51.反則なのはどちら?
燦々と降り注ぐ夏の日差しが、ゆらゆらと揺れる波に乱反射され、眩しく海面が光っていた。水は透き通り、工業用水などで、汚れていない海本来の色を魅せてくれる。
そんな海面を、水飛沫をたてながら泳ぐ、少年少女の笑顔は太陽より眩しい。
しかし、その輝かしい笑顔に混じる異物があった。
ムスッとした顔で、笑顔など微塵も感じさせず立つ1人のおっさん。その身に纏うのはアザラシン。つまりエサとして、皆の安全確保の為に立たされているのだ。身代わりとパクッといかれる為に……ではなく、魔物が来た時にパパッとやってもらう為だ。
だが、その意味は余りない。何故なら惹きつけるまでもなく、来たら分かるからだ。俺が……
だから、もっと言うならエサが立つ意味もない。俺がやるから……
では、何故立たされているのか?
それはバジルにアザラシンを来て欲しかったからだ。 シャラ姐が……
つまり、バジルが立たされているのは、俺のせいではないのだ。シャラ姐が、バジルのコスプレを気に入ってしまったせいなのだ。
俺に新しいコスプレを注文してくるぐらい、ご熱中なのだ。そう、自分も着てしまうぐらい。
「どうどう?レイちゃん、似合ってる?」
「…………」
ミミズンを着て感想を求めてくるシャラ姐。俺は何と言っていいか分からず、硬直した。
だって、キモいんだもん。いくら顔がおっさんから、美人のお姉さんに変わったからといって、全体的に見たらキモいんだもん。元々、『うわぁー、バシル、キモ』と言いたいが為に作った物なんだもん。
だけど、バジルのように『キモ、引くわー』みたいに言う事も出来ず、かと言って似合ってる何て言えない。本気で似合っていないのだ。お世辞を言って流せるレベルを超えている。
お世辞を言ったら、何かされるんじゃないか?罠なんじゃないかのか、これは?
そんな風に思ってしまう程致命的に似合ってない。そのため俺は、思考フル稼動で言葉を探した。この状況をサラッと流せそうな言葉を……
「……………ノーコメントで」
結局、何も言わないのが、ベストだとの結論が出た。脳内裁判長も支持してくれた。ただ一つ分かっている事がある。
これでは絶対流せない。
「レイちゃん、それって似合っていないって事…?」
シャラ姐はニコッと笑って、聞いてきた。俺はその笑顔にブルリと震える。
怖いよ。俺何もしてないじゃん。どうしたらいいんだよ……
「……そのコスプレが似合う人がいたら、そいつはもうミミズだよ。というか、何故そっちに?アザラシンなら似合うだろうに」
「やっぱり似合わないか〜」
そう思ってたなら、俺に聞かないで欲しい。どんな答えを望んてたんだよ。大体何故バジルにアザラシンを着せたんだ。逆だろ。どう考えてもアザラシンの方が可愛いだろ。あれはおっさんじゃなければ、普通に可愛い筈なのだ。
そんな事を思いながら、俺は海へと視線を向ける。これ以上シャラ姐を見ていると、また何か言われそうだからだ。
思えば、始めシャラ姐が着替えて出てきた時に、目を向けたのが失敗だった。その時はただドン引きして見ていただけだったのだが、その俺の視線をどう感じたのか、シャラ姐は俺へと迫ってきたのだ。
そうして、先程の状況に陥ったのだ。次からはシャラ姐が突然変な事しても、無視しよう。たぶん碌な事にならない。
海ではクラスメイトと後は俺の家族が遊んでいた。
クラスメイト達は、幾つかのグループに分かれて遊んでいるようだ。その殆どが初めて泳ぐという事を体験したためか、まだ泳いだりは出来ないみたいだ。それでも、水を掛け合ったり、潜って中の様子を見たりして楽しんでいる。
一部の泳げる者、つまりシャルステナ達は少し深い所に行って泳いでいるらしい。
らしい、というのは俺が聞いたからだ。ハブられたのではない。シャルステナの水着を見て気絶したのだ。今さっき目覚めた。
ギルク?もちろん横にいるぜ。こいつは俺より打たれ弱いからな。
母さんと親父はスクルトと遊んでいるようだ。こっちはスクルトに泳ぎを教えたり、波打ち際で、波に打たれたりして遊んでる。
スクルトはキャッキャッと楽しそうに叫んでいる。癒されるね。可愛い弟だねぇ、まったく。
俺は千里眼を使ってシャルステナ達を探した。一応軽く見渡してみたが、見当たらなかったからだ。どこまで行ったんだろうと、千里眼を使った。
空間の方が簡単で、すぐにわかるのだが、探せる範囲は千里眼の方が広い。だから、こんな視界を遮る物がない時は、千里眼の方がいい。
「いないなぁ。何処まで行ったのやら…」
置いて行かれた事を少し寂しく思いながら、水平線まで見渡した。それでも、彼女達を見つける事が出来ない。
海には居ないのかな?それとも潜ってる?
俺は透視も組み合わせ、辺りを捜索する。そして、5人を見つけた。そして、思わず疑問を口にした。
「……なぜに?」
五人は何故か戦っていたのだ。砂浜で。しかも、ウランティーまで混ざってる。
これはあれか?シャルステナの仙魂スキルを試しているのか?
「ハッ‼︎夢か……くそっ」
「どんな夢見てたんだよ、エロ王子」
目が覚ますなり、悔しがるギルクにそう突っ込んだ。
「シャルステナ達はどこだ?」
「向こうの方で模擬戦してるぞ。今行ったら巻き込まれるな」
「シャルステナは水着か?」
「残念だが、普通の服だ。ポロリはないな」
ギルクの思考をトレースして教えてあげる。シャルステナが水着ならば、ポロリを狙って行くつもりだったのだろう。
だが、そんな格好で模擬戦をしてくれる程世の中甘くない。
「とりあえずシャル達のところに行くか」
「そうだな。模擬戦なんかしたくはないが…」
そうして、俺とギルクはシャルステナ達の元へと向かった。
〜〜
「……シャルってあんな化け物だったっけ…?」
「いや、ここまでではなかったと思うが……」
「だよな……仙魂スキルやっぱ半端ねぇ」
俺とギルクはシャルステナ達が模擬戦をしている砂浜の手前で、そう感想を口にした。
先程から見える魔法の規模が、ちょっと冗談じゃないぐらい強い。しかも、発動間隔が早い。
これは…俺、勝てるんだろうか…?
そんな風に不安を覚えてしまうぐらいにシャルステナの仙魂スキルは強力だった。単純に魔法の威力と発動速度が上昇するスキル。しかし、それは単純故に強力だった。
元来、魔法使いは砲台役だ。ライクッドの様に発動速度を生かした魔法を使うのは、いわばはぐれ者だ。シャルステナの様に後衛で、強力な一撃を打ち込むのが魔法使いの役目だ。シャルステナもそれをずっとこなして来た。
シャルステナが後衛につくと、俺でも苦労するレベルで厄介だ。しかし、強力な魔法は時間がかかるし、模擬戦では余り使ってこない。だから、なんとかなっていた。
だが、この仙魂スキルのお陰で、簡単な魔法でも、前と同じぐらいの威力が出せるようになった。つまり、発動間隔が早まったのだ。ポンポン撃ってくる。これは、物凄く厄介極まりない事だ。
隔離空間の中で、暮らしていかないといけないかもしれない。
そんな馬鹿な事を考えながらも、6人の居る所に辿り着いた。しかし、6人共気がついてくれない。必死なのだ。
シャルステナとウランティーのペアに他の4人はボコボコなのだ。しかし、シャルステナ達も初めての仙魂スキルに慣れていないためか、余裕があるわけではなさそうだ。
邪魔するのも悪いので、体操座りで俺とギルクはその場で観客に徹した。何が悲しくて砂浜に来て男二人で、海をバックに模擬戦を見学しなければならないのかと思いながら。
ウランティーは補助に徹していて、シャルステナが殆んど一人で4人相手にしているようなものだった。いつもの俺と同じだな。それで互角以上にやり合っているという事は、今のシャルステナは俺と同等までになっているという事だ。
やれやれ、ウサギはほんと厄介だな。本気を出したら、すぐに追いつかれる。別のウサギを追いかけていたと思っていたら、知らぬ間に追いつかれていた訳だ。
「どう思う?」
「そうだなぁ、今のところにシャルが優勢だが、どうなるかな……」
ギルクの問いに俺は言葉を濁した。正直どっちに転ぶかはわからなかったからだ。
「シャルステナが逆転されると?」
「このまま決め切れなければ、そうなるだろうな」
シャルステナ優位で模擬戦は進んでいるが、魔法はスキルより多量の魔力を消費する。このままいけば、シャルステナの方が先に魔力枯渇に陥り、負ける事になるだろう。いわば、後衛職の弱点だな。
シャルステナは剣の腕前も中々のものだ。本来、これも後衛職の弱点になる。それを潰しているだけでも十分だが、今回は厳しいだろう。
アンナとゴルド。この二人は前衛向きで、シャルステナと同等の剣の腕と、ゴルドに至っては魔装を身につけている。アンナも仙魂スキルを何かしら持っていておかしくない。
その二人相手に、シャルステナが接近戦で勝利を奪うのは至難の技だろう。
「これで決まるな」
俺は魔力感知と空間探索のスキルから、シャルステナの魔力がこれで無くなる事を感じ取りそう呟いた。
ギルクはそれを聞いてより一層真剣な表情で戦いを見守った。
ギルクは魔力感知を持っているが、空間検索を持っていないため、残存魔力量を知る事が出来ない。魔力感知だけでは不可能なのだ。空間検索に魔力感知を組み込む事で初めて、相手の魔力量を知る事が出来るからだ。
そして、その二つのスキルを有しているのは、この中では2人。俺とアンナだ。
だから、アンナも気が付いているだろう。次が最後の一撃だと。その表情がより一層真剣なものに変わる。
次の魔法に何としても耐えると決意した顔だ。
そして、シャルステナの魔法が放たれる。
それは水竜だった。いや、それだけではない。火竜もいる。2種の属性竜を生み出したのだ。
「おいおい、あの魔法を自分で組み上げたのかよ。この短期間で…」
俺は驚き、思わず声を漏らした。
俺はシャルステナに水竜の魔法を教えていない。それなのに彼女が水竜を作り出したという事は、自分で組み上げたという事だ。
初めて見せてから、1年と少しで完成させたのか…
俺はあの魔法を完成させるのに5年もかかったいうのに…
しかも、オリジナルの火竜までセットで付いてきている。やはり、魔法ではシャルステナには敵わない。
俺は素直に負けを認めた。元より、シャルステナの魔法の才能は俺より上だとわかっていたから、特に何か思うところはない。素直に称賛する事が出来た。
「……あれをとうとうシャルステナまで…」
ギルクはうな垂れた。水竜によく食べられているギルクには思う所があるのだろう。俺は無視して、アンナ達を見た。
さてさて、あれをどうする気だ?そう簡単には水竜はやれないぞ?
それに火竜もいる。あれがどんな特性を持っているか知らないが、水竜と同等に厄介な代物だと俺は見た。
あの二つの魔法相手にどう足掻くか見ものだな。
そんな事を思っていると、リスリットとライクッドが離脱した。
逃げるんかい!
ま、あいつら2人はいても邪魔か……
一方逃げた2人と違って、アンナとゴルドはシャルステナに向かって行った。ゴルドが前でアンナが後ろだ。
それを火竜が邪魔をする。水竜はすでにブレスを充填し始めていた。
なるほどな。水竜のブレスを貯める間、火竜で邪魔する作戦か…
となると、火竜は充填式の攻撃はないのか…?
たぶん、火竜の体は流れじゃないしな。火に流れをつけても意味はないからな。
火竜は2人の前に立ちはだかると、その腕を振り下ろした。それをゴルドが受け止めようとするが、腕はゴルドの盾をすり抜け、ゴルドを包み込んだ。
へぇ、透過能力の防御不能攻撃か……
水竜とは違うな。水竜は腕にも流れを作ってるから、弾かれたりするんだけどな。特に爪は流れを速くしてるからすぐ弾かれるんだが、やはり全く異なる原理の魔法のようだ。
俺がシャルステナの新魔法を分析していると、火に飲み込まれたゴルドの魔力が高まった。どうやら、魔装したみたいだ。とうとう出してきたか。
一方、アンナはバックステップして、距離を取っていた。そんなアンナに火竜はブレスを吐いた。猛々しく燃える火かアンナに襲いかかる。そして、アンナがブレスに飲み込まれた。しかし次の瞬間、アンナの姿がスッと消えた。
瞬動か?と一瞬思ったが、それは違った。何故なら、アンナがシャルステナの背後から突如現れたからだ。
瞬動は直線の動きしか出来ない。しかし、先程アンナが消えた位置と、シャルステナの間にはゴルドがいる。そこを瞬動で移動したら、ゴルドとぶつかるだけだ。つまり、アンナは瞬動では移動していない。別の何かだ。
やっぱなんか隠し持ってやがったな。仙魂スキルか?
まるで瞬間移動したみたいに見えたが……
あいつらも中々やる様になってきたな。S級を一人で倒せそうなレベルだ。
「……俺、この中で一番弱くないか…?」
火に飲まれ平然とその中を突き進むゴルドと、シャルステナの後ろを取り、つばぜり合いをするアンナを見て、ギルクがそう独り言の様に呟いた。
「まだ、リスリットとライクッドよりは強いさ」
「慰めになってないぞ……このままでは俺の威厳が…」
「元からないだろ。そんなの」
先生か年上かのわからないが、威厳がなくなるとほざくギルク。そんなギルクに、元からそんな物はないと俺は諭す。
面白に威厳なんてないさ。そんなもの出会って一週間後にはゴミ箱にポイされてたさ。
「何か…何かしなければ……」
「地獄クリアしたらどうだ?あれは飛ぶのと隔離なしじゃ、俺でも苦労するからな」
このままではまずいと焦るギルク。それに俺は手っ取り早く強くなる方法を教える。
「またあそこに行くのか……」
「嫌か?せっかくご褒美用意してるんだがな」
「褒美?」
「あそこの出口はな二つあるんだ。一つは普通の出口。もう一つは、女湯だ」
これはギルクにやる気を出させる為と構造上の理由から、出来た出口だ。男湯にも繋がってる。だけど、そっちは今はいらないだろう。ギルクにやる気を出させるのに必要なのは女湯だ。
案の定、ギルクは驚愕して、叫んだ。
「なんだと⁉︎」
「行くか?」
「もちろんだ‼︎レイ、俺を地獄へ落としてくれ‼︎」
そんな事を頼むやつは、こいつだけだだろうと思いながらも、俺は承諾した。
閻魔となり、こやつを地獄へ突き落としてやろう。
そんな事を話している間に、水竜は充填を完了させたようだ。ゴルドに狙いを定め、口を大きく開けた。
火竜ごとゴルドをやるつもりみたいだ。ゴルドは盾を構え腰を落とした。避けるつもりはないらしい。受け止める気だ。
俺はそれを見て、隔離空間で助けるのをやめた。ゴルドがどうにか出来る気でいるのが、その顔を見てわかったからだ。
どする気かは知らないが……
そして、水竜がブレスを発射した。解き放たれた水の圧力がゴルドへと襲いかかった。ゴルドはそれを魔力充填で強化した盾と、魔装した体で受け止めた。
しかし、完全にはその勢いを止める事が出来ず、地面を抉りながら、ジワジワと後ろに後退していく。
突如、ゴルドの体から魔力が漏れた。いや、漏れた言うよりは、噴射されたと言った方がいいかもしれない。後方に魔力を吹き出し、その勢いを利用するかのようにしてブレスと拮抗した。それどころか、今度はジワジワと押し返し始める。
まじかよ……
充填が進行の時ほどではなかったとはいえ、軽くキングオーガを吹き飛ばした時よりは威力があるブレスだぞ…?
それを押し返すか。
俺はまたしても驚愕していた。いつの間にかウサギが二匹増えていたのか…?
そんな疑問とともに、驚き、賞賛した。初めて会った時は普通の子供だったのに、ここまでやる様になったのかと。
「あいつら、いつの間にこんな化け物になったんだ…?」
「さぁな。俺たちが知らない間に、化け物が生まれてたんだろうさ」
俺は関係ない様な口ぶりで言うと、ギルクがすかさず突っ込んで来た。
「間違いなく、お前のせいだ」
「なんでだよ。俺大して何もしてないぞ?」
「どの口が言ってるんだ」
呆れた様にそう口にしたギルク。そんな事を言われる覚えはないんだけどなぁ。
ゴルドには魔装を教えたが、あの謎の噴射は知らないぞ。初めて見たぞ、あんなのは…。
アンナに至っては放置してるしな。一体どんな移動スキルを手に入れたのやら…
これはシャルステナの負けかな。ゴルドは完全にブレスを防いでしまったし、鍔迫り合いもだんだんとアンナ優勢になってきた。そして、頼みの魔力も尽きかけ。
逆転はないだろ。
そう俺が思った時、それは起きた。
ボォオウ‼︎
突如アンナが吹き飛んだのだ。その原因はシャルステナを中心に吹き荒れた魔力の風だ。
「なっ⁉︎」
俺は驚愕した。シャルステナの尽きかけていた魔力が突如ぶり返したからだ。
まさか…経験還元…⁉︎
嘘だろ…あれは俺だけのユニークじゃ…
俺は唖然とするしかなかった。
俺が唖然とする中、魔力嵐が収まり、シャルステナへと収束する。それは魔力がただ戻っただけの変化ではなかった。
シャルステナの体から、光が滲みでていた。まるで俺が竜化したかの様な変化だ。滲み出る光がまるで天使の羽のように彼女の背に形を作った。
「俺、シャルに負けるかも…」
そんな呟きが自然と漏れた。いつもシャルステナから感じる魔力。それより遥かに多い魔力を感じる。その魔力量は俺よりも多い。
いったい何をしたんだ、これは…
「レイさん、目が覚めたんですね」
「あ、ああ」
「レイ先輩今の見てたんですか?シャルステナ先輩、ちょっとヤバくないですか?」
俺が唖然と光を纏ったシャルステナが、アンナとゴルドを同時に接近戦で相手取るのを見ていた。2対1であるのに、シャルステナは二人を圧倒していた。明らかに身体能力も上がっている。
そこに逃げ出した2人がやって来た。
「やばいな…。俺より魔力量が多いぞ」
「レイさんよりですか⁉︎」
「うそ⁉︎」
そう言って、ライクッドとリスリットは、シャルステナを見た。そして、驚いた表情を見せて、すぐ振り返った。
「あ、あれ何ですか⁉︎天使みたいになってるんですけど…⁉︎」
「シ、シャルステナ先輩何したんですか⁉︎凄いことになってますよ⁉︎」
「俺が知るか!シャルに聞け。俺も驚いてんだ」
驚愕し、慌てて聞いてきた2人。
そんな事を聞かれてもわからん。俺も初めて見たんだ。というか、あれも仙魂スキルなのか…?
ちょっと、無茶苦茶過ぎないか?あれは…
シャルステナは魔力量が普段のおよそ3倍近くに跳ね上がり、身体能力も倍近く上がっている様に見える。どちらも素の俺より上だ。
限界突破のようなスキルだ。違うのは、魔力が大幅に増えるところか…
そして、模擬戦は光を纏ったシャルステナの勝利で終わる。羽根を生やしたシャルステナは圧倒的だった。ゴルドとアンナの二人は手も足も出ず、組み伏せられた。
決着がつくと、シャルステナの羽根は消え、漏れていた光も収まった。だが、魔力だけは消える事はなかった。本来の三倍近い魔力を抱えて平然としているシャルステナに俺は唖然とした。俺ならば確実に魔力暴走を引き起こしている量の魔力だ。
「シャルステナ先輩って、実はレイ先輩と同じ…?」
「いや、今更かよ」
今更ながら、シャルステナが物凄く異常である事に気が付いたリスリット。
遅すぎるだろ。お前どんだけシャルステナと一緒に模擬戦やってたんだ。気付けよ。
「それにしても…シャル凄く強くなったな。なぁ、ギルク?」
「…………」
「おいギルク!」
「うお!あ、すまん。ちょっと付いていけなくなってた」
呼び掛けても、唖然と口を開けたまま固まっていたので、耳元で叫んでやった。
シャルステナが突然変身したのに、驚き過ぎて付いて行けなくなっていたみたいだ。気持ちわかる。俺もまだ少し混乱してる。
「お疲れさん」
「あ、レイ。起きたんだね」
「ああ。ゴルドとアンナは大丈夫か?」
「まぁね〜。シャルが治してくれたから」
「ピンピンしてるよ〜」
寝そべりながら、2人は負けた事を特に気にしていないように言った。もうシャルステナや俺に負けるのは慣れてしまっているのだろう。いつもの事と、悔しがる素振りすらない。
「さっきの変身は仙魂スキルか?」
「ううん。ユニークだよ」
「ユニークか…魔力も身体能力も大幅にあげるスキル…であってる?」
「ちょっと違うかな?魔力は回復するんだ。だから、スキルを解いた後も無くならないの」
「は、反則だろ…」
魔力を回復って…経験還元と同じじゃないか……
しかも、身体能力向上させるなんて…
俺のより凄くないか?反則だ。
「もっと反則なユニーク持ってるレイが言う?私のは1週間に一度しか使えないんだよ?レイみたいに制限なしじゃないよ」
「俺にも制限あるよ」
勝手に制限がないなんて決めないで頂きたい。ちゃんと制限はあるさ。経験値という。
「えっ?そうなの?」
「ああ。まぁ、その制限に苦しむ事は一生なさそうだけど…」
まだ底が見えない蓄積された経験値が底を尽きる事はあるのだろうか…?
一応次にレベル99になった時は、しばらく溜めるつもりだから、尽きる事はないと思う。制限がないも同然だ。
うん、反則だな。
「やっぱり反則だよね?」
シャルステナも同意見のようだ。だが、もう一つこれには制限があるんだ。
それは、シャルステナだ。シャルステナがいないと使えないんだ。未だに…
トラウマって厄介だな…
「レイ先輩も、さっきのシャルステナ先輩みたいな、反則持ってるんですか?」
「反則と断定するな。一応弱点はあるんだ、俺のは」
「ないよ。どこにあるのよ」
俺の物言いに、シャルステナは文句を言ってくる。だけど、弱点はあるのだ。魔力暴走という。
「やり過ぎたら、俺のは自分に返ってくるからな。前に死にかけた」
「あ〜、なるほど。だけど、それはもう大丈夫じゃないの?あれから結構練習したでしょ?」
「うんにゃ。やり過ぎないようになっただけで、やり過ぎた時は、また暴走するだろうな」
魔力暴走後にシャルステナに手伝ってもらってやったのは、自分の限界を知る練習だけだ。その結果わかったのは、自分の魔力量の2倍までしか、還元してはいけないという事だ。それ以上は魔力がだんだん言うことを聞かなくなるのだ。
ある意味これも制限と言えば、制限か…
「なにそれ、レイそんな危険な物ホイホイ使ってたの…?」
「まぁ、やり過ぎない程度はわかったからな。俺からしたら、さっきのシャルステナの方が危険に見えるんだが…」
いきなり、三倍程度に増えた魔力を自在に操れるものなのだろうか…?俺は2倍で限界なんだがな…
「私はレイみたいに無茶しないもん。ちゃんと危なくない範囲でやってるよ」
「俺もだよ。やっぱりシャルステナの方が反則だな」
俺も無茶してない。ちゃんと安全を考えて、2倍にしてるんだ。それを3倍まで増やすシャルステナの方が反則だ。身体能力まで上げるしさ。
「お前らどっちも反則だ」
そうギルクに言われた。どっちが反則か言い合っていた俺たちは苦笑いするしかなかった。
確かにどっちも反則でしかないよな…
修学旅行の期間長すぎた……
と言うことで、色々カットして次話からは修学旅行で本当に書きたかったお話を。
カットしたのものは、番外編でいつか投稿しようかなと思います。




