188.水と油な二人
疲れを癒すため、砂浜で軽く睡眠を取っていた俺は、腹部に重みを感じ、目を覚ました。
「ピ…………」
目を開けると、俺の腹の上でハクがまるでこの世の終わりのような顔をして、項垂れていた。怪我はすっかり良くなっているようだったが、気のせいかどんよりと影が掛かっているように見える。
『ハクはもう生きてられない……』
「いや、どうした。俺が寝てる間に何があった」
春樹達に続き、また俺が知らぬまにおかしな事になっている。俺は寝る間もなく、こいつらのお守りをしなければならないのか? ……勘弁してくれ。
ひとまず事情を、聞かない事には何をどうする事も出来ない。
俺は体を起こすと、事情を知っていそうなシャルステナ達から、事の顛末のあらましを聞いた。
彼女達曰く。
ハクの怪我──もっとも酷かった翼は、それはもう大層な粉砕具合で、魔法で骨自体はくっつけたものの、飛行に耐えられるようなものではないらしい。
わかりやすく言えば、粉々に砕いた茶碗をセロテープでくっつけたような状態で、非常に脆くなってしまっているそうだ。実際、体を小さくしただけで、ポキリとイッてしまったのだとか。
そういうわけで、3ヶ月の絶対安静、飛行禁止を言い渡され、ハクは竜生に絶望してしまった、と。
「お前なぁ……たった3ヶ月だぞ? その後は、普通に飛んでいいって言ってくれてるんだから、我慢しろよ」
『飛べないハク、ハクじゃない』
「豚みたいに言うなよ」
飛行禁止を己の存在意義に言い換えたハクの主張。大袈裟なと呆れる反面、ハクの言いたい事もわからなくはない。
例えるなら、飛べない鳥。たった3ヶ月とは言うけれど、鳥にすればそれは致命的だ。ペンギンという例外を除けば、翼を失った彼らは、ただ捕食されるのを待つだけの儚き命である。
そう置き換えて考えれば、ハクが絶望の一つや、二つしたくなるのはわからなくはない。
ただ……
「お前1日の大半、寝てるだけじゃねぇか」
俺の頭の上で。
結論、それなら寝床の移動ぐらい飛べなくてもいいんじゃないか、と思うわけだ。
そんな風に、俺までもシャルステナ達の側に回り始めたものだから、ハクはとうとう最終手段に打って出た。
『親ぁっ……!』
必殺のウルウル光線である。実用経験のある俺は、これが絶対的な存在にも通用しうる最強の精神攻撃である事を知っている。勿論、親属性の俺には、効果は抜群だ。
しかし……
「そんな風に同情を誘ってもダメなものはダメ。ハクは、3ヶ月は飛行禁止。姿を変えるのも、ダメ」
治癒術師の属性持ちには、効果は今ひとつだったらしい。シャルステナは断固として、譲らなかった。
『親ぁ〜! シャルが、ハク虐めるぅ!』
「いや、泣きつかれても俺にはどうしようもない」
腹に顔を埋めくるハクに対して、俺は両手を上げて降参のポーズ。
だが、マジ泣きされると、子供の頃から共に育ってきたハクに同情が湧かないはずもなく、少しだけ譲歩してやらないものかと、シャルステナの顔を見上げた。
「あのさ、シャル……」
「何て言われてもダメなものはダメ」
「……だってさ。まぁ、たまに俺がお前を連れて飛んでやるから」
「ピィ……」
最後まで言い切らないうちに切り捨てられ、俺は早々に彼女の説得を諦める。ハクもまたもうどうにもならない事を悟ったのか、顔を俯かせて悲しげに鳴いた。
こうなるとシャルステナは頑固だ。絶対に折れない。治療に関しては、彼女は一切の妥協を許さないのだ。それはもう、俺が大人しく療養しないと思うと、強制的に契約を結ぶほどに。
ある意味プロ精神だが、些か厳しすぎる気もしないでもない。でも、彼女の歩んできた辛い道を思えば、それがプロ精神や厳しさからくるものではない事は、何となく察しがつく。
例えば、もしここで治療を妥協したら、それが理由になって、命を落とす事になるかもしれない。その考えが一度でも頭を掠めた時、彼女は何か事情や理由があるからと、妥協出来る人間なのだろうか。
俺はそうは思わない。恐ろしく不器用な彼女は、きっと懸念がある限り、治療を妥協する事は出来ないだろう。
強い後悔と苦しみが生んだ強迫概念。シャルステナはそれにずっと縛られている。おそらくは、俺がそれに気がつくずっと前──出会った時から既に、シャルステナはその恐怖といって差し支えない不安と戦い続けてきたのだ。
──なんて苦しい生き方なのだ。
念には念と、気力を失い無抵抗なハクの背中に翼を紐で固定するシャルステナを見ていると、何とも言えない気持ちになる。
彼女は5千年の孤独を味わったのに、新たな苦しみに取って変わっただけで、救われてなどいないのだ。
だから、この時初めて俺は世界について、思ったんだ。
もう少し世界が平和であれば、彼女は苦しまなくて済むかも知れない────と。
〜〜〜〜
魂が抜けたかのように白くなった(巫山戯る余裕はあるらしい)ハクを、安静にと言い聞かせて、アークティアに送って行った後、その他の厄介ごとを、金で解決してきた俺は、泳ぎ着いた島に戻り、旅を再開する事にした。
旅のお供は怪我をしたハクに代わり、心配だからとシャルステナが。さらに、アフロト大陸に詳しいルクセリアが来てくれる事になった。
随分と戦力過多のメンツではあるが、あのグリフォンが俺を探しているかもしれない事を考えると、こうなった。まぁ、素行に問題はあっても、実力的に俺が信頼しているライクッドが残ってくれたので、余程のことがない限りは街中は安全だ。
むしろ今は如何にして、グリフォンと事を構えることなく、この島から抜け出し、アフロト大陸へと渡るかの方が大事だ。
「改めて聞くけど、この場所に何か心当たりは?」
「済まないが全くない。敢えて言うのなら、比較的温暖な地域でありそうな事だが……」
「うん、それじゃあ場所の特定は難しそうだよね。やっぱりアークティアからやり直した方がいいのかも」
やり直すか……
それが現状一番堅実な方法だが、これまでの旅路を考えると、戻りたくないのが本音だ。それに、あのグリフォンかなり怒ってたからなぁ……下手したらまた鉢合うことになりそうだ。いずれ借りを返すにしても、時間はもう少し欲しい。
と、そんな風に中々踏ん切りがつけられずにいた俺を見て、シャルステナがこちらの顔色を伺うように少し前にかがみ、指を胸の前で合わせながら言ってきた。
「あのね、レイ。実は、一つだけこの場所を特定出来る方法に心当たりがあるんだけど……」
「本当か? それは助かる。もう一度、大陸橋を超えるのも楽じゃないしな。それで、俺たちはどうしたらいいんだ?」
女神であるシャルステナの言葉だ。きっと神の何たらパワーとかで、この場所を特定してくれるのだろう。俺は内容を聞かず、すかさずそれに飛びついた。
「ううん、レイ達にやってもらう事は特にはないの。ただ……レイは絶対怒るから、怒らないで欲しいなぁ……って」
「俺が怒る? 久しく怒っていない俺が? いったい何をする気なんだ、シャル」
「久しく……? それが本気なら、私はレイの心理状態を疑っちゃうよ……」
これっぽっちも心当たりがないんだが……もしかして、ちょっと生理的というか、現在殺害計画を立案中の天敵を抹殺しようとした事を言っているのだろうか。
「まぁ、何をする気か知らないけど、この場所が何処だかわかるなら、怒ったりはしないよ」
「ほんと? 言質取ったからね、レイ?」
俺はひょっとしてシャルステナからの信用がないのだろうか。
基本的に、恩を仇で返すような人間ではないと、俺は客観的に自己評価しているのだが。
たとえば、ちゃんと翻訳腕輪の代わりに、宝石のネックレスをルーシィにあげたし、誕生日には誰にだって奮発してきたし、迷惑かけたら金を空からばら撒くし。
俺ほど律儀な奴はそうそういないだろう。
皆さん、その辺どう思います?
「じゃあ、怒ったらダメだよ?」
「わかったって」
再度俺が了承すると、シャルステナは少し不安げな表情を浮かべて、海側へと歩を進めた。そして、10歩ほど進んで、立ち止まると……
「…………手を出してもダメだよ?」
「もうわかったから! 怒らないし、何もしない。約束する」
「……レイってすぐ約束破るから、余計に不安」
「ぐっ……」
それは何年も前の話じゃないか。最近は特に…………やめておこう。不利になる気がする。
そうして、俺が返す言葉を失っていると、シャルステナは小さくため息を吐くと、大海原に向き直る。そして、スーと息を大きく吸い込んで、山彦を唱えるように叫んだ。
「海神────ッ!」
───いや待て。
まさか、天敵認定した奴を呼ぶ気ではないだろうか。いや、こんな何処でもホイホイみたいな感じで、お手軽召喚出来る神がいるはずがない。
そう、ちょっとしたお試しだよ。そして、これこそが女神が俺に与えたもう試練。俺がいかに精神の安定を保てるかという、試練だ。
俺の信用を回復させるまたとないチャンス。その試練、正面から受けて立とうではないか。
たとえ本当にあの変態神が現れたとしても……
「──ザッバァァン! っと女神に呼ばれて登場! この世界で、最も美しい海神さ『ドバシャァァン』ぁぁあぁぁぁぁン!」
おっと、無意識が。
〜〜〜〜
「手を出さないって言ったのに……」
「ハァハァ、呼び出されて来てみたら、雷でご挨拶……んんっ! 悪くない!」
「旦那は約束を一ミリも守る気がないのだな」
手に頭を乗せて項垂れるシャルステナと、ちょっと黒焦げて悶える海神。そして、批判的な目を向けてくるルクセリアに囲まれ、俺は無意識に雷撃を撃った手を見下ろした。
「あれ? おっかしいな? 無意識下で魔法が発動するとは……とうとうその域まで到達したのか……」
やってやっ……コホン──言い知れぬ達成感を味わいながら、俺は感慨深く頷いた。
もはや魔法の達人と名乗ってもいいのではないだろうか、と。
「それはもう一種のチートだよ……」
どうやら新たなチートが俺に増えたらしい。魔法自動発動チート。まったくもって悪くない。
そんな事を俺が考えている一方で、呼び出した本人であるシャルステナは申し訳なさそうな顔をして、海神に向き直る。
「本当にごめんね、海神。いきなり魔法で攻撃しちゃって。その上でこんな事頼むのって凄く胸が痛いんだけど……」
「いいわよぉ〜、女神ィ。むしろご褒美……んんっ!」
「あっ、うん。もういいや。それより、海神にお願いがあるんだけど……」
どうやら謝る事は何もないと気が付いたシャルステナは、改めて頼みを口にする。それに、いち早く反応した海神は、何処か期待した目をして顔を乗り出した。
「女神がワタシにお願い⁉︎ 何よ何よぉ〜。ワタシに何をさせようって言うの? もしかして、ワタシの信者にならせて下さいって事? もちろんいいわよ! さぁ、そうと決まったら早速──」
「ならないから!勝手に話を進めないでよ!……私達は海神にここが何処なのか教えてもらいたいの」
「なぁんだ、そんなことか」
期待が空回りし、つまらなさそうに呟いた海神は、頭の後ろで腕組みして、背もたれのように盛り上がった海面に体を預ける。そして、何を企んだのか、俺の方を見てニヤリと笑った。
「ギャァァァア!」
おっと、余りの腹立たしい笑顔にまた無意識が……
「目がぁぁぁぁ! ワタシの、クリクリで、プリティーなまん丸お目々がぁぁ!」
タバスコ風味のお目々を手で抑えて、波打ち際ギリギリを転げる海神。そのクリクリのお目々は海水に染みないのだろうか。
「ひ、ひどい……今のは酷すぎるよ、レイ」
「…………無意識が……」
「また⁉︎ レイの無意識ってどんだけ攻撃的なの⁉︎ 怖すぎるよ!」
『自動タバスコ掛け』なるチートも手に入れてしまったらしい俺は、いつの間にか手に握られていたタバスコを落とした。
くっ……無意識が……!
と、俺が自動発動チートに翻弄されていると、スッと横から手が差し伸べられた。
「……っと。旦那、落とすところだったぞ」
「………………チッ」
「今舌打ちした⁉︎ チッって言った⁉︎ 絶対わざとだよね、レイ!」
自動舌打ち機能がいらぬ誤解を与えてしまったようだ。
……自動。
素晴らしい言葉だ。自動であれば、わざとではないのだから。きっと裁判でも、『無意識に……』と言えば、故意の犯罪ではないと立証出来ることだろう。
「そんなわけないじゃないか。いやぁ、無意識って怖いなぁ」
「嘘くさっ! 何、この子? 女神、ワタシ、こんなに嘘くさくて、信用ならない子初めて見たよ」
追げ……ではなくて、追加のタバスコをルクセリアが防いだためか、もう回復してきた海神。気のせいか、黒焦げた体ももう治り始めている。
なんという回復力。これなら、手加減など無用というものだろう、と俺の無意識は呟きました。
しかし、そんな無意識の声を鋭敏に感じ取ったのか、シャルステナがズザザッと砂塵に線を残しながら、海神の前に割り込んだ。
「これ以上は話が進まないからさせないよ!」
「ワタシの心配してくれたんじゃないの⁉︎ ビックリよ、女神!」
地味に酷いシャルステナが前に立ち塞がったため、無意識が仕方なく、動きを止めた。
「仕方ない。その変態と話をしてたら、無意識が殺意を覚えるから、魔力封じの枷を使おう」
「無意識が意識持っちゃってるのは、気のせい?」
「もちろんだとも」
俺は爽やかな笑顔で答えてから、魔力封じの枷を収納空間から取り出すと、呆れ顔のシャルステナに手渡す。
「優しくしてね?」
「……加護の効果って凄いんだね」
「ハッ! ち、ちち違うんだ、シャル。俺はただ、ふざけただけで、そんな冷ややかな視線で見ないでくれ!」
「うん、私はわかってくるから」
と、口にするシャルステナのどんな俺でも受けてくれそうな温かな笑みが逆に痛かった。
海神殺す! 絶対殺す! 必ず殺す!
俺はそう滅殺を深く心に誓った。
「おい、たった今俺の抹殺リストに加わったそこの変態神」
「なっ……! 今、トンデモない事口走ったわね! 女神、こいつは神敵よ! 今ここで成敗してくれるわ!」
「上等だ、この野郎! 俺がテメェみたいな迷惑な神葬ってやる!」
どうやら今ここで白黒付ける時が来たらしい。
俺は緋炎の柄に手を掛けた。そして、抜刀と共に飛び上ろうとした瞬間、背後から脇に手を差し込まれた。
「もうその辺にしておけ、旦那」
俺を止めたのはルクセリアだった。ガッチリと脇をホールドされ、持ち上げられる形で、動きを止められた俺に対し、海神はシャルステナの魔法で拘束されていた。
「はぁ、やっぱり呼ぶんじゃなかったかなぁ……」
シャルステナは疲れ切った顔をして、深くため息を吐く。
「もう、ホントに話が進まないから、2人とも拘束するね」
「女神の拘束プレイ⁉︎ 何それ! プレミアもんじゃない! ヘイ、カモン! バインドミイ!」
「シャル、俺はSMには興味がないんだが……」
「実は仲良いんじゃない、2人とも?」
「そんなわけあるか!」
俺は声を大にして、反論した。
シャルステナはもう一度深くため息を吐くと、俺と海神を光の縄で拘束した。そして、恍惚な表情を浮かべる変態と横に並べられ、説教を受ける学生のような気分で、担任のシャルステナと副担任のルクセリアを見上げた。
……縛るのはナシだが、女教師はありかもしれないなどと馬鹿な事を考えて、ハッと気がつく。
これは──変態の呪いだ。
俺はこの時、性的なストライクゾーンか広くなるという海神の言葉を実感した。そして、2度とこの呪いが解かれる事はないと思うと、どうしようもない殺意が……
「ゾクゾクゥ! ただ縛られただけなのに、この悪寒! 何コレ、女神補正ってヤツ? ウッヒャァ──!」
頭のおかしい変態は、殺気に当てられてさらにおかしくなっていた。それが、余計に俺の勘に触り、抹殺の意思が膨れ上がる事になるとも知らずに。
こいつだけはいつか絶対に殺そう。
〜〜〜〜
「……なるヘッソ! それで、女神はここが何処なのか、ワタシに頼もうって言うのね! そういう事なら、この麗しく、気高い海神様に任せなさい!」
形容詞がこれ以上ないほどに不適切なんだが……
「ありがとう、海神。やっぱり海ではあなたが一番頼りになるね」
「でしょ? でしょ? さっすが女神ィ! わかってルゥ、この、この」
お調子者の海神は、シャルステナの褒め言葉に頰を綻ばせ、お腹をツンツン突いている。
「おい、燃やされたくなかったら、その汚らわしい指でシャルステナに触れるんじゃねぇ」
「怖っ! ガチ声じゃん! じゃあ、代わりにキミをツンツンしちゃう。この、この」
…………どうやら、こいつは俺に殺されたくて仕方ないらしい。
魔法の拘束の上からルクセリアに押さえつけられていなければ、即座にその首に剣を叩きつけてやるところだ。
……と、つまるところ、それぐらい俺の腹わたは煮え繰り返っていたわけだ。そんな精神状態で、無防備な指がツンツンと突き立てられれば、噛み付くのが人のさがではなかろうか。
「この、こ──ギャァァァア!」
「ぺっ、不味い指だ」
俺は口に入った汚らわしい血を吐き棄てた。
「まさか、噛み付くとは……旦那、いい加減大人しくしてくれないか」
「俺は売られた喧嘩は買う主義なんだ」
「前に、ライクッドに喧嘩を売られても買うなって説教してたのに……」
それはそれ、これはこれ、なのだ。
ライクッドは俺に被害が来るが、海神をボコボコにしたとしても、誰にも迷惑がられない。むしろ、良くやってくれたと同意してくれる人がいるだろう。
「女神ィ〜、指治してよぉ〜」
「海に漬けとけば治るんでしょ? レイを挑発した海神も悪いんだから、私は治しません」
ぷっ、シャルステナに見捨てられてやんの!
「はっはっ──!ざまぁ!」
「なによ──っ! ワタシとやろうって言うの⁉︎ いいわ、身動き取れない今の内に、ワタシしか知らない世界の果てに飛ばしてあげるわ!」
「おう、やってみろや、このクソ神がぁッ! 速攻で戻ってきて、テメェの首刈り取ってやらぁッ!」
俺は、全力で魔力を体から放出し、シャルステナの拘束魔法ごとルクセリアを吹き飛ばした。
「首はもう十分洗ったな、クソ神ッ!」
「上等よ、神の力見せてあげるわ!」
そして、始まった神との闘い。
一糸乱れぬ、激しい攻防戦の中、俺たちは女神化したシャルステナに取り押さえられた。
〜〜〜〜
「……この2人は水と油だな」
「……みたいだね」
先程の魔法の拘束だけでなく、物理的、魔力的に拘束された俺たちは、浜辺にガンを垂れあい激しい口防戦を繰り広げていた。
「このクソ神め! お前が大人しく死なねぇから俺までこんな目に合わせれただろうがっ!」
「ふんよ、神に手を出すような罰当たりなキミが悪いんでしょうが。ワタシは神だから? これくらいご褒美にしか感じないけどね!」
「ドヤ顔で言ってんじゃねぇぞ、この野郎!」
「なによ! ワタシは野郎じゃないし! 性別なんて超越してるし!」
「黙れ、この変態神が! だいたい事の発端はな! お前が俺に変な加護寄越したのが悪いんだろうが! 今すぐこの加護取り除け!」
「うわぁああ! それ、言っちゃいけないやつなのに! 言わないって約束したのに!」
「テメェが先にその約束破ったんだろうが! どうせ他の奴にも余計な加護与えて、取り除けって言われた口だろ、お前ッ!」
「なっ……!何でその誰にも明かしていないトップシークレットを……! き、君はいったい何者なの……っ!」
「衝撃的な身バレ展開みたいな言い方したんじゃねぇぞ、コラッ! 誰だってわかるわ、それぐらい! いいからこの加護取り除けッ! そしたら、命だけは助けてやる!」
「はぁぁぁぁぁ⁉︎ フッザケないでよ! 加護は取り除けないし、命だけは助けてやるってワタシのセリフだから! 神よ? ワタシ神なのよ? ほら、謝れ! それ、謝れ! そしたら、命だけは助けてあげるわよ!」
「ッザケんろ、この名前だけの偽神が! お前を殺して、レベルの足しにしてやるわッ!」
「うわぁぁぁあん! ワタシ神なのに! 本当に神なのに! 偽神じゃないのに!」
「はぁぁぁあッ⁉︎ ポンコツの変態の癖して、何言ってやがるっ! 偽神って言われたくなければな、使える加護寄越しやがれ! 必要のない、迷惑な加護寄越しやがって! ほんまっ、ふざけんなよ、テメェッ!」
「ぎゃふっ! つ、使えるから! ワタシの加護便利だから! ちょっとぐらいオマケ付けたぐらいで、そんな怒ることないじゃん!」
「はぁ⁉︎ 海の上にいたら調子が良くなる加護? 何だよそれ、占いアイテムかよ! それに、変態の種みたいな加護埋め込みやがって! どう考えても迷惑の方が100倍以上、上回ってるだろうが!」
「バ、バッカじゃないの! ワタシの加護か占いアイテムなわけないじゃない! 馬鹿なの? アホなの? 救いようのない頭なの?」
「テメェにだけは言われたくねぇんだよッ……!」
「ふんっ、よ。だいたい加護を使える癖に、ワタシの加護の偉大さに気が付かないなんて、頭が残念な証拠よ! ワタシの加護を使えば、魔力を使うことなく、自在に海の水を操れるっていうのに、あんた馬鹿じゃないの?」
「なん、だと……? めっちゃ便利じゃねぇか!」
「そうよ、便利なのよ! ワタシの加護って使えるようになったら、凄く使い勝手が良くて、重宝されるのよ! ──殆ど使えないけどね! それにね、もう一つの加護だって、性別を自在に入れ替えることが出来て、新しい道が開けたって子も今までにいたんだから!」
「後半はマジでいらないが、海の覇者は便利だな! もっと寄越せ!」
「なになに。ワタシの加護がご所望? 仕方ないわね、海神様、この惨めで、愚かな自分に、麗しくも気高いあなたの加護をどうか与えて下さいと、土下座するならあげるわよ!」
「はあっ⁉︎ 調子に乗んなよ、テメェ! 人気がなくて、やたらめったら人に加護ばら撒く神の癖して! お前こそ、この惨めで、煙たがれる神の加護を受け取って下さいって、頼めば仕方なく加護を貰ってやるぞ!」
「はぁぁぁぁ⁉︎ 何様? キミ何様なの? 俺様痛い系? そんな恥知らずな事、神のワタシが出来るわけないでしょ!」
「散々恥撒き散らしてる癖しやがって! いいから、テメェは海の覇者の加護を俺に寄越せばいいんだよ! そしたら、ちょっとぐらいお前の評価が改善して、ほんの気まぐれにお前の加護は実は便利だって広める事だってあるかもしれねぇんだから! わかったら、グータラ言ってねぇで、加護を寄越しやがれ!」
「マジですか! マジで広めてくれるんですか! ヒャッホー! とうとう私の時代キタ──ッ! いいわよ、好きなだけ加護をあなたにあげるわ! その代わり、ワタシの加護の良さを、見せつけて、広めて、海神フィーバーを巻き起こすのよ!」
「よし、なら交渉は成立だ! ほら、加護をとっとと寄越せ。言っとくが、余計なもん混ぜやがったら、今度こそ本気で殺すからな?」
「わ、わかってるわよ。キミはサクラ。サクラには良いところだけ広めて貰わないとね!」
「お前実はちょっと自覚してるだろ?」
つい本音を零してしまたと思われる海神が、シラ〜と目を逸らす中、俺の中に新しい加護が。
俺はその加護が不純物を含んでいない事を確認すると、ほくそ笑んだ。
一方、それを見ていた2人は。
「……どうやら仲直りしたようだな」
「今何が起きたの⁉︎」
ただの利害の一致です。




