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40.ギルクの本気

ゴールデンウィークですね〜

「よし、今日はこれでおしまいだ。解散」


 演習場で今日の授業を終え、生徒達に解散を告げる。

 この後放課後訓練が残っているため、いちいち教室に戻るのも面倒なのだ。

 だから、俺のクラスは演習場でいつも解散する。


 俺が教師になってから、そろそろ2ヶ月が過ぎようとしている。

 その間俺は授業が終わると、リスリットとライクッドの二人の訓練に付き合い続けた。二人はそれに真面目に臨み、クラスの中で飛び抜けた実力を身に付け始めた。


 他の人より頑張り続けた成果だな。

 まだ、Aクラスには及ばないが、二人は確実に強くなっていっている。それに合わせクラス全体でも、Cぐらいまでは上がったのではなかろうか、と俺は思っている。


 ちなみにだが、ギルクも急成長している。5月の初め頃から、ギルクはこの訓練に参加するようになった。社会人であるため毎日とはいかないが、週に2、3度は顔を出すようになり、メキメキと実力を伸ばしてきている。


 今更かと思うかもしれない。だが、今からでも遅くはないというのも事実だ。

 危険溢れるこの世界で、強くなる事は自分の身を守る事になり、しいては周りを守る事にも繋がる。


 また、5月半ばからはシャルステナも加わるようになった。

 実はシャルステナは俺が教師になった事を、それまで知らなかったらしい。俺が広場の集まりに来なくなったのをおかしいなと思って、放課後探しにきた時、丁度俺達は訓練をしていた。

 その時初めて知ったらしいのだ。案外、俺が教師をやってる事は上級生には伝わってないのかもしれない。


 そうして、俺が教師生活を送っている事を知ったシャルステナは私もやると言って、混ざってきた。


 そうなってくると、辛いのは俺だ。

 ギルクを混ぜただけで、5割出さなければやられるところだったのに、シャルステナまで混ざったら、俺も割りかし本気を出さないとやられてしまうのだ。

 これではどっちの訓練かわかったのものではない。むしろレベル差があり過ぎてリスリット達の訓練になるのか心配したものだ。


 それでも、リスリットとライクッドは、ちょっと異常になり出したギルクと、異常なシャルステナに刺激を受けたようで、一気にレベルアップしていった。そのため、俺が逃げるわけにもいかず、こうした訓練模様となってしまった。


 間違いなく、俺が一番辛いと思う。

 何せ、シャルステナが強いんだ。

 完全に後衛となったシャルステナは、俺が貸した本のお陰か、以前とは比べ物にならないぐらい強くなってる。


 暗算という難関を超えて複数思考を取ったのかと疑ってしまう程、複数魔法を放ってくるし、威力も重ねがけしたとしか思えない程高い。

 恐ろしいのは一思考、一魔法でそれをやってのけているところだ。

 ウサギが本領を発揮してきたってところか……


 そんな厳しい訓練の成果は俺にも現れていた。ステータスの伸びが最近物凄くいい。久しぶりに一気に成長している感じだ。

 ディクに追い付くにはこれが丁度いいのかもしれない。後一年もないしな。


「火と水の記憶、バブル」


 シャルステナの唱えた魔法が俺を牽制する。

 この魔法は近づくと爆発するのだ。水の塊の中に爆発のトリガーみたいなものがあって、それを引くと一気に膨張し、弾け飛ぶのだ。

 それで相手を吹き飛ばすのがこの魔法の役割だ。


 しかし、何度も喰らえば対処法ぐらい思い付く。

 俺は土魔法で、水の球体を覆う。

 これで爆発しても、問題ない。あの爆発には其れ程、威力はないので、固めてしまえば問題ないはずだ。


 俺はまず前衛のリスリットに迫った。そこへ、ギルクとライクッドの支援が加わる。

 ギルクは最近、飛び道具を鍛え始めた。元々才能があったのか、実に嫌なタイミングで攻撃してくるし、狙い通りの箇所に当ててくる。


 今のブームは投剣らしく、前は弓だった。だが、弓を動きながら打つというのは、難しかったらしく、投剣にチェンジした。

 それによりナイフのように投剣を使い、近接戦闘にも対応出来るようになった。今はナイフ捌きを密かに練習しているらしい。


 一方、ライクッドは発動速度が少し早くなってきた。複数発動はまだ出来ないようだが、ライクッドはすでに思考加速までスキルを育てあげた。頭がいいらしい。だから、複数発動は時間の問題と言っていいだろう。


「甘い」


 俺は飛んできた投剣を指で止め、魔法を魔力充填した剣で斬った。


「嘘……」


 そう唖然と呟いたリスリットに俺は接近する。

 俺は魔力強化を解除してから、ただの木剣でリスリットに斬りかかる。

 解除しないと危ないからな。

 剣ごと斬りかねないのだ。


 リスリットはそれを剣で流すようにして、防御した。

 リスリットはだいぶ剣が上手くなった。

 流すのが特に得意なのは、俺が攻撃しまくったお陰だろうか?

 それと、攻撃に打撃を組み込む事が出来るようになった。


 これは俺が教えた。

 スピードが劣る彼女が、俺とまともに斬り合うには手数が必要だったからだ。

 まぁ、それでもまだまだ遅いんだけどな。

 けど、一瞬は俺を止める事が出来るようにはなった。


 そうなると、今度は後ろの三人からの遠距離攻撃に、対応しなくてはならなくなる。

 俺はリスリットを軽く吹き飛ばすと、遠距離攻撃に対応する。


「魔装鎧」


 魔装で肉体全体を強化する技だ。

 この技は防御力がかなり高く、大抵の攻撃は効かない。

 しかし、殆ど動く事が出来なくなる。

 肉体を固めてしまうのだ。そのため、動きながらの防御には使えない。


 だけど、こういう防御だけをしたい時には、非常に便利だ。

 魔力も其れ程多くは使わないし、下手な防御魔法よりも強度が高い。そのため俺は好んで、この技を使っている。


「反則だよレイ……」


 攻撃をまともに受けて、無傷で立つ俺に、シャルステナはそんな声を漏らした。


「はは、確かに反則級に強いなこのスキルは」


 今日初めて彼女達にこの技を見せたのだが、反則だと言われてしまった。

 確かに自分でも反則級に強いと思う。

 さすがは魔人の使ってたスキルといったところか。


 仙魂スキルはやっぱり強いな。一つ一つが反則級に強い。

 魔工なんか魔人に相当なダメージを与えたし、身体能力が倍ほどになる限界突破も反則的に強い。

 収納空間は強さとは余り関係がないが、それでも他とは比べ物にならないぐらい便利だ。


「さすがは魔人の使ってたスキルだな」


 実感のこもった声で、そう呟いた。よくもまぁ、これにダメージ与えられたもんだ。咄嗟の思い付きだったが、魔爆はやはり強烈な技だな。未だにあの原理はよくわからないけどな。


「お前はあの化け物級になってたのか…」

「いや、まだあそこまでいってないな。本気になったあいつは次元が違った。スキルだけ手に入れても、そこには辿りつけなかったよ」


 邪神化。

 奴は確かそう言っていた。

 名前からして邪神の力を借りて、大幅に強くなる技だろう。

 あいつが邪神化する前、魔物達が弱体化していた。

 たぶん、魔人が魔物達の邪神の加護を奪ったんだ。そして、自らを強化した。


 恐ろし技だ。限界突破どころの話じゃなかった。

 軽く10倍近く強くなっていた気がする。

 それを倒した親父。

 俺はまだまだそこへは辿り付けていない。


「すいません。魔人ってなんの話ですか?」

「僕たちついていけないんですが…」


 二人は俺が魔人と戦ったのを知らないのか。

 まぁ、あの戦いに加わってた訳がないもんな。


「ギルク、よろしく」


 俺はギルクに説明を丸投げした。


「俺にふるな。自分で言え」

「めんどい……俺は魔人と戦った。以上」

「うわ、適当……二人は大進行を引き起こした魔人の事は聞いた事がある?」


 説明を拒否したギルクと、すごく短い説明をした俺に変わり、シャルステナが二人に説明を始めた。

 さすがシャルステナ。ギルクと違って優しい。惚れちゃいそう。もう惚れてるけど。


「はい、英雄が一人で倒したんですよね?」

「僕もそう聞きました。魔人が魔物を活性化させて、あの大進行を起こしたって。それを不死鳥と金色の魔女が止めたんだと」


 うわ、この二人まで事実がねじ曲がって伝わってる。

 ほんと誰が情報操作したんだ?

 俺はそう思いながら、同意を求めるような視線をギルクに向けた。

 するとギルクはサッと目を逸らした。


「……お前か」

「ギクッ!」


 俺は確信した。情報操作をしたのはこいつだと。

 口でギクッ!って言いやがった。

 間違いない。こいつか星だ。


「お縄につけ、ギルク」


 俺は炎風剣を作り出す。


「ちょ、ちょっと待て!それはやばい!ちゃんと理由があるんだ!話せばわかる!」


 ギルクは慌てて俺を止めようとするが、俺は無視して炎風剣を振り下ろした。


「うるせぇ!一回燃えとけこの野郎!」

「うぎゃああ!」


 炎上するギルク、俺はこのままでは死んでしまうからと、優しさから水竜を作り出し、食べさせた。


「これで悪は消えたな」

「やり過ぎだよ…」

「レイ先輩怖い…」

「うぅ、レイさんに投げ飛ばされた記憶が…」


 俺がスッキリした顔をしていると、見ていたシャルステナが怯えたような声を漏らした。

 特にライクッドは投げ飛ばされた時のことが、トラウマになっているようだ。それを思い出し、若干震えている。


 バシャン!


「ゲホゲボ、うぇぇ…」


 俺が解放してやると、むせて、吐きそうになるギルク。


「とりあえず、弁解させてやろう」

「ハァハァ、それはハァハァ、やる前にハァハァ、言うんじゃハァハァ、ないのか?」

「まだ刑の途中だよ。納得できなかったら、続きやるから」


 ギルクは絶望したような顔をした。まだ、やるのかと口をパクパクさせている。


「レイ、やめてあげなよ、これ以上は可哀想だよ」

「そうか?シャルがそう言うなら、これで止めておいてやるか」


 優しいシャルステナにギルクが神に祈るような仕草をした。


「それで、弁解は?」

「それはだな、簡単に言うと、お前の存在を隠したかったんだ」

「俺を暗殺でもする気か?」

「いや、失敗した時が怖いから、俺はしないな」


 ギルクは若干震えながらいった。結構お仕置きが効いたみたいだ。


「実はだな、これには武闘大会が関係してるんだ」

「……意味が分からん。なんでそんなものが関係してくるんだよ」


 全く関係ねぇじゃねぇか。

 武闘大会と俺の存在を隠す理由がどう関係してくるんだよ。


「この二年の武闘大会の戦績を知ってるか?」

「去年はお前らが出たから、知ってるぞ。シャルがトーナメント2位で、ギルクが3位だろ?ゴルドとアンナは覚えてないけど……今年は知らないな。誰も出てないし」


 元々、余り順位に興味はない。武闘大会でディクとまた戦えればそれでいいのだ、俺は。


「まぁ、お前の事だからそうだと思っていた。この二年、うちは優勝出来ていない。トーナメント以外もだ。総合でも優勝出来ていない」

「トーナメント以外もあるのか…知らなかった…」


 道理で長い訳だ。

 1日1試合目だけしかないのかと思っていた。

 他にもやるから長くなるんだな。


「そう言えば言ってなかったな。まぁそれはいい。うちが優勝出来ない理由なんだが、いろいろあってな。今年は仕方なかったが、去年は俺のミスだ。シャルステナを魔法演武に出していれば、総合では勝てたかもしれない」

「へぇ、やっぱシャルは他と比べても優秀なんだな」

「えへへ」


 ちょっと照れくさそうに笑うシャルステナに、俺とギルクは心奪われる。


「先輩!話!」

「お、おお」


 動きの止まった俺たちに、リスリットが大声を出して意識を戻してくれた。

 耳がキーンとする。

 耳元で叫ばなくても…


「……でだ、俺はシャルなら美少女コンテ、ブフォ!」

「ねぇだろそんなの。ちゃんと戻ってこい。中途半端に戻るな」

「あ、ああ、すまん。つい意識が…」


 変な事を言い出したギルクに俺は蹴りを入れた。

 あるなら見てみたいが、武闘大会にそんなのあるわけない。違和感がありすぎる。


 やっと完全に戻ってきたギルクは、改めて説明を開始した。


「…でだな、今年は少し分が悪いんだ。今年、勝ち目がありそうなのはうちでは4人しかいない。しかし、毎年、いつも決勝辺りで戦うのはうちと、帝国魔法学校、ディルベルク騎士学校の三校なんだが、そこの生徒の中に飛び抜けたのがいるんだ。魔法学校の方にはシャルステナレベルじゃないと、勝てない生徒がいてな。そちらにシャルステナをぶつけたいんだ。シャルステナなら十分に勝てる相手だからな。後は騎士学校なんだが、こっちが厄介なんだ」

「だろうな」


 あいつがいるもんな。

 厄介じゃないわけがない。むしろ、それぐらいじゃないとな。


「そうなんだ。騎士学校にはとんでもない化け物がいるんだ。武闘大会はポイント制なんだが、中でもトーナメントの比率が特に高い。そこを抑えられるかどうかが、非常に重要なんだが、その化け物がいるせいで、優勝がかなり厳しいんだ」

「…だろうな」


 何したんだあいつ。

 化け物扱いせれてるぞ。お前まさか……常に全力出してやってたんじゃないだろうな?

 相手が可哀想だろ。


「何せ、その化け物はシャルステナでも、まともに戦えなかったんだ。お前には詳しくは話さなかったが、1分もたなかったんだ、シャルステナが……俺はあの時、驚愕した。まさかシャルステナに勝てる奴が、他の学校にいるわけがないと思っていた」

「……だろうな」


 あれに勝てる奴が、そうそう転がってるわけないだろ。

 たぶん、今の俺より強いんだぞ、あいつ。

 俺でS級倒せるんだから、あいつならSS級の下位ならやりかねないぞ。

 そんな奴にただの学生が勝てるかよ。


「その時は、お前がシャルステナよりも強いとは思ってなかったから、あいつがいる間は勝てないと思ったんだが……あの魔人戦でお前の本気を見て、考えが変わった。お前しかいない。あれに勝てるのは。だから、俺はお前の情報を隠した。少しでも相手に情報を与えないために。もう大会は始まってるんだ」


 そう力説するギルク。

 しかし、それは全くの無意味な頑張りだ。

 だって、ギルクのいう化け物は間違いなく、ディクだからだ。それ以外考えられない。


「……すまないが、その頑張りは意味がなさそうだぞ」

「何?どうしてだ?相手の情報がなければ、対応策を事前に練れないじゃないか」

「いや、それなんだが…俺知り合いなんだよね、そいつと。幼なじみ」

「はぁ⁉︎あの化け物と幼なじみ⁉︎お前の故郷、おかしいんじゃないのか⁉︎」

「いや、まぁ、確かに」


 おかしいと言われれば、そうかもしれない。

 あそこには俺たちとは違って、本物の化け物が二人在住してるからな。


「……なんだったんだ俺の頑張りは…」


 地にひれ伏し、沈むギルク。

 俺は少し可哀想になって、フォローする事にした。


「…けど、最近会ってないから、今の俺の情報は知らないはずだ」

「そうか!じゃあ、やった意味はあったな!」

「あ、けど、大進行の時、俺がS級倒した事は言っちゃった」

「なっ!ば、馬鹿野郎‼︎相手に情報教えてどうするんだ!」


 胸ぐらを掴んで怒るギルク。

 こいつこんなに武闘大会に力入れてたのか…

 出てやればよかった、こいつが生徒会長の時に…


「ま、まぁ、落ち着け。代わりに俺が頑張るからさ…。うん、俺が全部優勝してやる」

「は?何言ってんだ?」

「いや、だからさ。トーナメント以外にも色々あるんだろ?それ全部俺でるよ」

「アホか。そんな事する奴なんかいないぞ」

「出たらダメなルールがあるのか?」

「いや、ないが…」


 ないならいいじゃないか。

 俺とシャルステナで全部優勝かっぱらえるぞ。


「毎日、出続けるなんて無茶だよ。休む暇がないよ?」

「大丈夫さ。ディクかシャル、後ギルクの言ってた魔法学校の奴と当たらない限り、疲れる事もないさ」

「……確かに」


 シャルステナは俺の言ったことを、頭の中で考えてその通りだと結論を出したようだ。


「まぁ、シャルと戦いたくはないから、被らない奴だけ出ようかな」

「アンナとゴルドもでるよ?」

「あ、そっか。じゃあ、それもなしで」


 忘れてた。そういや今年はあいつらも出るんだったな。


「じゃ、それでよろしくシャル」

「うん!わかった。これで今年は勝てるかもしれないね!」

「うおおお‼︎今年は勝てるぞおぉ‼︎」


 シャルは嬉しいそうに微笑んで、俺の参加を喜んでくれた。

 ギルクは一人で演出場の真ん中に、雄叫びあげながら走っていき、叫んでいた。

 そんなに好きなのか武闘大会…

 マジで、前に出なかったことが、申し訳なくなってきた。

 せめて今年はギルクのためにも優勝してやろう。


「それでいい加減魔人の話の続きが聞きたんですけど…」


 リスリットが少し申し訳なさそうな様子で、そう話しかけてきた。

 俺とシャルステナは二人に向き直り、忘れてたと苦笑いする。

 ギルクはまだ叫んでいる。そのうち変身しそうな勢いだ。まったくこちらには気づいていない。

 やばい。ギルクに申し訳なくて、土下座したくなってきた。ここまでとは……


「えっと、どこまで話したかな?」

「まだ何も…」


 ギルクのせいで、どこまで話したかわからなくなっていたシャルステナが聞くと、ライクッドがそれに答えた。


「そうだったね。えっと、何から話したらいいかな?」

「仕方ないな。俺が説明してやるよ」


 シャルステナが、助けを求めるような視線を向けてきたので、俺が代わりに説明する事にした。


「まず、この大進行の異変に最初に気がついのは俺だ」

「ええっ⁉︎」

「英雄じゃないんですか⁉︎」


 ここもねじ曲がってんのかよ。

 ギルク、本気で捏造してんじゃねぇか。

 しかも、それを街全体に広げる手際。王子の強権無駄遣いし過ぎだろ。


「今まで聞いた事は全部忘れろ。それは彼処で叫んでる変身前の奴が作った話だ」

「あ、はい」

「わかりました…」


 二人は一瞬ギルクに視線を向け、頷く。


「それでだな、異変に気が付いた俺は一人で断崖山の調査を始めた。それが俺の2年の頃だから、4年ぐらい前の話になるのか」

「……レイ先輩やっぱり頭おかしいんじゃないんですか?」


 俺が一息つくと、リスリットが馬鹿を見るような眼で見てきた。

 確かに、2年の頃にやるようなことじゃないよな。

 それは知ってる。


「失礼な奴だな。俺がその時調査を始めてなかったら、今頃王都は魔物にぶっ壊されたんだぞ?」

「確かに…」


 俺のお陰と言う事で、話を逸らした。

 俺がおかしい事について言い合ったら、負けるからな。俺はディクと違って自覚症状ありなんだ。だから、僕は弱いから頑張らないとと常に全開の奴とは違うんだ。思いやりがある。


「それから、竜神に会ったり、精霊にあったりと色々あったんだが、5年に上がる頃にやっと原因を見つけてな。それを取り除いたんだ」

「原因ってなんだったんですか?」

「邪神の加護の結晶らしい。魔人が言っていた。俺は近ずくのを危険と判断して、スキルで隔離したから、それがどんなのかは知らないけどな」

「へぇ、そんなスキルあるんですね。さすがレイさん」


 ライクッドは見たことあるはずなんだがな、そのスキル。

 わかってないのかな?


「前に見せた事あるだろ?授業の初日に、剣を取り出したスキルだよ」

「あ、あれですか」

「ああ。まぁ、それは今はいいか。それでだ、原因を取り除いたものの、あの山はすでに邪神の加護で覆われていてな。魔物の活性化が収まらなかったんだ。それで俺はそれを退治してたんだが……ある日、S級が進行してきてな、それを俺は止める為に戦った」


 あれは中々厳しい戦いだったな。

 虚を突かれたのが痛かった。本当にギリギリだったな。


「その時、私はレイに避けられてたんだよ?」

「え、レイ先輩が、シャルステナ先輩を?」

「レイさんが、シャルステナさんを避ける事なんかあるんですね」

「あれは、シャル達を巻き込まない為に避けてたんだ。まぁ、結局は巻き込む事になったけどな」


 二人が心底意外と言った声を漏らし、俺がその訳を説明した。

 シャルステナもそんな事言わなくていいのに。

 そこはとばそうと思ってたのだが…


「あの時、というか5年になってからのレイは、特に酷かったんだよ?毎日眉間にしわ寄せて、怖い顔してたし、私がレイと話そうとしても置き去りにしてくし…」


 シャルステナはそう言って俺に目を向けてきた。


「いや、それは悪かった。反省してる」

「ほんとかな?その前にも一度レイに無茶しないでって、止めた事があったんだけどなぁ。それでも、レイは無茶ばっかりするんだから。魔力暴走の時もS級と戦った時も、魔人の時も…」

「あははは、まぁ、なんていうの、つい?」


 俺は乾いた笑いを漏らし、弁明した。いや、弁明になってないな。


「ついじゃないよ。私がどれだけ心配したと思ってるの?心臓が止まるかと思ったんだから…」

「うっ、すまん…気をつける…」


 それしか言えない。

 確かに何度もシャルステナには心配をかけた。この事に関して、俺は言い訳出来ないのだ。


「信用しませーん。レイの言う事は嘘ばっかりだかね。それに、私がレイを守るようになるから、そんな事いずれ出来なくなるもん」


 俺は笑みを浮かべながらそう言ったシャルステナに見惚れてしまう。

 最近、シャルステナに見惚れる事が多くなってきた気がする。


「先輩!戻って来てください!」

「え、ああ、すまん」


 再び耳元で叫ばれ、キーンとする耳。

 耳元で叫ばないでほしい。


「こほん、…それで色々あって、大進行が起きた。数は…忘れた。沢山だ。そして、魔物が迫ってきたところで、俺は魔法で魔物をぶっ飛ばした」

「凄かったんだよ、レイの魔法。さっきギルクを食べた竜の形の水なんだけどね、あの竜が吐いたブレスで、魔物の大群の3分の1を山まで吹き飛ばしたんだよ。ほら、進行のあと、断崖山までの道が出来たでしょ?あれ、その魔法で出来た道なんだよ?」


 シャルは少し興奮した様子で詳しく説明をしていた。

 それを聞いた二人はえっ?という顔をして、水竜が弾けた場所を見た。

 顔には若干冷や汗が浮かんでいた。

 あれがそこまで恐ろしい魔法とは思ってなかったらしい。フルフルと今頃になって震えている。


「シャルその辺にしといてくれ、怖がってる」

「え、あ、ごめん。怖がらせるつもりはなかったの」

「いえ、大丈夫です。レイ先輩が絶対におかしいと確信しただけですから」

「おい」


 思わず突っ込んでしまった。


「レイさん、凄いです!」


 一方、ライクッドはキラキラと目を輝かせて、俺を見ていた。


「…その後の戦いについては俺は知らないから、シャルに聞いてくれ」


 俺はライクッドの視線に耐えられなくなり、シャルステナへと話をふった。


「えっと、レイが魔物の数をかなり減らしてくれたんだけど、それでも状況はかなり厳しかったの。私達がいた後方まで魔物が来るくらい……私達のパーティはみんな結構強かったから、なんとかA級が来ても倒せたんだけど、そうでないところは結構被害が大きかったの。そして、体力も尽きかけたその時に、援軍の騎士団が来てくれたの」

「シャルステナ先輩、レイ先輩はその時何してたんですか?いなかったんですよね?その時」

「それはだな、丁度俺はその時…」

「レイ、待って!」


 俺が笑顔について考えていたと説明しようとしたら、シャルステナに止められた。

 それからシャルステナは2人を手招きすると、耳元で何か囁いた。


「その時も、レイはおかしくなってたの。だから、触れないで、絶対。いい?絶対だよ?」


 シャルステナの言葉に頷く二人。

 俺は聞こえなかったので、シャルステナに聞いてみた。


「なぁ、何言ったんだ?」

「なんでもないよ?それより、続き続き。…それで、その後レイのお母様、金色の魔女がここにやって来たの」

「ええぇぇ⁉︎レイ先輩が英雄の子供⁉︎」

「え、じゃあ、不死鳥は…」

「親父だ」


 シャルステナが俺の問いかけを流した為、俺は仕方なく、それに流される事にした。


「驚くよね。それで、そのレイのお母様と4人の強い人達が、丁度その時にやってきたS級10体程を倒したの。凄かったわ、あの魔法はまだ私達じゃあのレベルの魔法は使えない。そうして、戦いは終わるかのように思えたんだけど…いきなり雷の音が鳴り響いて、その音のする方向を見ると、レイのお母様が倒れていたの。それをやったのが魔人。一緒いた4人の内2人がすぐにその魔人にやられてしまったわ。それから私達はレイのお母様を担いで逃げたんだけど、残りの2人もやられて、魔人が追ってきたの。そしたら…レイが先に行けなんて言い出したの。反対した私はその時にレイに気絶させられたわ」


 そう言って、シャルステナは俺をジト目で見てきた。

 俺は慌てて、説明を変わる事でその視線から逃げる。


「そ、それでだな、俺は魔人と戦う事になったんだが、こいつがアホみたいに強くてな。ボコボコにされて、殺されかけた。そん時に親父がいきなり空から登場して、魔人を真っ二つにしたんだ」

「レイ、私、そう言えば詳しくその時の事聞いてないんだけど…?」

「え、いや、それはな、別に詳しく語る程の事は…」

「へ〜、A級冒険者や英雄を瞬殺する魔人を、一時的に足止めした戦闘が、語る事がないんだぁ」

「うっ」


 どこかわざとらしく言うシャルステナに、俺は声を詰まらせた。

 あんまりしたくはなかったんだけどな…

 シャルステナが怒りそうだから…


 俺は少し憂鬱になりながらも、説明を始めた。


「……まず魔人と向き合った俺は会話をする事にした。理由は二つ。一つは時間を稼ぐ事。もう一つは罠を仕掛けるためだ。その会話で、大進行の原因が邪神の加護の結晶だと知った。それから、俺は水竜で攻撃した。水竜はな、ブレスが一番派手で威力はあるけど、最強は別にあるんだ。それはな、修復能力と吸引力だ。水竜はちょっとやそっとの攻撃じゃ破壊できない。それプラス、あいつの体の中に少しでも侵入した物を、飲み込むようにできている。それで魔人をギルクと同じ様に飲み込んだ」

「そんな機能まであるんだ…」

「私、あの竜が出たら、すぐに避難する事にします」

「レイさん、さすがです」


 シャルステナが呆れたような声を漏らし、リスリットは逃亡宣言をし、ライクッドは目を輝かせていた。


「そうして飲み込んだ魔人を、魔力爆発で攻撃した」

「ちょっと待って!レイまた魔力暴走したの⁉︎」


 シャルが大きな声をあげて、ストップをかけてきた。

 俺を問い詰めるかのような視線で睨んでいる。

 怒ってる。これは…

 俺は直感的にそう感じた。


「いや、違うシャル。俺は魔力暴走を起こさずに、魔力爆発を引き起こせるようになったんだ。…その時に」


 俺は慌ててシャルステナをなだめにかかった。

 しかし、シャルステナは疑うような視線を向けてくる。しかし、そこでリスリットから助け船がきた。


「それって、前に見せてもらった魔爆ってやつですか?」

「それだ!それでやったんだ!…で、それを受けて怒った魔人を挑発して、俺は罠へと引き込んだんだ。そこで一瞬足止めしてから、罠を発動させた。それはまた魔力爆発だ。俺には魔人にダメージを与えられる技がそれしかなかったからな。その魔力爆発は水竜の時とは比べ物にならない威力だったんだ。さしもの魔人もボロボロだ。だけど、そこで奥の手を出してきた。邪神化と奴は言っていたけど、それで大幅に強さが増したんだ。そっからはボコボコだよ。何をやっても通用しなかった。はっきり言って立ってる次元が違った。俺なんか虫みたいなもんだった。それで、殺されかけた時に、親父が俺とハクの友達の竜に乗ってやってきたんだ。そっからは親父と魔人の戦いだった。殆ど互角の勝負だったが、俺にダメージを与えられていた魔人の方が先にダウンした。真っ二つにされて、蹴られて燃やされてた。あれは敵ながら哀れだったな…」


 助け船に乗り込み、また窮地に陥る前にと一気に説明を終える。

 ふぅ、これで一安心だ。


「……私達の聞いた話と全然違いました。ギルク先輩、本気で捏造してたんですね」


 あれを見ろ、あれを。

 まだ叫んでんぞ。あれがあいつの本気だ。


「レイさん、やっぱり凄いです!めっちゃ活躍してるじゃないですか!」


 悪くないな。

 やっぱ、少しくらい活躍した事を、知っててもらいたいものだ。あれ、いたの?みたいな扱い嫌だ。

 武闘大会が終わったら、ギルクにどうにかしてもらおう。


 さて、あのスーパーギルクに変身前の奴をどうしたものか……

 放置して帰るか……?

 うん、そうしよう。


 そうして、ギルクを置いて、俺たち4人は演習場を後にした。


 ギルクの叫びは、その後も学園に鳴り響いていた。


異夢世界を読んでいただきありがとうございます!


ゴールデンウィークがやってきましたね。なので、いつもより多めに更新できると思います。





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