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30.絡み出した歯車

「そろそろですかね。あの山に仕掛けた爆弾が爆発するのは」


 そこは何処にでもあるような宿の一室。

 その部屋には黒いローブを被った人物がワイングラスを片手に寛いでいた。


 ローブの男はワイングラスを静かにテーブルの上に置くと立ち上がる。


「折角近くにいるのですから、見に行くとしましょうか」


 そう言って、しっかりとした足取りでローブの男は部屋を出た。



 〜〜〜〜〜〜


「帰ったぞ、ミュラ!」

「レディク‼︎」


 扉を開け愛しい妻に大声で帰りを知らせた。

 ミュラはテーブルで食事を取っていた。しかし、手に持っていたスプーンを放り捨て、抱き付いてきた。

 俺はミュラを強く抱きしめた。


「悪いな、ミュラ。心配かけた」

「ほんとよ……どこへ行っていたの…?」

「世界樹に行ってきた」

「世界樹⁉︎なんで、そんなところへ⁉︎」

「嫌な感じがしたからだ。それと、今からすぐに竜神の所へ行ってくる」

「な、なんで⁉︎」

「悪いな。また、すぐ戻ってくるさ」


 俺はミュラを放し、家を出た。


「ま、待って!レディク!」


 家を出たところで、ミュラに抱き止めれた。


「私も行くわ!」

「馬鹿が。スクルトはどうすんだ」

「それは…」

「ミュラ…」


 俺は振り返り、ミュラの肩に手を置き、目を合わせた。


「俺は大丈夫だ。それよりもガキどものことを頼む。なに、もうすぐ終わる」

「……本当ね?もうすぐ、レディクは帰ってくるのね?」

「ああ。俺は帰ってくる、ちゃんと。ちょっくら、竜神に会ってくるだけだ」


 俺はミュラをもう一度抱きしめた。

 ミュラを安心させたかった。頭の悪い俺には言葉で安心させるなんてできないからな。


「じゃあ、行ってくるぜミュラ」

「…行ってらっしゃい、レディク」



 〜〜〜〜〜〜


「お前…男だな」

「そうかなぁ〜」


 どこか間の抜けた声で返事するゴルド。

 俺がアホになった次の日、俺はもう一度全員を集めた。

 そこに先にきたゴルドに昨日のことを訊いたのだ。

 すなわち、なんて告った?と。

 すると、ゴルドは特に気負うことなく答えた。


「僕に惚れさせてみせるか……俺も使っていいか?」

「え、ダメだよ〜。僕なりに一生懸命考えたんだからさ」


 シャルステナに使っていいかと訊くと拒否されてしまった。

 仕方ない。自分で考えるか…


 そうこうしていると、残りのメンバーも続々と集まり始めた。

 俺はその中で一名モジモジしている奴を呼び出し、少し離れた。


「なに気持ち悪い動きしてんだ、アンナ」

「だ、だって…」

「はぁ…。別にお前が気負う必要なんかないじゃないか。ゴルドは自分に惚れさせるって言ったんだろ?」

「なななななんで、あんだが知ってるのよ⁉︎」

「何でって普通に教えてくれたからだよ」


 訊いたらすぐポロったぞあいつ。抵抗も何もなく。


「まぁ、とにかくお前は何も考える必要なんてないじゃないか。考える必要があるのはゴルドで、惚れさせるのもゴルドなんだから。お前はいつも通りにしてたらいいんだよ」

「……そうよね。うん。そうするわ」


 どうやら俺の説得で納得してくれたようだ。これでまともに話ができるな。


 そしてアンナとともに、みんなの元へと戻り話を始めた。

 俺ではない。ギルクがだ。

 面倒だったんだ。同じ話をするのが。


「……ということらしい」

「……ばか」

「アホね」

「アホだね〜」

「ピッ」(アホ笑)


 シャルステナ以外は全員アホ判定が出た。シャルステナは小さくばかと呟いただけで、アホ認定はしなかったようだ。

 さすがはシャルステナ。もう俺のシャルステナへの気持ちもうなぎ登りだ。


「で、アホ、どうするんだこれから?」

「もうアホやめないか?」

「お前はしばらくアホだ」

「はぁ、もういいやアホで…。そうだな、とりあえず魔物の数を減らさないといけない。魔物の動きには一つ特徴がある。ある程度魔物の数が増えると、それが軍隊のように集まり、人間の街を襲うんだ。理由は知らないけどさ」


 アホに関しては諦めよう。俺が悪かった。

 まぁアホは置いといて、魔物をどうにかしないといけないのはマジだ。


 前に本で魔物のことを調べていた時、今言ったことが書かれてあった。たぶん、これは事実だ。

 一昨日のことやそれ以前に何度かあった進行、これを考えれば間違いない。


 それともう一つ。何故か、進行は夜に起こることが多い。これは必ずではない。

 だけど、だいたいが夜に進行してくる。引き連れる魔物が強いほどそれは顕著だ。


「じゃあ、魔物を狩ればいいだね〜」

「簡単に言えば、そうだな」

「簡単にはいかないの?このメンバーならA級でもいけると思うんだけど…」


 軽い調子でゴルドがいい、シャルステナは俺の言葉を思案するように言った。


「すまないな。それは俺のミスだ。もっと早くに打ち明けていれば、それで済んだんだが…」


 俺は謝った。俺が悪い。こんなに追い詰められているのは俺のせいだ。


「数が多いの?」

「多いなんてもんじゃない。軽く500はいる」

「500だと⁉︎」


 シャルステナの問いに俺が答え、ギルクが驚愕の声をあげた。


「ああ。ちなみにS級が最低でも50はいる」

「S級が50もいるの⁉︎そんなの無理よ!あたしたちじゃどうにもならない!」

「別に戦わなくてもいい。引き連れる魔物がいなければ、あいつらはこないはずだ」


 そう、問題はいかにしてS級以外を殲滅するかなんだ。

 S級を一々相手にはしてられない。

 親父が帰って来れば、その問題は消えるのだから…


「まてアホ。これはもう俺たちだけの問題にしていい度合いを遥かに超えている。国が出ないといけないレベルだ」

「まぁ、そうなるだろうな」

「な、なんでレイはそんなに落ち着いてるの?この街が滅ぶかもしれないんだよ?」


 特に気負うことなく、ポンポンと衝撃の事実を述べる俺にシャルステナがオドオドした様子で聞いてきた。


「もう俺1人じゃないからな。みんなを巻き込んだ。ずっと、一人で抱え込んできた時に比べれば、気持ちが楽なんだ」


 心が軽くなったとでも言うのだろうか。

 とても、楽になった。

 一人で、ああしないと、こうしないとと動き回り限界を超えてまで頑張った。

 けど、俺はアホだった。本当に。


 みんなで危機に向かい合うというのが、なんだか俺は嬉しくて、楽しかった。


「アホ、そんなこと言ってる場合か。もっとお前の知ってることを話せ」

「人が感慨に耽っていたのを邪魔するなよ」

「後でやれ、アホ」


 本当にアホとしか言わないな、こいつ。

 まぁ確かにやばいのは変わらないから、素直に話すか。


「俺が最後に確認した時の魔物の数は、S級50、A級500、B級2000、それ以下5000だ。さらにS級1、A級10、B級100、その他1000が毎週増える。あの山の限界はとうに超えていて、いつ進行が起きてもおかしくない。ちなみに山の反対側、俺の故郷の方にも同じくらい数がいる。こちらは精霊が1人協力してくれているから、多少はましなはずだ。それと、俺の親父が帰って来れば、全て解決する。それまで、耐えればこちらの勝ちだ」


 俺は一度に全ての説明をした。所々、省いてはいるが、これだけでも十分な量の情報がある。


「はーい、質問〜」

「なんだね、ゴルド君」

「なんでレイのお父さんが帰ってきたら解決するの?」


 元気よく手を挙げて質問してきたゴルド。俺もそれにのる。


「それはな、一つは親父が世界樹の雫というあの山を元に戻す薬を持っているはずだからだ。もう一つは親父が馬鹿みたいに強いっていうのが理由だ」

「馬鹿みたいに強い?」

「ああ。実際馬鹿なんだが、強さだけは半端じゃない。たぶん、人類最強クラスだ」

「あ、あの人が…?」


 そこで唯一親父に会ったことのあるシャルステナが訊いてきた。


「ああ。あの筋肉は伊達じゃない。ちなみに母さんも相当強いが、親父に比べると見劣りする。ああ、言い忘れてたが、今ならシエラ村の方はほっといていい。

 あそこには今親父と同レベルの人がいるから…」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああ、たぶん。それに近くの街にかなり強い人がもう一人いるし、はっきり言って、王都より守りは硬いね」


 ふと思った。

 あの村と王都が戦争したら、シエラ村が勝つのではないかと…

 ……勝ちそうだな。俺ここでまだあの二人を超える人には会えていない。


 やっぱりあの二人は異常なんだな。

 そしてその二人の血を引く、俺とディクも異常だ。俺達に流れる血はどうなっているのだろうか?

 まさか、血に加護が含まれてたりしないだろうな?


「あたしも質問!」

「なんだ?」

「どうやって魔物の数を調べたの?」

「スキルだ。空間探索というな」

「へぇ〜、便利ね〜。あたしにも教えてよ」

「また今度な。他に質問は?」


 俺はみんなの顔を見渡しながら、訊いた。


「ないみたいだな。じゃあ、これからどうする?」

「俺は国に報告しよう」

「オーケー、頼んだ。じゃあ、俺はギルドに行こう。他は…学校の先生に報告してくれるか?」

「わかったわ、任せて」


 シャルステナが代表で返事をし、俺たちはバラバラに別れた。



 〜〜


「バジル、ギルマスいる?」

「いるぜ。奥に」

「あんがと。あ、バジル、冒険者の人がきたらここで全員待機してもらってて」

「あ?なんでだよ?」

「王都の危機だからさ」

「はぁ⁉︎」


 なんだそれはと言いたそうなバジルを置いて、俺はギルド長室に入った。

 ああ言えば、呑んだくれでも仕事はしてくれるだろう。


「こんちは、ギルマス」

「どうした?珍しいしな、お前がここに顔を出すとは」

「珍しいどころか、初めてだね」


 硬そうな椅子にどっしりと腰掛けた、頬に傷が残るおっさん。

 この人が、王都のギルマス、レダクトだ。

 かつてはS級冒険者として世界を回ったそうだが、怪我をして引退し、今では王都のギルマスをやっているらしい。


「ははは、そういえばそうか。それで、どうしたんだ?」

「それがちょっと、いや、かなりやばいことになってるんだ」

「ははは、何がやばいんだ?またシャラ達がケンカしてんのか?」

「あれもやばいね。けど、それとは別のヤバさだよ。…断崖山の魔物が活性化してるんだ」


 俺は軽い感じからトーンを落とした。

 あまり冗談ばかりは言っていられない。そこまで余裕があるわけではないのだ。


 俺の口調が変わったことで、ギルマスも真剣な表情を見せてきた。


「どういうことだ?」

「今現在、王都側の斜面だけでS級50、A級500、B級2000、それ以下5000の数の魔物が最低でもいる」

「それは冗談ではないんだな?」

「うん」


 ギルマスは真偽を確かめるためか、俺の目を真っ直ぐと捉え、俺の言葉を吟味した。

 やがて、小さく頷くと腕を組み目を閉じた。

 何かを考えているようだ。


「……レイ、今このギルドに来ている冒険者に召集をかけろ」

「もうやってる。ちなみに国と学校にも、別の奴が報告しに行っている」


 ゆっくりと目を開けたギルマスが、指示を出してきた。俺はそれにすでに完了していることを伝える。


「そうか。よくやった。お前は帰っていいぞ」

「嫌だね。俺も戦う」


 今までずっと一人で戦ってきたんだ。今更逃げるなんてできない。


「馬鹿が。ガキがいていい戦いじゃない」

「S級を倒したと言っても?」

「⁉︎それは本当か…?」

「これがその魔石だよ」


 俺は収納空間から魔石を取り出した。

 それをギルマスの前に置く。


「……確かに間違いないな。…ふ、はははははは‼︎10歳でS級を倒すか!」


 魔石を見て、大笑いするギルマス。

 俺10じゃないんだけどな。


「11だよ」

「そんな細かいことはいいんだよ。いいぞ、お前も加わって。其れ程強えなら、ガキでも問題ない」

「後5人加わるけどいい?」


 シャルステナ達を巻き込むと決めたので、しっかりと訊いておく。


「あ?ダメだ。そいつらはタダのガキだろ?」

「どうだろ?たぶん、A級ぐらいならやりそうだけど…」

「おいおい、最近のガキはどうなってんだよ」


 たぶん普通じゃないよな。

 ギルクはまだ普通の可能性がある、かな?

 シャルステナに至っては、明らかに普通ではないな。


「…まぁいいだろ。ただし、余り前には出るな。俺たち大人が出来る限り、数を減らす」

「ねぇ、どうするつもりなの?」


 ギルマスの作戦がどんなものなのか気になり、説明を求めた。


「まず、ディルベルクに応援を要請する。次に山の反対側にも危険を知らせる。後は応援が来るまでここで待機。途中、魔物がきたらその都度対処する」

「こちらからはいかないの?」

「危険が大きすぎる。ばったりS級と出会って刺激してしまったら、逆効果だ」

「俺ならわかるよ。S級の位置が」


 これならS級と出会わずに他を狩れるはずだ。


「お前はどれだけ異常なんだ……とにかく、それでもダメだ。万が一がある。王都の守りはそれなりに硬い。一朝一夕には落ちない。この方が安全だ」


 俺はギルマスの作戦と俺の考えを照らし合わせ、どちらがより確実か考えた。

 俺の考えには不安要素が多い。


 ギルマスの言ったこともそうだし、親父のことだってそうだ。

 確実に戻ってくる保証はない。

 俺がそう思っているだけだ。


 そんな不安だらけの作戦より、ギルマスが立てた作戦の方がより確実ではあるだろう。


「……わかった。ただ、一つだけ許可してほしい。今、仲間の精霊が山で戦ってるんだ。その精霊を連れ戻しに行きたい」

「…行け。もう、呆れて何も言えん」


 ギルマスは簡単に許可を出してくれた。

 その呆れがすでに勝手に戦っていたことへか、それとも俺の異常性かはわからないが…



 〜〜〜〜〜〜


「父上、異常事態です」

「どうした、ギルクよ」


 王の寝室の扉を、許可なくギルクはあけ異常事態を告げる。

 王はそれを冷静に受け止め、慌てることなくギルクに先を促す。


「断崖山にてS級50体、A級500体、B級2000体、それ以下5000体の魔物がいることが、判明いたしました。これは私の友人が教えてくれたことです。これは山に邪神の加護が満ちている為に、引き起こされた事態です。私の友人がその原因を取り除き、これ以上酷くなることはありませんが、山に残った加護は今も健在です。さらにもう一つ、過去の火竜の件も、邪神の加護が原因だった可能性が高いとのことです。これは王都の危機です。一刻も早い対処を」


 ギルクはレイから聞いたことを纏め、自分の父に伝えた。その姿は、いつものふざけた様子などは微塵も感じさせない。

 レイがここにいたならば、さすがは王子と思っていたことだろう。


「…よくぞ知らせてくれた。後は私に任せ、下がると良い」


 王は冷静に事の大きさを受け止め、ギルクに任せろと言った。

 そして、ギルクは一礼してから、部屋を出た。


 〜〜〜〜〜〜


「リナリー先生!」

「どうした、シャルステナ」

「大変です!断崖山に大量の魔物がいるのをレイが発見したんです。S級が50体、A級が500体、B級が2000と後はそれ以下がその倍ぐらいいるらしんです」

「それは本当か⁉︎」

「はい!」

「わかった。後は私に任せて、シャルステナ達は寮に戻っていなさい」


 そうしてリナリー先生は駆け足でその場を後にした。


 私は不安で一杯だった。

 レイは後2、3週間耐えればいいと言ってたけど、私にはそうは思えなかった。

 今の王都に魔物の進行を止める力はないと感じていた。


 お願い…

 もう、私から奪わないで…


 私はそう心の中で祈った。



 〜〜〜〜〜〜


「……特に問題はないか」


 ペラペラと報告書を捲りながら、書かれていることを読み、問題はないと僕は判断した。


「ふう…こういうのは慣れないな」


 報告書の束を机に放り、息を吐きながらそう独り言を呟いた。

 どうにも机での仕事は僕には向かないみたいだ。

 もう半年、この様なことをしているが、一向に慣れることはない。

 やはり身体を動かす方が、僕には合ってる。


「き、騎士長!大変です!」

「どうしたんだい?慌てて」

「そ、それが、騎士団長から騎士長に呼び出しが…」


 慌てて入ってきた副騎士長から、呼び出しの報告を受けた。副騎士長とは、他の学校でいうところの生徒会副会長のようなものだ。

 それで言うと僕は、生徒会長ということになる。


「なんだろう?こんな事初めてだな」

「で、ですよね⁇おかしいですよね⁇私たちまだ騎士じゃないのに…」

「まぁ、行ってみたらわかるよね」


 僕は椅子から立ち上がり、部屋を出て騎士団本部へと向かった。


「騎士学校騎士長ディクルド・ベルステッド、呼び出しに応じ、参上しました」


 騎士団本部の会議室に入った僕は、胸に手を当てて敬礼を行った。


「よく来てくれた。座ってくれ」

「はっ」


 僕は騎士団長に指された椅子に腰掛けた。

 机は円状になっており、騎士団長と第一から第七までの騎士長が椅子に腰掛けていた。

 その中に僕も入ると思うと、緊張してきた。

 うまくやれるかな?


「さて、今回皆を呼び出したのは、先程王都からあった救援要請について議論するためだ。今回は騎士学校の騎士長にも参加してもらう。知っての通り彼は非常に優秀な騎士の卵だ。経験という意味も込めて今回は参加して貰うことにした」


 騎士団長は僕がここにいる理由を簡単に説明してくれた。


 経験か…

 確かに、今後騎士団長を目指すのなら経験しておくことは悪いことじゃないね。

 しっかりと学ばさせてもらおう。


「さて、救援要請についてだが、王都、並びにガバルディ周辺地区の山に大量の魔物が出現したそうだ。最低でもS級が50体はいるらしく、それ以下の魔物も常時とは比べ物にならないほどいるらしい。そこで、王都から、この2地区に援軍を派遣して貰いたいとの要請があった」


 ガバルディ…

 それじゃあシエラ村も…


「騎士団長発言よろしいですか?」


 僕はいてもたってもいられなくなり、発言の許可を求めた。


「ディクルド君、ここでは一々許可を取る必要はない。円滑な議論を進めるため、そう言ったことは廃止してある」


 確かに一々許可を取っていたら、会議が進まないよね。


「そうですか。では、ガバルディと仰いましたが、それはシエラ村という村も含まれているのでしょうか?」

「そうだ。確か君はその村の出身だったね。グラハト先輩の故郷だから、当然か。それで、それだけかね?」

「いえ、もし叶うのならその援軍に私を加えて頂くことは可能でしょうか?」


 これが聞きたかった。

 ガバルディと名が出た時点で、シエラ村が危険なのはわかっていた。

 だから、僕は援軍に加えてもらえるのか聞きたかった。


「……一応、君は学生だ。私たちは君の力は認めているが、それでも簡単に首を振るわけにはいかない」

「わかっています。…僕は、いえ、私は自分の守りたいものを守る為に騎士になろうと思いました。だから、その大切なものが脅かされた今、僕はここで待ってることはできません。お願いします。行かせてください」


 机に額をつけ、懇願する。

 僕にできるのはこれぐらいしかない。

 所詮は学生、騎士ではない。


「……いいだろう。というより、元よりそのつもりで君を呼び出したのだ」

「それはどういう…」

「君の本心を知るにはいい機会だったからね。利用させてもらった」


 悪びれもなくそう言った騎士団長に僕は拍子抜けしてしまった。

 まんまと騙されたとういわけだ。


「それに、君には名指しで要請が来ているんだ」

「な、名指しでですか?」


 そんな名指しされるほどのことを僕はやった記憶はないんだけど…

 ……心あたりがあるな一人。

 いや、というかレイしかいないよね。そんなことするの…


「レイという者が君を寄越せと言ったらしい。今回の騒動はその者が知らせたことによって発覚したらしい。さらにその者が原因の排除と魔物を抑えてくれたお陰で、後2、3週のうちに事態は沈静化すると言われた」


 む、無茶苦茶だ…

 こんな大事の原因を排除とか、学生がすることじゃないよ…

 レイは学校でいったい何をしてるんだ…


「その顔はレイという人物に心当たりがあるようだね」

「…親友です」


 僕は無難にそう答えた。


「ほう。ますます、そのレイという人物に興味が湧いた。歳は幾つだ?」

「今は11ですね」


 騎士団長は興味深々と言った顔で訊いてきた。僕はそれに正直に答えた。


「11⁉︎そ、そうか。是非騎士にスカウトしてみたいものだ」

「いや、冒険者になるらしいので、それは厳しいかと…」


 やはり驚いていた。僕も驚いたし、レイを知らない人が訊いたら、それは倍増するだろう。


「それは残念だ。…ところでディクルド君、君はどちらに向かう?」

「ガバルディへ向かいます」

「そうか。親友はいいのかね?」


 迷うことなく答えた僕に、騎士団長はレイのことはいいのか訊いてきた。


「レイのことですか……もし、今回の騒動が王都だけなら、僕は行きませんでしたよ」

「?どういうことだ?」

「僕たちが会うにはまだ早いんですよ」


 誓いは二年後。半年前、そう対戦相手の子に言われた。

 レイがそう言うなら、僕もそうするつもりだ。


「余計わからなくなったんだが…」

「誓いです。僕とレイの。それにレイがいるなら問題ありませよ」

「えらく信用してるんだな」

「ええ、そりゃもう。世界で唯一ライバルと呼べる奴ですから」


 ライバルが先に死ぬわけない。

 僕と誓いを果たすまでは、レイは絶対死なない。


「そうか。ならば、第3騎士団に入れ。そして、第1、第2騎士団は王都へ、第3、第4騎士団はガバルディに向かえ。残りはここで待機。準備、行路、作戦などはすべて任せる」

「「「「「「「「はっ」」」」」」」」


 そして僕は久しぶりの故郷へと出発した。



 〜〜〜〜〜〜


「ウランティー」

『あら、どうしたのかしら?』


 俺はウランティーを迎えに湖まで来ていた。


「ちょっと、色々あったんだ。それで、今から王都へ来て欲しいんだ」

『ええ、いいわよ。ふふふ、色々ね?』

「なんだよ、その目は…」


 意味深な瞳を向けてくるウランティーに、俺はなんなんだいった感じで問い返す。


『なんだか重荷が取れたみいに、いい顔してるから…』

「…まぁ、なんだか楽にはなったよ」

『そう…、良かった。前の貴方は思い詰めた顔してたから……』


 どうやらウランティーにも、心配をかけていたようだ。

 それでも彼女が何も言わなかったのは、この山についての異常とそれに対する俺の役割の重要性をわかっていたからだろう。


『それで、何があったのかしら?』

「大したことじゃない。俺がアホだっただけの話さ。でも、……やっと、バラバラになってた歯車が絡み出したってことかな」


 全部巻き込んで絡み合わせた。

 そして、その歯車のカラクリは動き出したんだ。


『その歯車がこの事態を収束させることになるのかしら?』

「さあ?それはわかんないな。あと一つ歯車があれば完璧なんだけどね」

『ふふ、じゃあその歯車が絡むのを祈ってましょうか』


 俺は湖に目を落とした。


 長かった…

 ここまで来るのに4年かかってしまった。

 けど…やっと終わる。

 これでやっと、決着がつく。

 もう止まれない。

 動き出した歯車がどこに辿り着こうと…


久しぶりにディクが登場しましたが、彼の学園生活は王都進行編が終わってから番外編として書きたいと思います。


次はいつ投稿出来るかわかりませんが、出来るだけ早く投稿します。



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