35.シャルステナの決意
「ふぅ〜、やっと話せる。…ありがとう父さん。助かったよ、ホント」
「はははっ、気にするな。可愛い息子を守るのが、親の務めだ」
限界突破の後遺症から解放された俺は、まず親父に礼を言った。
さっきまでは、まともな事を言えなかったから。
親父と魔人の決着がついてすぐ、ギルク達がここにたどり着いた。
ギルクを含め、みな口々にすまないなどと言ってきたが、俺はゆっくりと手を振って気にしてないと、ジェスチャーするので、精一杯だった。
「みんなもごめんな。心配かけた」
「いや、謝るのは俺たちの方だ」
「うん…。ごめん、レイ。あたしたち…」
「ごめんね、レイ。何もできなかった…」
「ピィイ!」(ごめんなさい!)
みんなはバツが悪そうな顔で、謝ってきた。
あんまりそういう事には慣れていない俺は、どうしたもんかと考える。
「……もう謝らないでくれ。なんかむず痒いんだよ。みんなは悪くない」
俺がそう言うと、苦笑いしながらも、みんな俺の言ったことを受け取ってくれたみたいだ。
後は、ていうか、一番問題なのは、シャルステナだな。
どうしよ…
俺が気絶させたんだよな…
……怒られるかな?いや…また泣かれるかな…?
困った…
ギルク相談役はこういう時は役立たずだからな…
「……うぅ…ここは…?」
「ミュラ!」
「母さん!」
「おかぁぁあ!」
ガバッ!
スクルトが母さんに抱きついた。
スクルトは先程まで、安全な街の中にいたのだが、戦いが終わるなり、飛び出してきた。
母さんが気絶してるのを見てスクルトは、大泣きし、親父があやそうと近寄るとビビッてさらに大泣きし、俺が幽霊のような動きで近づくと、またビビって大泣きした。
そして、俺と親父も二人で泣いた。
可愛い息子と弟に泣かれたのだ。ショックだった。
結局、アンナとゴルドがスクルトをあやし、俺はギルクにあやされ、親父はハクに噛まれて怒った。
「よしよし、もう大丈夫よ」
また泣き出したスクルトを、母さんがあやす。
それを見て親父が嫉妬した。
「ミュラ!」
親父は母さんに抱きつこうとした。しかし、ヒラっとかわされ、転けた。
おい、さっきの恰好良い親父は何だったんだ…
「スクルトがいるのに危ないでしょ、レディク」
「いてて、けどよ、俺だってよぉ」
「はいはい、また後でね」
そう母さんに後回しにされた親父は、目に見えて沈んだ。
ちょっと可哀想になり、俺がハグしてあげた。普通に喜んでいたので、よしとしよう。
「それで?なんでレディクがいるのよ?」
「それは…レイ、説明を」
速攻説明を諦めた親父が俺に説明を丸投げした。
俺、まだ何も聞いてないんだけど?
「……親父は竜の谷から、俺とハクの友達の竜に乗ってきたんだよ」
推測と見たことを合わせて、最低限は説明してあげた。
後は知らん。
自分でしてくれ。
「友達の竜?」
母さんが首を傾げた。
『妾のことじゃな』
「わッ!…ビックリした。…大きいわね。成竜かしら?」
ウェアリーゼは母さんの後ろから声をかけた。どうやら母さんは気が付いていなかったようだ。
『そうじゃ。名をウェアリーゼという。其方が妾の友の母か?』
「ええ、そうよ。ごめんないね、うちの人が迷惑掛けたみたいで」
『なに、迷惑という程のことではない。それに、友の危機に駆けつける事ができ、妾は満足しておる』
本当に助かったよ。
間一髪だった。ウェアリーゼが親父を連れて来てくれなかったら、俺は死んでたよ。
後で、何かお礼しないとな。
「危機…そう言えば、私は…ううん、ここで何があったのかしら?」
危機と聞いて、気を失う前の事を母さんは思い出したみたいだ。
俺は説明しようと前に出た。
その瞬間、突如横から押し倒された。
「レイィ‼︎」
「うわぁ!」
ドサッという音を立てて、俺は地面へと倒れた。
魔人にやられた傷が痛む。
「レイ!レイ!」
俺のやせ我慢大会が始まりを告げる中、シャルステナは俺の胸に顔を埋め、俺の名前を連呼しながら泣く。
周りから変な視線を向けられる。
いや、言いたいことはわかるよ。
側から見れば、これは彼氏の生還を喜ぶ彼女の甘いワンシーンに見えるかもしれない。
だけどな、それは違うんだよ。
彼女は友達が生きていたことを喜んでいるだけなんだ。
なぜなら、彼女の好きな人は別にいるからだ。
……俺に惚れてくれないかな…?
俺はやせ我慢しながら、そんなことを考えていた。
「シャルステナ、もう大丈夫だから、とりあえず離してくれ」
めっちゃ痛いんだ。
多分、骨いってるんだ。
「イヤだァア!またレイが勝手にどっか行っちゃう!」
「いや、もう終わったから、行かないよ」
「うそだぁ‼︎またそうやって私に嘘つくんだぁ!」
シャルステナはイヤイヤと一向に離れてくれない。
助けを求めて周りを見ると、誰もこちらを見ていなかった。
完璧に無視して、母さんに説明を行っている。
完全に蚊帳の外だ。
そして、俺は諦めた。
痛みに耐え、シャルステナが泣き止むのを待った。
これも彼女に心配をかけ、気絶までさせた俺への罰だと思って…
2時間後、周りには誰もいなくなった。
置いてかれた。
酷くないか?
4時間後、まだ泣き止まない。
もう痛みが麻痺して久しい。
どれだけ泣くのだろうか?
6時間後、もうすっかり夜だ。
そろそろ、泣き止んでもらいたい。
脱水症状になるかもしれないし、もう一度頑張ってみようか。
そう思って、シャルステナに話しかけた。
「シャルステナさん?そろそろ泣き止んでもいいんじゃないでしょうか」
「……グスッ。……シャル」
「…?」
顔を上げ、泣き止んだシャルステナに俺は疑問符を浮かべる。
シャル?
どういう意味だ?
「……シャル…」
「シャル?」
再び同じことを言ったシャルステナ。
俺はそれを繰り返した。
「うん…。レイ、これからそう呼んで。そして……私をもう置いて行かないで…」
ゆっくりと、だけど、しっかりとした口調で懇願するように言ったシャルステナ。
「シャルス、…シャル、それは…約束できない。俺は…今回のことでよくわかった。…俺は似たような事があれば、きっと同じことをする。命をかけて、みんなを守る。だから…」
俺はちゃっかりシャルと呼び、だけど、もう一つのお願いには頷きはしなかった。
あの時に、よくわかった。
俺はみんなを見捨てられないし、それにあの声も感情もそれを許さなかった。
きっとそれは一生変わらない。
「…わかってる。レイは昔からそうだった。ただ、私がダメだっただけ…。だから…レイ、私が強くなったら…あなたの横に立たせてくれる…?」
「…今も横に立ってくれていいさ」
俺のここはいつでも空いてます、とは言わなかった。
そんな雰囲気ぶち壊しな事を言えるほど、俺はKYではないのだ。
「ううん。そうじゃない。…レイの横で、どんな敵が出てきても、隣で一緒に戦わせてくれる?」
「…なんでそんなこと聞くんだ?」
シャルステナが何を目的にして、こんな事を言ってるかわからなかった。
だから、訊いた。
「もう、レイ1人であんな無茶して欲しくないからだよ。私も一緒に戦わせて…」
「…………その時、シャルがいる事で、勝てるのなら構わない。だけど…まったく勝機が見えない時は、逃げてくれ…それなら、俺は構わない」
「……私はその勝機が見えない時の事を、言ってるんだよ」
俺はシャルステナのお願いを断った。だけど、シャルステナは引き下がろうとはしなかった。
強い意志の篭った目で俺を見詰めている。
「……それは…約束できない」
シャルステナの意志の強さはわかったが、それでも俺には頷くことはできなかった。
これがギルクとかなら、俺は頷いていたかもしれない。
だけど、シャルステナは…無理だった。
俺は彼女の事が好きだ。
それは自覚してる。だからだろう。このお願いを聞くわけにはいかなかった。
そんな俺をシャルステナは変わらず、意志の篭った瞳で俺を真っ直ぐに見ていた。
そして、彼女は自分で答えを出した。
「………………わかった。…なら、私はレイより強くなる。そしたら、レイを守れる」
決意の篭った声で、笑顔でそう言った彼女に俺は何も言えなかった。
ただ、とても嬉しかった。
そこまで俺の事を考えてくれていた事が…
俺はしばらくシャルステナに見惚れていた。
月夜に輝く濡れた瞳と顔が、俺にはとても美しく見えたんだ。
〜〜
シャルステナが泣き止み、俺より強くなると宣言をしてから、2人で王都の街の中へと入っていった。
中に入るとそこは、なんていうかもう、グチャグチャだった。
性別、年齢関係なく入り乱れ、喧騒が鳴り止むことを知らないとばかりに、騒がしい。
彼方此方に泥酔した人が倒れ、その周りをその予備軍が闊歩する。
簡単に言えば、打ち上げだ。
俺とシャルステナを放ったらかして、街をあげての打ち上げが行われていたのだ。
今日はとことん俺の扱いが酷いと俺は思った。
「…俺、主役級じゃないのか…?」
今回の異変とその原因を見つけ、開始直後にドカンと一発ぶっ放し、魔人を足止めした俺は、そんな疑問を呟いた。
この疑問を一人だけ耳にしたシャルステナは苦笑いだ。
「私達が遅かったから、先に始めたんじゃないかな…?」
苦笑いしながらも、推測を話してくれるシャルステナ。
「…仕方ないなぁ。ギルクに文句言うだけで、我慢してやるか」
「文句は言うんだね…」
言いますよ。そりゃもう。
今回の騒動で活躍した俺が登場し、その甘いマスクに見惚れる子女達。それに嫉妬したシャルに俺は押し倒され、めでたくゴールイン計画が潰れたんだ。
文句も言いたくなる。
俺とシャルは八つ当たり相手(俺の)を探しに奥へと進んでいく。
「いたいた。おい、お前ら!」
10分ほど進んだところで、ギルク達を発見し、声をかけた。
声に気が付き振り向くと、小さく手を振って手招きしてきた。俺とシャルステナは手招きに応じる。
「遅いぞ。何をしてたんだ…?」
「泣き虫が泣き止まなくてな」
「……レイのいじわる」
小さく呟くようにシャルステナは言った。責めるような目を向けてきている。
けど、本当の事なので本人も声を大にしては、責められないようだ。
「それでそれで⁉︎」
「ん?それだけだが?」
「え〜、つまんないな〜」
興味津々といった感じで、続きを聞こうとしてきたアンナ。
しかし、遅くなったのは、本当にシャルステナが泣いていた事だけが原因なので、それで、も何もない。
そんな俺の返しに、どうもアンナとセット化が激しいゴルドが、つまらないと文句を言ってきた。
俺に言わせれば、つまらないも何も、面白い話なんかしてないんだけどな。
「それよりさ、何で主役がいないのに打ち上げ初めてんだよ」
「?いたぞ、主役なら」
俺の文句を疑問符付きで返してきたギルク。
何で逆に何言ってんだみたいな顔されるんだよ。
今来たとこだよ。俺は。
「いやいや、たった今現れたよ」
キラン
白い歯がピカッと光る。
「…前から言おうと思ってたんだが、…その光はなんだ?」
呆れた目でこちらを見てくるギルク。
何だと言われても困る。
知らないよ。効果音ならぬ、効果光としか言えない。
何か良い呼び名はなかろうか?
……そうだ。アピールする時に使うから、
「アピール光だ」
俺はニヤッと笑いドヤ顔だ。
しっかり、アピール光も焚いた。
「アホか。いや、アホだったか…」
「アホ〜」
「アッホー」
「うるせぇよ、そこのバカップル」
ギルクに同調してきた馬鹿二匹。
なんだよ、アッホーって…
馬鹿にしてんのか?いや、馬鹿にしてんのか。
「それよりさ、主役って誰さ?」
どうも俺以外に主役がいるらしいので、聞いてみた。
「それは『不死鳥』と『金色の魔女』に決まってるだろ」
「あんたみたいなアッホー、主役なわけないじゃん」
「僕にとってはアンナが主役だよ〜」
「おい、そこのバカップルはどっかいけ」
バカップルがウザいので、蹴り飛ばした。
それはもう、夜空に輝く星のごとく飛ばしてやった。
カップルらしく、デートしてきやがれ。
そうして、俺の気遣い?で二人は一緒にどこかへ消えて行った。
「これで静かになった。…で?その不死と魔女はどこにいたのさ?不死って確か火竜倒した人だろ、そんな奴いたか?」
俺が厄介払いを終え、ギルクに再度訊くと、はぁ?って顔をされた。
横を見れば、シャルステナも同じ顔をしていた。
「な、なんだよ…?俺、縛り付けられてたから、ほとんど戦い見れてないんだよ」
「そ、そういう事じゃないよ…?」
「本当の阿呆だったか…」
「あ?俺は天才だ」
腕を組み堂々と主張する。
阿呆なんてスキル持ってないね。
天才なら持ってたけど。
「それで、誰なんだよ?」
「はぁ、…お前の両親だ」
「はぁあ⁉︎誰が⁉︎」
「だから、レイのお母様達だよ」
「う、うそだろ…。何で俺知らないんだよ…」
「阿呆だからだ」
「うるせぇ、エロ王子」
ギルクは星になった。
俺は遠ざかる流れ星を見ながら、考えた。
金色の魔女はどう考えても、母さんの方だろ?
てことは、親父が不死鳥…?
……に、似合わねぇ…
壊滅的に似合わねぇ…
「……なんか色々ショックだ…」
親父の二つ名の合わなさや、それを今まで教えてもらえなかったのが、少しショックだった。
「…私はレイの偶に抜けているとこ好きだよ?」
「俺はシャルの全てが好きだ」
「えぇ⁉︎いや、あの、ええっと…」
シャルステナの言葉で0.01秒で復活した俺は、真顔でシャルステナに告った。
シャルステナは顔を真っ赤にして慌てている。
さて、言いたい事は言ったし、振られる前に話を変えようか。
「親父たちどこにいるかな?」
「お、お義父様達にしょ、紹介⁉︎」
「いや、もうしただろ?」
「け、結婚のご報告⁉︎」
「いやいや、まだ付き合ってもないじゃないか」
かなりの慌てようのシャルステナ。
もう何を言っても同じ反応しそうだ。
俺としてはシャルステナの言う通り、結婚の報告でもいいんだけどなぁ。
「そ、そうだよね〜。な、何慌ててるんだろ私…」
肩を落として俯きかけになるシャルステナ。
慌ててしまった事が、恥ずかしかったのだろう。
周りから好奇の視線が向けられてるし、人見知りのシャルステナには少ししんどい状況かもしれない。
俺はその場をシャルステナを連れて、逃げるようにして後にした。
あまり長い事いたら、シャルステナが辛いだろうしな。
そうこうして、大通りを進んでいると、一際人集りが多い場所へと出た。
そこはギルドの前だった。
よく見ればその人集りは冒険者の集まりだった。
親父たちがいるかもしれないな。
俺はそう思って、その人集りに突入した。上から…
「うおぉ!あぶねぇだろうがレイ!」
「ごめんごめん。着地するとこバジル以外なかったから…」
「おい、俺様なら着地していいと聞こえるぞ」
「?そう言ったんだけど…」
こんな人が大勢いるとこで、バジル以外に着地できるとこなんて、あるわけがない。
「…一度、おめぇが俺をどう思ってんのか聞いてみる必要があるな」
「呑んだくれ」
それ以外に何があると?
「シャル、呑んだくれは置いといて、中に行こう」
「う、うん」
「あ、おい!まだ、話が…」
バジルの面倒くさい話は華麗にスルーした。
「うぃっす、シャラ姐」
「あら、小さい英雄じゃない」
小さい英雄か…
悪くはないが、もう一声欲しいな。
「シャラ姐、親父たち知らない?」
「レディクさん達なら、二階にいるわよ」
「あ、本当に?ありがとう、シャラ姐」
俺はお礼を言ってから、二階に上がろと階段へ向かった。
そして、その階段下には門番のような立ち方をして、待ち構えるギルマスがいた。
「……何してのんさ、ギルマス」
「ミュラさんが誰もここを通すなって言ってきたんでな、門番してる」
完璧に忠犬に成り下がったようだ。
俺より忠実かもしれない。
「…頑張ってね、ギルマス」
俺はそう言って階段を上ろうとしたが、ギルマスが立ち塞がった。
「ダメだ、レイ。誰も通すなって命令だからな」
「俺は息子なんだけど?」
「なにぃ⁉︎お前があの二人の息子だと⁉︎…なるほど、お前の異常性は血か…」
ギルマスは俺が息子だとは知らなかったみたいだ。
確かに、ギルマスはいつの間にか母さんの手下になってただけで、俺と母さんが話してるとこを見たことはなかったもんな。
それにしても、みんな血だって言うよね。
俺が異常なのは、転生したからなんだけどな…
けど、少し血のような気もしてきた、この頃…
「だから、問題ないでしょ、ギルマス?」
「……まぁ、いいか。いけ」
「サンキュー」
思わぬ所で足止めをくった俺たちは、やっと階段上に辿り着く。
扉を開け中に入ると香ばしい香りが漂ってきた。
「あ、やっと来たわね。座りなさい、シャルステナちゃんもどうぞ」
母さん達が座っている机はみんなで囲めるようになっており、まるで家の食卓のように、テーブルにご飯が並べられていた。
そこに母さんは俺たち二人を手招きした。
今日は忙しくて、とてもお腹が空いていた俺たちは喜んで、椅子に座った。
料理はどう見ても、母さんが作ったものだった。
奥を見ればキッチンがあって、調理器具がまだ片付けられずに残っていた。
母さんはこの一室を完全に占拠したようだ。
まるで自分の家の中のような雰囲気が漂ってきていた。
母さん恐ろしや……
「よし、二人が来たから始めるか!久々の家族での食卓だ!乾杯!」
乾杯と言ってから、食事を食べ始める。
数年ぶりに揃った家族での食事は、楽しかった。以前のように話が絶えず、賑やかな食卓がそこにはあった。
シャルステナは少し遠慮がちだったが、楽しそうにはしていた。
ある程度お腹が膨れてから、俺は先程知ったことを訊いてみた。
「ねぇ、何で不死鳥と金色の魔女のこと教えてくれなかったのさ?」
俺は軽く訊いたのだが、親父達は深刻そうな顔をし始めた。特に親父が…
あれ?
俺なんかまずい事訊いちゃった?
「……とうとう知られてしまったか…」
「…魔女…不名誉だわ…」
二人とも呟くように、何か言いだした。
「し、知ったらまずかった?」
意を決し訊いてみた。
「まずいと言うより、知られたくなかったな。不死鳥なんて、俺には似合わねぇ」
同感だ。
どの辺が鳥なんだ。
というか、そんな顔するぐらい嫌なのかよ…
確かバジルが、不死鳥の二つ名はぴったりと言っていた気がするが、どの辺がそうなのだろうか?
確かに、火竜のブレスを受けてなお、生きていた父さんは不死っぽく見えるのかもしれないが、それよりも鳥が似合わなすぎる。
鳥の部分を変更するべきだろう。
馬と鹿にしよう。その方が似合う。
「まぁ確かに……母さんも同じ?」
「ええ…。魔女ってなんか危ない感じがするでしょ?」
そんな危ない印象を与える二つ名は私には似合わないと主張する母さん。
しかし、俺は思う。ぴったりなんじゃないかなと。
母さんは危ないよ?
怒らしたら、やばいよ?
もちろん、俺はこれを口には出さず、心の中に留めた。
魔女の怒りを買うことになるからな。
その後も食事は続き夜遅くまで、俺たち家族は話込んだ。
シャルステナは途中で帰っていったが、それまでは楽しそうにしていたので、迷惑とは思っていなそうだった。
迷惑とか思うような子じゃないしな。
そして、そろそろ寝ようと思って気が付いた。
俺…治療してもらってない…
感覚が麻痺していて気が付かなかったが、骨が折れてるんだった。たぶん。
放置はまずくないか?
そうして、俺は治癒術師を捜しに、街へと繰り出すのだった。
〜〜〜〜〜〜
街は夜になっても熱気が冷めやらぬ様子で、あいも変わらず、道で沢山の人が騒いでいた。
そんな中、誰かもわからない治癒術師を捜しあてることなど、できるわけもなく、結局いつも治療してくれるシャルステナの元へと向かうのだった。
夜中の2時、俺はシャルステナの実家の戸を叩いた。
物凄く迷惑な奴だとはわかってる。だけど、気が付いてから、痛みがぶり返してきて、俺はそれどころじゃなかった。
「…どちら様でしょうか?」
戸が開き、中から出てきた綺麗な女性が、俺を見るなりそう聞いてきた。
ピンク色の髪を長く伸ばし、顔はどこかシャルステナに似ていた。
年齢的にはシャルステナよりも5つぐらい上という印象を受けた。お姉さんかもしれないな。
「夜遅くにすみません。僕はレイと言って、シャルステナの友達です。ちょっとシャルステナに急用があって来ました」
「ああ、貴方がレイ君。…急用なのよね?ちょっと待っててくれるかしら」
ピンクの髪の女性はそう言うと、小走りに奥へと入っていった。
俺は言われた通り、玄関で待機する。
しばらくして、シャルステナが連れられてやってきた。
「…何でレイがこの家の場所知ってるのよ」
顔を合わせるなりそんな事を言われてしまった。
知ってるも何も、シャルステナの魔力を探知しただけだ。
「シャルを探知しただけさ。それよりさ、頼みたい事があるんだよ」
「こんな真夜中に私に頼みたい事?……ボッ」
突如、顔を真っ赤にしたシャルステナ。何を想像したんだろう。
たぶん、エロ魔女が発動したんだな。
「シャルが何を想像したかは知らないけど、そういう事じゃないから。怪我治して欲しいんだ」
「怪我?誰の?」
「俺の」
「レイ怪我なんかしてたの?」
「いや〜、魔人と戦った時の怪我治してなくてさ」
うっかり、うっかり。
さっきまで一緒にいたのに、何やってんだか俺は…
「ちょっと待ってレイ。あれ魔人だったの?」
「あれ?知らなかったのか?」
初耳ですといった顔をするシャルステナ。
少し頬を膨らませて、怒ってるようにも見える。
「聞いてない。…もういいよ。レイはそういう事教えてくれないもんね」
シャルステナが若干拗ねてしまったようだ。
膨らませた頬を突いてみたくなる。
「それでどこを怪我してるの?」
「全身だな」
「ふーん。取り敢えず、サリティーかけて見るわ」
俺の説明では、足りなかったようで、シャルステナは魔法で調べると言ってきた。
サリティーとは、治癒術師が治癒魔法を使う前に、どこが悪いのか調べる魔法だ。
基本、患者の意識がはっきりしない時などに使われ、術師によってわかる詳細も異なってくるらしい。
ちなみに俺はできない。
どうも俺には治癒魔法の才能が皆無のようなのだ。
スキルさえ、レベルが上がらない。
なので、治療に関しては完全に人任せとなってしまっている。
「サリティー…………‼︎レイ、すぐに横に!」
「え?あ、ああ」
シャルステナが焦った感じで言ってきたので、俺はすぐに横になった。
何かまずいことになってたのかな?
なんか怖いな…
「もう!馬鹿じゃないの、レイ⁉︎骨が何本も折れてるじゃない!それに内蔵も出血してるし…」
「お、俺重症じゃん!シャル、急いでくれ!死ぬ!」
「ほんとよ、もう!……キュアリティー、ボルコット…………」
シャルステナは何重にも治癒魔法を重ねがけした。この世界では前世のゲームの様に一つの治癒魔法で怪我が治るわけではない。それぞれの怪我に合わせて魔力を操作したり、怪我の深さによっては悪化しない様に止めてから、治さなければならない。
だから、内臓などを怪我をした場合などはかなり厄介だ。治癒魔法を少しかじった程度では絶対に治せない。いや、ある程度の腕があっても難しい。
しかし、幸運にもシャルステナはそのある程度を超えていた。十分治癒術士を名乗れるレベルだ。
「これで大丈夫よ…」
「おお、ありがとうシャル!」
シャルステナはちょっと疲れ気味に言った。逆に俺は痛みが消え元気になり、お礼を言った。
死にかけていたとは、思わなかった。
寝る前に来て良かった…
それから少しシャルステナと話をして俺は寮へと戻った。
2、3、8話を加筆修正しました。
大きく変更したところはありませんが、レイの思考、心情を中心に加筆しました。
また、10話の後に投稿しようと思っていたレイのステータスを投稿し忘れていました。申し訳ありません。
今からそれを編集するので、今日の夕方あたりの更新となると思います。




