37.平和な恒例行事
王都進行編ラストです
「な、夏休みがない、だと…⁉︎」
驚愕を隠さず、俺は今聞いた衝撃の事実を繰り返した。
あれから一週間ほど経ったが、毎日シャルステナは朝修行をしている。俺も、というか以前からしていたので、当然のごとく、二人で一緒に模擬戦をしたりなどしている。
そして、いつものように修行を終え、少し話をした途端にこれだ。
とんでもない事が発覚してしまった。
一大事だ。
シャルステナがどこからか仕入れてきた情報によると、授業は来週から始まり、そのまま夏休みも通してやり、後期に突入するというのだ。
「うん、らしいよ。休校した分を取り戻すんだって」
「……校長に抗議しよう」
「えっ⁉︎」
シャルステナは少し驚いた様子で声をあげたが、俺は当然のことを言ったと思う。
だって、夏休みがなければ、川に行けないじゃないか‼︎
これは、大変遺憾である。
何としても休みを確保しなければならない。
「夏休みは学生にとって、メインイベントと言って過言ではない最重要イベントだ、と言って説得する」
「む、無理じゃないかな…?」
「大丈夫、こっちには王子という切札がある」
ギルクの権力でどうにかしてもらおう。
こういう時の王子だ。
強権を使って、やってもらおう。
「ギルクは向こう側なんじゃ…」
シャルステナの呟きにハッとする俺。
そうだった…
あいつは今教師なんだった。
くそっ、裏切り者め。
「…とにかく、何とかするぞ」
「それって、私も?」
「もちろんだとも」
私も巻き込まれるのと訊いてきたシャルステナに、頷き返す。
こないだ巻き込まれたいと言ってたじゃないか。
ちゃんと巻き込ませてもらうよ。
俺の返答を聞いたシャルステナは引き攣った笑みを浮かべていた。
そうして俺たちは夏休み確保の為に動き始める。
まず最初に俺たちが行ったのは、仲間を増やすことだ。
人数を集めて暴動を起こそうなんて考えてないよ?
人が多い方がいいかなぁってだけだよ?
「みんな、集まってくれてありがとう。今日は重要な知らせがある。すでに知ってる者もいるかもしれないが、学院が夏休みを返上して、休校した分を取り戻すという暴挙に出た」
俺が、一大事を告げると反対的な声があがった。
「そうだ。こんな暴挙許してはならない。俺たちは今一丸となって、この暴挙に立ち向かわねばならないのだ!」
俺が手を空に突き出し、そう言うと、同調した者たちも空に手を突き出し、おお〜‼︎という歓声をあげる。
「…というわけで、校長を脅しに行くぞ!」
再び、おお〜‼︎という大歓声があがった。
総勢500名の生徒が一致団結して、校長を脅しに、ではなく、交渉へと向けて動き出しす。
大行進。
そう呼ぶにふさわしい光景が、寮から学校への通学路に出来上がる。
そのリーダーとして、先頭を歩くのは俺ーーではなく、シャルステナだ。
「ちょ、なんで私⁉︎」
グイグイと背中を押して、先頭を歩かせていたら、シャルステナが抗議してきた。
「いや、やっぱりここは学院創設史上最優秀と名高いシャルステナさんが率いるのが、いいかなと」
「ちょっと待ってよッ!さっき迄、レイが仕切ってたじゃないっ」
それに嫌味にしか聞こえない、とシャルステナは猛反発した。
嫌味なんて言ってないのになぁ。
シャルステナがそう言われてるのは事実なんだけどなぁ。
確かに俺はシャルステナより強し、勉強もできるけど、俺は学院創設史上最問題児って言われてるんだけどなぁ。
「俺は、あれだ、シャルの副官、幹部、手下だから」
「そんなのいらないわよっ。……レイが言い出したのに…」
シャルステナは諦めたように、頭を垂れた。
「その原因を作ったのはシャルだから」
俺はシャルステナが夏休みがなくなると言ってきたから、こうして抗議行動を起こしたのだ。
だから、主犯はシャルステナなんだ。うん。
俺はシャルステナの意を汲んで行動しただけなんだ。
実に優秀な手下だな、俺は。
そうして項垂れるシャルステナに率いられ、俺たちは校舎へとやってきた。
「じゃ、リーダーに敬礼!後はよろしくお願いしますリーダー!」
シュビッと手を額に当て、俺は敬礼した。
後から続いて、後ろからくる生徒達も敬礼を始める。
「えぇっ⁉︎私だけ行くの⁉︎」
「この人数は校長室に入らないからな」
驚愕するシャルステナに俺は淡々と、事実を述べた。
この人数で押しかけたら、話どころじゃないだろ。窒息する。
「いや、それはそうなんだけど…レイは?」
「俺はここでみんなを指揮しないと。任せてくれ、シャル。俺たちがお前を擁護するから」
「私的には、レイが来てくれた方が心強いんだけど…?」
あなたがいた方が心強い。
そう好きな女性に上目遣いで言われたら、あなたならどうしますか?
僕はイエスマンになります。
「イエス。俺に任せなさい。…アンナ‼︎」
「えっ⁉︎ここであたし⁉︎」
「そうだ。お前に指揮は任せた」
「あ、そっちなのね」
どうやら、校長室に行かされると思ったらしい。
指揮と聞いて安堵していた。
当たり前だろ?
変態を突撃させたら、事態が悪化するだけじゃないか。
そうして、学院創設史上最変態に指揮を任せて、最優秀と最問題児は校長室に突撃した。
「校長ー‼︎」
「うおぉ!な、なんじゃ…?」
ドバッと扉を開け中に突入した俺。シャルステナは後ろにコソッと付いてきた。
「校長!夏休みがないってどういうことなんですか⁉︎」
「そ、それはじゃな、授業の日数が足りないからの措置であって…」
校長は俺の剣幕に少し押され気味だ。
やっぱり、強引な感じで突撃したのは正解だったみたいだ。
「そんな事で、僕達の自由を束縛するんですか⁉︎」
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟じゃないです!日頃、学校という鎖に縛られた僕達が、解き放たなれるのが夏休みなんです!」
シャルステナは何故か顔を真っ赤にして、伏せていた。
何を恥ずかしがっているんだろうか?
校長は苦笑いで固まっている。
どうしたものかと思案中だろうか。
まぁ、そんな暇は与えないけど…
「校長!外を見てください!この自由を求める使徒の姿を!これ程多くの生徒が自由を求めてるんですよ?それなのに、授業の日数が足りないからと、夏休みをなくしてしまってもいいんですか⁉︎そうやって子供を縛り付けるんですか⁉︎」
ここだ、と俺は集めた500人の存在を押し出し、夏休み返上を撤廃させようとする。
学校が悪者かのようにまくし立て、俺たちは可哀想な子供であると、校長に詰め寄る。
「し、しかし、それでは授業が…」
「まだそんな事を言ってるんですか、校長!校長はどうして校長になったんですか⁉︎こんな時に子供を守るためですか⁉︎それとも校長という地位に就いて権力を貪るためですか⁉︎どっちなんです⁉︎」
「そ、それは子供を…」
まだ折れない校長の逃げ場を無くすため、俺は新たな策に打って出た。
酷い選択肢といい選択肢の2つのみから、強制的に俺の望む答えを選ばせる。
これで逃げ場は無くなった。俺の勝ちだ。
「そうでしょう校長。あなたが今そこに立ってるのは僕達を守る為だと信じてましたよ、僕は。そして、今みたいに僕達が自由を無くしかけているとしたら、校長が前に立って、それを阻止してくれると。…今ですよ、校長。立ち上がるべき時は。今、立ち上がらず、いつ立ち上がるんですか」
「……そうじゃな。立ち上がるべき時は今じゃな……私に任せなさい。君達の自由は私が守ろう」
「校長ー‼︎」
ガバッ
俺は校長に抱きついた。
はたかも校長の決意に感動したかのように、眼を潤わせて。
その俺を校長は堂々とした様子で受け止め、頭を撫でてきた。
しめしめ、やってやったぜ。
「……すごい茶番…」
そんな呟きは聞こえなかった。
うん、空耳だ。
「さあ、僕らの守護神校長、行きましょう。自由を勝ち取るために」
「ああ、任せておきなさい。それでは行ってくる」
俺は校長をアピール光で照らしながら見送った。
せめても手向けだ。
校長vs全教師の熾烈な戦いが今始まった。
「…私、必要だったかな?」
校長が消えてから、シャルステナが少し戸惑いながら問い掛けてきた。
「もちろんさ。リーダーなくして、校長の説得はならなかったさ」
美少女パワーだ。
この謎のパワーは全男子に強烈な威力を発揮するのだ。
校長も男。この謎パワーに打ちのめされたのは間違いない。
そして、俺がすでに打ちのめされた後なのは、言うまでもない。もう、ボコボコだ。
「……できた」
校長室の机に置いてあった白紙の紙に筆で文字を書いた。
「何それ?」
「これはあれだ、勝利を知らせるお札みたいなもんだよ」
紙には勝訴と書かれている。
裁判の時に走って出て来る人が持ってるやつだな。
なんて言うのかは知らないけど…
今回は裁判に似てるなと、ふと思ったので、一筆したためた。
そして、俺は勝利のお札を持ち、校長室の窓を勢いよく開けた。
「俺たちの勝利だぁ‼︎」
うおぉ!という歓声が上がる。
それを見てシャルステナが、真顔で言った。
「どう見ても、レイがリーダーだよね」
シャルステナに言われて、俺は苦笑いする。
確かに、今のはリーダーがやるべきだったな。
今からでもやって貰おう。美少女パワーを使って貰おう。
「悪い悪い、シャルの仕事だったな。ほら、やってくれ」
「えっ、いや、私はそう言う事が言いたかったんじゃ…」
「遠慮すんなよ。さあ、やってくれ。シャルの勝利宣言がないと終われない」
俺が笑顔でそう言うと、シャルステナは諦めたような顔をした。
そして、俺から紙を受け取ると、紙を窓の外へと突き出し、自分はその横からチョコンと顔を出してこう言った。
「か、勝ったよ…?」
頬を少し赤くして、恥ずかしげに、はにかみながら言ったシャルステナに、胸を押さえる男子生徒が続出。
中には鼻を押さえる者もいた。
彼らはみな美少女パワーに打ちのめされたのだ。
もちろん俺も。
バタン
「えぇっ⁉︎レイ、ど、どうしたの⁉︎」
美少女パワーにフルボッコにされた俺が、校長室の床に倒れ込むと、シャルステナが慌てて近寄ってきた。
俺はそれに親指を立てて応えた。
「グ、グッド……」
そして、俺はシャルステナの腕の中で意識を手放した。
〜〜
俺が幸せな夢から目を覚ますと、もう見慣れた天井があった。
「知ってる天井だ…」
お約束の逆バージョンを口にしながら、体を起こす。
体を起こすと、椅子に座り、本を読んでいたギルクが気が付き、こちらに顔を向けた。
「このド阿呆。何故俺を呼ばなかった?俺も見たかった…シャルステナの可愛いとこ」
開口一発目がそれだった。
俺の心配など露ほどにもしてなかったとばかりに、シャルステナの超絶バキューンの瞬間に呼ばなかった事を責めてきた。
「…すまん。まさか、あそこまで威力のある攻撃がくるとは思ってなかったんだ…」
俺の意識をフェードアウトさせる威力を発揮してくるとは……末恐ろしい。
シャルステナが成長したら、俺日常的に意識不明に陥るんじゃないか…?
「………次は呼んでくれ」
ギルクは真顔でそう言った。
ギルクも意識不明になりたいらしい。
たぶん、ギルクも俺と同じで簡単に意識不明になれる。
「…それで、お前が阿呆な事をしたお陰で、夏休みに授業出来なくなったんたが…?」
ギルクは突然話を変えてきた。
「よかったな。これで川に行けるぞ」
「ど阿呆、授業の日数が足りなくて困ってるんだよ」
「けど、川に行かないとシャルの水着見れないぞ」
目をカッと見開くギルク。
その瞬間、俺とギルクは考えを共有し、無言で固く握手した。
「レイ、よくやった。お前の働きのお陰だ」
「よせよ、照れるだろ?」
そうして、俺とギルクは友情を深め合ったのだった。
後日、ゴルドとも友情を深め合った。
あいつはアンナ目当てだがな。
〜〜〜〜〜〜
夏休みに入り、恒例行事の季節となった。
俺は1人、ギルドへと向かう。
「よおレイ、今年も掃除の季節か?」
「うん、バジルもわかってきたねぇ」
ギルドへと入ってすぐ、声をかけてきたバジルに俺は笑みを浮かべながら返す。
「はっ、毎年付き合わせれりゃあな」
「まぁね。ところで、シャラ姐は?」
「今日は来ねぇって言ってたな。なんなら呼んでくるか?」
「うん、よろしく。…ていうか、どこにいるか知ってるの?」
「ああ、俺の家にいるからな」
「はぁぁぁあ⁉︎なんで⁉︎」
なぜにバジルの家にシャラ姐がいるんだよ!
意味わかんねぇよ!
「そりゃあ、同棲してるからに決まってんだろ」
驚愕する俺に、さらに驚愕の事実が告げられる。
同棲してる?
シャラ姐とこのおっさんが?
はぁ?
「…酒の飲み過ぎなんじゃないか、バジル?」
俺は酒の飲み過ぎで、頭がおかしくなったのだと結論付けた。
あの美人で強いシャラ姐が、この呑んだくれと同棲などあり得ない。何かの間違いだ。
「んな訳ねぇだろ。なんなら来るか?俺の家に」
「………いく」
俺は迷った末に行く事にした。
バジルの頭がおかしい事を確認するだけだが、何かの間違いで、覆しようのない事実が判明するかもしれないと、一瞬躊躇った。
そうして、ギルドを出てバジルの家へと向かった。
バジルの家は一軒家だった。
そこそこの大きさで庭もあった。
バジルに似合わない。バジルには汚い宿屋がお似合いだ。
中に入ると、これまたバジルに似つかわしくない綺麗な玄関がお出迎えしてくれた。
そして、女物の靴が二足綺麗に並べられている。
「あれ?バジル?それにレイちゃんも、どうしたの?」
シャラ姐が俺たちが入ってきた事に気付き奥から出てきた。
服は普段着で、いつもより薄着だ。
俺は手をついて玄関で崩れ落ちる。
嘘だ。嘘だと言ってくれ…
俺がバジルに負けるなんて…
バジルが俺より先に彼女、しかも同棲までし始めていたなんて…
誰か、嘘だと言ってくれ…
「……屈辱だ。バジルに負けた…」
「おい、何を悔しがってるのか知らねぇが、馬鹿にしてんのはわかんぞ」
「…バジルが俺より先に彼女作るなんて…」
「いや、ガキに負ける訳ないだろ」
うるせぇ。
体は子供、精神は16+11なんだ。
お前と同い年なんだよ。
くそ、イケメンフェイスになってバジルに負けるとは…
「ええっと、レイちゃん知らなかったの?私達の事…」
「知らなかったよ。教えてもらってないもん」
「結構前からなんだけどね……それで、どうしたの?」
「今年も大掃除の季節がやってまりました」
俺は切り替えて、本題へと戻った。
余り長く考えていたくなかった。屈辱しかない。
こんな呑んだくれに負けるなんて、人生最大の汚点だ。
「あ、そういえばそんな季節ね。わかったわ。すぐ準備してくるから、待ってて」
「うん」
シャラ姐が奥へと消えていった後、俺は憂さ晴らしにバジルを殴った。
腹が立ったのだ。何故なら、横でドヤ顔してやがったのだこいつは。
母さんに言いつけてやろう。
いじめられたって。
「お待たせ、じゃ川に行こっか」
密告を考えていると、軽装備の軽そうな金属製の鎧を着けたシャラ姐がやってきた。
「今年は川じゃないんだ。山に行くんだ」
「山?山に行ってどうすんだ?」
「断崖山に綺麗な湖があるんだ。今年はそこに行こうかと思ってるから、山の掃除をするんだよ」
「それは…無理じゃない?かなり広いわよ、あの山」
確かにシャラ姐の言う通り、断崖山は広い。
それはよく分かってる。
だけど、別にすべて狩る必要はない。
出会うと危険なS級とA級をやればいいだけだ。後は別に片手間でできる。
「大丈夫。手強そな奴と、邪魔になりそうな奴だけだから、いつもより少ないよ」
「手強そうってS級狩ろうとしてんのか?」
「いないとは思うんだけど、いたらやるね」
一応、親父に全部狩らせたはずだから、いないはずだ。
進化しそうなA級も片っ端からやったしな。
「…私達でもS級とやる時はそれなりに準備するのに、レイちゃんは軽いわね…」
「魔人と戦ったお陰で、また強くなれたから、S級ぐらいなら問題ないよ」
「……血って怖い」
魔人と戦いで手に入れたスキルのお陰で、この頃停滞しがちだった実力も一気に伸びた。
今ならS級と戦っても、そうそう不覚はとらないだろう。
そんな俺にシャラ姐は頭を抑え、また血について言った。もう俺が異常なのは血という事で説明できてしまうみたいだ。
そうして、今年は断崖山の掃除をする事になった。
結局、S級はいなかった。A級が一体いただけで、後は適当に通り道にいた魔物を狩って今年の大掃除は終了した。
最後に湖を見せてやったら二人とも感動していた。
俺は湖で生活しているウランティーと少し話をし、明日も来ると告げて帰った。
〜〜
「湖に行くぞ」
「また違うとこ…」
「違う所でも別にいいだろ?シャルの水着が見れじゃなくて、泳げたらいいんだから」
危ない危ない。本音が出てしまいそうになった。
ギリギリセーフだな。
「いや、アウトだから。シャル見なよ、顔真っ赤じゃない」
俺の内心に突っ込みを入れてきたのは、アンナだ。
シャルステナに目を向けると、アンナの言った通り、顔を真っ赤にして、下を見ていた。
うん、可愛い。
ギルクも胸を押さえて、やられてる。
今日は俺たち2人が倒れるのも時間の問題だな。
「僕もアンナの水着がみた〜い」
「ちょ、ま、またそんな事…!」
焦ってる焦ってる。
これはアンナが落ちるのも時間の問題か?
いや、それにしても、ゴルド君はガンガン行くね。
作戦、ガンガンいこうぜだな。
俺もゴルドを見習っていこう。
「よし、シャルの水着を見に湖へ出発だ」
「おおーッ‼︎」
「ちょ、やめて、は、恥ずかし…」
「アンナの水着を見るぞ‼︎」
「あんたもやめなさいよ!」
顔を真っ赤にする女性陣と、テンションを上げる男性陣。ハクは中立だ。オスかメスかもわからんし…
しかし、地味にギルクはやばいんじゃなかろうか?
あいつ今教師だよな?
生徒に欲情していいのかよ…?
魂の叫びをあげてるぞ。
ギルクの退職の可能性が見えてきた所で、俺たちは湖へと出発した。
ズンズン進んで行く俺たちと、顔を赤くし下を向いて歩くシャルステナとアンナ、そして何故か体をクネクネさせて、いやんいやんしてるハクという温度差があったものの、魔物に出会うことも無く、俺たちは湖へと到着した。
「きれい…」
湖を目にしたシャルステナがうっとりとした表情で呟いた。俺はその表情にうっとりだ。
ギルクはすでに鼻血を出して倒れている。
先程まで恥ずかしそうにしていたシャルステナも、この景色の前ではそんな事は些細な事と、羞恥心をどこかへ飛ばしてしまったようだ。
もちろん、アンナもだ。
ゴルドは俺と違って、その表情をガン見していない。ゴルドもまた、湖の魅力に取り込まれていた。
これは何度も来たことのある俺との差だろう。ギルクは欲望に素直過ぎるためか、湖の魅力<シャルステナ、になってしまったようだ。エロ王子め。シャルは渡さないぞ。
「さあ、着替えて泳ごうぜ」
「うん……どこで着替えたらいい?」
「目の前でお願いします」
まだうっとりとした表情を浮かべて、訊いてきなシャルステナに、俺は秘奥義を繰り出した。
土に頭をめり込ませる勢いだ。
「……レイのエッチ」
ジト目でそう言ったシャルステナに、俺はバキュンされて地にひれ伏せた。
そして、俺が復活した頃には、シャルステナの着替えは終わっていた。
俺は地面を叩き泣いた。
横を見れば、ギルクも同じ事をしていた。
そして、俺たち二人はまた友情を深めあった。
「そこのバカ2人、早く着替えなさいよ」
握手を交わし合う俺たちにアンナがそう言ってきた。
見れば、俺たち以外はみんな水着になっていた。
言われた通り、俺たちは着替えを始める。
「向こうで着替えなさいよ!」
そう言って、アンナは目を逸らした。
一方、シャルステナは顔を隠す素振りをしながらも、指の隙間からガン見していた。目を大きく見開いて。
エロ魔女登場だ。
ガン見するのは俺たち2人の着替えではなく、俺のだけだった。俺は優越感に浸り、ギルクの肩をポンと叩いた。
そうして、俺たちの友情にはヒビが入る。
「裏切り者!」
「グハッ」
俺はキングオーガに殴られた時のように、山の中へ消えていった。
〜〜
「疲れた〜」
俺が毎年のように途中で休憩をしていると、シャルステナがくたびれた様子でやってきた。
「はは、今年はシャルもか」
「うん。ちょっと疲れが溜まってるのかもね」
「ちゃんと休めよ。誰かの二の舞になるぞ」
「そうだね。その誰かよりも、絶対休んでると思ってだけどなぁ」
「それは残念。そいつは今、スローライフを満喫中だ」
「…どこが?毎朝、早くに修行して、アホみたいに沢山授業受けて、夕方からギルドに行くような生活がスローライフ?」
いったいどの辺りにスローの要素があるのよと呆れたような声で言ってくるシャルステナ。
けど、俺はそれでも十分スローライフだと思う。前まではこれに色々プラスアルファされていたからな。
「授業は無理にしても、夜ギルドに行くのはやめたら?」
「それがな、夜の方が人が多くて、いろんな話を聞けるんだよ」
俺が夜ギルドに顔を出すのは、キチンとした目的がある。俺は将来、冒険者になりたいので、今のうちから色々話を聞いて、知識を蓄えておこうと考えて、ギルドに話を聞きに行っている。
冒険者は基本昼間に依頼をこなして、夜は酒場に飲むというのが一般的だ。そのため、どうしても夜に行く必要があるのだ。
昼に行っても、呑んだくれしかいないしな。
俺も昼は忙しいし、夜に集まるのは都合が良かった。
やはり、実際に経験した人に話を聞くのは、為になる。
野宿の仕方や、簡単な罠の作り方など、色々な事を教えてもらった。
学校ではなかなか、冒険者専門の勉強は教えてくれない。
だから、こうやって自発的に学んでいく必要があるのだ。
冒険者というのは、ただ魔物を倒すだけの物ではない。
貴重な素材を取りにいく事もあるし、遠い所へ届け物をしたり、護衛をしたりもする。
色々学ばないといけない事は多い。
後一年半で、俺も本当の冒険者達の仲間入りだ。
それまでに出来る事はやっておきたいのだ。
そう言った理由を掻い摘んで、シャルステナに説明をした。一応、納得はしてくれたようだが、少し不満そうだった。
「まぁ、俺が忙しいのはいいじゃないか。その分シャルは俺に追いつけるぞ」
「…なんか納得できない」
少し頬を膨らませて抗議するような視線を向けてくるシャルステナ。
シャルステナは最近、俺に実力差の事を言われると拗ねるのだ。以前のように感動してはくれない。
少し寂しい気持ちにもなるが、俺を守りたいと思っての事だろうと俺は考えているので、拗ねられると全体的には嬉しい気持ちになる。可愛いしな。
「それにしても、ここって本当に綺麗ね。断崖山にこんな所があるなんて、知らなかった」
「……そうだな」
本当に何度見ても綺麗だ。
ここにいるだけで癒される。この景色を見ていると、頑張って良かったと素直に思う。
あの汚れた湖を知らないシャルステナ達にはわからないかもしれないが、俺はここに来ると達成感に似た何かを感じるのだ。
それが余計にこの景色を際立たせているように感じる。
「シャル、みんなのとこ行こうぜ」
「うん!」
休憩も十分だろうと、俺がさりげなく、シャルステナに手を差し出し、遊びに戻ろうというと、シャルステナは元気に頷いて、俺の手を取った。
俺はシャルステナの手の感触を楽しみながら、湖で馬鹿みたいにはしゃぐ彼らの元へと戻っていった。
そうして、今年は平和に恒例行事が過ぎて行くのだった。
異夢世界以下略を呼んで頂きありがとうございます。
次からは予告通りディクの番外編に入ります。
番外編はいいから話を進めてと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、3話程ですのでお付き合いください。
ディクの番外編は明日更新する予定です。
最近平日が安定して忙しいため、しばらくは土日の更新となると思います。
余裕があれば平日にも投稿するつもりではいますが、基本は土日の更新でいきたいと考えています。




