題ない筈だと思ったのだ。


「シーテラさん、外に出てくれる?」

『はい。承りました』

「よし、収納」


 シーテラさんに続き、俺も外に出た所で収納空間を使って、部屋ごと収納した。そして、シーテラさんの方に向き直る。


「これで、シーテラさんを縛る物はないよね?もう自由に外の世界でてもいいよね?」

『……はい!』


 機械的な声。だけど、その声には喜びの感情が込められているように俺は感じた。

 暗い世界に灯る二つの光が、より一層明るく光った気がした。


 この時の俺には知り得ない事だが、この瞬間初めてオートマタという人工生命体に心が宿ったのだった。それは小さな小さな、欠片のような魂。その欠片が本当の魂として宿る様になるのは、まだまだ先のお話。


ランキングの不具合ってもう直ったんですかね?

未だに総合とジャンル別が一致していない気がしないでもない。


次は土曜日更新予定!

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ちょうど今、「アポカリプスホテル」観てます。
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