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45.竜化

 ドババババ


 土へ染み込んだ雨水が川へと流れ込み、滝になって流れ落ちる。

 その滝の中心にある岩の上で座禅を組む俺。

 大量の水が流れ落ちる中、俺はカッと目を見開く。


「喝‼︎」


 気合いの入った声が、山に木霊する。


『ふむ。それが瞑想なのか?どうやら妾の考えていたものとは少し違うようだ』


 静かに俺の瞑想?を見ていたウェアリーゼが、そう言ってきた。


「どうなんだろ?俺も初めてするから、わかんないや」


 何をしたら瞑想になるんだろうか?

 そんな疑問が湧き上がるが、答えを知ってる者はここにはいない。


『それにしても、そんな事をするだけで、その竜化とやらの技が身に付くのか?』

「俺も竜神にそう言われただけだから、わかんないよ」

『そうか…王が言ったのならば、問題ないじゃろ』


 あの人というか竜は、物知りだからな。なんでも知ってるよな。さすが神様って感じだよな。


『どうするのじゃ?このまま続けるか?』

「うん、せっかく来たしね」

『そうか。ならば妾はここでしばし寝ていよう。静かな方が良いじゃろう』

「ありがと、ウェアリーゼ」


 ウェアリーゼが地面に腹を付けて、寝始めてから、俺は再び滝の中へと戻る。

 そして座禅を組み、また瞑想?し始めた。


 1時間ぐらいそうしていただろうか?

 少しずつ自分が集中していっているのがわかった。


 滝の水の音が小さくなり、体を打つ水も気にならなくなってきた。

 そして、自分の鼓動を感じるようになる。


 ドクンドクンと一定のリズムで波打つ鼓動。

 やがて、その一定だったリズムがゆっくりと波打つようになっていく。

 次第にそれは時が止まったかのように錯覚する程、ゆっくりと、そして静かに聞こえるようになってきた。


 俺の精神…

 それはどのような物なのだろう。

 16歳まで生きた俺、それとも今の俺。

 二つに分かれていたりするのだろうか?

 それとも同じなのだろうか?


 竜神は精神を見つめて、加護を感じとれと言っていた。

 加護ってなんだ…?

 俺の精神の中にあるものなのか?

 感じとるにはどうしたらいい?

 違うものを探せばいいのか?


 俺は一層深く自身の内へと入っていく。

 その感覚はもうすでに何も残っていない。

 ただ、何もない場所にぽつんと俺という自我があるだけだ。


 そこは見覚えがあるような感じがした。

 ここは…あの声と話しをした時の…

 思い出したのは、死にかけた時に聞こえた声。

 あの声を始めて聞いた時も、キングオーガに殺されかけた時も、俺はここにきた事がある。


 そうか…

 ここが俺の精神…

 あの声はいないのか…?


 俺の問いかけに答える声はなかった。

 そして、俺はこの何もない場所で、加護を探し始める。


 加護…

 神から与えられる恩恵。

 俺のものではない力。

 だけど、俺の力になるもの。

 それはきっと、俺の精神に根付いているんだ。

 俺の魂と絡みあって、一つになってるんだ。


 それなら、絡みあった中から、それだけを取り出してやればいい。


 …………見つけた

 俺ではない精神の欠片。これがきっと竜神の加護だ。

 他にも幾つかある。これは創世神の加護だろうか?


 俺は竜神の加護だけをその中から抜き出した。

 そして、ゆっくりと目を開ける。


 ドババババ


 ゆっくりと音が戻り始める。そして、色を取り戻してく世界。

 俺はおもむろに立ち上がると、ゆっくりと自分の体を見渡した。


 まず目に入ったのは水色の鱗。

 拳大程の大きさの鱗が皮膚を覆い尽くす様に規則的に、そして重なりあってくっついていた。触って見ると、かなり固い。


 顔にもついているのかと、手で触れてみた。

 首筋から顎の下辺りまでついた鱗。しかしそれより上、具体的に言えば顔の部分に鱗はなかった。代わりに少し硬くなった皮膚の感触が伝わってきた。


 俺は一呼吸置いて、拳を握り天高く突き立てた。


「うおおおおお‼︎出来たぞ‼︎」


 俺は腹の底から雄叫びをあげた。

 まだ全体像を見れてはいないが、絶対かっこいいに違いない。

 やった、やったぞ!


『やっとか。かなりかかったな』


 川のほとりで寝そべっていたウェアリーゼが俺の声で目を覚まし、首をあげそんな事を言ってきた。そんなウェアリーゼの言葉に俺は小首を傾げた。


「え?そうかな?まだ日も暮れてないよ?」


 俺は空を見上げ、まだ日が昇っている事を確認した。

 一時間ぐらしか経ってないんじゃないか?


『一度落ちて昇ってきたのじゃ。其方は丸一日そうして、瞑想しておったのじゃ』

「え?丸一日?」


 言われてみれば、物凄く腹が減ってる。

 まじかよ。丸一日滝に打たれてたの、俺?

 絶対風邪引くじゃん…


『妾が声をかけても気が付かぬ程、集中しておったみたいじゃからの』

「あ、なんかごめんね」

『構わぬ。其れ程集中せねば、成せぬ技なのだろう。上手くいったようで何よりじゃ』


 確かに、なんか凄く深いところ行った気がするな。

 死にかけた時に行くとこまで行ったもんな。

 けど、あの声はいなかったな?前に言ってたけど、死にかけないと出てこれないのか?

 いったいあいつは何者なんだろう。


『さて、そろそろ竜の谷に戻ろうかの』

「そうだね。竜化も出来たしね。ところでさ」

『なんじゃ?』


 俺は髪をかきあげポーズを取ろうとして、爪がおでこの鱗に引っかかり悶絶する。


「ッッ‼︎」


 気を取り直して……


「どう?」

『どう、とは?』


 今度は無難に両手を広げて全体を見せた。決してまた爪が引っかからないとか考えて手を広げた訳ではない。


「俺の姿はどう?」

『……水色の魚みたいじゃ。小さい鱗がくっついておるのう。それと、ツノが生えておるな、小さいのが。尻尾は…妾からは見えぬの』


 魚って…

 いや、竜から見たら、魚の鱗も俺の鱗も変わらないかもしんないよ?

 だけど、俺からしたら鱗は結構大きいからな?

 掌ぐらいあるぞ?


 ツノもあるのか、けど小さいんだな。

 あ、けど、ウェアリーゼからしたらだからなぁ。あんまり参考にならないな。


 尻尾は…あるな。触って見たら、尻の辺りから出てるな。てか、服破けてんじゃん。

 うわ、まじか。

 ん?羽もあるぞ?こっちは服の下に潜り込んでるから破けてはないな。


「尻尾も羽もあったよ」

『そうか。竜と人が合体したような形になっておるのじゃな』

「そうだね。これって、俺飛べるのかな?」

『やってみればよかろう?』

「だね、やってみるよ」


 俺はシャツを颯爽と脱ぎ捨て空に飛び上がりーー落下した。


 ドボーン!


 水柱が立ち、その中から俺が這い出た。


「プハッ、難し〜、羽が上手に動かないよ」


 なんとか動かす事は出来たのだが、飛ぶには至らなかった。

 上手く動かす事が出来なかった。

 元々ない部分だからかな?出来なくても仕方ないよ、うん。


『それでは飛べんじゃろ。もっと羽を横に広げるのじゃ』

「こう?」


 ドボーン!


『ダメじゃ。もう一度』

 ドボーン!

『ダメじゃ』

 ドボーン!

『もう一回』

 ドボーン!


 そうして、俺の飛行訓練は日が沈み、また日が昇るまで続いた。

 ウェアリーゼは結構スパルタのようだ。

 俺の竜化が消えるまで、スパルタ教師の特訓は続いた。


 〜〜〜〜〜〜


「こんなもんかな?」


 俺は作業を終え、全体像を見るために少し離れた。

 俺が作っていたのは、大きな船だ。100人ぐらいは乗れるだろう。近くの山で切り出した木を繋げ作った。

 浮かぶかは知らない。別に浮かべる必要もないので、それで構わないのだ。


『それが其方の言っていたものか?』

「うん、いけそう?」

『大丈夫そうじゃ』


 ウェアリーゼからもゴーサインが出たので、俺は船作りをやめることにした。

 初めて木で此れ程大きな物を作ったので、かなり時間がかかってしまったが、なんとかギリギリ間に合った。


「じゃいこっか。まずはシエラ村だね」

『案内は任せたぞ』

「了解」


 そうして俺とウェアリーゼはシエラ村へと飛び立った。

 実は俺も飛行をマスターしたのだ。竜化して、羽を生やせば飛べるようになった。

 これで移動は前より楽になる。

 まだウェアリーゼのように、自由自在に、そして速くは飛べないが、一応移動するくらいには飛べるようになった。


 竜化はかなり便利で、問題は服が破けてしまう事ぐらいだ。

 正直尻尾はあんまりいらない。

 だって、竜化を解除したら尻丸出しなんだぜ?

 どこかの幼稚園児みたいじゃないか。


 まぁ、それ以外はいい事しかない。

 竜化は消耗すると解除されるようで、何もしなければ、ずっとそのままでいられるようだ。

 しかも、飛んだりしてもほとんど消耗しない。

 攻撃を受けたり、思いっきり攻撃したりすると消耗するが、限界突破のようにすぐに力を使い果たす事はない。

 かなり長時間使用可能のようだ。


 いいものを教えてもらった。

 それに、だいぶ竜化に慣れてきた為か、其れ程集中しなくても、出来るようになった。

 ディクと戦うまでに、戦闘中でも竜化出来るようになりたいものだ。


「あ、もう直ぐ着くね。彼処の山で待っててくれる。いきなり行ったら驚くだろうから」


 そう言って俺だけが、シエラ村へと向かう。


「到〜着」


 シエラ村の門へと降り立った俺は、竜化したまま中へと入る。

 なぜ竜化したままかというと、解除するとケツ丸出しからだ。俺はどこぞの変態ではないので、ちゃんと隠して入る事にした。尻尾で…


 まぁ、そんな俺は側から見れば化け物だ。

 まだ、日が昇っていないため、人が歩いてはいないが、門番には悲鳴をあげてビビられた。

 しかし、事情を説明して、俺がレイである事を告げると、難なく通してくれた。

 まぁ顔はほとんどそのままだしな。


 だけど王都に行く時は解除してないと、えらい事になりそうだな。途中で着替えてから行くか。


 そうこうするうちに家に着いた。

 俺はそのまま中へと入る。


「あら、ずいぶん可笑しな格好してるのね?流行りなの?」


 扉を開けると朝食の準備をしていた母さんが出迎えてくれた。

 母さんは俺の竜化を仮装か何かと勘違いしているようだ。


「これは竜神に教えてもらった竜化って技なんだ。見た目がこうなるんだけど、飛べるんだよ」


 俺はちょっと嬉しそうにそう言った。

 前から空を走る事は出来たが、飛べはしなかった。

 だから、飛べるようになった事が嬉しかったのだ。


「へぇ、そうなの。けど、あんまり人のいる所では使っちゃダメよ?みんな怖がるわ」


 驚いた様子も見せなかった母さんがそう言った。先に門番の反応を見ていなければ、説得力ゼロだ。


「それはわかってるんだけどさ、ほら見てこれ」


 俺は後ろを向いて、尻尾を見せる。


「解除しちゃうとお尻が丸見えになるんだよ。だから、今は竜化したまんまなんだ」

「あらあら、可愛い尻尾ね」


 そっちですか。

 この破けた服には触れないのか…


「まぁ、俺の事はいいや。みんな準備出来てる?」

「私とスクルトは出来てるわよ。レディクはどうせ剣しか持ってかないだろうから、私が準備しておいたわ」


 うちの親父が苦労をかけるね母さん。


「そうなんだ。もうこっちも準備万端だから、朝ご飯食べたら行こうよ」

「ええ、わかったわ。じゃあ、二人を起こしてきてくれる?あ、その竜化は解除してね。スクルトが泣いちゃうわ」

「わかった」


 俺はケツ丸出しで二人を起こしに向かった。

 家の中だしいいだろ。


「二人とも起きて、朝ご飯だよ」

「うがぁ?お、朝か」

「ううん、あれ、兄ちゃん?」


 目を擦りながら、起きた2人。


「朝ご飯出来たってさ。母さんが呼んでる。食べたら行くよ?」

「どこにだ?」

「この前言ったよね…?」

「おお、あれか。忘れてた」

「どこに行くの?」

「お出かけだよ」


 可愛いらしく首を傾げて聞いてきたスクルトに、俺は優しく教えてあげる。

 親父には優しくしない。

 前に言ったから。


 それから起きた2人とともに、朝食を食べに下へ降りた。


「レイ、お前尻破けてんぞ?転んだのか?」

「転んだくらいじゃならないよ、これは。竜化って技を覚えたんだけど、尻尾が生えるんだよ。それで破けたんだ」

「尻尾〜?かっこいい〜」

「ちょっとやってみろよ。俺も見てみてぇ」

「いいよ」


 俺は立ち止まり、眼を閉じる。

 息を規則的に吐き、カッと目をあける。


「竜化!」

「おお‼︎格好いいじゃねぇか。ツノも生えんのか。面白れぇ」

「かっこいい、兄ちゃん!」


 二人は格好いいと絶賛してくれた。

 ほらな?やっぱり格好いいんだよ。魚なんかじゃないよ。


 そして、しばらく2人にペタペタとあちこち触れられて、感触を確かめられる。

 2人が満足してから、俺たちは食事をとる部屋に行った。


「また、竜化してるの?」

「2人が見たいって言うから」

「ま、言うでしょうね」


 母さんはチラッと親父を見てそう言った。

 お前は子供かと言いたげだ。


「ほら、ウェアリーゼさん待たせてるんだから、早く食べなさい」

「うん」


 そうして俺は母さんの作った食事にガッついた。

 かなりの距離を飛んできたので、お腹が減っていたのだ。

 ガツガツと俺と親父の取り合い合戦が、繰り広げられるが、何時もの事だ。本来なら、これにハクが加わるのだから、もっと熾烈な争いになる。

 今日はましな方だ。


 〜〜


「じゃあ、みんなはここで待ってて。俺が王都に行ってくるから。合図したらきて」


 ウェアリーゼに合流して、山の反対側まで、短い空の旅を楽しんだ俺たちは、王都の人を驚かせないように少し離れた所に着地した。

 そう言って今度は空を飛ばずに、普通に走って王都に向かう。

 すでにズボンは着替えてある。

 だから、竜化するわけにはいかない。

 そう何着も穴の空いたズボンはいらないのだ。


 俺はスキルを駆使して、平原を滑走する。

 やがて、王都の正門が見えてきて、そこに人集りがあるのが確認出来た。

 ある程度近付いてから、俺は瞬動を使ってみんなの前に移動した。


「ハアハア、おはようみんな。準備オッケー?」


 俺は息を切らしながらも、クラスメイトに問いかけた。


「ピィイ‼︎」(出来てるよ‼︎)


 元気に答えたハクは俺の肩へ乗り、頬ずりしてきた。

 どうやら寂しかったようだ。可愛いやつめ。


「準備はいいから、説明してよ。何をする気?」

「ハアハア、何って、修学旅行だけど?ハアハア、書いてあっただろ?」


 訝げな視線を向けてきたシャルに、ハアハア言いながら答える。


「書いてなかったわよ。修学旅行はキャンセルしろってしか…」

「書いてあるじゃん」

「……わかるわけないでしょって、言いたいけど、わかっちゃったから、言えない…」


 シャルステナがそうどこか口惜しそうに言った。


「おい、阿呆。お前、フルコースだからな?忘れるなよ?」

「あいよ」


 フルコースをわざわざせびりにやって来たギルク。

 そんな事言われなくてもわかってるさ。元からそのつもりだったんだから。


「それで?どこに行くつもりなのよ、あんた?」

「海だ」

「海ぃ?頭おかしいんじゃないの?どんだけ遠いと思ってんのよ」

「俺はお前と違って正常だ。ちゃんと考えてるさ」


 ラフな格好で旅行カバンを肩から背負い、遊ぶ気満々のアンナ。こいつだけ旅に出る格好じゃない。他は旅に出るような格好をしている。

 一見アンナが可笑しいように見えるが、今回だけはこいつが正解だ。


「どうやって行くのさ?」

「ふふふ、それはこれだ!」


 俺は魔法で空高く、光の玉を打ち上げた。


「眩し…」

「いきなり何すんのよ!」

「阿呆が!」

「あ、アンナの服が透けて見えた」

「何見てんのよ‼︎」

 バチーン!


 薄着のアンナにビンタされ吹き飛ばされるゴルド。まるでいつもの俺かギルクようだ。


「え、ちょっと、あれってまさか…」

「阿呆め…手を打っておいてよかった…」

「げっ、竜じゃない…」

「痛いよ、アンナ〜」


 一名全く見ていない奴がいるが、ドッキリ成功のようだ。

 あ、王都の住人に伝えるの忘れてた…

 ギルクに任せるか。


「ふふふ、驚いたか?俺の友達の竜に海まで運んでもらうんだ」

「この阿呆め。俺が手を打っておかなければ、今頃王都の中はパニックだぞ」

「お、さすがギルク」


 予め手を打っておくとは、腕を上げたではないか。

 褒めて遣わそう。


 王都の正門前に飛んでやって来たウェアリーゼ。

 その手には俺が作った船が掴まれていた。

 俺はその船に飛び乗る。


「さあ、みんな乗れよ。楽しい修学旅行の始まりだ」

「始まりだ、じゃないよ。宿は?」

「俺がそこを考えてないわけないだろ?」

「さすがレイ…仕事が早い…」


 シャルステナはどこか呆れた声を出しながらも、乗り込んできた。


「ふふん、修学旅行〜」

「アンナ、僕がお姫様抱っこで乗せてあげようか?」

「必要ないわよ!自分で乗るわよ!」


 浮かれたアンナと懲りないゴルドも乗り込む。そして、次々に船へとクラスメイト達が乗り込んできた。

 そして、リナリー先生達も赤ん坊を連れて乗ってきた。


「あ、リナリー先生達はこっち。あの部屋使ってください。あそこなら風もこないし、赤ちゃん用のベッドもありますから」

「そうか。すまないな。まさか私達も呼んでもらえるとは…」

「いや〜、先生達にはお世話になったんで」

「ありがとう。レイくん。ありがたく使わせてもらうよ」


 二人はそう言って、俺の用意した赤ちゃん部屋へ入っていった。

 リナリー先生達に用意した部屋だけは俺は本気で作った。万が一がないよう、細部まで徹底的にやった。

 これで快適な旅がお約束される事だろう。


「オメェまたとんでもない事、仕出かしたな」


 次に飛び乗って来たのは、バジルとシャラ姐だ。この二人は安全確保の為に俺が雇った。

 送り迎え、朝昼晩、寝床付きの高待遇だ。しかも、海で遊べるという特典付き。

 快く引き受けてくれた。


「レイちゃん竜と友達なのね〜。羨ましいわ。私、テイマーに昔憧れてたのよね〜」

「テイムはしてないよ。お願いして力を貸してもらっただけさ」


 羨ましがるシャラ姐にそれは違うと返した。

 ウェアリーゼは好意で力を貸してくれただけだ。テイムして命令してる訳じゃない。

 ウェアリーゼは本当にいい竜なのだ。


『こんにちは。私も呼んでもらえて嬉しいわ』

「と言っても、俺と母さんしか見えないんだけどね」


 ふわふわと浮かびながら乗ってきたウランティーに、俺はそんな事を言った。

 ウランティーは精霊の為、精霊眼を持っていないと認識出来ない。だから、ウランティーを認識出来るのは俺と母さんだけになる。

 ウランティーも安全確保の為、雇った。代金は俺の魔素でいいらしい。ストックしたいのだそうだ。


「さて行くか」

「そうですね」

「行きましょう」


 そう言って颯爽と並んで飛び乗ってきた三人。若干格好つけているように見える。


「待てコラ、なんでお前ら乗ってんだよ」


 俺はさりげなく乗り込むギルク、リスリット、ライクッドの三人にそう突っ込んだ。

 ごくごく普通に、当たり前かの様に乗り込んできた。

 しかも、さっきまでいなかった2人まで、いつの間にか加わっていた。

 こいつらは別に雇ってない。


「気にするな」

「そうですよ。早く行きましょ」

「レイさん、海が僕らを待ってますよ?」

「そんなんで流されるか、ボケ」


 こいつら、夏休みなのをいい事についてくる気か?

 修学旅行だぞ?

 お前ら関係ねぇじゃん。

 ギルクは教師だし、他は学年違うじゃん。


「全員降りろ」

「レイ、俺はお前らのクラスの副担任にこの度なった。だから、俺も行く権利がある」

「ねぇよ。そんな臨時異動しらねぇよ」


 初めて副担任とか聞いたわ。そんなのねぇだろ。

 絶対今作っただろ。

 それにお前他のクラスの担任だろうが。


「レイ先輩、私の尻尾触らせてあげます。だから連れてってください」

「残念だが、俺も最近尻尾生えてきたんだ。だから、別にいらない」


 自分の触れるからな。

 別にお前のを触らなくてもいい。むしろ、逆に触らせてやってもいい。


「レイさん、これを」


 ライクッドは俺に一冊の本を手渡してきた。


「なんだ?本?……‼︎こ、これは…⁉︎」

「はい。前にレイさんが言っていたマリス・リベリド氏の本です。これを進呈します。どうか僕を連れてってください」

「よくやった!よし、ライクッドは連れてってやる」


 俺はライクッドに本で買収された。

 やったぞ!7年近く探し続けた本が手に入った!

 よく見つけたな、ライクッド。

 にしても、俺を買収しに来るとはやるではないか。

 こいつは大物になるぞ。


「ずるいぞ!俺も連れてけ!」

「私も!レイ先輩、耳も触っていいですから!」

「残念だ。凄く残念だ。もうライクッドでこの船は定員オーバーなんだ。俺も心苦しいが、お前らは連れて行けない」


 俺は棒読みで悲しい事実を告げた。

 残念だ。本当に残念だ。俺も2人と行きたかったよ。

 だけど、現実は残酷だ。常に思い通りにはならないものなのさ。

 あー心が痛い。張り裂けてしまいそうだー。涙ちょちょ切れちゃうー。


「嘘つけ!ガラ空きだろ!まだ半分ぐらい席空いてるんだろ!」

「そうですよ!それに、私軽いから定員よりオーバーしても大丈夫ですから!」

「いや、これからまだ乗るんだよこの船」


 二人がガラ空きの椅子を指差し、抗議してきた。

 それにまた俺は悲しい事実を告げた。

 これで全員と誰が言った?まだまだ乗るぜ、この船には。


「ほら、きた」


 俺は正門を指差し、そう告げる。

 そこには30人程の食材と調理器具を持った人とメイド服をきた女性10名程がいた。


「店主、こっちだ!」

「おお、これはこれはレイ様。この度は私どもを雇っていただき誠にありがとうございます」

「いや、こっちも美味しい料理が食べたいからさ」


 やって来たのは高級料亭の店主と店員達、そしてメイド数名だ。今回の修学旅行のために俺が雇ったのだ。

 全員で1億ルト出したら、喜んで引き受けてくれた。

 メイドさん達は1人100万ルトで雇った。

 いや〜、二週間も最高級の味を楽しめるなんて最高だな〜。


「ちょっと待て、レイ!お前ぇ、…俺も連れてってください!」


 ギルクは店主の顔を見るなり、土下座してきた。

 本気で行きたくて仕方ないようだ。声がマジだった。

 この無様な王子の写真を王様に送りつけたい。


「あ、あの人って確か…⁉︎レイ先輩お願いです!私も、どうか私も!」


 リスリットも店主の顔を見て、思い出したようでギルクの真似をして、土下座してきた。

 ふむふむ、苦しゅうない。面をあげよ。ははぁ!

 二人が頭を下げる中、俺は頭の中で1人芝居をやっていた。

 しかし、そんな芝居とは逆に俺は悲しい宣告をしなければならなかった。


「だからさ、空いてないんだよ席が」

「そこをなんとかお願いします!」

「一生のお願いです!先輩!」


 二人は伏して懇願した。ここまでされれば俺も温情を与える気になってきた。

 やれやれ、仕方ないなぁ。連れて行ってやるか。どうせ部屋余ってるし。


「仕方ない。連れてってやるさ」

「おお、我が人生最高の友よぉ!」


 そう言ってギルクは抱き着こうとしてきたので、腹に一発入れておいた。

 俺に抱きついていいのは、シャルステナだけだ。


「レイ先輩、ありがとうございます!ほら、尻尾触っていいですよ?」

「そうか」

「ギニャー‼︎」


 遠慮なくリスリットの尻尾を触らせてもらった。ギュッと。それはもう力一杯ギュッとした。

 すると、猫のような悲鳴をあげるリスリット。

 こいつ猫だったのか?犬じゃないのか?


「ま、定員オーバーなのはマジだから、お前らには特別席を用意しよう」

「と、特別席……?」

「どこですかそれ?」


 滝の様に汗を流し始め、やばい気配を感じ取ったギルクと、まったく俺の事を疑っていないリスリット。

 俺は二人の腕を掴んだ。


「ウェアリーゼ!こいつらを口の中入れてあげて!」

『よいのか?』

「オーケー、オーケー」


 俺は二人を掴んだ腕に力を込める。


「ちよ、まて、レイ、話そう。話し合おう」

「えっ?えっ?ええっ⁉︎」

「食べられないようになっと!」

「うおおおおお‼︎」

「イヤァァアァア‼︎」


 俺は二人をウェアリーゼの口へ放り込む。パクッと丸呑みされる二人。

 これで2人とも一緒に行けるな。よかったよかった。


「よし、修学旅行に出発だ‼︎」


 そうして、予定外の人員を加えながらも、俺たちは海へと出発した。


修学旅行編突入。

レイの学生時代も終わりが見えて来ました。けど、ここからが結構長い……

後40話ぐらいいくかな?

冒険譚を書きたくて始めたのに、いつ冒険に出れるんだろう……


次は明日投稿予定。



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