17.帰郷
春休みに入り、俺はシエラ村に帰ることにした。
生まれてくる弟か妹の誕生に間に合うように、春休みに入った次の日の今日、王都を出立する。
シャルステナ達にはテストが終わった後、打ち上げをした際に帰ると伝えておいた。休みだからと、遊びに来られても困るからな。
ゴルドは少し王都でゆっくりしてから帰ると言っていた。俺もそうしたいところだが、もたもたしていると出産に立ち会えないかもしれないので、今日帰る。
来年からは少しゆっくりしてから帰るのも、いいかもしれない。
シエラ村までは普通に歩いておよそ2週間かかる。
今日は1月15日。
普通に行けば2月までにはなんとか着く。
だけども、ちんたらしてる間に生まれてしまったら、早く帰る意味がない。
そういうわけで俺は今、山を猛スピードで駆け抜けている。なぜ道ではなく、山なのか。
それはこの方が早いからだ。
シエラ村と王都の間には大きな山があり、普通はその山を迂回する行路をとる。
その方が安全で、馬車も楽に通れる平坦な道があるからだ。
しかしだ。
俺はある程度戦うことができるし、馬車で移動するよりも走った方が速い。なら、迂回せずとも真っ直ぐ突き進めばいい。
流石に山の中で夜営したりする気はないが、移動するぐらいなら問題ないはずだ。
だが、そう上手くはいかない。
「ハアハア、まだ抜けないのか…」
足を止め、少し休憩する俺はそう呟く。舐めていた。
もうかなりの距離を走り抜けたはずだが、一向に山の頂上にさえつかない。
初めは軽い気持ちで、簡単に抜けれると思っていたが、案外この山は俺が考えていたよりも大きいようだ。
魔物はゴブリンやオークとしか出会っていないが、これ程大きい山ならば、もっと上のクラスがいるかもしれない。
その場合、必ず勝てるとは限らない。
C級なら問題ないが、B級以上が出てきたら危険だ。一度も出会った事がないから、どの程度なのかわからない。
俺は地図を広げ、空間探索で確認した周囲の地形と照らし合わせて、現在の位置を推測する。
地図が正しいのなら、やっと中腹といったところだ。
「やっぱりここから先は探知しながら進むべきだな」
空間を広げると、明らかにゴブリンやオークとは違う反応を捉えた。まだ見たことがないので、どんな魔物かはわからないが、やたらと数が多い。
もし見つかれば厄介なことになる。
俺はそう考え、ここからは空間と気配遮断を使って進むことにした。
拡大した空間は大量の情報が頭に流れ込んでくるため、激しく動きをながらだと、使用するのが困難になる。
短時間ならまだしも、長時間走りながら使用し続けるのは厳しい。なので、先ほどまでに比べると、俺の登山スピードははるかに遅くなった。
しかし、それでも迂回するよりは早い。
ここまでまだ半日ほどしか経っていない。時間的にはまだ余裕がある。少し遅くなる程度なら問題ないはすだ。
空間を使い、魔物をできるだけ避けて、登っていく。
途中どうしても避けられない場合は戦ったが、数回程度で済んだ。
初めて見る魔物だったが、特徴からコボルトだと推測した。人面犬の逆、犬面人の魔物だ。
犬の獣人が横に並んだらわからないかもしれない。
コボルトはオークやゴブリンよりも強敵とされている。何故かというと、ほとんどの集団にリーダーがいるからだ。ゴブリンやオークでもそういう魔物群れがあるにはある。
しかし、圧倒的にその数は少ない。
リーダーになれる個体がほとんどいないのだ。
その点、コボルトはリーダーになれる個体が多い。
これはゴブリンやオークに比べ、上位の個体に進化しやすいからだと言われている。
進化するのは人だけではないらしい。魔物も進化することがあるそうだ。
コボルトリーダーと呼ばれるその魔物は、他のコボルトよりも一つランクが上、D級とされている。
ゴブリン、オーク、コボルトの三体はE級、最弱モンスタートップスリーだ。
E級認定の魔物はこの三体しかいない。
一方、先程リーダーになれる個体が少ないといったゴブリンとオークのリーダークラスは、それぞれジェネラルゴブリン、オークジェネラルと呼ばれている。
こちらは数が少ないがゴボルトリーダーよりも更に上、C級認定されている。
一応、コボルトには更に上のコボルトロードという個体がいることが確認されているが、ほとんど見つかったことがない。こちらはB級の魔物だ。
中にはAに届く個体もいたそうだ。
まぁ、そんな奴はほとんどいないので、出会う事はないだろう。よしんば出会ったら、逃げることにしよう。
スキルを駆使したらどうにかなるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、少し開けた場所に出た。
「ハク、ここで休憩しようか」
「ピィ」
先程の休憩からすでに2時間程が経過しているので、少し休むことにした。
鞄から水とコップを取り出し、自分の分とハクの分の水を用意する。
「たぶんもう少しで山頂だな。後少し頑張るぞ、ハク」
「ピィ。ピピィ?」
「さあ、どうだろう。上手く行けば今日中には山を抜けれるだろうけど、無理だったら徹夜で山を抜けるしかないな」
ハクが今日は野宿なのかと聞いてきたので、野宿はしないと暗に答えた。
「ピィイ!」
野宿はしないと言った俺、にハクは文句があるそうだ。何でも徹夜は嫌だとか。わがままな竜だホント。
「別にお前は俺の鞄の中で寝てたらいいさ。思ったよりもこの山、魔物が多いみたいだからな。野宿するのは難しい」
ハクは鞄の中で十分寝れるので、ハクが寝るのは構わない。だが、俺が寝るわけにはいかなそうだ。
この山の魔物は数が多い。今までの倍は反応がある。
これがコボルトの特性なのか、はたまた異常なのかはわからない。が、俺以外に見張りが務まる者がいない今、俺が寝るわけにはいかない。
寝るのならせめてハクでも安全が確認できる開けた場所でないと危険だ。
それまでは眠るわけにはいかないと、気合を入れ再び山道を進み始める。
1時間程歩いたところで、また俺の空間に知らない魔物が引っかかった。
空間は非常に便利なのだが、空間でわかるのは動きと形、大きさだけなのだ。空間探索でも、一度出会った事がないと検索出来ない
なので、自分でそれが何なのか考えて答えを出さないといけない。
今、俺の空間が捉えた物はコボルトに似た形をしている。
しかし、筋肉の付き方や大きさが違う。
コボルトリーダーとも違う。
「……まさか本当にいるとは。……ハク、残念なお知らせだ。この先にコボルトロードがいる。しかも、そこを通らないと山の反対の斜面には行けなさそうだ」
フラグは裏切られることがないんだということが再確認できた。今後は気をつけよう。
俺はわかった情報からその魔物がコボルトロードだと当たりをつけた。
おそらく間違いない。周りに数体のコボルトリーダーと、普通のゴボルトを引き連れているのがいい証拠だ。
山の頂上は軽く断崖絶壁のようになっており、その断崖が割れているところを通らないと、向こう側には行けないだろう。
その割れ目に陣取るようにコボルトロードが居座っている。
「ピィイ?」
「確かにその方が早くは着くがな……やっぱりB級はまだ危険だろ」
戦うのかと聞いてくるハク。
迷いながらもそれにノーと答える。まだ、危険だ。
俺はまだD級までの魔物としか戦ったことがない。
そんな俺がCを飛ばしてB級のコボルトロードに挑めばどうなるか……
「ピィピィ」
ハクはそれでも戦えといってきた。いざとなれば逃げればいいじゃないかとも。
「確かにな。崖を崩せば逃げるぐらいはできるか」
「ピィイ?」
戦うのかと再度聞いてくるハク。
「わかったよ。やればいいんだろ。その代わり危ないと判断したらすぐ逃げるから、鞄の中に入って出てくんなよ」
「ピィイ!」
ハクは嬉しそうに鳴くと鞄の中に入っていった。
ハクは早くこの山から抜け出したいみたいだ。そして、早く街でゆっくり寝たいのだろう。
俺はハクが鞄から落ちたりしないよう鞄の口を軽く縛った。ちゃんと空気は入るようにしておく。
背中の剣を抜くと軽く振り、だらりと構えると目的を確認するように呟く。
「さて、コボルトロード狩りを始めようか」
〜〜
王都の近郊、そこにそびえ立つ断崖山と呼ばれる山がある。
この山は二つの山からできている。それは波のように連なるという意味ではない。二つの山が重なってできたという意味だ。
山の頂上にできた街に、神が神罰として岩石の山を降らせてできたものだといわれている。
真偽の程は定かではないが、その山はとても歪な形をしているのは事実である。
一つ目の山の頂上には断崖絶壁がそびえ立ち、まるで塔のように天空に伸びている。
その断崖絶壁は来るものを阻み、通さない。
しかし、一見通ることのできないように見えるその壁には一つだけ綻びがあった。
それはまるで剣で切り裂かれたかのように、絶壁を真っ二つに引き裂いている。
その割れ目は今、まるで関所のような役割を果たしていた。関所に陣取るのは、犬というにはいささか凶暴すぎる顔をした人型の生物だ。
その周りには同じような顔をした生物がおよそ100体。コボルトロードと、それに付き従うコボルトリーダー、ノーマルコボルトだ。
今日もそこで壁の役割を果たす彼らに、それは突然襲いかかった。突然光が遮られ、コボルトたちのいる一帯が暗くなったのだ。
多くのコボルトたちが上を見上げた。
上には断崖が崩れたかのような強大な岩があった。
それがコボルトたちに向かって落下してきていた。慌ててその場から逃げようとするコボルトたちだったが、抵抗虚しく、ほとんどが岩の下敷きになり、その生を終わらせた。
生き残ったのはコボルトリーダー数体とコボルトロード一体だけだった。
〜〜
「…外したか。だけど、まぁ、結構な数はやれたからよしとしよう」
俺は空間のスキルから伝わってくる情報から、コボルトロードを逃したことを知った。
しかし、雑魚は全滅と言っていい程の打撃を与えることができたので、先制攻撃の役割は果たせたと考えていいだろう。
「残りは直接やるか」
俺がいる場所は絶壁の割れ目の入り口だ。
ここから岩肌を崩し、コボルトたちを押し潰した。
しかし、そんな手は二度と通用しないだろう。
先制攻撃でコボルトロードをやれなかったのは痛いが、避ける際、スピードが確認できた。
その感じでは身体能力は淡い光を纏い強化したディクぐらいあると思われた。
「あれから俺がどれだけ強くなれたか知るには丁度いい相手だな」
コボルトロードという、言わば魔物の中の絶滅危惧種に出会えたことを、幸運に感じながら思ったことを口にした。
残りは7体。
コボルトロード以外は問題ないが、同時に始末するにはいささか面倒だ。
俺の位置から奴らまでは一直線でそこそこ距離がある。
なら、奴らがこちらに来る前に魔法で倒してしまおうか。
「ファイアボール」
12球の火の球が出現するとほぼ同時に、俺に気が付いたコボルトロードたち。
仲間を殺された怒りを遠吠えに変え、こちらの思い通りに突っ込んできた。
所詮は魔物。いくらこちらが不利な状況でも、こうやって策を練れば問題とならない。残りった7体のうちコボルトロードを除き、全て火の球の餌食となった。
コボルトロードだけは、その爪に纏った光で俺の魔法を切り裂いていた。
間違いない。あれは魔力充填だ。
まさか魔物もスキルを持っているとは……
これがB級か。流石にいつものように簡単にはいかないか。
「グォォオン‼︎」
威嚇するように大きく口を開け、鳴いたかと思ったら、その口に魔力の光が集まっていくのが見えた。
あと数メートルといったところで、俺は自分の剣にも魔力を通した。
そして、俺とコボルトロードの距離がなくなり接敵した。
コボルトロードの攻撃は魔力充填で強化した爪と牙だった。
こちらの攻撃は剣と魔法。
手数はほぼ互角。しかし、その戦闘を有利に運んでいるのは俺だ。
俺もあれからずいぶんレベルが上がった。
そのお陰であの頃のディクと同じくらい動けてる。
強化系のスキルを使わずにだ。
かつて、これ程の身体能力を持たずしてディクと引き分けたんだ。同等の身体能力を有した今、コボルトロードに強化系のスキルを使う必要なんかなかった。
徐々に押され始めたコボルトロードは一旦距離を取る。
俺は警戒しながらその様子を眺めていた。
不利な状況で距離を取ったのは何か別の技を使うためだと考えたのだ。
そのため距離を詰めず、傍観することにした。
コボルトロードは身を屈め、真っ直ぐこちらに飛びかかってきそうな体勢をとった。そしてその身体が光に覆われた。
コボルトロードの狙いを直感的に感じ取った俺は、剣を両手で上段に構え、火剣を発動。
しばしの硬直状態。それは突然コボルトロードによって破られた。俺の予測通り、身体を一気に伸ばし魔力の弾丸と化したコボルトロード。
その弾丸を真っ直ぐ剣を振り下ろし、受け止める。
お互いの魔力充填で補強された剣と身体がぶつかり合った。
キィンというとても身体で剣を受け止めたとは思えない音が聞こえ、弾丸はその勢いを殺された。
やがて完全に勢いが止まったと同時に、その身体は火に包まれた。
コボルトロードの魔力が競り負けたのだ。
俺の魔力が奴の身体の魔力に打ち勝ち、守りをなくしたその身体は俺の魔力を変換した火に包まれることになったのだ。
それだけでは終わらない。
守りをなくした身体では俺の剣を止めることはできない。コボルトロードは火に包まれながら、真っ二つに分断された。
分かれた後も、勢いを落とすことのない火で完全に燃え尽きた。
俺は火が消えるのを見届けてから剣を収め、軽く息を吐いた。
「ふぅ、案外なんとかなるもんだ。ハク、出てきていいぞ」
鞄を縛っていた紐を解き、ハクを外に出してやる。
「ピピィ!」
「まぁな、スキルを使ってきた時には驚いたけど……」
「ピイ?」
「魔力充填を使ってきたな」
スキルを使ってくる魔物がいるとは思わなかった。
魔物は普通に火吐いたりするもんだと思ってたけど、実はそれもスキルなのかもしれない。
進化もするらしいし、魔物と人って案外あんまり変わんないのかもな。ハクは俺たちを襲ったりしないしな。いや、ハクは魔物じゃなくて魔獣だったな。違いがよくわからんけど…
けど、魔物もスキルを覚えれるならハクも覚えられるんじゃないか?
「ひょっとしてお前もなんかスキル持ってんじゃないのか?」
「ピイ……」
わからないそうだ。
俺もプレートがなければどんなスキルがあるのかわかんないしな。
「そうか。まぁ俺がそのうち鑑定スキルとったら見てやるさ」
「ピィイ!」
いつになるかはわからんけどな。
〜〜〜〜〜〜
「着いた!帰ってきたぞハク!うおおおおお懐かしいいいいい!」
「ピィイイイ!」
コボルトロードを倒した次の日、俺たちは村の入り口で奇声をあけた。
あの山は昔父さんといった湖のある山と同じだった。
なんか見たことあるなと思って下山してたら、湖があった。
その時にはすでに真っ暗だったが、夜眼と空間探索を持つ俺には特に問題にならなかった。
湖を見つけ、思ってたよりもショートカットしてこれたことが嬉しく、徹夜でシエラ村まで戻ってきた。
とうに眠気はなくなり、俺とハクのテンションは少しおかしなことになっている。
真夜中に叫んでしまうくらいには……
「ハク!早く家に行こう!」
「ピィイ!」
真夜中の村は静かだ。それはもう三軒隣の夜の情事が聞こえてくるくらいに。
その中で大きな声を上げればもちろんこうなる。
「うるせぇぞコラ!」
「夜中に騒いでんじゃねぇ!」
「久しぶりだなガキ!」
「元気そうで良かったぞこの野郎!」
一部帰郷を祝う声が混じっているが、うるさいことには変わりはないので俺たちは静かに家に帰った。
怒れる魔女を発動させずに済んで良かった。
「た、ただいま?」
「ピ?」
ゆっくりと家の扉を開けて中を覗き込む。
家の明かりはもちろん消えている。
二人とも寝てるのだろうと起こさないように静かに中に入る。
二人はやっぱり寝ていた。
一緒の布団で、裸のまま抱き合いながら寝ている。
俺はそっと扉を閉めた。
〜〜〜〜〜〜
「なんだこれは……」
「いったい何が……」
「誰の仕業なんだ……」
朝、シエラ村の男たちが目の前に立つものを見て動きを止めていた。いつものように仕事に行こうとして、広場を通ったら昨日までなかったものが建っていたのだ。
「おい、誰か村長呼んでこい!」
男たちがたむろする中、誰かが言った。
その声を聞いて村長を呼びに行った者がしばらくして村長を連れて戻ってきた。
「いったいなんじゃ朝っぱらか……なんじゃこれは⁉︎」
「さあ?朝起きて広場に来たらこうなっていて……」
「こんな所に城を建てる奴なんじゃワシは知らんぞ」
そう彼らの前に建っているのは城だ。
無駄に芸術的な。
王立学院の1年生が見たのならば、これをやった者に心当たりがあることだろう。
「ひょっとして……」
1人の男がまさかという顔をして声をもろした。
「なんじゃ心当たりがあるのか?」
すぐさまその声を聞いた村長が問いかける。
「心当たりというかなんというか……昨日の夜、レイが帰ってきたんですよ」
懐かしい名前を聞いた村長と村人たちは直後納得といった顔をした。
「犯人はあやつか」
「でもなんで城なんか……」
「とりあえずレディクの家に行ってみよう」
「ワシが行ってくるとしよう」
やれやれといった仕草をしながら村長がレイがいるであろうレイの家に向かい、集まっていた者たちはみな仕事へと向かいその場は解散した。
〜〜
「は?レイ?」
「そうじゃ」
間抜けな声を出すレディクに村長は軽く頷き、レイを呼んできてくれと言った。
「ジジイ、ボケてきたのか?レイなら今王都で勉強中だぜ?」
「ボケとらんわ、まだの。昨日、レイが帰ってきた所を見た者がいてのう」
レディクが村長のボケを心配し、それに村長はレイが帰ってきたと告げた。
「見間違いじゃねぇのか?うちにゃ戻ってきてないんだが…」
レディクが首を傾げながら、一応ミュラにも確認をとる。
「ええ、帰ってきてないわよ。村長さん、それは本当にレイだったんですか?」
「ワシも聞いただけじゃからのう。ただ……」
「ただ?」
再度確認をとったミュラが続きを促す。
「ただ、朝起きたら広場に城が建っとった」
「………」
「……レイだ」
〜〜
「う〜ん、よく寝た〜」
清々しい朝だ。
やはり部屋が素晴らしいからだろうか?
俺が目を覚ましたのは寮の部屋でも、まして実家でもない。
俺が目を覚ましたのは城の一室だ。
城の外には城下町、シエラ村が広がっている。
昨夜、家に帰ると俺の居場所がなかったので、俺は寝床を作ることにした。
とりあえず土魔法で家らしき物を建てたのだが、夜中のおかしなテンションだった俺はそれに納得できず、ついついまた城を建ててしまった。
これで3つ目だ。
城は相変わらず見事な外見をしている。
おおよその形を土魔法で作り、後は剣や手で削り完成させた。
ちゃんとハクの人形も城の天辺にくっつけた。
そろそろ国旗を考えた方がいいかもしれない。
「レイ‼︎出てこい!いるんだろう⁉︎」
俺が部屋の装飾を施していると、外から大声で俺を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、父さん!ただいま!」
城門から出た俺は親父にただいまを告げた。
「ただいまじゃねえ!これはなんだ⁉︎」
「これ?ああ、これか。これは城だよ」
見たまんまじゃないか。
「そういうことじゃねぇ!なんで城なんか建てたんだ⁉︎」
「え?だって……夜中に帰ると迷惑かなって」
親が裸で抱き合ってたからとは言うわけにもいかず適当に誤魔化した。
「それは…そうかもしれんが……城を建てなくてもいいだろ」
若干間が空いたのは昨日のことを思い出したからだろうか?
親父にしても、その時に帰ってこられたことを考えたら、帰ってこいとは言えなかったからだろう。
「ははは、なんか、城にしたくなったんだ」
笑いながら俺は適当なことを言って誤魔化す。
「そうか。なら、仕方ない」
親父はしたいと言ったらなんでも許してくれる人だからこれで誤魔化せたようだ。
まぁ完全に嘘ではないからいいだろう。
夜中の謎テンションで城を作りたくなっただけだとしても……
〜〜〜〜〜〜
「ただいま〜母さん」
「レイ!お帰り、風邪とか引かなかった?」
母さんは大きくなったお腹を庇いながらも、俺を抱き抱える。
そんなに大きいのに昨日……やめておこう。
親のそういったことには触れてはいけないのだ。
触れたらどちらも居た堪れなくなるのが、この世の摂理だ。
「大丈夫だよ」
俺はスルーしてそう返す。母さんがやる事に意見を言ってはいけないのだ。
「どうやって帰ってきたの?」
「ええっと、山を越えて……?」
「山?まさかレイ、断崖山を越えてきたって言っているのかしら?」
俺にはわかる。
今母さんは笑顔だが、その中身は怒れる魔女だということが。
俺は冷や汗を流しながらも、あらかじめ決めていた答えを返した。
今回の事は覚悟していたことだ。
母さんは俺を7歳児扱いしているので、そういった危険なことをすると怒るのだ。
だけども、せっかく弟か妹の誕生に立ち会えるチャンスなのだ。
ひょっとしたらこれがラストチャンスかもしれない。
それを逃すという考えは俺にはなかった。
なので、今日は素直に怒られようではないか。
ちゃんと磔にされないよう言い訳は考えてきてる。
問題ないはずだ。
それでも震えが止まらないのは、磔が俺のトラウマだからだろうか。
「そ、そうだよ。あの山を越えないと、し、出産に立ち会えないかもだから……。ど、どうしても見たかったんだ。僕がどうやって生まれてきたのか」
後期の間、悩みの抜いた言い訳だ。
半分ホントだが、もう半分はわざわざ遠回りしてくるのが面倒だっただけだ。
「出産予定日は来月よ?」
「え?」
「え?」
まさかの宣告。
あれ?4月に妊娠がわかったんだよな?
そういうのがわかるのってだいたい3ヶ月じゃないの?
そっから逆算して1月ごろだと思ったのに…
てかちょっとまて。
今の何かおかしかった。
俺が呆気に取られたのはわかる。だが、何故親父が同じ反応をする。
また、忘れてたのか?
「レイにも抜けてるところがあるのね。……レディク、私こないだ言ったわよね?」
「えっ、いや、その、なんだ。……忘れてた」
頭を掻きながら言った親父に、母さんは冷たい視線を向けてから俺の方へと向き直る。
「レイ、今度から山越えはダメよ?」
「え、うん」
「今日は豪勢な夕食を作りましょうか。楽しみにしててね。ちゃんと二人分用意するから」
「え?あの、俺は?」
「あれ?あなたいるの?仕事にでも行ってきたら?」
飯抜きと暗に告げられ慌てる親父に、母さんは冷たく返す。
「いや、今日はやす…」
「レイ、学校でどんなことしたか教えてくれる?」
母さんは俺を抱き抱えたまま奥へと入っていった。
親父を一人残したまま。
……哀れ親父。




