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32.少年、少女の活躍

「……レディク」


 私は久しぶりにあった夫が、また旅たつ背中を見て呟いた。

 子供を頼むと彼は言い残し、振り返ることなく、また村を出て行った。


 今、わかった。レディクは何か知ってる。私たちに危害が及ぶかもしれない何かを。

 そして、それを解決するために旅に出たのだ。

 私は、私は…どうしたら…いいの?


 子供を頼むと彼は言っていた。

 子供…レイとスクルト…。

 レイは今ここにいない。王都にいる。

 行かなければ…

 レイを、スクルトを、2人とも私が守らないと…


 私はすぐに家に戻ると、支度を始めた。

 王都に向かうための準備だ。

 幼いスクルトを連れて、2週間もかかる道を行くには不安があるが、2人とも私が守るには、王都へと行くしかない。


 そうして、私はスクルトを連れて街を出た。

 ラティスにレディクへの伝言を頼み、王都に行くと言ってから出た。


 待ってててね、レイ。今行くから…



 〜〜〜〜〜〜


「ふむ、あまり宜しくない状況だな」


 私はギルド長室で、受け取った連絡について思案していた。

 内容は数10体のS級を含む、魔物の軍勢が近くの山にいると知らせるものだった。


「…あの馬鹿がいれば、なんとかなるんだが…。仕方ない。グラハム殿に協力を申し出るか」


 私は仮面を被ると、ガバルディを出て、シエラ村に向かった。


「失礼する。グラハム殿はご在宅か?」

「あら、ウルケルさん。どうかなさいましたか?夫なら今、村の周囲の見回りに…」


 そうか。今はいないか。

 ここで待たせてもらおう。

 グラハムの奥さんであるラティスに再度尋ねる。


「そうでしたか。ここで待たせて頂いても?」

「どうぞ。大した物はございませんが…」

「お気になさらず。急に尋ねた私が悪いのです」


 気を遣わせてしまうのは悪いと、私は自分を悪く言った。


 そうして、しばらく世間話をしていると、グラハムが帰宅した。

 軽く挨拶を交わし、本題へと入る。


「実は、王都から緊急の知らせが来た。ガバルディ周辺地区にて大量の魔物が押し寄せる可能性があると…。それでグラハム殿に協力を要請したい。現在、あの馬鹿がいないのは知っていると思うが、そのせいで戦力に不安がある。そのため、貴方とラティスさんにも協力して頂きたい」

「なるほど。そういうことか……あいつが旅に出たのは…」


 グラハムは納得したように首を振り、そう述べた。


「やはりレディクが旅に出たのは、この異変が原因だと思いますか?」

「ああ。あいつは馬鹿だが、何も考えてないわけじゃない。何か旅の理由があるはずだと思っていた」


 確かに、レディクは昔から考えなしの馬鹿だが、何も考えていないわけではない。

 多少は考えて行動してる。


「協力はしよう。だが、我々だけでは手が足りない。どこか、一つに纏めなければ…」

「今、ギルドの者が手分けして、周囲の村の人々をガバルディへと移送している最中です。この辺りにはガバルディ以外には受け入れ可能な都市はないですから」

「だが、それでは無理があるだろう?そこまでの余裕はないはずだ」


 周囲の村の数は5つ。

 人は1万人弱。かなりの数だ。ガバルディだけでは足らない。


「その通り。ですから、ここに戦える者たちを集め、山からくる魔物を止めます。山とガバルディの丁度間に位置するここは非常に都合がいい。それに魔物の進行してくる方向がわかるため、罠も仕掛けられる」

「なるほど…確かに、山とガバルディ、そしてこの村は直線状に位置している。それならば、ここで止めた方が、被害が少ないな。それでいこう。村の者への報告と移送は任せてくれ」


 2000人程ならこの村で匿える。

 後は、戦える者たちが前に出て、魔物を止めればいい。

 私とこの二人、それとミュラがいれば、不可能ではない。


「では、よろしく頼みます。それと、息子さんが帰ってくるそうですよ?」

「何?」

「何でも今回の事態の援軍としてディルベルクから派遣されてくるそうです」

「……まだ、騎士ですらないあの子をか?」


 グラハムは騎士でない息子が派遣されてくるのを不思議に思ったようだ。

 確かに、それだけではおかしいと感じるだろう。

 私はさらに言葉を付け足した。


「強い要請があったらしいですよ。レディクの息子から……彼はS級を仕留めたらしいですよ。それでその自分と貴方の息子は同じくらい強いと…」

「⁉︎それは本当か…?あの子達がS級に勝てる……く、くっははは‼︎そうかやはり、あの時の決断は正しかったんだな!なら、ディクが来るのは問題がないな」


 高らかに笑い、嬉しそうに語るグラハム。

 意味がわからないところもあったが、触れはしなかった。

 今はそれどころではない。

 戦いに備えなくてはならない。


 そして、戦いに備え作戦を立て、戦える者たちの配置を決めていった。

 その途中、ミュラが王都に向かったと知り、少し不安が募ったが、何とかするしかないと気を切り替えた。




 〜〜〜〜〜〜


「父さん、母さん、ただいま」

「よく帰ってきたなディク。元気そうだな」

「お帰りなさいディク」


 僕は久しぶりの故郷へと帰ってきていた。

 今は非常事態のためか、2人以外には僕の知る人はいないようだ。

 街もだいぶ変わっていた。

 都市の建物のような物が立ち並び、昔とは全然違った景観が広がっていた。


「なんかだいぶ変わったね、この村も…」


 少しさみしい気持ちになり、そう呟いた。


「そうだな。確かに、えらく変わった。これらは全部レイ君が建てたらしい…」

「えぇっ⁉︎レイが⁉︎」


 またレイがやったのか…

 本当に何をしてるんだレイは…


「ディク、学校の方はどうだ?」

「…うん、騎士長になったよ」

「そうか。その年で騎士長になったか。頑張っているようだな」

「うん、けど…レイは何してるんだろうね。ちゃんと学校行ってるのかな…?」


 僕は父さんなら知ってるかもしれないと、訊いてみた。


「学校については知らないが、S級を倒したそうだ」

「……え?S級を…?」

「ああ。お前はどうだ?勝てるか?」


 勝てるか、そう聞かれ僕は即答できなかった。

 僕はA級とも戦ったことはない。

 それなのにS級と言われてもピンとこなかった。

 ただ、レイはもうそこまで強くなってるんだと、驚いた。

 僕も負けてられない。


「……勝つよ。レイに負けてなんていられない」

「…そうか。無茶はするなよ」

「うん」


 レイがS級を倒したと言うのなら、僕も負けてはいられない。必ず倒す。

 それが、僕とレイの関係だ。

 それを潰すわけにはいかない。

 何より、負けるのは悔しい。


 僕はまだ見ぬS級へと闘志を募らせていった。


 〜〜


 ドゴォォォォオン‼︎


「な、何今の?」

「き、騎士長〜‼︎ま、魔物が〜‼︎」

「僕は今騎士長じゃないよ、アリス」


 学校にいる時と同じ呼び方をしてきたアリスに僕は今は違うと返す。

 僕は今は第3騎士団の下についている。

 だから、騎士長ではない。ただの騎士だ。

 アリスも今は副騎士長ではなく、ただの…なんだろう?


 アリスは派遣されてきたのではないのだ。

 ただ、勝手について来た。

 一人でなんて危ないと言って。

 学校大丈夫なのかな…?


「それで何があったの?」

「えっと、凄い音がして、それから魔物が…」

「そうなんだ。じゃあ、やっと来るんだね」


 僕は山の方を見て、まだ見ぬ魔物を待ちわびた。


「騎士…ディ、ディクルドは何でそんなに嬉しそうなの?」

「それは…秘密かな」


 笑みを浮かべた僕にアリスが何で嬉しいのか訊いてきた。

 普通はこういう時、怖気ずいたり、慌てたりするようなものだろう。


 だけど、僕はこの数日、S級と戦うのを心待ちにしてたんだ。

 他から見たらおかしいかもしれない。

 それでも、僕はレイに負けたくないと戦えるのを楽しみにしてたんだ。


 それに今の自分とレイに差があるのか知るには丁度いい。

 僕にとって、これは誓いの前の前夜祭だ。


「S級がいたら、僕が一人でやるから」

「えぇっ⁉︎だ、ダメだよ!あ、危ないよ!」

「大丈夫。僕は…負けられないんだ」

「そ、そりゃあ負ければ、村の人たちが危ないけど…」


 アリスは僕が負けられないと言った理由を勘違いきたようだ。

 確かに、それもあるけど、そこは問題ない。

 ここには父さんも母さんもいるし、援軍も間に合った。

 これで負けるわけがない。


 だから、僕にはレイとの差がどれほどあるか、確かめる方が今は重要だ。


「あ、きたね。どれがS級?」


 魔物の群れが見えた僕は、アリスにS級がどれか尋ねた。

 アリスは剣の腕も凄いが、それよりも探知能力が素晴らしい。現役の騎士団と比べても、上位に躍り出る程だ。


 その探知能力が買われ、学校で副騎士長をしてると言ってもいい。

 探知能力はサポートととしてとても心強いので、現役の騎士団でも、そういう人は副騎士長になることが多い。


 騎士長はその中で一度の実力が必要だが、副騎士長はそうでもないのだ。

 だけど、アリスの場合は別。

 彼女は実力も申し分ない。僕を除けば学校で二番目に強い。一応彼女の方が歳上だしね。


「えっと、あれだね。ほ、本当に一人でやるの?」

「うん。よし、じゃあ、行ってくるよ」

「えっ、ちょ……行っちゃった…」


 僕はアリスを置いて一人で、魔物の群れに突っ込んだ。

 まだ誰も突撃していない。

 一番のりだ。

 このS級はもらったよ。


 そう思いながら、僕はスキルを発動させた。

 僕のスキルは肉体を強化する事に特化している。

 だから、今使ったのもそれだ。


 さらにスピードを上げ、僕は接敵した。


「邪魔だよ、霊光」


 剣に光、オーラを貯め、目の前の魔物へと放った。

 剣から出た光は魔物を貫き、そのまま奥の魔物も貫く。


「霊光斬」


 僕は剣から真っ直ぐに伸びた光を横に振った。

 それだけで、100ぴき程の魔物はその身体を大きな斬り後を残して、消えた。

 しかし、それでも僕とS級の間には多くの魔物が残っていた。


「多いな……一気にやろう。霊光分散、形状矢」


 剣から伸びた光がバラバラになり、矢を形どる。

 数はおよそ500本。

 その一本一本が、僕のオーラで作られている。


 僕の固有スキルはオーラ、そしてその進化スキル、形状変化。

 オーラは僕の身体に纏うと肉体を強化する。

 さらに、そのオーラを固め、形状を変化させるのが、二つ目のスキルだ。


 オーラは固めると、光属性の魔法のような性質を持つ。だが、魔法とは全く異なる。

 思うだけで、その形状を変化させ、操ることができる。

 さらに、僕に固めたオーラを纏わせると肉体がより強化されるのだ。


「霊光矢」


 形状変化さてた矢が、僕の号令と共に魔物へと発射された。

 弓は必要ない。

 思うだけでそれは弓によって放たれた矢のように獲物へと襲いかかる。


 魔物達は悲鳴をあげ、消えていった。

 そして、矢を受けて残ったのはS級のみだった。

 オーラでの攻撃は強力なのだ。

 たとえ、それが小さなものでも、簡単に相手を斬り裂き、貫く。


 しかし、そのオーラの矢を受けたS級は何事もなかったかのように立っていた。

 頭に角が生えた巨大な魔物。

 聞いたことがある。これはキングオーガだ。

 オーラの矢を受けても傷がつかない頑丈な肉体。間違いない。


「これはなかなか骨が折れそうだ」

 ウガァァァア!


 僕は咆哮をあげたキングにもう一度矢を放った。

 固めたオーラはそう簡単には消えない。

 相手に打ち消されるか、僕が消滅させたりしない限り、消えることはない。

 そして、消滅する時、それは爆発して消える。


 ドババババ‼︎


 小さな光の爆発が、キングオーガを包んだ。

 500本近い矢が、絶え間なくキングオーガに飛び、爆発する。


 やがて、数10秒続いた爆発も収まり、中から全体に裂傷を受けたキングオーガが現れた。

 その足はしっかりと大地を踏みしめ、まだ余裕があることを感じさせる。


「これも効かないのか…まいったな」


 これがダメなら、攻撃の威力をもう一段階あげないとダメか…

 そうなると、長くは戦えないからな…

 一先ず様子を見ようか。


 僕はキングオーガが振り下ろした拳を軽く躱して、様子を見ることにした。

 時折、剣でキングオーガの肌を斬り裂き、少しずつダメージを蓄積させる。


 オーガの攻撃は僕にとっては躱すことに、苦労するようなものではなかった。

 攻撃は単調だし、遅い。

 これはたぶん肉体強化に特化した僕だから、そう思うのだろう。


 しかし、それを補って余りある頑丈さ。

 これは非常に厄介だ。

 強化系だけでは威力が足りていなかった。

 強力な魔法が使えればいいんだけど、僕はこの頑丈さを上回るような魔法は習得していない。


 ……埒があかない。

 そう思った。

 キングオーガの肉体は頑丈で、なかなか深くは斬れない。

 剣には余裕があるが、肉体の力が足りない。

 …なら、肉体を強化すればいい。


 そう考えた僕はオーラを身体に纏った。

 これで十分なはずだ。

 そして、攻撃を躱すと、すれ違い様に足を切り落とした。


 足を失い、キングオーガは倒れる。

 僕はそれを見て、倒れたキングオーガの首付近に一瞬で移動した。


 移動スキル、瞬動。

 一定の距離を一瞬で移動するスキル。

 速さというものを超え、瞬間移動のようにして移動した僕は、キングオーガの首を切り落とす。

 強化された肉体と剣は抵抗もなく、肉を斬り裂き骨を断つ。


 悲鳴をあげる間もなく、首をなくしたキングオーガは静かに消えていった。

 残ったのは魔石だけ、僕はそれを見て達成感に満たされた。


 レイ、僕はまだ君とライバルでいれるみたいだ…


 僕は、王都の方向を見ながら、心の中でそう呟いた。



 〜〜〜〜〜〜


 ドゴォォォォオン‼︎


 王都の建物が揺れる程の衝撃と轟音が戦場になりかけていた、王都の前に広がる草原に鳴り響いた。


 魔物の軍勢の中にぽっかりと空いた穴。

 それは、そこにいる魔物と人の動きを止めさせた。

 そして、その原因を作った二人も、唖然とその様を見ていた。


『…………』

「……………………やりすぎた」

『……でしょうね。私…こんなものを手伝ってたのね』


 ポツリと原因の黒幕が呟き、その黒幕の補佐をしていた精霊がそれに同意をした。


 今から戦うはずだった、ケロベロスも地平線の彼方へと吹き飛んでいった。

 まだ生きてはいると思うが、戻ってくるかはわからない。

 いや、生きてないかも…

 あいつキングオーガより脆そうだもん。


「……ごめん、シャラ姐、ゲルクさん。敵…消えちゃった…」

「ええ、見てたわ…」

「私もだ…」

「二人の仕事なくなっちゃったかも…しれない」


 まさかあそこまで威力が出るとは…

 水竜、恐っ…

 軽く1000は消えたな、今ので。

 たぶん、S級以下だと生きてはいないだろ…


 ま、まぁ敵の数は減るのはいいじゃないか。

 例え地面がえぐれ、山まで道ができ、ここから見える山の斜面が吹き飛んでてても…

 ………後で王様に謝ろ。そして、逃げよう。ギルクに任せて…


「……炎風剣」


 俺はいつもの剣を作り出し、動かない魔物へと振った。


 ボォン!


 放たれた赤い刃は10数匹の魔物を巻き込み爆発した。

 魔物は動かなかった。ボーとしてた。だから、撃った。


 だって、隙だらけなんだもん。

 みんな動かないんだもん。

 後衛も魔法撃つの忘れてるんだもん。


「…うわぁ、血って怖い」

「末恐ろしい少年だ」


 徐々に現実へと復帰し始める人々。

 爆発音で気が付いたようだ。


『こ、後衛!魔法発射!』


 拡声された慌てた声が後衛を促した。

 その声を聞き、後衛が魔法を放った。様々な魔法が入り乱れ、魔物たちをかき消していく。


 それを見ながら、俺は動き出した戦場へと足を踏み入れようとした。

 しかし、二人の大人に羽交い締めにされる。


「だ、ダメよ!レイちゃん!貴方がいったら敵味方関係なく死んでしまう!」

「そうだ!少年!もうやめろ!死人が出る!」


 必死の形相で俺を止める二人。

 酷くないか…?

 俺って信用ないのかな…?

 俺だってあんな魔法、こんな人と魔物が入り乱れた状況で使わないよ…


「大丈夫だよ。俺だってそれぐらいわかってるさ」


 俺は笑顔でそういった。

 すると、二人は冷や汗を流し、俺を縛った。


「………は?」

「レイちゃん、あなたは後ろで待機よ」

「少年、君は危険だ」


 ゲルクの言い方は俺を爆弾扱いしているようだった。

 そして、シャラ姐は縛った俺を担ぐと、後衛の方へと運び始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ、二人とも!俺だって、こんな状況であんな魔法使わないよ!」

「ダメよ。貴方の笑顔、お父さんと同じだったわ。危険よ」

「そうだ。あの状況で笑える子供は危険だ」

「えぇぇ⁉︎笑ったらダメなの⁉︎」


 2人を安心させようとしただけなのに…

 なんで逆に危機感覚えさせてんだ⁇

 俺の笑顔っていったい……



 〜〜


「れ、レイ、だ、大丈夫…?」

「…体はな。…精神はダメだ……」


 戦場の後方、全体が見通せる場所に、俺は括り付けらていた。

 それを心配して、わざわざ見に来てくれたシャルステナ。しかし、助けてはくれない。


「えぇっと、そう!レイのさっきの魔法凄かったよ!前に見たときはあんなに凄いとは思わなかったよ!」

「……それが原因で俺はこうなってるんだ…」


 シャルステナが元気な声で励まそうとしてくれているが、俺の心は癒されない。

 可愛がってくれていたおねぇさんにまで、危険物扱いされ、さらにこんな風に木の頂上付近に縛り付けられたのだ。


 俺は深く傷ついた。

 それはもう、目の前の戦いがどうでもいいぐらい。

 笑っただけなのに…

 この言葉を何度も内心で繰り返した。


「それは……わ、私はかっこいいと思ったけどな。一人であんなに一杯魔物を吹き飛ばしたレイの魔法」

「…ダメなんだ。魔法がカッコよくても、俺がダメなんだ……俺の笑顔は人に危機感与えてしまうんだ…」


 もう立ち直れない。

 笑えない。

 笑うのが怖い…


「そ、そんなことないよ!ほら、笑って?レイ?」

「嫌だ…シャルステナにまで危険物扱いされたくない…」


 必死に俺を元気ずけようと、気丈に頑張るシャルステナ。

 そんなシャルステナの声も、俺には届かない。

 しばらくほっといて欲しい。

 しばらく笑顔とはなんなのかについて考えさせて欲しい。


「わ、私はしないよ?レイを危険物扱いなんて…ほら、ね?笑ってよ?」

「やめてくれ…もう俺は笑いたくないんだ……もう二度と笑わない…」


 磔にされ、情けないことしか言わない俺。

 そんな俺をなんとか笑わせようと頑張るシャルステナ。

 俺と彼女の攻防は2時間続いた。



 2時間後、全然戻らないシャルステナを心配して、ギルクがやってきた。

 木に磔にされ、頭を垂れてどんより沈む俺と、それをさっきから、変顔したり、一人漫才したりして笑わそうとしているシャルステナを見て、ギルクは全てを察した。


「ど阿呆ども、こんな時に何やってる…?」

「えっ?ギルク?あ、えぇっと…」

「説明はいい。そのアホがなんかして、縛り付けられ、落ち込んだところを励ましていたとかそんなところだろう?まったく何やってんだ…」


 ギルクはため息を吐きながら、呆れた声でそう言った。


「おい、アホ何したんだ…?」

「笑った」

「ん?」

「俺は笑ったんだけなんだ…」


 ギルクは俺が笑ったと言うと聞き返してきた。

 聞き間違いだと思ったみたいだ。そして俺は再度磔にされた理由を教えた。


「……それで、そうなったのか…?」

「ああ…。ギルク、俺の笑顔はそんなに危険かな?笑っただけで、縛られるくらい…」

「知るか。どうせ気持ち悪い笑い方したんだろ」


 ギルクはシャルステナと違って励まそうとはしなかった。むしろ貶してきた。


「気持ち悪い笑顔…」

「だ、だめだよ、ギルク!レイは今弱ってるんだよ⁉︎だ、大丈夫よ、レイ。あなたは気持ち悪くないから」

「俺が気持ち悪い…」

「ち、違うよ!レイは気持ち悪くないよ!えぇっと、気持ち良い笑顔だよ!」


 シャルステナがギルクを責め、必死にカバーしてよくわからないことを言い出した。

 気持ち良い笑顔ってなんだろう?

 どんな笑顔なんだろ?


「おいアホ、お…」

「はいアホです…そして気持ち悪いです…」

「………無理だ。シャルステナ、後にしよう。これは無理だ」


 ギルクが何か言おうとして、俺を呼んだが、俺の返しを聞いて、無理だと判断したようだ。

 そして、後回しにようとシャルステナに復帰を促した。


「で、でもレイが…」

「とりあえず、先にこの戦いを終わらせないと、どうにもならん、これは…」


 シャルステナは俺のことを心配して、渋っていたが、戦いを終わらせたら、俺は解放されるだろうとギルクが言うと、後ろ髪引かれてそうな様子で戻っていた。


 そして俺は一人で考えを巡らすのだった。


 笑顔ってなんだろう…



 〜〜〜〜〜〜


「遅いよ!シャル!」

「ごめんアンナ、それにゴルドもハクも」

「いいよ〜」

「ピィイ」


 やっと戻ってきた私にアンナが文句を言った。

 見ればもう後衛まで、魔物が迫ってきてるようだ。

 レイが大きく敵の数を減らしたのに、それでも敵が多すぎる。


 前を見れば、前衛で戦っている者も、限界が近そうだ。

 すでに倒れている者もいる。

 食われた者もいるかもしれない。


 状況が良くない。

 ギルクの言う通りだ。これはレイを励ましてる場合じゃないわ。

 ごめんね、レイ。


「ギルク、今の陣形は?」

「俺とアンナが後衛、他が前衛で足止めしてる」

「そう、なら私が後衛をやるから、アンナとゴルドは前衛。ハクとギルクは真ん中で、アンナとゴルドをサポートして。私が魔法で攻撃するわ」


 私は口早に陣形を説明し、変えた。

 私は剣の腕にはそこそこ自信はあるが、魔法の方が遥かにできる。だから、後衛で攻撃魔法を唱える方がいい。


 逆にアンナとゴルドは前衛向きだ。

 アンナは動きが早く、回避が非常にうまい。

 それに対して、ゴルドはガッシリとした構えで、攻撃を受け止める盾職向きだ。


 ギルクはどちらもこなせるので、アンナとゴルドのカバーをしてもらう。

 ハクはブレスや爪の変形で中距離からの攻撃が多い。

 なので、この2人には真ん中で戦ってもらう。


「来たわ」


 陣形を変えたところで魔物がやってきた。

 A級の魔物だ。

 確か名前はオークジェネラル。


 普通のオークよりもガッシリとした身体付きをしていて、手には金属の斧を持っていた。

 おそらく誰かから奪ったものだろう。

 斧には血が残っていた。

 つまり最低でも二人この魔物にやられているということだ。


 ゴルドがオークジェネラルの前に踊り出た。

 盾で斧を弾き、手に持った大剣で斬りつける。


 ゴルドは大剣を片手で振り回す、剛力の持ち主だ。

 片手剣と同じように自由自在に振り回す。

 そして、左手に持った盾で相手の攻撃を受け止めたり、弾いたりして隙を作る。


 その隙を突くのが上手いのはアンナだ。

 彼女は軽やかな動きで、両手に持った少し短めの片手剣を舞うように振り回す。

 基本はヒットアンドアウェイの戦法で、打ち合ったりはしない。

 隙を見ては攻撃し、離れる。


 その離れる時の追撃は、ギルクが止める。間に割り込んで剣で弾いたり、魔法でカバーしたりする。

 ギルクはサポートに向いている。

 魔法も即時発動型が多く、瞬時に反応してカバーできるし、剣で身を守るのも上手い。

 さらに投剣の技術も持っている。


 ハクは何が得意なのかよくわからない。

 あの小さな体のどこにそんな力があるのかといった力で攻撃したり、受け止めたりする。

 さらにブレスもまだ弱いが、魔物にダメージを与えるぐらいの威力はある。

 そして、謎なのが爪。

 伸びたり、曲がったり鞭のように動くのだ。


「水と氷の記憶、氷塊とかして敵を包み込め、アイスピラーク」


 そして、私は魔法を発動する。

 私はどんな魔法でも詠唱を行う。詠唱は魔力を無駄に消費しない為にもなるし、威力の底上げにもなる。

 だから、全ての魔法に詠唱を作る。


 私の詠唱が終わると、全員オークジェネラルから距離をとった。


 私の魔法はその開けた空間に水を作り、凍らせる。

 そして、氷塊となって360°全ての方向からオークジェネラルへと飛ぶ。

 ぶつかり砕けた氷はオークジェネラルの体を包み込むかのようにして固まる。

 それはまるで一つのオブジェのようだった。


 身動きを取れなくしたところで、さらに魔法を発動する。


「火と風の記憶、荒ぶる業火とかして敵を焼き尽くせ、ファイラルト」


 オークジェネラルの周りに風が吹いた。

 その風は何もなかった空中に火を生み出し、竜巻のようにオークジェネラルを包み込む。

 温度の急激な上昇により、氷は砕け、中にいたオークジェネラルも皮膚が割れ、そして業火に飲み込まれ消滅した。


「次、きたよ」


 休む間もなく、次の敵がやってくる。

 それは絶えず、時には複数と戦うことになった。

 救いはS級がいないことか。


 私たちが、終わることのない戦いに疲れを感じ始めた時、それはきた。

 援軍だ。


「第1騎士団、第2騎士団、救援要請を受け参上した!負傷者は下がれ!後は我々が受け持つ!」


 騎士達は一斉に魔物へと走り出し、後衛まで来ていた魔物を前衛まで押し戻した。

 そして、その場で腰を落とし、疲れを露わにしたり、手当をしたりと一時の休憩を取る。


 私たちも疲れが来ていたため、休憩を取ることにした。

 せっかくなのでレイを励ましながら…


次は何時になるかまだわかりませんが、多分土曜日以降になると思います。

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