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22.限界

 およそ2ヶ月が過ぎ、6月も終わりに近づいてきた。

 俺はこの2ヶ月間、休日はギルドに入り浸り沢山の冒険者に話を聞いた。そうして、シャルステナとの約束を毎週すっぽかし、その度に土下座するのが毎週月曜の恒例行事と化していた。


 様々な冒険譚を聞く事は出来たが、残念ながら肝心の断崖山の奥についてはわからなかった。

 しかし、一つわかった事がある。例の火竜が初めて確認されたのが断崖山だったという事だ。

 それ以外は特に何もわからなかった。


 何故それだけしかわからなかったかと言うと、単純に断崖山の奥に行くことがないからだ。あの山は縦と横に広いため、クエストは奥まで行かなくても達成可能なのだ。


 また、山の奥にはS級などが巣食っている可能性もあるため、ほとんどの冒険者がどこの山でも、奥には足を踏み入れないのだ。実際、奥に踏み入った冒険者が火竜と遭遇し、街が危機に瀕した。あれから冒険者は断崖山の奥には入らないように気をつけているのだとか。


 こういった理由で、断崖山には行ったことがある者は沢山見つかったが、奥まで行った冒険者は見つからなかった。


 結局わかったのは、異常でもなんでもない入り口付近のことだけだ。これに関しては、俺が実際に行った時のものと変わらない情報が手に入った。

 こうなると、奥が異常かは自分で確かめて行くしかない。

 この近辺の山を回ってみるとするか。


 王都は山に囲まれた平地の中にある。北と東は断崖山、西と南は特に特筆する事がない大きさの山々が立ち並び、その山の間を通るように道がある。

 ある意味天然の要塞のようだ。王都に攻め入るには魔物がたむろする山を通るか、狭い道を潜り抜けるしかない。もしかしたら、こういう地形を活かして王都を作ったのかもしれないな。


 だが、行き交う人にとっては不便な地形だ。何故なら、山を越えるか越えないかで要する時間が大きく違うからだ。

 例えば、シエラ村に向かうには断崖山と西の山の間を通る道を通らなくてはならないが、シエラ村は王都の北東にある。直線距離では大した距離はないが、かなり遠回りしなくてはならないため、2週間もかかってしまうのだ。


 だから、断崖山以外の山を越えてくる者はかなりの数がいる。だが、断崖山は頂上が切り立ち過ぎて通れないと思われているらしく、人が通る事はない。これも奥の情報が少ない理由かもしれない。


 俺は今、断崖山ではない山の中にいた。王都の西側に位置する山だ。特にこれといった特徴はない、普通の三角形の山だ。


 山中を物色しながら空間探索で魔物の数を調べていく。其れ程キツくはない斜面を登り、草葉を避けながら進んでいくと、漸くお目当ての反応を捉えた。


「いた」


 おそらくA級。形から推測するに、バジルの話に出てきたオーガだろう。


「いるにはいるのか。問題は数だけど……」


 俺はオーガを避けて、さらに奥へと足を踏み入れた。


 それから数時間後、俺は頂上まで登り切り調査を終えていた。


「A級以上6体、コボルトロード0……さて、どうするか」


 これが少ないのか、普通なのか……

 圧倒的に経験が少ない俺にはこれが多い事なのかわからない。冒険者に意見を聞いてみようか?


 彼らならこれが普通なのかわかるだろうと、俺は山を下り王都に戻った。王都に着くとすぐにギルドへと向かい、知り合いに聞いてみた。知り合いとはバジルの事ではない。もっと信用に足る人物に聞いた。


 その結果わかったのは、山の中の魔物の数を調べてる奴はいないという事。よくよく考えてみれば当たり前の事だ。

 わざわざそんな事をする奴が冒険者であるはずがなかった。知っているとすれば、どこかの魔物学者とかだろう。


 俺は調査の結果をそのまま寮に持ち帰った。

 部屋にはハクはいなかった。最近、忙しくする俺に構って貰えないからと、よくシャルステナ達のところに出掛けているらしい。


 俺は机に腰掛け情報を整理した。俺以外誰もいない部屋でボソボソと言葉を呟きながら、色々と考えた。

 ハクがいないためか物静かな部屋で、俺は思考を巡らせた。


 ……わからない。

 今日調べた山だけで判断してもいいのだろうか? 西の山と断崖山では明らかに大きさが違う。周囲の全ての山をくっつけても断崖山の方が、より広大であるような気がする。

 それなのに一つの山を調査したからと結論を出していいのだろうか?


 いい訳ないな。調査方法が良くない。新たに違うアプローチの仕方を模索しよう。


 だが、そうは言っても、近くに断崖山級の山はない。だから、今ある山でどうにかするしかないわけだ。

 そうだな……こんなのはどうだ?

 各山々の頂上から一定の範囲だけを調べて比べてみると言うのは。

 これらを平均してみたら、かなり正確な生息数が求まるんじゃないか?


 よしこれでいこう。しばらくは各山々を回ってデータをとっていこう。

 忘れないように、紙にでも書いておくか。



 〜〜〜〜〜〜


 8月の半ば過ぎた頃、漸く俺は断崖山以外の近隣の山の調査を終えた。

 あれからいろいろと考え、断崖山は奥地でランダムに数回調査をすることにした。その方がより正確かと考えたからだ。


 学校の方はもう昨日でテストも終わり、もう夏休みに入っている。帰ろうと思えば、シエラ村に帰れるが、今回はいいだろう。

 せっかくだし、断崖山の方の調査を進めるとしよう。


 やはり土日だけでは効率が良くないのだ。1日に一山調査するのが限界だった。

 それに鍛錬もしなくてはならない。もしもこれが異常事態であるのなら、今の俺では対処できないからだ。


 調査をし始めてわかったことが一つある。

 今の俺ではA級を相手取るには力不足であるという事だ。


 山の調査をしていた際に、相手の強さが知りたいと空間探索に魔力感知を組み込む方法を編み出した。それにより出会った事のない魔物でもおおよその強さがわかるようになった。これは非常に便利で、人もまたおおよその魔力量を知る事が出来る。


 この方法を用いて魔力量を調べた所、最低でも今の俺と同等。殆ど全ての未知の魔物がそれ以上となった。

 更に、A級冒険者の魔力量も測ってみた。すると、およそ俺の二倍以上の魔力量を有していた。


 つまりだ。今の俺ではA級には勝てない。A級冒険者を基準に考えると正直今の倍は欲しいところではある。

 何故なら、気合いで一度勝てればいい訳ではないからだ。それではその内死んでしまう。


 魔力量だけで全てが決まるわけではない。だが、魔法を始めスキルも魔力を消費する。無視できる量のものも多いが、大概はある程度の量を必要とする。

 魔力とはエネルギーなのだ。何をするにも必要となる。


 だから、単純にエネルギーである魔力が多いほど強い。何より継続して戦える。一度戦ってへばるようではダメだ。

 今必要なのは継続してA級を狩り続けられる魔力量とA級を難なく狩れる強さ。


 備えるというのなら、万全を期すべきだろう。だから、鍛錬を削る訳にはいかないのだ。


 別に俺が対処する必要はないのかもしれない。冒険者や大人に頼ればいい。


 だが、何故異変が起こったのかを考えた時、それは決していい方法とは言えない。

 この異変が自然発生ならば知らせるべきだ。だが、意図的なものだとしたら?


 俺が大々的に大人達に頼れば、それは瞬く間に広がる。それはつまり、これを意図した相手に計画が公になったと伝える事に他ならない。

 そうなった時、何が起きるか予想できない。だから、頼るなら自分の周り(・・・・・)だけに留めたい。


 だがまだその判断を下す以前の問題だ。先に異変が起きているのか、勘違いなのか確かめなければならない。

 あと少しで結論も出ようものだが、未だ決定的とは言えない。


 断崖山の調査だが、今は平均を見積ったりはしていない。それはすでに終わっている。結果は断崖山の方がA級は少し多く、コボルトロードに関しては他の山では見つからなかった。

 つまり、他の山より魔物が多く、貴重な種が大量発生しているという事だ。

 正直これだけだと証拠としてはまだ弱い。放っておいたせいだとも思える。やはり何が原因かわからないと確実な事は言えないな。


 次はその原因を調べよう。

 正直、可能性は幾らでも考えられる。単に間引かれずに残っているだけだとか、魔物の好む何かがあったりだとか。

 結局それを突き止めなければ、確かな事はわからない。


 それに今後、世界を回るなら知っておいた方がいい。もしも魔物が強化される土地があるのなら、今調べている事が今後役立つかもしれない。

 経験は無駄にならないという。これもそう考えて一つずつ確実に調べていこう。


 〜〜〜〜〜〜


「ピィイ!」

「な、なんだよ」


 朝、調査に向かおうと部屋を出ようとしたら、珍しく早起きしていたハクに噛みつかれ止められた。どうやら待って欲しいと伝えたいようだが、軽く刺さってるから、言葉で言って欲しかった。


「ピィイ!」(今日はダメ!)

「なんでだよ?」

「ピィ」(川)

「川? ああ、川か。川に行きたいのか?」

「ピィイ!」(みんな行く)

「みんなってシャルステナとかか?そりゃあもちろん誘うけど…今日は無理だろ。まだ掃除してないし」


 どうやらハクは川に行きたかったらしい。だが、前に川に行けたのはしっかりと掃除をしたからだ。もしまた行くのなら大掃除しなければならない。だから、今すぐにという訳にはいかない。


「ピィイ!」(今日約束!)

「えっ? お前まさか勝手に今日行くって言ったのか? ていうか、あいつらと俺なしに会話できんのかよ」


 俺は若干の驚きとともにハクに問い返した。

 いつも俺が通訳して初めて会話できてたじゃないか。ちゃんと伝わってるのか?


「ピィイ」(シャルだけ)

「なんで俺より親しげなんだよ」


 俺もまだシャルステナとしか呼んだことないのによ。

 ていうか、知らない間に会話できるほど仲良くなったのかよ。

 すげーな、シャルステナ。まだ、母さんも親父も完璧には会話できないのに……計算できない癖にな。


「まぁ、それは今はいいや。とにかく、今日掃除してくるから、みんなにまた明日って謝っとけよ。それと、今度からは俺に聞いてから、約束するように。いきなり約束してきましたって言われても、無理なことだってあるんだからな?」

「ピィイ!」


 せっかくの夏休みなんだ。今日、明日ぐらい調査を止めてみんなと遊ぶのも悪くない。調査はまた今度やればいいさ。


 〜〜


「バジル確保と」

「おい、この手はなんだ?」


 ギルドに行くとすぐバジルが目に付いたので、一先ず逃げられないように捕獲した。このおっさんはいつもここにいるな。住んでんのか?


「あれれ? シャラ姐まだかな?」


 バジルをしっかりと捕まえながら、白々しくシャラ姐の姿を探したが、ギルド内には見当たらない。

 今日はいない日なのかもしれない。バジルと違ってしっかりと働いているシャラ姐はほとんど王都にはいないのだ。一度シャラ姐の爪の垢を煎じてこのダメ男に飲ませやりたい。多少マシになるはずだ。


「シャラの奴なら昨日から遠出してるぜ」

「えー、てことはバジルだけか」

「おい、俺はまだ何も言ってねぇぞ」

「まあまあ、去年と一緒さ。川のお掃除」


 もう毎年恒例にしよう。


「嫌だね。あんな面倒なこと、何で俺様がしなきゃならねぇ。酒を奢られても御免だな」


 酒を奢っても嫌だとは我儘な奴だ。


「じゃあさ、去年言ってた魔法教えるから手伝ってよ」


 去年教えて欲しがってたしな。実はすでにあれは改良して新しい魔法になったため、もう用済みなのだ。こんな風に安売りしても痛くも痒くも無い。


「なにぃ? ……よし、いいだろ。手伝ってやる」

「その代わり、来年からもよろしくね」


 毎年渋られのも面倒なので、そこは釘を刺しておいた。このおっさんの事だから、何も対策を講じなければ毎年ああだとこうだと文句を垂れるに違いないのだ。


「なんだと?」

「まぁ、ちゃんと今年も含めて飲み代は奢るからさ」


 飲み代を奢るのは別にいつでも構わない。金が余ってるんだ。もうすぐ1千万に届く。魔物を狩りすぎた。こうやって浪費しないとなくならないのだ。


「チッ、いいだろう。仕方ねぇ。面倒だが、とっととやっちまおう」

「バジルありがと。助かるよ」

「へっ、いいってことよ」


 上手くバジルを丸め込む事に成功し、俺たちは掃除に向かった。今回は2人なので上流と下流に別れ、順次潰していった。

 数時間でバジルと合流を果たし、今年も大量の魔石と素材をギルドに持ち帰った。


 去年は重複魔法で殲滅したが、今年は炎風剣でオーバーキルしてやった。いちいち魔法を発動させるのが面倒だったのだ。非常に効率の悪い魔法だが、殲滅には向いている。剣を振るうだけで楽々掃除が出来た。


 そんな風に楽々お掃除する俺を見て、またバジルが魔法を教えろと言ってきたが、これは絶対教えないと言い張った。

 何せ俺の切り札だからな。

 そう言うとバジルは大人しく引き下がった。切り札ならしゃあねぇらしい。今度から安売り出来ないものは全部切り札にしてやろう。


 〜〜


「ピィイ!」

「今日はなんだ?」


 昨日に引き続き、俺が朝早く部屋を出ようとするとまたハクに止められた。今日は咄嗟に避けたからハクの歯はガチッと音を鳴らして空振りした。手加減てものを知らない奴だからな。


「ピィイ!」(今日川!)

「知ってるよ。ちょっと鍛錬に行くだけだ」

「ピィイ?」(そうなの?)


 ハクはまた俺が勝手にいなくなると思ったようで、引き止めたらしい。

 毎週シャルステナとの約束忘れてたし、ハクが信用してくれないのも当たり前か。途中からわざと忘れてたと言ったらどうなるんだろうか?

 そう、ふと怒り狂うシャルステナを思い浮かべた。あんまり怖くはなさそうだ。


「ああ。いつもみたいにどっかに行ったりはしないさ。演習場にいるから時間になったら呼びに来てくれ」

「ピィイ!」(任せて!)


 これで時間になるまで鍛錬に打ち込める。魔力二倍に向けてコツコツ頑張ろうか。

 あー、進化してーな。もうレベル99だから上がり幅小さいんだよな。

 どうやったら進化できんだろ?教会に行けばいいかな?それともまた歳が関係あるのかな?


 そんな疑問を抱えながら演習場に行き、スキル中心の鍛錬を行った。

 山で戦闘は毎日のように重ねているので、その時に使うことのないスキルのレベルを上げておきたいのだ。いい加減育てるものを絞るべきかもしれないが、如何せんどれが強力なスキルになるかわからない。まだ10歳にもなってないのだ。見切りをつけるには早過ぎる。

 後最低でも数年はこんな調査でスキルを育てていこう。


 ちなみに現在はこんな感じである。



 名前:レイ

 種族:人間(少年)

 年齢:8歳

 レベル:99

 生命力:2056

 筋力:1112+100

 体力:1360+100

 敏捷:1210+170

 耐久:887

 器用:1536+400

 知力:1182+50

 魔力:2750+240

 通常スキル

「観察」レベル9:対象の状態を認識し易くなる

「遠見」レベル9:視力上昇

「百里眼」レベル9:視力が大きく上昇

「見切り」レベル9:動体視力上昇

「真眼」レベル9:動体視力大きく上昇

「夜眼」レベル9:暗い場所でも目が少し見える

「暗視」レベル9:暗い場所でも目が見える。

「魔力操作」レベル9:自身の魔力を操作できる

「魔力感知」レベル9:周囲にある魔力を感知できる

「気配感知」レベル9:周囲の気配を察知しやすくなる

「危機感知」レベル2:危険が身に迫った時、それを感じる

「身体制御」レベル9:バランスを崩しにくくなる

「身体強化」レベル9:一時的に肉体を強化する

「空中制御」レベル9:空中での体のバランスを保ちやすくなる

「計算」レベル9:知力上昇(中)

「忍び足」レベル9:足音を立てない

「気配遮断」レベル7:気配を隠す。探知されれば無意味

「俊足」レベル9:敏捷上昇(小)

「敏速」レベル9:敏捷上昇(中)

「高跳」レベル9:ジャンプ力が上がる

「跳躍」レベル5:ジャンプ力が大幅に上がる

「空間」レベル9:自身を中心とした空間内の動きを把握できる


 希少スキル

「空間探索」レベル9:スキル「空間」で知覚可能な生物の動きと空間内に存在するものの形を知ることができる

「固定空間」レベル9:数秒間、一定の大きさの空間を固定する

「反転空間」レベル9:数秒間、一定の大きさの空間に触れたもののベクトルを反転させる

「反発空間」レベル5:数秒間、一定の大きさの空間に触れたものを弾く

「立体軌道」レベル7:自由自在、縦横無尽な動きができる。無理な体制からでも可能。筋力、体力、敏捷が上昇(大)

「魔力充填」レベル9:物質(生物を除く)に魔力を蓄積させることができる

「魔力重複」レベル9:魔力の重ね掛けができる

「魔素変換」レベル3:魔力を魔素に、魔素を魔力に変換できる

「芸術家」レベル4:器用が上昇(絶大)。人の心を動かす作品を作れる

「複数思考」レベル8:思考速度大幅上昇。同時に三つのことを考えることができる

「俳優」レベル5:演技力が大幅に上昇

「肉体強化」レベル9:身体能力を一時的に大きく上昇させる

「五感強化」レベル3:五感を一時的に強化する

「透視」レベル5:物を透視できる


 魔法スキル

「火魔法Ⅳ」レベル5:魔力上昇(大)。火魔法の操作性と威力が上昇

「水魔法Ⅳ」レベル4:魔力上昇(大)。水魔法の操作性と威力が上昇

「風魔法Ⅳ」レベル5:魔力上昇(大)。風魔法の操作性と威力が上昇

「土魔法Ⅳ」レベル3:魔力上昇(大)。土魔法の操作性と威力が上昇

「空間魔法Ⅲ」レベル3:魔力上昇(中)空間魔法の操作性が上昇

「治癒魔法」レベル6:魔力上昇(極小)。治癒魔法の効果上昇

「光魔法Ⅱ」レベル4:魔力上昇(小)。光魔法の操作性が上昇


 武器スキル

「剣術」:自己流剣術[火剣<灼熱魔翔斬>、炎風剣<炎風斬>]


 固有スキル

「経験蓄積」レベル7:過剰な経験を蓄積する。蓄積量が大きく増加。自動で発動。蓄積量678526


 ○¥°%#

 称号:「@&☆$」「シエラ村のライバル」「怒れる魔女の忠犬」「ボッチ」「創世神の加護」「怠け者」「登山家」



 この通り、あまり強くなっていない。壁にぶつかっているといった感じだ。

 能力値はレベルが上がった時に結構上がったが、カンストしてからは殆ど上がっていない。スキルもまたあまり成長していない。ちょっとこのままではまずいかもしれないな。


 そろそろ新しい系列のスキルを増やすべきかなと考えてみたが、候補がない。何をすればスキルが手にはいるのかわからないのだ。

 このままスキルが進化して行けば、そのうち強くはなるかもしれないが、そろそろもう一段階上に上がりたいところだ。


 一度このまま進化せずに、固有スキルをカンストしてみるのもいいかもしれない。固有スキルが進化するかのかはわからないが、それにかけてみるのもいいかもしれないな。


 なんたって俺だけのスキルなんだ。

 今はまだ使い道がないが、進化すれば強力なものに変わるかもしれない。

 例えば、相手の経験を奪ってレベルを下げるとか…………強くね? チート過ぎる気もするが、そんなスキルがあるなら是非欲しい。それにどんな進化をするかわからない。やる価値は十二分にある。


「ピィイ!」

「お、時間か」


 約束の時間になり、ハクが呼びにきた。俺は鍛錬をやめ、ハクとともにシャルステナ達と合流する。


「おはようレイ」

「ああ、おはようシャルステナ」

「ピィイ」

「ふふ、ハクもおはよう」

「本当に会話できるんだな」

「うん、この頃ずっとハクといたからね」


 そう言って、シャルステナは俺を半目で見てきた。俺が遊んでくれないからだとその眼は語っていた。俺は不恰好な笑顔を作り、誤魔化すように言った。


「ははは……まぁ会話できるようになってよかったじゃないか」

「それはそうだけど……ねぇハク?」

「ピィ!」


 二人は俺に文句があるようだ。それは仕方ないのかもしれない。

 けど、まだ俺はこの生活をやめるつもりはない。

 もう少しの間我慢してもらおう。断崖山の魔物が増えている原因を突き止めるまでは……


 〜〜


「さぁ、やってきました川!」


 海じゃないのが残念だ。川も遊ぶには楽しいのだが、四方八方を海に囲まれた日本で暮らしていた為か、物足りなさを感じてしまう。

 しかし、地球でも大陸の内部に住む人は一生海を見る事なく死ぬという。今の俺達を囲む環境はそれに似たものなのかもしれない。


「今年もシャルステナがポロるぞ!」

「絶対ポロらない!」


 即座に顔を少し赤らめて否定するシャルステナ。

 しかし、去年はそんなこと言いながらポロってらっしゃったじゃないですか。

 その調子で大人になってもポロって欲しい。今はあんまり嬉しくない。見ておいてなんだが、とても悲しい気持ちになる。


「ピィイ(ポッ)」(恥ずかしい)

「今更何言ってんだ」


 何が恥ずかしいだ。ずっと裸じゃねぇか。今更すぎる。逆にいつもと何が違うのかを聞きたい。


「去年はシャルステナがポロったのか……残念だ」

「な、何言ってるの!」


 欲望に忠実なギルク。大丈夫、今年もやってくれるさ。


「お兄ちゃんポロってくれないかな……」

「普通に見れば?」

「そうか!」


 そうかじゃねぇよ、ブラコン犯罪者。確かにゴルドの言った通り普通に見るのは、兄妹なら当たり前の事だが、ブラコン女の場合は話が違うだろ。また何かおかしな事に巻き込まれる予感がプンプンする。


「さてと……泳ぐか!」


 せっかく来たんだ。泳がないとな。俺は去年と同じく川にダイブした。

 無駄にスキルを使って高い所からいった。


 バッシャーン!


 水の柱が立ち、シャルステナ達の頭の上からバシャッと降りかかる。


「きゃ」


 シャルステナが短い悲鳴を出して、顔を水しぶきから守っていた。


「もう、お返し」


 若干顔をフグのように膨らませたシャルステナはウォーターウェーブを繰り出してきた。


「え、ちょ、やり、うわぁぁ……ッ!」


 俺は水の波に巻き込まれた。そして、下流に流される。


「あっはははは! あたしもいつものお返しよ!」

「僕もやった方がいいかな?」

「俺もやっとこうか」

「ピィイ」


 そしてシャルステナに続いて、アンナ、ゴルド、ギリク、そしてハクまでもウォーターウェーブを繰り出してきた。


 し、死ぬ……息が……

 俺は次々にウォーターウェーブに巻き込まれ、あっちへこっちへと流された。


 バシャ


 そんな音を立て川岸から幽鬼のようにフラつきながら、俺は這い出た。そして、顔に青筋を浮かべて笑う。


「よくもやってくれたな」


 俺は仕返しに魔法を唱えた。使う魔法は俺のオリジナル魔法。

 とうとう完成したそれを、お前らで試してやろう。


「水竜!」


 グオォォオ!


「「「「「えっ(ピッ)……」」」」」


 川の穏やかなせせらぎの中に生まれた激流の渦。それは次第に形を司り、竜となる。

 突然の巨大生物の出現に唖然とし固まる4人と一匹。


「さぁ、この水竜でたっぷり遊んでやるよ」


 しかし、俺はニッコリと笑顔を浮かべて水竜を動かすと、慌てた様子で命乞いを始める。


「ちょ、ちょっと待って! 何その魔法!」

「オリジナルだよ。お前らに仕返しするための」


 慌てるシャルステナに仕返しを強調して言い返した。


「タイム! あたしはシャルに乗っただけで、やりたくなかったの!」

「えぇっ⁉︎」


 躊躇なく友を売るアンナに、売られたシャルステナが大きく動揺した。しかし、安心して欲しい。俺はシャルステナだけに責任を押し付けるつもりはない。


「嬉々としてやってたじゃないか。有罪」

「あのさ、僕は本当に…」

「有罪」

「ぴ、ピィ」

「有罪だ」

「俺…「有罪」」

「な、何も言ってないぞ! 言わせてくれ!」

「黙れ、全員こいつに食われろ」


 俺は水竜に命令を下す。


「お前ら全員有罪だ!」


 水竜は俺の命令と共に水面から離れ飛び上がる。まるで自身の翼で飛行しているかのように、魔力操作で移動させた水竜を逃げ惑う咎人に急接近させた。


「いやぁ! なんで飛んで『パクっ』」

「いゃあ! やめて! 来ないで! 謝っ『パクっ』」

「うわぁぁぁあ‼︎ 食べら『パクっ』」

「ピピピピピイ! ピ『パクっ』」

「う『パクっ』」


 1人を除いて皆仲良く悲鳴をあげながら食べられた。ギルクだけはそんな暇を与えずパクリと食べさせた。


 水竜の体はとても速い流れができている。彼らはその流れに翻弄されて、抵抗もできない。

 例え抵抗しても、水竜に打撃はきかない。魔法もある程度妨害できるような作りになっている。というか、あの激流の中で魔法が使えるとは思えない。


 つまり、奴らを出すか出さないかは俺の意思次第だ。

 しばらくは水竜を眺めて過ごそうか。

 俺は渦巻く激流に晒されるシャルステナ達を尻目に一人水切りをして遊んでいた。偶に間違って水竜のいる方向に投げたりして楽しく遊んだ。


 偶にギルク目掛けて石を投げならおよそ五分程遊んでから、魔法を解いた。水竜から解放された彼女たちはグロッキーだった。

 目が回り、息もできない状況は堪えたようだ。


「うぅぅ、気持ち悪いよ……」

「なんで、あたしまで……」

「のるんじゃなかった……」

「ピィィ……」

「俺の扱い……」


 ギルクが自分の扱いに悩んでいるようだが、知ったことじゃない。

 自分から一緒でいいって言ったんだから。


 まぁみんな反省できたようだな、アンナ以外。アンナは反省してないようだ。もう一発やってやろうか?


「もう魔法はなしな。次は水蛇だから」

「もうしないわよ……二度と」

「右に同じ」

「僕も」

「ピィ」

「もちろ『じゃあ、遊ぼうぜ!』ちょっと待て! 俺の扱いひどくないか? 何も言わせてもらえないんだが…」

「気のせいだ。被害妄想」

「……こんな扱い生まれて初めてだ」


 最近若干疑わしいが、一応王子だもんな。一応……


「よかったな。お前が望んでた扱いだぞ。みんなに平等」

「いや、俺だけおかしくないか……?」

「それは担当だから仕方ない」

「担当ってなんだ⁉︎ いつの間にそんなものが決まったんだっ! 」

「シャルステナエロ担当、アンナ変態担当、ゴルド天然担当、ハク竜担当、ギルク面白担当」


 わかりやすく担当を説明してやった。言っておくが俺が決めたんじゃないからな。君らが勝手に決めたんだ。


「えぇ⁉︎ 私エロ⁉︎」

「エロだろ。どう考えても」

「そんな、私別にエロくなんか…」


 嘘つけ。俺は覚えてるぞ。あの興味津々な目を……


「あたしも変態担当は納得できない。私のどこが変態なのよ」

「変態じゃないか。どこも」

「違うわよ。あたしはお兄ちゃんが好きなだけで変態じゃないから」


 アニキのパンツが欲しいって言ってもか?

 世間一般で言ったら、それは変態なんだよ。逆にどこが変態じゃないのか教えて頂きたい。


「僕の天然担当って何?」

「お前はなんか抜けてるんだよ」

「抜けてるかなぁ?」


 そういうところだよ。なんか抜けてる。


「ピィイ?」

「お前に関しては言うことはない」

「ピィイ!」(何か!)


 ハクは何か感想をとねだるが、竜担当は竜だから以外に何もない。


「おい、面白ってなんだ?」

「面白は面白さ。いやぁ、去年は担当いなかったからさぁ、強制就任? みたいな」

「嫌だぁ、そんな担当嫌だぁ!」


 王子よ、強く生きてくれ。


「レイは何担当?」

「俺? 俺は……なんだ?」

「いや、聞かれても……」


 自分ではわからなかったので、即座にシャルステナに聞き返した。しかし、聞き返されたシャルステナは困った様に顔を歪める。そんなシャルステナをフォローする様に口々に好き勝手言いはじめるアンナ達。


「鬼畜」

「あん?」


 誰が鬼畜だ。それはテメェだけだよ。他には優しい。


「先生」

「なった覚えはない」


 確かに色々教えたが、教師になった覚えはない。


「ピィ」(親)

「それは担当じゃない」


 親だけど違う。それに俺はお前の親じゃなくて相棒だ。


「振り兼ツッコミ」

「俺を巻き込むな」


 確かにやってるが、面白に巻き込むな。俺はそんな担当嫌だ。一人でやってくれ。


 結論、俺は無担当。そんな俺にシャルステナは拗ねたように口元をとんがらせ呟いた。



「一人だけずるい」


 〜〜


「はぁ、疲れたぁ」


 ひとしきり遊んだ俺は川辺で休憩していた。かけられた水をスキル全開で全回避なんかしたせいだ。あれで体力がもっていかれた。


「水飲む?」

「お、ありがと」


 俺が寝転んで休憩していると、シャルステナが買ってきた水をコップに入れて持ってきてくれた。さすがはシャルステナ、気がきく。将来はいいお嫁さんになるに違いない。


「よいしょと。珍しくお疲れだね」

「いっつも疲れてるさ」


 変態の相手とかでな。


「それはレイがこの頃何かしてるせい?」

「違うよ」


 変態のせいだよ。


「嘘よ。目を逸らした」

「……」


 そういやそんなこと前に言ってたな。俺は嘘を吐く時、目を逸らすって。


「レイが何してるか知らないけど、そんなに疲れることなら、せめて休んで……」

「休んでるさ。十分」

「ううん。休んでないよ。平日は学校、休日も休まず何かしてる。夏休みに入ってもずっと」

「……寝たら十分だよ」


 今までも寝たら訓練の疲れは取れていた。今もそれは変わらないはずだ。確かに多少の無理をしている自覚はあるが、ゆっくりするぐらいなら何かしていた方がいい。時間は有限なんだ。


「十分じゃないから、言ってるんだよ。気付いてないかもしれないけど、レイ顔変わったよ。ずっと難しい顔して何か考えてる」

「ちょいと将来について悩んでるだけさ」


 不安にさせるようなことは言いたくない。まだ、確定ではないが、それに近い。もし俺が誰が頼る事になってもただの子供であるシャルステナ達は巻き込みたくない。これは本心だ。

 巻き込むなら親父達を巻き込む。


「誤魔化さないで。私はレイのそんな顔見たくない。何が不安なの? 何でそれを教えてくれないの?」

「……不安なことなんてないよ」


 そうだ。俺がなんとかする。絶対に。原因を見つけて対処する。増え過ぎたせいなら俺が数を減らす。だから、今不安を覚えさせる必要などない。


「さっきから言ってること無茶苦茶だよ。悩んでるって言ったり、不安なんてないって言ったり。レイ頭が疲れてるんだよ。ずっと何か考えてるから他に頭が回ってないんだよ」

「……」


 何が言いたいんだシャルステナは。俺はただみんなを不安にさせたくないだけなのに……

 何でこんな話してるんだ俺は。

 俺が顔が変わったって? そんなわけない。そうそう人の顔は……あれ? 今何の話だっけ?

 ……そうだ。俺の頭が回ってないとか、なんとか。


「ほら、ちょっと考えてものを言おうとすると、何も出てこない。……もう頭が限界なんだよ。レイは長い間考え過ぎなんだよ」

「……かもしれないな」

「それにハクから聞いたけど、レイ寝てないよね?」

「寝てるよ。ホントに」


 今日だってちゃんと寝た。


「ううん。ほとんど寝てないよ。ハクが言ってた。帰ってきてからも何かして、夜遅くにしか寝ない。それなのに朝早くから鍛錬してるって」

「……確かにそうだな」


 まぁ昔とそれ程変わらないはずだ。前より遅く寝て早く起きる。それだけだ。ただ俺も日々成長している。活動時間が伸びていくのは当たり前の事だ。


「私たちはまだ子供なんだよ?そんなことしたら体がもたないよ。ううん、もうレイはおかしくなってきてる。この頃、言ってることとやってることが全然違う」

「それは前からさ。俺は行き当たりバッタリなんでな」


 俺は適当なとこがあるからな。それは自覚してる。


「そうかもしれないね。だけど、私との約束を忘れてた。忘れてることにも気付いてない」

「……わざとだよ」


 そうわざとだ。なんとなく忘れてたんだ。


「嘘よ。レイはそんなことしない。わざとだって思い込んでるだけ」

「そんなことない。わざと忘れてた」

「忘れるって言うのは、わざとはできないんだよ……忘れたら、もう二度と思い出せないんだよ。どんなことをして、どんな人と出会って、どんな風に生きたか、何もわからなくなるんだよ。……だから、わざとなんてできない」


 なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。ただ、ちょっと俺の物忘れがひどいだけの話じゃないか。

 俺は目に光るものを浮かべ、震える声で話すシャルステナが理解できなかった。こんな悲しい顔生まれて初めて見たかもしれない。


「……できるさ。考えなければいい」

「違う。そう思い込んでるだけ。レイは毎週毎週、私との約束を忘れてたことを覚えただけ」

「なんだよそれ。言葉遊びか?」


 忘れてたのを覚えたって……


「ううん。そう思うなら、私との約束言ってみてよ」

「え、それは………遊びに行くんだっけか?」

「どこに?」

「どこ?それは決めてないんじゃなかったか……?」

「決めたよ。ちゃんと。私とレイで」

「そんなバカな。ちゃんと覚えてるぞ俺は。4月の時に朝教室で約束したはずだ」


 ほら、ちゃんと思い出せる。ちゃんと詳細に思い出せる。忘れてなんかいない。


「うん、そうだね。けど、その後決めたのは覚えてないでしょ?」

「え、そんなことあったか?」

「ほらね。覚えてない」


 俺はこの数ヶ月を振り返ってみた。しかし、シャルステナとそんな約束をした記憶は一ミリたりとも見つからなかった。


「けど、ちょっとうっかり忘れただけだろ? みんなそんな昔のこと、詳細に覚えてないだろ。ほら、赤ん坊の頃とか」


 記憶ってのは劣化するもんだ。それが昔になるほど人は正確に思い出せなくなる。


「そうだね。5歳までは覚えてない人が多いね。けど、5歳からは覚えてる人がほとんどだよ」

「なんでさ? そんなわけない」


 前世で5歳の頃の記憶なんて俺は残ってない。小学生低学年の事も覚えていない。思い出せるのは高学年になったあたりからだ。


「進化したからだよ。5歳の時にやった進化で、人は記憶を保つことができるようになる」

「けど、それは保つことができるだけで、思い出せるわけじゃないんだろ?」


 そう確か、脳の記憶の引き出しが開かなくなるんだ。

 覚えてはいる。だけど、思い出せない。それが人間の脳の仕組みのはずだ。


「思い出せるよ。何年前でも何百、何千年前でも。全部…それがこの世界の決まりだから」

「世界の決まり?」

「うん。創世神が創ったね。……ねぇ、何で人は、ううん、この世界に生きる者が進化するか知ってる?」

「え? なんでって、成長するためだろ?」


 それ以外に何があるんだよ。いろんな経験を積んで成長して大きくなる。そのための進化だろ?


「それもあるね。だけど、それは手段であって、目的じゃない。いや、人にとっては目的かもしれないけどね」

「? 他に誰の目的があるんだよ」


 なんで個人の成長に他者の目的が絡んでくるんだ。


「創世神だよ。この進化の決まりも創世神が創った。それには、ううん、この世界を創ったのには目的があるの」

「世界を創った目的?」


 それはあれか? 自分の創った世界で好き勝手やろうとか、そんな神だってことか?


「創世神はね、神を育てたいんだ。神を育てるためにこの世界を創った。神になれば寿命もなくなる。そうなった時、記憶を保ちきっかけさえあれば思い出せるように、進化の儀式にを組み込んだ」

「ごめん、なんかついていけないんだが……」


 神を育てる? 意味がわからない。それだと俺は神だってことにならないか? そんな大層なもんじゃないぞ、俺は。


「ちょっと難しかったかな。……とにかく、5歳の時の進化で私たちが記憶を失うことは普通ないんだよ」

「それはつまり、俺は今、普通じゃないと?」


 普通じゃないから、俺は記憶を失ったのか。だから、シャルステナはこんなに必死に俺を説得していたのか。


「うん。記憶を失うのはレイみたいに肉体の限界を超えてしまってるか、誰かに何らかの魔法やスキルで消されるかしかない。だから、レイはもう限界なんだよ。お願いだから……夏休みの間ぐらい休んで」


 目に涙を浮かべ、懇願するようにシャルステナは言った。

 俺はこんなにシャルステナに心配をかけていたのか。この4ヶ月ずっと彼女との約束を忘れていたのに、それを怒るどころか心配してくれていたのか。

 本当に悪いことをした。シャルステナの言う通り、せめて夏休みぐらいは休むべきだな。


「……ごめんな。心配させて。自分じゃ気が付かなかった。ありがとうシャルステナ。夏休みの間はゆっくりするよ」

「本当に? 鍛錬もダメだよ?」

「うっ、それは……」

「ダメ」

「はい、わかりました……」


 仕方ない。彼女に心配をかけた罰だ。2週間ぐらい休んでも大丈夫だろ。けど、今日の事を忘れたりしないだろうか?

 シャルステナとの約束を忘れたぐらいだもんな。忘れるかもしれない。


「なぁ、俺今日のこと忘れないかな?」


 コップを片手に、俺は何気なしにシャルステナに聞いた。


「……大丈夫。私が忘れさせない」


 そうどこか決意のこもった声でシャルステナは言うと、手で胸の布をとった。


「ブフォ!」

「わ、忘れないでよ!」


 シャルステナは布を巻き直すと、逃げるように川に入っていった。


「……これで忘れたら、シャルステナに申し訳がたたないな」


 俺は逃げ去る彼女の背中を見ながらそう呟いた。


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