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41.冒険者体験

 シュッ


 広く開けた場所に乱雑に岩が並び、荒野のような光景が広がっている。ここは、騎士学校の中にある施設の一つ。王立学院とは一風変わった演出場だ。

 乱雑に配置された岩を飛び交う影。それは明るく光った剣を振るう少年の残影だった。


 キィィィイ


 青白い光が岩を穿ち、耳障りな機械音がその場所に鳴り響く。それは光が岩を、削り溶かす音だった。

 光が岩を抜けると、そこには綺麗な丸い穴が開いていた。


 ゴガァァン‼︎


 突如、光が柱の様に広がり、岩を飲み込んだ。そのまま地面をも削り、大きな穴を開ける。

 少年は地面に降り立つと、間髪おかず、また他の岩へと向かって飛び上がる。


 再び剣に光が集まり、それがビームの様に岩へと放たれようとしたその時、慌てる少女の声が鳴り響いた。


「き、騎士長〜‼︎ちょ、あ、朝から何やってんですか⁉︎そんな大きな穴開けたら、怒られますよ⁉︎」

「あ、おはよう、アリス」

「いや、おはようじゃなくて…」

「大丈夫、ほら」


 僕は大きな穴が空いた地面に手をかざす。

 すると、大量の土砂がその穴へと降り注ぐ。

 が土魔法で作り出した土だ。それを穴へ注ぎ、固める。


「……騎士長の魔力量どうなってるんですか?あんな大量の土砂作ったら、私なら魔力枯渇仕掛けるんですけど…」

「3万は越えたかな」


 呆れた声を漏らすアリスに大した事はないと言った感じで答えた。


「3万⁉︎私の3倍はあるじゃないですか!」

「あ、そうなの?僕って多かったんだね。けど、それならアリスもあれくらいの土砂なら、何度でも作れるはずだよ?たぶん、必要のないイメージを入れてしまってるんだよ」


 軽い感じで、魔法に関して指摘する僕。

 アリスは魔力が少ないんだな。

 やっぱり戦闘メインじゃないからかな?


「それでどうしたの、アリス?」

「あ、はい。騎士団長から、西の山にいる魔物の撃破命令がきました。ディクルド騎士長指揮のもと、騎士学生を引き連れ、これを撃破せよとの事です」

「また?この頃多いね」


 大進行の時に、援軍として派遣されて以来、学生でありながら、騎士の任務が下されるようになった。

 学生騎士団と呼ばれ、僕を騎士長として、副騎士にアリス、団員に成績が優秀な騎士学生を数十名加えた騎士団だ。

 主にC級以下の魔物討伐を集団で行い、騎士の仕事を学ぶという目的の元作られた。


「どうも騎士団長がわざとこちらに仕事を回して来てるみたいです」


 アリスが僕の疑問に答えをくれた。

 アリスはもう学生ではないのだが、その能力が副騎士長向きであるのと、学生騎士の監督役として、学生騎士団に所属している。

 だから、僕が騎士長になってから、ずっとアリスが副騎士長を務め、サポートしてくれている。


 彼女は非常に優秀な副騎士長だ。

 雑務はほとんど彼女がやってくれるし、戦闘でのサポートも見事なものだ。

 お陰で僕は、訓練と戦闘に専念できる。


「あの人は僕に経験を積ませたいらしいからね。仕方ないかな。レイを騎士に出来ないのが、よっぽど悔しがったのかな?」


 断崖山の騒動の後、騎士団長は連絡用魔具を用いて、王都にいるレイを騎士に誘ったらしい。

 しかし、王国とギルドの圧力により、レイにそれを伝える事すら、出来なかったらしい。

 それでおそらく、僕をレイより遥かに強くしようと、色々と任務を回して来てるのだろう。


「前に言ってた幼馴染の方ですか?そんなに優秀な方なのですか?」

「優秀で収まるのかな?レイは5歳ぐらいの時には自分で魔法作ってたからなぁ」

「ば、化け物ですね…」

「あはは、そうかもしれないね」


 僕はアリスの言い方に笑いを漏らした。

 確かにレイは化け物だよなぁ。

 ユニークスキル相手に普通のスキルだけで、互角の勝負に持ち込むなんて、あの年じゃ普通無理だよね。

 しかも、レイもユニーク持ってるらしいし、それを使い出したらどうなるんだろ…


「何を他人事の様に……言っときますけど、騎士長も化け物ですからね?S級を一人で倒すなんて、化け物ですよ」

「酷いなぁ。僕は化け物と呼ばれる程強くないよ」


 僕はまだまだ強くならないと。

 ユニークを使い出したら、レイに負けてしまう。まだ化け物と呼ばれる程は強くない。

 化け物ならユニーク相手でも、普通のスキルだけで勝てるはずだ。

 父さん達みたい。


 そうだよ。父さん達みたいな人達を化け物と呼ぶんだよ。

 だから、僕は化け物じゃないね。


「そろそろ行こうか。早く任務を終わらせないとね」

「あ、はい」


 そうして、僕とアリスは他の団員を引き連れ、魔物討伐に出発して行った。


 誓いの日まで後半年と少し。

 僕はもっと強くならなければならない。



 〜〜〜〜〜〜


「先輩〜!」

「ん?リスリットか。よう奇遇だな」


 6月も終わりに差し掛かったある日の休日。

 俺はギルドへ依頼でも受けようと、足を伸ばしていた。

 ハクはいない。

 ハクは最近、一人でどこかへ行っている事が多い。

 何をしてるのかは知らないがが、ハクももう直ぐ10歳になるので、放任している。


 そうして、一人大通りを歩いていると、リスリットとバッタリ出くわした。


「先輩、どこに行くんですか?」

「ちょっとギルドで依頼でも受けようかなと」

「え⁉︎ギルド⁉︎先輩、冒険者だったんですか⁉︎」


 いつもライクッドが俺を見る時の様な、キラキラした視線をリスリットが向けてきた。


「あ、ああ」

「私も行きたいです!依頼!付いて行ってもいいですか⁉︎」

「あ、ああ」


 身を乗り出す様に聞いてきたリスリットに、俺は気押される感じで一歩下がった。


「やった!行きましょ先輩!早く!」

「あ、おい……あいつギルドの場所知ってんだろうな?」


 一人で突っ走って行ったリスリットを見ながら、俺はゆっくりと歩いて、ギルドへと向かった。

 リスリットがあんなにテンション上がってるのは、初めて見たな。

 冒険者になるのが、夢だったのか?


「レイさん!」

「今度はライクッドか…よう」

「あれ、なんかテンション低くないですか?」

「いや、リスリットを連れて依頼に行く事になってな。ちょっと疲れそうだと思ってただけだ」


 さっきのテンションでずっといられたら、しんどい。

 相手するのが面倒くさい。


「依頼って、冒険者の仕事ですか?」

「ああ」

「レイさん冒険者だってんですね。あの、僕も行っていいですか?興味があるんです」

「いいぞ。一人でリスリットの相手するのは嫌だったんだ」


 これで負担が二分の一になったな。

 ナイスだ、ライクッド。

 それにしても、ライクッドも冒険者に興味があるのか。

 こいつも夢は冒険者だったりしてな。


「遅いです、レイ先輩!依頼なくなっちゃいますよ!」

「なくなるかよ」


 毎日どんだけ依頼が来ると思ってんだ。むしろ手が足りないんだよ。


「あれ、ライクッドも行くの?」

「うん、僕も興味あるから」

「そうなの⁉︎ライクッドも冒険者になるの⁉︎」

「今の所はそのつもり」


 リスリットが、ライクッドの手を取ってブンブン振っている。若干痛そうだ。

 リスリットは仲間を見つけたのが、嬉しかったようだ。

 ライクッドも冒険者になりたいみたいだから、将来この二人はパーティ組んだりしてるかもな。


「リスリットその辺にしとけ。あんまり浮かれてると、怪我するぞ。魔物は俺と違って、手加減してくれないんだからな?」

「あ、すいません!ちょっと、興奮しちゃって…」


 少し落ち着きを取り戻したリスリット。

 これで平和に依頼が受けれるな。


 俺は2人を引き連れ、ギルドの中へと入る。


「ようレイ、ガキ引き連れて何しようとしてんだ?」

「ガキがガキ引き連れてたら、それは遊びに行くって意味なんだよ」


 相変わらずギルドに入り浸って、酒を飲んでいるバジル。

 シャラ姐、相手間違えてるよ絶対…


「レイちゃん、久しぶり。お友達連れてきたの?」

「久しぶり、シャラ姐。友達っていうか、後輩だよ。俺の生徒」

「生徒?」

「いや、なんか教師の数が足んなくて、俺教師やらされてるんだ、学校で」

「また、おかしな事になってるのね…」


 また、は余計だと思う。

 俺はそんなにおかしな事態に巻き込まれたりは……してますね。

 日常的に巻き込まれてるね。


「丁度いいや、二人とも今日一緒に依頼行かない?ちょっと強めの奴で身体慣らしたいんだ」

「私はいいわよ。バジルはどう?」

「行かねぇと、姉貴に怒られるからな、しゃあなし行ってやる」


 ここで母さんが出てくるのか…

 こいつマジで服従してんじゃねぇか。


「サンキュー。ていうか、バジルお前、完全母さんの手下だな」

「悪いかよ」

「いいや、俺もだから」


 俺も手下だ。悪いなんて思わない。

 むしろ正しいと思う。世界には逆らってはいけないものがあるんだ。


「それじゃあ、俺は依頼見てくるよ。この二人も今日は見学でついてくるから、冒険者の事でも教えてあげといて」


 俺はそう言って、その場を離れ掲示板の方へ移動した。

 リスリットとライクッドの二人は、ギルドに入った時から、ずっと緊張している。

 バジル達と一緒に行く間も、緊張されてたら、正直邪魔なので、二人と話して緊張を和らげておいて欲しいと思い、離れた。

 バジルは置いといて、シャラ姐は美人で優しくて、なおかつ子供好きだから、2人の緊張をほぐしてくれるだろう。


 俺はそんな事を考えながら、依頼書を流し見していく。

 半分程みたところで、面白そうな依頼を見つけた。


【準S級:属牛討伐依頼:報酬500万ルト:追記:各属牛の素材は貴重なので、出来るだけ持ち帰ってください。色を付けて買取ります】


 準S級か…

 初めて見たな。確か、S級の可能性がある魔物との戦闘が考えられる場合などに出る奴だったな。

 これにしようか。

 他にS級と出会える可能性が有りそうなものもないしな。


 俺は属牛討伐依頼の紙を持って、受付にいく。

 そして、ミラ姐に紙を手渡した。


「…レイちゃん?これは、レイちゃんのランクでは無理よ?」


 そうなのだ。

 俺はS級を倒せるのにも関わらず、ランクがBであるために、Bランクでも受けていいと書かれている、A級クエストまでしか受けれないのだ。

 しかし、これを補う方法がある。

 パーティを組む事だ。すると、その中の一番上のランク+1ランク上まで受ける事が出来る。


「大丈夫。今日はバジルとシャラ姐とパーティ組んだから」

「あ、そんなんだ。それなら大丈夫よ。気を付けてね」

「うん、ありがと」


 そう言って俺はバジル達の元へと戻った。

 バジルとシャラ姐は、二人ともAランク冒険者なので、パーティを組んだ今はS級クエストまで受ける事が出来る。

 今回はAとSの間なので、問題なく受ける事が出来た。


「きたか。で?何受けて来たんだ?」

「属牛討伐クエストだよ」

「また、えらく面倒くさいものを…」


 バジルは嫌そうに顔を歪める。


「面倒なのこいつ?」

「その牛、複数いるのよ。しかも、属性がごちゃまぜで」

「へぇ。てことは、複数の属性の魔法を使わないといけないのか。……めんどくさ」


 属性持ちの魔物は得意属性と弱点属性を持ち、得意属性の攻撃を与えると、無効化したり、吸収したりするのだ。

 つまり、今回は様々な属性で攻撃しなければならない。

 剣でも倒せるだろうが、属性持ちは大概、その属性を自由に操つって攻撃してくるため、近寄るが面倒なのだ。


「レイ先輩、それって何級なんですか?」

「準S」

「それって、僕達付いて行っても、大丈夫なんですか?」


 2人が少し怯えた様な顔をした。確かにいきなり準Sは怖いよな。


「問題ないさ。バジルもシャラ姐もA級冒険者だし、ソロでS級倒せるぐらい強いから」

「おい、俺は無理だぞ。やりたくねぇ」

「私も無理かも…」

「えっ?けど、俺の感じる魔力量的にはキングオーガぐらいなら、余裕で勝てそうなんだけど…?」


 俺は2人を安心させようと、バジル達の事を出したのだが、否定されてしまった。

 おかしいな?

 俺と同じくらいの魔力量を持ってる感じなんだが…


「人の魔力量がわかるのね…」

「今度は何の魔法だ…?」

「魔法じゃないよ。スキルだよ。そのスキルによると、二人は俺がキングオーガ倒した時より、魔力量が多いんだけど?」

「へぇ、そうなのか。なら、やれるかもな。やらんが…」


 やれよ。戦えよ。働けよ。いい加減ランクあげろや。

 お前何年Aランクでいる気だよ。

 火竜の時からずっとだろ。

 シャラ姐なんかもう直ぐSランクになるんだぞ?


「それって魔物のもわかるの?」

「わかるよ。これで断崖山の魔物のランク付けしたから」

「へぇ、レイちゃんどんどん便利になってくね」


 地味にグサッときた。

 便利って…

 もっと他に言い方あるんじゃないかな?


「……そろそろいこっか」


 精神にダメージを受けたところで、俺たちは属牛討伐に向かった。

 向かうは断崖山の反対側の山だ。

 断崖山と違ってそこはそれほど広くはないので、すぐに討伐対象を見つける事が出来るだろう。


 今日はちょっと試したい事があるからな。

 存分に暴れさせてもらおう。


 〜〜


「いた」

「どこだ、便利道具?」

「死ね」

「ガハッ」


 俺は魔装して強化した腕でバジルを殴った。

 誰が便利道具だ。


「数は36匹か。本当に牛みたいな形してるな。どれどれ」


 俺は透視と千里眼で牛達の集まる方向を見た。


「えっと、火、水…あれは風か?後、雷に、なんだあれ?あいつ何属性だよ」


 見えた牛の色や、纏う属性から何属性がいるか確認した。しかし、一匹変な奴がいた。顔が三つある。しかも、色がバラバラだ。なんだあいつは?


「あれは進化した属牛ね。偶にいるのよ。名前は三頭牛。複数属性を持ってるわ」


 俺の顔の向きから、牛の場所を判断したシャラ姐が、同じようにして見たようだ。さすがシャラ姐、眼系も極めてるんだな。

 俺が疑問に思った牛について、解説してくれた。


「進化したって事はS級?」

「そうね。かなり面倒だわ。あいつは三属性無効化するからね。しかも、3つ同時に属性操ってくるから」


 3つも無効化するのか。

 てことは、あいつの色からして、火、水、雷は効かなな。オマケに土、氷、風も半減するな、たぶん。


 属性持ちには半減属性と呼ばれる、効果が薄い属性がある。例えば火で言えば、得意属性は火、弱点属性は水、半減属性は土となる。

 今回は水の半減属性が氷、雷が風なので、6属性全てに対応されている。

 残りの2属性の光と闇だが、俺は光属性の攻撃魔法は持ってないし、闇はスキルすらない。


 なので、魔法でこいつを倒すのは困難という事になる。

 さらに3属性同時操作が非常に厄介だ。

 ただでさえ、近寄るのが面倒なのに、それが3倍だ。

 近づくのは困難だな。


「どうする?周り片付けてから、三人でやる?」

「うーん、それだとあいつを引き付ける役がいるな。んじゃ、それ俺がやるよ。他は周りをやっちゃって」

「了解」

「わかった」


 引き付ける役だけど、やっちゃおうかな。

 試したい事が終わったら、やってもいいかな?


「私達はどうしたらいいですか?」

「二人で協力して、属牛狩っちゃって」

「えぇっ⁉︎」

「ぼ、僕達もやるんですか⁉︎」


 やるよ。こんなに数いたら、見学なんてできねぇよ。


「ああ、リスリットが前衛で、ライクッドが後衛でやれば、なんとかなるはずだ。リスリット、こないだ魔力充填スキル教えただろ?」

「あ、はい」

「あれなら、属性攻撃を斬れるから、前衛は出来るだろ?」

「わ、わかりました!頑張ります!」


 リスリットは完全に前衛向きなので、それに必要そうなスキルを中心に教えている。

 かなり、剣の腕前も上手くなってきたが、まだまだなので、スキルで補おうという作戦だ。


「ライクッドは弱点属性の魔法で攻撃しろ。火なら水、水なら雷、雷なら土、風も土だ。覚えたか?」

「はい。覚えました」


 ライクッドは後衛向きなようで、実は中距離が一番向いている。

 魔法の発射速度は早いのだが、余り強いものが使えない。質より量で勝負するタイプなのだ。

 シャルステナとは逆だな。


「それじゃあ、各自バラけて行こうか。方向はあっち、俺が飛び込んでから、行ってくれ。それと、リスリット達は危なくなったら、すぐ言えよ?誰か助けに行くから」

「はい!レイ先輩の近くで戦います!」

「いや、それだと巻き込まれるんじゃ…?」


 リスリットの発言に突っ込みを入れるライクッド。

 ライクッドの言う通りだ。

 俺の近くで戦われたら、邪魔で仕方ない。


「少し離れて戦ってくれ。S級相手に余裕があるかわからないからな」

「大丈夫ですよ、レイ先輩なら」


 リスリットから信頼の言葉が向けられた。

 信頼してくれるのは嬉しく思うが、俺だって無理な事はあるんだぞ?


「ライクッドよろしく」


 俺は面倒になり、ライクッドに丸投げした。

 上手く手綱を引いてくれる事を願おう。



 〜〜


「さて、みんな準備出来たみたいだな」


 俺は空間スキルで全員が配置についた事を確認した。

 そして予定通りS級に向かって駆け出した。

 それが合図になり、他の四人も続々と属牛に向かって駆け出す。


「ドール!」


 俺は前方に土の人形を作った。数は20。思考4つ分だ。


 ドールは俺の指示に従い、三頭牛に向かって駆け出す。

 とりあえずは様子見だ。

 どんな動きをしてくるか見よう。


 三頭牛の頭の一つが雷を吐いた。

 しかし、土で出来たドールには余り効果がない。

 ほとんど無効化されてしまうのだ。

 すると、今度は残りの2つの頭が同時に火と水を吐いた。これにより、半数のドールが溶かされ、砕かれた。


「なるほど、ブレスか」


 俺はその攻撃を見て、攻撃方法の観察を続ける。


 ブレスに当たらなかったドールが、徐々に距離を詰め、三頭牛に迫る。

 すると、今度はその体が火に覆われた。

 属性を纏ったのだ。よく見れば、バチバチと火の間から雷が出ているのがわかった。


 水は纏わないのかと思っていると、三頭牛に接近していたドールが水の刃で切り裂かれた。

 爪だ。水の爪が生えていた。

 そういう使い方をしてくるか…


 残りのドールがやられるまでの数秒間で、俺は作戦を考える。

 近づくのは危険だな。

 たぶん、爪の他にも、火と雷の攻撃があるはずだ。

 かといって、魔法も効かないし、魔爆しかないかな。


「魔爆玉」


 全てのドールが壊される寸前、俺は魔爆玉を放った。


 ドガァァァア‼︎


 地面を砕く破壊音。

 その破壊に三頭牛の肉体にも傷が走り、血が流れ出る。

 そして、魔爆の攻撃で、血だらけになり、纏っていた属性が消えた。

 おそらく攻撃を受けて、一時的に制御出来なくなったんだろう。


 モォォォオ‼︎


 牛のような雄叫びをあげる三頭牛。

 お怒りのようだ。まるで赤い布に惹きつけれらたかのように、こちらへと突っ込んでくる。

 俺は魔爆玉を放った。


 三頭牛はすでに5メートル程のところまで迫っていた。さすがはS級速い。

 このままでは自分で放った魔力爆発に巻き込まれてしまう。しかし、俺は動かずにその場に留まる。


 ドガァァァア‼︎


 再び巻き起こった魔力爆発。

 それは両者を飲み込む。三頭牛は魔爆をモロに受け、傷ついた体にさらに線が走り、前足が砕け散る。

 一方、俺は何事もない様に爆発の中、平然と立っていた。俺だけではない。

 俺の周囲3メートルほどの空間は、魔爆の影響を何も受けていなかった。


 隔離空間

 外界から断然された空間を作るスキル。

 このスキルによりできる空間は一辺3メートルほどの立方体だ。

 空間が断然されているため、外の影響が中に伝わってこない。

 思った通り、かなり強力な防御スキルのようだ。

 さすが仙魂スキルだな。


 爆発が収まり、隔離空間を解除すると俺は目の前で地に伏せる三頭牛に近づき、魔力強化した剣でその三つの首を刈り取った。


「終わりだな。後は取り巻きだけか」


 俺はそう言って、リスリット達の方を見た。

 ちゃんと戦えてるか確認するためだ。


 リスリット達が戦っていたのは氷の属牛だった。

 リスリットは魔力強化した剣で、ブレスを斬り裂き、隙を見ては本体に斬りかかっている。

 有効打にはなっていないが、それでも前衛の役目を十分に果たしている。


 ライクッドはリスリットのサポートと、火属性の魔法で、徐々にダメージを与えていっている。

 一撃必殺といった感じではないが、その発射速度を活かして、次々に魔法を当てていっている。

 これならいずれ属牛も倒れる事になるだろう。弱点をつければ属性持ちは弱いからな。


 今の所、問題はないようだが、リスリット達のいる所に属牛が5体程向かっていた。

 あれが加われば、今のリスリット達では対処出来ないだろう。


 俺は2人の元へと向かう属牛の前に瞬間的に移動した。

 先日手に入れた移動系のスキル、瞬動だ。

 瞬間的に一定範囲内を移動できる。

 別に瞬間移動しているわけではない。ただ、物凄く速く移動しているだけだ。自分の出せる10倍ぐらいのスピードで移動できる。


 突如目の前に現れた俺に、属牛達は急停止して、雄叫びをあげる。

 5頭もいれば、煩くて敵わない。

 そして、属牛達は各属性のブレスを俺に放った。

 俺はその場から動かずにそれを受ける。


「魔装鎧」


 たかがA級のブレスごとき隔離空間は必要ない。

 魔装鎧で十分だ。


 仙魂スキルは強力な分、魔力の消費量が多い。

 今日使った隔離空間は特に。

 収納空間は入れる物の大きさによって変わってくるが、大きな物を入れようとすると、隔離空間と同じぐらい消費する。

 魔装と魔工は使用する魔力量によって消費が変わる。

 限界突破だけはちょっと例外的な扱いだ。


 限界突破は消費する魔力の上限値がある。下限はない。

 だから、魔力量が1でも残っていれば、使うには使える。

 だが、使用時間と強化倍率が上限値分の使用量に比例するため、ある程度残ってないと使う意味がない。

 すぐに限界が来て、行動不可になってしまう。


 少し脱線してしまったが、何が言いたかったのかというと、魔装鎧で耐えられる攻撃に隔離空間を使うのはもったいないって事だ。

 魔力は限られているので、無駄遣いは良くない。

 未だシャルステナがいないと、俺の無限魔力生成庫の扉は開かないのだ。


 ドガァン‼︎


 混ざりあった属性が爆発を起こし、土煙が上がった。

 俺はそれを魔装鎧で難なく防ぐ。

 服も魔力強化で補強してあるので、傷一つ付いていない。


 爆発が収まると俺は土煙で視界が悪い中空間スキルを使い、相手に接近する。

 そして、煙が晴れた時には、5つの首と胴体が地面に落ちていた。


「さてさて、リスリット達はと…」


 邪魔者を排除したところで、リスリット達に目を向けて見た。


 俺が目を向けた丁度その時、リスリットの剣が属牛の首をかき切った。

 首を落とす程ではなかったが、確実に致命傷を与えていた。

 そして、そこにライクッドの魔法が炸裂する。それがトドメになり、属牛は地に倒れ、消えていった。


「お疲れさん、なんとか倒せたみたいだな」

「は、はい…なんとかなりました…」

「もうだめ、疲れた…」


 二人とも疲れきっていた。

 リスリットは座り込み、ライクッドは地面に寝転んだ。


「はは、まだまだ体力が足りないな。まぁ、それでもA級を仕留めたんだ。中々のもんだ」

「ありがとうございます、先輩。ここまで強くなれたのは、先輩のお陰です」

「やめろって、照れるだろ?」


 俺は頭を掻きながら、そう言った。

 ちょっと照れくさい。


「けど、感謝して…あ、後ろ!」

「ん?」


 振り向くとまた一体こちらへと向かって来ていた。

 チッ

 バジルちゃんとやれよ。

 全部お前のいる方向から、きてんぞ。


 バシュッ


 俺は瞬動で移動すると、属牛の首を落とす。


「……なんていうか…」

「…うん、僕たちの頑張りってなんだったろ」


 2人のそんな呟きは、離れていた俺には聞こえなかった。


「バジル何してんだよ」


 俺は後で文句でも言ってやろうと、バジルのいる方向を千里眼で見た。

 すると、20体近くに囲まれて、必死に戦うバジルがいた。


「………」


 運のない奴だ。

 だがまぁ、放って置こうか。

 たまには真面目に働かせてやろう。


 俺は放置する事に決め、今度はシャラ姐の方向を見た。

 こちらは残り2体と、全然余裕そうだった。

 こっちも助けはいらなさそうだな。

 俺は瞬動で2人の元へと戻る。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 急に現れた俺に二人は驚いたみたいだ。


「シャラ姐はもう直ぐこっちに戻って来そうだ」

「バジルさんは?」

「あいつは帰らぬ人になるかもな」

「えっ⁉︎それはまずくないですか⁉︎」

「いいんだよ。マジでやばくなったら、逃げてくるって」

「そうですか…?それなら、いいんですけど…」


 そう簡単にあの呑んだくれがくたばるかよ。

 絶対そのうち逃げてくるさ。

 間違いなく。


「こっちはもう片付いてたのね」

「あ、お疲れシャラ姐」

「S級を一人で倒して、傷一つ付いてのね……もうレイちゃんに抜かれちゃったかな…?」


 そう少し残念そうに言ったシャラ姐。

 けど、そんな事はないと思う。俺はバジルと違ってシャラ姐の事は尊敬している。

 戦闘に関しても出し、知識もそう。

 だから、俺はシャラ姐を抜かしたとは思わない。

 まだまだ、俺には足りないものがいっぱいあるんだ。


「どうだろ?俺のスキルが最近防御特化になってきたせいかもよ?」

「防御って…あれだけの魔法と剣の腕があって、それにも手を出すの?」

「俺は何でもできる冒険者になりたいから、やれる事はやるよ」


 あらゆる事をすると決めたからな。

 ディクに置いて行かれたくないし、


「へぇ〜、それがレイちゃんの夢か〜。いい夢ね」

「夢というか、その前段階みたいなものなんだけどね」

「い、一体何をする気なのよ……」

「七大秘境制覇」


 ニヤッと笑い俺は夢を語る。


「七大秘境…レイちゃんならやれるかもね」

「もう一個は行ってきたんだけどね」

「え、どこ?」

「竜の谷」

「ああ、なるほど。レイちゃん空走れるものね」


 シャラ姐は納得したように頷いていた。

 一方、口をポカンと開けているものが2名。そこまで驚く事だろうか?

 空が走れれば、あそこはいけるんだけどな…

 まぁ俺の場合、ウェアリーゼのお陰ってのもあるけどな。


 口をパクパクさせる二人。

 何か言いたそうだ。何が言いたいんだろうか?

 俺が気になって二人に聞こうとすると、別の方向から答えがやってきた。


「逃げろー、オメェラ‼︎」


 バジルの叫びが後ろから聞こえ、振り向くと、バジルが全力ダッシュでこちらに向かって来ていた。

 その後ろには……


異夢世界を読んでいただきありがとうございます!


先日、高機能執筆フォームという機能を発見しました。それを使えば楽に段落付け出来ることに気が付き、全て段落を付けた文章に入れ替えました。

ついでにと初めの方、具体的には10話ぐらいまで加筆修正した部分があります。

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