31.進行
18話誤字を修正しました。
「いや〜、平和だな〜」
「どこがよ。そんなこと思ってるの、レイだけよ」
慌ただしく動く人々を見て、俺は平和を感じたのだが、シャルステナはそうでもないようだ。
「平和だよ。あれから2週間も経つのに一度も進行が来てない。な、平和だろ?」
「本当に平和なら、私達が戦場に駆り出されることもないよ」
ここ二週間、魔物の進行は一度も起こらなかった。もうあと数日の内に援軍も到着するだろう。
そうなれば、もう終わったも同然だ。
だから、平和だと思ったのだが、シャルステナの言うことも一理ある。
確かに本当に平和なら、俺たちの様な学生、もっと言えば大人だって、戦場に駆り出されることはないはずだ。
だけど、ここは日本のように平和に守られてはいないのだ。
彼方此方に魔物の危険が潜んでいる。
ならば、たったこれだけの平穏でも、平和と呼ぶには相応しいと思うんだ。
「駆り出されると言っても、俺たちは予備みたいなものじゃないか。下手したら戦えないぞ?」
「戦わなくていいじゃない」
「まぁ、それもそうなんだが…」
なんか嫌だな。手柄を横取りされた気がして。
現在王都の守りは3つの勢力に分かれている。
ギルド、王都在住の騎士団、王立学院の教師軍。
この3つの勢力が、前衛と後衛に分かれる布陣となっている。
ギルマスと校長がそれぞれ指揮を取る。
全体の指揮は王が取ることになっている。
俺たちは基本後衛所属だ。
危ないからな。
一応俺たち以外にも、学院で高成績を収めたりしている者も参加している。
魔法師の数が少ないのだ。
それ以外にも、さらに後ろで怪我人を治療する部隊に所属する者もいる。
俺たちは全員ある程度は魔法が使えるので、後衛だ。
ゴルドとハクが若干心配だが、まぁ俺が代わりにやれば問題ないだろ。
シャルステナもいる。
ただしだ。
俺たちは敵の数が多い時にしか、そこには参加出来ない。
大人達が余り戦って欲しくはないと思っているからだ。
だけども、そんなして欲しくないだけの感情で王都を滅ぼす訳にもいかず、条件付きでの参加が決まったのだ。
因みにだが、俺だけはいつでも来てくれていいと言われた。
冒険者からの強い要望があったらしい。
主にバジルとかバジルとか。
あの飲んだくれは、わざわざ王に直訴したそうだ。
それは別に構わないのだが、『あんなクソガキ、一度魔物にボコられたらいいんだ』と声を大にして説得したというのには腹が立つ。
後で魔物の中に放り投げてやろう。
「ところで、みんなは?」
「ゴルドとアンナはデート。ハクはそれを追い掛けてった」
「アンナとゴルドがデート⁉︎何やってんだ、この非常時に…」
「それ、レイが言う?」
全く、いくら平和でも非常時なのにデートとは…けしからん奴らだ。
例え、俺がシャルステナにデートしないかと誘って、今大通りにいるとしても…
俺は自分のことを棚に上げて、そんな事を考えていた。
「それにしても、ゴルドあいつ攻めるねぇ」
「本当にね。毎日のように、アンナからどうしよう、どうしたらいい?って相談されるんだけど…」
「おい誰だ、その普通の女の子は」
そんな奴俺は知らないぞ。
ここまで、変態性が改善されるとは…
ゴルドよくやった。あと少しだ。
「可哀想よ。アンナも普通の女の子なのよ?前から」
「あれが普通なら、俺は一生恋愛しない自信があるね」
絶対普通じゃないよ、あいつは。
俺はまだ愉悦に浸る顔で、兄貴のパンツに顔を埋めてたあいつを覚えてるんだ。
「こんなとこにいたのか、お前たち」
シャルステナとデートしていると、ギルクがやって来た。
チッ、邪魔しやがって。
「ああ、そして帰れ」
思わず本音が出てしまった。
「このアホが、誰が帰るか。ゴルド達はどこだ?」
「デート中」
「は?この非常時に何をやってるんだ…」
ギルクも俺と同意見のようだ。
まったく、王都が大混乱の中よくデートなんかするよな、あいつら。
「まったくだ。今の状況をまるでわかってない」
「私、デートしないかって誘われたんだけど…?」
「お前らもか!」
シャルステナが密告したため、ギルクが声を大にして言ってきた。
「ギルク誤解だ。まず、あの二人が先にデートし始めて、それをハクが面白そうだと付けて行ったらしい。俺はその時ギルドに行ってたんだが、帰ってきたらシャルステナしかいなかったんだ。だから、止むなしにデートすることになったんだよ」
「一緒だ、アホ」
止むなしなんだから、一緒じゃないさ。たまたま二人になったから、デートしようと言っただけだ。
脳内裁判長!僕は悪くないですよね⁉︎判決は如何に⁉︎
「判決、俺は無罪」
「いきなりどうした、アホ」
おっと、脳内の裁判が外界へと漏れてしまったようだ。
危ない危ない。変な奴に思われるな。
さてと、そろそろギルクが何しに来たか聞いてやるか。
「…で、ギルク何しに来たんだ?用が無いなら、デートの邪魔だから、帰れ」
「……アホ、デートなんかしてる暇などないわ。先程、魔物が此方に進軍して来たとの情報があった」
「何⁉︎お前何でもっと早く言わないんだ!ふざけてる場合じゃないぞ!」
「それはお前だ、アホ」
とうとう、来たか。
くっそ、援軍も親父もまだなんだぞ。
とにかく、早く行かないと。
まったく、デートなんてしてる場合じゃないぞあいつら。
「俺がスキルで、あいつら見つけて連れてくから先に行っててくれ」
「うん」
「わかった」
俺は2人と別れ、空間探索のスキルを発動する。
探すのはハクだ。
形が一番わかりやすい。
「………見つけた」
発動させてすぐにハクを探知した。
近くにいたようで、このまま歩いていたら、合流していたかもしれない。
デートと言えば、大通りなのでそれは仕方ないことかもしれないな。
俺も来たし…
大通りはこんな緊急時でも、多くの店が開いている。
いつ進行が来るかわからない状況で、ずっと店を閉め続けるというわけには、いかないからだろう。
「ハク、遊びの時間は終わりだぞ」
「ピッ?」(なんで?)
「進行が始まったんだ」
「ピイ!」(大変!)
そう、その大変な時に君は何をしてるんだ。
出歯亀なんかやってる場合じゃないぞ。
ハクがいつものように肩に乗ったところで、俺は残りの二人がいる所へと歩いて行った。
ハクはかなり近くで見ていたようで、すぐそこにいたのだ。
「デート中に悪いが、緊急事態だ」
「デデデートじゃないわよ!」
「え〜、デートじゃなかったの〜?」
緊急事態という事には触れず、デートであるか否かについて話す二人。
「それはどうでもいいから。…魔物が来たぞ」
「えっ、来たの?本当に?」
「え〜、せっかくデートしてたのに〜」
「とにかく行くぞ」
俺は少し怖気ついているアンナと、デートに未練タラタラのゴルドを引き連れ、シャルステナ達の元へと向かった。
〜〜〜〜〜〜
「ギルク、今わかってる情報をくれ」
「ああ」
俺たちは後衛の中央付近で合流した。
そして、みんなが揃ったところでギルクに今ある情報の説明を促した。
「今、わかっているのは数が5000を超えているという事だけだな。どれだけいるのかはわからない。恐らくS級もいると思う」
俺は与えられた情報を吟味し、作戦を立てる。
数は5000以上…
断崖山の此方側の斜面にいたであろう数はおよそ八千から九千。
およそ6割が最低でも進行して来ている。
階級別に分けるとS級30、A級300、B級1200、それ以下3000か。
この数のS級が同時に来たということは、S級を従える奴がいるな…
魔物の階級は人が決めたものだ。
魔物ではない。だから、人とは別に魔物が決めた階級がある。
決めたといってもこれはこうとかきっちりしたものではない。
ただ、より強い者が上というだけの階級だ。
つまり、それぞれの階級の中にも上と下がある。
人が決めた階級が上がれば上がるほど、それは大きく開く。
それはもうA級とS級の差くらいに…
そして、その差が大きくなりすぎた時、人は魔物の階級を上げる。
SS級がいるのか…?
……いや、そんなに強力な個体はいなかったはずだ。
となると、S級の中に飛び抜けて強い奴がいる…?
…一匹、いたな。
一番始めにS級に至り、それからも加護を取り込み続けた奴が…
「…後どれくらいで来る?」
「恐らく30分前後だろう」
結構短いな。
それならスキル使えば見えそうだ。
俺は千里眼と透視を併用し、前に並ぶ前衛を通り越して遠くを見つめた。
「……はぁ」
思わずため息が漏れた。
本当にいやがった。あれは無理だろ…。どうにかしないと…
「…ギルクみんなを頼む。俺はちょっとギルマスのとこ行ってくる」
「了解した。何かあったのか?」
「あの山の最強が来てるよ」
ギルマスの所に行くと言う俺に、ギルクが何事か訊いてきた。
俺はそれに軽く最強が来てると返した。
「…そうか。わかった。行ってくれ、ここは俺に任せろ」
「サンキュー」
俺は手を上げながら礼を言い、それにギルクも手を上げて送り出した。
「ギルマス、やばいよ〜」
「やばいんなら、もっと緊張感を出せ」
「ははは、それは無理かな〜。なんか楽しくなってきたから」
俺の緊張感のない話し方はわざとではない。何故か楽しくなってきたからなんだ。
みんなと同じ危機に立ち向かう。たった、それだけのことが俺には嬉しくて楽しかった。
たぶん、ずっと一人でやってきた反動が来たんだろう。
「お前は頭もおかしかったんだな。それで何がやばいんだ?」
「ひどいな。まぁいいけど…」
俺は普通なんだけどなぁ。
ただ、興奮してるだけで…
「…あの山最強の魔物が来てるよ。たぶん、そいつがこの群れを率いてる」
「……まぁそれはあると思っていた。なにせこの数だ。それぐらいの奴が率いてなきゃおかしい」
「そう?なら、その魔物の情報いる?」
さすがはギルマス。他とは年季が違うな。
しっかりとその可能性を考えてたみたいだ。
「情報ってのはなんだ?」
「まずは形、犬の頭が5匹ついたみたいな魔物だよ」
「なんだそれは?そんな奴聞いたこともないぞ」
これは意外だな。
ギルマスなら何か知ってるかと思ったんだが…
…ギルマスが知らないということは、新種かもしれないな。
「なら、あの山に住んでた動物か魔獣がそうなったんだろうね」
「なるほどな。確かにあり得る話だ。他には?」
「後は大体の強さの予想だけど、SS手前だと思う。明らかに…他とは比べ物にならないんだ。こいつは一番始めにS級になった奴で、加護を他よりも取り込んでるみたいなんだ」
「…面倒な奴が出てきたもんだ」
ホントだよ。
キングオーガとかなら、協力すれば問題なく倒せるのに…
あいつは謎なんだよな。
どんな攻撃が来るかわからない。
「…恐らく、スピード型の魔物だよ。それと視野が広い。後ろから攻撃なんてことは意味がないと思う。後はたぶん何か属性攻撃をして来ると思う」
前に一度遠くからその魔物を見たことがあった。
ケロベロスのように顔が複数ついており、5つの顔からそれぞれ違った属性を纏った息を吐いていた。
大きくはない。
ただ、すばしっこいとは思えるような、体をしている。
キングオーガよりは絶対に速いだろう。
そのスピードに対応できないと、何も出来ずに終わってしまう。
「…シャラ姐とスピード型の人をもう一人、後は俺が出るよ。それしかないと思う。他にもS級はいるみたいだから…」
「……お前がそう言うならそれでいい。ただし、倒そうとは考えるな。止めればいい。他を狩り終えれば、増援を送る」
スピード型のシャラ姐とあと一人いれば、そうそうはやられない。
俺もある程度なら、反応できるし、そうそうやられはしないだろう。
予見眼と複数思考、その他身体能力向上のスキルを用いれば、対応出来るはずだ。
キングオーガの時は、俺の油断と慢心でやられかけたが、今はそんなものはない。
ちゃんと見て、考えれば対応出来るはずだ。それに俺は後衛でサポートと相手の邪魔をするのがメインだ。
無理に前に出る必要はない。
「よろしく。じゃあ、シャラ姐達のことはギルマスに任せたよ。俺は先に魔法を準備しとくから」
「?まだ、早くないか?見えてもないぞ?」
「発射に時間がかかる奴があるんだ。それに魔物との乱戦になったら使えないような、広域魔法なんだ」
最初の一発だけしか使えない。だけども、やる価値は充分にある。
キングオーガの腕をへし折ったんだ。今回はそれよりも強力な奴を準備出来る。
「しかしだな、お前は今からその化け物と…」
「大丈夫、先に一発お見舞いしときたいんだよ」
ケロベロスのついでにその周りも巻き込んでやる。
かなりの数が減るはずだ。
「そうか。ならいい」
「じゃあ、やってくるよ。真ん中の辺りにそいつはいるから、その辺りの殲滅は任せて」
俺はそう言って、前衛の前に出た。ギルマスはシャラ姐達を呼びに走っていった。
「ウランティー、手伝ってくれる?」
周りから見れば、俺は独り言を言ってるように見えるだろう。
だけど、そこにはちゃんと精霊、ウランティーがいる。
『ええ、何をすればいいの?』
「今から発動する魔法は竜を形どったものなんだけど、それの口から出ようとする水を抑えて欲しいんだ」
今回は前よりも遥かに強いブレスを撃つつもりだ。
だけど、俺一人では抑える力が足りない。
そこでウランティーにも協力してもらうことにした。
『了解よ』
ウランティーの了承が取れたところで、俺は水竜を発動した。
8割の魔力をつぎ込み、王立学院の校舎程の大きさの水竜を創った。
すでに水流は口へと流れ込み、口には残った2割の魔力を使い、風魔法で圧力をかける。
周りというか、それを見た全員が固まったのを感じた。
『…えらく大きな竜ね……。魔力は大丈夫?』
「すっからかんさ。それよりも早くやってくれ」
『わかったわ』
ウランティーは風魔法で、さらに口に圧力をかける。
これで最大威力になるまで溜めれるはずだ。
水竜のブレスは充填する時間によって威力が変わる。そして、つぎ込む水の量で最大威力が変わる。
つぎ込む水の量とは即ち、水竜の体だ。
だから、大きければ大きいほど最大威力は上がる。
俺の魔力8割をつぎ込んだ水竜は巨大だ。
キングオーガなど軽く丸呑み出来る。
後ろを見れば前衛後衛問わず、突然出現したこの巨大な水竜に唖然としている。
「ありがとう。ウランティー」
『どうってことないわ。これくらい』
「じゃあ、その水竜は頼むな。俺は魔力補充してくる」
そう言って俺は足早にそこを離れ、シャルステナ達のいる後衛中央に向かった。
未だ俺はシャルステナの近くでないと、経験還元が使えないのだ。早くなんとかしなくてはならない。
「お前だろ、あれは……」
みんなの元へ戻ると、まず第一声がそれだった。
「まぁね。それと、俺は前で戦うことになったから…」
「ダメ!私も行く!」
俺が一人だけ前衛に行くと言うと、シャルステナが俺の腕を掴み、自分もと言い出した。
シャルステナから伝わってくる体温はとても冷たかった。
心なしか体も震えている。
その目に映るのは恐怖だ。
失う事を恐れてる。そんな目だ。
俺はシャルステナをそっと抱きしめた。
「あ……」
「大丈夫だ。俺は死なない。シャルステナもみんなも死なない。俺が誰も死なせない」
俺は俺の腕の中にいるシャルステナに語りかけるように、静かにそう誓った。
ずっと、その為に一人でやってきた。
それは、みんなと一緒に戦うと決めた時からも変わらない。
絶対に死なせない。
みんなを絶対に守る。
そして…俺自身も死なせない。
これが俺の誓い、決意だ。
「シャルステナ、約束だ。みんなでフルコース食べに行こう。俺の奢りでな」
「……うん」
少し戯けた感じで言った俺に、シャルステナは小さく頷いた。
俺はシャルステナをゆっくりと離す。
そして経験還元を発動させた。
還元する量は200。
たったそれだけの量。だけど、およそ100倍に膨れ上がる魔力は膨大だ。
S級と変わらない量の魔力量だ。
一度に還元されたそれは、俺の体から溢れ出る。
俺を中心に魔力の渦が巻き起こった。
だけど、かつてのような暴走は起こさない。
完璧に操作されたそれは次第に俺の体の中へ吸い込まれ、収まっていく。
「……もうレイはそこまで、進んでるんだね」
シャルステナは俺の魔力補充が収まるのを見てそう呟くように言った。
それは目の前にいる俺にしか聞こえなかっただろう。
それぐらい小さな声だった。
「安心したか?」
「ううん。悔しいな。私はまた……レイの横で戦えないんだね……」
「また…?」
また、とはいつの事を言っているんだろと俺は首を傾げた。
キングオーガの時のことか…?
確かにあの時は俺は彼女を無視し、一人で戦った。
だけど、今回は一緒だ。
確かに、前衛と後衛と別れてはいるが、それはさほど問題じゃない。
俺はシャルステナと、みんなと一緒に戦ってるつもりだ。
「…一緒に戦うさ。ただ後ろか前の違いだけだよ」
「………そう、だね」
シャルステナは俯きかけに呟き、それ以上何も言わなかった。拳を握り締め、悔しそうに下唇を噛むシャルステナ。
俺はシャルステナのことが心配になり、さらに言葉を続けようとした。だけど、そこで前衛から声が上がった。
「魔物だ‼︎」
「かなりの数が見えてきたぞ‼︎」
俺たちは一様に声の上がった方を見た。
間が悪い…
シャルステナのことが心配だが、魔物が来たのなら、早く戻らなければならない。
…仕方ない。シャルステナの事はみんなに任せよう。
「…みんな頼んだぞ」
俺はそれだけ言って、走ってそこを離れた。
返事は聞かなかった。
だけど、目は見た。みんな、俺の言いたい事はわかっているとその目は語っていた。
俺は水竜の元へと戻った。
前を見るともうスキルを使わなくても、十分確認出来るところまで、魔物が迫っていた。
およそ接敵まで10分というところか。
『後衛、魔法準備!接敵する前に数を減らせ!それと端から崩していけ!真ん中はいい!』
魔法で拡声された声が鳴り響いた。
それは予定されていた指示だった。前衛は300人程しかいない。
後衛は学生を入れて200人。
数では圧倒されている。
だから、始めに各々の最大広域魔法で弱い魔物を殲滅するのだ。
そして、俺の最大広域魔法はこの水竜だ。
これで魔物の軍勢の中央は吹き飛ぶはずだ。
先程、ギルマスに伝えたことが、ちゃんと後衛に伝わっていたようで安心した。
同じ所に無駄打ちするのは勿体無いしな。
「レイちゃん」
「あ、シャラ姐!それと…」
「ゲルクだ。よろしくな少年」
シャラ姐と一緒に来たのは、騎士の男だ。
重装備と言うよりは軽装備の鎧を纏った男は、俺に手を差し出してきた。
「よろしく、ゲルクさん。僕はレイ」
簡単に自己紹介しながら、握手を交わす。
「それで?レイちゃん、どの辺りにいるの?」
「ああ、それなんだけど…これでその辺りの雑魚を殲滅するからさ、それから教えるよ。魔物が多くて見えないし…」
俺は水竜を指差し、それから魔物の軍勢の方へを見て言った。
「レイくん、君は探知系なのか?後衛と聞いたんだが…」
「どっちもできるよ」
ゲルクが訝しげな視線を向けて尋ねてきた。俺はそれに軽い調子で答える。
「またオリジナル?」
「そうだよ。因みに前にシャラ姐に教えたのはこれを作ろうとして出来た副産物」
「あの魔法が副産物…?…いったいどんな魔法なのこれは…?怖いんだけど……」
確かに副産物にしては便利な魔法だ、あれは。
台車にも出来るし、動く人形にもなる。使い方は無限だ。
「まぁそれなりの威力が出るよ。たぶん俺が出せる最大火力が…」
俺もここまで圧力を高めた事はないから、どうなるかはわからない。
楽しみだ。どれほどの威力が出るのか。
「ウランティー、俺が合図したら魔法を解除してくれ」
『了解よ』
「誰に言ってるの、レイちゃん?」
誰もいない方向に向けて言葉を発した俺に、シャラ姐が首を傾げながら聞いてきた。
「精霊だよ。僕には見えるんだ」
「うわぁ、なんかもう……あの人達の息子なら仕方ないのかしら…」
シャラ姐が俺の異常性を親父達のせいにし始めた。
確かに関係ないとは言わないが、俺が異常なのは転生したからであって、あの人らのせいではない。…はずだ。
例え、幼い頃から鍛えらたとしても、親父達のせいではない。たぶん…
「シャラさんはこの子の親とお知り合いなので?」
「ええ。…師匠とその奥さんです」
「ほお!シャラさん程の人を育てた方ですか。是非お会いしてみたい」
ゲルクが親父に興味を抱いたようだ。
やはり、シャラ姐はとても強い冒険者みたいだ。
前にS手前だと聞いたことがある。
バジルとは大違いだ。あいつも真面目にやったら、そうなれるだろうに…
「そう言えば、レイちゃんお父さんは?」
「親父?親父は今、旅に出てるよ」
「ああ〜、もう親父と呼ぶ年になっちゃんたんだ…。そっか…」
シャラ姐は俺の成長が若干ショックなようだ。
シャラ姐には言わないが、俺はだいぶ前から親父と心の中では呼んでる。
母さんは一緒だ。怖いからな。
「残念だ。その方がいてくれれば、この戦いも楽になるのだが…」
「楽になるどころか、何もしなくていいね」
「そうね。あの人なら一人で十分よね」
「そ、それほどの方なのか…」
ゲルクの中でどんどん親父がデカくなってる気がする。
もう言葉に尊敬が込めらてきている。
「まぁ、今回は親父抜きで頑張ろうよ。たぶん、もうすぐ帰ってくるから……」
「そうなの?」
「たぶんだけど、親父は今回の騒動を収めるために世界樹に行っているんだ。2年以上前に出たから、そろそろ帰ってきてもおかしくないよ」
というか遅い。まだか、と言いたい。
親父の足ならもっと早そうなんだがな。
親父でも世界樹攻略は苦労するのだろうか?
そう言えば、本に世界樹の森は人を迷わせると書いてあった気がするな。
……どう考えても、親父なら迷うな、確実に。間違いなく。迷わない訳がない。
遅くなってるのはそのせいか……
「そう、なら今回を耐えれば大丈夫そうね」
そう、残党は親父に「お願い、あの山の魔物全部狩って」と俺が言えば終わる。
時間はかかるだろうが、確実にやってくれるはずだ。
さてさて、話す時間もなくなってきたな。
もう、すぐそこまで来てる。
すでに、魔法を放っている者もいるみたいだ。
俺もやろうかな、そろそろ。
「じゃあ、やろうか。ウランティー」
『ええ』
「よし、3、2、1、今だ!」
俺とウランティーが風の魔法を解除し、水にかかっていた圧力が、一方向だけ解放された。
そこにもう、限界だと言わんばかりに水が我先にと飛び出る。
それはとんでもないスピードの水の塊となり、前方へと発射された。
魔物の軍勢を飲み込み、それは勢いを落とすことなく、此方から遠ざかっていく。
それは時折ある木や岩をも飲み込み、魔物を地平線の彼方まで吹き飛ばした。
そして、魔物の軍勢の中央には大きな穴が開いた。
数秒後、遠くで轟音が鳴り響いた。
ドゴォォォォオン‼︎
………………あれ?
遅くなりました。
早め早めに更新したいと思っていたのですが、中々時間が取れず、一週間近く時間が空いてしまいました。
しばらくはこんな調子になるかとは思いますが、最低でも一週間に一度は更新出来る様に頑張ります。
次は明日出来ると思います。




