表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/253

26.汚染された水

 2月12日

 学校は冬休みに入り、いつもと同じ様にシエラ村に帰ってきている。

 二週間程前に10歳の誕生日を迎え、この世界にきてもうそんなにたったのかと感慨深くなった。同時に死んでから10年経ったのかと考えたら、手を合わせたくなった。自分に。墓でも作ろうか?自分の。


 魔力暴走を引き起こしてから、俺はしばらくまともに動けなかった。アンナに剣術で負けるぐらいである。

 あの日は悔しさで、どうにかなってしまいそうだった。

 今はもう問題ないほどまで回復しているが、まだ全快というわけではない。時折、傷口が痛みをあげたりするのだ。あの日、シャルステナが来てくれなかったら俺は死んでいたかもしれない。まじで自分の墓が立つところだった。危ない危ない。


 シャルステナは俺がどんな状態だったかは決して教えてくれなかった。余り思い出したくないと言われた。

 其れ程までに俺の状態は酷いものだったようだ。水溜りになる程の出血だったのだ。この世界に魔法がなければ死んでいたのは間違いないだろう。魔法様様だ。


 そんな死に掛ける原因となった経験還元だが、どうも100倍程で還元されているようで、魔力暴走を引き起こした時俺は10万近い魔力を還元してしまったらしい。

 俺の総魔力のおよそ20倍。制御出来なくなるのは当たり前か。


 今現在は魔力暴走を引き起こさない様に、自分の制御出来る範囲の魔力しか還元しない様に気をつけている。

 その練習にシャルステナは付き添ってくれた。きちんと俺のスキルを説明し、どうしても使いたい事を伝えると、シャルステナは快く練習に付き合ってくれた。

 その甲斐あって、俺は恐る事なく経験還元の性能を確かめる事が出来た。


 その結果、俺はまだ50しか還元できないことがわかった。少ない。十万分の50だ。

 そこまでは完全に制御ができる。しかし、そこからは段々と制御にムラが出てくるようで、まだまだ完全に使いこなすという訳にはいかないみたいだ。この馬鹿みたいに溜まった経験がなくなる日は来るのだろうか?


 それとは別に一つわかったことがある。俺は今回の事がトラウマになってしまっているという事だ。

 シャルステナが側にいない時、経験還元を使おうとしたら、彼女が泣いている顔を思い出し躊躇してしまうのだ。

 所謂PTSDというやつかもしれない。


 そのため、A級には挑んでいない。この不安定な状態ではまだ不安なのだ。だから、水を調べる方に重視して調査をしているのだが、どう調べたらいいかわからず、湖の周りをうろちょろするだけになっている。


 魔力暴走の時に聞こえた声、あれが何だったのかはわからない。単なる夢だったのかもしれない。けど、そうじゃないとしたら?

 あの声は俺だと言っていた。俺は二重人格者なのかもしれない。そのうち乗っ取られたりするのだろうか?

 そうならないよう精神を鍛えておくとしよう。


 親父はまだ帰ってこない。

 今はシエラ村で生活しているのだが、一向に帰ってこない。もうスクルトは親父を忘れている。

 まだ幼いから仕方がないことかもしれないが、スクルトにも親父にとっても、それは悲しいことだと俺は思う。

 だから早く帰って来て欲しい。


 母さんもどこか元気がない。

 やっぱり、親父がいないのが寂しいのかもしれない。不安もあるだろう。家族をほったらかして親父は今頃いったいどこで何をしているのだろう?


 わかってる。

 親父が帰って来ないのは、まだ異変の原因がわかってないからだってことぐらい。だけど、それでも早く帰って来てやって欲しい。みんな寂しがってる。

 正直、今の母さんを見ているのは辛い。

 毎日、遠くを見て何かしているのだ。何をしているのかはわからないけど、きっと親父を心配してのことだろう。

 初めて母さんの親父への想いの強さを見た気がする。


 もう親父を待ってるだけではダメかもしれない。

 俺が自分で解決しないと、母さんがどうにかなってしまうかもしれない。


 それに、シャルステナの笑顔を守りたい。あの日見た彼女の泣き顔はもう見たくない。

 何故そんな気持ちになるのかはわからなかったが、その想いは本当だった。


 〜〜〜〜〜〜



 湖の異変の原因を探る為に村を出て1年が経った頃、俺は世界樹の森へとたどり着いた。


「やっとここまで来たか。早く帰らないとミュラにどやされちまうな」


 俺はもう一年会っていない家族の顔を思い浮かべながら、森へと足を踏み入れた。


 そうして、森に入って1ヶ月が経った頃だろうか、とうとう世界樹の下へとたどり着いた。

 そこには壁の様に佇む巨大な木の幹とその前に旅の目的の人物がいた。


「相変わらず無茶する子ね、あなたは」


 そう声をかけてきたのは世界樹の守り人、妖精神だ。


「そう思うんなら、迎えをくれても良かったんじゃねぇか?」

「それはルールに反するもの」


 前にそんなこと言ってたな。決まりがどうとか。なんの決まりだったかは忘れたが……


「それで?今日はどうしたのかしら?もう貴方に加護はあげられないわよ?」

「いらねぇさ。今日は聞きてぇことがあんだよ」


 もう第一線も退いたんだ。もう必要ない。家族を守れる強ささえあれば、それでいい。


「そう、じゃあ何かしら?」

「前に世界樹は世界を綺麗にするのとか言ってただろ?」

「物凄くねじ曲がった解釈をしてるけど、まぁそうね。私の力を世界樹をと…」

「あ、難しい話はパスだ。どうせわかんねぇ」


 難しいこと言われると逆にわからなくなる。そういうのはミュラにしてもらわないと。


「はぁ、ほんと貴方は惜しいわ。あともう少し頭がよけば……」


 頭に手を置き、何かを残念がるような仕草をする妖精神。


「はははははっ!今更だぜ。それよりよぉ、そのなんかようわからん力は、ちゃんと働いてんのか?」

「……どういうことかしら?」

「どうもこうも、前に俺が話した湖が汚れてんだ。なんていうかな、凄く嫌な感じがする」

「どんな感じ?」

「そうだな…」


 あの時の感覚を思い出し、それに似た感覚がなかったか思い浮かべた。


「……強い魔物と出会った時のような感覚だ」

「…………邪神の力の影響を受けているのかもしれないわね」

「邪神?なんだそりゃあ?」


 そいつが原因なのか?


「はぁ、その歳でまだ邪神も知らないの?」

「聞いた事がある気はするな」

「……まぁいいわ。どうせ難しいことは覚えられないだろうから簡単に言うけど、邪神は悪い神様よ」


 妖精神はまるで子供に教えるような言い方をした。とてもわかりやすい。


「悪い神様か。そいつが悪さしてんのか?人様に迷惑かけるたぁ、子供みたいな神だな」


 自分のことを棚上げし、神を子供扱いした。


「あなたが言う?まぁ、その邪神が何かしてるかもしれないけど、ここからでは何をしてるのかはわからないわね」

「おいおい、それでも神かよ」


 それぐらいやれよ。パッと飛んで見てこいよ。


「どうせ忘れてるんでしょうけど、私はここから離れられないのよ」

「そうなのか?そりゃ大変だな。暇だろ」

「ええ、暇よ。前も同じこと言われたわ」


 そんなこと言った気もするな。よく覚えてないが……


「じゃあ、どうすりゃ元に戻せる?」

「……」


 妖精神は少し考える素振りをしてから、黙って何か手渡してきた。


「これはなんだ?」

「……本気で言ってるの?前にも同じものあげたんだけど…」


 信じられないといった顔で手渡された小瓶を改めて見てみると、どこか見覚えのある様な印象を覚えた。


「ああ、あれか。なんつったけ…?」

「世界中からそれを求めて人が来るのよ…?」

「へぇ、美味いのか?」

「……世界樹の雫よ」


 妖精神は諦めましたといった具合に肩を竦め、ため息を吐いてから答えを言った。


「あー、そんな名前だったな。で、これをどうすんだ?」

「湖に入れれば、元に戻せるわ」

「おおそうか!サンキュー、神さん」


 俺は世界樹の雫を鞄にしまい立ち去ろうとした。


「待ちなさい」

「なんだ?」


 立ち去ろうとしたところで、呼び止められた。


「それだけでは足らないわ、おそらく」

「?じゃあ、後は何したらいいんだ?」

「原因を取り除きなさい。それからそれを湖に入れなさい。そうしないとまた同じことになるわ」


 同じことになるのならば、どうにかしないといけないな。面倒な。


「原因?なんなんだそれは?」

「私にはわからないわ。だから、竜神に会いに行きなさい」

「竜神に会えばわかるのか?」


 竜神か。一応、村の近くを通るのか。ついでに家族の顔だけでも見ていくか。


「わからないかもしれないけど、一番いえ、2番目にわかる可能性があるわ」

「一番の方がいいじゃねぇか。なんで2番なんだよ」


 なんで一番に聞きに行かないんだ。そっちの方がいいじゃねぇか。


「一番は死神よ。彼はどこにいるかもわからない」

「死神か……悪い。まだ会えてねぇ」


 死神と聞いて、妖精神との約束を思い出した。


「ふふ、そういう事は覚えてるのね。いいわよ別に。私は永遠に生きられる。彼も。気長に待つわ」


 彼女は別に攻めるわけでもなく、そう返した。


「そうか………わかった。じゃあ、次は竜神のとこ行ってくるわ」

「ええ。縁があればまた会いましょう」

「もうねぇんじゃねぇか?」

「かもね」


 こんな異変がない限り、二度とここに来ることはないだろう。


「おっと、忘れるとこだった。ほらこれ」


 帰ろうとして、また思い出した。カバンに手を突っ込み、中から箱を取り出した。


「?何かしら?」

「土産だ。知り合いのとこ来るのなら土産は必須だろ?」

「あら、ありがと」

「おう。じゃあな神さん」


 別れを告げ俺は再び旅へと戻った。

 今度は竜神が住む地、最古の竜の谷を目指して。


 〜〜〜〜〜〜


 4月に入り学校が始まった。

 今年から俺は4年となり、選択式の授業となった。

 そして気がついた。4年から6年までは授業が合同になっていることに。


 どうやら選択式にした事で、授業を受ける人数が減ったことが理由らしい。

 合同にしてやっと、一つのクラスぐらいの人数となる授業もあるそうだ。


 念願の選択式の授業を受けることになった俺は、気合を入れ授業に臨むことにした。俺がとった授業は魔法分野10科目、近接戦闘技術10科目、座学5科目の計25科目となる。


 ちなみにだが、いつものメンバーの選択した授業を紹介しよう。

 シャルステナ…魔法科目8科目、近接科目1科目、座学2科目

 計11科目


 ゴルド…魔法科目0科目、近接科目10科目、座学0科目

 計10科目


 アンナ…魔法科目4科目、近接科目1科目、座学0科目

 計5科目


 ギルク…魔法2科目、近接科目1科目、座学1科目

 計4科目


 このようになっている。気付いていただけただろうか?俺が他に比べ、倍ほど科目を取っていることに。

 ギルクに至っては6倍以上だ。これは別にギルクが怠け者だからというわけではない。

 お忘れではなかろうか?

 ギルクは俺たち4人より年上で、今年卒業してしまうことを。ギルクはほとんど取りたい授業はとって終わったらしい。後は少しだけだと言っていた。


 そして、真の怠け者はアンナだ。

 こいつは少ない。普通みんな10は取るものなんだ。初めは。

 別に必修ではないから卒業できるが、せっかく教えてもらえるのだ。受けておくべきだろう。


 まぁ俺の場合は取りすぎてるんだけど。ちょっとやる気を出し過ぎてしまったかもしれない。

 これを書いた紙を提出した時、リナリー先生に保健室に連れて行かれた。どうも頭を打ったと思ったらしい。失礼な。

 まぁ、今までやる気皆無、おふざけ100の奴が急にやる気100になったらそう思うのも仕方がないのかもしれない。


 ちなみにシャルステナにも連れて行かれた。

 こちらは保健室から診療所へと何軒も回らされた。酷くないか、みんなして?

 まぁこれも怠け者の称号を持つ俺の定めだと諦めた。

 だけど、今年からは怠け者は卒業だ。アンナに譲る事にしよう。


 それと一つ、クラスで大事なお知らせがあった。

 リナリー先生曰く、レベルが99になった者は教会で進化してこいとのこと。

 一般的には12歳ぐらいが2度目の進化となるらしいが、学校に通う者はそれよりも早くその条件を満たし易いそうだ。


 俺なんか1年以上前にカンストしてる。

 遅すぎないか?言うの?

 そう思ったが、シャルステナ以外その条件を満たしていないようだったので黙っていた。俺とシャルステナが異常であるのを再確認できた。やっぱり自覚がある事は大事だと思う。

 自覚がないと何をやらかしてボッチになってしまうかわからないからな。未だ初心は忘れていないのだ。


 そんな自覚が芽生えているのかは知らないが、シャルステナはつい先日進化してきたらしい。俺はしてない。皆にはレベル20と初めに言った。

 ゴルド以外、嘘だとすぐにバレる嘘だ。なぜそんな嘘を吐いたかと言うと、一度そんな嘘がバレてからの方が、まだ85とか言っても信じて貰いやすいと思ったからだ。

 まぁ、シャルステナのせいで普通にばれた。あの子が進化条件を満たしていたせいだ。俺が満たしていないのはおかしいと、ゴルド以外全員に言われた。


 だが、俺はそれでも85を押し切った。押し切れば嘘は無敵なんだ。そんなわけで俺は今85と言うことになっている。ゴルドだけは20だと思っている。

 あいつはなんだか親父の匂いを感じるな。


 何故俺が進化しないかというと、経験を溜めたいからだ。あと半年は貯めようと思っている。

 何故なら将来的にバンバン使うつもりでいるからだ。無駄になる可能性も大いにあるが、あって困るもんでもないし別にいいだろう。


 ちなみに俺はとうとう魔力二倍到達し、行き詰まった調査の代わりに土日はA級を狩り始めた。弱い奴からだけど……

 安全を考えてA級との戦闘は1日1匹にしている。その代わりと言ってはなんだが、コボルトロードのようなB級は狩り尽くすつもりでやっている。


 しかし、まだまだ終わりは見えない。多すぎるんだ。俺の魔力が持たない。こんな時経験還元が使えればと思うが、俺がこんな事をしているとシャルステナに知られたらまた泣かれてしまうかもしれない。

 そう思うと、俺は彼女に頼るに頼れなかった。


 だから、数としては1日だいたい200前後しか狩れない。最近のあの山は毎週500ペースで魔物が増えているつまり毎週100ずつ増えていっているのだ。

 なかなか状況は悪い。いつの間にか、手に負えない状況になって来ている。


 またシャルステナに心配をかける事になるかもしれないが、不安にさせるよりはいい。無茶をしよう。


 もうあの山の限界はすぐそこなんだ。後一年保たないかもしれない。いつ溢れ出るか、それがわからないところまで来ているんだ。

 もう親父を待ってはいられない。俺が解決しないとまずい。あの数の魔物が一気に押し寄せてきたら、この街は終わる。


 シエラ村だって危ない。母さんも現役を引退して長いんだ。思わぬミスが命取りになるかもしれない。

 ディクの親父さん達が居ればいいが、いつもいるわけじゃないんだ。年に2ヶ月以上はいない。ディクのところに行ってる。


 だから、もう限界は考えていられない。

 授業で自分の力を底上げして、休日に数を出来るだけ減らし、尚且つ原因を取り除く。

 これ以外ない。


 俺はこの時盲目になりかけていた。



 〜〜〜〜〜〜


「そうか!この水を魔物にかけてみればいいんだ!」


 季節は夏。俺は汚染水を手に持ち、部屋の中で叫んだ。部屋の中には俺以外誰もおらず、その閃きに答えてくれる者はいない。

 今日は休日のため、ハクはシャルステナのところへ遊びに行っている。テストが近いので邪魔をしていなければいいが……

 テストが近いのは俺もなのだが、俺はあいにく調査に忙しい。しかし、授業は本気で受けているので、問題はないと考えている。


 最近、俺は一人でいる事が多い。以前の様に広場に行く事も余りない。その時間を魔物狩りに費やしているのだ。だから、シャルステナ達と顔を合わすのは授業の時ぐらいだ。彼女達は俺が授業を取りすぎて忙しくしている事は知っている。だから、それがカモフラージュになっている様で、俺が最近広場に来ない事を不思議には思っていないようだ。


 そんな風に最近は皆と関わる時間もない俺の限界が近い。少し前からまたボーと頭に霞がかかるような感覚が襲ってきている。

 今関わり過ぎれば、またシャルステナに心配をかけてしまうかもしれない。それもあって余り関わらないように気を付けている。


 だから、今の内に全てを終わらしてしまいたい。シャルステナは勘が鋭いから、いつバレるかわからない。出来れば彼女には、心配も不安も掛けたくないのだ。


 しかし、山の方は本格的にやばくなってきている。何故かはわからないが、新たに生まれてくる魔物も強くなってきているのだ。

 正直やばい。

 この夏休みの間は、本気で狩りを行わないといけない。


 夏休みと言えば、川だな。

 バレない為にも、それは行わないといけないな。


 川と言えば水。そう水だ。

 この水の調べ方がやっと思い付いた。一度思い付けばなんて簡単なことなんだと思ったが、今更言っても仕方ない。

 さっそく実験しよう。


 すぐに断崖山へと向かい、コボルトに水をぶっかけてもみた。しかし、特に変化はみられない。


「かけても変化は見られないな…飲ますか…」


 俺は湖の水を魔法で操り、実験体に飲ました。

 すると、コボルトはプルプルと震え出し、俺が経験還元を行ったかのように魔力が増加させ、身体が少し大きくなった。


「進化した…」


 水を飲ませただけで、コボルトリーダーへと進化した。間違いない。これが原因だ。あの水は魔物を強くするんだ。

 だから、どんどん魔物が強くなってるんだ。


 だけど、魔物が増えるのはなんでだ?

 ……ひょっとして、魔獣が魔物に変わってるのか?

 確か竜神は言っていた。魔獣と魔物の違いは加護の多さの違いだけだと。

 つまり、この水は邪神の加護を含んでいるんじゃ……


 待てよ。加護を含んでいるのなら、他の種族にも効果があるんじゃ…!

 やばい!シエラ村の水はどこから来てるんだ⁉︎

 あの湖からじゃないのか⁉︎

 調べなきゃ!


 俺は急いでシエラ村へと向かった。


 〜〜


「よ、よかった〜」


 俺は川のほとりで安堵の声を漏らした。


 シエラ村の近くを流れる川は、断崖山とは真逆の方向から流れてきていた。

 つまり汚染されていない水だ。


 これでみんなが魔人や魔物になる事はないのか……

 取り越し苦労になってしまったが、問題があるよりはいい。

 一先ず安心出来たので、川を後にする。そして、重い足を引きずりながら、王都へと戻っていった。


 〜〜〜〜〜〜


「バジル、行くよ今年も」

「はいはい、わかりましたよ」


 素直になったもんだ。もう慣れたんだな。毎年やってるし。


「シャラ姐は?」


 姿が見えないシャラ姐について聞く。


「俺が確保しといた」

「やるじゃん、バジル」

「もうすぐ来ると思うぜ」


 なんと前もってバジルがシャラ姐に話をしてくれていたようだ。このおっさんも使えるようになってきたみたいだ。


「あら、レイちゃんがいるってことは…」

「うん、大掃除だよ」

「やっぱり。今年もいっぱい稼げるわ」


 シャラ姐は大掃除が大好きだ。去年も喜んで手伝ってくれた。


 そうして、今年の大掃除が始まった。

 結果は今年も大漁だった。

 いや〜、また金持ちになったちゃったぜ。もう金やばいんだけど。

 5000万超えちゃったよ〜。

 今年の成果120万でとうとう半億万長者になっちゃったよ〜。


 毎年毎年、この大掃除は金が大量に入ってくるな。初めは60万、バジルと二人の時は多めの120万、去年は100万、そして今年は120万と初めの倍になっている。


 毎年毎年収入が増えて嬉しいな。

 着実に増えていってるのはいいことだ。だって、シャラ姐に抱かれる時間が増えるのだから。

 大きな脹らみが最高なんだ。

 来年もこの調子でさらに増えて……!


 待てよ?おかしいだろ。


 なんで毎年収入が増えてんだよ。バジルの時は二人だったから、考えないにしてもこの3年で2倍になるなんておかしいじゃないか……


 これって川の魔物も増えてるんじゃないのか…?

 けど、おかしいぞ、それは。だって、この川は西の山から流れてるんだ。

 あそこは別におかしくない。


 だいたい汚染された水のある湖は山の反対側たぞ?

 こんなところまで影響があるなんておかしいじゃないか……


 じゃあなんで…なんで、川の魔物も増えてるんだ?



 〜〜


「プールに行こう」

「「「「「はい(ピィ)?」」」」」


 懐かしいやり取りを交わす俺たち。まるで、初めて川に行くと言った時のようだ。


「プールって何?」

「湖みたいなところだな」


 プールと言うのは知らないようだ。

 まぁ、日本みたいに発展してないとあの施設は動かせないか……


「それは湖と呼ぶんじゃないのか?」

「違う違う。みたいなだけで、俺が作った」


 ギルクが的確な突っ込みを入れてきた。確かにさっきまでの説明だとそう思うかもしれない。だけど、俺が作ったんだから湖ではないだろう。


「はぁ⁇あんたバカじゃないの?」

「残念ながら、天才というスキルを持っている」


 そうなんだ。余り登場してないが、かつてはそういうスキルを持っていたのだ。だから俺は天才さ。馬鹿ではないんだよ。君みたいに。


「レイは湖作れるの?」

「俺はプールを作ったんだ。断じて湖じゃない」


 俺が作ったからプールなんだ。湖は自然発生するものだ。


「ピィ?」(前に行った?)

「だから違うって。それにそこめっちゃ遠いじゃねぇか」


 ハクが言っているのは、断崖山の湖のことだろう。そこに行くならわざわざプールにした意味がない。


 俺が大掃除をしたのに、プールを作ったのには理由がある。

 あの川で遊ぶのは危険と判断したからだ。


 昨日、あれから調査をしてみた。その結果、あの川には湖よりも効果は弱いが、確実に邪神の加護が含まれていることがわかった。

 そんなところで川遊びなどできるはずかない。


 だから急遽、王都近辺に魔法でプールを作った。

 川に行かない理由を話さず、またシャルステナに心配をかけない為にはこれしかないと思ったのだ。


「とにかく行こう。見ればわかる」


 そうして俺たちはプールへと向かった。



 〜〜


「どうだ?これがプールだ!」


 眼前に広がるのは広大な水溜まり。

 形は長方形になっており、巾15メートル、縦50メートル、深さは10メートルと、5人と一匹で遊ぶには十分過ぎる広さだ。


「す、すごい!これレイが作ったの⁉︎」

「バカだ…。バカがいる…」

「湖みたいだね。どこが違うのかわからないや」

「レイ、やり過ぎだ…」

「ピィイ!」(すごーい!)


 ふむふむ。二人突っ込みたいな。


 まずアンナ、俺は天才だと言っただろ。確かにやり過ぎたかもしれないが、それは馬鹿とは言わない。働き者と呼んでくれ。

 次にゴルドよ。どこからどう見ても違うだろ。

 お前こんな長方形の湖見たことあんのかよ。見てみろ角を。直角だぞ。90°だぞ。芸術使ったんだぞ。


「そしてこれだ!」


 ドドド


 大きな音を立てて、地面から台が伸びてきた。

 その名も飛び込み台。

 やっぱりこれがないとダメだよね。


「なんなのあれは?」

「飛び込み台だ。あそこから飛び込むんだ」

「う、嘘でしょ?あれ、めっちゃ高いよ?」

「500メートルだ」

「嫌、私絶対しない」


 肩を抱きフルフルと首を振りながら使用を拒否するシャルステナ。

 そんなことされると、やらせたくなるじゃないか。


「あ、あたしも遠慮してこうかな〜、なんて?」

「お前は俺が強制使用させるから」

「ですよね⁉︎わかってましたよ!」


 そうか、自分の扱いがわかってきたみたいだな。


「ってことは、俺もか…」

「イエス。ちなみに怖くないように、ギルクは目隠し用意してあるから」

「いらない、そんな気遣いらない……」


 ギルクは俺の意図に気付いたようだ。そうだよ。逆に怖いんだよ。


「面白そうだね〜」

「さすがゴルドわかってる。ちゃんとお前用に高さ1キロも用意したから」

 ドドド

「うわぁ高い!ありがとう!」


 ゴルド、君はクレイジーピープルだったんだね。俺は嫌だよ。あそこから飛ぶのは……


「ピィイ!」(飛び込むぞ!)

「お前は飛び込み台必要ないだろ」

「ピィイ⁉︎」(そんな⁉︎)

「いや、別に使いたいなら使ってくれていいんだけど…」


 使う意味がないと思うんだが……お前飛べるじゃん。


「さあ、誰から行く?行きは俺が送ってやるから安心してくれ」

「それって前みたいに…」

「大丈夫、シャルステナはお姫様抱っこで連れてってやる」


 俺の欲を満たすために。


「ほ、本当に⁉︎はい!私行きます!」

「お、おう」


 思ったのと違う反応がきた。てっきり恥ずかしがるものだと思っていたが、シャルステナも女の子ってわけか。お姫様抱っこには憧れるんだな。


「それじゃあ失礼して」

「…………」

「行くぞ?せいのっ!」


 俺はスキル全開で飛び上がった。

 そして途中二段ジャンプを使い、さらに上に登る。

 たった2回のジャンプで俺は500メートルの飛び込み台に着地した。


 俺に抱かれているシャルステナは真っ赤だ。真っ赤になってこちらを見つめている。そんな目で下から見られたら緊張する。なんか俺まで恥ずかしくなってきた。

 俺は恥ずかしさに耐えられなくなり、シャルステナをゆっくり降ろした。自分の足で立ってからも、シャルステナはこちらを見つめている。とても気まずい。ドキドキしてきた。


 俺はとうとう耐えられなくなり、シャルステナを押した。


 トン

「え……きゃ、キャアアアアア‼︎」

 ドボン‼︎


 シャルステナは背中から落ちていった。

 大きな水柱が立ち、しばらくしてその中からシャルステナが浮いてきた。

 こちらをキッと涙目で睨むシャルステナ。

 俺は苦笑するしかなかった。何であんなにドキドキしたんだろう?


 〜〜


「次は誰だ?」

「僕がやりたい!」

「よし、お前は背中に乗れ」


 シャルステナ以外をお姫様抱っこするつもりはないため、ゴルドを背中に背負った。


 今度は距離が倍なので風魔法でアシストしながら飛び上がった。


「た、高い」

「びびったか?」


 下を覗き込みゴルドが、少し強張った声を出した。

 俺も降りるの怖い……


「ううん。楽しそうだよ。鳥みたいに飛べるんでしょ?」

「飛ぶと言うよりは落ちるだな」


 飛びたいのなら、知り合いを紹介しよう。たぶん乗せて飛んでくれるはずだ。


「よし!ゴルド行きます!」


 ゴルドは勢いよく飛び出した。

 クレイジーだ。


 ドボン‼︎


 シャルステナの時より高く上がった水柱を見ながら、俺はどうしようか考えていた。

 チラッと後ろを見る。


 た、高い……



 〜〜


「……次は誰だ?」

「ピィイ!」(ハク!)

「よし、ハクは飛んでけ」

「ピィイ!」(わかった!)


 ハクは飛び上がっていった。先程のゴルドのせいで、精神的にダメージがあった俺にとっては助かる。

 ハクはゴルドと同じ所から行くようだ。クレイジーがここにもいた。


 ハクは迷いなく飛び出し、プールへと落下した。それを初めて下から見ていた俺は後悔していた。


 俺も…やらなきゃダメだよな…?


 ドボン‼︎


 〜〜


「どっちだ?」

「レイ、先程からアンナが武者震いして今か今かと待ちわびてるようだ」


 ギルクがアンナを迷いなく売った。惚れ惚れする即答だった。


「そうか。アンナ行こうか」

「え、いや、その、気分が優れなくて……」

「大丈夫。飛べばスッキリするさ」


 ガシッ


「よい旅を」

「え、えっ……まじ?

「まじ」

「ちょっと待っァァァアアアッ‼︎」


 俺は確認してきたアンナを容赦なく放り投げた。それはかつてのシャルステナのようだ。空高く舞い上がり、アンナは落下してくる。今回は助けない。

 そのまま水へと落ちてもらう。


「イヤァァァァァァァ‼︎」


 ドボン‼︎


 さてと残りはギルクだな。

 そう思い、ギルクに視線を向けると、足がカクカクしていた。

 アンナの飛び込み台にも運んでもらえないのを見て、自分は何をされるのかと震えているようだ。


「ギルク、覚悟はいいか」

「よ、よくないが、逃げられないのはわかってる…」

「よし、安心しろ。投げ飛ばすのはアンナだけだ」


 俺はギルクに安心をプレゼントした。そしてアイマスクも。


「……ここで?」

「ああ、この耳栓もな」

「…………殺さないでくれよ」

「任せろ」


 ギルクはアイマスクと耳栓を受け取るとゆっくりと装着した。

 手が小刻みに震えていた。


 ギルクに耳栓をさせたのには理由がある。

 あえて高い台を見せておいて実は低いというのをバレさせない為だ。

 なぜ低くするのかと言うと、彼には地面に飛び込んでもらうからだ。

 高いと死んでしまう。


 低い台にギルクを運び、耳栓をとる。


「さあ、ギルク上まで来たぞ。行ってくれ」

「あ、ああ」


 そして、ギルクは男らしく覚悟を決め一歩踏み出し、飛び込んでいった。地面に……


 ドカンッ!

「ドバァ!」


 鈍い音が鳴り響き、ギルクは地面に激突した。



 〜〜〜〜〜〜

「次は……俺か」

「レイ、お前はどう飛ぶんだ?」


 顔を抑えながらギルクが聞いてきた。


「えっ?普通に?」

「はぁ?そんなの許さない!嗜好を凝らしてよ」


 俺がノーマルジャンプすると言うと、アンナが突っかかってきた。


「いや、もうなくないか?」


 そうなんだよ。一応俺もなんかやらなきゃと考えたんだが、もうネタ切れだ。


「……あるわよ」

「え?なんだ?」

「火の海に飛び込むの」

「それは死ぬだろ……」


 超えている。ふざけでやっていい一線を超えている。それは地獄の釜だ。


「大丈夫よ。ギルクも生きてたし」

「ああ、いける。お前なら大丈夫だ」


 俺に酷い目に遭わされた2人がコンビを組んだみたいだ。

 二人で俺を火にダイブさせようとしている。


「俺としてはシャルステナの胸に飛び込みたい気分だ」

「それは俺がやろう」


 そう言って、ギルクはシャルステナに突撃し、空を舞って水にダイブした。

 見事なストレートだった。


 これで1人、俺を殺そうとしている奴が減った。しかし、俺が目を離した隙にアンナは魔法を唱えていた。


「ファイアウェーブ」

「……え?」


 俺がギルクの砕け散った様を見ていると、横で不穏な声が聞こえた。


「日頃の恨み!しねぇぇぇ!」

「あちちちちちち‼︎」


 俺の水着に火がついた。


「消火消火消火消火消火‼︎」


 ドボン‼︎


 小さな水柱と煙が上がった。



 〜〜〜〜〜〜


「あいててて、ったく、俺のケツが…」


 俺は1人、一昨日の様にプールの端で休憩していた。


 今年は体力切れではない。ケツが染みるのだ。もう無理、限界。

 そう思い、俺は一人で休憩していた。すると、これまた一昨日と同じくシャルステナがやってきた。


「レイ、また疲れてるの?」

「いや、ケツが染みるだけだ」

「あ〜なるほど」


 去年と同じく一人だけ休憩していた俺がまた無茶してると思ったようだ。

 まあしてるんだが……


「レイ、まだ進化してないんだよね?」

「85なんでな」

「嘘ばっかり。もうとうの昔に99になってるくせに」

「はは、まぁな」


 シャルステナにはすぐ嘘がばれてしまう。早く断崖山の問題を解決しないとな。バレるのも時間の問題だ。


「やっと認めた。じゃあなんで進化しないの?」

「ちょっと99の時にしか使えないスキルがあるんだ。それを使いたくてな」

「そんなスキルあるの?」

「ああ、ユニークさ」


 シャルステナには前に少し話したので、言っても問題ない。俺はシャルステナの事を家族のように信用している。

 ゴルド達もだ。アンナは信用していいか悩む所だが……

 アンナに関してはあいつの変態性が絡まない限りは信用できるが、絡んでくると別だ。

 信用したらえらい事になる。刑務所に服役しかねない。


「そうなんだ。だけど、早めにしといた方がいいよ?」

「ん?なんで?」

「99になってからあんまり長く進化してないと、体が耐えられなくなるんだよ」

「な、なんだと⁉︎」


 そんなの聞いてないぞッ⁉︎や、やばい……俺だいぶ前から99なんだけど…?そのうち体がボンッとかなるのか…?


 あ、明日行こう…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ