150.生まれた意味
新章『灼熱の英雄』開幕!
物心がついた時からずっと考えていた事がある。
俺は何故生まれて来たのだろうと。
意味などなかった。俺は18番目の王子で、沢山いる替え玉の、その最底辺。もはや存在する意味などない。
ならば、何故俺は王子として生まれてきたのだろう?
もっと普通の家に生まれれば、面倒な貴族との会合に出る必要もなく、学友のように好きな事だけを出来るというのに。
存在する必要もないのに、俺は国という縛りに雁字搦めにされ、王都を離れる事すら容易ではない。
いつか、恋した人に頼まれて、二人で旅行に行った時も、隠れて付いてくる護衛がいたのも知っている。
結局、俺は必要もないのに、ここに縛り付けられる運命なのだ。
その事を悲観的に思えば、キリがない。だが、今の暮らしに文句があるわけではない。むしろ恵まれていると思っている。
ただ、ほんの少し、俺にないものを持っているあいつに憧れを持っているだけだった。そう、本当に少しだけ。
だから、俺はその知らせを受けて、どうすれば良いのか、わからなかった。
なれる筈がなかったものに、なる事が出来ると知った時、嬉しかった。
父が死に遺言で、次の王が俺だと言われた時、初めて生まれてきた意味を感じた。
「ギルク、王様になる覚悟はあるのかい?」
尊敬する兄上から言葉。
「あります」
俺はそう答えた。
「そうかい。わかったよ、ギルク」
そう言った兄上の背中は何処か悲しげに見えた。
その理由を、俺は履き違えていたのかもしれない。兄上が沈んでいるように見えたのは、これまでの努力が意味を失くしてしまったからだと思った。
けど、本当は……
────俺を殺さなければならなくなったから……だったのかもしれない。




