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186.最新技術を取り入れて

 

 ユーロリア大陸。

 世界樹が根付く自然豊かな大地。中心部に近づくほど、山々は鬱蒼とし、草原は年中草花で生い茂っている植物達の楽園である。

 しかし、余り知られてはいないが、大陸橋のある北東部は、山脈が連なる高山地帯であり、植物達には厳しい積雪地帯が広がっている。


 この理由から、大陸橋から南部に抜ける道は、北東部と世界樹のある中心部の間に横たわる高山地帯を避けるように、沿岸に沿って迂回するのが一般的かつ安全と言われている。

 ただし、その間には海の利権争いを背景に、幾つもの国が所狭しと隣接するために、通過するだけでも入国審査に時間とお金を取られる。無論、迂回路である分、時間はさらにかかり、旅費はかさむわけだ。


 そこで俺たちは、大陸橋から進路を中央部に向けて直進した。すなわち、山脈地帯を抜ける事を選んだのである。

 選んだ理由は幾つかあるが、最終目的地である迷宮都市まではまだまだ遠く、短縮出来るところは短縮してしまいたいというのが一番の理由だ。


 大陸橋から高山地帯までは、徒歩で数日の距離。途中にある街で英気を養った後に、俺たちは必要ない防寒具を買い揃え、まだ緑が生い茂っている山を登った。そこが、高山地帯に突入する入り口に当たるらしい。


 初めは、踏みなされた地面に従い山を登る事が出来たが、気温の低下とともに、道の存在が危ぶまれるようになり、街を出て4日目に積雪地帯へと俺たち一行は突入した。


 しかし、そこで想定外の問題が発生した。


 今、季節は夏に入る前。その季節に、雪が積もるほど標高が高いのである。それはもう、春の終わりには雪が完全に溶ける断崖山とは比較にならないぐらい。

 ならば必然、あれが危ぶまれる。そう、高山病である。


 しかし、そこは腐っても冒険者。もちろんそれは可能性として、考えていた。それでも、肉体の頑丈さ、体力、そして純粋な身体能力が、地球人と比べるまでもなく優れている俺たちには何の問題もないと判断した。実際、俺たちの中で高山病を発病したものはいなかった。


 では、何が想定外だったのかと言うと、高山病の原因となる空気の薄さと、慣れていない寒さのダブルパンチである。寒さに限っては、防寒具の質が地球よりも遥かに低いために、想像以上に俺たちの体力を奪っていった。


 しかも、ただでさえ街の外は魔物がいて危険だと言われる世界で、過酷過ぎる雪山に登るような専用の道具が普及しているはずもなく、頼りになるのは鍛え上げた己の体だけ。無論、この中には雪山の専門家は一人もいない。

 そこに、先に言ったような空気の薄さが効いてきて、疲れは溜まる一方である。


 だが、それでも時間短縮のため、文句も言わず歩き続ける事、さらに2日、さらなる問題が発生した。


 それは、薄っすらと空の向こうに世界樹の影が見え始めた頃の事だった。


 どこを見ても、雪、雪、雪。時折、盛り上がった山脈の崖から覗く岩肌に恋しささえ覚え始めた時、そいつは現れた。


 ふわふわと天より落ちる雪。時折吹く強い風になびかれて、舞い上がった雪。

 それらが白く霞ませた視界より、突如として現れた魔物の大群。この積雪何メートルか定かではない土地で、群れを成して行動する生き物がいたのかと、感心したのも束の間、俺は魔物の姿を視認して、驚愕した。


 それは、ゴブリンだった。世界最弱の魔物の一画を担う数だけは随一の有名種。

 しかし、そんな見慣れた奴らが大群を成して現れたからと言って、驚愕するはずもない。俺が驚いたのは、ゴブリン達が雪の上を木の板で滑り、襲い掛かってきたからだ。


 ゴブリンは頭が弱い事でも有名だ。それが、どうだ。基本的に本能にのみ忠実な彼らが、道具を体の一部のように使用し、この過酷な環境に合わせた戦術とも言える手段を用いて、生き抜こうとしている。


 しかも、そのゴブリン達は、なんと口から氷のブレスを吐ける。足元の悪さで動きが鈍ったところを、木の板で斜面を滑走しながら、ブレスで強襲してきたのだ。

 正式名称は、スノーゴブリンというらしいが、もはやそれは最弱種の名を冠するゴブリンではかった。


 なんと逞しい魔物なのだろうか。


 生まれ持った最弱種という冠に腐ることなく、知恵と数の力を使って立ち向かう。俺がホロリと涙をこぼしそうになったのは、言うまでもない。雪に足を取られて転んだところを凍らせたアンナが怒り狂って、彼らに襲いかかったのを思わず止めてしまったのも、致し方ないというものだ。


 そのあと結局、非情な女神様の手によって勇敢な彼らはこの世を去ったが、俺はスノーゴブリンという種を心のお気に入り登録した。


 空から見た竜の谷。白煙立ち込める世界樹の森。

 それらに並ぶお気に入りまさかの魔物参戦に、俺も驚きを隠せなかった。


 ──閑話休題。


 さて、話は戻るが、新たに発生した問題とは、言うまでもなく、防寒具をおじゃんにされたアンナの事だ。

 あの感動の出会いから数時間。


「ゔぅー、さ、さぶぃぃ。もうダメ……手足の感覚ない……」


 まさかのゴブリンに防寒具をおじゃんにされてしまったアンナが、かなりピンチだった。ハッキリ言って、防寒具がおじゃんになるとは誰も考えていなかったため替えはない。


 こんな時、アンナに迷わず服を貸し与えそうなゴルドだが、緩い顔に似合わず結構ガッツリした体系であるため、ゴルドの服では細身のアンナには合わない。それに、結局のところそれではゴルドがピンチになるだけで、何の解決にもならないと、それでも貸そうとしたゴルドはアンナに説き伏せられた。


 そんなわけでアンナは今、適当に俺が貸し出した服を重ね着している状態になっている。

 しかし、何分防寒対策の甘い服だ。雪の中を進んでいれば、ビチョビチョになるし、風も吹き抜けてくる。


「ここらで、一旦休憩にしよう」


 俺はアンナの限界を感じ、凍傷やらを起こす前に収納空間からまだビチョビチョになっていない服を取り出した。


「ほれ、今家出してやるからこれ持ってろ」

「あ、ありがと……」


 ガチガチと歯音を鳴らし凍えるアンナはいつになく素直だ。

 俺が収納空間から取り出した簡易な暖房器具が取り付けられた家屋に、アンナと女性陣が先に入って……


「だから、お前らはコッチだろ。何回やったら気がすむんだ」


 と、女性陣に続くこうとするギルク、ゴルド、春樹の3人の首根っこを捕まえる。


「お、おおい!離せ! 俺たちも寒いから、早く暖まりたいだけだろうが!」

「その通りだ! リスリットちゃんの毛皮で温めて貰うんだ、俺は!」

「あのな、シャルが中にいるのに俺が行かせると思うか? 」


 最近、ギルク、春樹同盟という謎の同盟を作ったらしい二人は揃って反論してくるが、緋炎の鞘を手に『これで暖めてやろうか』と優しく聞いてあげたところ、顔を引き攣らせて引き下がった。

 しかし、それでは下がらない奴が1人。


「僕はね、アンナの裸が見たいんだ」

「素直か。ドスレート過ぎるんだよ、お前は。それは2人きりの時にやってくれ」

「あんたなに勝手なこと言ってんのよ!」


 雪の中にポツリと立つ一軒家からそんな怒鳴り声が聞こえてきたが気にしない。


「ほらもう、今日のところは諦めろ」

「明日ならいい?」

「……状況によるな」


 アンナだけなら、入れてやろう。そう、ゴルドを納得させ、さらにアンナから怒鳴りつけられた俺だったが。

 それから、しばらくして。


「もういいわよ、みんなー」


 着替え終わったらしい女性陣を代表して、結衣が声を掛けてくれた。若干2名ブーたれる奴がいたが相手にせず、全員で中に入ると、ひとまず雪で濡れた防寒具を干して、腰を落ち着けた。


「あー、生き返るわー」


 アンナはゴテンと横になり、暖炉の前を占領していた。適当に作った家のためあまり広さもなく、外の冷気を遮断出来るような造りでもないので、暖炉の火は命の火と言っても過言ではないのだが、真っ赤になった手足を見ては、強く言う事も出来ない。

 仕方なく、凍える体を温めるアンナの周りに椅子を並べ、みんなで仲良く暖をとる。


「取り敢えず今日はここで休む事にしようか。アンナも今日は限界だろ」

「あんがとぉ〜。あたし今日はもうここから動けないわぁ〜」


 どうやら余りの寒さに堕落してしまったらしいアンナは、暖炉の前からピクリとも動かない。間延びした声が今にも寝落ちしそうなアンナの心情を表している。

 そんなアンナの様子を見て、ルクセリアが口を開いた。


「旦那、我々の認識が甘かったばかりに、想定外の問題が立て続けに起きている。キャロットとルアの体力を考えても、ここは一度引き返し、万全の体制を整えた方が良いのではないか? あるいは、道を変えるという選択もあるが……」

「私は大丈夫ですわよ? この子は少し辛そうですけど……来た道を引き返すのも、精神的に辛いものがありますわ。幸いにして、こうして暖かい場所で休む事が出来ますし、あと少しの辛抱ですわ」


 キャロットさんは、力尽き膝の上で眠るルアの髪を撫でながら言った。だが、表情からは疲れが見て取れて、アンナとは別の意味で厳しい状態にあることは、すぐにわかる。途中からルクセリアに負ぶわれていたルアにしてもそう。子供を連れてこの厳しい環境の中、旅をするのは厳しいかもしれない。


「んー、引き返すかぁ……」


 だが、俺は判断に迷った。

 想定外だったから、次はしっかりと対策をとってというのは、悪くはない案だとは思う。安全で着実なルートに切り替えるという選択肢もある事にはある。

 しかし、ここで引き返すには、別の問題がある。


「けど、世界樹が見えたって事は、アンナの服を買いに戻るよりも、先に進む方が早いかもしれない。それに、道を変えるにしても、大陸橋まで引き返さないと、沿岸沿いにはいけないし、どの道2日以上は雪の中だ。そう考えると、ここで引き返す方が必ずしもいいって事には……」


 いったいどちらが、早くこの積雪地帯から離れられるだろうか。一面雪景色で、今どの辺りにいるのかもわからない。

 わかるのは、帰りの道が2日は歩かなければならないという事だけだ。


「いや、待てよ?」


 よくよく考えてみれば、雪の中を素直に引き返す必要など、俺たちにはないではないか。

 我ながら恥ずかしい。自分でその有用性を説いていながら、自らそれを実行できていないなんて。こんな時こそ、この魔道具が真価を発揮するのではないか。


「よし、決めた。アークティアに引き返そう」


『はっ……?』と彼らが口を揃えて唖然とする中、俺は初となる転移魔具の使用に踏み切った。



 〜〜〜〜



 我ながら、転移魔具という代物は便利なものである。この数週間の旅路は何だったのかと、悲しくなってしまうほどに、便利である。


 これが普及すれば、間違いなく世界は変わる。街間の移動がより容易にかつ、安全に出来るようになれば、今まで関わることがなかった遠方の国や街との交流も、盛んに行われる事になるだろう。きっと人にとって、世界を広げるキッカケとなるに違いない。

 それが果たして、この世界にとっていい事なのか悪い事なのかは、一概には言えないが、発案者としてはより良い方向で普及が進めばいいなと、思う。


 さて、そんな改めさせられる初体験を経て、アークティアの街へと逆戻りした俺は、以前お世話になった宿屋の一室で、旅の計画を考え直す事を提案した。


「学長に少し話を聞いてきたんだが、アークティアと周辺の村を繋ぐ転移魔具に、今のところ問題らしい問題はしていないそうだ。かなり安全は保証されているものだと考えていい。だから、これらからの旅には、転移魔具を積極的に組み込んでいこうと思う」


 転移魔具を使用する事を前提にすれば、これまでにないやり方で旅を進められる事は、少し考えればわかる事である。たとえば、旅をする者と街で待つ者にパーティを分ける事で、より安全かつスムーズに旅を進められる事は簡単に思い付く。

 俺たちはいわばパイオニアである。実用化する前に、新しいやり方というものを、考えてみる必要があると俺は思ったのだ。


「試しに、グループを3つに分けてみようと思う。ひとまず旅は俺が続けよう」

「では、私も行こう」

「まぁ待て、ルクセリア。話はまだ終わってないから」


 気が早いのか、責任感が強いのか、ルクセリアの決断は早かった。おそらく旅を続けるグループが最も過酷だと判断したのだろう。盗賊の頭領としての日々が長かったせいか、彼は何かと背負いがちなところがあるが、このパーティには無駄に元気の有り余ってる奴らがいるのだから、もう少し肩の力を抜けばいいと思う。


「ルクセリアは、待機組。クールキャスで忙しくなる事は間違いないんだから、今のうちにキャロットさんとルアと一緒にこの街でのんびりしてろ。俺に付き合う必要はないよ」

「いや、しかし……」

「街中ならそうそう危険はないだろうけど、用心するに越した事はないんだ。この件に関して、ルクセリア以上の適任はいないだろ?」


 俺が未熟であったばかりに、キャロットさん達には無理をさせてしまったという思いもあって、ゆっくりと休んでもらうためにも、彼女達が一番信用できる人間を残していった方がいいと、俺はルクセリアを説き伏せた。


「……そうか。旦那にそのような考えがあるのなら、私はここに残ろう。クールキャスへ立ち寄るのは私の用事であるというのに、本当に済まない」

「俺もルクセリアには、色々手伝ってもらってきたんだから気にするな。こんなの寄り道にも入らないよ」


 仲間なんだからとまでは、気恥ずかしくして言わなかったが、ひとまずルクセリアも納得してくれたようなので、俺は話を戻す事にした。


「まぁ話の流れでわかったと思うが、旅を続ける組と待機組、それからもう一つ。一度王国に戻って、転移魔具を設置する組に、分けたいと思う」


 前々からチャンスがあれば、ラストベルク王国の何処かへ転移魔具を設置したいと考えていた。約半数の故郷でもあるそこに、転移魔具を置く意義はわざわざ説明するまでもないとして、俺はこの機会を有効活用するために、そう提案した。


「ハク、頼めるか? お前の翼があれば、時間はそうかからないと思うんだが……」

『ハク、親から離れない約束』

「……そう、だったな。なら、代わりに徒歩で行ってくれる奴はいないか?」


 俺がそっちゅう約束を破る事を警戒してか、俺にベッタリのハクは、王都へ行くのを拒否した。仕方なく、他に誰か行ってくれる奴がいないか聞いてみた。


「なら、あたしが行くわ。もう寒いところは勘弁だし、地理にも詳しい王都出身のあたしらが行った方がいいしね」

「なら、お前にこの転移魔具を預ける。これを俺の家でもいいから、あの辺りに設置してきてくれ。一応、通信用の魔具も渡して置く」


 カーペットのように筒状に丸まった転移魔具と、小石のような通信魔具を手渡す。


「おもっ。女のあたしにこれ持って旅しろって言う気? あんた正気?」

「正気だ。そこの付いていく気満々のお前の王子様に、持ってもらえよ」


 と、からかい気味に言うと。


「何? 俺が持っていくのか?」

「「お前(あんた)じゃない」」


 勘違いした元王子に奇しくも声が揃った。


 一方で、本物の王子様の方は。


「任せて! アンナを守るのは僕の役目だから!」

「ばっ……あんたそれは言わない約束でしょ!」


 こちらも少しズレていたが、アンナの顔が真っ赤になったので、まぁ良しとしよう。からかいがいがある。


「お前らやっぱあの日からデキてんじゃないのか?」


 そんな純粋な疑問に対して、さらに顔を赤くしたアンナが、爪先で俺の弁慶を強打した。そして、すぐさま足先を押さえピョンピョン跳ねるアンナ兎。俺の脛がその辺の奴らと同じと侮ったのが運の尽きだ。硬いものを蹴り続け、骨を変形させるという空手のような荒療治を課した俺の脛は、そうそう悲鳴を上げはしない。


「あ、あんたの体、ほんとどうなってんのよ! この馬鹿!」

「フッ、自分の弱点を克服するのが鍛錬の基本だ」


 千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とする。日本人なら誰でも知っている宮本武蔵の残した言葉だ。

 その本当の意味は、千日で技を覚え、万日でその技を極めるというものらしいが、俺は少し違った解釈をしている。


 千日の稽古ではまだまだ未熟。鍛錬の鍛さえこなせていない。万日の稽古をこなしてこそ、ようやく鍛錬の意味が現れるのだと。


 だから、俺はこう考えた。


 地獄の鍛錬をしたら、早く効果が出ないかな、と。


「さすがレイさん! 自分の体を爆破したり、崖から飛び降りたりしていたのは、こういう意味があったんですね! 僕はてっきり、とうとうイカれてしまったのかと思ってましたよ。特に、あのオーガの口に──」

「その話はもう止めようか! みんなが痛い奴を見るような目になってるから!」


 俺の地獄の鍛錬にドン引きする面々に、俺は共に鍛錬していたライクッドの口を塞ぎに掛かった。

 これ以上はいけない。自分でも最後の方の追い込みは、キチガイだったと自覚しているのだ。

 特に『鍛錬の締めに、オーガの牙と俺の体。どっちが硬いか試してみよう』とか口にしたのは、みんなに知られたくない過去だ。


「……あんたって昔から加減ってもの知らないわよね」

「うるせぇっ! テメェはとっとと王都に行きやがれ!」


 アンナの一歩引いたような視線とコメントに居た堪れなくなった俺はそれを誤魔化すように転移魔具を押し付け、街の外へ追い出した。

 すると、背後からギルクが声を掛けてきた。


「おい、キチガイ」

「何だ? 表に出るか?」

「俺もあいつらに付いていこう。帝国内にいつまでもいるのは、気が気ではないからな」

「そうか、わかった。──で、表に出るか?」


 俺の表に出るか、という再三の問い掛けに対してガン無視を決め込むギルク。俺は、二時間後に爆発する魔石をあいつのポケットに収納空間を使って潜り込ませると、王都へ旅立った彼らを見送った。


「……さて、あとは居残りだな。ハクが来てくれるなら、人が増えても意味ないしな」

「じゃあ、レイ達が旅をしている間、私たちは冒険者の仕事でもしてたらいいのかな?」

「まぁ、そうだな。ランクを上げて損な事はないだろうし……別に遊んでても構わないぞ」


 旅の疲れもあるだろう。休みを取ることも大切だ。


「それは嶺自達に申し訳ないわ。私達も少しくらい何かしないと」

「半分趣味みたいなもんだから、俺は構わないさ。アンナ達もそんな細かいことを言いはしないよ。まぁ、やるって言うのなら止めないけど、金を稼ぐより結衣と春樹はランクを上げた方がいいと思うぞ?」


 結衣と春樹の場合、他より遅れて冒険者になったため、ランクが低い。

 同時期に冒険者になったルクセリアは、金を稼ぐためにこまめに仕事をしていたためか、二人より一つランクが高い事もあって、パーティ内でランクの格差が生まれている。後々の事を考えると、これはあまりいいとは言えない。それは、仲間内で収入の格差が生まれる一因にもなり兼ねないからだ。


 ちなみに、今のパーティ内の平均ランクはB。

 俺がAランクなのはひとまず置いておくとして、結衣と春樹達がCランクになったばかりなのを考えると、二人には金よりも依頼数を優先してもらいたいというのが、俺の考えである。


「わかったわ。それなら、シャルステナちゃん達とは別行動で、私と春樹で簡単な依頼を回すわね」

「いやいや、俺にはリスリットちゃんと街中デートをするという予定が」

「暇なようで安心したわ」


 地味に酷い結衣は、予定が破談になることを前提に、春樹を働く組に組み込んだ。そりゃねぇよと、傷心する春樹。そこで、まさかのリスリットからの援護が……


「春樹さん、私実は欲しいものがあって……」

「おじちゃんに任せんさい。どんな高価なものでも買ってあげちゃう」


 援護ではなく、たかりだった。でも、春樹が嬉しそうなので、俺は何も言わず、ただライクッドの肩を叩いた。


「頼むぞ、飼い主」

「えっ……いつの間にその不名誉な役職に固定されたんですか、僕は」

「割と初めからだ。それより、リスリットがワガママ放題にならないようしっかり手綱は引いててくれよ」


 さて、面倒な事は丸投げした事だし、と俺はハクの頭を撫でた。


「じゃ、そういう事で。何かあったら、魔具で連絡してくれ。くれぐれも揉め事は起こさないように」

「任せて下さい。嫌々ですけど、見張っておきますから」

「今のは殆どお前に言ったんだけどな」


 冒険者関係のいざこざの第一人者であるライクッドが、その自覚がない事に対して、俺は不安を抱えつつ、宿を後にした。


『いってらっしゃいませ、マスター。クラクベール様を穢す低脳な者どもを駆逐して、お待ちしております』

「ククッ、道すがら面白い案件に遭遇することを影ながら祈っているぞ」


 ──訂正。


 俺は多大な不安を抱えつつ、その場を後にした。



異夢世界を読んでいただきありがとうございます。


もうすぐ三月に入りますが、来月は作者が立て込んでおりまして、更新が遅れる事もあるかもしれませんが、ご了承下さい。最低でも二週に一回は更新出来るよう頑張ります。



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