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43.さよなら、レイ先生

「隙あり‼︎」

「残像だ」


 リスリットの気合いの入った突きが、俺の残像を貫いた。

 勢いをつけ過ぎたリスリットは、そのまま前のめりに倒れこむ。


「勢いをつけ過ぎなんだよ。いくら隙を突いても、回避される事を考えて、攻撃しなきゃ」

「うぅ、はい…」


 叱られた犬の様に、耳を曲げるリスリット。

 リスリットは俺に悪い所を指摘されるといつもこうなる。


「それとそこでへばってる奴、いくら後ろにいるつっても、突破される事もあるんだから、多少は近接戦闘も出来る様になれ」

「はぁはぁ、頑張ります…」


 ライクッドは魔法の方はかなり上達して来ている。課題だった威力も少し上がった。

 しかし、近接戦闘がダメだ。

 近付かれると弱い。まぁでも、Aクラスの真ん中ぐらいの動きは出来る様になってきた。

 後はそれを上位まで上げるだけだな。


「まぁ、と言っても、この3ヶ月でよく頑張ったもんだと思うぞ。後2週間だけだが、二人とも十分Aクラスぐらいの実力は身に付けたはずだ」

「えっ?二週間?まだ1ヶ月あるんじゃ?」

「まだ7月に入ったばかりですよ?」


 あ、言ってなかったけか。

 俺後2週間で教師生活終了なんだって。


「悪い悪い、言ってなかったな。俺後2週間で教師やめるというか、学生に戻るから」

「えっ⁉︎そんな⁉︎テストは⁉︎」

「レイさん8月までじゃないんですか⁉︎」


 二人とも悲痛な声を上げて、詰め寄ってきた。


「ちょっと用事があってさ、俺7月後半からいないんだよ。テストはギルクの方がやってくれるらしいから安心しろ」


 俺はギルクにテストの日にちをずらしてくれと言ったのだが、それは出来ないから俺が代わりにやると言ってきた。

 そのため、俺はギルクにテストを任せる事にした。

 別に俺がやる必要もないしな。

 判定基準覚えるのも面倒だし…


「そうなんですか…」


 リスリットは残念そうにうな垂れた。


「レイさん、後期もこうやって教えて貰えませんか?」


 一方、ライクッドはすぐに気持ちを切り替えたのか、一瞬悲しそうな顔をした後、後期も教えてくれないかと頼んできた。

 この三ヶ月毎日頑張った彼らには、他の生徒よりも思うものがある。

 だから、その頼みを引き受けるのはやぶさかではない。


「いいぞ。ただ、後期は俺も本気で武闘大会の準備するから、今ほど時間は取れないかもしれないけどな」

「全然問題ないです。それでも僕はレイさんに教わりたいです」

「なんか照れるな…」


 真っ直ぐに此方を見つめて言ってきたライクッドに俺は照れ笑いした。

 そこまで慕われているのは、嬉しい反面、恥ずかしくもあった。


「レイ先輩!私もお願いします!レイ先輩に教わりたいです!」

「ああ、いいぞ」

「やったあ‼︎」


 尻尾を振って喜びを露わにするリスリット。

 尻尾…尻尾か。いいな。なんかに使えそうだ。


「リスリット、その尻尾って自分で動かせるのか?」

「え?あ、はい。自由に動かせますよ?」

「ふむ。それ、武器にならないか?例えば剣持ったりとか…」

「それはチョット…重たい物は無理ですね…」

「ふーん、そっか。使えたら便利なのにな」


 惜しいな。三刀流とか出来そうなのにな。

 勿体無い。


「まぁ、いいや。とにかく、後2週間弱で俺は教師終わりだから」

「はい、わかりました」

「了解です」


 〜〜


「…というわけで、残り少なくなってきた俺の授業だが、ここで新しい要素を加えたいと思う」

「新しい要素?」

「何ですかそれ?」


 場所は演習場から変わって、俺のクラスの教室だ。朝の剣術の授業が始まったばかりだが、俺はまず、先程リスリット達に言った事を、忘れない内に言っておいた。伝え忘れは良くないからな。


「それはな、スキルツリーだ。みんなスキルのレベルがカンストしたら、新しいスキルが増えるのは知ってるな?」

「はい。レイ先輩に教えてもらったスキルがレベル9になってから、エアロバティックのスキルが増えてました」

「お、いい例を出してきたな。書いて説明しようか」


 俺は身体制御を一番上に書き、空中制御、アクロ、エアロ、立体起動と順に書いていった。


「まずこの系統のスキルで一番簡単に習得出来るのが身体制御だ。下に行く程難しくなる。お前らはこのアクロまで一気に習得しただろ?それはここまではやろうと思えば出来る範囲の動きだったからだ。つまり、スキル習得は、一度そのスキルをなんとかして再現する事が出来れば、習得出来る事もあるってことだ。完全じゃないがな。で、次にレベルをカンストしての習得方法だが、二つ必要になってくる。一つは前段階のスキルをカンストする事。二つ以上必要なスキルもある。二つ目は意識の問題だ。例えば魔力充填というスキル、これは物に魔力溜めて、強化するスキルだ。これは魔力操作をカンストしていれば、習得条件は満たされる。だけど、お前らの中でこのスキルを持ってるのは数人だけのはずだ。それは、物に魔力を貯めるという意識、考えがないからだ。つまり、色んな事を常日頃から考えている事が必要なんだ。ああ出来たらいいなぁとか、こうしたいなぁって考えるだけでいい。すると、スキルがカンストする度、新しいスキルが増えていくんだ。それから、スキルには系統に分けられる。例えば、俺がお前らに教えたのは魔力、魔法、曲芸、目、強化、計算、足系統だな。この名前は適当だから覚えなくていいぞ。全部が全部当てはまるわけじゃないからな。で、さっきの話に戻るわけだが、二つのスキルが習得条件になるスキルがある。俺が持ってる奴だと、芸術家というのがある。これは戦闘には関係ない趣味スキルだ。絵と工作系がくっ付いて出来るスキルだ。とまぁ、こんな具合に違う系統のスキルが必要な場合もある。だから、苦手な分野も少しずつでいいから、極めていって欲しい。…さて、スキルについてはこんなところだが、今日はお前らに新しい系統のスキルを教えようと思う。俺が教える最後のスキルだ。このスキル系統はな、俺のオススメだ。極めれば便利かつ強力なスキルへと変貌する。ただし、他に比べて扱いが難しい。一番簡単なものでさえ、A級冒険者でもまともに使えない。その代わり極めた者にはそれなりの見返りがある。その名も空間系スキルだ。俺の最も得意とする系統だ」


 一気に説明と最後に教えるスキル系統について説明した。

 生徒達はメモを取ったりと、今の話を真剣に聞いていた。


「まぁだけど、人によって得意な系統は全然違ってくるから、各々自分の得意系統を見つけて鍛える事をお勧めする。見つけ方は知らん。自分で考えろ」


 何せ、つい先日自分の得意系統が判明したばっかりだからな。

 見つける方法なんて、俺は知らない。


 そうして、俺は空間のスキルを教え始める。

 1日かけて5人も習得できなかった。思った通りだ。

 あの超天才ディクですら数時間かかったのだ。しかも、シャラ姐なんか2日かかった。

 其れ程、このスキルは習得が難しいのだ。


 だから、俺は残りの2週間、このスキルを教え続けるつもりで、今日から始めたのだ。

 2週間もあれば、なんとか全員習得出来るだろう。

 いや、させてみせる。空間系の才能にかけて。


 このスキル系統は本当にオススメなのだ。

 色んな分野で役に立つ。

 だから是非、習得して欲しいのだ。


 〜〜〜〜


 二週間後。


「これで俺の授業は全部お終いだ。みんな良く頑張った。正直、結構きつかったと思う。だけど、全員始めに会った時より、確実に成長した」


 俺はズラッと生徒達の顔を見渡し、最後の言葉を贈り始める。


「初日、俺は言った。俺は優秀なんかじゃないと。それが今なら少しは分かるんじゃないか?…俺は物心ついた時から、こうやって自分を高めてきた」


 つまり、生後0日目からだ。

 生まれた瞬間から、物心があった。


「何故そんな事をしたかと言うと、途中まではこの世界で生きていくためだった。5歳ぐらいの時からは、後悔したくないと思って、頑張った。それは俺に夢があったからだ。その為に、色々やった。お前らには夢があるか?それを追い求めているか?夢を追い続ければ、辛い事だって乗り越えられる。だから、夢を持て。そして、それを諦めず、追い続けろ。それが最後の宿題だ」


 力強く頷く者、俺にお礼を言う者、若干泣きそうになっているライクッド、号泣し始めるリスリット。

 反応は様々だが、俺が伝えたかった事はこれなんだ。


 初日、生徒達の顔は暗かった。俺はそれを他と比べて劣っているという意識からくる、劣等感だと思っていた。

 だけど、リスリットやライクッドを見ていて、それは間違いだと気が付いた。


 この二人は、俺と最も長く一緒にいた生徒だ。泣き言も言わず、ずっと頑張ってきていた。

 けど、そんな事、劣等感から出来るものではない。

 2人には夢があったからだ。

 それは冒険者体験の日、目を輝かせていた2人を見ていればわかった。


 この子達は夢を諦めていたから、暗い顔をしていたのだと。

 そして、俺がそれに救いの手を差し伸べ、必死に掴みかかってきたのだと。

 だけど、今日で俺の手は解かれる。明日からは一人で、その夢を追い続けないといけない。

 だから、伝えたかった。

 諦めなければ、どんな事でも出来ると。


 ここは、地球よりも遥かに平等だ。

 才能の大きさなんてほとんどない。やるかやらないかの世界だ。

 才能があるディクも、シャルステナも、そして俺も、他の子よりも努力し続けたからこそ、今がある。


 地球でもそうだ。努力すれば、それなりの見返りがあった。だけど、越えられない壁も沢山あった。

 しかし、この世界では、スキルがそれを手助けしてくれる。一緒に壁を壊してくれる。

 だから、この世界は酷く平等だと俺は思うんだ。


「さて、明日からの授業だが、俺はいないんで、代わりを用意した。紹介しよう。リスリットとライクッドだ」

「えぇぇ⁉︎私ですか⁉︎」

「なんで僕も…」


 驚くリスリットと、肩を落とすライクッド。

 反応は違うが、どちらも嫌そうではある。


「お前ら2人は俺の特別稽古受けてたんだから、それなりにやれるだろ?」

「そりゃあ、他に比べれば…」

「だけど、レイさんみたいには無理ですよ」

「誰も俺みたいにやれなんて、言ってないだろ?そこがダメとか、こうしたらいいとか教えてたら、いいんだよ」


 2人は強くはなったが、俺からすればまだまだなのだ。だから、誰も俺みたいに、25体の人形出せとか、オリジナル魔法教えろとか言ってない。

 ちょっとした指導をしてくれたらいいんだ。


「それとシャルとかに、授業の合間見てやってくれるように言っとくから、それの補佐的な感じでやってくれ」

「それ、私達いらないんじゃ…?」

「いや、リスリット、僕たちもいるよ。シャルステナさん達も授業あるんだから、ずっとはいられないよ」

「あ、なるほど」

「まぁ、そういう事だな。あ、一匹竜が来るかもしれないが、ビビんなよ?俺の子で相棒だから、怖がる必要ないからな」

「それって、噂のハクって竜ですか?」

「ああ、最近どっかに遊びに行ってばっかりで、お前らもあった事なかったよな。たぶん、他の誰かと一緒に来るから、仲良くしてやってくれ」


 ハクはずっと俺たちといたため、俺とシャルステナ以外のメンバーも会話出来るようになった。

 全員いつの間にか、竜語をマスターしてしまったようだ。


「まぁ、適当にやってくれ。ちゃんとしたのは、ギルクかその辺に任せときゃいいから。よし、じゃあ最後に俺からみんなに頑張ったご褒美をあげよう」

「ご褒美‼︎やったあ‼︎」

「剣、とかかな?」


 クラスの全員が俺からのご褒美と聞いて、テンションが上がってる。

 俺が始めの授業でプレゼントした剣、あれは実はそこそこ良い値する。学生が持つような気軽に買える物ではない。

 その事をみんな知っていて、余計に期待しているみたいだ。そして、俺はその期待を裏切らない。


「残念ながら、形に残るものじゃない。文化祭の景品、超高級料亭フルコースメニューだ」

「まじっすか⁉︎レイさん⁉︎」

「よだれが止まらない…」

「うわっ!拭きなよッ、リスリット!」


 ヨダレがダラダラと溢れ出るリスリットに、ライクッドがハンカチを手渡す。

 逆だろと若干思ったが、いつもの事なので言わなかった。


「じゃあ、予約してるから、急いで行くぞ?後5分しかない」

「だ、ダッシュ!みんな急いで!」

「私のフルコースぅぅう‼︎」


 ライクッドがみんなに呼び掛ける中、リスリットが猛ダッシュで駆け出して行った。

 その後ろを続々と生徒達が追いかけて行く。

 俺はみんなの成長を見届けながら、黒板にチョークでササッと言葉を書いてから、教室の窓を開け、軽く空に飛び上がった。


 〜〜


「はやっ!」

「お前らが遅いんだ」


 空を瞬動を使って、駆け抜け先回りした俺は、その後直ぐにきたリスリットに、ドン引きされた。

 そして、続々と後続が次々にやってくる。


「よし、揃ったな。ったく、ギリギリじゃねぇかよ」

「レイ先輩が5分前になんか言うからじゃないですか…」

「俺は30秒あったら十分なんだよ」

「それはレイさんだけですって…」


 俺は軽く文句を言いながら、料亭の中へと入っていった。

 その後ろを生徒達が続々と続く。


「これはこれは、レイ様。本日もようこそいらっしゃいました」


 もうすっかり常連と化した俺を、店主が笑顔で出迎えてくれる。


「今日は大広間を貸し切りにしてございます。どうぞごゆるりとお食事をお楽しみください」


 店主は頭を下げ、俺たちを広間へ案内すると、自分は下がっていった。

 すると、横の席に座ったリスリットが、俺の手の裾をクイクイと引いてきた。


「ん?」

「あの、レイ先輩、私達流されて来ちゃいましたけど…お金大丈夫なんですか…?」


 他に聞こえないよな、小さな声量で囁く言うように言った。


「もう払ってるから問題ない」

「あ、そうなんですか。それなら問題ないですね。…じゃなくてッ、どうしてそんなにお金持ってるですよ⁉︎レイさんって貴族か何かなんですか…⁉︎」


 さっきまでの内緒話は何だったんだといった具合に、大きな声を出したリスリット。

 そして、その部分だけを聞いたライクッドが冷静に突っ込む。


「レイさんは英雄の息子だから、貴族じゃないでしょ」

「あ、そういえば…」


 リスリットは前に聞いた事を思い出したようだ。しかし、その話を知らない周りの生徒達は、唖然とした表情を浮かべる。


「なるほど、レイ先輩は英雄の息子だから、金をいっぱいもらってるんですね。羨ましい〜。一体、月何ルトもらってるんです?」


 唖然とする他の生徒を完スルーしたリスリットが、そう訊いてきた。

 羨ましいと言われても、大して貰ってないんだがな。

 たぶん、普通ぐらいだと思う。

 ほとんど自分で稼いだ金なんだがな。


 スルーされた生徒達はライクッドからの説明を受け、えぇー!って言ってる。

 俺は驚く生徒の声を無視し、リスリットの問いに答えた。


「月5万だ」

「5万?」

「5万だ。この金は自分で稼いだんだ」

「教師ってそんなに儲かるんですか…?」

「いや、俺が冒険者なの知ってるだろ?」


 リスリットの勘違いを指摘し、直す。

 教師はそんなに儲からねぇよ。月50万だ。


「冒険者ってそんなに儲かるんですね〜」

「残念ながら、普通はこんな店には来れないな。Aランクにでもならないとな。俺は大量の追加報酬があったから、金があるだけだ」

「残念……私もお金持ちになれるかと思ったのに…」

「Aランク以上になったら、金持ちにはなれるさ」


 シャラ姐も結構持ってっからな。

 たぶん、俺と同じくらいあるんじゃないかな?

 バジルは絶対持ってないな。

 飲んで、金が無くなったら働いて、また飲んでだからな。金を持ってるわけがない。


「ホントですか⁉︎やったあ!…あ、そういえば、レイ先輩がさっき言ってた追加報酬って、何ですか?」

「冒険者の収入は、クエストとその追加報酬に分けられるんだ。クエストは依頼の達成報酬だな。追加報酬は魔石や素材を売って貰える金だ」


 俺は追加報酬が異常に多いからな。去年の進行の時とかな。


「へぇ〜。じゃあ、魔物いっぱい狩れば、物凄く沢山お金が貰えるんですね?私もやろっかな」

「ところがどっこい、雑魚ではたかが知れてんるんだな、これが。100匹狩って、いっても50万ってとこだ」

「十分じゃないですかね、それは…?」

「…………」


 言われてみればそうだ。

 俺からしたら少ないと感じるのは、金銭感覚がバグってきてしまっている証拠だろうか?

 お金を持ち過ぎるのも危険だな。そのうち金が底をついてそうだ。


「…まぁ、そうだな。…だがな、A級とかになると、最低でも魔石一個50万になるんだぞ?」

「てことは…こないだ行った依頼の報酬って…」

「全部合わせて、5800万だ」

「5800万⁉︎」


 あの20体合体した牛の魔石が物凄かったんだ。一個で3千万した。

 SS級の値段だ。


「な?Aランク目指した方がいいだろ?」

「はい…というか、分け前くださいよ」

「お前らの倒した牛50万ちょっとしにかならなかったぞ?いらねぇだろ。今日の分にもならないぞ」


 1人25万しかない。それに今日のフルコースは100万だ。十分元取れてるだろ。


「レイ先輩と違って、私達には大金なんですぅ。欲しいんですぅ」

「可愛くないからやらん」

「酷い!こんなプリチーな私を捕まえて、可愛くないなんて酷いですよ‼︎」


 何がすぅ、だ。可愛くないんだよ。シャルステナがやったらきっと可愛いけどな。


「レイさん」

「うん?」

「レイさんって何か弱点ないんですか?」


 真顔でライクッドに訊かれた。俺は苦笑いするしかなかった。

 戦闘面で異常、財力も完璧、指導力もある、そしてイケメンフェイス。自分でも弱点がわからない。

 あえて言うならば、治癒魔法が苦手なぐらいか?


「……治癒魔法が苦手だ」

「あるんだ、弱点…けど、それって弱点なんですか…?」

「知らん。シャルステナが治癒魔法得意だから、あんまり弱点にはなってないな。今の所」


 卒業したら弱点になるかもしれないな。

 今から潰しとこうかな?

 けど、全然上手くいかないんだよなぁ。

 なんでだろ?


「失礼します。前菜をお持ちしました」


 俺の弱点について話し合っていると、店主と店員がフルコースの一品目を持ってやって来た。

 俺たちは話をやめ、料理を食べ始める。

 相変わらず、美味い。

 みんな頰がタルンタルンになってる。いや、ライクッドだけなってないな。リスリットの世話に焼かれてる。

 リスリットが垂らしたヨダレを拭いてあげてる。あいつは母親か?

 そんな風になかなかライクッドだけは、落ち着いて食べる事が出来ず、最終的にリスリットに横取りされていた。


 俺はリスリットの頭を叩いた。

 ライクッドは苦笑いするだけで、怒ったりはしなかった。優しい奴だなこいつは。

 俺なら宇宙の彼方まで放り投げるだろうに。

 俺はさっき言っていた報酬をライクッドにだけ、こっそりあげておいた。これで横取りされたメインでも食べろと言って。可哀想だからな。


「それじゃあ、みんなテスト頑張れよ」


 そう言って、俺は1人店を出ようとした。


「え、レイ先輩、先帰っちゃうんですか…?」

「帰るというか、出掛ける。しばらく戻んないから、シャル達によろしく言っといてくれ。一応置き手紙は残したから大丈夫だろうけど…」

「もう夜ですよ?明日からの方がいいんじゃないですか?」

「今日は実家に顔出すつもりなんだよ」


 通り道だし、山を越えるだけだから、今から出れば、親父達が寝る前には着くだろう。


「あ、そうなんですか。わかりました。シャル先輩達にはよろしくって言っときます」

「ライクッド、お前が言っといてくれ」

「はい、わかりました」


 リスリットに任せるのは不安になったので、ライクッドに任せる事にした。


「えぇ⁉︎何で私じゃダメなんですか⁉︎」


 俺はその質問には答えず、店を出てシエラ村に向けて出発した。


 そうして、俺の教師生活は終わったのだった。


今週は土曜日更新無理かも……

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