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23.最古の竜

 夏休みの間、俺はシャルステナに言われた通り休んだ。しっかり休んだ。休まされた。

 毎日のようにシャルステナが俺が休んでいるか確認にきて、さらにハクもシャルステナに協力して俺を見張ってたため、休まざるを得なかった。

 そこまでしなくてもちゃんと俺は休むと言いたかったが、心配してやってくれてる手前言い出せなかった。


 しかし、そのお陰もあってか俺はすっかり元通りになった。

 いつも頭に靄がかかっているような感覚もなくなり、忘れ事もしなくなった。


 これからも週に一度は休むことにしよう。いや、2週……月1回でいいかな?

 シャルステナに言ったら怒られそうだな。

 ここは間をとって2、3週に一度は休むことにしよう。

 うん、またおかしいなって感じたら言ってくれるだろ。


 人任せな感じだが、あまり休んでもいられないのも事実。限界を超えない程度には無理しないとな。

 考えたくはないが、休んでるうちに手遅れでした、とはなりたくない。


 今日からは新学期が始まるし、気持ちを新たに調査を開始していくことにしよう。


 〜〜〜〜〜〜


「……増えてる」


 新たに調査を開始して3ヶ月。

 そろそろ今年も終わりだ。しかし、残念ながら俺の調査に終わりは見えない。


 今日はプチ休日と言う名の休みだ。プチ休日とはゆっくりするのだが、それまでにやった調査をまとめる日となっている。

 一応休みなので、それ程長くならないよう気をつけてはいる。今のところ俺におかしなところはないから、これからもこんな感じでいこうと思う。


 今日はこの3ヶ月の魔物の推移を纏めてみた。

 それで初めて気が付いた。

 魔物が数、階級ともに増していることに。毎週の調査では気が付かなかった。本当に少しずつ増えているのだ。


「なんで増えるんだ」


 増えるのは別に問題ない。だけど、増えるのが早すぎる。明らかに放置していたのが原因ではない。何か別の原因があるとしか考えられない。

 何が原因かはわからない。


 だが、魔物の活性化を促す何かがあの山にはある。


 それはなんだ?

 魔物が活性化する理由……

 魔力スポットとかか?

 いや、ありえないな。この世界で魔力とは体内にあるものだ。世界から湧き出たりはしていない。


 もう一度調査方法を見直す必要があるな。もう魔物が活性化しているのはわかったんだ。

 これまでの方法ではそれしかわからない。一度落ち着いて、状況の確認をしよう。それから何を調べればいいか考えよう。


 まずは情報の整理だ。


 今わかっている事は断崖山の魔物は活性化している。そして、それは放置していた事が原因ではない。しかし、その原因はわからない。

 このぐらいだろうか?


 改めて整理してみると、この一年でこれだけしかわからなかったのかと力不足を痛感した。


 そこでふと、誰かに頼るべきかと考えた。しかし、誰に頼るべきだろう。誰かが意図している可能性を考えるとギルドや国に伝えるのは気がひける。ならば自然と周囲に目がいくが、周りは子供ばかり。となると頼るのは身内ぐらいしかいなくなる。


 ただ、戦力としてなら親父が申し分ないが、如何せん馬と鹿がコラボレーションした頭の持ち主だからな。原因究明には向いていない。

 そうなると残りは母さんになるのだが、こちらも避けたい。なぜなら、確実に叱られるからだ。それにまだ小さいスクルトの世話もある。俺と違いあの子には、母親の手がまだまだ必要な時だろう。


 まぁ、まだ手に負えない事もないんだ。どうにもならなくなるまで、一人で頑張ってみよう。

 なぁに、なんとかなるさ。ここより高度な教育を何年も受けてきたんだ。その辺にいる大人よりは賢い自信はある。


 それに原理まで解明する必要はないんだ。ただ何が原因でどうすれば元に戻るか、それさえわかればそれでいいのだ。原因がわかれば解決方も自ずと見えてくるはずだ。


 原因としては何が考えられるだろう?

 魔物を活性化させる薬とかか?

 それとも、あの山には魔物を活性化させる食べ物でもあるのだろうか?


 ……わからない。どうやったら魔物が活性化するんだ。

 そもそも魔物って何なんだ? 何が魔物で、何が魔獣なんだ?

 この違いがわからない。


 ギルドに行って書庫で調べようと立ち上がろうとして、自分でストップをかけた。

 今日はやめておこう。今日はまとめるだけだ。それ以上はやっちゃいけない。


「ふぅー」


 俺はまとめた紙を片付けると一息ついた。


「休むっていうのもなかなか大変なもんだ……」



 〜〜〜〜〜〜


 12月30日

 今日はさすがに調査はしていない。大晦日までやったらシャルステナに怒られてしまう。だから、今日は大晦日らしく部屋の大掃除をしている。


 最近、ハクがシャルステナの使い魔みたいになっているため、俺の行動が全て筒抜けなのだ。まるで意思のある監視カメラだ。

 ハクも手懐け、母さんも味方にするシャルステナって実は結構やばいかもしれない。そのうち俺の周りが固められていそうだ。人を手懐ける手際が素晴らしい。さすがは学院のアイドルと言われるだけはある。


 俺は大晦日の大掃除を終え、椅子でまったりと寛ぎながら一冊の本を開いた。


「竜の谷か……」


 俺はその愛読書をめくりながら、そこに書かれてある事を記憶していく。


 この本にはある記載があったのだ。ギルドの書庫にはなかった魔獣と魔物の違いに繋がるヒントのようなものが。

 本にはこう書いてあった。竜神が魔物を魔獣に変えたと。つまり、竜の神ならば魔物と魔獣の違いを知っているに違いない。


 しかもこの本には何処に行けば竜神に会えるのかも書いてあった。

 竜神は神であるが天界とかそういう所にはいないらしい。普通に地上にいる。


 竜の神がいるのは7大秘境の一つ、最古の竜の谷だ。これは”冒険者の夢”に書いてある場所だ。


 俺はこの記載を見つけてから、ずっとこの本を読み続けた。少しでも竜の谷の情報を得る為に。


 ーー最古の竜の谷


 ここは名前の通り、最古の竜が住む谷だ。

 最古の竜、そう聞いて何を想像する?

 山より大きな体か?

 はたまた属性を身に纏い、強力なブレスを吐く姿か?


 皆それぞれに思い浮かべる物は違うだろう。

 私の場合は神々しい姿を思い浮かべる。


 なぜか?

 それは最古の竜の別名に理由がある。


 かつて、魔物であった最古の竜。しかし、長き時を得て彼は神となった。

 そして、神となった竜は己の眷属と一部の魔物を魔獣へと変えた。

 まさに神の所業。


 その竜の神が住む場所が最古の竜の谷だ。


 最古の竜の谷はラストベルクの東に位置している。

 そこまでの道のりは特筆する点がないほど、楽な道のりだった。

 しかし、竜の谷に着いてからが大変だ。


 竜の谷には何百という数の竜が住む谷だ。その一番奥に最古の竜の谷は存在する。

 だが、私はそこまで行くことができなかった。


 竜の谷に住む竜はとても温厚だ。

 こちらから手を出さない限りは攻撃されることはない。

 ただし、我々に力を貸そうともしない。


 竜の谷は名前の通り、竜以外に住む生き物はいない。

 それは言い換えれば、竜以外には住むことができない地なのだ。


 谷は深く、何十もの亀裂が広がっている。

 一つ一つの幅はとても大きく、奥に進むほどそれはさらに広がる。

 私が進めたのは5つ目の亀裂までだった。

 それ以降は反対側の地面に届く気さえしなかった。


 私が知る限り最後の亀裂の距離はおよそ500メートル。

 最低でもそれを超えない限りは最古の竜の谷には辿り着くことはできないーー


 この本から様々な情報を得られた。先に言った竜神が魔獣を作り出した神である事の他にも、竜神の居場所、行き方、はたまたその住処の攻略法まで色々とわかった。


 竜の谷はシエラ村よりもっと向こう、この国の東側に広がっている。そこまでの道中は街道が整備され、特に苦労する事はないという。何より、断崖山を経由すれば一カ月程で戻ってこれる位置にある。

 つまり、春休みの間に行って戻ってこれるのだ。


 さらに俺は空を走る事が出来る。つまり、この本の作者が諦める他なかった谷を越えられる。

 そこから先が本当の秘境。竜の谷の向こうにある最古の竜の谷。そこへ辿り着いて初めて竜神と出会えるし、七大秘境踏破の夢に一歩近づけるのだ。


 行くしかないだろう。行かない理由がない。

 行こう、最古の竜の谷へ!



 〜〜〜〜〜〜


「ケガ……しないでね」

「大丈夫さ。しっかり休んだし、谷を飛ぶだけなんだから」


 テストが終わり春休みに入った俺は、早速最古の竜の谷に向けて出発することにした。

 竜の谷まではおよそ3週間ほどかかる。往復で1ヶ月半の道のりだ。あまり悠長にしている時間ははなかった。七大秘境と呼ばれる程なのだ。空を飛べるからと油断し過ぎるのも良くない。


「うん、わかってるけど……」


 見送りに来てくれたシャルステナは心配そうに顔色を曇らせる。どうも俺とハクだけで行かせるのは不安らしい。初めシャルステナも付いて行くと言って聞かなかったが、俺の魔力の関係と家の問題があったため、渋々ながら引き下がった。


「そんな心配するな。俺は死なないよ」


 俺はシャルステナを安心させようとそう口にした。まだ、何もしていないんだ。死ねる訳がない。


「……うん」


 シャルステナは数秒俺の目を見つめ固まっていたが、しばらくして小さく頷いた。こちらとしては笑顔で見送って欲しいところだが、心配性の彼女に不安を覚えさせる様な所へ行くと言い出したのは俺のため、代わりに俺が笑顔を作る。


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。ハクも気をつけてね」

「ピィイ!」


 今回の旅にはハクも付いてくる。同族に会わせてやりたいと思い連れて行く事にした。竜の谷の竜は温厚らしいので、ハクと仲良くして貰えるだろう。

 それに生まれた時から飛んでいたハクは足手まといにはならないからな。むしろ俺が足手まといになり兼ねない。


 俺とハクはシャルステナに手を振りながら、竜の谷を目指した。


 〜〜〜〜〜


 旅は順調だった。


 途中何度か泊まる宿々で訝しげな視線を向けられたが、学校から家に帰るところです、と言うと納得して、快く迎い入れてくれた。

 まぁ子供が一人で長旅することなんて普通ないからな。俺は歳通りの見た目だから余計だろうな。


 道中出てくる魔物も雑魚ばかりで問題なかった。全てハクの経験値に変えさせてもらった。一度、盗賊が道の先の木陰に隠れていたが、空間探索の前には何の意味もなく普通にスルーした。


 そうして長いようで短かった旅路を経て、俺たちは七大秘境の一つ、竜の谷に到着した。


「ハク着いたぞ。ここが竜の谷だ」

「ピィ〜」


 目の前に広がるのは何十もの亀裂が地平線まで広がる広大な谷だ。亀裂はどこまでも深く、太陽の光さえ届かない。まるで深淵の様な暗さとは対照的に、空には彩りが鮮やかな竜達が舞う。属性の違う成竜の体が太陽光によって色鮮やかに輝き、とても幻想的な光景が広がっている。


 そこは竜の楽園と呼ぶに相応しい、そんな場所だった。


「ハク、話がしたいのなら行ってきてもいいぞ? 俺は先に谷を越えているから」

「ピィイ?」(いいの?)

「ああ。お前も初めてあった仲間と話したいだろ?」

「ピィイ!」(ありがと!)


 ハクは俺の肩から飛び立つと体の大きさを元に戻し、天高く舞い上がっていった。俺はその姿を見ながら、感慨に耽る。


 ハクも前に比べるとだいぶ大きくなった。学校で授業に参加しているお陰だろう。

 大きくなったハクを見るのは久しぶりだが、順調に成長しているようで、とても喜ばしい。もうその体は俺よりも大きくなっている。

 そう遠くない未来でハクの背中に乗って空を飛ぶことができそうだ。


「さてと、俺も行こうか」


 ハクが空にいる竜と話をし始めたところで、視線を目の前に戻し、先に進むことにする。


 今回は別に急がなくてもいいので、固定、反転、反発空間だけを使って谷を飛び越えていった。魔法を使うと魔力消費が激しいのだ。スキルの方が魔力を温存できる。


「谷の間にもたくさんいるな」


 亀裂を越えている時、ふと下を見ると谷の横に空いた穴倉で竜が寝ていた。それも大量に。

 ちょっと怖かった。


 物凄い数の竜がこの谷には住んでいた。軽く500はいるんじゃなかろうか?

 それに成竜の数も半端ではない。百は越えている。驚くべきはその多さではない。これだけいるのに、一匹としてこちらを襲ってこない事だ。本当にこの谷の竜は温厚なようだ。


 魔獣は良く魔物とごっちゃにされ易いが、ひょっとしたら実は温厚なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、谷を越えているとハクが竜を引き連れ戻ってきた。ハクの後ろに成竜が付いてきていたのを見て、かなり驚いた。というか、びびった。


「…ハク、そちらさんは?」

「ピィイ!」(友達!)

「へぇ、友達ができたのか」


 小さいくせに成竜と友達になるとは、やるなお前。さすが俺の相棒だ。


『人間の子よ、そなた妾達の言葉がわかるのか?』


 ハクが連れてきた友達の竜は、蒼い鱗を纏い体からは冷気が漏れ出る氷竜だった。氷竜はその透き通る様な綺麗な青い目でしっかりと俺を捉え、氷柱の様な歯が生える大きな口から人語を発した。

 人語で話し掛けられるとは思わず少し驚いたが、長く生きた竜は人語を解する者もいる事を思い出し、落ち着いてその問いに答えた。


「さあ?ハクに関してはわかるんだけど、他はどうだろう?」


 他の竜と話したことがないからわからない。


『ならばこれはわかるか? 「グルァア!」』

「蒼き竜」

『ほう、どうやら竜語がわかるようだな。気に入った。どれ、妾が竜の王の元まで連れて行ってやろう』

「え、いいの? 助かるよ。いちいち飛び越えるの面倒くさかったんだ」


 ラッキー。ハクもいい友達を持ったもんだ。


『妾の背中に乗るがよい』

「じゃあ、失礼して」


 俺はそう言ってから、氷竜の背中に飛び乗った。


『ほう、子にしてはやるではないか。てっきりよじ登るものかと思っていたぞ』

「まぁ、それなりに鍛えてるんで。ハク、おいで」

「ピィイ!」


 ハクを手招きすると、また小さくなって俺の肩に乗った。


『ほう、ハクの坊やは面白い特性を持ってるようだな』

「特性?」


 スキルじゃないのか? 属性の事かな?


『なんじゃ知らないのか? 其方も妾達が持つのは属性だと思っている口かのう? 人間は竜の属性について勘違いしておる。確かに妾達は火や氷といった属性を持つことが多い。しかし、それは間違いじゃ。妾達は特性と呼んでおる。それはハクの坊やみたいな属性では説明のできない力を持つ竜がおるからじゃ』

「ってことはハクは火や氷を纏う竜にはならないってこと?」


 何てことだ……ハクがどんな属性持つのか密かに楽しみにしてたのに……

 それがただ俺の肩に乗るためだけに使われていたとは……このアホめ。もっとカッコイイ特性を持ってくれよ。親としてこれでいいのか不安になるわ。


『それはまだ分からぬ。特性は何も一つではないのじゃ。妾も2つ持っておるしの』


 やったぞ。まだ希望はある! よし、全属性コンプを目指そう。明日からは属性を得る為にひたすら練習だ。


「ハク、全属性の特性コンプ目指そうぜ」

「ピィイ!」(全属性!)

『属性は一つしか持てん。残念じゃがのう』

「なにぃぃ⁉︎ そんな…俺たちの夢が…」

「ピィ…」(夢が…)

『短い夢じゃったの』


 始まって1分も経たずに夢破れる。


『そろそろ行こうかのう。落ちぬよう掴まっておれよ』

「…了解」

「ピィ」


 気持ちを切り替えよう。せっかく竜の背中に乗って飛べるのだ。楽しまなきゃ損だ。


「うぉぉぉ! すげー、飛んでるぞ! そして、速い!」

「ピィイ!」


 飛び上がったと思った次の瞬間にはもう、人がゴミのようだ状態になっていた。


『どれ、客人に少しサービスでもしようかの。しばし空中散歩でもしてみるかの?』

「お願いします!」

「ピィイ!」


 サービスで空を飛んでくれるとは、なんていい竜なんだ。


「うわぁ!めっちゃ綺麗だ」


 空から眺める竜の谷はとても綺麗だった。太陽の光が眠る竜の鱗に反射し、谷毎に違った輝きが見て取れる。まるで色とりどりの飴ちゃんが、谷の中に散りばめられたかのように光り、宝石の如き輝きを放っている。


『そうじゃろ。これが竜にしか見れぬ景色じゃ』


 竜にしか見れぬ景色。なんていいものを見せてくれたんだ。この光景は忘れらないな。いつかまた見てみたい。


「いいなぁ。ハク、早く大きくなってくれよ。そして、俺に竜の景色を見せてくれ」

「ピィィイ!」(任して!)


 ハクが大きくなるのが待ち遠しい。

 俺の見てきた景色は、竜から見たらどんな景色なんだろう。考えるだけでもワクワクしてくる。


『仲が良いのう。さて、そろそろ竜の王の元に行こうかの』

「お願い!」

「ピィイ!」


 空中散歩を終えて、竜の神のところへと俺たちは連れて行ってもらう。

 背中から下を見ていると、突如、谷が消えた。もう、谷とは呼べないであろう大きさと深さだ。50キロは幅がある。


「すごい広い谷だね」

『そうじゃの。人間にあれを超えるのは厳しいじゃろ』


 確かに。俺でもできるかどうか。


「あれは俺でも苦労しそうだなぁ」

『ほう? 其方はあれを越えられると?』

「たぶんね。俺は空を走れるから」

『空を走るとはまた異な事を』


 確かに飛ぶてもなく走るからな。よくよく考えればおかしなことだ。


「ただ、スキル乱発しなきゃならないから、魔力量次第かな」

『そうか……其方は資格があるのかもしれんな』

「資格? なんの?』

『さあの。其方のような者を昔よりそう呼ぶのだ。何の資格かは妾も知らぬ』

「ふ〜ん。資格か……」


 それは転生したことと関係あるのかな?

 転生する資格って意味だろうか?

 そうなるとディクも転生者?

 ……ないな。あいつは転生してないよ。ずっと子供だったし。懐かしい。お漏らししたのを隠したいと朝早く相談された事もあったな。


 懐かしい記憶を思い返していると、氷竜は高度を下げ始めた。どうやら着いたみたいだ。


「ありがとう。助かったよ」


 俺は背中から飛び降り、大きな体を見上げ改めてお礼を言った。


『なに、このくらい安いものだ。竜の王はその先にいる。会ってくるとよい。帰りはまた乗せてやろう』


 氷竜は大きな指で大きく開いた洞窟を指差した。


「ありがとう、助かるよ。じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 そう言い手を振りながら、俺は洞窟の入り口へと歩を進めた。


 そこは洞窟のような入り口だった。馬鹿みたいに大きい入り口だ。ここまで送ってくれた氷竜も楽々通れるぐらいのでかさだ。

 中は階段の様な急斜面が続き、このまま谷底までいってしまうのではと思うほど深かった。


 数分歩いてかなり深く潜ったなと考えた瞬間、突然光が目に入った。その光は次第に明るさを増し、暗かった洞窟が一気に明るくなった。


『よくきた人の子よ』


 洞窟の中央に佇む竜神から、力強くもどこか優しい声が聞こえてきた。そこには先程まで見ていた成竜など比較にならないほどの大きさの竜がいた。

 樹齢千年を越す木のように太い腕と足が、その巨体を震わすことなく支え、お尻から伸びた尻尾が半円を描くように地面に転がっている。


 山よりも大きいとはまさにこの事。竜神は文字通りそれぐらいの大きさがあった。キロ単位でデカイ。今の俺はアリンコも同然だろう。注意しなければ、気が付くことさえなく、潰されてしまいそうだ。


「あなたが竜の神?」

『いかにも。我が竜の王、ヴァルガリオンだ』

「ヴァルガリオンさん?」

『そうだ。人の子よ、よく試練を乗り越えた。創世神との盟約により、其方ら2人に我が加護を授けよう』

「試練? 盟約? 加護?」


 いきなり色々言われてもわからない。もうちょっとわかりやすく言ってくれないかな。


『試練とは竜の谷のことだ。盟約は創世神と我の取り決めた約束事。加護は知っておろう? 進化の儀にて其方は見たことがあるはずだ』


 俺の気持ちが伝わったのか、一つずつ説明してくれた。


「進化の時に必要な神の力ってやつですか?」

『その通りだ。今回は進化させることなく、加護を与えることになるが……』

「へぇ〜」


 進化せずに神の加護をもらえるのか。じゃあ、他の神様も試練てのをクリアしたらもらえるのか?

 それなら神様のいるところを回ってみるのもありかもしれない。


「ヴァルガリオンさん、加護を貰う前に聞きたいことがあるんですけど……」

『何を知りたい?』

「本にあなたが魔物から魔獣を作ったと書いてありました。これは本当ですか?」


 俺が珍しく敬語を使って質問した。

 神様に向けてタメ語で話すとかはさすがにと思ったのだ。怒らしたら怖いし。ブチッで終わる。


『真だ』

「じゃあ、魔獣と魔物は何が違うんですか? それとも同じなんですか?」


 俺はここに来た本題を竜神に尋ねた。竜神は俺の問いに真剣な声音でふむと相槌を挟んでから答えた。


『どちらかと言われれば、違う。ただ同じであるとも言える』

「それはどういうことでしょうか?」

『邪神のことを知っておるか?』

「名前だけなら……」


 あまり神については詳しくない。だから、邪神がなんなのかと問われてもわからない。


『そうか。では、そこから話すとしよう。かつて、我が神となるよりも遥か昔、この世界には4人の神がいた。今もいるがな。その頃、人は国を作り始めたばかりで、日々戦乱が絶えなかった。その戦乱の最中一人の神が生まれた。その神が邪神。邪神はこの世界を滅ぼそうとした。その時に生み出されたのが、魔物だ。魔物は邪神の加護を受けている。それも我々が与えるよりも遥かに多くの量を魔物へと与えた』

「ちょっと待ってください。加護に量があるんですか?」

『ある。……加護を与え過ぎると、どうなると思う?』

「……魔物になる?」


 邪神の加護を受け過ぎたのが魔物ならば、そういうことになるんじゃないか?


『否。加護を与えた神の意志に逆らえなくなるのだ。魔物が人を襲うのは、その意志が働いているからだ』

「じゃあもし、あなたが俺に加護を与え過ぎれば……俺はあなたの奴隷になると?」


 神の奴隷か。嫌だなそれは。神父さんとかぐらいじゃないか? なりたいの。


『そうだ。だが、その心配はない。一度に与える量は盟約に定められている。それに、いつまでも逆らえなくなるわけではない。我はかつて邪神の命に逆らえなかったが、神に至り、逆らうことが可能になった』

「神に至ったらなぜ、逆らえるようになるんですか?」

『別に神に至らなくてもよいのだ。邪神の加護を上回る器となればな』


 器……進化して肉体を成長させることだろうか? 確か前に教会で、司祭がそんなことを言っていたはず……


「なるほど。じゃあ、魔獣は邪神の加護を上回る器を持つ魔物ということですか?」

『残念ながら、それは違う。我が特定の魔物から邪神の加護を取り除いてるのだ。そして器が成長する度に、取り除いた加護を戻している。しかし、我にも限界がある。すべての魔物から加護を取り除くことはできない。我の器が邪神の加護に負けてしまうからな』


 俺は竜神の話を食い入るように聞いていた。

 実は加護が使い方を間違えれば恐ろしいものとなるというのは衝撃的だった、恐らくこの世界に生きる人々はそんな事知らずに生きている。

 ある意味それがもっとも恐ろしいと感じた。


「じゃあ、魔獣と魔物の違いは邪神の加護を取り除いたか、そのままかということですか?」

『いかにも。其方は子供の割に賢いようだ。もう他に聞くことはないか?』

「あと一つ聞きたいことがあります。魔物が活性化する原因について何か知りませんか?」


 せっかくだ。聞いておこう。何か知ってるかもしれない。


『一つ心あたりがある。魔物は生まれた時からすでに他の生物に比べ強い。それは邪神の加護が他の生物に与えられる加護よりも強いからだ。つまり、邪神の与える加護が強いほど、魔物は活性化しより凶暴性を増す』


 この人はなんでも知ってるな。さすがは神ってわけか。


「つまり、邪神の加護が強くなっているせいだと?」

『そうだ。だが、それはあり得ない。何故なら、邪神の力は強くなってなどいないからだ。邪神自身の力が大きく増さぬ限り、魔物が活性化するなどあり得ない』

「けど、特定の場所にいる魔物にだけ与える加護を増やすことは可能ではないのですか?」


 全ての魔物に与えるのは無理でも数十体に与えることなら可能なのではないか?

 例えば、邪神が断崖山の魔物だけに与える加護を増やし、王都を滅ぼそうとしている何て事も考えられるのではないか?


『不可能だ。多くの者に加護を与えるには、創世神の作ったシステムに組み込まなければならない。そのシステムは加護を平等に分配される仕組みとなっている。かつて邪神はそのシステムに介入し魔物を生み出したが、与える量以外は他の神と同じだ。それに今の邪神はそのシステムに介入することが、できない状態下にある」


 よくわからなかったが、つまりは邪神は何もしていないということか?

 なら一体誰が?


「ということは、魔物の活性化は邪神のせいじゃない?」

『そういうことになる。すまないが、我が知っているのはこれだけだ』

「いえ、ありがとうございました。一人で色々調べるよる遥かに分かりやすかったです」


 これで何ヶ月も必要だった調査をしなくて済む。大助かりだ。


『そうか。ならいい。ところで、我も其方に聞きたいがある。いいだろうか?』

「あ、はい」


 神様が俺に聞きたいことってなんだろ?俺はそんな大層な人物じゃないんだが……


『まず一つ目だが、其方は何を調べておる? 魔物の活性化など、子供が触れるものではない』

「えっと、学校の近くにある山の魔物が何かおかしい気がして調べてるんです」


 なるほどな。確かにおかしいよな。見た目子供の俺がこんな話聞きに来るなんて。


『おかしいとは?』

「どんどん魔物の数が増えて、強くなってるんです」

『ふむ。それはその山だけか?』

「はい。他は変わりませんでした』

『そうか。……先程、我は魔物の活性化について、他は知らないと言ったが、訂正させてもらおう。一つだけ可能性がある』

「可能性?」


 まだ何か知っているのだろうか?本当に物知りな竜だな。


『そう、可能性だ。それが可能なのかは我にもわからぬが、聞くか?』

「もちろん聞きます」

『邪神が魔物を生み出した際、もう一つ生み出したものがある。それは、魔人だ。人に加護を与え、己の眷属としたのだ。数は当時より少なかったようだが、その強さは、普通の魔物よりも遥かに上だ。その魔人だが、今も少ないが存在する。そして、魔人の中には己の力を加護として与えることができるものがいるかもしれん。もし、そういった存在がいるのならば、特定の場所の魔物を活性化することができるはずだ』

「魔人……」


 初めて聞く単語だが、なんとなくわかる。敵だ。


『調べるのならば、気を付けよ。魔人は元人間だ。街に紛れていても、わからぬ』

「……はい、十分気を付けます」


 街に魔人がいるかもしれないか……やはり情報公開しなくて正解だった。魔人がどれ程のものかは知らないが、並ではないだろう。出来れば魔人に気が付かれる事なく、事を運びたいものだ。

 だが、魔人が加護を与え続けているのなら、魔人を倒さない事には解決しないのか?


 そうなってくると、今の俺では厳しいな。やはり親父に頼むべきか。俺が知る中ではあの人がきっと最強だ。親父なら魔人と戦っても勝てるかもしれない。

 しかし、相手の力量がわからないと何とも言えないな。場合によっては何か手を打つ事も考えなくては……


『ふむ。では、二つ目だが、其方、女神について何か知らぬか?』

「女神ですか? いや特に何も……」

『そうか……すまぬな、我の勘違いだったようだ。忘れてくれ』

「あ、はい」


 なんだったんだろ? 女神って確か司祭が言ってた神の一人だよな?

 けど、加護はくれない神様なんだろ?

 そんな神様のこと俺が知ってるわけないよ。


『これで我の聞きたいことはなくなった。そろそろ、加護を与えるとしよう』

「お願いします」

『ふむ。では…』


 竜神が目を瞑ると大きな体が輝いた。そして、その輝きは小さな玉となり俺とハクの体にそれぞれ入っていく。


『これで加護は与えられた。我の加護は耐久性を引き上げる効果がある。これで少しは攻撃に耐えることができるようになるだろう』

「えぇぇ⁉︎ 魔獣と仲良くなる効果じゃないんですか?」


 司祭がそう言ってたんだけど?だから、あの時候補から外したのに……


『そのような魂を変質させる加護は与えない』

「魂の変質?」

『そうだ。仲良くなるということは魔獣の魂を変質させなければ不可能だ。魔獣と人が打ち解けるのには、人と同じで、語り合い、共に過ごさなければならない』

「た、確かに……それじゃあ、邪神と変わらないですもんね」

『納得したようだな。では、そろそろ帰るといい。外で待っている者がおるだろ?』

「は、はい。あの、ありがとうございました」

『ふむ』


 俺とハクは頭を下げて、お礼を言ってから洞窟を後にした。

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