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47.クレイジーボーイ

「到着‼︎」


 クラスメイトたちから歓声が上がる。宝石が散りばめられたかの様に七色に光る海面は、子供にとって興奮しがいのあるものだった。その殆どが初めて見る海に、目を輝かせていた。


 一方、大人は静かなものだ。

 そのほとんどが働きに来たのだから、仕方ないのかもしれない。けど、俺だって働かなきゃいけない。というか、一番働かなきゃいけないのだ。

 なぜなら、俺たちが着いたその場所には、宿はおろか人さえいないのだから…


「よし降りるぞ」


 そう言って、俺は一足先に砂浜へと降りる。幹事として皆を引っ張らいないといけないからな。

 そんな俺に続き、シャルステナが慌てて砂浜へ降り立つ。


「ま、待ってレイ!ここなの⁉︎」

「ああ。ここだ」

「で、でも、何もないよ…?」


 シャルステナはクルリと辺りを見回しながら、ここには何もないと言う。

 これだから都会暮らしの貴族は……


「あるじゃないか、この大自然が。夏はやっぱり自然と遊ばないと」


 眼前に広がる雄大な海。そして、白い砂浜。真後ろには青々とした葉っぱ生い茂る山。

 俺は両手を広げ、肺いっぱいに空気を吸い込む。

 いい空気だ。

 人の手が加わっていない自然の香りがする。


「けど、海にも山にも魔物が…」


 確かにそうだ。日本と違ってこの世界は自然で遊ぶのも命がけ。少しの山登りに護衛を雇い、少し川遊びをするにも大掃除をしなければいけないという非常に手間のかかる自然溢れる世界なのだ。


「安心しろ。俺がそこを考えていないわけないだろ」


 俺は自信満々で手をパチンと鳴らす。


 ……………………。


 アホ〜、アホ〜


 鳥が鳴いた。それ以外、何も起こらない。


「こいやバジル‼︎のれよ‼︎」

「なんで俺だけだ!他もだろ!」


 ノリの悪いバジルに俺がキレると、バジルも怒鳴って返してきた。

 お前が一番キレやすいんだよ。

 他はいいんだよ、別に。母さんなんか特にキレれるわけないだろ。


 ブツブツ文句を言いながら、バジルは降りてきた。その後をシャラ姐、母さん、親父が続く。


「A〜SSランクの冒険者だ。これでこの島の安全は完璧だ。今から大掃除するからな」

「お、大掃除…?」

「ああ。まぁ、みんなはその間、俺の作ったプールででも遊んでててくれ」


 俺が指をパチンと鳴らすと、砂浜に大きな土の入れ物が現れる。その大きはかつて作ったプールの3倍程だ。そして、その上から魔法で汲み上げた大量の海水が降り注ぐ。


「魔力多すぎでしょ…」

「いや、まぁ、シャルは知ってるだろ?俺のユニーク」

「知ってるけど…はっきり言ってズルよ、あんなの…」


 俺はシャルステナにだけ聞こえる声で言った。それをシャルステナも小声で返す。

 他のスキルは、別に誰でも手に入れられるから、知り合いに教えるのは、別に構わない。

 だけど、ユニークだけは教えたくない。

 これはいわば、俺の必殺技なのだ。


 だがまぁ、今回は別に経験還元を使っていない。

 普通の魔力だけで十分だ。2万もあればこれぐらいの規模は出来る。

 まだ、余裕がある俺はシャルステナの言う通り、魔力が多すぎるのだろう。だが、これは早くA級やS級を倒そうと奮闘した結果だ。ある意味当然の結果と言える。


「それで?レイは他にどんな物を用意してるの?」


 シャルステナは若干呆れ顔でそん事を聞いてきた。


「ふふん。次はこれだ!店主!」

「はい!ただいま!」


 今度はバジル達のような事がないよう名前を呼んだ。


「気付いてる奴もいるだろうが、この人達はあの高級料亭の料理人達だ。さらに、世話役としてメイドも雇った。はっはっは、これで最高の暮らしが約束されたぞ‼︎」


 うおおお!という雄叫びと、レイ様〜と叫ぶクラスメイト達。いつの間にか復活した、ギルク以下3名も混ざってる。

 ギルクなんか、レイ様音頭を取り始めた。

 ふむふむ、苦しゅうない。


「どれだけお金使ったのよ…」

「1億5千万ルトぐらいかな?」

「………………はい?」


 シャルステナは固まった。そして、聞き間違いかなと小首を傾げた。


「一億5千万ルトぐらい使ったかなっと」

「1億?」

「5千万」


 シャルステナはヨロヨロとよろけた感じで、後ろに下がった。

 あまりの金額の多さに、目眩がしたのかもしれない。

 それは仕方のない事だ。金銭感覚が麻痺している俺にはわからなかったが、よくよく考えてみれば、日本円換算すると、1億5千万円使ったことになる。


 ただなんとなく、こんな修学旅行行きたいなと思ってやったのだが、サラリーマンの生涯賃金の半分を使ってしまった事になるのか。

 俺の金銭感覚、早急になんとかせねばならんかもしれない。ただの休日に、高級料亭に気軽に顔を出すようでは、そのうちお金がなくなりそうだ。


 俺が自分の金銭感覚について考え、テンションマックスで騒ぐクラスメイト達。その中、一人だけ冷静なシャルステナがこう呟いた。


「宿は?」


 目眩から立ち直ったシャルステナは、それが一番大事だろうと言いたげな、目で俺を見てきた。


「宿?必要ないね。俺にはこれがあるから」


 俺はそう言って、瞬動でその場を離れた。

 突如目の前から消えた俺を、クラスメイト達はみな視線をキョロキョロと回し、探した。

 大人達もだ。親父だけは普通に目で追っていた。やっぱりあの人はおかしい。

 敏捷4万を超えるスピードなんだぞこれ。どんな目してんだ。


「斬風」


 砂浜から、木が生い茂る場所へ移動した俺は、斬撃の竜巻を発動した。

 それにより、木や岩までも斬り裂かれ、空へと舞い上がっていく。何匹か魔物も巻き込まれてる。

 俺は舞い上がったそれらを一つに纏め、砂浜の方へと落とした。

 そして、開けたその場所を土魔法で平地へと変える。


「レ、レイ!何してるのよ⁉︎」

「ちょっと場所がなかったんだよ、これを置く」


 俺は収納空間から巨大な物体を取り出した。

 それは城だ。

 これは俺たちの泊まる為の建物だ。土台を土魔法で造り、それを芸術で磨きあげた最高傑作だ。ちゃんとペイントも施してあり、窓には土魔法と火魔法で作ったガラスもはめてある。


 そして、部屋は工夫を凝らしまくり、長い製作期間を得て完成した。その期間、約半年。苦労した甲斐もあって、中々の大きさになってしまったが、作ってしまったものは仕方ない。正直、これ以降使う事はなさそうな大きさの城だが、勿体無いからいずれは何処かの国にでも進呈する事にしよう。


「な、な、な…⁉︎」


 これにはシャルステナを含め、みな唖然としていた。突如、巨大な建物が出現したのだ。驚くのも無理はない。しかもそれが王都の王城に勝るとも劣らない出来なのだ。


「な?完璧だろ?」


 俺はシャルステナにウインクしながら、そう言った。

 すると、シャルステナは顔をボッと真っ赤にして、驚きを忘れてしまった。

 シャルステナの俺を見る目が、最初の頃のように熱を帯びている気がした。そして、俺がそれを見返すと、恥ずかしそうに視線を逸らした。


 きたか?

 とうとうきたか?

 俺に惚れてくれたか?


 俺はシャルステナの様子を見て、そんな事を考えていた。

 俺も他のクラスメイトと同じく、浮かれ気分だ。

 1億5千万使った甲斐があった。

 シャルステナのこんな表情見れただけで、俺は満足だ。


「シャル、二人で今晩バーでもどうだい?」

「へっ…?」


 俺は今だとアタックを開始する。


「夜の夜景を見ながら、二人でグラスでも傾けないかい?」

「しょ、しょれは…⁉︎」


 呂律が回らなくなっているシャルステナ。

 顔を真っ赤にして、どこか期待するような目を向けてきている。シャルステナに俺はもうメロメロだ。

 可愛い過ぎる。


「どうだ?」

「い、いきゅ!」

「よし!約束な?」

「うん‼︎」


 うおおおっしやぁああ‼︎

 俺は自分の精神世界で雄叫びをあげた。

 やったぁ!シャルステナと夜に二人きりでバーだ!

 急いで最高のバーを作らなければ!


 俺はバー建設に向けて色々と頭を巡らせる。

 やっぱり景色が重要ポイントだよな。

 後は、バーテンダー……いるか?いらないな。俺が空間から出したらいいし、何より邪魔だ。

 俺たち二人の空間には何人たりとも近づきはさせん。


 よし、決めた。

 この島の高台にバーを作る。そこが一番景色がいいはずだ。

 そうと決まれば大掃除だ。

 魔物に邪魔されたらかなわんからな。全て刈り取ってやる。


「よし、シャルは夜までみんなと遊んでろよ。俺は大掃除してくる」

「え、あ……」

「ん?」


 去ろうとした俺に何か言いたそうなシャルステナ。他の奴なら無視して突っ走るが、シャルステナにそんな事をする俺であるはずもなく、立ち止まる。


「あ、あの、手伝おうか…?」

「いや、いいよ。このためにバジル達雇ったし、シャルはゆっくり遊んでてくれていいよ」


 コッソリ、バーを建設しないといけないし。


「それなら、レイも遊んでていいんじゃない…?」

「いや、俺は他にもする事があるからさ。今日の間にそれを終わらしときたいんだ」


 少し寂しそうに言ったシャルステナ。

 俺もシャルステナ達と遊びたいのだが、そうもいかない。もっと重要な用事があるのだ。


「そうなの…?気をつけてね?」

「ああ。…ちょっと失礼」

「あ…」


 俺はシャルステナをお姫様抱っこで抱えると、城の前から、瞬動で船の前に移動する。

 シャルステナを置いて戻るのもどうかと思ったのだ。

 ちゃっかりお姫様抱っこもさせてもらった。


「よし。行くぞ野郎ども!」

「レイちゃん、私野郎じゃないわよ?」

「私もよ」


 再び顔を真っ赤に染めたシャルステナを地面に下ろしながら、俺は気合いのこもった声で修学旅行安全確保軍に呼び掛けた。

 すると、野郎ではない二人から抗議の声が上がった。

 母さんが怖いので、訂正しておこう。


「ごめんごめん。まあ、とにかく行こう!母さんと親父は海お願い。俺とバジルとシャラ姐は山ね。二人とも俺が教えたスキル使える様になった?」

「なんとか使えるレベルまでは来たな」

「私はまだそこまでじゃないわ」


 まぁ自力習得したバジルにはある程度才能があったのだろうから、当然の結果か。

 シャラ姐はあんまり適正ないみたいだしな。


「じゃあ、二人は一緒に行動して。海はまた明日するけど、山は今日中に全部狩るからそのつもりで」

「おう。ん?全部?」

「C級以上じゃないの?」


 元の予定ではそのつもりだったのだが、シャルステナとのバーでのひと時を、邪魔されるわけにはいかなくなったので、全部狩ることにしたのだ。


「予定が変わったんだ。ゴブリン一匹残らず狩るよ」

「川方式かよ…」

「川より大きい分大変ね」

「二人には俺特製秘密味酒あげるから、頑張って」

「任せとけぇ‼︎」

「早く行きましょ‼︎」

「よし行こう‼︎山狩だぁ‼︎」


 テンションが俺と同じく高まった二人を連れ、俺たちは山へと突撃していった。


「…あの子はわかりやすぎるわね」


 そんな母さんの呟きは、誰の耳にも止まることはなかった。


 〜〜


「うおおおおお‼︎」


 グギャア!


「邪魔だぁ‼︎」


 グケァ…


「吹き飛べ‼︎」


 ブファオ‼︎


 バジル達と別れた後、俺は一人山を爆走していた。途中出会う魔物をひき殺しながら、俺という暴走車両は山を駆け巡る。

 テンションの上がりきった俺の前にはA級であろうと、容赦なくひき殺されてしまっていた。


「よし、こんなもんか」


 俺は暴走を止め立ち止まると独り言を呟く。

 空間探索を広範囲に広げ、俺の担当する範囲に魔物がもう残っていない事を確認する。

 ついでに魔石と素材を探索し、風魔法でかき集める。


「大量大量」


 集めた魔石を収納空間へとしまい込むと、俺は山頂を目指す。

 そこにバーを立てなければ、ならないからだ。

 それにどうも山頂にはS級が陣取っているようなのだ。


 他はバジル達に任せておけばいいが、山頂は俺の担当なので、最後にこいつはやらなければならない。

 まぁキングオーガだから、特に問題はない。

 暴走車両状態じゃさすがに危険だが、普通にやればやられる事など考えられない。


「さてさて、俺の成長を確かめるにはいい相手だな」


 俺はそんな事を呟きながら、山頂へと到着する。

 そんな俺にキングオーガの方も気が付いたようで、軽く雄叫びを上げながら、突っ込んできた。


「瞬打」


 俺は特に慌てることなく、勢いを上乗せした、簡単に言えばただの掌底を打ち込んだ。

 俺の掌底はキングオーガの足に当り、足だけを後方へ吹き飛ばした。


 グゴォォオオ‼︎


 悲鳴をあげ、倒れこむキングオーガ。

 俺は倒れこんだキングオーガの足元へと即座に移動すると、魔装した腕でその首を切り落とした。

 魔人いや、魔王がやっていた使い方だ。おのれの腕を剣として使う技。魔装刀と名付けたその技は、並の剣よりも斬れ味が上だ。キングオーガの頑丈な肉体もスパッと斬る事が出来た。


「強くなってるな。確実に…」


 俺は少し実感のこもった呟きをした。

 約一年前にはボコボコにされ、死にかけた相手に手間取る事もなかった。

 俺はあいつに確実に追いつき始めている。

 その実感が俺の手を強く握りしめさせた。


 後少しだ、ディク…



 〜〜


「あれ?早くない?」

「あんた山に魔物狩り行ったんじゃないの?」

「終わったさ」


 プールサイドで休憩していたゴルドとアンナが、帰ってきた俺たちにそう聞いてきた。

 まぁ、三人とも暴走状態だったからな。確かに早かったかもしれないな。


「まだ2刻も経ってないじゃない。ちゃんと仕事してきたんでしょうね」


 こいつ何様だ?

 そう思った俺はアンナの腕を掴んだ。そして…


「空中散歩はいかが?」

「え、遠慮しとくわ」

「そんな必要ない。もう決定事項だ。行ってこい」

「キャァァァァア‼︎」


 俺は空高くアンナを打ち上げた。

 俺も成長して来ているため、そのスピードも最高到達点もかつての倍程になっている。

 楽しい空中散歩を楽しめるだろう。


「それで、本当に全部やっちゃったんだ?」

「ああ。ゴブリン一匹残ってないぜ」


 日時茶飯事のアンナの空中散歩に、ゴルドは特に気にした様子もなく、確認をしてきた。

 バジル達も酒の力で暴走状態にあったために、予定よりも遥かに早く終わってしまった。断崖山みたいに溢れてたわけじゃないしな。

 ちゃっかりS級はいたけどな。まぁ、大概の山にはS級1体ぐらい居るもんだから、仕方ないだろう、これは。


「ほえ〜。レイは一体どこまで行くのさ」

「さあな。行けるとこまでは行くさ」

「僕みたいな普通の人間には無理だろうなぁ」


 何を他人事みたいに、自分は関係ありませんみたいに言ってんだ。お前も大概だからな?


「言っとくが、お前普通じゃないからな?たぶんA級ぐらいなら余裕で倒せんぞ、お前」

「うっそだ〜。僕はレイじゃないんだから、無理だよ〜」


 嘘ではない。マジだ。

 感じる魔力量的には、シャラ姐達より低いが、その動きは文句無し。

 それにこいつは防御特化型になりかけているため、おそらく隔離空間と魔装鎧がなしの俺よりも、防御に関しては上だ。


 これってたぶん、相当異常な事だと、俺は思うのだ。

 隔離空間は無理にしても、魔装鎧はこいつに相性良さそうだし、教えてみようか?

 自分が普通でないと自覚出来るだろう。


「まぁ、今はそれでいいさ。それよりいい技があるんだが、どうだ?」

「お、また何か教えてくれるの?」

「ああ」


 俺はゴルドを少し離れた場所まで連れて行くと、魔装のスキルを教え始める。

 たぶん、こいつはすぐマスターするはずだ。

 ゴルドは魔法はど下手だが、魔力操作は普通にできるのだ。

 それに魔力操作を持っていなかったのに、魔力充填を覚えてしまうほど、魔力を込める事が元来上手いのだ。


 だから、ゴルドなら1ヶ月も練習すれば、このスキルを身につけられるだろうと思って、やったのだが俺の予測は外れた。

 一発で覚えやがった。俺が死にかけて、必死になって手に入れたスキルを、ボヘーとした顔で一発で成功させた。若干腹が立った。


「なんか動き難いね」

「……そうだな」

「これで合ってるのかな〜?」

「……ああ」

「どうしたのレイ?元気ないよ?」


 そりゃないさ。

 キングオーガのお陰で取り戻しかけた自信が、崩れそうだからな。


「いや、さっき付いた自信が無くなりそうなだけだ。それより、お前も受けてみなきゃわからないだろうから、試してみるか?」


 そう言って俺は剣を抜いた。真剣だ。


「うん。怖いから腕でいい?」

「ああ。まずは軽くいこう」


 俺は軽く剣をゴルドの手に当てた。


 キィン


「うわっ。本当に金属みたいになってる。すごいなぁ。レイの教えてくれるスキルはいつも」

「今回に限ってはお前の方がすごい。お前だけだぞ?俺以外にこのスキル、物にしたの。しかも、気の抜けた顔で軽くやりやがって。せめて額に汗くらい滲ませろってんだ」


 俺は少しのほほんとしたゴルドに文句をつけた。

 少しは自分がおかしい事を理解して欲しい。俺はお前が魔力操作持ってない状態で、魔力充填を持ってた事を知った時からずっとわかってた。


 こいつなんかおかしいって。


 だって、おかしいだろ?

 魔力操れないのに、魔力を溜めれるだぞ?

 意味がわからん。どうやってやったんだよ。


 まぁ今回の事で、ゴルドはやっぱりおかしいってわかった。

 まぁ、アンナみたいに頭が変って意味で、おかしいではないからいいだろう。才能がある分には問題ない。


「なんか慣れてきたや。なるほどね」


 俺がゴルドの異常性を確かめていると、一人何かを納得し始めるゴルド。


「レイ、模擬戦しない?試してみたい事があるんだ」

「?あ、ああ。いいぞ」


 ゴルドから模擬戦したいって珍しいな。

 こいつは一対一の模擬戦はあんまりやらないんだが…

 何を試す気だ、こいつ?


「じゃあ、行くよ?」

「おい、剣は?」

「うーん、今はいらないや。試したいだけだから」

「ならいいけど…怪我しても知らないからな?」


 それを合図に俺は突っ込んだ。

 こいつは防御力を確かめたいのだと思ったからだ。

 俺はゴルドの体に今度はある程度力を入れて、剣を当てた。


 キィン!と音がなり、剣が止まる。

 これで確かめたい事は終わっただろと思った瞬間、ゴルドが動いた。

 俺は軽くバックステップして、腕を交わす。

 すると、それを追うようにゴルドは真正面から突っ込んできた。


 俺はそれを蹴り返そうとゴルドの腹を蹴った。

 剣でやらなかったのは、ゴルドが怪我をすると思ったからだ。

 魔装鎧状態じゃ、俊敏には動けない。

 体が硬くなると同時に、関節も硬くなってしまうからだ。


 では、関節の部分だけやらかくすればいいと思うかもしれないが、これがなかなか難しい。

 肉体全体や、一部分を硬くするのはスキルさえあれば、簡単にできるだが、体に幾つもある関節全てを柔らかくしたまま、それ以外を硬くするなんて芸当はなかなかできない。少なくとも俺は無理だ。


 しかし、ゴルドはやってのけた。俺の足はゴルドの金属のような肌に止められ、ゴルドの止まらぬ勢いに負け、バランスを崩す。

 俺は慌てて反発空間で自分を弾き飛ばし、距離をとった。


「おいおいおいおい、なんで速攻、俺より扱い上手くなってんだよ」

「うーん、なんか違うな」


 俺の半分ぐらい八つ当たりのこもった声に、ゴルドは納得がいかないと言った顔をした。

 これだけの事をして何故納得しないんだよ。意味がわからん。俺にはお前の動きが、魔装していない状態と同じにしか見えなかったぞ。


「まぁいいや。ありがと、レイ」

「もういいのか?」

「うん。しばらく練習してからにするよ」

「?まぁお前がいいならいいんだが…」


 マジで自信無くすわ。

 スキル覚えて5分で俺より上手くなりやがって。なんだよ、その他より異常に飛び出過ぎた才能は…

 魔力を溜める事だけ飛び出すぎだろ。魔法の才能との落差すごいぞ。標高差2万キロあるんじゃねぇのか?


「にしても、あれを避けるんだね、レイは」

「色々と便利なスキルがあるからな」

「それも教えてくれよ」

「教えたさ。空間育てれば手に入る」

「あ〜、じゃあ無理かも。まだ、レベル9になってもいないよ」


 ほんと他の才能はどうなってんだ?

 山あり谷にありまた谷があるじゃないか。お前の才能は竜の谷か。


「なら、気長に行くしかないんじゃないか?使ってればそのうち手に入るさ」

「そうだね〜」


 少しは己の才能についてわかってくれたであろうゴルドを連れプールへと戻る。

 すると、そこには気絶したアンナが横たわり、その周りにギルクとシャルステナが寄り添っていた。


 思いっきり忘れてた。

 そういやこいつ放り投げて放置したんだった。

 たぶんプールに落ちたはずなんだが、勢い殺してなかったから、かなりのスピードでダイブしたなこいつ。


「あ、レイ。アンナが突然空から降ってきたのよ。絶対レイの仕業でしょ?」

「悪い悪い。最近成長して高く上げれるようになったから、落ちてくるまで時間がかかるんだよ。それで、忘れてた」

「おいおい、そんな悪い知らせはいらんぞ」


 ギルクが物凄く嫌な顔をしていたので、俺は体験させてあげる事にした。


「いや、俺は何もしてないんだが…?」


 俺が腕を掴むと、何もしてないから、しなくていいとギルクが体験を拒否する。


「何もしてなくても行くものさ、面白は!」

「そんな担当嫌だぁぁぁああ‼︎」


 ギルクは酷く今更な事を叫びながら、空へと上がっていった。


「うわぁ、楽しそう。レイ、僕も」

「あいよ」


 俺はクレイジーボーイも続いて打ち上げる。

 ゴルドは楽しそうにして、空へと上がっていった。

 クレイジーだ…


「うわぁ、ほんとに前より高く上がるんだね」

「まぁな。俺も中々成長したもんだ」


 未だ登り続ける二人を見て、俺は自らの成長を確かめた。ゴルドに折られた自信が少し戻ってきた気がした。


「シャルはどうする?やるか?」

「拒否権はあるの?」

「シャルにだけはあるよ」

「じゃあ、拒否で」


 シャルステナにだけ存在する拒否権を行使してきた。他はないから拒否しても無駄だ。

 一名喜んで行ったがな。


 そんな中、俺は突然瞬動を使って移動した。


「どこに行くんだ?」

「「ひっ‼︎」」


 ライクッドとリスリットは二人揃って、短く悲鳴をあげる。

 この二人、俺が戻ってきたのに気が付くと、寄ってこようとしていたのだが、人が二人打ち上げられるのを見て、そろ〜と踵を返したのだ。

 もちろん、そんな事に気が付かない俺ではない。

 逃げようとする二人の前に、瞬動でお誘いに来てあげた。


「そういや、修行させて欲しいみたいな事言ってたな二人とも」

「え、あれは…」

「こ、後期からの話で…」

「まぁまぁ、遠慮するな。ちゃんと今から修行させてやるよ。まずは精神修行な。よし、行ってこい‼︎」

「ちょ、ちょっと待ってーー‼︎イヤァァアァア‼︎」

「もう空には上がりたくなあぁぁぁあいいぃ‼︎」


 二人は仲良く空へと旅立っていった。


「ピッ」(笑)


 ハクが小さい親指を立てて、俺にオーケーサインを出してくれた。俺も親指を立てて返す。


「うおおおおお‼︎」

「お、落下してきたか」


 顔から落ちてきたギルク。その後ろにゴルドが笑顔でキャッキャ言ってる。

 俺は2人に反射空間を使って激しくバウンドさせてから、水へと叩き落とす。

 何もない空中をバウンドした2人を他のクラスメートは冷や汗を流してみていた。


「よう、どうだった?楽しかったか?」

「うん、最高!もう一回!」

「オーケー、オーケー。行ってこい、クレイジー!」


 ゴルドをもう一度放り投げてから、俺はプールに力なく浮かぶギルクを回収。アンナの横に安置した。

 そうこうするうちに残りの2人も落ちてきた。


「イヤァァアァア‼︎死ぬぅうう‼︎」

「………………」


 悲鳴をあげて落ちてきたリスリットと、すでに気絶しているライクッド。

 修行が足りんな二人とも。

 さっき横を逆方向に進んでいった奴を見習って欲しいものだ。


 俺は二人を同じように激しくバウンドさせてから、水に叩き落し、気を失った彼女達を回収。そして安置所に安置した。

 手を胸の前で結んで、花でも添えてやろうか?


 そんな事を考えながら、10回ほど空高く登っていくゴルドをクラスメート全員で見守った。

 俺も含めて全員ドン引きだ。

 Oh crazy…


PV10万超えありがとうございます‼︎

これからも沢山の方に読んで頂けるよう頑張りたいと思います!


次の更新は明日です。



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