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24.逃亡騒動

「ありがとう、ウェアリーゼ」


 目の前に悠然と立つ氷竜を見上げ、お礼を言った。竜の谷でハクが友達になった成竜だ。名前はウェアリーゼと言うらしい。

 ウェアリーゼはとても親切な竜で、厚意で断崖山まで送ってくれた。その道中、名前を聞いたりと俺も彼女とはそれなりに仲良くなった。

 話てみると、人と変わらない心を持っている事がよくわかった。喜怒哀楽があり、景色を楽しんだり美味しいものを食べたりと、なんら人と変わらない。


『なに、妾も久しく外の世界を飛んでいなかったのでな。いい思い出になった』


 本当にいい竜だ。竜神が友好的だからだろうか?

 前にバジルから聞いた火竜の話が嘘なんじゃないかと思えるぐらい、ウェアリーゼはとても親切で優しい。


『それではな。また機会があれば竜の谷によるが良い』

「うん。必ずまた行くよ」

「ピィイ!」


 そうして、ウェアリーゼはその蒼く光る翼を広げて飛び去っていった。


 ウェアリーゼを見送ってから王都に戻ると、何故か何時もより慌ただしい雰囲気が漂っていた。

 祭りかな?

 にしては、出店も、何もないな。不思議に思いながらも、通りを抜け俺は学院へと戻った。一度荷物を置きに部屋へと戻り、シャルステナの部屋がある寮を訪ねた。


 俺がシエラ村でなく、王都に戻ってきたのはシャルステナを安心させるためだ。普段から彼女には心配をかけているようなので、少しでもそれを減らしたいと思ったのだ。

 しかし、女子寮にシャルステナはいなかった。というか誰もいなかった。そういえば、男子寮にも誰もいなかったな。みんな里帰りしてるんだろうか?


 ガランとした学院で1人きり。いつも騒がしい学院の中がこんな静寂に包まれていると凄く違和感がある。休みの間はこんな感じなのかな?


 困ったな。

 シャルステナは王都にいるだろうけど、俺あいつの実家どこにあるのか知らないんだよなぁ。

 はてさてどうしたものか……


 このまま帰るか、シャルステナの家を探すか思案していると、誰か走り寄ってきた。


「レイ!まだこんな所にいたのか!早く、校舎へ行け!」

「あ、リナリー先生どうしたんですか?校舎で何かやってるんですか?」

「この馬鹿タレが!そんな悠長なことを言っている暇はない!」


 そう怒鳴りながら、リナリー先生は俺の腕を掴み校舎へと連行した。

 なんで怒られたんだ俺?

 今帰ってきたところなんだけど……


 そんな風に疑問を浮かべながら、俺は大人しくリナリー先生に校舎まで引きずられた。

 そして、そのまま中に放り込まれ、一体なんなんだと顔を上げると突如視界が覆われた。


「レイ!無事だったんだ!」


 校舎へ入るなり、バッと抱きついてきたシャルステナ。横目で顔を見るとパッと顔を綻ばせ、若干顔が赤くなっていた。


「ああ、約束通り怪我なく帰ってきたぞ」


 俺も彼女を優しく抱きしめる。すると周りから嫉妬の視線が降り注ぐ。

 はっはっはー、これがイケメンの特権だ。

 可愛い女の子に抱きつかれる。いや〜、ごめんね。君たち。俺がイケメンで。


 そんな風に若干調子に乗りながら、俺はこの状況を楽しんだ。


 いや、ほんとに残念だ。彼女が俺じゃない誰かを好きだなんて。

 こうやって抱き付いてくるのも今だけだろうなぁ。学年が上がっていけば、こういうこともなくなるんだろうなぁ。今のうちに楽しんでおこう。

 

「よかったぁ。でも、レイ、竜の谷までは行けなかったんだね。何かあったの?」


 そう聞いてきたシャルステナに、思わずポカンとしてしまう。

 何言ってんだ?行ってきたぞ?半日前までそこにいたぞ?


「いや、行ってきたんだが…ちゃんと」

「え?でも…」

「あ、帰りは送ってもらんたんだ。ウェアリーゼに」


 ここで彼女が何を勘違いしているのかわかった。

 まだ王都を出て3週間程しか経っていないため、途中で引き返してきたと思ったようだ。

 しかし、それを説明する為にウェアリーゼの名を出したのはよくなかったらしい。


「誰?女?」


 突如、目の前に氷の眼が面前に出現した。


「えぇ⁉︎い、いや、女だけど…なんていうか…竜?」


 俺を射抜くかのような視線に、慌てて追加説明を行う。女性を抱いているときに他の女の話をしたらいけないと前に聞いたことがあったのを忘れていた。

 なるほどな。こいうことか。俺は頭に刻み付けた。


「竜?」

「ああ、蒼い色の氷竜だ。いや〜、こいつが良いりブヘェ‼︎」

「お前かあぁぁぁあ‼︎」


 氷の眼が消えて安心した所に、今度は脳天に衝撃が加えられた。


「いてて、いきなり何するんですか?リナリー先生」


 叩かれた頭を抑えながら、俺を撲殺しようとした犯人に問うた。何故こんな真似をしたのかと。


「お前なぁ!」

「ひっ、シャ、シャルステナ出番だ」


 あまりにリナリー先生の剣幕が凄かったため、急遽シャルステナと場所を交代した。


「ちょ、レイ、あなたが悪いんだから、私を差し出さないでよ」

「お、俺は何もしてないぞ!ただ、竜の谷に行って、仲良くなった竜に送ってもらっただけだ!」


 何も悪いことしてないじゃないか。むしろ交友を深めたんだからいいことだ。


「それが悪いと言ってるんだぁ!そのせいで王都は大混乱なんだぞぉ!」

「えっ?えっ?まじですか?」


 まじすっか?

 それで街が慌ただしかったのか?

 えっ?全部俺の所為?


「まじよ。私達がここに集められたのもそのせい」


 やっべ。

 完璧俺のせいじゃん。

 母さんがいなくてよかった。磔は避けられた。後は…


「……あははは…みなさんご迷惑をおかけしました、じゃ」


 逃げよう!ほとぼりが冷めるまで逃げよう!


「あ、おい!待て!」

「ちょ、ちょっとレイ⁉︎」

「さよならみなさん!僕は実家に帰りま〜す!」


 物凄い速さで駆け出した俺をリナリー先生、シャルステナ、その他の順に追いかけてくるが、俺の方が早い。

 スキル全開で風魔法のアシストを受けた俺はA級クラスだ。

 そうそう追いつけるもんか。


「な、なんであんなに速いんだ、あいつは!やっぱり手を抜いたんだな!」

「レイィ!待ってよ!逃げないで!」

「すまない!俺は今超絶ウルトラスーパーハイホームシックなんだ!だから、家に帰りたくて仕方ないんだぁ!」

「嘘よ!絶対嘘よ!怒られたくないから、逃げてるだけよ!」


 俺の考えをどストレートに言い当てるシャルステナの言葉を右から左へ聞き流し、俺はダッシュで寮へと戻ると、ジャンプして窓から部屋へと入った。


「ハク!逃げるぞ!」

「ピィイ⁉︎」(なんで⁉︎)

「いいからこい!」

「ピピィッ!」(うわぁっ!)


 俺は荷物を取り、強引にハクを捕まえると空を駆け出した。


「あ、あいつはどうなってるんだ!空を走ってるぞ⁉︎」

「あぁ……本気だ。本気で逃げる気だ……」

「それではみなさん、また4月にお会いしましょう!それと、シャルステナ!」

「な、何⁉︎戻ってきてよ!」

「ギルクに後は頼んだと伝えてくれ!」


 王子に丸投げしよう。あいつならやってくれるさ。なんて言っても王子だからな。俺の無実を勝ち取ってくれ。


「待て〜!」という声を無視して俺は空を駆け登り続けた。


 そして、およそ半分程の魔力を使いきり全力で王都を脱出した俺は断崖山に避難した。


「ハァハァ、逃げ切ったぞ…追っ手も…きてないな、よし。頼むぞギルク。俺の平穏はお前にかかってるからな…」


 断崖山の中腹に着地した俺はギルクに祈るようにして懇願した。


「ハァハァ、こんなことなら王都に…戻るんじゃ、ハァハァ、なかったな」


 息を乱しながらも俺は王都から距離を稼ぐ。シエラ村まで逃げれば取り敢えず安心だ。


 そうして、途中でてくる魔物をオーバーキルしながら俺は断崖山を越え、シエラ村へ帰郷した。


「ただいま…」

「あら、おかえりなさいレイ。今年は少し遅めだったのね」


 夜やっと村に着いた。もうヘトヘトだ。


「ちょっと用事があって…」

「そう。疲れてるだろうから、今日はゆっくり休みなさい」

「うん、そうするよ」


 最古の竜の谷に行き、王都から断崖山まで空を駆け抜け、山越えをしてきたんだ。今日1日で……

 恐ろしく疲れた。なんで今日はこんなに盛り沢山なんだよ……


 そんな盛り沢山の1日を思い出しながらご飯を食べ、寝ようとして気がついた。


 あれ?親父は?


「母さん、父さんは?」

「いきなり旅に出るって言ってどこかに行っちゃったの」

「えぇぇ⁉︎」


 自由人過ぎるだろ、あの人。子供生まれたばっかだよね?何考えてるんだ親父は……

 魔人がいたら任せようと思ってたのに……


「レイ、余り深く考えちゃダメよ。あの人の頭はおかしいんだから」

「う、うん…」


 いつも思う。なんでこの二人はくっついたんだ?

 いや、ぴったしと言えば、ぴったしなんだよ?

 けど、母さんが父さんをどう思ってるのかが、よくわからん。


「ほら、おバカなレディクはほっといて寝なさい。どうせ、適当に満足したら帰ってくるわよ」


 まぁそうだろうな。思い付いたらすぐ行動があの人だもんな。考えても仕方ない。


 今日はいろいろあって疲れたし、寝るとしよう。



 〜〜〜〜〜〜


 3月半ば、俺はまだシエラ村での生活を送っていた。

 去年と同じくギリギリに帰るつもりだ。出来るだけ長くほとぼりを冷ましたいのだ。

 そしてみんなが忘れた頃に何気ない顔で教室に行き、何気ない顔で授業を受け、何気ない顔で毎日を過ごすのだ。

 その準備は今着々と進んでいるはずだ。ギルクの手によって……


 シエラ村での生活はほとんど去年と変わらない。

 朝は建築家、昼は調査、夜は兄貴と毎日が充実している。

 よくよく考えればまた休みがない気もするが、今日で建築家のお仕事は終わったので、今から休めばいいかと考えている。


 母さんに調査がバレるとまずいので、余り長時間は調査できないから丁度いい。

 前の時みたいに寝てないこともないし、癒しもある。


 俺の癒しであるスクルトはもう立てるようになり、言葉も少し話し始めている。まだどちらも拙く、危なかっしくもあるスクルトだが、死ぬ程可愛い。弟とはこんなに可愛いものだったのかと日々痛感する毎日である。


 そんな癒しのある生活の中で一つ気掛かりなのは親父の事だ。

 未だ親父は戻ってきていない。かわいいかわいい息子が帰って来ているというのにどこをほっつき歩いてんだか……


 調査の方は魔人捜索を第一目標において行っている。

 まだ確定ではないが、竜神の話ではその可能性が一番高そうだったので、魔人がどの様に加護を与えているのか調べている。

 今のところ魔人らしき者の姿も痕跡も何も見つかってはいないが、魔人を見つける方法は思い付いた。


 内に秘める魔力を押し計ればいいのだ。恐らくかなりの量を持っているはず。それだけで決めつけるわけではないが、候補を絞る事は出来るはずだ。

 少し魔人について調べたが、魔人は最低でもS級以上の力を持っているらしい。つまり、王都では殆ど見かけないレベルの魔力の持ち主という事だ。


 ちなみにシエラ村とその周辺にはその持ち主がゴロゴロいた。だが、知り合いばかりでとても魔人であるとは思えなかった。

 残るは王都だけだが、あそこにはかなりの人数がいそうで苦労しそうだ。全員知り合いとは限らないだろうしな。


 だから、それまでは山の中で魔人を探そうと思う。何かしている時に遭遇出来れば確実な証拠となる。

 今は王都とは反対側の斜面でしらみつぶしに探しているが、魔人どころか人さえ見つからない。わかったのは、こちらも王都側と同様に魔物が活性化しているという事だけ。


 こんな時に親父がいないのはとても心配だ。あの人はバカだけど、本当に馬鹿みたいに強いのだ。母さんも確かに強いが、親父はレベルが違う。

 だから、親父がこの村にいてくれるだけで俺はとても安心できるのだ。だって俺が目標とする人だから。


 はぁ、なんでこんな時に旅に出るかなぁ。

 これじゃあ、王都だけでなく、シエラ村のことも考えなきゃいけないじゃないか……

 ディクの親父さんもいるけどさぁ。やっぱ俺としては自分の父親の方が安心できるんだよなぁ。


 ……まぁ、もう言っても仕方ないことだ。俺は俺で親父が馬鹿やってる分頑張ろう。


 あの人がもう少し人並みに頭が使えたらなぁ……


 〜〜〜〜〜〜


「それじゃあね、レイ。帰りも気をつけてね」

「うん」

「あっ、そうそう。レディクから伝言があったのを忘れていたわ」

「伝言?」


 珍しいな。親父がそんな気を利かすなんて。どういう風の吹きまわしだろう?


「『湖には近づくな』ですって」

「えっ?それ、言うの遅くない?」

「ごめんね。私としたことがうっかりしてたわ。あの人がいきなり旅に出るって言い出すもんだから、ね?」


 なるほど。怒り狂ったが、ぶつける相手はすでに旅に出たと。

 その怒りが俺に向かなくてよかった。まぁ、もう近づいたから手遅れなんだけど、それは置いといて。


 ーー親父は何を伝えたかったんだろうか?


 俺は親父の伝言の意味を考えながら、王都へと出発した。


 断崖山をオーバーキルしながら越え、俺は王都へと戻ると、軽く顔を隠し、気配を殺しながら街中を歩いた。

 指名手配犯の気持ちがわかる気がする。誰もこっちを見てなくてもついつい隠れたくなる。


 頼むぞギルク。

 俺の無罪を勝ち取ってくれたと信じるぞ。


 そうして俺はコソコソと寮の部屋へと戻ってきた。


 ふぅー、ひとまず問題はなかったな。

 あとは何食わぬ顔で明日から生活すれば問題ないな。たぶん……


 俺はその日ギルクに祈りながら眠った。

 (ギルク)よ、頼むぞ。俺の無罪を勝ち取っておいてくれよ?



 〜〜〜〜


「おはようみんな、久しぶりだねぇ。元気だったかい?僕かい?僕は元気だったさ。毎日毎日、元気いっぱいさ。いやー、それにしても久しぶりの故郷とはいいものだね。なんていうのかな?懐かしいというより、なんかしっくりくるものがあるよね。故郷での生活ってさ。みんなは里帰りしてどうだった?あ、でもほとんどがこの王都住まいなんだよね?それは残念だなぁ。この気持ちを共感できないなんて、僕は悲しいよ。ああ、本当に残念だ。できることなら、この感情を君たちに手取り足取り、一から語って差し上げたいよ。だけど、もうすぐ授業が始まってしまうからね。みんな早く席につかないと、リナリー先生に怒られてしまうよ。ほら、シャルステナくんも席について。拳なんか振りかぶったらダメだよ、女の子が。君は可憐で美しい、麗しき乙女なんだから、そんな怖い顔してもダメだよ。むしろ、君の魅力を引き立ててしまうよ。もう僕は君の魅力にメロメロさ。思わず抱きしめてしまいそうになるよ。ところで、シャルステナ君はこの冬休みブヘェ‼︎」

「いい加減黙りなさいよ‼︎どんだけ喋る気なのよ‼︎」


 朝、いつものように何食わぬ顔で教室に入り、いつものように何食わぬ顔で話をしたはずなのに、なぜか殴られてしまった。


「い、痛い…」

「自業自得よ。私達に面倒事丸投げして逃げた罰よ」

「そんな……おかしいなぁ。いつもと同じようにしてたら、流せると思ったんだけど…」

「いったいどこがいつものレイだったのよ?」

「え?まずは何食わぬイケメンフェイスでいつものように登場」

「何食わぬイケメンフェイスって何よ……」


 それはそのままの意味だよ。このイケメンフェイスで何食わぬ顔をしてるんだ。


「次に、いつものように爽やかな笑顔での挨拶」

「レイはいつも爽やかな顔なんてしない。なんか企んでる顔してる」


 ひ、酷いなそれは……俺がいつも何か企んでるみたいじゃないか。


「で、最後にいつもの朝のトークだろ」

「まず話し方が気持ち悪い。それと、朝からレイはあんなに喋らない」

「そんなバカな……俺はいつも朝来て、みんなのテンションあげてたはずだ…」

「私のスカートめくってね」


 そうだった。うっかりしてた。そうか。めくればよかったのか。


「えい」

「きゃあ‼︎」

 バチーン!

「うん、いつもの朝だ」


 〜〜〜〜〜〜


「…というわけでだ。一発殴らせろ」

「ちょっとまて。俺たちまだ、会って5秒じゃないか!なのに何が『というわけで』なんだ⁉︎」


 放課後バッタリあったギルクに、開口一番殴らせろと言われた俺は後退りするも後ろは壁。逃げ場を無くした俺をギルクは遠慮なく拳を勢いよく振り下ろした。


「うるさい。ふんっ」

「ブヘェ‼︎」

「あー、すっきりした」

「…いてぇ、俺、シャルステナ以外に殴られる趣味ないんだけど?」


 もっと言えば可愛い女の子以外に殴られるのは腹立つんだけど?


「知るか。俺に丸投げしたお前が悪い」

「いや、まぁ、そうだけどさぁ。しっかり埋め合わせは考えてたんぜ?」


 そこはきっちり考えてたんだ。もちろんシャルステナにもするつもりだ。俺は恩知らずではないのだ。


「何が埋め合わせだ。そんなもんで足りるか。殴らないと気が収まらん」

「チッ」


 思わず舌打ちしてしまった。けちんぼめ。


「おい、まだ殴られたいのか?」

「まあまぁ、俺を殴れた上に埋め合わせしてもらえるだから、いいじゃないか」

「お前にそれを言われると腹が立つんだが……」


 そんな納得がいかなそうなギルクを連れ、いつもの広場へと向うと、


「あ、きた犯罪者」

「誰が犯罪者だ。それはお前だ、変質者」


 犯罪者呼ばわりされ、変質者に犯罪者呼ばわりされる謂れはないと言い返す。

 俺は何も罪を犯してない。ただ竜の背中に乗っただけだ。実際にパンツを盗んだりする変質者とは違うんだ。


「レイ、氷竜と飛んできたんだって?凄いね。レイも飛べるんだね」

「それは意味が違う。確かに飛んできたけど、背中に乗っけてもらったんだ」

「あ、そうだったんだ」


 やっぱりこいつは天然だ。年々酷くなってる。


「ところでレイ。埋め合わせとは何をしてくれるんだ?」


 そう聞いてきたのは、さっきまで不機嫌だったギルクだ。


「文化祭の時の景品の店でのフルコース」

「な、なんだと…?」


 ギルクは雷が落ちた様に驚愕し固まった。

 まぁそりゃそうだろ。あの店のフルコースなんて100万ルトを超えるからな。

 王子でもそうそう食べたことないだろ。


「シャルステナも埋め合わせするから」

「え?わ、私もいいの?」

「もちろんだ。お前とギルクには悪いことしたなぁって思ってたから」

「やった!ありがとレイ!」


 飛び跳ねて喜んでくれるとこちらも嬉しい。

 残念なのは山がないことか……

 山があれば完璧なのに……


「お、おい、レイ!金は大丈夫なのか?」


 硬直から復活したギルクが慌てた様子で聞いてきた。


「大丈夫に決まってるだろ。そうじゃなきゃ言わないよ」


 今の俺の総資産は1000万を越え2000万に入りかけている。これも日々の調査の賜物である。倒せる魔物は全て倒してきた甲斐があった。

 所詮は時間稼ぎにしかならないが、魔人を見つけるまで持てばいい。


「レイ様、私、こう見えて淑女ですの。ですから、是非ご一緒させていただきたく存じます」

「お前のどこが淑女だ。それにお前には何も迷惑かけてねぇ」

「そんな!一生のお願い!一度でいいの!お願いいたします!」


 どけ座しながら言う彼女からは、淑女らしさを微塵も感じなかった。


「嫌だよ」


 迷惑かけてないのになんで奢らないといけないんだ。


「レイ、僕も行きたい」

「……」

「……」

「…それだけか?アピールなしか?」


 こいつ正直に思ったこと言っただけかよ。せめてアンナみたいにアピールしろよ。


「ピィイ」(行きたい)

「安心しろハク。お前は俺の相棒だからちゃんと連れてってやるよ」

「ピィイ!」(さすが親!)


 やっぱりハクと俺の考えにはちょっと差があるみたいだ。俺にとってハクは相棒だが、ハクにとって俺は親みたいだ。

 まぁそこまでこだわってるわけじゃないからいいんだけど……


「ハクだけズルい!私も私も」

「ハクいいなぁ。僕も行きたいなぁ」


 二人は俺にジリジリと近寄ってくる。


「ハクは俺の家族だから当然だろ」


 しかし、俺はそう言って2人を突き放す。


「仕方ない。ここはお色気作戦よ!見なさいレイ!私のストリップショーを!」

「アホか!こんな人の多いところでストリップなんかすんじゃねぇ!」


 この変態が。お前は周りを見るという頭がないのか?


「レイ、僕も脱げば連れてってくれる?」

「話聞いてたか?」


 お前はなんで、一番大切な所を聞いてないんだ。


 俺の言葉を無視し、アンナはストリップを始めた。

 シャルステナが止めようとしてる。

 ゴルドがガン見してる。

 ハクがアホだと笑ってる。

 ギルクが恐ろしく真顔だ。少しは興味を持ってやってほしい。


 俺は魔法を唱えた。


 バチチチチチチッ

「ギャァァァァア‼︎」

 プスップスッ


 アンナは丸焦げになった。

 やれやれ。今日も犯罪を未然に防ぐことができた。


「…ゔぅ…フル、コー、ス…」


 丸焦げになっもまだ行きたいようだ。

 はぁ、もういいかぁ。どうせ金余ってるし、このままじゃ何するかわからないしな。


「わかったよ。連れてってやるよ…二人とも」


 ちゃんとゴルドも連れて行くことにした。さすがに1人除け者は可哀想だ。

 俺がそう言うとアンナは何事もなかったように復活して、ゴルドと抱き合い喜んでいた。


 あれ?アンナがアニキ以外に抱きついた?これは…ゴルドやったな。希望が見えてきたぞ。


 結局、全員で行くことになった超高級料亭のフルコース。さすが高いだけあって料理はどれもこれも絶品だった。

 シャルステナはステーキを食べながら泣いていた。あそこまで素直に喜ばれると連れてきてよかったと思う。また連れてきてやろう。どうせ金余るし。


 変態性が出るほど来たがっていたアンナは、バクバク食っていた。どこが淑女なんだよ。単なるがさつな女じゃねぇか。

 横を見ろ横を。一口一口味わって食べるシャルステナを見習え。それが淑女の食べ方だ。


 ゴルドは無言だった。始終、しゃべらなかった。

 しかも顔も真っ赤で、チラチラとアンナを見ていた。どうやら先程抱きつかれたのがまだ効いているようだ。

 どうも俺にはわからない。あいつの何がいいのだろう?


 ハクは一生懸命食べていた。小さい体で次々と運ばれてくる食べ物を食べる姿はとても可愛かった。これだけでもハクを連れてきてよかったと思う。


 ギルクはさすが王子というテーブルマナーだった。気品漂うその姿は、その容姿も相まって世の女性を虜にしそうだ。

 しかし、残念なことにそういった普通の女子はここにはいない。

 片や最近王立学院創設史上最も優秀な生徒と言われ始めたシャルステナ、片や王立学院創設史上最も変態のアンナだ。

 ギルク残念だったな。それを出す場所を間違った。


 そして、ギルクは優雅に食べ進め、完食するとこう言ってきた。


「1迷惑1フルコースで請け負おう」


 キメ顔で言ってきた。

 まぁそれには少し引いたが、また面倒事が出来たら任せられるのは俺にも嬉しいことなので、引いた体を前に戻しておいた。


 こうして俺たちの夢のようなひと時は過ぎていった。



 〜〜〜〜〜〜


 時は少し遡る。


「なんだ…これは……」


 目の前の光景に唖然とした。

 なんとなく湖を見たくなって、湖へとやってきた。だが、そこには不自然な光景が広がっていた。


 いつもは動物で溢れる湖。しかし、そこには本来ここには近づかないはずの魔物が集まっていた。しかも、今まで見たことのない魔物まで混じっている。

 魔物は酷く淀んだ湖の水を啜るように口に入れ、その姿をより凶暴な物へと変貌させた。それはまるで進化でもしたかの様に、より強く、より醜く変わる。


 一度でもこの湖を見た者なら、一目で異常だとわかる光景だ。いや、魔物の進化などそう見れる光景ではない。

 冗談の様に次々と体を変貌させる魔物達を見れば、誰しもが異常だとわかる光景だ


「これはいったいなんの冗談だ」


 怒りに震える声が漏れた。

 俺の原点、あの美しかった湖が汚されている。そう感じた。

 俺は怒りのままに剣をとり、目の前の魔物を全て殺した。魔物がここを汚していると思ったからだ。しかし、それは間違いだとすぐに気付いた。


 魔物を狩り終え、汚れてしまった湖の水を手に取った。その水は酷く濁っていたりはしていなかった。

 俺は再び湖に目を向けた。湖の水は透き通っている。しかし、いつものように輝いていない。酷く鈍い色をしている。


「なんなんだ…これは……」


 俺には何故そんなことになっているのかさっぱりわからなかった。


 なぜだ?

 ここは世界樹の恵みを受けた湖だぞ。

 それが何故こんな嫌な気配を放つ水で覆われているんだ…

 わからねぇ。

 俺は考えるのが苦手なんだ。考えてもわかるわけねぇよな。


 仕方ねぇ、世界樹まで行くしかないか。


 俺は湖の異常を調べるために、世界樹へと向かうことにした。

 家に帰るとすぐ旅支度を整え、ミュラに旅に出る事ともうすぐ帰ってくる息子に湖に近づくなという伝言を頼み、旅に出た。ミュラはポカンとしていたが、俺はそれに構わず家を出た。


 俺の中には焦りがあった。火竜の時と同じ嫌な予感がしたからだ。

 あの時と違い今の俺には何を差し出しても守りたい大切な家族がいる。だからこそ、急いで世界樹に向かった。


 あの神なら何か知っているはずだ。


 俺は湖の異常の原因を確かめる為に世界樹へと向かった。


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