19.赤毛到来
俺に弟ができた。
名前はスクルト。スクルトの無邪気な笑顔に俺も家族もフニャフニャな毎日を送っている。
スクルトは母さんに似たのか、金髪の子だった。
この子は母さんに似て、優秀な魔法使いになるかもしれない。俺はどちらかと言うと、親父に似ていると言われる。つまり、俺は脳筋になるのかもしれない。
スクルトはまだ首もすわっていない赤子なので、外で遊んだりはできない。それができる頃、俺は学校でお勉強の真っ最中だ。
本気でサボってやろうかと考えたが、こないだやらかした手前、そんなことを母さんに言えるわけがない。
俺は親父と違って反省がなんたるかを知ってるんだ。まだ脳筋じゃないからな。
出産の日、俺は余り怒られたりすることはなかった。
俺の感謝が伝わって、怒りにくかったのかもしれない。
言っとくが、あれは計算でやったんじゃないからな。素直な気持ちだ。今も感謝の気持ちは忘れてない。
前世でよく親や祖父母を殺した少年などのニュースがあったが、彼らにこの気持ちを教えてやりたい。
きっと、そんなことをしでかそうとは思わないはずだ。
まぁ怒られなかったのは良かったのだが、別の問題が発生した。俺が立て替えた家の出来が素晴らしく、建設依頼が発生しまくっているのだ。
今はまだシエラ村の中だけだが、そのうち他所からも来るかもしれない。そのうち匠と呼ばれそうだ。
シエラ村の依頼に関しては、迷惑をかけたという意識があったので、舞い込んできた依頼は全てオーケーした。すると、いつの間にか村全てを建て替えることになっていた。
さすがにこれには俺も困り果てた。
そこで村長に相談したところ、村をブロック毎に分けて、一年に1ブロックといった形で建設していくことになった。ブロックは6個に分けられているので、6年計画だ。
村のみんなも、一人で1000を超える家屋の建て替えという無茶を言っている自覚があったのか、快く了承してくれた。
今年のノルマは200軒。学校が始まるまでは残り約40日といったところなので、およそ1日5軒が最低ノルマとなる。
地球なら不可能なのだろうが、ここには魔法がある。
俺の建築方法はほとんど魔法なので、魔力がある限りは特に問題ない。
迷惑をかけた分は働いて返すことにしよう。
ちなみにお金はもらえることになってる。俺が壊した分については貰えないが、だいたい一軒で10万ルトはいってくる。ルト=円と言っていいので、家の値段としては格安となっている。
材料費ほぼ0だしね。ただ、お金は全部終わってから、つまりは5年後纏めてくれるらしいので、それまではタダ働きのようなものである。まぁ、5年後1億貰えると思えば、やる気も湧いてこようというもの。俺の将来は既に安定だ。
しかし、一つ心配なのは俺が建築学を学んだことがないことだ。この村に地震が起きることがあるのかはわからないが、耐震性なんかは考えていない。
それなりに頑丈に作ってはいるのだが、地震に耐えられる保証はないのだ。
まぁそれでも前よりはマシだと思う。木を切って繋げただけよりは、頑丈なはずだ。
そのうち建築学を学ぶことがあれば、また建て変えればいいだけの話だ。
ちなみに家だけでなく、店や公衆浴場なども建て替えに入っているが、そちらは後回しだ。
それらは7ブロックとして別にしてある。
そうそう、ひとつ言い忘れていた。
実は俺が壊した家の中にディクの家もあったのだが、ディクの親父さんたちはいなかった。なんでもディクは休みが余りなく戻ってこれないので、親父さん達が会いに行っているそうだ。そういうわけで、ディクの親父さんたちへの謝罪は親父に任せた。
特別豪勢にしたから許してほしい。
この休みの間に、ディクと会えるかもと思っていたが、そうもいかないみたいだ。あ〜、俺が働いてる間もあいつは一人修行して強くなってるんだろうなぁ。
俺も修行したいよ…
まぁそういう訳にもいかないので、今日も俺はノルマを果たすべく、朝早くから家を出て仕事に向かう。
ハクも同罪なのだが、あいつは邪魔にしかならないので置いてきた。
そのうち魔法がまともに使えるようになったら、手伝わせるつもりだ。
まずは今日建て替える家の物を運び出す。それからドカンと爆発一発、そして残骸を回収。
残骸から使えそうな物だけとって、後は焼却する。それからボンと家の土台となる岩を作る。後は魔法と道具を使って形を整えるだけだ。
そうして約5時間ほどで俺は仕事を終える。
全部同じ間取りなら楽なのだが、そうもいかないため時間がかかるのだ。
それでも地球で作る時より遥かに早い。
魔法さまさまである。
仕事を終えると昼食を食べ、それから俺の癒しタイムだ。
スクルトを抱いたり、撫でたりして過ごす。ちなみにハクも一緒に撫でている。抱っこはちょっと無理みたいだ。
ハクは爪があるため、初めは撫でることを許されなかった。
しかし、ハクはよっぽど撫でたかったのか、爪を変形させるスキルを身につけてきた。
さすがは最強種、なんでもありだ。
そして、謎のスキルを身につけたハクは撫でることを許された。そのうち抱っこするために体を変形させそうだ。
竜だからやりかねない。
ハクは弟といる時は少し大きくなる。
あいつなりにプライドがあるのだろう。
スクルトが大きくなった時に、プライドで家を壊さないか心配だ。精神的な成長も促さなければならないな。
スクルトはとても可愛いのだが、母さんを取られた気がして、少し嫉妬してしまいそうになることがある。
俺もまだまだ子供だな。
精神がまだ昔に追いついてはいないのかもしれない。
記憶があるのに精神は幼い。
なんでだろうかと考えたこともあるが、答えは見つからなかった。
ただ、精神と記憶は別なんだと俺は解釈している。
日本にいた頃、ニュースで幼い頃に虐待などを受けた記憶のある子供は、精神が不安定になるといったことを、アナウンサーが言っていたのを見たことがある。
だから、精神と記憶はほとんど同じなんだと俺は考えていた。
しかし、どうやらそれは間違いのようだ。
現に俺は記憶はそのまま、精神だけを失って生まれてきた。
その理由はわからないが、精神は肉体に宿るために、肉体が幼くなったらそれにつられると言った理由かもしれない。
真偽はわからない。
たぶん、これは世界の根底に関わるような問題だ。
今の俺にそれを知る方法はない。誰か偉い学者にでも答えを教えて貰おう。
〜〜
3月15日
季節はまだ冬。暖かくなってきたが、まだまだ寒い。
スクルトはまだ外に出ていない。
母さんが言うにはもう少しだそうだ。俺はその辺のことはわからないので、母さんにお任せする。
ハクはおかしな変体を身につけた。
いや、変体じゃないなたぶん。ただ、二足歩行するようにはなった。
足の向きが変わってるような気がする。
この人化?はたぶんスクルトを抱っこするために、ハクが編み出したのだろう。
あいつのこのやる気は、どこから湧いてくるのだろうか。人間の俺にはわからないのかもしれない。
街の建築は順調だ。もうあと2、3日で終わる。
そうそう、村の名前を変えるかもしれないそうだ。これは誰かが、こんな村他にねぇよなと言ったことが始まりらしい。
俺の建て替えた建物は王都の建物に勝るとも劣らない出来だ。確かに村というには違和感がある気がしてならない。
ちなみに我が家はまだ建て替えていない。
スクルトがまだ小さいからだ。来年、建て替えるつもりだ。
そんな建築ラッシュも大詰めに入った頃、来客があった。親父たちにではない。俺にだ。
こんなことはこの村で初めてのことだ。
珍しい事もあるものだ。誰だろう?建築の依頼かな?
そう思いながら、呼びにきた村人に連れられ来客に会いに行くと、そこには赤毛の女の子がいた。赤毛の女の子は俺を見つけると、笑顔を浮かべ、大きく手を振ってきた。
「……なぜ?」
「ええっ⁉︎」
俺の素直な気持ちに、驚いた表情をしたシャルステナ。
なぜ驚く。また疑問が増えたではないか。
「いや、なんで驚いてんのか知らないけどさ、それよりなんでここにいるのさ?」
「え?」
首を傾げて何言ってるのという表情をするシャルステナ。
「いや、何を言ってるかわからないみたいな返しされても困るんだけど…」
「なんでと言われても、レイに会いにきただけよ?」
そんなことを上目づかいで言われたら、勘違いしてしまいそうになる。だが、俺は同じ過ちは繰り返さない。
シャルステナの目的は俺の顔だ。イケメンフェイスだ。
もっと具体的に言うと、シャルステナの好きな人物に似た顔を持つ俺を見に来たのだ。
まぁ、例え俺の顔だけを見にきたのだとしても、せっかく来てくれたのだ、邪険にはしないでおこうか。
……いや、なんかおかしいな。
俺の顔を見に来たのはそうなのだが……なんか意味が違う。
俺という人物に会いにきたのではなく、そう、俺という人形に会いにきたのだ、こいつは。
シャルステナの愛しい人の人形なのだ、俺は。
まぁそれは別にいいんだけどね。
例え人形でも、こいつは友達として接してくれてるし。
「そうか。なら、しばらく家に泊まってけよ。この村宿ないし」
「え?……ええ⁉︎」
なんだその間は。何を考えた今。そっちの意味じゃないぞ。まったく、この将来エロ魔女は…
「とにかく家に行こう。父さんたちに紹介しないと」
「お父様達に紹介⁉︎」
「違うからな。そういう意味じゃないからな。しばらく俺の家にいるなら紹介しとかないといかないからだからな?」
こいつはいったいどんな勘違いをして、話を聞いていたんだ。
「ほら、行くぞ」
「ま、待って!」
俺は先導して家に案内する。その後ろをシャルステナは若干顔を赤くしつつ、付いてきた。
「き、緊張すすする」
「落ち着け、また持病が出てるぞ。深呼吸しろ」
家の前に着いたところで、シャルステナは緊張からかガチガチになっていた。
たかが友達の親に会うのがそんなに緊張することなのだろうか?
本当にこいつはわからない。
シャルステナが少し落ち着いたところで中に入る。
今日はというか、また親父が働かないようになったので両親共に家にいる。
「おかえり。あら、その子は?」
「ただいま。学校の友達だよ」
「え?学校の?」
母さんは少し驚いた様子だ。そりゃそうだ。
わざわざ王都からこんな所に会いに来る奴なんていない。あと2、3週間したらどうせ学校で会うのに。
「そうなんだ。なんか、わざわざ来たらしい。だからさ、しばらく泊めてやって欲しいんだ」
「しゃ、シャルステナとお申しします!お、おお願い致します!」
あらら、また緊張しちゃってるよこの子。
「あらあら、なるほど。私はいいわよ。レディクにも聞いてらっしゃい」
母さんはシャルステナを見て納得したような顔をして、さらっと許可してくれた。
この謎の行動が理解できるとはさすが母さん。俺はただ流しただけなのに。
「父さん、ただいま」
「おう、おけぇり。ん?誰だその子は?」
親父はスクルトが寝ている部屋でくつろいでいた。
親父はここ毎日ここで1日の大半を過ごしている。夜泣きで忙しい母さんの代わりに、昼間は出来るだけスクルトの世話をしているのだ。
「この子はシャルステナ。学校の友達だよ」
「そうか、この辺りに住んでるのか?」
「い、いえ、お、王都に住んでます!」
「ほう、そりゃまた遠いところから来たもんだな」
それだけかい。それが不思議には思わないのか。
まぁ、別にいいんだけどさ……
「それでさ、今日からしばらくシャルステナを泊めてやりたいんだ。だから、父さんたちに紹介しに来たんだ」
母さんが許してくれたので、もう俺の中ではシャルステナは泊まれることになっている。
親父が俺の頼みを断るわけないと思っているからだ。
しかし、そんな俺の考えを裏切る答えが返ってきた。
「認めん」
まさかの認めない発言。
「ええ⁉︎」
思わず驚きの声が漏れてしまう。そんな俺の驚きには反応せず、親父は続けた。
「まだ、結婚するには早い」
「……話聞いてた?」
「………」
親父のまさかの結婚は許しません発言にはシャルステナも絶句している。顔が赤いのは気のせいだ。
すまないな。親父が馬鹿で。
「何がだ?」
「……」
真顔でそう聞いてくる親父。呆れて物も言えないとはこのことだ。
「あのさ、今、シャルステナを家に泊めてあげたいって話してたんだけど……結婚するとか一言も言ってないんだけど…?」
いったい何を勘違いしたら、結婚することになるのだろう。
「あ?……そういや、そうだったな。ガハハハ、悪いな、レイが紹介なんて言うもんだからよ、てっきり結婚かと」
「……もういいよ…。それでさ、泊めていい?」
「もちろんだ。ゆっくりしてけ」
「は、はい!ありがとごさいます!」
親父のお陰か、シャルステナは少し緊張がほぐれた様だ。
親父の馬鹿さもたまには役に立つものだ。
それからシャルステナに弟を紹介してやった。
一緒にいたハクが大きくなっていたのには驚いていた。
訳を話してやると、可愛いと言ってハクを撫で回していた。
そして、シャルステナがハクを撫で、ハクがスクルトを撫で、スクルトが俺の頬をつねり、俺がシャルステナのお尻を撫でるという構造が成立した。
こうして、季節外れの紅葉が俺の頬を彩った。
ハクは嬉しそうに撫でられていた。大きくなっても中身は変わらないようだ。少し安心した。
それからみんなで食事をしてその日は寝た。
家には寝る部屋が一つしかないため、シャルステナも一緒の部屋で寝た。
寝る前顔を真っ赤にしていたが、ちゃんと寝れただろうか。初めて会った人と寝床を共にするのは人見知りにはなかなか大変なのかもしれない。
次の日、俺はいつもより早めに仕事に向かった。
俺以外はみんな寝ていた。親父に一度逆だろと怒鳴りたい。
今日早めに出たのはシャルステナと遊ぶ時間を作るためだ。
ノルマはあと15軒。今日1日でやってしまおう。
今日建て替える予定の家の人たちを叩き起こしてから俺はいつものように作業を始めた。
毎日の建築によって、俺の技術もスキルレベルも上がっているため、初めよりかなりスピードが上がった。
今なら15軒建てても6時間で終わるだろう。
6時間後、俺は作業を終えて帰宅した。
「おかえりなさい。今日もお疲れ様」
「ただいま母さん」
本来は父親に向けられるであろう言葉で出迎えられた俺。親父、俺を見習えよ。
「おかえりレイ。起きたらいなかったけど、どこに行ってたの?」
俺が働いていたとは知らないシャルステナが聞いてきた。
「山に芝刈りに行ってたのさ」
もう今年のノルマは終わったことだし、わざわざ言う必要はないと嘘を吐いた。
「嘘だ。絶対嘘だ。レイが嘘をつく時は目をそらすもん」
「え?まじ?」
「本当だよ。いっつも目を逸らして適当なこと言ってるよ」
「それは気づかなかった。気をつけよ」
「嘘をつくのをやめてよ」
「嘘は人生のスパイスだ」
「はい、嘘」
「くっ」
俺とシャルステナは軽口を叩きあった。学校にいるみたいだ。
そんな俺とシャルステナのやり取りを、母さんはフフフと笑いながら、微笑ましそうに見ていた。
「レイはほんと嘘つきだよね」
「それは心外だな。俺ほど正直に生きてるやつはこの世にはいないんだが……」
「ま〜た、嘘ついた」
「今のは嘘じゃないぞ。ジョークだ」
「うっ、それを言われたら言い返せない」
はっはっは、8歳児ごとき言い負かすのに嘘は必要ないのだよ。
「レイ、今日は遅かったけど、何かあった?」
シャルステナが言い負かせれたところで、母さんが聞いてきた。
「何もなかったよ。ただ、今日全部のノルマを終わらせただけだよ」
「あら、終わったの?すごいわね。本当に全部やるなんて」
「ねぇねぇレイ、何やったの?また何かやらかしたの?」
またってなんだよ。いつ俺がやらかしたというんだ。
あ、こないだか。
いやけど、シャルステナの前でやらかしたことなんてないと思うんだが……。むしろ逆だろ。
「俺はそうそうシャルステナみたいにやらかしたりしないよ」
「どういう意味よ!」
「勘違いして人を謎の演劇に引き込もうとしたり、緊張で倒れたり、遊びに行くのにドレスできたり……」
「だから説明しないでよ!」
いつかのようなやり取りを交わす俺たちに、母さんは再びフフフと笑い声を漏らす。
「それでさ、何したのよ?」
話を戻そうとするシャルステナ。何をしたのか知りたいみたいだ。
せっかく逸らしたというのに、面倒な奴だ。
「秘密」
「えー!教えてよ!」
「嫌だね。秘密がある男の方が魅力があるからな」
本当は逆だけど。これでは単なる胡散臭い男だ。
「知りたい!教えて?」
そう上目づかいに聞かれてしまえば、話してあげたくなるのが男だろう。
だけど、あえて俺は言わない。
「レイのケチ!」
そう言って頬を膨らませるシャルステナ。
全然怖くない。むしろ可愛い。ハムスターみたいだ。
そういう仕草が俺に意地悪させたくするんだ。
「レイ教えてあげなさい。余り冷たくするとシャルステナちゃんに嫌われるわよ」
あれれ?シャルステナはいつの間に母さんを味方につけたんだ?
母さんに言われたら仕方ない。教えてしんぜよう。
「仕方ないなぁ。教えてあげるよ」
「やった!ありがとうございますお義母様」
待て待て!俺の知らない間にこの二人はどういう関係になったんだ⁉︎いつの間に義理の母になってんだよ⁉︎
「……いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
「それは女の秘密よ」
秘密の本来の使い方をしてきたシャルステナ。
そう言われてしまえば、男である俺が聞くわけにはいかない。聞いても謎が深まるだけだ。
「それより早く教えて」
「ああ。実はな、俺は大工なんだ」
「?それが秘密?」
「そうだ」
嘘は言っていないから、シャルステナは気がつかない。
嘘ではないが、本当ではないことに。
本当を織り交ぜた嘘という高等技術に、まだシャルステナは対応できないのだ。
しかし、ここには対応できる人物が存在した。
「もっとわかりやすく教えてあげなさいレイ」
こうして高等技術は敗れた。
「この家の周りだけ、なんか建物が他と違うだろ?」
「うん、なんか王都の建物みたいだった」
「あれ、俺が建てたんだよ。それで今この村ではあの
建物の建設ラッシュでさ、今日もそれを建ててきたんだ」
「ええ⁉︎うそー!」
「いやマジだから」
本当のことを言って嘘呼ばわりされた。結局、俺がいう事は全部嘘なんだな。
「本当の本当にレイが作ったの?」
「ああ、文化祭で俺の作った城見ただろ?」
「そういえばそんなことあったね」
「何?お城って」
文化祭のことを知らない母さんが聞いてきた。
「学校の文化祭で紙でお城を作ったんです。レイ一人で」
「レイ一人で?」
母さんが少し不思議そうな顔をして聞いてきた。
文化祭の出し物は普通一人でやるもんじゃないからな。
「俺しかできなかったんだ。その城を作るの」
「そうなの?いったいどんなのを作ったの?」
「広場にあるやつみたいな」
「あれを紙で作ったの⁉︎すごいわ、さすが私の息子!」
久しぶりに聞いたその言葉に俺は少し頰が緩む。
やっぱりこういう風に言われると嬉しくなる。
「何?広場の城って?」
今度はシャルステナから質問が飛んできた。
まったく、あっちに答えて、こっちに答えて忙しい。
「広場に文化祭の時みたいな城を作ったんだよ」
「え、見てみたい!」
「どうぞ、広場はあっちだ」
そう言って俺は広場の方を指差す。
「え?案内してくれないの?」
「俺は今から癒しタイムだ」
早くスクルトの元へ行かなくては。
「癒しタイム?それなら私が癒してあげるよ。だから、いこ?」
シャルステナ、君は俺をどうしたいんだい?
そんなこと言われたら、是非シャルステナに癒してもらいたくなるじゃないか。
「……行こうかシャルステナ」
「え、あ、うん」
俺が渋らずに行くとは思ってなかったのか、シャルステナは少し呆気にとられた感じだった。
俺はシャルステナの言う癒しが気になっただけさ。
「レイ」
シャルステナを連れて出て行こうとすると、母さんが俺を呼んだ。
シャルステナが先に出て、俺だけが振り返ると母さんはこう言った。
「あと7年待ちなさい」
その言葉で理性が帰ってきた。
危ないところだった。
もう少しで俺はロリコンと呼ばれることになってしまうところだった。
ナイス母さん。
〜〜〜〜〜〜
「うわぁ!本当に作ったんだ」
「……ああ」
「さすがレイね。私はこんなの作れないわ」
「……ああ」
「いや、今のは酷くない?」
「……ああ」
「自覚はあるんだ…」
「……ああ」
「ていうか、さっきからどうしたの?」
「命令を遂行している」
「?よくわからないんだけど…」
「わからなくていい」
まだわかっちゃだめだ。
今俺は君に癒しを求めるわけにはいかないんだ。
そうならないために、こうして理性を捕まえてるんだ。エロ魔女に飛ばされないようにと。
「もう、そんなに癒しが必要なの?」
「必要ないさ」
必要だと答えそうになる自分を理性で押し込む。
今日もエロ魔女は絶好調のようだ。もう将来じゃあないな。すでになってる。
「そう?それなら何かして楽しみましょ!」
「と言っても、この村特にすることないぞ?」
訓練ぐらいしかやることないぞ、ここは。
「え?じゃあ買い物でも行こうよ」
「どこに?」
「え?それはどこかお店に…」
「そうか。魚屋、野菜屋、肉屋、道具屋どれがいい?」
どうしても買い物に行きたいのなら選ばしてあげよう。さあ選べ。この遊ぶ要素の全くないラインナップの中から。
「えっと……それだけ?」
「小さい村なんでな」
「レイは……どうやって過ごしてきたのここで?」
「どうやってって、剣を振ったり、魔法の練習したり、幼馴染と勝負したりしてかな」
「おさななじみ……?」
シャルステナの目が冷たくなった気がした。
何故か母さんとシャルステナが重なって見える気がする。
「お、幼馴染はディクルドってやつでさ、よ、よく遊んでたんだ」
「男の子?そう、ならいいわ」
何故俺はこんなに焦って説明したんだろうか?
まぁシャルステナの目が元の温かさを取り戻したのでよしとしよう。
「それでさ、何かないの?」
「ないね。この村にいたから俺は芸術を身につけたんだ」
「うわぁ……私王都に生まれてよかった」
失礼な奴だな。確かにこの村には何もないが、それなりにいい村なんだぞ。みんないい人達ばかりだし、俺が馬鹿やらかしても笑って許してくれる。
「じゃあ模擬戦でもしようぜ」
「ええ⁉︎それ遊びじゃないじゃない」
「この村では遊びなんだよ。郷に入っては郷に従えって言うだろう?」
「初めて聞いた」
「えっ?そうなんだ」
この世界にはこの言葉はないのか。また一つ俺はこの世界の常識を身につけた。
「模擬戦するならかくれんぼとかにしようよ」
「……いいのか、それで?」
俺は少しトーンを落として言った。
「え?何か問題があるの?」
「いや、問題はないさ」
俺が無敵なだけで。
「じゃあ、かくれんぼで遊びましょ」
そうして、一方的な遊びは始まった。
空間探索スキルを持つ俺にはシャルステナの居場所は手に取るようにわかるため、どこに隠れようと無駄だった。
逆にシャルステナは気配遮断を使って隠れる俺を一度も見つけることができなかった。
「もうレイとかくれんぼはしない」と言った彼女は、一目でわかるほどくたびれていた。
一生懸命、必死になって探したようだ。
こうして、途中からシャルステナが加わった俺の春休みは平和に過ぎていった。
一年生が終わりました。
ほとんど授業について書いてませんが、これからもたぶん書きません。授業以外の生活を書いていきたいと思います。
次話から章が変わります。学園での生活はまだまだ続きますが、学園とは別のところでレイが活躍するお話を書いていきたいと思います。
2話と3話を加筆修正しました。大きく変わった所はありません。




