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14.ある日の休日

 5月28日。

 授業が始まってからおよそ2ヶ月が過ぎた。

 今日は休日で、学校はお休みだ。


 村を出ておよそ2ヶ月。学院での生活にも慣れてきて、生活スタイルと言うものができてきた。

 授業のある日は、初日からほとんど変わっていない。1日の中心が授業だからだ。それを中心に回っているために大きく変わる様な事はない。


 朝起きて稽古をしてから、学校へ。剣術の授業を受け、障害物競走が始まり、景品の席を4つ確保する。昼からは睡眠と魔法の授業があり、それが終われば広場で喋ったりしてから夕食をとり、帰宅。


 毎日、こんな感じだ。ゴルドとアンナが昼食に加わった以外特に変わったところはない。

 授業の方は何も問題ない。すでにわかっていることばかりだ。高学年に期待したいと思う。このままでは何のために学校に来たのか分からない。


 授業は週5日、休日は2日のゆとり世代のものとなっている。

 休日は特にやることもないので、ギルドに行ったり、シャルステナの恥ずかしい行動に巻き込まれたり、ゴルドを鍛えたり、アンナのアニキのパンツ強奪作戦に連行されたりといろいろなことをしている。

 今日はそんな休日について話そうと思う。


 〜〜


 ある日の休日のことだ。


 朝早くからシャルステナがやってきた。

 格好は煌びやかなドレス姿だった。一眼で金がかかっているとわかるような、ゴージャスドレスだ。まるでお姫様の普段着のようだった。


「何か用かいお姫様?」


 こんな格好で俺になんの用事だろうかと、ストレートに聞いてみた。


「お、お姫様⁉︎」


 俺は眼の前でパチンと手を鳴らし、驚きトリップ仕掛けた呼び戻す。もう慣れたものだ。


「わわわたくし、に遊びに、なさい、いませんか?」

「落ち着け。何が言いたい」


 また人見知りの発作だ。いつになったら治るのやら…

 もう俺に人見知りする必要も理由もないだろうに。


「スーハー………あの、わ、私と遊びに行きませんか?」

「どこに?」


 少し硬い喋り方で、遊びに誘ってきたシャルステナ。

 人見知りの彼女は、勇気を出して来てくれたのだろう。それは格好を見ればわかる。

 だが、その格好で遊びに行く場所を俺は知らない。

 貴族御用達の遊園地でもあるのだろうか?


「それは大通りにでも行って…買い物?」


 疑問系で返してきたシャルステナ。具体的な内容は考えてなかったようだ。

 それは別に構わない。だが、そのドレスはなんだ?

 俺は大通りにそんな服で行く店を俺は知らないぞ。


「……とりあえず、大通りに行くか」

「うん!」


 面倒事を覚悟しながらも、大通り行きを決めた。それにシャルステナは嬉しそうに頷いた。

 そうして、二人で大通りに向かった。シャルステナの格好については触れなかった。


「なんか見れられてる気がする」


 大通りに着くと、やっと周りから視線を集めている事に、シャルステナが気がついた。


「その格好で見られないわけがない。ちっちゃいどこかの姫様みたいだ」

「姫だなんてそんなぁ〜」


 頰に手を当てクネクネしだすシャルステナ。やめてくれ。余計に変な眼で見られるだろ。


「褒めてないからな」

「ええ⁉︎」

「むしろ馬鹿にしてる」

「ひどい!一生懸命おめかししたのに」


 それは見ればわかる。おそらく初めての友達と遊びに行くのに気合を入れすぎて、空回りしたのだろう。

 俺にも似た様な経験がある。あれは5歳の頃の話だ。

 ディクが受験勉強を始め、俺がボッチになる直前の話だ。


 あの日、俺は友達を増やそうと、木剣を持って、広場で遊ぶ子供の輪に加わろうとした。その時、俺はこの世界の子供は、木剣でチャンバラしたりして遊ぶのが当たり前だと思っていた。


 だけど、それは間違いだった。そんな痛みが伴う様な遊びを、普通の子供はやりたがらなかったのだ。やった事はあるらしい。だが、痛いから、怪我するからと言った理由で、チャンバラし続ける様な子供は俺とディクしかいなかったみたいだ。


 結果、俺はボッチになった。お祭りでの事も重なり、俺が木剣を持って近づくと、逃げ出す始末だ。泣いた子もいた。そして、俺は母さんに叱られる事になった。

 初めはやる気満々で近づいたのに、最後には俺が泣きそうになっていた。


 思い返してみると、今回の件とは少し違うかもしれない。俺の場合はやる気が空回りする暇さえ与えられなかった。せめて空回りさせて欲しかったものだ。


「限度があるだろ。やり過ぎだ。街に遊びに行く格好じゃない」


 時と場所と用途を考えて選んでほしい。次からは気をつけて欲しいものだ。毎回これでは、俺はその内逃げ出すようになるだろう。


「うぅ〜、恥ずかしい」


 奇遇だな。俺もだよ。


「今さらだ」

「どういう意味よ!」

「あの子学校であんな格好してどうしたんだろう? あの子こんな下町であんな格好してどうしたんだろう? あの子大通りなんかであんな格好してどうしたんだろう? の今さらだ」


 意味を聞かれたので説明してあげた。

 これで理解が進むだろう。今後に生かしてほしい。


「説明しないでよ……余計恥ずかしいよ」


 俺も恥ずかしい目にあってるんだ。これぐらいの仕返しはさせて欲しい。


「まぁ、とりあえずまずはその格好をどうにかしようか」

「着替えに戻るの?」

「それは面倒だから、店で買おう」


 ここまで出てきたら、戻るのも面倒だ。買う方が早い。

 それに遊びに行く格好というものを、シャルステナに教えてあげたい。


「お金そんなに持ってきてない……」

「問題ない、金ならある。ちょっとギルドに行くぞ」

「ッ‼︎」


 俺はシャルステナの手を取って、大通りを走り抜けた。一秒でも早くこの恥ずかしい格好を変えさせたい一心でだ。


「ここで待っててくれ」


 大通りを、ドレス姿で走り抜けたのが恥ずかしかったのか、林檎のように真っ赤になったシャルステナは、こくこくと頷くだけで、何も言わない。


 俺はシャルステナをギルドの中で待たせ、自分はギルドの銀行窓口に向かった。


「すいません、10万ルト引き出したいんですが」


 そう言ってカードを渡す。


「おや、レイの坊やかい。10万ルトだね、はいよ」


 ガシャンと音を立てて置かれた金の入った袋とカードを受け取り、シャルステナの元に戻る。


 シャルステナはまだ真っ赤なままだった。

 こういう時は深呼吸させるに限る。させないとおかしなことをしだす。

 シャルステナに深呼吸させて落ち着かせ、ギルドの酒場のマスターにジュースを二つ注文する。


 お礼を言いながらジュースを受け取ったシャルステナ。まだ恥ずかしそうにしている。

 ここは大通りよりも人が少ないので、恥ずかしさもましになるだろう。


「ちょっと休憩してから、服を買いに行こうか」

「で、でも、私そんなにおこずかいないから……」

「いいって、俺がプレゼントしてやるさ」

「えっ⁉︎………………………あ、ありがとう」


 何かシャルステナの中で葛藤があったようだが、結局服を買ってもらうことにしたようだ。俺は金が有り余っているので、服を買うぐらいは全然問題ない。


「…イ…らのプ……ント」

「ん、何だ?」

「う、ううん。なんでもない!」


 何かボソボソと言っていたが、よく聞こえなかった。

 が、なんでもないと言うのなら聞くまい。


「レイじゃねぇか! 今日は休みか!」

「うるさいよ、そんな近くで叫ばなくても聞こえるよ」


 話しかけてきたのはバジルだ。

 あれからちょこちょこと休みのたびに顔を出していたので、結構このギルドでは俺の存在は有名だ。だって、ちっこいからな。目立つ。


「まぁいいじゃねぇかそんなこと。それよりそっちのお姫様はお前の女か?」

「女⁉︎」

「違うわ、学校の友達だよ」

「友達…」


 俺とバジルの話しにシャルステナが反応しているようだが無視する。何に反応しているかなんとなくわかるが、めんどくさいので無視だ。


「なんだ、そうなのか。面白くもねぇな」

「知らないよ。バジルは何してんのさ。仕事いきなよ」

「ばっきゃろう。みんながみんな、仕事しにギルドに来るわけじゃねぇよ。今日はな、呑みに来たんだ」

「早いよ。まだ朝だぞ」


 ニヤッと笑いながら呑みにきたというバジル。しかし、まだ昼にもなっていない時間だ。呑むにはまだ早い。


「大人は朝から酒呑んでいいんだよ」

「ただ、呑んだくれなだけだろ」


 大人はみんな朝から働いてるんだ。そんなのはお前だけだ。周りに謝れ。


「ほんと、かわいくないガキだぜ。親の顔が見てみてぇ」

「シエラ村にいるから、行ってきたらいいじゃないか」


 今頃はきっと二人でイチャついている。俺が学校に行くと言い出した頃から、ラブラブに戻ったからなあの二人。いや、戻ったのは母さんだけか。親父は最初から変わってない。母さんが相手してなかっただけで…


「それは面倒だ」


 我儘なおっさんだ。こっちが親の顔が見てみたい。


「呑んだけくれは置いといて、そろそろ行くかシャルステナ」

「え、あ、うん」


 シャルステナは、俺とバジルを交互に見ながら頷いた。


「お?いくのか?あんま前みたいに無茶すんなよ」

「あれは誰かさんが見捨てたせいだ」


 俺はあの眼を忘れてないぞ。


 〜〜


「これなんかどうかな?」

「ん?いいんじゃないか?」

「これは?」

「いいと思うぞ」

「うーん、じゃあこっちは?」

「うん、いいじゃないかな」

「もう!さっきからなんか適当!」

「いや、だって…」


 今俺たちは大通りの服屋にいる。

 バジルと別れた俺たちは、そのまま近くの服屋に逃げるようにして入ったのだが、そこで俺はずっとシャルステナに感想を言わされ続けている。

 もう3時間はたった。


 俺はそれほど言葉のレパートリーは多くない。3時間も服の感想を求め続けられても困る。

 もうどれでもいいんじゃないかな?

 正直、シャルステナはどれでも似合うと思う。


 しかし、それでも妥協しないのが女だ。全然決まる気配がない。

 女の買い物をなめていた。ここまで大変だとは…


「もういい!これにする!」


 へそを曲げてしまったシャルステナ。これは彼女の機嫌をとるために、さらに散財するしかないかな。


 服は全部で2万ルトほどだった。

 まだ8万と少しばかり余裕があるので、ちょっと豪華な食事でもして機嫌をとろう。



 〜〜


「わぁ!美味しそう!」


 ちょっとお高めな店で出てきた食事に笑顔になったシャルステナ。

 ふっ、チョロいな。


 シャルステナの機嫌が直ったところで、俺もゆっくり食事を開始する。

 メニューは川の幸の盛り合わせと肉だ。

 肉は俺専用のものとなっている。

 いくら子供の胃袋とはいえ、川の幸の盛り合わせを二人で分けたら俺は足らないのだ。


 昼食を食べていて気がついた。

 ハクを忘れてた。あいつちゃんとご飯食べてるだろうか?心配になってきた。一度戻ろうか?

 いやでも、あいつ寝てそうだな。いっつも俺が起こさないと起きないからな。最近怠惰だからなあいつ。

 まぁいいか、寝させておけば。


「うん、うまい。これはなんて魚?」

「これはハゲウオよ」

「はげ?んじゃこっちは?」

「ツルツルウオよ」

「つるつるハゲ?じゃあこれは?」

「ピカピカウオよ」

「ピカピカつるつるハゲ?」


 悪意を感じるのは俺だけだろうか。

 どう考えてもおちょくってるな。まぁ俺はハゲじゃないからいいけどさ。


 俺は悪意を感じる並びの魚たちを美味しく頂き、肉も頂き、店を出る。

 そして、店を出るときに俺は見た。店主の頭がピカピカつるつるハゲだったのを…


「自虐かいッ‼︎」


 俺のツッコミが店主の頭にヒットした。


 〜〜


 昼食を取り終えた俺たちは学院に戻ってきていた。大通りにいたくなかったのだ。俺が…

 今日はもう買い物に付き合うのは勘弁である。

 とっとと安全地帯に逃げ込むに限る。


 安全地帯、広場の椅子に腰掛け、平日の放課後の様に会話する。シャルステナのドレスに始まり、ギルドやハゲの話をしてから、話題は俺の授業態度に移っていった。


「レイはいっつも座学寝てるよね」

「だって、ほとんど知ってるから、別にやらなくていいからな」


 寝るほうが時間を有効活用している。その分を朝に回せるからな。


「私だってそうだもん。だけど、一番前だし…」

「それは入学生代表に選ばれたお前が悪い」

「悪くないよ! 知らないからね? テスト前に泣きついてきても」

「大丈夫だって、たまに起きてるし」


 泣きつくわけないだろ。7歳児の勉強は2歳の頃には終わってるんだ。余裕だよ、余裕。


「大丈夫じゃなさそうだから言ってるのに……それに他の授業もやる気ないじゃん」


 シャルステナは俺のことが心配のようだ。Aクラスから落ちてしまうんじゃないかと、心配してくれてるみたいだ。

 しかし、俺は落ちることはないと思っている。

 剣術はシャルステナと他の子達より、レベル高い模擬戦をしているし、座学は置いといて、魔法もかなり優秀な方だ。

 それに、前提として、全て手を抜いている。落ちるわけがない。


「それはシャルステナだけには言われたくないな。お前も手抜いてるくせに」

「わ、私はレイに合わせてあげてるの!」

「そんなの言い訳だ」


 俺はシャルステナに手を抜かれる程弱くはないぞ。

 シャルステナがちゃんとやるなら、俺だってちゃんとボコボコにされるさ。本気は出さない。ボッチ脱却のために…


「ほんとよ!私が本気出したら、今のレイなんてチョチョイのチョイなんだからね!」


 なめられている。

 この女、人が大人しくしてたら調子に乗りやがって。

 だが、この程度で怒る俺ではない。

 相手は子供。俺は……大人手前…?とにかく、これしきでは怒らない。


「はい、そうですか」

「何よ、信じてくれないの?」


 何故そんな悲しそうな顔をする。嘘だと思われたのがそんなに嫌だったのか?

 しかし、俺はシャルステナの実力はそれなりにわかっている。だから、そんな顔をしないでくれ。


「信じてるさ。というか、試験の時に見た」

「ホントに⁉︎」


 シャルステナは感情の上下が激しい。コロコロ変わる。話していて面白い。というか、見ていて面白い。巻き込まれなければな。


「ああ」

「よかった〜。見てくれてたんだ」


 そっち…?

 信じてくれてよかった、じゃないのかよ。やっぱり俺と彼女の思考回路には違いがあるようだ。

 多分、線がおかしな所に繋がってるんだろうな。


 それから、夕方になるまで話をして、夕食を食べてから帰った。

 その後、ハクに夕食を食べさすのを忘れてたことを怒られ、俺はもう一度夕食をとることになった。昼は別にいいそうだ。寝てたらしい。やっぱりな。


 こうしてシャルステナとの休日は終わった。

 次はゴルドとの休日に話そう。


 〜〜


 また、ある日の休日。


「ゴルド、今日は魔法について勉強しよう」

「また?ぼくたまには休みたいんだけど…」

「そんなことでは立派な冒険者にはなれないぞゴルド!さあ、やるのだ、学ぶのだ」

「なんか口調変わってない?」

「気のせいさ」


 俺は休日暇があればゴルドを指導している。

 それは何故か。

 俺は彼にウサギになってもらいたいのだ。


 俺は今シャルステナと模擬戦をしている。これは初めて組んだのが俺と言う理由と、俺以外に彼女の相手ができるものがいないからだ。

 しかし、彼女はいつも本気でやらない。これでは彼女の成長が望めない。

 俺が本気でやればいいのだが、今はまだその時ではない。まずはボッチ脱却からだ。


 そこで白羽の矢が立ったのが彼、ゴルドだ。是非彼にウサギになってもらいたい。なので、俺はゴルドを強くすることに情熱を燃やしている。

 名付けてゴルドウサギ化大作戦!

 ゴルドの夢のためにもなる素晴らしい作戦だ。


 今ゴルドはすごいスピードで成長している。かつての俺とディクのようだ。

 俺は今、いけると確信している。


 彼は非常にセンスがいい。魔法以外は。

 実に無駄のない動きをして、恐らく俺とシャルステナを除けば一番強い。魔法以外で。

 たぶん、スキルは身体強化系で固めてきている。


 なら、その方向で伸ばそうと、初めの頃から鍛えまくっていたのだが、問題が出てきた。

 魔法が苦手すぎるのだ、彼は。

 このまま放置していれば、ゴルドはAクラスから落ちてしまう。

 なので、俺はマリスさんの魔法講座を開くことにした。


「よくわかんない」

「わかる。わかるからわかれ」

「無理だよ〜」

「仕方ない奴だな。何がわかんないんだ?」

「イメージって何?」


 そこから⁉︎

 お前今までどうやって魔法使ってきたんだ。

 最重要ポイントだろ、そこ。


「…イメージはあれをどうしたいとか、こんな感じかなみたいに物を想像することだ」

「わかんない」


 俺もわかんねぇよ。イメージをどう説明していいかなんて。


「あれだ、今日の晩飯に食べたい物を思い浮かべてみろ」

「うん……じゅる」

「ヨダレをふけ。…それがイメージだ。物を思い浮かべることだな」

「そっか、じゃあこれは『肉』+『焼く』=『うまい』って意味なんだ」

「そうなんだけど……なんか違う」


 お前は食いしん坊か。

 ゴルドの食いしん坊疑惑が上がったところで、次の質問が飛んできた。


「イメージの合成ってどうするの?」

「それはな、例えば土は脆くてすぐ砕けたりするだろ?」

「うん」

「その土を固くて大きい塊にしたいとイメージしたら『土』+『かたい』+『塊』=『かたい土の塊』になるわけだ。けど、これは別に岩を思い浮かべても同じものができるだろ?」

「そっか、岩っていったら土でできたかたい塊ってイメージがあるもんね。なるほどそういう風にやるのか。『肉』+『焼く』=『焼き肉』ってしたらいいんだね」


 何故全て肉する。お前は肉にしか興味がないのか。


「この干渉によって必要な魔力が変わるっていうのは?」

「それは無視しろ。考えても仕方ない。必要なのはイメージのところだけだ」


 魔力消費については俺ぐらいになってから考えればいいんだ。

 まともに魔法が使えないのに考えても仕方ない。


「わかった。じゃあ、僕はどうすればいいの?」

「簡単だ。どんな魔法を使うか、その本に書いてある通りの方法でやればいい」

「うん、じゃあ、ファイアボール」


 火の玉が出現した。


「………………撃てよ!」

「え⁉︎どうやるのさ?」

「まじか?お前まじか?どうやってAクラスになったんだよ」

「それは岩を落として的に当てたんだ」

「よくわかった。お前さては魔力操作のスキル取ってないな?」

「なにそれ?」

「はぁ、まさか魔力操作の手順とばして魔法を使ってるとは…まずな、自分の体内にある魔力を意識しろ。それを少しでいいから操って体の外に出してみろ」

「うん」


 俺は魔力感知を使いゴルドの魔力の動きを感じる。

 まったく動いていない。


「もっと意識しないとダメだ。精神を研ぎ澄ませるんだ」

「うん」


 ちょっと動いた。


「そうそうその感じ。今、感じたものを動かしてみるんだ」


 ゴルドの体内から少量の魔力が放出された。


「できたかな?」

「ああ、できてた。たぶんスキルが増えてるはずだから後で確認してみろよ。しばらくはそれのレベル上げといたらいい」

「わかった。そうするよ」


 こうして、第一回魔法講座は終わった。

 前途多難だ。

 ゴルドをAクラスから落とさないためにも、今後もこれは続けていこう。


 最後にもっとも疲れた休日について語ろう。



 〜〜〜〜〜〜

 またまた、ある日の休日。



「パンツが欲しい」


 そう女の子に言われたらどうするだろうか。

 俺はバタンと窓を閉めた。


 ドンドンドンドン!

 うるさいので窓を開けた。

 すると三階の窓に、雨除けのわずかな隙間に立った少女が現れた。

 彼女の名前はアンナ。

 一応友達だが、俺としてはあまり深く関わりたくない。


「おっじゃましまーす!」


 アンナは俺の許可も取らず勝手に上がり込む。蹴り飛ばしたくなった。


「おい、ブラコン勝手に入るな」

「へーこれがレイの部屋か〜、何にもないね〜」


 無遠慮な視線をばら撒き、ブラコン女は部屋を見渡す。


「ほっとけ。何の用だよこんな夜中に。言っとくが俺のパンツはやらんぞ」

「そんなものいらないわよ。シャルにあげてよ」

「そんなものいきなり渡したら、ドン引きされるだろうが」


 俺とシャルステナはお前と違ってノーマルなんだよ。


「私が欲しいのはあんたじゃなくてお兄ちゃんのよ」

「そうか。よくわかった。帰れ」


 こいつがどうしてやってきたのか、なんとなくわかった。

 お引き取り願おう。


「嫌よ!まだ何にも用事が済んでないもの」

「俺の用事は済んだ。帰れ」


 聞きたいことは聞けた。これ以上関わると、碌なことにならない。


「イ・ヤ!話を聞いてくれるまで帰らない!」


 ドンという音を立てて、椅子に腰掛けたアンナ。

 俺はそれを見て、ため息を吐いた。諦めが早いのだ、俺は。


「わかったから、話だけして帰れ」

「イ・ヤ!」


 どうやらこいつは俺を巻き込む気のようだ。まったく迷惑な奴だ。迷惑でしかない。

 再びため息を吐いてからわかったと言うと、アンナはウキウキした様子で計画を話し出した。


「今日ね、珍しくお兄ちゃんが家にいるのよ。だからね、お兄ちゃんのパンツを手に入れようと思ったの」


 だからの意味がわからない。

 兄が家にいる⇒パンツを盗もう

 この思考回路はどうやったら成り立つのだろう。矢印について、説明を願いたい。しかし、突っ込んで聞いたところで、俺には理解出来ない事だろう。だから、俺は黙って聞いていた。


「それでね、私一人だと無理そうだから、あんたに手伝ってもらいたいのよ」

「わかった。もう帰れ。俺を犯罪に巻き込むな」


 なんで俺が手伝わないといけないんだ。俺はお前と共犯者になるつもりはない。


「やだよ〜だ。もうあんたは話聞いちゃったから共犯だもんね」


 この野郎ッ!磔にして火の玉しこたまぶつけてやろうか。


「さあ、行くわよ!パンツを盗みに!」

「イヤだ〜!そんなくだらない事で犯罪を起こしたくなーい!」


 嫌がる俺を無理矢理拉致り、アンナは自分の家まで引っ張った。



 〜〜

「じゃあやるわよ」

「イヤだ」

「ピッ」


 俺たちはアンナの家の前に来ていた。いや、連れてこられた。

 ハクも一緒だ。

 俺だけがこんな目にあうのは嫌で巻き込んだ。

 無理矢理拉致られる俺は咄嗟に寝ているハクの尻尾を掴み巻き込んだ。

 今回は逃さないぜ相棒。


「ここまで来といて何言ってるの、やるわよ」

「ここまで来といてって無理矢理拉致ったくせに」

「ピピイ!」


 ほらハクも睡眠を邪魔されたからお怒りだ。

 俺はその気持ちはよくわかる。だからね、俺の耳を噛むのはやめてくれないか?

 巻き込まれたのは俺も同じなんだ。


「気のせいよ、拉致したなんて」


 気のせいじゃないからな。見てみろ、俺の腕を。ロープで縛られた跡が残ってるじゃないか。誘拐だ、誘拐。


「そんなことより、どうやってパンツをとるかよ」

「俺からしたらパンツがそんな事なんだが…」

「あなた…ダメね」


 呆れた目をされた俺は何も悪くないと思う。逆に俺は言いたい。

 お前がダメだと。


「とにかく、いい加減覚悟を決めないさいよ。そんなんじゃ、パンツが手に入らないわよ?」

「いや、それお前の目的だよね?俺たちパンツ欲しくないからね?」


 なんで俺らがパンツ手に入れたいみたいになってんだ。そんな趣味、俺はない。


「なら、シャルのパンツあげるわ」

「いるか!俺はロリコンじゃねぇ!」

「なら、私の姉のをあげるわ」

「いらねぇよ!俺はお前と違ってパンツだけで興奮するような変態じゃないんだよ!」


 俺をお前と同種にするんじゃねぇ!


「失敬な。私はパンツだけで興奮なんかしないわよ。ちゃんと履いた人の臭いがしないと」

「なお悪いわ!」

「もう、別にいいじゃない、なんでも、パンツが手に入ればそれでいいんだから」

「もういいよ……やればいいんだろ、やれば…」


 俺は肩を落とし、説得を諦めた。

 時間の無駄だ。こいつはもうパンツを手に入れるまで止まらないだろう。


「やっと観念したわね。それじゃあ、やるわよ。どうやってとる?」

「知るかよ。考えてんじゃないのか?」

「考えてないわよ」

「じゃあなんで俺たちを連れてきたんだよ」


 必要もないのに連れてこられたのかよ。


「え、だってシャルに聞いたらレイならできるって」

「あいつも共犯か」


 人を売りやがったな。覚えとけよ。


「じゃあ、チャチャッと取ってきてよ」

「え?俺だけ?お前は?」

「私はここで待機よ」

「俺、お前の兄貴が誰なのか知らないんだけど…」

「大丈夫よ。今は父さんと兄さんの二人しか男はいないし、それに父さんには盛ったから大丈夫よ」


 何を?とは言わなかった。

 もうなんでもいい。とっとと終わらせて帰りたい。


「じゃあ、つまりあれか?お前の兄貴が風呂に入った隙に取って来いと?」

「そうよ」

「よし、ハクいけ。脱衣室で隠れて、ブツを手に入れて来い」


 俺が出る必要はない。ハクで十分だ。


「ピッ⁉︎」


 いきなり白羽の矢を立てられ驚くハク。

 巻き込まれないよう、こっそり俺の影に隠れていたのはわかっている。


「大丈夫。お前ならできる」

「ピィピィイ!」


 口に咥えたくない!と抗議するハク。


「た、確かに咥えたくはないな。てか、触りたくない。……はぁ〜、俺が行くしかないのか」

「頼んだわよ!」

「せめて手袋か何かないのか?」

「あるわよ、はい」


 アンナは手袋をポイッと俺のほうへ放る。


「あーイヤだ。帰りたい」


 俺は愚痴り、パンツ強奪作戦を開始した。

 はっきり言って、これくらいのミッション、俺には朝飯前だ。忍び足と俊足による高速無音行動、空間による広域索敵、気配遮断による隠密性。

 この3つでまずバレることはない。

 なので、俺は特に苦労することもなくミッションを完遂する。


「ほら、パンツだ。脱ぎたてホヤホヤの」

「おおおおお!ありがとう!さすがはレイ!クンクン、あー最高」


 パンツを握りしめ匂いを嗅ぐ変態。

 俺とハクは黙ってその変態から離れ家路に着いた。

 変態は興奮しすぎて気づくことはなく、そのまま路上に放置してきた。


 俺は家に帰ると、雨除けに魔法で作ったマキビシを置いた。家の防犯を考えていなかったからだ。これで変態が部屋に来る事はないだろう。

 これでも来たら有刺鉄線を作るしかないな。


 そうして、疲れしかない休日は終わった。


次は明日投稿します。

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