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42.爆煙の中でのお茶会

「逃げろーー‼︎オメェラ‼︎」


 バジルの叫びが後方から聞こえ、振り向くと、必死な形相でおっさんが全力疾走して来ていた。

 やっぱり逃げてきたか。

 なるほどな、それでこの二人ビビってたのか。後ろから20体ぐらい属牛が追って来てたら、二人にとっちゃ怖いよな。


 そう思い、視線をバジルの後方に向けると、そこには20体の属牛はいなかった。

 代わりに属牛の10倍程の大きさの、頭が馬鹿みたいに沢山付いた牛が、迫ってきていた。


「はぁぁぁあ⁉︎」


 一体何があったんだよ⁉︎

 何がどうなって、そんな奴に追われてるんだお前は⁉︎


「逃げろ‼︎なんか知らんが合体しやがった‼︎」

「うわぁ、あれはちょっと不味いわね…。あれだけの数が合体するなんて初めて聞いたわ………バジル〜!しばらくそいつ引きつけといて〜!」

「りょ、了解だぁ‼︎」

「ねえ、シャラ姐。あいつらの進化って合体なの?」


 シャラ姐がこの事態が起こった原因を知っていそうな口ぶりだったので、訊いてみた。


「そうよ。属牛達は追い詰められたりすると、合体する習性があるのよ」

「スライムかよ…」


 某ゲームに出てくる奴みたいじゃないか。

 モリモリっと出てきて、タラランって合体する奴。


「れ、レイ先輩!そんな悠長に話してる場合じゃないですよ⁉︎早く逃げましょ‼︎」

「無理だろ。歩幅が違い過ぎる」


 物凄く慌てているリスリット。ライクッドも気が気でなさそうな様子だ。

 だけど、逃げるのは無理だな。こんな奴放置出来ない。

 速いし、しかも。

 バジルの全力ダッシュに付いて来てるんだぞ?

 お前ら二人なんかすぐに追いつかれるぞ。


「どうしましょうか……かなり厄介ね」

「一匹ずつ頭切り落とすしかないんじゃないかな?」

「そうね。それしかないわね。…けど、私じゃあの高さは無理ね。攻撃がきたら避けられないわ。もちろんバジルも」


 確かにな。俺なら空でも自由自在に動けるけど、シャラ姐達にはきついな。


「じゃあ、俺がやるから、二人は足でも切り落としてよ」

「了解よ。バジル〜!逃げるのは無理そうだから、戦うわよ〜!足を狙って〜!」

「ハァハァ、了解だぁ‼︎」


 バジルが引き連れて逃げ回っている間に、作戦を考えてそれを実行する。

 慌てている後輩二人と違い、バジルとシャラ姐は流石は歴戦の冒険者といったところか。こんな緊急事態でも、慌てず冷静だ。俺も若干慌ててしまった。まだまだだな、俺も。


「お前らはここで待機してろよ?」

「ほ、本当にやるんですか…?」

「やらなきゃ死ぬからな」


 お前らが。

 俺たちはたぶん頑張れば逃げれる。


「ぼ、僕たちも手伝った方が…」

「やめとけ。この場じゃ足手まといにしかならない」


 俺はストレートに足手まといだと告げる。

 ちょっと悔しそうな顔をする二人。だけど、そんな事を思う必要はない。俺も3年の頃なら、足手まといにしかならなかったんだから。


「悔しいなら、帰ってから自分を鍛えろ。いつか取り返しのつかない事態が起こる前に、力が足りなかったと、後悔したりする事がないように強くなれ」

「「はい‼︎」」


 二人は強く返事をした。

 思いの外今回の見学はこの二人にとって、得るものが大きかったかもしれないな。


「まぁ、今回は俺たちがいるから、大丈夫さ。あんな牛擬き魔人に比べれば、どうってことない」


 そう言って、俺は空へと飛び上がった。

 スキルを使い、20面牛の頭の高さまで上がると、瞬動と固定空間を使って、一瞬で頭の一つへと迫った。

 そして、頭を切り落とす。

 その瞬間、俺に向けてあらゆる方向から、ブレスが放たれる。


「チッ」


 俺は舌打ちしながら、隔離空間の中に逃げ込む。

 反応が早い。

 一々、ブレスを回避するために隔離空間使ってたら、魔力が持たないぞ。

 さて、どうするか…

 俺は空間外で起こる爆発を見ながら、思案する。


 こいつらの体はキングオーガほど硬くない。だけど、属性耐性が物凄く高い。

 つまり、魔法なしの接近戦、もしくは魔爆か…

 けど、この大きさを破壊する魔力はもう残ってないぞ。

 てことは、接近戦あるのみなんだが…どうしたものか…


 限界突破でやるか?

 今の魔力量だと2分てとこだな。ちょっと厳しいか…

 仕方ない。シャラ姐達が足を切り倒してくれる事を願って、時間を稼ぐか…


 俺は方針を決めて、空間を解除した。

 そして、空を駆け巡る。

 それを追うように、次々と属性の違うブレスが放たれる。


「くそっ、速えな!反応速度上がり過ぎだろ」


 俺は文句を言いながらも、回避をし続ける。

 魔力はほとんど使っていない。固定と反転の空間のみで避け続ける。

 もう空を駆けるのも慣れたもので、風魔法の補助も必要ない。この二つのスキルだけで、十分に動ける。


 そうして空を駆けながら、シャラ姐とバジルの動きを見る。

 二人とも自在に動く水の爪に邪魔されて、なかなか近寄れないようだ。チラッと視線を牛に向けると、頭が二つだけ下を見ていた。


「…なるほどな」


 俺は逃げ回るのをやめ、牛へと突っ込んだ。

 狙うは下を見つめている二つの頭、ブレスを予見眼を使って躱し、頭の一つに接近する。そして、首から切り落とし、瞬動で移動してもう一つの頭も切り落とした。

 そして隔離空間の中へと逃げ込む。


 これでバジル達の邪魔をする爪がなくなったはずだ。

 次はどいつが邪魔するかな?

 俺はブレスの爆発が晴れるのをジッと待つ。


 瞬動が連続発動出来れば楽なんだがな。インターバルが2分ぐらいいるからな。

 それがなければ瞬動の連続移動で終わらせれるのに…


 爆発が収まってきたので、煙が晴れないうちに俺は爆煙の中から、外へと逃げ出す。再び、空を駆けながら、バジル達の様子を見る。


 今度はバジルは雷、シャラ姐は火に邪魔されていた。

 前足に目を向けて見れば、両足共に切り傷が入っていたが、切り落とすとには至っていないようだった。

 後二回程繰り返さないと無理そうだな。


 そして、俺は同じ事を二度繰り返した。

 二回目が終わってすぐ後、牛が前のめり倒れた。

 俺は好機とばかりに、4つの首を落下するまでに切り落とす。


 ドォォォン!


 大きな音を立てて崩れた牛。

 もうその頭の数は初めの半分程しか残っていない。


 モォォォ‼︎


 全ての頭が雄叫びをあげる。


「モォモォうるせぇんだよ!」


 隙を晒した頭に俺は容赦せずに斬りかかった。

 これだけ近くにいる時に、雄叫びをあげるとは馬鹿な奴らだ。

 斬り落としてくださいと言っているようなもんだ。

 俺はまた一つ首を斬り落とし、バジル達2人も一つずつ斬り落とした。


「二人とも!」


 俺は予見眼でブレスの発動を感知し、2人を呼び寄せた。

 そして、隔離空間を発動する。


「おい、なんだこれは…」

「透明な壁があるみたいに見えるわね…」

「どう?世界から断絶された感想は?」


 隔離空間の外では物凄い爆発が起こっているのだが、中にいる俺たちには関係ない。

 二人は呆れたように空間の外を見ていた。


「魔人を止めただけはあるな。何が起こってるのかさっぱりわからん」

「魔人の時は持ってなかったんだけどね。空間系のスキルで、そこから向こうと、こっちで空間を断絶してるんだ」

「ほぉ、俺も空間系もってるが、こんなやつはねぇな。ほとんど使ってなかったが、やってみる気になってきたぜ」


 意外だな。バジルが空間系のスキル持ってるなんて。結構レアなんだけどな、空間系って。


「残念だわ。私は空間系は無理だったから」

「教えようか?一番初歩の奴。たぶん、シャラ姐ならすぐ習得できるよ」

「え、いいの?ありがとう、レイちゃん。なかなか教えてくれる人いないのよね〜」


 教えてくれる人?

 バジルじゃダメなのか?持ってるんだろ?


「バジルに教えてもらえばよかったのに」

「ダメよ、この人は」

「俺はほとんど使ってねぇって言っただろ?まだ空間で止まってんだ」

「あんな便利スキル育てない意味がわからん」


 空間系って言うから違うの持ってるかと思ったら、同じかよ。しかも、あの神スキル育てないって、アホだろ。


「あん?どこが便利なんだよ。後ろで何やってるか、わかる程度じゃねぇか」

「ふっ」

「おいこら、なんだその馬鹿にした笑いは」


 馬鹿にしたくもなるさ。そんなの生まれた時からできるわ。


「馬鹿にしたんだよ。俺が空間使ったら、王都の半分はわかるもんね」

「はぁあ⁉︎そんなわけあるかよ⁉︎俺なんか、この訳の分からん空間の中しか、わかんねぇんだぞッ」

「修行が足りんよ、修行が。空間は極めれば極めるほど、範囲が広がってくんだよ」

「レイちゃん、帰ったらすぐ教えてね。私、もの凄く欲しくなってきたわ」


 シャラ姐は俺の手を取って、お願いしてきた。


「おい、俺もその修行のやり方教えてくれ」

「えー、どうしよっかな」

「シャラには教えて、俺には教えないはねぇだろ」

「いや、ありだろ」

「なしだろ」

「あり」

「なしだ」

「レイちゃん、お願い教えてあげて?今日の取り分、私達の分もあげるから」


 シャラ姐にお願いされたら仕方ないな。

 今日の取り分くれるって言うし、バジルにも教えてやるか。


「仕方なあなぁ。バジルにも嫌々、仕方なく、めちゃくちゃ面倒だけど、教えてあげるよ」

「……素直に礼が言えねぇ」

「言えよ」


 ちゃんと、ありがとうございますは言わないといけないと、親御さんに教わらなかったのか?

 全く、母さんに再教育してもらわないと…


「…それでこの空間からはいつ出れんだ?」

「さあ?外のやつが悪あがきに、ずっとブレス撃ってるから、そいつに聞いてくれ」

「レイちゃん効果時間は後どれくらい?」

「そうだねぇ、明日の朝ぐらいまでかな?」

「………そう」


 シャラ姐は唖然として、そう一言言っただけだった。

 いや、シャラ姐の気持ちはわかるよ。

 ただ、空間の維持ってそんなに魔力消費しないんだよね。

 空間を作ると3000ぐらい消費するんだけど、維持する分には1分で20ぐらいしか消費しないんだよ。

 全く、便利過ぎるぜ、仙魂スキル。


「まぁ、気長に待とうよ。そのうちあいつの魔力も尽きるだろうし…」

「そうね。そうしましょうか」

「ったく、面倒な足掻きしやがって」


 そう言って、バジルは腰を下ろした。


「全くだ」

「ほんとよね」


 俺とシャラ姐も腰を下ろす。


「便利道具、なんかねぇのか?この状況を打開できる策は」


 こいつまた殴られないのか?

 外に放りだすぞ、お前だけ。


「次それで呼んだら、金だけ貰って教えないから。…俺だけなら、この空間解除しても、たぶん怪我とかしないんだけど、バジル達は怪我すると思うよ」

「まだなんか隠してんのかよ。この爆発に飲み込まれて怪我しないって、お前のスキル強力過ぎねぇか?」

「魔人と戦った辺りから、手に入るスキルの質が高くなったんだよ。仙魂スキルってわかる?」


 仙魂スキルが手に入り出してから、一気に強くなった気がする。

 一つ一つでも強力なのにそれが一気に手に入ったからだろうな。


「ああ、何個か持ってる」

「私も」

「そう、そのスキル系列ってかなり強力じゃん?それが手に入り出したんだよ」


 やっぱりA級ともなると持ってるよな。

 何か一つでもないとA級を狩り続けるなんてできないよな。

 しかもこの二人はSランクになれる器だし。


「なるほどな。これもそのスキルか。そこまで空間系極めたのかお前」

「まぁね。小さい、というより、生まれた時から持ってたからさ、なんか空間系は特に力入れて育ててるんだ」

「生まれた時から持ってんのか。ラッキーだな」

「うん。便利だから、持ってて良かったよ」


 ほんとこいつは便利過ぎる。

 どのスキルも色んな使い方ができて、戦闘の幅が広がる。


「ちげーよ。そうじゃねぇ。生まれた時から持ってるって事は、お前に空間系の才能があるって事なんだよ。俺は才能があってラッキーだなって言ったんだ」

「えっ…」


 俺はバジルの言葉に大きな衝撃を受けた。


 今まで俺には何も才能がないと思っていた。

 ただ、色んな事に手を出して、足りない部分を補い合ってるだけだと。


 俺に空間系の才能が…

 俺は心から震えた。それは歓喜だ。これ程嬉しい事は今までなかった。

 ずっと、ディクの身体能力の才能に嫉妬し、シャルステナの魔法の才を羨ましく思ってきた。

 俺も才能が欲しいと。


 あの二人は本気でそれを極めればどこまでもいける。

 だけど、俺はいけない。

 色んなものに手を出して、すがりつくしかないと思っていた。

 だけど、俺も極める事が出来るんだ。

 それが嬉しかった。


「なんて顔してんだよ。まさか、気付いてなかったのか?普通気付くだろ。自分が何が得意かぐらい」

「……気が付かなかったな。大概何でも出来たから」

「嫌味かテメェ」


 確かに嫌味っぽかったな。


「嫌味じゃないよ。俺は何にも才能ないから、全部やらなきゃと必死でやってきたから、大概の事は出来るようになったって話しさ」

「レイちゃんが才能ない…?どこが?」

「才能というか、飛び抜けてるとこがないと思ってたんだよ。友達に身体能力に才能がある子と、魔法の才能がある子がいたからさ。二人を見てたら、俺はどこも平均的だなと」


 なんか何にでも手を出していた弊害がきたって感じだな。

 全部やってたせいで、この年まで自分の才能に気が付かないとは…


「なるほどね。何でも出来るからこそ、逆に一つの事が物凄く出来る子に憧れたんだね」

「憧れか……そうかもしれないね」


 俺はあの二人に憧れてたのか…

 何度も羨ましいとは思った事があったし、多分そうだろうな。


「……よし、空間系に一層力入れて頑張ろ」


 せっかく才能がある事がわかったんだ。今からでも、遅くない。極めて行こう。


「ところでよ、いったい何時までこうしてるんだよ。なんかねぇのか?」

「………ないね。強いて言うなら、こういう物があるくらいかな」


 俺は収納空間からジュースとお菓子を取り出した。


「お前やっぱり便利うぐぅうう」

「それ以上はダメ!教えてもらえなくなるわよ⁉︎」

「危なかったなバジル。もうちょっとでお前だけ外に放り出すとこだった」


 バジルがいらん事を口走ろうとしたのを、シャラ姐が素晴らしい反応速度を見せて止めた。

 シャラ姐に感謝するんだなバジル。

 もう少しで死ぬとこだったぞ。


 俺はジュースを入れようとして、コップを出していなかった事に気が付き、再び収納空間を使いコップを出した。


 収納空間は時間が止まっているので、冷蔵庫の代わりに丁度いい。そのためこの中には大量に食材が入っている。しかも、空間探索のスキルで収納空間の中を検索して、目的の物だけを取り出す事が出来るようになったため、沢山入れても問題がない。

 こんな神スキル系統に才能があるなんて、俺は幸せだ。

 どんどん育てていこう。


「はいよ、二人とも。言っとくけど、酒はないからな?」


 俺はコップにジュースを注いで、二人に渡した。

 ちゃんとバジルの方向を向いて、酒はないと言いながら。


「減点だ、レイ」

「しばくぞ、お前。俺が酒買えるわけないだろ」

「言われてみればそうだな。どうもお前と話してると、歳の事を忘れちまう」


 まぁそれは仕方ない。

 だって精神年齢二人と大して変わんないもん。

 タメかもしれない。


「仕方ねえ。俺が今度買ってやるから、入れとけ」

「なんでだよ。もうねぇよ。こんな事」

「何があるかわかんねぇだろ?そん時に酒がねぇとヤベェじゃねぇか」


 そんな状況で俺は酒なんか欲しくない。

 ノンアルでいい。


「それはお前だけだ。自分でこのスキル取ればいいだろ?」

「何年かかんだよ。まぁ、いいじねぇか。もう後2、3年したら、飲めるようになんだからよ」

「はぁ、わかったよ。入れときゃいいんだろ?」


 別に空間は余ってるし、バジルの言う通り、いつか勝手に飲むからいいかと、俺は妥協した。


「私もワイン入れといて貰っていい?」

「シャラ姐もかよ!」

「ごめんね。ついでに私のもお願い、レイちゃん」


 今わかった。

 この二人の共通点は酒だ。

 シャラ姐は呑んだくれじゃないが、酒が大好きなんだ。特にワイン。

 物凄く飲む。そこだけみればこの二人、案外お似合いなのかもしれない。


「もういいよ。他はアテも入れてく?」

「腐っちまうだろ?」

「ところがどっこい、この収納空間の中は時間が停止しているので、食べ物は何時までも新鮮なのです」

「お、まじか。さすがは便利じゃなくて、レイだ。入れといてくれ」

「お前まだ懲りないのか?」


 まだ懲りていないのか、また口走りそうになるバジル。

 ほんと一回外に出してやろうかこいつ。

 ていうか、まだブレスはいてんのかよ。しつこい奴だな。


「お、この菓子うめぇな」

「本当にね。こんな美味しいの久しぶり食べたわ」

「うちの去年の文化祭のやつだからね」

「なるほどな。噂には聞いてたが、ここまでのレベルなのか」

「これは今年は行かないといけないわね」


 二人はうちの学校の文化祭には来たことがないようだ。

 まぁ、冒険者がわざわざ来るような事でもないしな。


「そういえば、噂でお前の作った城がヤベェって聞いたぞ」

「いつの話だよ、それ。1年の時の話だぞ?」

「いやな、昔の知り合いがお前のとこの教師やっててな、そいつが最近妊娠したんで、祝いに行ったんだがそん時に聞いたんだ」


 めっちゃ心当たりがある。

 絶対リナリー先生だ。最近妊娠した王立学院の先生。しかも元冒険者。120パーセント、リナリー先生だ。


「その人、俺の担任だよ。今は元か」

「お、まじか。世間はせめぇな」

「だな」


 こんな所で知り合いが繋がってくるとはな。

 予想外だった。

 リナリー先生元気かな?

 出産はいつなんだろ?


「リナリーが担任てことは、お前があの創設史上最問題児か?」

「らしいね」

「はっはっは、お前らしいぜ。あいつ言ってたぞ、優秀なのか、そうでないのかわからない奴がいるって」

「あー、それはたぶん授業で手抜きしてからだな」

「手抜きはダメよ、レイちゃん。ちゃんとやらないと」


 シャラ姐が軽く叱ってきた。

 いや、まぁそうなんだけど、やり過ぎというのがあるからな。手抜きしないといけなかったんだよ。


「シャラ姐の言う事ももっともなんだけどさ、俺が本気で剣術の授業やったりしてたら、どうなると思う?」

「それは……ダメね。手を抜きない。可哀想だわ」

「そうなんだ。だから、手抜きしてたんだよ」

「お前色々考えてんだな」

「考えなしなのはお前と親父だけだよ」


 普通の人間は色々と考えて行動をするんだ。

 しないのは君たちぐらいのものさ。


「お前の親父といえば、お前英雄のガキだったんだな。そりゃこんな異常なガキになるわけだ」

「それ、ギルマスにも言われたよ。他にもみんな血がどうたらって」

「レイちゃんはレディクさん似よね。無茶苦茶なところがそっくり」

「俺は親父ほど無茶苦茶してる覚えはないんだけど…?」


 あの考えなしの脳筋と一緒にされるのは困る。名誉毀損だ。俺はちゃんと考えて行動してる。


「してるわよ。あと頭が良いのはミュラさん似よね」

「そこまで頭は良くないんだけどなぁ」


 俺が頭良いように見えるのは前世の記憶があるのと、思考加速のお陰だろう。

 特別頭が良いわけじゃないと思う。


「頭良いわよ。一人で断崖山の異常の謎を解いたんでしょ?」

「いや、あれは竜神とかウランティーっていう精霊のお陰だよ。俺はほとんど数の調査ぐらいしかしてないよ」


 俺が考えたのって、加護が水に含まれてるって事ぐらいのもんだ。

 後は教えてもらっただけ。


「レイちゃんの話を聞いてると、私の中の常識が崩れていく感じがするわ」

「こいつを常識で考えるのはやめとけ。こんなガキ他にいねぇよ」

「それがもう一人いるのよ。バジルは知らないだろうけど…」

「まじかよ。こんな奴他にもいんのかよ…」


 シャラ姐が言ってるのはディクの事だろう。前にシャラ姐に話した記憶がある。


「ちなみにもう一人いるよ。同じ学校に」

「あれか?俺らが間違ってんのか?」

「いや、俺らが異常なだけだね。その子は学院創設史上最優秀って言われてるくらいだから」

「てことは、お前よりやばい奴がいるのか…」

「レイちゃんよりって…信じられない」


 俺の言い方が悪かったのか、少し間違った認識を与えてしまったようだ。


「一応まだ俺の方が強いんだけどね。これからどうなるかはわかんないよ。最近、本気で修行し始めたから。もう一人の方はわかんないね。けど、今の俺と同等以上なのは間違いないね」

「お前ら全員ガキやめちまえ」

「やめれるわけないだろ。お、ブレスが止まったぞ」


 三人で雑談し始めてから30分以上。

 やっとブレスがやんだ。もうほとんど魔力も残ってないだろ。

 後は首切っておしまいだな。


「やっとか。これ食っちまわないとな」

「じゃあ、私も最後にこれもらおうかしら」


 二人はお菓子が余程お気にめしたのか、出した分全て食べてしまった。

 俺は普段から食べてるので、其れ程沢山は食べなかった。


 そうこうするうちに、煙が晴れていき、外の様子がわかるようになった。

 ずっとブレスを吐き続けていた牛は疲れきっていて、力なく地面に倒れていた。

 もう魔力切れみたいだな。


 それから、リスリット達の無事を確認しようと、そちらに目を向ける。

 二人は物凄く呆れていた。

 その眼が、何してたんだこの人達と語っている。


「二人とも、彼処の二人が凄く呆れてるから、もうやっちゃっていい?」

「もぐもぐ、チョットまて、まだ食い終わってない」

「もぐもぐ、レイちゃんやっといてくれる?」

「あいよ〜」


 俺は隔離空間を解除すると、食べるのに必死な二人を残し、牛にトドメを刺した。

 残りの首をパパッと狩り、断末魔をあげる暇も余裕もなく、殺した。


「……いったい何をしてたんですか、レイ先輩達は…?」


 俺が魔石と素材を回収した所で、二人が近寄ってきた。

 そして、先程眼が言っていた質問を投げかけてきた。


「スキルでブレスを防御したんだが、出れなくてな。ちょっとお茶会してた」

「アホなんですか?頭おかしいんですか?あんな大爆発が起こってる中心でお茶会って…」

「なんか、初めのレイさんの格好良さが何だったって、感じになってるんですけど…」

「ははは…」


 二人の言い分に俺は苦笑いするしかなかった。


 そうして、バジルとシャラ姐の最後の一個の取り合いが始まる中、リスリットとライクッドの冒険者見学は終わった。



次は火曜か水曜に投稿予定。


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