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44.邪神の結晶

 ガンガン!


 窓を強く叩く音が聞こえ、一瞬ビクッと体を震わせる。

 私が音のする方を見ると、夜の闇に溶け込むような黒い竜がいた。しかし、竜といってもその体はとても小さい。この竜は私の友人、レイのペットみたいなものだ。


 名前はハク。

 ハクは、とても可愛い。鳴き声とか、レイの肩に乗りたいが為に身体を小さくするスキルを身に付けたとことか、やる事なす事全てが可愛らしい。


 ハクは以前まで、よく私の部屋に遊びに来ていたのだが、最近は余り見ていなかった。

 レイも最近はほとんど一緒にいないと言っていた。

 何か楽しい遊びでも見つけたんだろうと、レイは余り気にはしていないみたいようたが、ハクは何をしてるんだろうか?


「どうしたの、ハク?」

「ピィイ‼︎」(大変‼︎)


 そう言って、ハクは口に咥えた紙を私に渡してきた。

 私は紙を受け取ると、それに目を落とす。


 ー俺旅に出るからよろしく!

 ガタッ


 一行目に書いてある事を目にして、私は足元から崩れた。


 またか…

 レイはいつも突然だ。

 初めて川に行くと言い出した時も、私がレイの故郷に遊びに行った帰りも、断崖山を1人で調べていた時も、魔力暴走の時も、他にもいっぱいある。

 もう少し落ち着きを持って欲しいものだ。


「はぁ、それでハクは慌てて飛んで来たのね」

「ピィイ!」(そう!)


 私はもう一度ため息を吐いてから、続きを読み始める。


 ー俺が旅に出ている間、俺の教えてたクラスの教師やっといてくれ。シャルとアンナとゴルドの三人で、空いてる時間に頼む。ハクもよろしくな。ちゃんと埋め合わせフルコース用意するから。テストはギルクがやってくれるから、適当に教えるだけやっといてくれ。


 私は頭を抱える。

 まさか、教師の仕事を私達に押しつけるとは……

 いったい何をしに、旅に出たのだろう。

 私は改めて続きを読む。


 ーそれと、夏の修学旅行クラス全員分キャンセルしといてくれ、よろしく!


「………何をする気…?」

「ピィ…」(わかんない…)


 よろしくじゃないわよ。

 そんな事、私が出来るわけないじゃない。

 ギルクに相談しよう……


 ーあと、リナリー先生とハリス先生も呼んで、テストが終わった次の日の朝、全員で王都の正門前集合な。


 それで手紙に書かれている事は終わっていた。行き先については全く書かれていなかった。


「いったい何処にいったのよ、レイはッ…!」


 私は手紙を握り閉めて、叫んでいた。

 せめて一言ぐらい、何処に行くか書いておいてくれてもいいじゃない!

 なんでいつも、こうなのよ!


 〜〜


「……というわけなの。どうしよう…?」


 私はとりあえず、ギルクの元へと行き、相談した。

 私一人じゃ、どうしようもないから。


「……あのアホめ。今度は何をする気だ…?」

「たぶんだけど、修学旅行に関する事だと思う」

「修学旅行……あいつ本物のアホか?」


 ギルクは何かわかったかのように、呟いた。


「何かわかった?」

「ああ、おそらくだが、貧乏旅行したくなかったあいつは、別の場所に旅行に行こうと考えてるんだ。それで、今はその下見にでも行ってるんだろう」

「あ、なるほど。…レイありがと…」


 私はなんだか嬉しくなってしまった。

 私達の為に旅行先を探しに…

 もう、レイったら…

 言ってくれたらいいのに…

 ひょっとしたら、内緒にして驚かせようとしてくれたのかな?


「…だが、日にち的に不可能だ。テストが終わってから出たのでは、ある程度いい旅行先に行くとすると、行って帰ってくるだけで手一杯だ」

「……ダメじゃない、それじゃあ」


 本当に行くだけなんて……

 それは旅行じゃないよ……


「ああ、だからアホだと言ったんだ。だいたい、まだテストが終わるまで3週間以上あるんだぞ?どうせあいつの事だから、ギリギリに帰ってくるとして、往復6週間もかかる事になる。そんな所に行けるわけがない」

「レイがそれに気が付かないかな…?」


 ギルクの言ったことを気が付かない様なレイじゃないと私は思う。

 レイは突然何かしだす事はあっても、それは考え無しではないのだ。色々と考えて、行動してると私は思ってる。


「…気付いてるだろうな。だから、怖いんだ。何しでかすかわからんから……」

「…確かに」

「とりあえず、キャンセルはしておこう。あいつの事だ。こういう手紙を残した以上、何か仕出かすのは間違いない。ひとまず、書いてある通りにやっておこう。何かあったら、全員にフルコース奢らせればいい」

「流石のレイもそこまでお金ないんじゃないかな…?」


 レイはお金持ちだ。10歳で高級料亭の常連客になるぐらい。

 だけど、流石に40人近い人数のフルコースは無理だろう。4千万ルトぐらいかかってしまう。

 そんなの私の家でも、簡単に出せる金額ではない。


「ないなら、作らせるから問題ない。どうにかするだろ」


 ギルクは本気のようだ。

 だけど、確かにレイが本気を出せば、それぐらい集めてしまいそうだ。どうやってあのお金を稼いでるんだろう?

 犯罪はしてないよね?


「…わかったわ。とりあえず、私からクラスのみんなに伝えておけばいいのね?」

「ああ頼む。俺は校長の説得と宿のキャンセルをやってくる」

「はは、それは大変そう……」

「全くだ。これは1迷惑に数えてやる」


 それでフルコースを奢らせると言うギルク。

 二人の間には1迷惑1フルコースという、よくわらかないルールがあるのだ。

 一回迷惑をかけたら、一回フルコースを奢ってチャラという事らしい。

 私もかなり迷惑かけられてる気がするから、奢ってもらおうかな?


 私はそんな事を考えたが、それはやめる事にした。

 レイは時折、私だけフルコースを奢ってくれるのだ。レイと二人きりの食事は、いつも緊張してしまって、味がわからない。

 どうせそうなるから、やめておこうと思ったのだ。


 レイと再会してもう直ぐ6年。

 まだ、私は時折緊張して、おかしな行動をとってしまう。これはもう治らないのかもしれない。

 レイを好きでいる限り…


 〜〜〜〜〜〜


 次の日、昼の座学の時間が空いていた私は、レイに言われた通り、レイの教えていたクラスへとやって来た。

 そして、軽く挨拶をした所で、リスリットが紙の束を手渡してきた。レイからだと言って…


「……これをレイが?」

「はい。レイ先輩が旅に出た次の日、教室に来たら、これとあと黒板に『これを全て覚えればテストは大丈夫だ』って書かれてました」


 私は紙の束に目を落とす。

 そこにはレイの字で書かれた算術の公式とその使い方が書かれていた。

 その内容は2年生から3年生までに習うもの全てだ。

 そして最後に、『お前らには簡単な計算しか教えてない。だが、スキルをカンストした今なら、公式を覚えて使い方を見ただけで全部解けるはずだ』と書かれていた。


 無茶苦茶だ……

 一体どんな授業をしてたのよ……

 普通、少しずつ公式や計算方法を覚えて、だんだんとスキルのレベルを上げていくのに、全く逆じゃないこれは……


「……私はこの公式を教えればいいのかな…?」

「たぶん、そうだと思います」


 ライクッドが私の考えに賛同してくれた。

 そうして、私は初めての授業を始めた。簡単に公式を説明してから、問題を解かせるといった感じでやったのだが、全員一度で正解してしまい、どんどん公式を身に付けていった。


 すごい…

 やっぱりレイは凄い…

 普通こんなにすらすら、初めは解けたりしないのに…

 こんな教え方があるなんて…

 レイはたった3ヶ月でEクラスの子を、ここまで成長させてしまったの…?


 私は胸が熱くなった。

 ドキドキと鼓動が高鳴る。たぶん、顔も赤くなってしまっているだろう。

 だけど、どうしてもその高鳴りは収まってくれなかった。また、レイの事を好きになってしまった。


 この学校に来てから、どんどん私はレイの事が好きになっていった。いつも無茶苦茶だけど、レイといると楽しくて笑顔でいられる。それに、とっても強い。


 レイの戦ってる姿はとってもかっこいい。動きが綺麗なのだ。無駄がない。

 いつも見惚れてしまいそうになる。

 彼にどんどん近づいてる。そう思うと胸が高鳴るのを止められなかった。


 だけど、レイは無茶をし過ぎる。自分が限界を超えても、気付かない。

 何度も死にかけてる。その度に私は泣いた。怖くて怖くてたまらなかった。

 また、失ってしまうの…?

 そう、頭に声が聞こえるの。


 だから、私はレイを守れる様になりたいと思った。

 もう、失わなくて済むように。

 そして、レイの横に立っていられるようにと。


 だから、私はレイより強くなると決めた。もう、あの時みたいに後悔したくないから…



 〜〜〜〜〜〜


「ハアハア、ライトニング!」


 ゴロゴロ‼︎


 雷が空から落ちた。それは、目の前にそびえる山のように大きい巨体へと落ちる。

 目を覆いたくなる様な発光の中、俺は瞬動で一気にその発光に近ずく。瞬動のスピードをそのまま、魔装で強化した腕をまっすぐ巨体へと突き立てた。


「瞬打!」


 瞬動は己のスピードを一時的に10倍程に加速するスキル。だから、そのスピードを利用した拳の一撃は簡単に岩をも粉砕する。

 さらに、魔力により強化された腕と身体能力強化のスキルを合わせたこの技は、A級の魔物ぐらいなら一撃で粉砕する程の威力がある。


 しかし、それを受けてもなお、巨体は粉砕するどころか、吹き飛びもしない。それどころか、揺らぎもしなかった。


「ハアハア、これでもダメか…。なら、魔爆玉!」


 かつて魔人にダメージを与えたこの技ならと、俺は魔力を凝縮し、巨体へと向けて発射した。

 すると、巨体は口を開けて、氷の息を吐いた。

 息と言うには、いささか優し過ぎるそれはブレスだ。


 氷のブレスは地面を瞬時に凍りつかせ、その勢いで粉々に砕いていく。

 魔爆玉をも飲み込み、その破壊をも飲み込んだ。破壊され、凍りつき、また破壊とそれを繰り返し、やがて俺の放った魔爆玉がブレスに競り負けた。


 そうして、迫り来るブレス。

 俺は即座にスキルを発動する。俺の最強防御スキルだ。


「隔離空間!」


 生成した空間が、外の世界で迫り来るブレスを拒絶する。王都の都市をも破壊するその一撃を、断絶した空間は一切中へと通さなかった。

 やがて、ブレスが止まり、開けた視界に映ったのは、氷の世界だった。


 空間の周りは地面から、岩、植物に至るまで全て凍りついていた。

 雪ではない。氷だ。ピカピカと日光を反射するそれは、まるで宝石のようだった。


『…………』


 巨体が何かを呟いた。

 しかし、断絶された空間は音をも遮断する。そのため、俺には何を言ったのかわからなかった。


 俺は空間を解除すると、巨体に話しかける。


「ごめん、この中だと外の音が聞こえないんだ。なんて言ったの?ウェアリーゼ?」


 俺は訳を説明して、山の様な巨体、ウェアリーゼに先程何を言ったのか訊いた。


『見事といったのじゃ。まさか妾のブレスを防ぎきるとは思わなかったぞ』

「ありがと。ウェアリーゼに褒められるとなんだか嬉寒ッ!」


 夏の格好で、半袖だった俺は腕を抱き震えた。

 激しく動いていたため汗をかいていたのだが、周りの気温が一気に下がったせいで、汗が冷え、物凄く寒く感じた。いきなり北極にでも放り出された気分だ。


『ふむ。さすがの其方もこの技の副次効果には勝てなんだか…』

「ちょ、そんな冗談言ってないでどうにかしてよ!このままだと凍死するってッ」


 俺はガチガチと歯を鳴らしながら、ウェアリーゼに助けを求めた。


『やれやれ。妾の背に乗れ。場所を変えよう』

「了解!」


 俺はウェアリーゼの背に飛び乗る。


「冷たい‼︎」

『すまぬな。戦闘後は体温が低下してしまうのだ』


 そう言って、ウェアリーゼは飛び上がる。

 俺はガチガチと震えながら、冷たいウェアリーゼの体にしがみついていた。凍傷になりそうだ。


『この辺りで良かろう』


 そう呟くと、ウェアリーゼは地面にゆっくりと着地する。

 俺は途中で飛び降りて、冷たさから逃げた。

 凍傷になる手前だったのだ。冷た痛い。


『せっかちじゃのう。そんなに冷たいのが苦手か?』

「冷たいどころじゃないよ。痛かったよ…」

『そうか。…人には妾の体温は武器になるのじゃな』

「なるね。たぶん、触ってるだけでその内死ぬね」


 凍死する。間違いなく。

 竜のブレスってやばいな。本物のブレスは環境まで変えてしまうんだな……

 よく親父生きてたよな、これ喰らって。マジで不死だなあの人……


『ふむ。今度からは火竜を呼んでおこうかの』

「それって、今度は火山の中みたいになるんじゃないの?」

『よう、わかったの。その通りじゃ』


 その通りじゃ、じゃないよ。

 そっちの方が危ないよ。溶けるよ、俺の体。


「それはそれで死ぬからね?焼け死ぬからね?」

『ふむ…人とは不便な生き物よのう』


 貴方達がおかしいですとは言わなかった。言っても仕方ない。最強種に生まれなかった俺が悪いのだ。


「なんかいい方法ない?」

『ふむ……妾にはわからん。王に訊いてみたらいいのではないか?』

「竜神?そうだね。まだ、挨拶してなかったし、そうするよ」

『では、妾の背中に乗るがいい』

「いや、もう少ししてからで」


 また背中に乗れと言ってきたウェアリーゼに、俺はもう少し体温が上がってからと即答した。

 凍傷になってしまうからだ。


 さて、ウェアリーゼの体温が上がるのを待つ間、どうして俺がウェアリーゼと戦っていたのかという話をしようか。


 王都を出た俺はシエラ村へと帰った。

 2日程そこで過ごし、皆が忘れているだろう村の建て替え工事を完全に終わらせた。

 俺の魔力量がかなり上がったお陰か、2日でノルマを終わらせる事が出来た。


 その後、俺は竜の谷へとやって来た。ウェアリーゼにお願い事があったのだ。そして、それをウェアリーゼは快く引き受けてくれた。

 ここまで王都を出てから、およそ15日。

 スキルを使って走ったり、飛んできたため、かなり時間が短縮出来たのだ。


 そこで、俺は少しの間、この竜の谷に滞在する事にしたのだ。学院のテストが終わるのは丁度1週間後。

 それまでこちらに居ようと考えたのだ。

 理由は修行のためだ。


 この竜の谷には、ウェアリーゼの様な成竜が腐る程いるのだ。

 もし、魔物のように人を襲うようになれば、大半がSSS指定の化け物クラスだ。そんな成竜が大量にいて、なおかつ友好的なのだ。

 修行をするにはもってこいという訳だ。


 そこで、唯一知り合いだったウェアリーゼに頼み、俺はここで修行させてもらう事にしたのだ。

 初めはかなり手加減してもらっていたのだが、俺がそれなりに戦えるとわかると、それに合わせて加減を変えてくれた。

 まさかブレス撃ってくるとは思わなかったけど……


 ほんと隔離空間で防げてよかった……

 隔離空間で無理だったら、本気でヤバかったぞ、あれは。

 ウェアリーゼの事だから、氷の彫刻となった俺を火竜の火で溶かしてもらいかねない。

 そうなったら、俺は死ぬかもしれないな。俺がウェアリーゼにやられた後の事も決めておこう。

 俺の命のために……


「そろそろどう?あったかくなった?」

『妾にはわからん。触ってみよ』

「じゃあ、失礼して…うん、大丈夫そう」

『ならば、乗るがよい』


 ウェアリーゼの体温が元に戻った事を確認してから、俺は背に飛び乗った。

 そうして、竜神の元へと向かった。


「相変わらずここは綺麗だね」


 竜の谷を空から見下ろしながら、そんな感想を漏らす。


『ふむ。そうじゃな。妾もここは美しいと思う。じゃが、いささか飽きてきたがの』

「贅沢だね〜」

『かもしれぬが、500年もここで生きておれば、そうなってしまうのも、やむを得ぬのじゃ』

「結構長生きだね、ウェアリーゼ」


 女性に年の事を言うと殴られるが、ウェアリーゼは竜だからか、気にしている様子はない。

 自分から言ったしな。


『そうじゃな。他に比べれば長く生きておるのう。妾はそこに至れたからのう』

「?どういう意味?」

『何がじゃ?』


 俺がよくわからず聞き返すと、逆にまた返された。


「いやその、そこに至ったってとこ」

『ふむ。其方は知らぬのじゃな。寿命とは進化する事で伸びていくものなのじゃ』

「へ〜、竜っていいね。俺たちは100ぐらいが限界だろうなぁ」

『何を言っておる。人もじゃぞ。人も竜と同じく、伸びていくのじゃ』

「ええっ⁉︎マジで⁉︎500年も生きれるの⁉︎」

『そこに至れればのう』


 まじかよ…

 不老不死になれるんのか?

 あっけど、老けてる人いるよな?村長とか…

 てことは、寿命伸びるだけなのか?

 老いはするのかな…?

 よくわからないな。竜神に聞こ。


 そんな事を考えている間に、何キロもある谷を越え、竜神のいる洞窟に着いた。

 ウェアリーゼはまた外で待っていると言うので、俺は1人中へと入る。


『よく来た人の子よ』

「こんにちは〜」


 前と同じように出迎えてくれた竜神。

 俺は軽く会釈して挨拶する。


『大きくなったな』

「いや、竜に比べれば全然ですよ」


 竜からすれば蟻がカナブンになった程度の成長だろう。


『それは仕方のない事だ。ところで、以前に話しておった異変はどうなった?其方の他にもう一人同じ事を訪ねて来た者がおった。其奴は湖が汚染されていると言っておったが、我には原因がわからなんだ。まだ、異変は続いておるのか?』


 竜神は進行の結末を聞いてきた。竜神には助けて貰ったのに結末を伝えてなかった事に今気が付いた。


「一応、解決しました。魔人が邪神の結晶を山の源流に置いたのが原因だったみたいです」

『邪神の結晶とな⁉︎まだ、残っておったのか…』

「あ、やっぱり結構やばい奴ですか、それ?」


 竜神の驚きようから、やはり危険な物だったのかと俺は感じた。


『そうだ。かなり危険な物だ。邪神の結晶はいわば邪神そのものなのだ。かつて、邪神はその身と魂をバラバラに砕かれた。そのバラバラになった物が、その結晶なのだ。邪神戦争の後、我ら神が少しずつ世界からそれを探し出し、各地に封印してきた。それがまだ残っておったとは…。もしかすると、魔人側にはまだその結晶を持つ者がおるかもしれんな』


 あれ、邪神の欠片だったのかよ……

 だいぶやばそうなやつじゃん。近づかなくてよかったー。


『して、その結晶は今どこにある?出来れば回収して、封印を施したい』

「あ、今は俺が持ってます」

『何⁉︎危険じゃ!すぐに手放せ!それに触れてはならん!』


 大きな口を開けて、怒鳴るようにいう竜神。

 ばり怖い…

 俺なんかありんこ同然なんだよ?

 そんな大声で怒鳴られたら、ちびりそうになる


「い、いや、俺のスキルで隔離してるんで、触れてはないです…」

『スキルで隔離とな…?それは如何なるものじゃ?』

「えっと、収納空間と言って、別次元の時間の止まった空間に物を収納するスキルです」

『…そうか。それならばよい。其方がそのまま持っておれ』

「ええっ⁉︎俺が持っとくんですか⁉︎封印は⁉︎」


 封印してくれよ!

 こんな物俺持っときたくないよ!


『そのスキルは非常に珍しいものなのだ。我も未だ其方以外に持つ者を見たことはない。そして、そのスキルは我らの封印よりも優れている。幾ら封印したとしても、それを解く方法は何通りもある。そして、邪神の結晶がその封印に関与する事もある。しかし、そのスキルならば問題ない。一度収納してしまえば、其方が取り出さぬ限り、この世界に関与する事は出来ぬ」

「俺が死んでもですか…?」

『その場合は永遠に別次元に隔離される事になる」


 つまり、俺が持っておく方が安全って事か……

 うわぁ、嫌だなぁ。

 こんな物持っときたくないよ……

 捨てたい…

 収納空間の中身捨てるスキル覚えないかなぁ。


『すまぬが、それは其方が管理してほしい。くれぐれも取り出す事がないようにな。出来れば情報も流さぬように気をつけよ。魔人が狙ってくる可能性がある』

「わかりました…」


 俺誰かに邪神の結晶持ってるって言ったけ?

 …………俺の周り全員に言った気がする。帰ったら速攻口止めしよう。魔人が襲ってくるっておどそう。

 冗談じゃないぞ。あんな奴らに狙われるなんて…


『すまぬな。お詫びと言ってはなんだが、また加護をやろう。あれから、成長した其方なら受け入れれるはずだ』

「え?加護くれるんですか⁉︎」

『魔人が襲って来るかもしれぬからな。少しでも助けになれば良いが…』

「ありがとうございます!めっちゃ助かります!」


 やったぜ!

 加護ゲット!

 前に竜神の加護もらってから、耐久の伸びがいいからな。これでまた頑丈になれるぞ。

 ウシシシ、役に立つじゃないか邪神の結晶も。


 そうして俺は竜神の加護Ⅱを手に入れた。

 めっちゃ得した気分だ。


『これで少しは奴らに抵抗出来るだろう。奴らに狙われる事がないといいがな』

「魔人て沢山いるんですか?」


 少し気になったので聞いてみた。


『おるかもしれぬし、おらぬかもしれぬ。正直なところわからぬ。ただし、確実に6人はおる。そ奴らは自らを魔王と名乗っておる。邪神戦争の頃から、邪神側に付いていた者達だ』

「魔王?どっかで聞いた気が…」


 前世の記憶かな?

 いや、もっと最近だった気がするな…

 いつ聞いたんだっけ…?

 確か……そうだ!あいつが言ってたんだ!


「…その魔王なんですけど、その一人が今回の騒動の犯人でしたよ」

『そうか。そうであろうな。邪神の結晶を持ち出すぐらいだ。かなり上の者だとは思っておった』

「一応、親父がそいつを殺したんで、残りは5人ですね」

『ほう、魔王を倒すか。其方の父はかなりの強者だな』

「化け物ですよ」


 親父魔王倒したんだな。もう英雄じゃなくて勇者だろ。うわぁ、似合わねぇ。


『他に何か聞きたい事はあるか?』

「あります。実は今、ここで修行してるんですけど、ブレスあるじゃないですか、竜の。あれ撃たれた後、環境が変わっちゃって、人間の俺にはちょっと辛いんですよ。何かいい方法ないですか?」

『ここで修行するとは、なかなか面白い事をしているな。人間には過ごしにくいだろうに』

「一応、空を走れるんでそこまで苦労はないですよ」

『はっはっは、それは面白い事をする。飛ぶでもなく、走るか。其方は中々奇天烈なようだ。…さて、質問の答えだが、二つ我の知る方法がある。一つは耐性系のスキル。その中に幾つか自然環境に耐性をつけるものがある。』


 やっぱりそういうのもあるのか。

 だけど、一朝一夕には難しそうだな。スキルなんてすぐに覚えれるもんでもないしな。


『もう一つは竜化と呼ばれる方法だ』

「竜化?」

『竜化というのは、我が与えた加護を内で高め、肉体へと怪訝する技の事だ。竜化するとあらゆる耐久が上がる。身体能力も上がるが、我の加護の特性が耐久のため、そちらの方が大幅に上がる』


 それ、やばくね…?

 加護にそんな使い方があったのか。

 絶対こっちだな。是非身につけたい。名前かっこいいし。鱗とか生えんのかな?ブレスもはけたらいいなぁ。

 俺はそんな事を考え、ワクワクしながらやり方を聞く。


『知らぬ』

「え?」

『我が与えた加護をどのようにして高めるかは、我にはわからぬ。何故なら、我は元から竜化しておるからだ。この谷に住む竜達もみな。生まれた時から、そうなのだ。元々この技は人が開発したものなのだ。だから、すまぬが我にはわからぬ』


 確かに、言われてみればそうなんだけど……

 自分でやるしかないって事か。


「せめて何かアドバイス的なものを…」

『ふむ。……そうだな、まずは我の与えた加護を感じとる事から、始めてみればよかろう』

「それはどうやって…?」

『……瞑想…が良いのではなかろうか?目を瞑り、己の精神を見つめ、我の加護を感じとるのがいいと、我は思うぞ』


 瞑想か……

 てことは、滝だな。滝に行かねば…


「わかりました。やってみます。ありがとうございました」

『ふむ。では、気を付けてな。魔人が襲って来ない事を祈っておる』


 そうして、俺は竜神の元を後にした。

 今回は物凄くいい事が聞けた。それに加護もまたもらえたしな。

 く〜、ワクワクしてきた。早く滝に行こう。


 そうして、俺はウェアリーゼにお願いして、滝まで連れて行ってもらうのだった。



章タイトルを『卒業に向けて』から『記録と記憶』に変更しました。


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― 新着の感想 ―
>スキルなんてすぐに覚えれるもんでもないしな。 いや、こいつならしばらく凍えてりゃ覚えられるだろ(笑)。
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