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39.レイ先生

ちょっと長めです。

 3月、学校が始まる直前。

 少し余裕を持って1週間前にシエラ村から戻ってきた。折角の休みだからとシャルステナ達と遊ぼうと戻ってきたのだが、帰って早々ギルクに呼び出された。職員室に…

 俺何かしたか?

 身に覚えがないんだか……


 伝えに来たのはシャルステナだったが、彼女は何も知らされてないようで、ギルクに聞いてくれとの事だった。

 要件ぐらい伝えとけってんだ。それを聞いて行くか決めるのに。

 そんな事を考える奴だから、ギルクは伝えなかったのだとはつゆほどにも考えず、仕方ないと俺は職員室へと向かった。


「お、きたか」

「なんだよ、ギルク。俺何も悪い事してないぞ?」


 職員室の扉をくぐるとギルクが待っていた。何をしているのかは知らないが、仕事をしながら待っていた。


 俺は職員室に呼び出される様な事はしてないので、堂々と中に入る。もし何かあっても君にそのままお返しよう。フルコース一回で。


「どうだかな。まぁそれはいい。座ってくれ」


 俺が何かしたかについては誤魔化したように言い、ギルクは俺をソファーへと案内すると、自分も正面に腰掛けた。


「それで怒られるんじゃないのなら、何の用だよ?」

「頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事?シャルのパンツか?悪いが手に入れたとしても、お前には渡さない。俺がもらう」

「それもいいが、今回は違う」


 俺の冗談を軽く流したギルク。

 いつもなら、もっと乗ってきてもいいのに。

 どうやら今日のギルクは真面目王子モードらしい。


「今回はお前に担任を請け負ってもらいたいんだ」

「は?担任?」


 サラッと気負う事なく言ったギルクに俺は間抜けな声を漏らした。

 意味がわからん。

 なんで俺が担任を受け持たなきゃならんのだ。


「まぁ、そうだろうな。順を追って説明しよう。リナリー先生が妊娠されたのは知ってるか?」

「……初耳だ。いつの間に…」

「そうか。冬休みに結婚なされたんだ。相手はハリス先生だ、知ってるだろ?」

「あの二人がくっ付いたのか………。最近周りで知らない内にくっ付く奴が多発してるんだが…」


 バジルとシャラ姐に続き、リナリー先生とハリス先生もか。

 次はどこがくっ付くんだ?

 後周りでくっ付きそうなのは、ミラ姐、ギルマス、ゲルクか。やばいじゃん。三角関係勃発してるじゃねぇか。修羅場だな。今度コソッと噂流してみよ。


「まぁ、今回はリナリー先生が妊娠したのが問題でな。流石に妊婦に剣術を教えさせる訳にはいかないため、臨時教師を探したんだが…」

「見つからず、困り果てて俺に来たと?おかしいんじゃねぇか?俺学生なんだが?」


 普通教わる立場だと思うんだ。何がどうしたら教える側に変わるのだろう。金払ってるし……


「その通りなんだが、急過ぎて前期の間はどうしても教員の補充が効かない状況なんだ。それに、……お前暇だろ?」

「……暇だな」


 確かにギルクの言う通り、今年俺は暇なんだ。

 何故なら、全ての授業を取り終えてしまったからだ。

 今年は卒業式と武闘大会以外はほとんどやる事がない。


「その暇なお前に、頼みだ。前期だけ担任と剣術と魔法を教えてやってくれ」

「ちょっと待て、なんで担任と魔法が含まれたんだよ」

「トリス先生も休業されたからだ」

「……魔法はいいにしても、担任なんて面倒だ」


 なんでそんな面倒を俺がやらねばならんのだ。

 剣術と魔法だけでいいだろ。

 それなら、バシバシ鍛えてやる。

 担任は色々しなくちゃいけなそうだから、やりたくねぇ。


「と言われても、他に空きがない。朝の時間暇なのはお前だけだ」

「校長繰り出せよ。あの人暇だろ?」

「そんなわけあるか。校長は色々とやらないいけない事が多いんだ。暇じゃない」

「嘘だろ⁉︎年数回しか見ないんだけど、あの人……」


 校長年数回だけじゃなかったのか……

 密かに忙しかったんだな、あの人。


「あちこち行かなければならない役職だからな。やってくれるか?」

「……まぁ、前期だけなら引き受けよう。後期というか、夏休み手前から無理だ。条件として、テストの日にちを早めるならやってもいい。後金よこせ」


 ただ働きなんかしたくねぇ。

 別に金はこれ以上いらないが、ただ働きよりはましだ。

 暇であるのは事実だし、友人の頼みなら断る理由もない。それに世話になった人達が休むんだ。恩を返すつもりなってやれば、嫌な気分にはならない。

 ただ、俺にも色々と今年の計画はあるので、テストの日程をずらしてもらう事にした。


「テストはまぁいい。引き受けてくれるだけましだからな。金はもちろん出す。俺達のフルコースに使ってくれ」

「ふざけんな。シャルしか連れていかねぇよ」


 なんで必死に働いた金で、お前に奢らないといけないんだよ。可愛い女の子に奢るわ。


 それからギルクに請け負うクラスと教員の仕事について教えて貰った。

 面倒な事はギルクにやらせる事にして、俺は授業メインの教師としてやる事にした。

 面倒事ぐらいやってもらわないとな。


 それからギルクから詳しい説明を受けた。


 俺が請け負うクラスは3ーEらしい。

 どうも優秀な方へと先生が流れていった結果らしい。

 そうして、一番伸び率が低そうな3ーEが余ったそうだ。

 余りいい話には思えないが、ギルクは俺なら他の先生よりも優秀だと太鼓判を押してくれた。

 そして、上手いこと乗せられた俺は、どうせなら全員Aクラスに上げてやろうと密かに企むのだった。



 〜〜〜〜〜〜


 さて、今日から俺の教員生活が始まる。

 今日は朝の修行はやめておいた。何があるかわかんないし、今日は余裕を持って授業をやりたいと思ったからだ。


 俺は学生服に身を包むと、いつものように登校、いや出勤した。

 職員室の自分の机に荷物を置いてから、教室へと向かう。


 ガラガラガラ


 教室へと入ると俺に視線が集まる。そして、キョトン不思議そうに俺と満席になった教室を見比べる。

 それはそうだろう。

 先生かと思いきや、学生服を来た奴が入ってきたんだから。しかも、席に空きがない。確実に生徒ではない。

 誰だこいつ、みたいに思っているんだろう。


 俺はその視線の中を堂々と進み、教卓の前まで歩いた。


「はじめまして。前期の間だけこのクラスの担任と授業全般を請け持つ事になりました、レイです。見ての通り、まだ学生ですが、急遽欠員が出た為、このような措置を取る事になりました」


 俺はここで一呼吸置くことにした。

 生徒に事態を飲み込ませるためだ。いきなり、担任が学生になったのだ。

 唖然としている者がほとんどだ。

 その中で1人、手を挙げる者がいた。


「どうしたのかな?」

「レイ先輩が全ての授業を受け持つんですか?先輩は授業を受けなくていいんですか?」


 そう聞いてきたのは、獣人の女の子だ。

 この学校には珍しい獣人みたいだ。

 灰色の毛に覆われた耳と尻尾がある。あの耳の形は犬かな?

 髪の毛の間から、ピョコっと可愛らしく生えている。


「それなら問題ない。俺は4年と5年で全て取り終えたからね。知らないかもしれないけど、4年以上は全学年合同授業なんだ。だから、やろうと思えば2年で全て取り終えれる」


 俺がそう何気なしにそう言うと、驚愕する様な顔をする生徒達。


「そ、そうですか。レイ先輩は優秀なんですね。私達と違って…」


 そう獣人の女の子が言うと、少し暗い雰囲気が教室を覆った。それはきっと誰しもが抱いた事のある気持ち。

 劣等感か…

 俺はずっとAクラスにいたから、そう言ったものは感じなかった。だけど、この子達はそれを常に感じているんだな。


「…俺は優秀じゃない。ただ我儘に全てを欲しただけだ」

「それは優秀だからできるんですよ…」


 無理だな…

 この子達にとって、俺が優秀であるように見えるのは仕方ない。例え、それが俺なりに必死に努力した結果だとしても……

 そんな俺に何を言われたって、心には響かないか。

 そんな事を思いながらも俺は燃えていた。


「じゃあ、その超優秀な俺がみんなを優秀にしてやる」


 俺はニヤッと笑って言った。

 落ちこぼれ達の逆転劇、いいね。燃えるね。やってやろうじゃないの。


「無理です。先輩が優秀でも、私達はそうではないから」

「馬鹿か、お前。超優秀な俺が手取り足取り教えるんだぞ。落ちこぼれでもなんでも、優秀なんかチョチョイのチョイさ」


 俺は安心させるように、堂々と自分を超優秀と言い張った。

 まずはやる気だ。

 やる気がないと何も始まらない。


「……なら、やってみてくださいよ。出来るわけがない」


 俺を試すような視線を向けてくる生徒達。

 どいつもこいつも、そんな事出来る訳がないと言った表情をしている。

 やばい。なんか楽しくなってきた。


「いいね。やってやろう。その代わり、ちゃんと授業受けろよ?前期だけは」


 そうして俺の教師生活は始まった。


 〜〜


「よし、全員集まったな。おい、そこの犬」


 俺は犬耳少女を指差した。


「えっ?私ですか?」

「そうだ。名前知らないからな」

「リスリットです!さっき言いました!」


 犬耳がピンと立ち、尻尾も真っ直ぐ伸びて少女は怒りを露わにした。


「何十人も覚えられるわけないじゃん。それで、リス…………リス、このクラスは何人だ?」

「リスリット!…25人です」


 リスリットは少し怒りながら、名前を叫んだ。俺はそれを無視し、聞きたいことだけ聞き取った。


「よし、足りるな。じゃあこれ1人一本持ってけ。俺からのプレゼントだ」


 そう言って俺は収納空間から、真剣を25本取り出した。安物だけどな。

 後でギルクに請求しよう。必要経費だ、よこせと。


「な、なんですかそれ…?」

「スキルだ。便利なんだ。それよりほら、持ってけ」

「わっ!危ない!」

「鞘に入ってんだから、危なくないわ」


 俺が軽く剣を放り投げると、慌てた様子でそれを受け取るリスリット。

 それに俺は何をしてるんだと突っ込む。

 逆に慌てて取るほうが危なかっしい。運動オンチかこいつは。

 獣人なのか?ほんとに…

 獣人に身体能力が優れていそうなイメージがあった俺は訝しげな視線をリスリットに向けた。


「よし、全員持ったな。じゃあ、こいつらを相手に戦え。出てこい、ドール」


 俺は魔法を発動した。

 すると、地面から土が盛り上がり、人形へと形を変えた。

 生徒達はみな唖然としていて、一部の者には尊敬の念が混ざり始めた。

 初めて見る魔法だからだろうか。

 皆戸惑っていた。どうしたらいいかわからないと言った感じだ。


「1人一体が相手だ。そいつらは俺が操作しているから、魔物みたいに殺しに来る事はない。攻撃はするけどな。だから、安心してやれ。ダメなところは俺が逐一言ってやるから」


 ドールはロボットの魔法だ。

 ただ、よく使うのでイメージし易いように名前をつけたのだ。

 この方が咄嗟に魔法を組み上げられるからな。


 今の俺は複数思考と思考加速で、30体までなら同時に動かせる。

 25人しかいない今なら、思考一つ分余る程に余裕がある。

 なので、操りながら指導をやる事も可能だ。


 リナリー先生のように、ペアでやっても良かったのだが、俺が操った人形の方が、ダメなところを突いたり出来るので、効率的だと思ったのだ。

 ドールは俺よりは劣るが、それでも3年生ぐらいには負けるような動きはしない。

 だから、これがベストのはずだ。


 少しずつ、ドールと戦闘を始める生徒達。俺はそれを空間スキルで感じ取りながら、隙をついては指導を繰り返す。

 これを続けていけば、前期の間で十分Aクラスに追いつけるだろう。

 何故なら、アンナとゴルドに教えたやり方とほぼ同じだからだ。

 まぁ、あの二人は本体である俺にやられたんだがな。


 そうして、25人全員をボコボコにしたら、今度は近接戦闘に役立つスキル習得のお時間だ。

 これはリナリー先生の時にはなかった。だが、スキルの習得はかなり重要だと俺は思う。

 スキル一つあるだけでかなり動きが変わってくる。


 どうもこいつらは近接系統のスキルを持っていないようなのだ。

 動きが非常に悪い。

 スキルを持っていれば、誰にでも出来そうな事が出来ない。なので、スキルを身につけさせようと考えたのだ。


 俺はまず、身体制御を習得させる事にした。

 無理な体勢で、数秒間耐える。すると、あら不思議、身体制御が手に入る。

 その後はみんなで空中散歩だ。


「いやぁぁああ‼︎」


 リスリットが悲鳴をあげて飛び上がっていった。

 俺はそれを最後まで見ずに、次の生徒を掴む。

 紫色の髪の男の子、ライクッドは冷や汗を流して掴まれた箇所を見た。


「行ってこい!」

「や、やめ、うわぁぁぁあ‼︎」

「……ぁぁぁぁあ‼︎」


 ライクッドは落ちてきたリスリットとすれ違うように空へと上っていた。

 リスリットは反転空間でバウンドさせてから、着地させた。


「さあ、どんどん行くぞ」


 そうして、周りの生徒や教師がドン引きする中、3ーEの生徒達は空に打ち上げられていった。

 これで全員、空中制御を覚えられただろう。


 初めの方のスキルは進化しなくても手に入る事が分かっている。

 上位のスキルになると、それをするのは非常に難しいが、レアまではなんとかなるスキルがある。


 今やった空中制御なんかはまさにそれだ。

 無茶な体勢でバランスをとらせてやればいいんだ。

 後は成長すれば、アクロエアロバットになるはずだ。

 だけど、アクロだけは先に出来る。エアロはちょっと空中制御が出来ないと厳しいが、アクロなら出来ないことはない。


 という事で今度は全員にバク転させた。出来るまで…

 泣きそになる者にはちゃんと補助をしてやった。

 そうして、全員がスキルを習得とし、ボロボロになったところで剣術の授業は終了した。


 さて、次の授業は算術の授業だ。

 ここで活きてきたのはシャルステナに教えた経験だ。

 まずは算術のスキルを全員に覚えさせる。

 それから、ひたすら計算させる。

 それだけだ。授業というより、問題を解かせる演習みたいなもんだ。


 そうして、脳を使い切ったら、今度は魔法の授業だ。

 俺はまずマリスさんイメージ理論を教室で説明する事にした。

 魔法は魔力さえあれば、後はイメージと魔力操作が出来るかいなかの話だ。

 まずは先にイメージの方を覚えさせよう。


「…つまりだ。魔法を唱える際に、その魔法に必要な要素が何かきちんと理解している事が重要なんだ。わかったか?」


 その問いかけに反応はない。

 みなすでにグロッキーだ。だが、寝ている者はいない。ちゃんと聞いてはいたようだ。

 よし、次は魔力操作だな。


 再び演習場へとやって来た。

 そして、まずは全員に魔力操作のスキルがあるか聞く。

 するとほとんどの者が持っていなかった。


 やっぱり、ゴルドと一緒だな。授業の仕方変えた方がいいんじゃねぇか?

 一番始めにやる要素をやっていないから、落ちこぼれなんかが出るんだ。

 ギルクに言っておかないとな。


 俺は全員に魔力操作を覚えさせる。

 ゴルドの時と同様にして、1人1人覚えさせていった。

 それで時間がなくなり、今日はお開きとなった。

 全員ぐったりしていたが、部屋に帰ってプレートを見れば元気になるだろう。


 全員今日1日でかなりのスキルを習得したはずだ。

 今はまだ半信半疑だろうが、本当だと分かれば、元気も出てくるはずだ。

 取れていない者がいても、またやらせればいいしな。


 そうして、教師1日目の授業は終了した。


 授業が終わった俺は職員室へと戻った。そして、ギルクが戻って来るのを待つ。

 しばらくして、ギルクが戻ってきた。ギルクは3ーAを担任しているらしい。

 自分は優秀なクラスを受け持って、俺を下にしてくれるとはやってくれる。


「早いな。問題なかったか?」

「大有りだ。あいつらに何教えてたんだよ。今日1日で全員5個はスキル覚えたぞ?」


 ほんと何を教えたんだよ。

 基本がなってなさ過ぎるんだよ。基本が出来ていないのに、その応用を教えても出来るわけがないだろ。

 授業方法を見直すべきだ。


「……意味がわからん。そんな簡単に手に入るか」

「手に入るさ。魔力操作なんか基本だろ?」

「基本だが、教えるなんて、そう簡単には出来ないぞ。口で説明するだけでは、なかなかわかってくれない」

「……まさか魔力感知出来ないの?」

「初めて聞いたぞ、そのスキル」


 そりゃ無理だ。俺だって魔力感知がなければ、なかなか教えるなんて出来ない。

 今、魔力を操作できていると教えられるか否かが魔力操作を教えるコツなのだ。

 そのコツが使えないとなると難しい。


「まじかよ…そりゃ教えられないわけだ。冒険者とかなら結構持ってんだけどな」


 親父や母さんを始め、バジルやシャラ姐も持ってるはずだ。結構、一般的なもんだと思ってんだけどな………ちょっと待てよ。よくよく考えて見れば、あの人ら一般的じゃないな。一般より、上だな。

 親父と母さんは言わすもがな。シャラ姐は親父の弟子だし、バジルは……よくわからん。

 だいたい、なんでただの呑んだくれが、あの強さを持ってるのかさえ、謎だ。意味わからん。


 つまり、何が言いたいかと言うと、あの人ら基準で考えるのはよくないなってことだ。

 今更過ぎるが、基準にしてたとこがおかしかったと言う事に俺は気が付いた。


「…ギルク、魔力感知教えてやろうか?」

「頼む」


 そうして、俺たちの補習授業が始まった。




 〜〜〜〜〜〜


 次の日、俺が教室に行くと昨日とは全く違った態度で出迎えられた。


「先生!おはようございます!」

「ああ、おはよう」

「先生!ここがわかりません!」

「ああ、それはな…」

「先生!今日は何を教えてくれるんですか⁉︎」

「えっとな…」


 そんな具合に口々に生徒から、質問や挨拶が投げかけられた。

 昨日の朝と打って変わり、その眼は活気に満ち溢れていた。どうやらやる気が出たらしい。

 この調子でどんどんやっていこう。


「さてと、じゃあまず、今から書き出すスキルがない者は手を上げてくれ。今日はそれを習得しよう」


 そう言って昨日やったスキルと身体強化、観察、忍び足、魔法各種スキルを書き出した。

 すると、昨日やったスキルは全員手を下げたままだったが、他はほぼ全員手を上げた。


 なるほど、こいつらスキル持ってないだけなんじゃないか?

 それを覚えれば、Aまではいかないにしても、落ちこぼれにはならないはずだ。


「よしわかった。じゃあ、新しく書いた魔法系以外はここで覚えようか」

「ここでですか?」


 少し心配そうな顔をして、リスリットが聞いてきた。

 ここでやるのは危ないと思っているのだろう。だけど、今書いたスキルはわざわざ、演習場に行く必要もない。時間の無駄だ。


「大丈夫、ここで出来る。まずは…そうだな、何でもいいから、自分の持ってる物をよく見ろ」


 そう言うと不思議そうにしながらも、全員適当な物を出して、観察を始めた。

 しばらくして、やめと言って全員にプレートを確認させる。

 昨日、持ってくるように言ったのだ。

 逐一確認する方が早いからな。


「スキルだ!」

「増えてる!」

「スゲェ!」


 生徒達は口々にそう感想を漏らす。

 彼らはおそらく、昨日までほとんどスキルを持っていなかった。

 それが昨日と今日でポンポン増えていくのだから、興奮してしまうのも無理はない。


「よし、全員取れたな。次は、全員足音を立てず移動しろ。ゆっくりでいい」


 俺がそう言うと、椅子から立ち上がり、静かに移動し始める生徒達。

 俺はそれを時間を置いてから、再び止める。

 全員取れた事を確認し、次のスキル習得を始める。


「今度は身体強化のスキルだ。これはちょっとだけ難しい。だから、俺が1人1人指導していく」


 そうして、俺は1人1人個別に指導を始めた。

 魔力感知で昨日覚えさせた魔力操作の動きを見て、身体全体へと広げさせていく。

 そうして、全員にスキルを覚えさせて、朝の授業はおしまいだ。


「これで朝の授業は終わりだ。剣術は今日はしなかったが、こっちの方が早く強くなれるからな。明日からは普通に剣術の授業だからな?」


「はい!」と元気よく頷いた生徒達。

 俺はその声を聞くと、食堂へと一直線に駆け出した。

 この時間は戦いなのだ。

 早く席を確保しなければならない。


 〜〜


 昼食をとり終えた後は座学だ。

 今日もひたすら計算させた。わからない所だけ解説し、後は各自で計算だ。


 この世界では算術程度なら、ひたすら計算あるのみなのだ。スキルのレベルが上がれば、後は計算方法を覚えれば終わりだ。

 俺はとにかく効率を重視しているので、こういった教え方になる。しばらくはこれでいい。

 カンストしたら、ちゃんと教える。


 算術の授業が終わると次は魔法の時間だ。

 俺は生徒を引き連れ演習場へとやってきた。


「さてと、授業を始める前に、言っておかないといけない事がある。魔力操作の危険性についてだ」


 俺が真剣な表情で危険性について話すと言うと、生徒達も真剣な表情を浮かべた。

 

「魔力暴走について何か知っている奴はいるか?」

「魔力を操作出来なくなり、暴走する事ですよね?」


 リスリットがすかさず答えたが、それでは足りない。

 俺は他には?と聞いて、見渡したが他には誰も答えようとはしなかった。

 たぶんわからないのだろう。

 それは仕方ない。俺も自分で体験してなかったら、わからなかっただろう。


「リスリットの言った事は正解だが、完璧じゃない。確かに魔力が制御出来なくなった時に、魔力暴走は起こるが、魔力操作のスキルを持っていれば、そうそう制御が出来なくなる事はない。じゃあ、どういった時に起こるのかだが……魔爆玉」


 ドガーン!


 俺は少し離れた場所に魔爆玉を打ち込んだ。

 すると、大きく地面を削り、穴が開く。


「今のが魔力暴走だ」

「えっ?今のが…?魔法じゃなくて?」

「そうだ。魔力暴走は魔力の密度を高めた時に引き起こされる現象だ。つまり、魔力の密度を高めなければ、起きない。だから、魔力操作をする時は一箇所に集め過ぎるなよ?今のように暴走に巻き込まれるぞ」


 魔法ではないのかと聞いてきたライクッドに、危険性と共に魔力暴走について解説した。


 俺は魔爆玉を教えるつもりで、魔力暴走について話をしたのではない。

 魔力暴走を引き起こさないために教えたのだ。

 年に何人かは必ず魔力暴走を引き起こしている。それはこの事を知らないからだ。


 だけど、俺の時のような威力の暴走は起きていない。

 それは圧縮した魔力の量が少ないからだ。

 だけど危険な事には変わりない。


 将来、上級を使う者がこの中にいるかもしれない。

 その時に魔力暴走が起きれば、俺の時ほどではないだろうが、シャレになるレベルではない。

 だから、知っておいて欲しかったのだ。


「それじゃあまずは昨日のおさらいからだ。ファイアボールを唱えるのに必要なイメージは?」

「火と球です」


 俺の問いにすぐに答えたリスリット。少し誇らしげな顔をしている。


「正解。じゃあ、火と水、それと煙をイメージするとどうなる?」

「…スモーク…ですか?」


 少し自信なさ気に答えたのはライクッドだ。この二人は生徒の中でも特に気合が入っている。

 余程強くなりたいのだろう。


「正解。では、風と火と水、それから螺旋をイメージするとどうなるでしょう。魔法名はないからな。結果だけ、考えてみろ」


 俺が今適当に考えたから、あるわけがない。

 あったとしても知らない。


「…三属性の竜巻が起きるのではないですか?」

「惜しい、後一声」

「雲…になる」

「二人合わせて正解。そう、雲になるんだ。魔法は属性を組み合わせると、一つの属性では起こせない変化をもたらす事が出来るんだ。火と水を組み合わせると水蒸気が発生する。これがさっきの問題でいう雲になるわけだ。じゃあ、土と火を組み合わせるとどうなる?」


 今度は魔法ではなく、複数属性における変化の問題だ。組み合わせとつぎ込む魔力によって、その結果は左右される。その為この問題の答えは複数ある。


「溶ける」


 今度は自信有り気に答えたリスリット。確かに合ってるが、不十分だ。


「半分正解。けど、それだけじゃ不十分だ。魔力を沢山使えば、確かに溶ける。だけど、少なければ火が消えて、何も起こらない。これが正解だ。たぶん、まだお前らには溶かす程の魔力はない。だから、いずれ試してみるといい。こうなるから」


 俺は二つの土を熱した。

 一つは魔力を沢山つぎ込み、一つは少なくしたものだ。

 前者はすぐに溶けて溶岩のようになったが、後者は何も起こらなかった。熱が足りないのだ。少しあったまった程度にしか変化していない。


「…とこうなるわけだが、魔力の少ないお前達にもこれを溶かす方法がある。それは別々に魔法を唱える方法だ。土の塊を作る魔法とそれを溶かす火。一つ一つ別々にやれば、同じ変化を起こす事が出来る。しかも、魔力消費は小さい。これにも一応、理論があるんだが教えない。知らなくてもいいしな。ただ組み合わせると、二つの魔法に必要な魔力が掛け算されるとだけ、知っておけばいい。これの理論は役に立たん」


 この魔力の理論は俺が考えたものだ。

 マリスさんの本を参考にして、考えた。


 ある魔法を発動する。すると、世界への干渉値の大きさから必要な量の魔力が消費される。そして、その魔法はこの世界に干渉する権利を手に入れるのだ。

 そこに新しい魔法を唱えると、干渉するのは世界ではなく、権利に干渉する事になる。

 多少、世界にも干渉するだろうが、メインは権利だ。だから、魔力消費が少なくて済むというのがこの理論だ。


 正しいかはわからないが、何回も実験した結果、組み合わせの場合は、別々に発動する時の魔力消費を掛け算した程度の消費がある事がわかった。

 これは間違いない。

 なので、せっかくだからと教えてあげた。


 説明が終わると、生徒達の眼には尊敬の念が含まれるようになった。

 たぶん、俺が考えたから、正しいかはわからないと言ったからだろう。

 少しむず痒いが、悪い気はしないので放って置くことにしようか。


「…というわけでだ。お前らには魔力消費が少ない魔法ばかり覚えてもらう。まずは4属性全部を出せるようにしようか」


 そうして、今日の魔法の実践が始まった。

 今日は一つの属性を発動させる魔法だけをやった。

 まずはスキルを取らないといけないからな。


 そうして、今日の授業も終わり、帰ろうとすると熱心な生徒に引き止められ、時間外労働に勤しむ事になった。

 熱心な生徒とはリスリットとライクッドだ。

 二人が頭を下げて、お願いしてきたので、俺は仕方なく時間外労働に勤しむ事にした。


「それで?何を教わりたいんだ?」

「私は戦闘実践を教わりたいです」

「僕もそうです」


 戦闘か…

 確かに、まだ真面な戦闘の授業はないよな。

 その前段階だもんな。

 どうしようか?

 まだ早いって言って、授業の予習でもするか?

 けど、わざわざお願いして来たんだ。それじゃあ、二人に悪い気もするな。


「……まぁ、いいか。ただな、お前らは基礎が終わってないからな。やりながら、基礎を教えてくぞ」

「はい!」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ、二人が魔法か近接どちらが得意か教えてくれるか?」

「私は近接です」

「僕は魔法です」


 丁度いいな。前衛と後衛に分かれて練習出来る。


「じゃ、リスリットが前で、ライクッドはその後ろで魔法を唱えろ。基本的に複数の人間で戦闘をする時は、前衛と後衛に分かれる。人が多ければ、中衛にも分かれるが今は二人だから、前衛と後衛だけでやる。動きとしては、前衛が敵の動きを止める。後衛がその補助と高火力の攻撃をする役目だ。チームワークが大事だからな。協力して俺に一撃入れてみろ」

「先生が相手なんですか?」


 リスリットが首を傾げて、そう言ってきた。

 首を傾げる要素あったかな?俺以外にどこに相手がいるんだよ。


「他に誰がいるんだよ」

「そうですけど…私的には技とかを教えてもらえるのかと…」

「いや、お前らそのレベルじゃないからな。はっきり言って、俺の3歳の時より弱いし」


 俺の3歳頃なんか、魔法も初級は使いこなしていたし、剣もゴブリン程度なら瞬殺できた。

 しかし、この二人は今日魔法をまともに使えるようになり、俺が3歳の頃にはほとんど持っていたスキルを手に入れた。

 そんないわば初心者に技なんか教えれる訳がないだろ。


「そこまで弱くないですよ」


 俺の言葉が冗談だと思ったのか、二人は軽く笑みをこぼした。

 冗談じゃないんだが…

 まぁ、いいか。あの頃から俺はすでに異常だったのはわかってる。実際に見てみないとわからないだろう。


「…とにかく、技の前にお前らはやらないといけない事が、沢山あるんだよ。それが出来たら教えてやる」


 そう俺は約束してから、訓練を始めた。

 日が落ちるぐらいまでやり、二人をボコボコにしたところで訓練は終了した。

 二人は最後まで泣き言も言わずにやっていた。

 これを毎日続ければ、彼女達はこの学年でトップを張れるぐらい強くなれるだろう。

 是非折れずに頑張ってもらいたい。


 そうして、2日目が終わり、職員室に戻るとギルクが待ってくれていた。


「悪いな。遅くなった」

「いや、俺もする事があったから、別に構わないさ」


 ギルクは机の上に広げていたプリントを片付け、帰り支度を始めた。

 テストの採点でもしていたのだろうか?

 結構真面目に働いてるんだな。


「今日は遅かったな。生徒に捕まったか?」

「よく分かるな。そうだよ」

「俺も偶に捕まるからな。それで、今日は何を教えてたんだ?結構噂になってるぞ。お前の授業はわかりやすいって」


 帰り支度を終えたギルクと職員室を出て、暗くなった校舎を歩く。


「お、まじ?さすが俺。2日目にして頭角を現してきてしまったか。今日はな、スキルばっかり教えた。10ぐらいおしえたかな?」

「お前はどれだけスキルを持ってるんだ。普通、そんなに教えられる種類はないぞ」

「まぁ、簡単なものだけだよ。ノーマルはチョロいからな」

「それはお前だけだ。…はぁ、悔しいが、お前の生徒が羨ましくなってきたぞ、俺は…」


 ギルクが少し羨ましそうな眼をしてきた。

 別にこれぐらい教えてやるのにさ。


「ギルクになら、タダで教えてやるさ。別に大したスキルじゃないしな。進化したら結構ヤバめになる奴もあるけど…」

「是非頼む。最近、スキルが増えなくて困ってたんだ」


 俺もそういう時期あったな。

 今も改善されたわけでもないけどな。

 耐久系列が増えた分マシか。


 そうして、今日も俺はギルクにスキルを教える事になった。

 まぁ、全部なかった訳ではないので、其れ程時間をかけずにスキルは習得できた。


 こんな風に俺の教師生活は続いていった。



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